Q.2 お互いの直してほしいところは何かありますか?
有栖「大事な話をしているときに逐一余計な茶々いれてくるのはいい加減自重してください」
桐葉「仕方ねーじゃん、シリアスアレルギーなんだから。ただ黙々と聞いてると蕁麻疹とか出てくる」
有栖「あと呼吸をするように適当なこという癖も」
桐葉「はいはい気をつけまーす☆」
有栖(改める気ゼロですね。後でおしおきしましょう)
桐葉「俺からはあれだ、洗髪、洗体、スキンケア全て牛乳石鹸で済まそうとするのいい加減やめなさい」
有栖「いいじゃないですか、楽ですし」
桐葉「年頃の乙女がそんなズボラでどうすんのさ……」
有栖「仕方ないですね、レモン石鹸に変えます」
桐葉「そういう問題じゃなーい!」
有栖「そういえば桐葉は色々と拘ってましたね」
桐葉「うん、全てボタニスト製で揃えるのが俺のポリシー。他のやつだと俺のコンディションが0.02%落ちる」
有栖「誤差じゃないですか」
【side:桐花】
夏休み。
おそらく私達学生の大半が1年で最も幸せになれる尊き長期休暇期間。
そんな貴重な夏休みを約1/3も削り取って行われる仁義なき特別試験のグループ作りに、私達1年はこれでもかと言うくらい難航していた。
というのも銭ゲバゴリラこと宝泉君、そして彼が恐怖と暴力で率いる哀れな1年Dクラス……通称宝泉クラスが、グループ参加及びカードのトレードを頑なに拒否したそうな。手を組んで欲しければ相応のポイントを寄越せというのが彼の言い分だが、そんな厚かまし過ぎる要求を飲むような変わり者は残念ながらどのクラスにもいなかった。
我々1年Aクラスこと本条クラスはというと、6月の間は彼が考えを改めるかもしれないという、お優しい八神君の意見に倣い様子を見ていたようだが、7月に突入しても完全に梨の礫。
Cクラスのリーダー的存在、宇都宮君なんかはDクラスなんて無視してしまえと提案したみたいだが、うちの八神君と石上クラスのサブリーダー高橋君はそれに異を唱える。地力も経験も格上な他学年との競争に打ち勝つには、全クラスから人材を選りすぐったグループを作ることが最低ラインだという主張の下、ギリギリのギリまで宝泉クラスを切り捨てるのは避けることになり、それが功を奏したのか各クラス代表者の話し合いの結果、最終的に宝泉君が折れて4クラスの共同戦線が成立したらしい。
……なぜ全部他人事なのかというと、ここまで一連の流れに私は仮にもクラスのリーダー的存在にもかかわらず一切関わっていない。石上君と同じくサブリーダーである八神君に何から何まで全部丸投げした。
生憎と私は馬鹿兄貴と同じく物事の判断において、理屈よりも感情を優先する人種だ。いかに合理的だろうと気に食わないことにおいそれと賛同したりはできやしない。4クラスでドリームチームを作るとなると、Dクラスからはやはり宝泉君が選出される可能性が高い。素行と人格は終わっているが憎たらしいことに文武両道だし、彼の身体能力は全学年でもトップを争うだろうし。だからこそ私は八神君が宝泉君と手を組もうと提案してきた段階で全て彼に一任すると決めたんだけど。
率直に言うと私は絶対宝泉君なんかとは組みたくない。私あいつ嫌い。
……いやまあクラスの命運がかかってるなら私も多少の我慢が利くんだけどさ、正直今回の特別試験はうちのクラスから下位5グループを出しさえしなきゃ、どう転んでも別に構わないとさえ思っている。我ながら消極的だと思うがね、Aクラスの私達からしたら現状維持は判定勝ちみたいなものだ。
1年だから多少のハンデ(小グループの人数制限が1人多い、男女比の制限が無い)を貰ってるとはいえ、先輩達はやはりとても手強い相手だ。
桐山先輩の話を聞く限り、3年はほぼ完全に南雲会長の支配下にある。私達1年のようなつけ焼き刃の共闘とはとても比較にならない。各クラスの競争を促す高育の仕組みからは本来決してありえない、学年全体の結束を成立させたのが南雲会長だ。チャラくて軽薄そうな見た目と言動してるけど、実はすごい人なのだ。
