ギフテッドAnother   作:龍翠

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若干短め。


第七話

 

 朝。なのはとの訓練の約束の時間。シュテルが公園で待っていると、なのはが走ってきた。シュテルの目の前で立ち止まり、肩で息をしている。何を急いでいるのかと首を傾げると、なのはが申し訳なさそうに謝ってくる。

「ごめんなさい。ちょっと遅れちゃって……」

「前回よりは確かに少し遅いですが、本来の約束の時間はまだです。お気になさらずに」

 そう告げると、なのははありがとう、と頭を下げた。そしてまた、付け加える。

「あともう一つあって……」

 なのはがそう言って見せてくれるのは、レイジングハートだ。待機状態のそれは、あらゆるところにヒビが入り、破損している。それを見たシュテルは、一度だけ頷いた。

「しばらくはデバイスが必要のない訓練を行いましょう。危険なことはしませんので、レイジングハートは自身の修理に集中するように。よろしいですね?」

 なのはと共に、レイジングハートにも向けて言う。なのはが頷き、レイジングハートも二、三度淡く輝いた。それを了承と受け取り、シュテルはでは、と言葉を続ける。

「始めましょうか。今日の訓練を」

 

 レイジングハートの破損の原因。それは昨日の戦闘だ。その瞬間の一部始終を見ていたシュテルは、それを非難するつもりは毛頭ない。デバイスがなければ、他の訓練をすればいいだけのことだ。

 今はただ、ナノハが望むままに。

 シュテルはなのはへと指示を与えながら、しかし内心で小さくため息をついた。

 

 

「おかえり、フェイト」

 時の庭園に戻ったフェイトを出迎えたのは、最近ここに住み始めた少年、シュウだった。

 母の指示でこの少年に来てもらい、母と直接話してからはここに住み込んでいる。本人から聞いた話では、ちょっとした取引をして住み込みで研究に協力しているそうだ。母に直接協力できるシュウが羨ましく思う。

 ただいま、とフェイトは短く答え、母がいる部屋へと歩き始める。何か声を掛けてくるかと思ったが、シュウは黙ってそれを見送っていた。

 

 

 シュウはプレシアから頼まれた資料を数冊持ち、のんびりとした足取りで研究室へと戻り始める。先日、シュテルと話をすることができて以来、シュウの機嫌は良い。鼻歌を歌ってしまうぐらいには。だから、最初その音に気づかなかった。

「……ん?」

 その音を認識して、シュウは眉をひそめる。鼻歌を止め、耳を澄ませる。そして聞こえてきたのは、フェイトの悲鳴。そうと認識した瞬間、シュウの目が不機嫌そうに細められた。

 

 

 鞭を振るうたびに鋭い音が響き、少女の悲鳴が反響する。何度かそれを繰り返し、やがてプレシアは手を止めた。フェイトの拘束を解除して、倒れ込む少女に冷たく告げる。

「さあ、行きなさい。ジュエルシードを集めてきなさい。今度こそ、母さんを失望させないで」

 フェイトがふらふらと立ち上がり、はい、と弱々しい声で答える。プレシアはフェイトを一瞥して、きびすを返した。人形のことはもういい、自分のすべきことをしなくては。そうして研究室に戻ろうとしたところで、それが視界に入った。

