女王の女王─2年生編─   作:アスランLS

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今作で重要なポジションが約束するされている八神拓也君ですが、原作ではその素性に謎を多く残したままフェードアウトしてしまったので情報がほとんどありません。
なので綾小路君に対抗意識を抱けるくらいには優秀で、プライドが高く上昇志向と承認欲求が強く、結構な危険思想の持ち主ということ以外はオリジナル設定となります。


本条桐葉VS八神拓也(前編)

 

【side:桐葉】

 

 あちゃー、しくじったかな? 

 ケヤキモール内のホルモンが美味しいことで有名な焼肉店にて、今回の特別試験で俺とペアを組んだシューちゃんこと松任谷秀司君とご飯を食べつつ、ちょっとしたサプライズも兼ねてホワイトルーム第三の刺客こと八神君へアポイントメントを頼んだところ、ものの見事にフリーズしてしまった。

 地球をそのまま詰め込んだような綺麗な瞳が反復横跳びの如く左右に高速移動していることからも、一目で動揺しているのがわかる。

 しかし不世出の美形だけあって、あんぐりと口を開けながら全身からじっとりとした汗をかいてる様も結構絵になるもんだ。

 

「……な、んで……?」

「んー?」

「なんで拓也がそうやと気づいたんすか……?」

「ありゃ意外、誤魔化さないんだ?」

「先輩の目が嘘発見器なことくらい事前に聞かされてますよ。どうせ誤魔化してもあかんのやったら取り繕うんもメンドイっすわ……それで、なんでわかったんですか?」

「んーと、そうだねえ……まずホワイトルームからの刺客が君とせっちゃんだけじゃないのは、根拠は無いけど確信はあった─」

「ちょおタンマっす。せっちゃん?」

「天沢一夏ちゃん」

「本名と掠ってもないやないですか」

「ちょっと前まではチカちゃんⅡだったんだけど、長いからセカンドのせっちゃんに変えたのさ」

「あ、もうええですわ。先輩の独創的過ぎる感性は触れたらあかんとわかりました」

 

 なんて失礼な後輩だろう。気を遣って何か良さげな言い回ししてるけどさ、それ要は変だって言ってるようなものじゃないか。

 

「じゃあ話を戻すけど、気分を害したらごめんね。君とせっちゃんは俺や清隆君をこの学校から脱落させる為に送り込まれた刺客らしいけど正味な話、君達じゃあ束になっても俺達の敵じゃあないんだよねえ」

「ああー、まあそうっすね。落ちこぼれの俺は論外として、一夏も真っ向からねじ伏せられたらしいんで何も言い返せないっすわ」

 

 あらまあなんとも潔い。諦めが早いとも言うけど。

 

「それで他に誰がいるんだろうと、1年生達と交流しつつこっそり探ってたんだけど……なんとも不思議なことに、俺と遭遇しそうになると毎度毎度急いで距離を取るシャイボーイが約1名いてね」

 

 俺の位置が筒抜けなのは恒例のストーキングアプリのせい……なんだけど、あれって連絡先を知ってなきゃ機能しない筈だけどなあ。

 多分月城理事長代理あたりが無断で調べて教えたんだろうけど、相変わらずコンプラのコの字も無いぜこの学校。

 

「シャイボーイて……話の流れ的にそれが拓也なんやろうけど、あいつがそんな凡ミス犯すとは思えんけどなあ」

「俺の目が良いことは事前に聞かされてたけど、その精度までは正確に伝えられてないみたいだね。集中して視ると遮蔽物さえなければ、1キロ圏内の人の動きくらいまではバッチリ鮮明に捉えられるんだ」

「あんたもう人間やめてるやろ」

 

 重ね重ね失礼だね君も。

 そもそもこの狭い箱庭の中で、俺の目を盗んで潜入任務なんて土台無理な話なのさ。隠そうとすればするほど不自然さが露呈していくからね。

 ただ綾小路パピーがそんなことを予想できなかったとは思えないんだけど……ああ、もしかして推測の裏付けが欲しかったのかな。せっちゃんはともかくシューちゃんからは俺のことを値踏みするような視線を何度かされていたし、この子の主な役割は俺のデータ収集とかだったりするのかな? 本気で俺を退学させたいのなら、やっぱりこの子じゃあ力不足だし。