3年全体を自分の都合のみで動かせるとなることが今回の試験でどれだけ有利か、深く考えなくても何となくわかるだろう。あの人の半端ない我儘さから考えて、自分のグループの勝利の為に他の3年グループを全て捨て石にするくらいはたぶん平気でやってくる。3位より下に落ちることなんてどう転んでもありえないだろう。
……そして2年には私の愛すべき馬鹿兄貴、本条桐葉がいる。あの人の腹立つくらいのオールマイティーさと、どんな重圧も屁とも思わない並外れた精神力は、妹である私が一番よく知っている。それに加えて今回の特別試験の舞台は、よりにもよって無人島などという大自然の中の大自然環境。最悪だ。
あの人は青木ヶ原樹海を遊び場にしていたほどの植物狂いなので、おそらく100%……いや120%の力を常に発揮できるまさにホームグラウンドだ。よほど運に見放されない限り3位以下に落ちることはないだろうし、あの人ほど不運とは無縁の人間は他にいない。
なるほど確かに、八神君の言うように4クラスが協力しなければ勝機は微塵も無い。そして無事協力関係を結べてなお、報酬にクラスポイントがある表彰台は精々3位を取れたら大健闘だろう。しかしながら全クラスが協力する関係上、報酬のクラスポイントも分割される為差がつくことはない。
つまり今回の特別試験は私達にとっては、ある意味消化試合でしかないのだからどうにもやる気が起きない。やる気の無い私はクラスメイトから退学者を出さないよう尽力して、トップ争いの為の他クラスとの外交云々はやる気満々な八神君に頑張ってもらった方がいい筈だ。
となると私が組むべきグループはペナルティを負いかねないクラスメイトで揃えるべきだが……うちは元Bクラスなだけあって石上クラスに次いで優等生揃いだが、2週間無人島生活という過酷な環境に耐えられなさそうな生徒も何人かいるので、そういう子を優先的に集めようか。
いつも仲良くしてるメンツだと、杏里は女子トップの身体能力だし、凪沙も気弱な性格に反して持久走の中学記録保持者だから、あの2人はたぶん放っておいても大丈夫。それに対して瑞穂は典型的な現代っ子だから候補の1人かなー。
「おい本条、てめえ俺達と組まねえか?」
「は?」
……などという私の能天気なプランに待ったをかけてきたのは、他でもない銭ゲバゴリ─宝泉君。どこで番号知ったのか知らないが植物園『ルビカンテ』とかいう兄貴が入り浸ってそうな施設に呼び出され、渋々赴いてみれば七瀬さんと宝泉君の姿が。そして開口一番このセリフだった。
「ジョークだとすればつまらないね」
「あぁ?」
これ以上話す価値は無いと判断し席を立つ私を、宝泉君は怪訝そうに睨んでくる。なんだその心外そうな顔は、こっちが心外だよバカタレ。
「私が君を好ましく思ってないことは知ってるだろう。そんな君と手を組む? 何のメリットがあるのさアホらしい」
「メリットならあるぜ。テメェは曲がりなりにもクラスを率いる立場だろ? 勝てる手段があるなら個人的な感情よりも優先すべきじゃねぇのか? ああん?」
「……」
私より個人的な感情で動きそうなリーダーにとやかく言われる筋合いはないけど、宝泉君の言いたいことはつまり、彼と私が組めば表彰台を狙えるということらしい。威勢のいい奴は嫌いではないのでもう少し付き合ってやるかと思い直し、再び着席する。
「だいたい君さ、聞いた話じゃ八神君達の協力要請に応じたんだろ? 4クラスから主力を選りすぐるって話なら、君か七瀬さんはそっちに行くべきなんじゃないの?」
「主力かどうかを判断するのはクラスを仕切る俺だ」
「最悪だよこいつ。テキトーな人材送り込む気満々じゃん。あのさ、真剣に取り組む八神君を知る私がそれを聞いて黙ってられるとでも?」
「何をもって主力かにもよります。OAAで優秀な成績の生徒を選出しておけばそう角も立つことはないでしょう。それに宝泉君を参加させるのは、向こうも諸手で歓迎すべきかというと……」
「なるほど、納得」
