ヒャッハァアアアッッッ!俺は自由だァァァッ!
桐葉「あーあ、変なスイッチ入っちゃったよ」
【side桐葉】
ゴールデンウィーク。
4月末から5月初めにかけての祝日が一点集中した期間。
ごく一部の職種の方々を除いた、ほぼ全ての日本人が無条件で享受できる空前絶後超絶怒涛の休暇期間。
今期最初の特別試験を乗り越えた高育の生徒達は、それはもうイェーイでサンシャインなジャースティース! と束の間の休息を満喫したことだろう……羨ましい限りだねえ、こちとら終始獰猛な獣のご機嫌取りでもうクタクタだってのに。
「桐葉」
「あー?」
「今、頭の中で物凄く失礼な評価を私に下したでしょう」
連休明けの早朝。いつも通り仲良く並んで登校していると、突然有栖が非難するようにジト目を向けてきた。以前までと違って断言してることからも、エスパーかってくらいの勘の良さにより磨きがかかってないか? あーおそろし。
……しかしだね有栖、
「失礼な評価? ははは、ほざきよるわこのベッドヤクザが。お前のせいでしばらく人前でカッターシャツ脱げねーんだぞ。どーしてくれんだこの小型Tレックスが」
「むぅ……」
はいそこ、頬を膨らませて拗ねないの。大変あざと可愛いけど君がやらかした所業はチャラにならないからね?
こいつときたら、賭けに勝って俺の身柄が正式に自分のものになった途端に暴走しよってからに。由緒正しき旧家である本条家の嫡男が、婚姻を結んだわけでもない異性に貞潔を奪われるとか洒落になってねーよ……。
しかもマーキングだか何だか知らんけど首筋に噛み跡なんてつけやがって、結構痛かったんだぞこの凶悪ロリがよぉ……痛い痛い痛い執拗に腿を杖で殴るな俺も悪かったってば。
「まったくもう……それで桐葉、無事八神君を引き抜くことに成功したのですね?」
「……え? 今更その話? ゴールデンウィーク中に聞く機会なんて無限にあったよね?」
「仕方ないじゃないですか。ゴールデンウィーク中は桐葉を襲……可愛がるのに夢中だったんですから」
「それ仕方ないって言わないから。あと襲うって言いかけたよね。Aクラスの皆ごめん、俺達のリーダーは脳内ピンク一色のポンコツに成り下が─いや、公衆の面前でベロチューかましたり結構前から片鱗あったねそういや。先行き不安でお先真っ暗だなAクラス」
「失礼ですね桐葉、いくら色ボケてる私でも人前では多少の節度は守りますよ」
色ボケてるって自覚してんのかい。
まあ節度守るなら今は有栖を信用して話を置き、俺は昨夜の出来事を一部(俺と拓也君が血縁者だということ)を除いて洗いざらい語って聞かせる。
「─とまあそんな感じだ。拓也君は清隆君への対抗意識はバリバリ残ってるけど、1つだけ要求を飲んでくれることになったよ」
「なるほど。そう簡単に引き抜ける相手ではないのは百も承知ですし、概ね理想通りな結果です……しかし桐葉。ホワイトルームからの刺客相手とはいえ、年下相手にイカサマとは相変わらず大人げないですね」
「うっせ。そうでもしないとどちらかミスするまで、延々とダーツを投げ続けなきゃならなかったんだから仕方ないでしょ。俺は夜の9時にはもう寝たいんだよ」
まあ結局肉食獣と化した有栖のせいでオジャンになったんだけどね。今も若干寝不足気味だよ……あーあ、なんて可哀想な俺。
「……ところで桐葉、プロ入りして世界を獲れるくらいダーツが得意でしたか? 少なくとも私は知りませんでしたが」
「いーや? 元々が器用だから得意ではあったが、ベストスコアは1000ちょいくらいだったよ? 俺が先攻だったら100%負けてたねありゃ」
「ああ、やっぱり八神君のフォームをラーニングしたのですね。相変わらず出鱈目で不条理な才能で何よりです」
俺はほんの先の未来さえ見通せるくらい優れた目を持っている。そんな俺の前で一度でも理想的なフォームでダーツを投げたりすれば、その動きの全てを分析されるのは自明の理。呼吸のリズム、ダーツの握り方、各所筋肉への力の入れ方、あるいは抜き方、ダーツを手から離すタイミング……全てをだ。
「ひと目見りゃどうすればその動きを再現できるのか手に取るようにわかるんだ。習得することはそう難しいことじゃないでしょ」
「その結論に関しては要審議ですが今はいいでしょう。ですが桐葉は1セットごとに後ろに下がっていくという、頭のおかしいハンデを勝手に背負ったのでしょう? ラーニングした理想の投げ方は適切な距離であるという前提ありきなのでは?」