 

「……ん? ってことはなんや、拓也が身バレしたの本人の責任で、別に俺の失態やないの?」

「まあ君が速攻身バレしたせいで過剰に警戒し過ぎたことが原因だからまったくの無関係とは言えないけど、主な責任は本人にあるんじゃあないかな」

「っしゃあ、命拾い。生きてるって素晴らしい」

「そんな渾身のガッツポーズするならもうちょっと声張ろうよシューちゃん」

 

 命拾い、ね。もしかしてホワイトルームって任務に失敗した者は処分……なんて悪の組織みたいなこと平気でする団体なの? 随分とイカれてるんだな。

 

「それじゃあ改めてお願いするけど、八神君に取り次ぎお願いできる?」

「でけへん」

「うわあ即答された、ケチ」

「ケチちゃうわ。別に隠すほどのことやないからぶっちゃけるけど、俺アイツに滅茶苦茶嫌われてんねん」

「えっ意外。OAAの顔写真見る限り、君ほどじゃないけど彼もかなりの美形なのに」

「いや別にルックスで妬まれてるとかちゃうから。まあともかく、拓也からしたら目障りでしかない俺から接触を避けるべき先輩と会ってくれ、なんて頼んでも『ふざけんな殺すぞ』って一蹴されるわ。なんやったらホントに殺されるかもな……」

 

 いやどんだけ嫌われてんの君。そして八神君、女の子みたいな可愛らしい顔して随分とエキセントリックな性格なんだね。

 

「そこを何とか頼むよシューちゃん」

「せやから無理やって─」

「せっちゃん経由で八神君にシューちゃんのミスで正体がバレたって吹き込んじゃうよ?」

「やめろや!? そんなんされたら間違いなくジ・エンド・オブ・俺やん!」

「でしょ? ジ・エンド・オブ・シューちゃんになりたくなかったらおねがーい」

「アンタの血ィ何色や!?」

「青」

「嘘つけぇっ!?貴族かアンタは!?」

 

 本条家は明治から戦後まで華族に列した名家であるため、貴族というのもあながち間違いではない。

 しかしまあ珍しく慌てふためいちゃって。

 ほんとごめんねシューちゃん。本音を言えば可愛い後輩にこんな脅迫めいたやり方はしたくないんだけど……有栖の指示だから俺もう逆らえないし、個人的にも色々と思うところがあるから。

 

「〜~~っ! ……はぁ~。わかったわかった、取り次ぐだけ取り次いだるわ。せやけど拓也が断固拒否しても知らんから、別の方法で接触してや」

「やたっ! ありがとーシューちゃん。今度寿司奢ったげるね」

「言うたな? 回ってないやつやで。果たして口にできるかどうかは拓也次第やけどな……」

 

 全てを諦めたような達観した表情で、シューちゃんは携帯を操作し始める。さーて、八神君はどうでるかな? 

 

「…………おお、拓也か? すまんがちょっとええ──いやちゃうねんて。確かにそう言われたけどな? そのよっぽどのことが起きたんやて。うん……うん……いやちゃうよちゃうちゃう殺さんといて。身バレしたのあんたの落ち度やから俺まったく無関係……ってことも無くないけど、メインはあんたの過失やからマジでマジで。うん……そーそー本条先輩。本人に聞いたけどリアル千里眼なんやて」

 

 誰がリアル千里眼だよ。確かに目はいいけどせいぜい三里眼くらいだからね? 

 

「うんうん、せやろーせやろー? 俺何も悪ないやろ? ……いやなんでや!? もうあんたが俺憎しで殺したいだけやん! ……少しは取り繕えや!? ……ほんまか、ほんまに冗談か? 吐いた言葉には責任持ちや? もし殺されたら意地でもバケて出たるからな? 綾小路先輩に挑むの全力で邪魔しまくったるからな?」

 

 人が生死の境を行ったり来たりしてる光景って俺初めて見たけど、存外ノリが軽いもんなんだな。

 

