そして2年生から読み始めてくれる読者の皆様、この作品はキャラ同士の掛け合いがメインなためどうか頭をからっぽにして楽しんでください。そしてきっと誤字、脱字が多くなるのでその都度ご指摘を……。
※今話では主人公もヒロインも出番0なので悪しからず。
【side:桐花】
4月、入学式。
下ろし立ての制服に身を包んだ学生達でごった返すバスの中、吊革に掴まりながら目的地に着くのを静かに待つ。
私の名は
どこにでもいると言い切れない理由は私の進学先が、少しばかり特異な高校だと言わざるを得ないからだ。
少子高齢化、環境問題、国力の低下、衰退していく日本社会……それらを根本から建て直すため鬼島総理が推し進める人材育成政策の1つとして誕生した、全国から様々な生徒を集め世界に通用する若者を育成する学校─
『高度育成高等学校』
在学中の3年間は外部との連絡を一切とれない、売り出し文句は希望する進学や就職先にほぼ100%応える……っと、なんとまあ胡散臭いことこの上無い学校だ。政府公認で無ければ詐欺か新手の宗教を疑ってしまうだろう。
それに、たとえこの文言に嘘偽りが無かったとしても、自分の進路を国に支援してもらうというのは果たして如何なものか。私も将来就きたいと考えている仕事はいくつか候補があるけど、そのどれであろうと自分だけの力で達成したいと思っているし、またそうしてこそ誇れるものだとも考えている。そんな補助輪を付けてもらって叶えて夢に何の価値が……いや、ここらでやめておこう。自分の価値観だけで物事を批判的に考えるのはあまりよろしくない。
医者になりたいけど金銭的な理由で医学部に進学できない等、自力ではどうしようもない人だっているだろう。何不自由の無い裕福な家庭で育った私の言い分など、本当に切羽詰まった人からすればただの耳障りな綺麗事でしかないのかもしれない。
まあそれともかく、少なくとも私はこの学校に入ることによる恩恵などには微塵も興味がない。かと言って外部と遮断された環境目当てというわけでもない。1つだけ気に入らない点はあるものの、両親とは良好な関係であると自負している。
私がここを進学先にしたのは、やはり1つ上の兄が気になったからだろう。
先に断っておくが私は別にブラコンではない。兄妹仲はまあ良好と言えるのだが、ことあるごとに散々からかわれ振り回されたことに少々思うところはある。……というか思い出したら結構イラっとする。例えば一昨年の年末なんて唐突に「日本一高い山から初日の出を見よう」とか唐突に言い出したかと思えば、気がつけば上手いこと言いくるめられて富士山を登らされていた。この時点でもう突っ込み所大有りだけど、それでも富士の頂上から見た日の出は実に幻想的でそれは見事なものであった。……だと言うのにその神秘的な光景に小さくない感動を覚えている私の横であの馬鹿兄貴は─
『わぁ……きれーだねー……よし満足した、さあ帰るよ桐花ちゃん』
『…………え?』
…………いや台無しだよ馬鹿野郎! アンタには風情ってものが無いのか!? そして私の返答も聞かずに下山しようとするんじゃあない!
……やめよう。あの人の色々あるアレなエピソードを思い返しても何のメリットも無いし、第一精神衛生上非常によろしくない。余計なストレスなど抱えたくない。
そんなマイペースというか自己中というか、自分のルールにのみ忠実な兄だが、そんな人が空手の総体で日本一に輝いたと知ったときは思わず耳を疑った。
結果については別に驚くに値しない。何をおいても規格外なあの人が、誰かに遅れを取る光景はちょっと想像つかない。知恵比べなら有栖さんという対抗馬はいるが、運動に関しては……。
しかしあの人は勝てるとわかっている勝負や、自分に圧倒的に有利な勝負を楽しめるような人ではない。人智を越えたと言ってもいいのではと思うような眼を持っている以上、格闘技など数ある部活道の中でも特に問題外の筈。
どういった事情か、それとも何かしらの心境の変化があったのか、だとしたらあの人を変えてしまうだけの何かが高育にはあるのか……そんな風に次々と湧き出てくる疑問をあと2年も我慢できるほど、私の忍耐は強くなかったらしい。
まあ兄も有栖さんも『ここに面白いものなど何も無い』とジャッジを下したなら、さっさと自主退学でもして帰ってきても何らおかしくない。にもかかわらず1年間しっかり在籍し続けたということは、それ相応に彼等を満足させる何かがあるのは間違いないだろう。子供っぽいかもしれないが、少しばかり内心期待に胸を踊らせている。