協調性とは対極に位置する問題児だし、絶対揉め事の種になるだろうね。2週間も行動を共にするんだから、こんなストレス製造機とよろしくやりたくはないか。
……故意に足を引っ張るつもりが無いなら、部外者の私がとやかく言うのもアレか。
「なら私が最強グループに参加するとは考えなかったのかい? 自慢じゃないけど総合評価は八神君を抑えて学年トップなんだけど」
「選りすぐりのグループに加えるには器用貧乏だろ。ご自慢のリーダーシップも合同グループだとただウゼェだけだし、テメェが選出されるはずはねぇ」
「腹立つくらい正解だよちくしょう」
……私は兄貴の完全下位互換だ。
勉強だってスポーツだって、大概のことは上手くこなせるがトップは取れた試しがない。今回のような様々な能力を問われる特別試験グループを組むなら、バランスの良い生徒よりも何かに特化したエキスパートをズラリと揃える方が戦略的に正しい。
兄貴曰く私は統率力が優れているらしいが、自クラスだけで組むならともかく全クラス合同グループでリーダーシップなど発揮しても、他クラスからしたらあれこれ指図されて鬱陶しく感じるだけで、さらに言えば揉め事の火種にもなりかねない。
とどのつまり八神君達の思い描くドリームチームに、残念ながら私は戦力外ということだ。自覚はしてるが宝泉君に指摘されるとこうもムカつくとはね。
「しかしだ宝泉君、尚更解せないな。何故そんな器用貧乏な私を誘うんだ?」
「決まってんだろ、テメェが1番強ぇ女だからだ」
「……???」
ちょっと何言ってるのかわからない。
「トップを目指すんなら雑魚を引き入れちまえば足引っ張られるだけだが、Dクラスは使いものになるのはせいぜいこの七瀬くらいで他はカスばかり。となるとテメェを抱き込むのは当然だろうが」
「あのさ宝泉君、私達が取り組むのは試験だよ? 喧嘩じゃないんだよ? そりゃあ私も武術を修めてるから腕っ節には多少の覚えはあるけどさ、生憎とうちの流派は一般人には振るってはいけない縛りがあって─」
「んなもんどうだっていいんだよ、俺がテメェに求める強さはそこじゃねえ。そもそも腕っ節の強さなんざ俺1人で足りてるだろうが」
へえ、随分な自信家だこと。しかしまあ確かに以前ぶん殴られた感触からして、彼のフィジカルは少なくとも私の知る範囲の兄貴をも凌駕しているし、あながちハッタリではないかもしれない。
しかし腕っ節でないとすると私の強さって……え? もしかして、
「1年生はみんな君のこと嫌悪してるか怖がってるから、それなりに優秀な生徒で組んでくれそうなのが私くらいしかいなかった、とかだったりする?」
「……チッ」
面倒臭そうに舌打ちしつつ、私から目を逸らす宝泉君。おっとおやおや、これはこれは……
「だよね〜♪ あんだけ粗暴に振舞ってたら周りも避けるわそりゃあ。あーあ可哀想に、自業自得とは言え爪弾きにされて、こんな面倒な女に頭を下げて助けを請わなくちゃならないなんて不憫な子だねー」
「るっせぇぞバカ女! 頭なんざ誰が下げるか、あんま調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「やーい、ぼっちゴリラ〜♪」
「テメェマジでぶっ殺すぞコラ!」
「ふぎゅうぅううう!?」
「ストップ宝泉君浮いてる浮いてる!? 気持ちはわからなくもないですが落ち着いて下さい!」
ここぞとばかりに好き放題おちょくってたら、キレた宝泉君にほっぺを鷲掴みにされて持ち上げられた。こういう展開になるとは薄々わかってはいたけどどうしても我慢できなかった。ここで煽らないでいつ煽るんだ。
やがて私の無様な姿に溜飲を下げた宝泉君は手を離し、私は床に崩れ落ちた。
「ゲホッゲホッ……何すんのさこんの馬鹿力め」
「るせぇ、俺を苛つかせんじゃねぇよバカ女。それで、返答はどうなんだ?」
「この期に及んでまだ私に了承する余地があると思ってんの!? 断固お断りだよ!」
「何か勘違いしてるみたいだが、テメェに選択肢なんざ与えてねぇんだよ。こっちは手っ取り早く力で分からせてやっても良いんだぜ?」