「……それで本題なんやけどな、なんでも本条先輩があんたに用があるから会って欲しいんやと。うん……うん……えっ、案外すんなり引き受けんねんな。……いやだからバレたのあんたの過失やからな? 隙あらば責任転嫁すんのやめろや。……はいはいわかっとる、俺かて用もないのに会いたないわ」

 

 心底面倒そうにそう吐き捨ててから、シューちゃんは携帯の通知をオフにした。

 

「拓也曰く会ってもええけど人目のつくとこは嫌やから、今から自分の部屋に誰にも気づかれずに来てほしいんやと」

「八神君の部屋、か」

「ちなみに部屋番号は306号室やけど、拓也直々にお前は来んな言われたから俺にできることはここまでやね」

「ほんとに嫌われてるんだねシューちゃん」

「まあ拓也は承認欲求オバケやからなあ……顔が良いってだけで施設で色々優遇されてる奴なんて、嫌いになるな言う方が無理やろ」

「承認欲求、ねえ……」

 

 生まれてこの方一度たりとも抱いたことの無い願望だなあ。自分の人生を面白おかしく彩る為に、他人を品定めすることは枚挙にいとまがないけどね。

 

「ま、いいや。それよりシューちゃん、八神君に会う前に聞いておきたいことがあるんだけど」

「弱みでも聞きたいん? 言わへんよ死にたないし」

「んー、むしろ逆かな。八神君って何が得意なの? 主にスポーツかレクリエーション方面で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう大分暗くなり始めてきたとはいえ、今期初の特別試験が終わった日だけあって学生寮付近にも少年少女達の姿がちらほらと見えた。八神君は今回の邂逅を誰にも知られたくないらしく、誰とも接触せず部屋まで来てほしいんだとさ。

 もう既に色々とやらかしてる上に、普通にしているだけで嫌でも目立つほど存在感のある俺にとって結構な無理難題だけど、今回は俺以上に目立つシューちゃんがいて助かった。

 美の暴力と表現すべきルックスを持つシューちゃんは、ただ歩いているだけで老若男女問わず人の目を惹きつけるので、彼を先に帰宅させてから俺は不完全だけどミキティからラーニングした技術で可能な限り存在感を消しつつ、ミスディレクションを駆使してシューちゃんに注目が集まるよう視線を誘導しつつ彼に続く。

 結果、俺は誰にも気づかれることなく八神君の部屋の前まで辿り着いた。よっしゃ、みっしょんこんぷりーと。

 チャイムを鳴らすと開いてるので入ってきて構わないとのことなので、遠慮無くドアを開けてズカズカと上がり込む。……ミニマリストかってくらい物が少ないね。

 

「おっじゃましまーす☆」

「やあ、よく来たね。一応初めましてになるけど、自己紹介とかは不要かな」

 

 リビングにて俺を出迎えた小柄で中性的な美少年こと、八神拓也君。しっかし実物見るとやっぱり不自然なほどあの人に似てるなあ……。

 

「まあ桐花ちゃん経由でお互いのこと結構よく知ってるだろうからね。……だからこそ聞いておきたいこともある。桐花ちゃんから同級生相手でも丁寧語で話すような礼儀正しい子って聞いてたけど、仮にも先輩相手に随分とフランクに接するんだね君」

「ははは、素性がバレているのなら別に猫をかぶる必要も無いからね。それに……年上だからって家族に対して敬語ってのも可笑しな話だろう?」

「えっ、家族? 実は桐花ちゃんと結婚を前提にお付き合いしているのでゆくゆくは義兄弟になります的な?」

「いや、違うよ。そもそも僕と本条桐花さんは法律上結婚できないし」

「ほう?」

「何故ならあなた達と僕は血の繋がった実の兄弟……本条桐夜と八神楓の提供した遺伝子のもと、体外受精によって生まれたのがこの僕、八神拓也だからさ」

 

 ……なるほど、全てが腑に落ちた。性別こそ違えどかーちゃんそっくりな外見をした子の名字が、かーちゃんの旧姓と一致するなんて偶然にしては出来過ぎだと思ってたけど、まさか本当に血が繋がってたとはね。

 しかし体外受精と来たか。凡庸ながらも善良に生きていると思ってた両親にも、色々と後ろ暗い過去があるものなんだなあ。

 ……ただまあ、

 