「完璧なフォームをラーニングできたんだから、後はちょちょいと微調整していきゃどうとでもなるでしょ」
「おそらくダーツなんて杖つきの私には一生縁のない種目でしょうが、その理屈がおかしいことはわかります」
この俺がそんな微調整ごときで手こずるわけないだろ。こちとら飛んでくる生卵(殻無し)を割らずに素手で掴めるくらい繊細な力加減が得意なんだぞナメんなよ。
「……それで桐葉、おそらくは八神君こそが綾小路君を連れ戻すため送り込まれた本命の刺客なのでしょうが、実際に競ってみてどう感じましたか?」
「うん、とっても優秀だね。ポテンシャルなら俺や六助や清隆君にも匹敵し得ると言ってもいい。……でも清隆君に勝てるかって言われたら、現時点ではちょっと厳しいかなー」
能力は申し分ないがいかんせん精神的に未熟というか、詰めの甘さが少々目についた。そこらの有象無象を蹴散らす際にはまったく問題にならない小さな小さな欠点だが、こと清隆君に挑むならば結構致命的だ。
例えばもし俺と清隆君がダーツで勝負したとして、彼なら俺が意味も無く後退しようが淡々とフルスコアを刻み続けるだろうし、ダーツのすり替えを見落とすなんて絶対ありえない。
「……なるほど、それは重畳です。逆に彼一人で貴方達に対抗できるなら、少々筋書きを修正しなければならなかったでしょう」
「筋書き、ねえ。今度はどんな悪巧みなのかね?」
「人聞きの悪いこと言わないでください」
有栖は拗ねたようにジト目を向けてくるが、こんなにもいけしゃあしゃあという表現の似合う女は他に知らないのでシカトする。
有栖が俺のことを知り尽くしているように、俺も有栖のことを知り尽くしている。有栖の性格とこれまでの会話を総括すると、彼女の筋書きとやらがどういうものかある程度予想はつく。
となると……
「清隆君や卍解ちゃん、リュンケルにはもう話を通してあるの?」
「流石は桐葉、話が早いですね。龍園君にはつい先日に交渉を済ませておきました。あまり乗り気ではなさそうでしたが、彼とて1クラスの命運を預かる身ですし、ここまでポイント差が離れている以上選り好みする余裕はありません。龍園君達以上に余裕の無い一之瀬さんは事後承諾でも構わないでしょう。綾小路君もホワイトルームからの干渉を捌きつつも、独自の思惑があるご様子。私の見立てでは彼はもう私の筋書きをある程度察しているようですが、どうやら利害が一致しているようなので異論は挟まないでしょう」
「なるほど、根回しは既に終わってるわけね。……あと真嶋先生にも了承もらっとかないとね。間違いなく高育史上初めての試みだろうし」
「ええ、正直そこが一番の懸念事項です。看破できなければ全て机上の空論と成り果てます。そして上手く説き伏せることができたとして、法外な額のポイントを請求されるでしょう……心苦しいですが、貴方に大きな負担を強いることになりますね」
「気にしなーいの、ずっと持て余してた泡銭の使い時がようやく来たってことだよ」
逆に考えれば、俺が法外なポイントを所持しているお陰で有栖の要求はほぼ通ると見ていい。プライベートポイントが国民の血税から賄われていると考えると、寄付という形で大半を返金したとはいえ個人が一億近くものポイントを所持していることを、国はあまり面白く思っていないはずだ。回収できるチャンスをむざむざ逃がしたりはしないだろう。
「とはいえ橋本との約束を破るのは俺の主義に反する。ニ千万は手元に残るよう交渉してくれよ?」
「ええ、わかっていますよ」
よし、これで一番噛みついてきそうな奴は納得させられるだろう。……とはいえクラスの大半は荒れに荒れるだろうね。何しろこれから有栖のやろうとしていることは、下手すればもうAクラスでの卒業が確実になりつつある今の地位を覆しかねない暴挙なのだから。
まあ多少は同情するがそれだけだ。真っ当にAクラスを導こうとしたランスを切り捨てて、こんな邪智暴虐なガリバートンネル女をリーダーに据えた彼等にも責任はある。文句を言う権利はランスと戸塚(故)くらいにしかないぜ。
「有栖、痛いから執拗に足踏んでくるのやめて」
「貴方の考えてることくらいお見通しですよ。きっと頭の中で傍若無人だのスモールライト浴びた女だの考えてたんでしょう。罰です」
「うわあ理不尽」
マジで俺ってもう思想良心の自由すら無いのね。なんか絶妙に惜しいから文句言い辛いし。
……それにしても、だ。
「有栖、なんか体調がいつもと違っておかしかったりしない?」
「何ですか藪から棒に。体調……いえ、生まれつき悪い箇所を除けば特に異常はありませんが」