 小さなかわいらしい箱。その中には、フェイトが買ってきたケーキが収まっている。プレシアは汚らしいものを見るかのごとく表情を歪め、手でその箱を払おうとしたところで、

「……何してるの?」

 その声に、プレシアは動きをぴたりと止めた。声のした方、部屋の入り口を見る。シュウがそこに立っていて、じっとこちらの様子を見ていた。

「フェイト!」

 外で待機していた使い魔がフェイトに走り寄る。フェイトを助け起こし、そしてプレシアを睨み付けてくる。襲ってくるのかと迎撃用の魔法を展開しようとしたところで、

「アルフ。落ち着いて」

 使い魔の肩にシュウの手が置かれる。使い魔はシュウのことも睨み付けたが、しばらくシュウと視線を交わすと、何も言わずにフェイトを背負って部屋を後にした。

 しん、と静まりかえる室内。プレシアはやれやれと小さく首を振ると、その場であった出来事などなかったようにきびすを返す。だが、すぐに呼び止められた。

「約束、覚えてます?」

 シュウの声にプレシアが振り返り、頷いて答えた。

「ええ、もちろん覚えているわ。善処はすると答えたはずだけど?」

「善処すらしていないようですけど……」

 そこまで言ったところで、シュウは小さくため息をついた。何を言っても無駄だということを察したのだろう。

「せめてそのケーキは食べてください。フェイトが貴方のために買ってきたんですから」

「いらないわ。欲しいのなら貴方が食べなさい」

 自分があの人形に求めていることは、ジュエルシードの回収だ。決してケーキを買いに行かせるためではない。やはり所詮は人形かとため息をついて自室へと歩き始める。そして、部屋の扉をくぐろうとしたところで、

「……何のつもり?」

 走ってきたシュウがプレシアの手を掴み、箱の取っ手を握らせてきた。不愉快そうにプレシアが眉をひそめ、シュウを睨み付ける。

「一体何を考えて……」

「食べてください」

 有無を言わせない口調だった。こんな声も出せるのかと、協力者の新しい一面に驚く。その間に、シュウはプレシアにケーキの箱と資料を押しつけると、すぐに背を向けて歩いて行った。

「……っ! 待ちなさい! 私はこんなもの……」

「何かあったらまた呼んでください」

 自分の言葉に耳を貸すつもりがないのだろう、シュウはそれだけを言い捨てると、すぐに部屋を出て行ってしまった。後に残されたプレシアは、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

 

「ああ……。やっちゃったよ……」

 シュウはあてがわれた自室のベッドに横になりながら、頭を抱えていた。

 本当は、彼女たちの事情に首を突っ込むつもりはなかった。優しくしてあげてほしい、という要望も、自分の目の前で友達が傷つくのを見たくないという理由からだ。それ以上の理由などないはずだった。フェイトと顔を合わせても最低限の挨拶で済ませるようにもしてきたのに。

 この行動が両者にどう映ったか、気になるところではある。だが、どう映っていたとしても、今後はもっと接触を避けた方がいいだろう。シュウがここに来たのは、プレシアの知識を借りるためだ。余計なことをしてなのはとフェイトの関係が悪くなるのは一番避けたい。

「やっぱり何もせずに、シュテルたちに任せておけばよかったかな……」

 後悔先に立たず、とはよく言ったものだ。シュウは大きくため息をつくと、そのまま瞼を閉じた。

 

 

「む……」

 朝。ディアーチェは朝食の用意をしながら、わずかに眉をひそめた。フレンチトーストを皿に盛りつけ、食卓へと並べていく。レヴィとユーリが瞳を輝かせているのを見ると、作った甲斐があったというものだ。

 現在、シュテルは早朝から出かけることが多くなった。そのため、朝食の準備はディアーチェの役割となっている。

「どうかしました?」

 ディアーチェが難しい表情をしていることに気づき、ユーリが首を傾げて聞いてきた。ディアーチェは、いや、と首を振って答える。

「大したことではない。おそらく管理局がこの世界に近づいてきたのだろう」

 かすかに感じる大きな魔力。おそらくそれが管理局だ。もう来たのか、と内心で驚いてしまう。

「一応、この建物には魔力が漏れないように結界を張りましたけど……。もう少し強い結界にしておきます?」

 ユーリの問いに、ディアーチェは少し考え、そして首を振った。

「今以上の結界となると、結界そのものの魔力を感知されるだろうな。このまま様子見としておこう」

「分かりました」

 ディアーチェの言葉に納得してユーリは頷き、フレンチトーストを一口かじる。すぐに柔らかい笑顔を浮かべ、ディアーチェも自然と頬が緩んでしまった。

 ――問題は、あの二人だな。

 いつの間にか、シュテルはなのはに深く関わってしまっている。おそらく今頃隠れたとしても、管理局には伝わってしまうだろう。だがそれでも、シュテルが関わっているのはなのはなので、管理局と敵対する必要はないはずだ。どうとでもなる。

