桐葉「んー?」
有栖「前回、天沢さんは貴方との戦いで蹴りを多用していましたが……スカートの中に気を取られたりしていないでしょうね?」
桐葉「ははは、そんなまさか。チカちゃんⅡほどの強者相手にそんなしょうもないこと考えてる余裕無いって」
有栖「そうですか、安心しました。……本当は?」
桐葉「目の保養にはなったけど、高校生があんな過激なの履くのかよとちょっと引い……あっ」
有栖「(ぎゅうぅうううう!!)ギルティです」
桐葉「いひゃいいひゃいいひゃいっ!?」
1巻もいよいよクライマックスです。
相当長くなってしまったのでいつもより誤字、脱字が多くなると思うので是非ご報告ください。
【side:桐葉】
俺は寮を出て、位置情報サービスで示された場所……1年生達が使う寮の裏手側へと向かった。
しかし寮の裏手側、か……そういや彼と初めて会ったのも去年このくらいの時期で、しかも寮の裏手側だったなあ。あのときは確か前生徒会長であるコランダム先輩─堀北学先輩が、妹であるホリリンに暴行を加えようとしたところを、彼が止めに入ってたんだよね。
1年前の思い出を柄にもなく懐かしみつつ現場に向かうと、そこには2年Dクラスの清隆君、ホリリン、ケン坊の名物トリオと、1年Dクラスの宝泉和臣君と七瀬翼ちゃんがいた。
現在ペア成立数が最も少ない2クラスの代表がいることから、おそらくは特別試験について何か交渉でもしていたんだろうが、今まさにホリリンが宝泉君に思いっきりビンタされて地面に転げ回っていることからどうやら決裂した模様。……何これ、デシャブ?
「す、鈴音っ!?」
尋常じゃない力でひっぱたかれて地面を転げ回るホリリンを目の当たりにして、何故か(いやまあ、誰にやられたかは一目瞭然だけど)ボロボロで地べたを這いつくばっているケン坊が悲痛に叫ぶ。今すぐ駆け寄りたいだろうに、よほど入念に痛めつけられたのか立てないようだ。
激痛に耐えながらも強気に宝泉君を睨みつけるホリリンに、彼はニヤニヤと嗤いながら詰め寄る。
「よう堀北、俺と契約を結べよ。500万だ。そうすりゃ全部丸く収めてやる」
なんだカツアゲか。チンピラみたいな見た目だとは思ってたけど、何の意外性も無く普通にチンピラだったか。
「じょ、冗談じゃないわ……綾小路君、誰か先生達を……」
「敵わないならセンコーに泣きつく、か。だがいいのか? 喧嘩を吹っ掛けた俺だが、須藤がそれを受けて立ったのもまた事実だぜ。それとも仲良く停学にでもなるか?」
「この野郎!」
「邪魔だ」
気力を振り絞って起き上がって飛びかかってきたケン坊に、宝泉君は容赦無く蹴りを叩き込んで沈めた後、彼は俺が位置サービスで追ってきた人物であり、痛めつけられていくホリリンやケン坊をよそに冷徹に宝泉君を観察していた人でなし……清隆君の方を向いた。
「それで、テメェはいつまで見物してるつもりだ?」
「綾小路君、に、逃げて……」
「そいつはやめときな。お前が逃げたら、堀北と須藤の怪我は数倍酷くなるぜ」
……おそらくこれは清隆君を逃がさないためのブラフだね。俺の眼で観察したところ、そもそも宝泉君は最初からホリリンやケン坊には欠片も興味を持っていない。俺の元に送られてきたメールの内容が真実なら、
「堀北、これが最後のチャンスだ。今ここで俺に服従してポイントをよこすんなら──綾小路は殺さないでやるよ」
そう言って宝泉君がポケットから取り出したのは銀色に輝く─おお、これはちょっとシャレになってないね。
「あ、あなた何を……!」
「見りゃわかるだろ、ナイフだよナイフ。当然ギミックナイフなんてチャチな代物なんかじゃねえ。あくまでお前が従わないってんなら、こいつで綾小路を刺す」
「ふざけないで!」
「何もふざけてねえよ。ポイントを得るためなら、俺は何だってするぜ?」
何やらイカれた狂人のようなことをほざきながら、宝泉君はナイフを握りしめて清隆君に近づいていく。が……ああ、そういう魂胆か。つまりあのナイフの持ち主は必然的に……