それから程なくして目的地に辿り着き、周りの新入生達と共にバスを下車した私は、天然石を連結加工した門を潜りこれから私達が通う学舎に向かう。
合格通知と共に送られてきたパンフレットには敷地内の地図がちゃんと記載されていたので、特に迷うことなく校舎に着いた。
さて、まずは自分がどのクラスに配属されたのかチェックしなければならないのだが……リストアップされた紙が張り出された掲示板の周りはとても混雑していて、少しばかり待つ必要がありそうだ。
何だか出端を挫かれたような気分になり思わず溜め息をついていると、後ろから長身の男が私を追い越しそのまま大股で掲示板に向かっていく。
私の記憶の中の兄よりも一回り大柄な体格に、もう見るからに「私はヤンキーです」と言わんばかりの粗暴そうな強面……人を見かけで判断するのはあまりよろしくないけど、何かもう嫌な予感しかしない。
「邪魔だ、どけ」
『う、うわぁっ!?』
そんな予感は外れることは無かった。ヤンキー男は躊躇いの無い足取りで掲示板に近づいていき、集まっている生徒達を蝿でも払うかのように片手で薙ぎ払った。
「いきなり何する─」
「あぁん?」
「─う、あ……」
突然の暴挙に新入生の一人が抗議しかけるが、ヤンキー男がひと睨みするとすぐに萎縮してしまい、その他の生徒も怯えた表情を浮かべて後ずさる。その光景に満足したのかヤンキー男は悠々と掲示板に近寄─
─ろうとする彼の肩を、私は掴んで引き止めた。
「……あ?」
「彼等に謝りなさい。入学して浮き足立つのはわかるけどさ、やって良いことと悪いことがあるよ」
先ほどのように怖い顔でメンチを切る彼に、しかし私は毅然とした態度で言い放った……何故か周囲に困惑と呆れが混ざったような空気が流れた気がするが、まあ多分気のせいだろう。
ヤンキー男は私に向けて嘲笑するような笑みを向けたかと思うや否や……唐突に私の横っ面めがけて恐ろしいスピードで平手打ちを放ってきた。
反射的に腕を盾にして受け止めようとするが力の差は歴然、ガードしようとした腕ごと撥ね飛ばされ、私は数メートルくらい吹き飛ばされてしまった。やばっ……眼鏡外れちゃった。裸眼だと人の識別すらできないってのに。
「……へえ、上手いこと受け身を取れたもんだ。不意打ちに対する判断の早さといい、見た目に反して意外と喧嘩慣れしてんのか?」
「ゲホッ、ゲホッ……生憎と人を殴ったことすらほとんど無いよ。そして数少ない例外は愚兄が目に余る愚行を犯したときだけだしね。眼鏡眼鏡……っと」
運良く発見した眼鏡を掴み、レンズが割れたりしていないか確かめる。幸い皹すら入っていないようで安心してかけ直せる……いやまあ多少割れてようが裸眼では日常生活すらままならない以上、かけないなんて選択肢は無いんだが。
……それにしてもなんて馬鹿力だ、受けた腕がまだ痺れて満足に動かせそうにない。
「ハッ、随分と肝の据わった女じゃねえか。度胸に免じて見逃してやるが、次はねぇぞ」
そう言い捨ててヤンキー男は踵を返し校舎へと向かう。……しかし私は立ち上がり再び彼の肩を掴んだ。何やら周りから悲鳴が漏れる中、ヤンキー男は鬱陶しそうな表情でこちらを振り返った。
「……次はねぇっつったのが聞こえなかったのか? それともまだ力の差がわからねぇ間抜けか?」
「君が喧嘩が強いことはよくわかったよ。私じゃ逆立ちしても勝てないってこともね。……だけどそんなこと関係ないね。もう一度言うよ、彼等に謝りなさい。間違ってるのは君だ」
確かにこのヤンキー男は大きくて強くて怖い。私は兄と違って人並みの感性を持ち合わせているので、正直こうして睨まれただけでも恐怖で全身が震えそうになる。……だが、しかし、だからといって、彼の横暴な振る舞いを見過ごしていい理由にはならない。
「ハッ、そうかよ。じゃあお望み通り─」
「やめろ」
「事情は知りませんがそこまでです」
私という障害を排除しようとヤンキー男が振り上げた手を、一人の男子生徒が後ろから掴んで引き止め、もう一人の男子生徒が私の腕をヤンキー男の肩から優しく引き剥がした。