「んー、だよね」
俺から見ても、有栖の体調が悪いようには見えない。
というよりむしろ……
「……何ですかジロジロと。私は気にしませんが女性の体をジロジロと見るのは、人によってはセクハラに該当しますよ」
「はっはっは何を今更。俺はこれまで何十何百と有栖にセクハラしてきたんたぜ?」
「得意げに言うことでは無いでしょうに」
「そだね」
まあ一旦様子を見るとするか。焦らなくても時間が経てばハッキリするだろうし……俺の人生で最も想定から外れたサプライズかもしれないから、ここはじっくりと楽しもうじゃないか。
【side:桐花】
5月に突入して早2週間。
及ばずながら1年Bクラスの暫定リーダーなんて立場に就いた私は、今のところクラスの結束力を順調に高められている。勿論それは私の力だけでなく、参謀兼サブリーダーを買って出てくれた八神君の尽力のおかげでもあるが、ともかくクラスの方は上手くやれていると自負している。
その一方で生徒会の方はというと……しんどい。これがまあ半端なくしんどいんだマジでマジで。
いや別に何か大きなしくじりをしたわけではないけど、どっかの金髪マッシュルーム会長が、これ本当に1年坊主に任せて良いのかと言いたくなるような重要な仕事をバンバン任せてくるのである。
遠慮なく働いて貰うとは言っていたが、入ったばっかのペーペーにここまで遠慮なく仕事ぶん投げてくるか普通。私以外の同じ1年の役員に八神君と波多野くんがいるけど、明らかに私の業務量その2人を足したのより多いじゃないかあんちきしょう。そして何故私の役職が副会長なんだ。定員は2名いるので1人は3年の桐山先輩だとして、もう1人は普通2年から選ぶんじゃないのか。なぜ私だガッデム。
今日も今日とて授業終わりの放課後、生徒会室にて南雲先輩、桐山先輩と共に膨大なタスクを処理していると……
「失礼します」
2年の堀北先輩と綾小路先輩が訪ねてきた。
「よく来たな。俺に話があるんだって?」
偉そうに足を組んでふんぞり返ってる南雲先輩は、2人に座るよう促し、2人もそれに従い着席する。
「お時間頂きありがとうございます」
「気にするな、今は割と暇してる時期だしな」
……少し、いやかなーりカチンときたので私は席を立ち南雲先輩の背後にこっそりと忍び寄りヘッドロックをかける。
「!? お、おい本条、いったい何を─」
「おいコラ生徒会長野郎。聞き捨てならないこと言いやがりましたね」
桐山先輩が何かビックリしてるが無視無視、今はこのいけ好かない生徒会長様を吊るし上げなければならないのだ。
「何だよ桐花、今大事な話ししてるんだからじゃれついてくるな」
「とぼけんじゃねーですネタは上がってるんですよコノヤロー。私がこんなに仕事に追われててんてこ舞いなのに、お2人は何か涼しげというかやけに余裕があるなぁと思ったら、アンタ私に必要以上に多く業務割り振ってやがりましたね?」
「はっはっは、上から言われたことを疑いもせず唯々諾々と従ってると痛い目を見る。この学校で戦っていく上でいい教訓になっただろうぜ」
こんなにもいけしゃあしゃあという表現の似合う男はそうそういないだろう。……ただまあ、南雲先輩の言い分もあながち的外れではなさそうだし、それに堀北先輩達をあまり待たせるのも心苦しいので拘束を解く。
「……今回は不問にしますが、今後仕事の割り振りは平等にしてくださいね。でないと暴れます」
「わかったわかった。しかし驚いたぞ桐花、会長である俺に対してまったく物怖じなくあんなことをしてくるとはな」
「会長だろうと世界大統領だろうと、間違ってるならズケズケ物申すのが私のポリシーですから」
「いやそれもあるが、ヘッドロックの方だ。たしかお前、あまり男に免疫無かっただろ?」
「え? …………あ」
ひょっとして私、怒りに我を忘れてとんでもないことやらかしちゃった? やべえ、なんか顔が熱くなってきた。
「おいおい、そんなわかりやすいくらい動揺しなくてもいいだろ。初心な奴だな」
「でゃ、だだ誰が動揺ししてるって言うですか? ぜんっぜん平気ですけど?」
「ああはいはい、今ちょっと大事な話してるからおとなしくしてろ。後で構ってやるから」
「ぬぐぐぐぐっ……!」
く、屈辱だ! めっちゃ悔しい……!
桐山先輩は呆れたような目で見てるし、堀北先輩は何か意外そうに目を見開いている。やめて、そんな目で見んといて。綾小路先輩は……すっげえ真顔。興味関心ゼロなのもそれはそれで傷つくなあ!