流石に止めに入ろうかと思ったけど、これならまだ見物してても良さそうだ。俺は念のため携帯カメラを構えながら、ことの成り行きを見守ることにした。
「しっかし、結局最後までお前は何もしなかったな。こんなことならここまで回りくどいことしなきゃ良かったぜ」
失望したかのように溜め息を吐きながら宝泉君は清隆君へ近づいていくが、ナイフの射程内に入る少し手前で七瀬ちゃんが両手を広げて立ちふさがった。
「これ以上は止めて下さい。やはり君のやり方は認められません」
「でしゃばんじゃねぇよ七瀬。テメェの役割はこいつらが逃げ出さないための見張りだろうが」
「私は1年Dクラスにとって有益になると思い、君の戦略がどれだけ気に食わないものであろうと最後まで力を貸すつもりでした。……でもそれは間違いだったようです」
七瀬ちゃんは宝泉君に対峙しながら、器用に視線だけをホリリンに向ける。
「最初から宝泉君と組むことは不可能だったんです。堀北先輩は初邂逅時、宝泉君が2年Dクラスを意識する言葉を聞いて、クラス単位での協力関係を結ぶことを思いつかれた。……ですが宝泉君は元々、最終的に今の形に持っていくつもりだったんです。仮に500万という法外なポイントを用意したとしても、結果は同じでした」
クラス単位での協力関係……つまりホリリンは、両クラスの成績が優秀な生徒とそうでない生徒同士をペアで組ませ、確実にペナルティを回避しようとしていた訳か。それは同時にトップを諦めるということだけど、今回の試験で得られるクラスポイントは少なく、そして肝心の俺達Aクラスが率先して勝ちを放棄したわけだし、その方針は悪くなかった。
……だけどどうやら宝泉君には何やら別の目的があったため、ホリリン達がどう交渉しようと端から受け入れられるわけもなかった。
そして肝心の彼の目的とは、今ある情報からでは推測の域を出ないものの、おそらくは─
「ベラベラうるせぇよ。そもそも一任するっつったのは他でもないテメェだろうが。……綾小路を潰せば俺達のクラスの資金は潤沢になる。今後どれだけ有利になるか明らかだ」
「そうですね。しかし私はまだ、綾小路先輩が狙われなければならないほどの生徒だと断定できていません」
「んなこと知ったこっちゃねぇよ。邪魔すんなら引っ込んでろ」
ホリリンにしたように、宝仙君は力任せに七瀬ちゃんを張り倒す。……ベラベラと話してくれてどうもありがとね、おかげで100%確信したよ。おそらく清隆君もそう思ったのか、宝泉君へ向かって駆け出した。
「なっ─!?」
「綾小路君っ!?」
ケン坊が絶句し、ホリリンは困惑の混じった悲鳴をあげる。まあ当然だろう、ナイフを持ったイカれ野郎に自分からノコノコ近寄っていくなんて普通正気を疑われる行為だ。
宝泉は凶悪な笑みを浮かべてナイフを振り上げ、清隆君が射程内に入ったと同時に振り下ろした。きっと彼は清隆君が自分にとって好都合な行動を取ったことに、内心ほくそ笑んでいるだろうね。
……でも残念。
清隆君はもう看過してるんだよ、
「なっ──!?」
振り下ろされたナイフを、清隆君が左手に突き刺さるようにして止めたことで、宝泉君の笑みは瞬く間に消え失せた。……何度見ても良いもんだね、完全に想定外の出来事に驚愕で思考を停止させてしまった人の顔は。しっかし清隆君さ、わざわざそんな痛々しい止め方しなくても……
「てめ……綾小路ぃ!!」
困惑する宝泉君に対して、手の平から鮮血を飛び散らせながらも清隆君は至極冷静だった。
「そのペティナイフは、オレが購入したものだ」
「なんのことだ……?」
「オレが所有物するナイフを足にでも突き刺し、後は刺されたと騒ぎ立てる。そして物証と共にオレは退学……それがお前の狙いだろ?」
宝泉君はナイフの刃を上にして、しかも柄を逆に握り込んでいた。おまけに指紋が付かないようわざわざ手袋までする徹底振り……相手を刺すというよりは、むしろ自分の身体に突き立てようとしていると考えるのが自然だ。