「へぇ、そうなんだ」

「……随分と薄い反応だね。存在すら知らなかった実の弟がこうして目の前に現れたってのに」

「心にもないことを言うもんじゃあないよ。とてもじゃないが昨日今日会ったばかりの君を弟とは思えないし、もちろん君だって同意見だろう?」

 

 俺の持論でしかないけど、人が思っているほど血の繋がりに大した意味は無い。桐花ちゃんは大切な妹だし彼女の器の広さにも助けられて、まあ良好と言えるであろう関係を築けている。でも両親とは正直微妙な関係だし、状況次第では別に切り捨てても構わないとさえ思っている。ただ俺が薄情者なだけかもしれないけど、会ったばかりの人間を家族同然に扱える人はきっとそう多くないよね。

 

「ははっ、気が合うね。もしあなたが兄貴面で接してきたらどうしてくれようかと思っていたところだ」

「うわあ怖っ。可愛らしい顔して随分と過激派だね」

「可愛らしいは余計だ。……それで? 僕も暇じゃないし単刀直入に問うけど、僕に何の用だい?」

 

 それまで浮かべていた表面上友好的な笑みを消し、能面のような表情で俺を見据える八神君。うーむ薄々わかっていたけど、だいぶ俺のこと嫌いだねこの子。具体的には清隆くんやシューちゃんの次くらいには。

 

「まあおおよその見当はついているけどさ。大方あなたや綾小路先輩を狙うのはやめろと釘を刺しにきたんだろう?」

「……何故そう思ったの?」

「あなたが綾小路先輩と協力関係にあることは知っている。共にホワイトルームから狙われる身である以上、そのことについてはまあ自然な成り行きだ。……なので、ここは1つ穏便に取引をしないか?」

「取引……ねえ? 続けて」

「あなたをターゲットから外す代わりに、僕達のことを綾小路先輩に告げ口しないことと、彼を狙うことを邪魔しないんでほしいんだ」

「ふーん。その提案からして、やっぱり俺の身柄は清隆君に比べて優先度は高くないみたいだね」

「あなたにホワイトルームの教育は特に必要ではないし、高校を卒業してから回収してもあの方の計画に支障は無いからね。……それで返答は? 悪くない提案だとおもうけど」

「もし断ったら?」

「残念だけど多少手荒な手段での対処が必要かな。あなたの存在は僕達にとって邪魔過ぎる」

 

 なるほどね、拒否すれば物理的に排除するぞってことか。相変わらずの過激な思想に加え、先日お仲間が無力化されたのに、俺を始末できることを微塵も疑っちゃいないその自信……嫌いじゃあないよ。

 

「残念ながら君の推測は見当外れだよ、ごめんね。俺は君達が清隆君を狙うのを邪魔するつもりは無いし、君達のことを清隆君に教えるつもりも無いんだ」

「……何だって?」

「彼は相当疑り深い性格だから俺が情報を提供しても、自分でちゃんと確かめるまでは決して信じきれやしない。それに清隆君は有栖に勝った男だ、こんなところで脱落するような器じゃあないよ」

「っ……!」

 

 おっと、表面上は冷静なままだけど激しい不快感を感じたようだね。流石シューちゃんに承認欲求オバケ呼ばわりされるだけあって、清隆君に劣ってると思われてるのがよほど気に食わないらしい。

 

「だったら、僕にいったい何の用が?」

「そのうち綾小路パピーの野望をホワイトルームごとぶっ潰すつもりだから、今の内にあの人達と手を切って俺達と手を組まない?」

 

 俺が提案を言い終わるや否や、八神は俺の眼球に触れるか触れないかの距離に拳を振るってきた。

 力の入れ方と抜くタイミングからして寸止めだとわかっていたので無反応だったが、その態度が気に入らないのか八神は舌打ちし俺を睨みつける。

 うわあすっごい殺意。せっちゃんといいこの子といい、清隆君の後輩という割に随分と激情家だなあ。

 