「やれるもんならやってみなこの蛮族が。私には高校生にもなって謝罪の1つもできないような奴を受け入れる度量なんて無いんだよ」
「謝罪だぁ? あんだけ煽り散らかしておいて随分と被害者ぶるじゃねぇか」
「私にじゃない、君が入学式の日に乱暴狼藉を働いた子に対してだ」
「まだそれ言ってんのかテメェ!? いくらなんでもしつこ過ぎるだろうが!?」
「前にも言っただろう? 私はしつこいんだよ」
お互い一歩も引かず一昔前のヤンキーのようにメンチを切り合ってると、見かねた七瀬さんが仲裁に入ってくる。
「どうやら本条さんを味方につけるには、彼女の要求を飲むしか無さそうですね宝泉君」
「あ? 余計な口を挟むんじゃねぇよ」
「あなた相手に一歩も引かない芯の強さからして、ちょっとやそっとのことでは従わせることは不可能でしょう。かと言って暴力に訴えれば学校からペナルティを受けるでしょうね」
「チッ……まあ脅して無理矢理従わせられたとして、そんなカスは戦力にならねぇか。……仕方ねぇ、テメェの要求を飲んでやるよ本条」
「っ、本当か!? 粘着しといて何だが、君は絶対に意地でも謝らないと思ってたよ。現代っ子よろしく謝ったら負けだと思ってるだっさい価値観持ってそうだからな君」
「マジで1回ぶっ殺した方がいいなこのバカ女……いいぜ、こっちもテメェのしつこさにはうんざりしてたんだ。詫びの1つで満足するなら聞き入れてやるけどな、条件が1つある」
「む。なんだい?」
「以前も言ったがカスの顔なんざいちいち覚えてねぇんだよ。その入学式に俺が突き飛ばした奴は、テメェが探し出して連れてこいよ」
意地悪そうな顔で意地悪な条件を突きつけてくる宝泉君だが、この私がいったい誰の妹なのか忘れてるようだね。
「……言ったね? 連れてこれたら君はちゃんと謝罪するんだね? ちゃんと録音してるから後でしらばっくれても駄目だよ?」
「抜け目ねぇな。ああ構わねぇぜ」
「交渉成立、だね。ところで1年生は4人まで小グループを組めるけど他に誰か加えるのかい?」
「Bクラスの天沢さんに声をかけるつもりです。この後ケヤキモールのカフェで待ち合わせをしていますが、本条も同席しますか?」
「んー、遠慮しとくよ。どんな手を使っても探し出さなきゃならなくなったからね」
今後の為に2人と連絡先を交換してから、解散して『ルビカンテ』を後にした。
しかし天沢さん、か。全学年でもたった5人しかいない、学力と運動能力の両方でA判定を貰っているとても優秀な生徒だ。グループに引き入れられるなら心強いし、少々癖の強い性格だから八神君達の合同グループには所属しないだろうしスカウトの見込みはある。
……しかし天沢さんまで加わるとなると、たとえ入賞できたとしても報酬はそれぞれのクラスに三分割される。あの強欲な宝泉君がそんなこと許容するとは思えないが、より確実に入賞することを優先した? それとも……
特別試験で勝つのと別の思惑でもあるのか?
……まあいいや。今はそんなことより、私にはやらなきゃならないことがある。せっかく宝泉君から言質が取れたんだし、個人的な安いプライドは捨てるより他ない。私は一度深呼吸して腹を括ってから、携帯を取り出し震える指先を通話ボタンを押し当てた。
「……もしもーし、大好きなお兄ちゃん。可愛い妹のお願い聞いてくれないかな? 探して欲しい人がいるんだけど……」
後日、兄貴の常軌を逸した眼力を駆使した探査であの日の被害者の特定に成功した私はその生徒(生徒会の波多野君)を連れて宝泉君に突きつけ、無事頭を下げさせることに成功した。あの屈辱に歪んだ顔は申し訳ないが痛快だった。宝泉君がくだらない報復行為に出ないよう、生徒会仲間の八神君と波多野君とクラスメイトの宇都宮君にも話を通しておいたし、万事オッケーこれにて一件落着。
【本条兄妹ルールその1】
桐花が桐葉に対価も無く頼み事をしたいときは、「兄貴」ではなく「大好きなお兄ちゃん」と呼ぶこと。また一人称は「可愛い妹」に限定する
桐花「いやがらせ以外の何物でも無いよねこんなの……」