そんなことをして何のメリットが? と思うかもしれないが、先程の七瀬ちゃん達の会話を考慮すれば、動機を想像することはそう難しくない。
「ハ……だからって自分から刺されにくるとか、頭イカれてんのかよ」
「確実に止めるにはこれがベストだからそうしたまでだ。それに自分に突き立てようとしたお前に言われる筋合いは無い」
たしかにどれだけメリットがあろうと、大抵の人間は臆して真似できない自傷だね。だからこそ刺されたと言い張れば第三者は疑問に思わないんだろうけどさ。
「お前達1年生の一部の人間には、おそらく何らかの報酬付きの特別任務のようなものが与えられているんだろう。さっきの七瀬との会話からして、その内容はオレを退学させること。何とかしてこの場所に誘き寄せ、強引に喧嘩に発展させる。あとは堀北達を痛めつけられたことに逆上したオレが、万一に備えて隠し持っていたナイフで宝泉を刺してしまい退学……筋書きはそんなところだろう」
多少喧嘩に寛容になろうと、刃傷沙汰ともなれば停学退学通り越して下手すりゃ刑事事件ものだ。仮に俺が清隆君に2000万を渡してようが問答無用で退学だろうね。
「タダモノじゃないとは聞いてたが、強ぇ気配を全然感じねぇから正直舐めてたぜ。まさか自分から刺され来るとはな……なんでこいつが自分のだとわかった?」
「こっちもそれなりに調べはついてる。昨日の時点でそのペティナイフを購入したのはオレだけだ」
彼は相変わらず用意周到というか、何十手先々を読んで布石を打っているようだね。きっと軽井沢ちゃん辺りが健気に調べたんだろうなあ。
……さてと、そろそろ見物はこの辺にしますかね。
寮2階のベランダの柵に巻き付けたワイヤーを切り放し、俺は彼らのところまで自由落下する。
「はいストップ、アウトレイジ展開はここまでだよ」
「きゃあっ!?」
「うわっ、ほ、本条!?」
「ほ、本条、君……!?」
「っ、な、なんだテメェは!?」
突然ラピュタ王家の子孫よろしく空から降りてきた俺に、清隆君以外は衝撃を隠せない様子。……やっぱ君は気づいてたか、残念。
ミキティに視線誘導等の技術を仕込むついでに、俺も彼女から周囲から目立たなくなる技術を盗んでおいた。もっとも俺と彼女とでは素の存在感が天地ほど離れてるので昼間は何の役にも立たないスキルだが、ちょうど現在のような夜間……しかも宝泉君のような存在感のある子がこれだけ悪目立ちしている状況なら、十分に効果を発揮する。寮のベランダにワイヤーをくくりつけて悠々と見物していても、とっても警戒心の強い清隆君以外はまったく気づかないくらいには、ね。
「やあやあこんばんは少年少女達。そっちの2人は初対面だから自己紹介するね。今この学校で最も勢いのある男と評判な、2年Aクラスの本条桐葉でーす、いぇい☆」
「ご、ご丁寧にどうも」
「本条……そうか、テメェがあのバカ女のアニキか。噂には聞いてたが、あいつに輪をかけたイカれっぷりだな」
「えー? こんなことやっちゃった子にイカれてるとか言われる筋合いないんですけどー?」
ヘラヘラ笑いながら携帯の画面……宝泉君が清隆君の手を刺す一連の流れを録画したものを見せてあげたら彼は鬼の形相を浮かべる。今にもナイフから手を放してこちらに殴りかかってきそうだったが、残念ながら清隆君に拳を握られ押さえ込まれている。
「テメェら─っ!」
「まあそうカッカするなよ。俺はあくまで部外者、この録画を利用して君を強請るつもりもないから安心しなさい。……こいつを使って君をどうこうする権利は、被害を受けた清隆君にある」
俺は携帯を操作し録画データを清隆君に送信してから、オリジナルのデータを彼に見えるようにしながら削除した。
宝泉君は忌々しそうに唾を吐きつつ、ナイフを握る手を放し強引に距離を取った。
「綾小路、テメェどこまで掴んでたんだ……?」
「最初に違和感を覚えたのは、天沢がケヤキモールに買い出しに行ったときだ」
「天沢さん? 彼女がこの件に……?」