ちなみに堀北先輩の用事とは生徒会に入りたいとのことだ。なんでも南雲先輩の前に会長を務めていた人が堀北先輩の兄らしく、長年確執を抱えていたがその人が卒業する直前に和解できたそうだ。それで兄が学生生活を捧げた生徒会に興味を持ち始めた……と。
うーん……なんか引っかかるな。私は兄貴のように嘘を見抜く眼力なんて持ち合わせちゃいないので確証は無いけど、それでも堀北先輩が本心から言ってるようにはちょっと思えない。
「兄が通った道を辿る、か。……立派な心がけだが、それはつまりいずれこの席に座る意思があるってことか?」
「ええ。私は兄のように、生徒会長になるつもりです」
……真っ直ぐな目だ。先ほどまでと違い、堀北先輩の言葉には一欠片の偽りも感じ取れなかった。
「なるほど。だが帆波は既に1年間生徒会に貢献してきた実績があるし、スーパールーキーこと桐花もいる」
「ストップ・ザ・会長。なんでそこで私を引き合いに出すんですか?」
「なんでも何も桐花、お前も生徒会長を目指してるんだろ? となれば席を奪い合うライバルじゃないか」
「いやまあ確かに目指しちゃいますけど私まだ1年ですよ。普通次期会長は2年から選ぶのでは?」
「生憎と俺は革新派なんでね。1年が生徒会長になれないなんて決まりは無いし、最も適任だと俺が判断したならお前に継がせるぞ」
正直御免被る。出る杭は打たれるのが相場だし、私は兄ほどふてぶてしく生きられやしない。
「まあそんな訳で、大きく出遅れてるのは理解しているのか?」
「挽回できない差ではありません」
「悪くない答えだ、やはり堀北先輩の妹か。……もう既に何度か呼んでるが、改めて今日から鈴音と呼ばせてもらうぜ?」
「お好きにどうぞ」
「今の2年は帆波しか役員がいなくて困ってたところだ。ようこそ生徒会へ、今日から遠慮なく役員として働いてもらうぜ」
「勿論です」
南雲先輩は席を立つと堀北先輩の方に歩み寄り、左手を差し伸べた。左手……南雲先輩ほどの人が左手で握手を求める意味を知らないとは思えないし、あまり歓迎してないのかな? 堀北先輩は堀北先輩で真正面から握り返してるし、心なしか2人の間でバチバチと火花が鳴ってる気がする。
「面白いことに歴代の生徒会長は、皆Aクラスで卒業している。そのことを覚えた上で高みを目指せよ?」
「ええ、私もAクラス以外で卒業するつもりは毛頭ありません」
「口先だけじゃないことを期待してるぜ」
南雲先輩はそう言うが、その実まるで期待していないって目で語っている。まあ無理もない……堀北先輩達DクラスとAクラスとのポイント差は既に1000を超えている。それだけ大差がついているのに、2年Aクラスを率いているのはあの有栖さん。とどめとばかりに兄貴も在籍してるとなったら、勝ち目などゼロに等しいだろう。
あの2人が同じ方向を向いている限り、番狂わせなんてありえない。
頂点捕食者と化した有栖ちゃんに食い散らかされた草食系桐葉君。この作品はR−18指定ではない健全な小説ですので描写は一切しませんが、ベッドの上で桐葉君が主導権を握れる日は永遠に来ないと明記しておきます。攻撃大好き有栖ちゃんは当然攻め一辺倒ですが、肉体強度に差があり過ぎて下手に反撃すると怪我させかねないので、お優しい桐葉君は防戦一方にならざるを得ません。
というのは建前でそもそも桐葉君はドМなので、口では色々文句を言ってますが実際は有栖ちゃんに性的に虐められて喜んでるし悦んでます。
【5月に更新されたOAA】
2−A 本条 桐葉
2年次成績
学力……A+(99)
運動能力……A+(100)
機転思考力……A+(96)
社会貢献性……A-(83)
総合……A+(96)
2−A 坂柳 有栖
2年次成績
学力……A+(100)
運動能力……D-(25)
機転思考力……A(87)
社会貢献性……B(73)
総合……B(70)
有栖「満点を逃しましたが学力は最大評価のままですか……真嶋先生の説明と食い違いますが、特別試験かつこれまでで最難関のテストだっただけに少々評価が特殊だったのでしょうね」
桐葉「他の方の成績を参照したところ、400点を超えている子は皆A評価以上だったから、五教科の平均=学力じゃないみたいだね。……にしてもこうして目に見える形で優劣がつくとめっちゃ悔しいな。社会貢献も下がっちゃったし」
有栖「代わりに機転思考力が上がったおかげで総合評価はA+のままなのだからいいじゃないですか」
桐葉「積極的に1年の子達と親睦を深めに行ったのが功を奏したのかね?LINEもあと3人ほどでコンプだし俺超頑張った」