ヤンキー男の腕を掴んでいる男子生徒はヤンキー男ほどではないが長身で、黒髪に鋭い目つきと私と似たような特徴を持っている。そして私とヤンキー男の間に割って入った男子生徒は女子である私と大差無いくらい小柄で、茶色い髪の童顔……あとは何故か私の母さんとよく似ている。隠し子だと言われたら信じてしまいそうなほど。まああの真面目な母さんに限ってありえないから他人の空似だろうけど。
「次から次へとゴキブリみたいに湧いてきやがったな。一応聞いといてやるが、なんだテメェら?」
「君と同じく新入生の八神拓也です、以後お見知りおきを」
「……宇都宮陸だ」
「あ、私は本条桐花」
丁寧に自己紹介をした八神君に宇都宮君も続いて名乗ったので私もそれに倣い、そして空気を読まなそうなヤンキー男をじっと見て無言の圧をかける。先程までの緊張感が弛緩していくのを感じ取ったのかヤンキー君は嘆息し、
「……宝泉和臣だ。それで、テメェらもわざわざ殺されにきたのか? それとも数を揃えれば俺に勝てるとでも思ってんのか?」
「お望みならばそうしても構わんが?」
「待ってください宇都宮君、そして宝泉君も。……あんな物が設置されている以上、ここで争うのはあまり賢明ではありませんよ」
そう言って八神君が指差した先に視線を移すと、ドーム型の監視カメラが。……というかよく見たらあちらこちらに設置されている。国主導の学校だけあって、いじめ問題とかには敏感なんだろうか。
「入学初日に問題を起こして停学ないしは退学なんて、滑稽だとは思いませんか?」
「……ちっ、白けちまったな。今回は見逃してやるが、近い内に地獄をみせてやる。あばよ」
つまらなそうに鼻を鳴らすと、宝泉君は踵を返して校舎へと入っていく。……って、
「いや何勝手にフェードアウトしようとしてるのさ。まだ彼等に謝って─」
「ストップ、ストップです本条さん!?」
「気持ちはわからんでもないが今は抑えろ! 入学式前で騒動を起こせばお前の心象も悪くなるぞ!」
「ええい、離したまえ君達! この本条桐花、後ろに下がる足などついていない!」
ちぃっ、逃げられたか……おのれ宝泉君、何があっても絶対に謝らせてやるからな!私はこういうとき蛇よりしつこいんだぞ!
……しかし八神、か。
…………いやいやいや、それもただの偶然だろう。というか偶然であってくれお願いだから。
【学生データベース】
本条桐花
クラス:1年Bクラス
誕生日:2月7日
身長:163㎝
体重:52㎏
特技:引くほど動物に好かれる
趣味:自己鍛練、機械工作
好きなもの:辛い食べ物
苦手なこと:臨機応変、兄の奇行
将来の夢:教師、IT関係、エンジニア
座右の銘:質実剛健
学力……A
運動能力……B+
機転思考力……C+
社会貢献性……A
総合……B+
[面接官からのコメント]
勉学スポーツ共に優秀な成績を修めている。また小中合わせて9年間連続で学級委員長を務めるなど、常にクラスを牽引する立場にあった。
総じてAクラス上位相当の実力を持っているが少々頑固で融通の効かな過ぎる面があり、また不測の事態には対応が遅れるなど臨機応変さに少々欠けるため、改善を促すためにBクラスに配属とする。
見た目は橘先輩の色違い(黒髪のお団子ハーフツイン)ですが、桐葉君そっくりのやや鋭い目つきにアンダーリムメタルフレーム眼鏡と、橘先輩と違って庇護欲は微塵も掻き立てられません。
地頭はさほど良くないが不断の努力を続けることで優秀な成績を維持する秀才型。そしてこうと決めたらただひたすらに突き進む猪突猛進タイプ。
暴力や圧力には決して屈することはなく、何度打ちのめされようともすぐに立ち上がり前進する不撓不屈の女。桐葉君やかつての龍園君のように恐怖を感じないわけではなく、たとえ恐怖を感じてもその強すぎる精神力で悠々と乗り越えることができるガッツの化身。
しかしその反面桐葉君や有栖ちゃんのように話術に優れる相手はまさに天敵。簡単に言いくるめられて「ぐぬぬ……!」となってしまう。理を重視するのに理詰めに弱い。
当時からじゃちぼーぎゃくだった有栖にも何回か食ってかかったが、毎度毎度言い負かされて玩具にされたため少し苦手意識を持っている。
なお本人は否定しているが結構なブラコンなのは語るまでもない。
真面目で正義感が強く駆け引きが苦手と、よう実世界でかませになりやすい要素盛り沢山だが、果たして桐花ちゃんの明日はどっちだ?
八神君と桐花さんの関係については1年生編で軽く触れましたが、把握しているのは八神君の方だけです。