何も事情を知らないホリリンにとっては寝耳に水だろうけど、ホワイトルーム生である彼女が一枚噛んでいても何ら不自然ではない。彼女が清隆君を害する行動を進んで取りたがるとは思えないけど、一応刺客として送り込まれたわけだし、退学させようとするポーズだけでも取っとかないといけないのかなあ。
「俺の知り合いが聞き込みをした店員曰く、宝泉がナイフを購入しようとしたところを止めたらしい。この無茶苦茶な作戦を考案したのはお前だが、作戦の穴を塞いだのは天沢だ。自分の購入したナイフで刺せば当然色々と調べられて破綻しかねないが、オレ自身にナイフを購入させておけばそのリスクも消える」
ふーん……つまり先日の料理がどうとか言ってたのは、清隆君にナイフを購入させるよう誘導させるためだったってことか。そしてどうやったかは知らないけど清隆君にバレないよう指紋を付けずにナイフを回収し、そのまま宝泉君に提供して現在に至る……か。結局清隆君にバレてるし結構穴も多いけど、中々愉快な計画だね。
「ちっ……何にせよ、状況はお前に圧倒的優位になったってことだな綾小路センパイよう」
実際に清隆君は負傷していて、さらにその現行犯の動画まである。宝泉君は完全にチェックメイトをかけられた状態と言える。
「オレの出す2つの条件を飲むというなら、この件はオレ達の中だけで伏せておいてもいいし、この録画も消してやる。……本条もそれで構わないか?」
「いいよー」
「……条件、だと? 俺を退学させる貴重な手を捨ててまで、お前は何を求める?」
「1つは予想ついてるだろうが、堀北とDクラス同士の対等な協力関係を結んでもらう」
「断りゃ退学な以上拒否権はねぇな。……で、もう1つは何だよ?」
「今度の特別試験で、オレとペアを組め」
清隆君の出した2つ目の条件には宝泉君のみならず、ホリリンとケン坊も耳を疑ったのかギョっとして彼の方を見る。何故か七瀬ちゃんは平然としていたが。
「……正気か?」
「ここで退学したら何も楽しめないまま終わるぞ。中学時代がどうだったか知らないが、龍園と張り合ってたなんて話は単なる誇張だったと周りは思うだろうな。少なくともオレが1年間見てきたあいつは、今のところお前と比べ物にならない強者だったぞ」
「てめえ……!」
この露骨な挑発も、特別試験で手を抜かせないための策の一部なんだろうな。
今回の試験で清隆君が最も危惧していたことは主に2つ……ペア相手が意図的に0点を取り退学になること、そして1年生全員が月城代行の駒かもしれないこと。
意図的に点数を下げれば退学という抑止ルールはあるけど、巻き添えになったペアへの救済措置等は何も明記されていなかった。きっとそんな問題のある生徒をペアにした方が悪いということなんだろう。
つまり清隆君はちゃんとテストを受ける相手をペアに選ばなければならないわけだけど……引くほど警戒心の強い彼のことだ、1年生全員が彼と組めば意図的に点数を下げると仮定してたとしても不思議じゃあない。
彼ならその気になればナイフを奪い取ることもできただろうに、わざわざ手を刺されに行ったときは訝しんだが……ここまで異様な事件が裏にあれば、もし宝泉君が意図的に0点を取れば審議にもかけられるし、月城代行も強引に退学に追い込むことはできないだろうね。
「いいぜ、いいぜ綾小路センパイよ。こんなに心踊った相手は初めてだ。お前もそっちのふざけた奴も、いずれぶち殺してやるから楽しみにしとけや」
「うん、元気があってよろしいねほっしぇん」
「……あ? ほっしぇ……俺のことかそれは?」
「宝泉だからほっしぇん。わかりやすいでしょ?」
「次そのふざけた呼び方すりゃ沈めんぞコラ」
おお、激しくお気に召さなかったようだ。今後もこう呼ぼう。
「私はここに残ります。綾小路先輩には説明すべきこともありますので」
「あ? どういうつもりだ七瀬」
「既に先輩方は私達を最大限に警戒しています。それなら今後のためにも、いっそその警戒を全クラスに向けてもらう方が良いと思いませんか」