「言葉は慎重に選べ本条桐葉……お前は今、僕の地雷を全力で踏み抜いたぞ……!」

「随分と件の施設に執着してるんだね。他の2人とは大違いだ」

「憎むべき敵を崇拝するような軟弱者や、どうしようもない落ちこぼれと僕を一括りにするな……!」

「わーおひっでぇ言い草。……どうやら返答はNOなんだね?」

「当たり前だ、あまり図に乗るなよ本条。どうやら一夏に勝って得意になってるようだけど、あの方の野望はお前ごときが遊び半分で邪魔していいものじゃないんだよ」

 

 取り付く島もなし、か。だけどこっちも簡単にゃあ引き下がれない。有栖が望んでるってのもあるし、俺としても綾小路パピーが思い描くつまらねー野望なんぞに組み込まれたくはない。バレたらまた有栖に怒られるだろうけど、ここはリスクを負ってでも仕掛けるべきだ。

 

「それなら1つ、ゲームをしよっか」

「ゲーム……だと?」

 

 訝しむ八神君の前に、俺はダーツ3本とダーツボードを懐から取り出し目の前に突きつける。

 

「シューちゃんから聞いたけど、八神君はダーツがとっても上手なんだって?」

「あの落ちこぼれ、人の情報をペラペラと……ああ、確かに僕はダーツの腕に覚えがあるが……まさか、それで僕に勝負を挑もうと言うのかい?」

「うん、奇遇にも俺もダーツは得意だし丁度良いでしょ。ルールはオーソドックスに3本8セットのカウントアップ。負けた方が勝った方の言うことを何でも1つ聞く。ただしホワイトルームのあれこれを全く知らない第三者には迷惑をかけない範囲でね」

 

 無いとは思うけど一億分の一くらいの確率で俺への嫌がらせの為だけに、例えば桐花ちゃんを殺してこいと言われたら洒落にならないからね。

 

「でもその条件だと、例えば『自主退学しろ』と言えばあなたは退学しなければならないし、『自殺しろ』と言えば自殺しなければならないことになるけど……構わないのかい?」

「ああ、俺に勝てたなら別に構わないよ。清隆君に告げ口しないとは言ったもののそれを証明できやしないから、君としては万全を期す為ここで俺を消しておきたいだろうから丁度良いでしょ?」

「……なるほど、負ける気はサラサラ無いってことか。いいだろう、その勝負受けようじゃないか。そのまやかしの、硝子細工の自信を粉々にしてやる」

 

 八神君が合意したので俺は窓際の壁にダーツボードを貼り付け、専用のメジャーで237cmを測りその位置にテープを貼り付ける。そして八神君にダーツを3本手渡すと、彼はそれを乱暴に奪い取りつつセットポジションについた。

 

「……ところで、あのお荷物から僕がダーツが得意だって聞いたと言ってたけど、僕のハイスコアを聞いた上でこの勝負を挑んできたのかい?」

「いいや? そんなの事前に聞いちゃ面白くないでしょ。俺はネタバレとか嫌いなの」

「そうか、それは御愁傷様だね。僕のハイスコアは─」

 

 八神君は一度そこで言葉を切るとダーツを1本構え、理想的と言える綺麗なフォームでボードに向かって投擲した。

 突き刺さった場所は勿論的の中心……では無くその少し上、20点のトリプルエリア。理論上最も得点の高い箇所。

 

 

 

 

 

「─1440点(フルスコア)だよ。無謀にも僕に挑んだことを後悔しながら死んでしまえ」

 

 

 ……これはまた、想定以上の難敵だ。

 さーて、ここは踏ん張りどころだぜい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





秀司(よっしゃ、バレずにさりげなーくタメ口に移行したったで)
桐葉(シューちゃんさりげなくタメ口に移行したね、構やしないけどさ)



【ダーツの豆知識】
ダーツの得点の数え方ですが、中心が50点とその周りは25点。その他はシングルエリア、ダブルエリア(得点2倍)、トリプルエリア(得点3倍)に分かれていて、刺さったエリアの倍率にボードの周りの数字をかけて得点を割り出します。そして理論上最も高得点なのは20点のトリプルで60点となります。
カウントアップは3本で1セットの計8セットで行うのが主流ですので、八神の1440点とは全てのダーツを20点のトリプルエリアに命中させるという、トッププロでも難しい神業と言えるでしょう。ちなみに作者のハイスコアは450くらいです……我ながらしょぼい。
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