 やはり問題は、シュウだ。彼が関わっているのは、身を置いているのは、時の庭園。プレシアの側である。このまま管理局と敵対してしまうことだけは避けなければならない。

 しばらく思考を巡らせていたディアーチェだったが、やがてため息をついて首を振った。今、シュウがどのような状態でいるのか分からない以上、こちらではどうすることもできない。ならばもう少し様子を見るしかないのだろう。

 結局はその結論に達し、ディアーチェは食事を始めることにした。

 

 

 封印処理が施されたジュエルシード。それを挟み、相対するのはなのはとフェイトだ。二人の側には、それぞれユーリとアルフがいる。シュテルはそれを、少し離れた場所で見守っていた。ぴりぴりとした緊張感がここまで伝わってくる。もうすぐ、戦いが始まろうとしている。

 二人が杖を構え、そしてお互いに接近して杖を振るおうとしたところで、目映い光が二人を包み込んだ。そして現れたのは、一人の少年。なのはの杖を掴み、フェイトの杖を自らの杖で受け止めた少年が言う。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい話を聞かせてもらおうか」

 そんな言葉がかすかに聞こえてくる。シュテルは、ここまでですね、と小さくつぶやくときびすを返し、

「…………。長居をしすぎましたか」

 目の前に佇む女、リンディを見て、無表情にそう漏らした。

「艦長自らが下りてきていいのですか?」

 シュテルの言葉にリンディがわずかに眉をひそめる。だがすぐに笑顔になり、言った。

「ええ、みんな優秀だから少しぐらい大丈夫よ。心配してくれてありがとう」

「いえ、クロノ執務官に怒られないかということですが」

「…………」

 途端にリンディの表情が曇る。この人は何をやっているのだろうか。

「そ、それよりも!」

 リンディが慌てたように言ったので、シュテルは一先ずその話を置いておくことにした。リンディに視線を向けると、リンディがこほんと咳払いを一つ。そして言う。

「時空管理局、アースラ艦長、リンディ・ハラオウンです。貴方からも事情を聞きたいのだけど、一緒に来てもらえるかしら?」

 

 

 研究室のベッドの上。シュウは横になり、それが終わるのを待っていた。シュウの体の上には小さな光の球がいくつも浮かんでいる。プレシア曰く、シュウの体の中を調べているらしい。時折、光の球がシュウの体を通り抜けていく。

 シュウに宿るロストロギアの能力を知り、プレシアはどうにかそのロストロギアを制御できないかと模索しているらしかった。願いを叶える力で、あわよくば娘を生き返らせることができないか、ということだろう。シュウにとってはアルハザードという不明瞭な場所に行くよりも、確かに現実味があるとは思う。生き返らせることができなくとも、アルハザードに行くための補助道具としても期待しているのかもしれない。

 もっとも、どちらの目的であっても制御できればの話である。

「……だめね」

 そんなプレシアの声が聞こえ、次いで足音が近づいてくる。仰向けに寝かされているシュウの顔をのぞき込むように、プレシアの顔が視界に入った。

「気分はどう?」

「普段通りですけど。もう終わりですか?」

 今日のところは、とプレシアは頷いて、光の球を全て消した。それを確認したシュウが体を起こし、首を傾げて問いかける。

「成果は……。なさそうですね」

「ええ。ロストロギアの存在は確認できるのだけど、そこまでね」

「僕が制御できればいいんですけどね」

 そう言いつつも、それができればまずここには来なかったけど、と内心で付け足す。それを分かっているのだろう、プレシアはよく言うわ、と冷めた笑みを浮かべただけだった。

「そろそろ管理局も動く頃ね。時間がないわ……。明日で最後にしましょう」

 いいわね、と自分に確認を取ってくる。拒否する理由もないので、シュウはとりあえず頷いておいた。

「さて、それじゃあ貴方は部屋に戻ってゆっくり……」

『さっきからうるさいね、まったく』

 突然頭の中に聞こえてきた声。シュウが驚愕に目を大きく見開き、プレシアも言葉を失って唖然としてしまう。そんな二人を無視して、声は続ける。

『あたしが寝てる間に何があったのやら……。シュウ、一体何があったんだい?』

 その声が、ギフテッドを制御しているパストが問いかけてくる。シュウは引きつった笑みをこぼしながら、プレシアの表情が険しくなるのを黙って眺めていた。

 




中身が起きました。

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