「……好きにしろ」
興味無さそうにほっしぇんは寮へと帰っていった。……さてと、
「それじゃ清隆君、消毒と止血やったげるから左手出して」
「……それはありがたいが、日頃から応急キットなんて持ち歩いているのか?」
「一番身近に体の不自由な子がいるんだから、万全を期すのは当然のことだよ」
ナイフを抜き素早く消毒を済ませ、傷口を縫い合わせて止血をし、ガーゼで抑えながら包帯を巻いて固定する。……麻酔もせず縫合したのに眉1つ動かさなかったよこの子。
「はい一丁上がり。とりあえず血は止めたけど素人の応急処置だし、明日にでも星之宮先生に診てもらいなよ?」
「とてもそうは見えなかったぞ……?」
「ものの1分で全部終わらせやがったぞこいつ……」
「手当て中、腕が4本に見えるくらい早かったわね……ところで本条君、聞きそびれたけど何故あなたはこんな時間にあんな所にいたの?」
「偶然だよ偶然。たまたま1年生寮の壁でトカゲになりきってたら、君達がやって来て何かドンパチし始めたんだよ」
「何だその苦し過ぎる嘘!? 俺バカだけど流石に騙されねーよ!?」
ま、流石に無理があるよね。
俺は携帯を起動し、メール画面をホリリンに見せる。
「家で猛勉強してたらこんなメールが届いてね」
「メール? ……何、この数字の羅列は……?」
「ちょっとした暗号でね、解いてみるとほっしぇんが清隆君を狙ってるという文になったから、位置情報サービスを辿って来たってわけ」
「っ、このメールは、誰から送られてきたの……!?」
「さあね~?誰だかわからないようアドレスを変えて送っただろうし、俺のメアドは会話した全校生徒のほとんどが知ってるから絞り込めもしない」
候補はほっしぇんの計画をサポートしたチカちゃんⅡ、彼女と同じホワイトルーム生であるシューちゃん、もしくはまだ見ぬもう1人のホワイトルーム生のどれかだろうね。
いよいよ試験当日の日がやってきた。
あの刃傷沙汰の翌日には、ホリリン達とほっしぇん達のクラスが正式に対等な協力関係を結んだらしく、その翌日には全157組のペアが出来上がった。溢れた1年生3人は自動的に5%オフのペナルティを受ける羽目になったが、残念ながらお気の毒と同情してあげるくらいしかできない。
それにしても、まさか一部の1年生の間で、『清隆君を退学させれば2000万ポイント』なんて愉快な特別試験が行われているとはねえ……。月城代行が裏で糸を引いているのは間違いないとして、理事長代行とはいえそんな大金を学校の許可なく用意できるとは思えない。つまり代行とは別に、生徒の中にそれを用意したスポンサーがいるわけだけど……そんなもん用意できるの、俺を除けば
そして七瀬翼ちゃん……改めバーサちゃんのことも気になる。あの日の最後に彼女が清隆君に向けて言った言葉……『綾小路清隆はこの学校に相応しい人とは思えない』……あの言葉には確かに明確な憎悪を孕んでいた。
……いや、あれは憎悪なんてわかりやすいものじゃないな。あれはいくつもの感情を混ぜて蒸留させたかのような複雑なものだった。
彼女の肉体強度は精々上の下でしかないが、清隆君がいるべき場所はここではないと言いたげなあの台詞といい、まだ付き合いの浅い筈の清隆君にそんなものを向けたことといい、彼女も無関係とは思えない─
「─っと、今はそんなことどうでもいいか」
バーサちゃんがホワイトルームと関わりがある可能性は極めて高いが、だからなんだという話だ。今はそんな些事よりも優先することが俺にはある。
今回のテストで全てが決まる……俺と有栖、どちらが上か。果たして有栖は、俺の上に立つ資格を有してるのか。
こちらも取り決められた範囲でやるべきことは全てやり尽くしたが、有栖にはそんな俺をどうか上回って欲しい……そんな期待を胸に抱きながら教室のドアを開き─
首を斬り落とされたと錯覚し、俺は咄嗟に飛び退いた。
「ッッッ─!?」
首に手を当てて確認したが、こうして思考できている以上当然ながらそんなスプラッタなことに陥ってはいない。
だが決して気のせいでは無かった……それを裏付けるように、教室に踏み入れると凄まじい圧迫感が俺を襲う。
クラスメイト達は何かを感じた様子もなく、最後の追い込みに集中していた。どうやらこの謎の感覚は俺だけが感じているものらしい。
そして俺にはこの感覚に覚えがある。去年の体育祭で、麒麟児・高円寺六助と相対したときに彼の放った殺気とよく似ていた。
そして今回のそれは……あのときこの身に受けたものよりも、強大だった。
こんなものを放てる奴なんて六助か、もしくは清隆君以外に心当たりは無いが……仮にこのクラスの中の誰かだとしたら、間違いなく候補はただ1人。
自分の席に近づくと、予想通り圧迫感はより強く膨れ上がっていった。俺は席に座り隣の席の、この殺意の主にして俺の最も愛する女……有栖に目を向ける。
「やあ有栖、随分と鬼気迫る表情をしているねえ。そんなんじゃ可愛い顔が台無し─」
「話しかけないでください桐葉。今の私に、貴方との会話を楽しむ余裕はありません」
……あー、完全に見誤ったなこりゃ。想定外も想定外だ。まさか俺の眼からも隠し通すとは。
試験までは敵同士だから馴れ合いを避ける、か。なるほどもっともらしい理由だけど……おそらく本当の理由は、きっと
……今まで有栖は知恵比べにおいて、対等な条件で完全に敗北したことなど1度も無かった。それ故に自分の頭脳に絶対の自信があったし、常に余裕を漂わせていた。
価値のある敗戦、負けて強くなる……これらは綺麗事でも、ましてや敗者を慰めるための方便でもない。
本来生物にとって敗北は死を意味する。少々極端な比喩だけど、事実人間の本能にもそれは確かに残っているようだ。
敗北の恐怖を知った人間は、勝利に飢える
「貴方を捩じ伏せる─今の私にはそれしか考えられません」
そう言い切った有栖の鬼気迫る表情には、普段の柔和な笑みは面影すら無かった。
……やがてチャイムが鳴り、教室に入ってきた真嶋先生が教壇で話すお決まりの注意事項を聞き流しながら、俺は僅かに震える右手をじっと見つめる。
武者震い……ではない。一番最初、教室に入りかけて思わず飛び退いたことも考慮すると、
畏れ
俺はたった今、肉体的には最弱も最弱なこのチビっ娘に……気圧された。彼女の放つ凄みに、怖い、と確かに思わされた。
……有栖、やっぱりお前は最高の女だよ。
正直なんか俺の負けフラグが立ってしまった気がするけど……それでもやっぱり、負けるのは悔しいんだよなあ!
長らく使い道の無かった、本条家特有の精神力で恐怖を押さえ込みつつペンを握り締め、俺は配られた問題用紙に名前を書き出す。
さあ、尋常に勝負だ有栖……殺すつもりでかかってこい! 俺はそれを越えて行く!
修羅に覚醒した有栖ちゃんに、恐怖を感じなかった桐葉君も思わずビビってしまいました。
彼だから多少手が震える程度で済んでるだけで、今の有栖ちゃんの放つ殺気は、池君あたりが直接向けられたら気を失いかねないほどヤバイです。
【前回の暗号、答え合わせ】
102287732
↓
3586017379
↓
91434395443
A=1
①まず上の3つの数字を26進数に変換する
8×26(5乗)+15×26(4乗)+21×26(3乗)+19×26(2乗)+5×26+14
↓
11×26(6乗)+15×26(5乗)+21×26(4乗)+7×26(3乗)+5×26(2乗)+11×26+9
↓
11×26(7乗)+9×26(6乗)+25×26(5乗)+15×26(4乗)+11×26(3乗)+26(2乗)+11×26+1
②それぞれの数字ををa=1、b=2……z=26のアルファベットに置き換えると…
Housen
↓
Kougeki
↓
Kiyotaka
つまり宝泉→攻撃→清隆となる、
桐葉「ね?簡単でしょ?」
桐花「わかるかぁっ!?」
パソコン等に用いられる『メッセージ数値化』と呼ばれる計算方法を用いた暗号でした。
解けた方はマジですごいので胸を張りましょう。