【中学時代、桐葉君が一番有栖ちゃんを怒らせた場面】
桐葉「今日は11月9日タピオカの日!という訳でタピオカチャレーンジ!」
有栖「また脈絡もなくいきなり何を─」
ドサッ、バシャアアアン!(桐葉がタピオカミルクティーを有栖の胸に置こうとしたものの、一切制止することもなく地面に急落下して中身をぶちまけた音)
桐葉「ふむ、やっぱダメだったか」
有栖「…………………………………………………あはっ☆」
☆当時を思い返した桐葉君のコメント☆
「マジで殺されるかと思った」
【side:桐葉】
OAAについての話題でひと通り盛り上がっている内に1時限目、続いて2時限目の授業が始まる。……この時間はきっと例のアレについての説明だろうね。
「これより特別試験の概要を説明する」
そんな俺達の予想を裏切ることなく、2年生初めての特別試験が幕を開けた。
「今回の試験はこれまでに類を見ない、新たな試みを取り入れた内容となる。肝心の内容についてだが、1年生と2年生がペアを組み行う筆記試験となっている」
前置きに偽り無しな未知の試験内容に、クラスが軽くざわつきを見せる。クラス間の争いがメインである以上、これまで一部の例外を除き他学年と協力したり、戦ったりなんてことはあまり無かったからね。
きっとこの試験内容には生徒会長、みやびん先輩も深く関わっているんだろう。去年学年の違うコランダム先輩とまともに戦う機会に恵まれず歯痒い思いをしただろうし、現在目をつけているであろうターゲットも学年が違う以上、学年という垣根そのものを取り払わなければ去年の二の舞だ。
「今回の試験では学力とコミュニケーション能力が重要となってくるだろう」
「……筆記試験ということは、去年のペーパーシャッフルのような内容でしょうか?」
「ああ、それに限りなく近い。相違点はペアの相手が人となりをよく知るクラスメイトではなく、面識の無い新入生だということだ」
ふむ、それは些細なようで結構大きな違いだね。俺や橋本なら特に悩みもせず気軽に声をかけにいけるけど、マスミンやファルコンは気難しい性格してるから苦労しそうだ。そしてミキティに至っては……まあ俺達がちゃんとフォローしてあげればいいかな。
「1年生であれば誰と組むのも自由だ。試験期間は約2週間後の月末。パートナーを選定する時間、そして勉学に勤しむ時間を用意している」
つまりインストールしたてほやほやのOAAが、それはもう存分に活躍するというわけだ。
前回の試験はクラス同士のペアだったため、基本的に勉強が得意な子が苦手な子をサポートする形で試験に取り組めたけど、今回はきっと各クラスによる優秀なパートナーの奪い合いになる。誰がどの程度の実力を持っているかがわかるこのアプリは、パートナーを決める際の参考にしやすい。
「テストは主要五教科、1科目100点の合計500点満点。そしてここからが肝心だが……今回はクラス単位の勝敗と、個人単位の勝敗の2種が用意されている」
真嶋先生が黒板に指をかざすと、特別試験の結果が表示されていく。便利な時代になったもんだ。
・学年別におけるクラスの勝敗
クラス全員の点数とパートナー全員の点数の平均点で競い、高い順に50、30、10、0ポイントのクラスポイントを得る。
・個人の勝敗
パートナーとの合計点で採点される。
上位5組のペアには各10万プライベートポイント、上位3割のペアには各1万プライベートポイントが支給される。
合計点数が500点以下の場合2年生は退学、1年生はプライベートの振り込みが3ヶ月間凍結される。
また意図的に点数を下げたと判断された生徒は学年に問わず退学とする。同じく第三者が強要した場合もその者を退学とする。
おっと、これはまた……
「もう察していると思うが、今回の試験は学力評価が高い生徒から順に売れていくだろう」
頭の良い生徒なら頭の良いパートナーと組んで報酬を狙いにいくだろうし、頭の悪い生徒も頭の良いパートナーと組んで生き残りたがるだろうね。例えば学力評価カンストの俺や有栖は誰にパートナーを申し込もうが断られる余地なんて無いだろうけど、学力C+のファルコンなんかは多少苦労するだろう。
あと、1年と2年の環境や立場の差異もなかなかにネックだ。1年間苦楽を共にしてきた2年生は報酬を無視してでも、学力に不安を抱える友人を助けようとしても不思議じゃあない。だけど1年生はお互いがつい先日知り合ったばかりな上、たとえペナルティを喰らっても学校を去るわけではない以上、2年生よりも自分のエゴに従って行動してくるだろうね。
「パートナーは互いの了承で成立しOAA内で登録すると完了となる。現在より好きなタイミングで申請可能だが、一度パートナーを登録すると、如何なる理由があろうとも解除は不可能なので注意するように」
そういう言われ方をすると、余程相手の学力が高くないと即断即決は難しくなる。勇み足は後悔の元ってね。
黒板が更新され、パートナー申請の詳細が表示される。
ふむふむ……ペアの申請は1日1回OAAを通して行うことができて、相手に拒否された場合は午前0時にリセット。確定した両名は朝8時にOAA上で情報が更新され表示されるけど、誰と誰が組んだかまでは明記されない……ね。
このルールだと数撃ちゃ当たるの精神で申請しまくったりはできないし、送った相手が同日既に誰かが組んでいたら申請が一回分無駄になっちゃうね。本人に同意を取ってから申請すればそんなことにならないだろうけどさ。
「先生、試験当日までペアの組めなかった生徒には何かペナルティがあるのですか?」
「ああ。当日の8時に組めなかった生徒達同士でランダムに選ばれることになるが、それらの生徒は総合点から5%分引かれることになる。また人数差の関係上1年生は3人ほど余ることになるが、その生徒達は持ち点を2倍した上で同じく5%のペナルティが課せられる」
要はコミュニケーション力で劣る生徒に降りかかる減点要素ってことだね。しかし、それにしても……
「……この試験、理事長代行の悪意が巧妙に隠されていますね」
有栖の呟きに俺も無言で同意しておく。
『合計で500点以下は退学』……どれだけ優秀でも1人だけでは決して勝ち上がれない絶妙なボーダーだ。
意図的に点数を下げれば問答無用で退学という抑止ルールもあるけど、もし退学のリスクを恐れない生徒……もっと言うと、特定の誰かを退学させるためにここに入学してきた生徒には、痛くも痒くも無いペナルティでしかない。
月城常成理事長代行は、2年Dクラスのとある生徒……そしてもしかしたらついでに俺も退学させるため、この学校に送り込まれた人物だ。このルールは代行が直々に設定したルールと見て間違いないし、同時に新入生に彼の息がかかった生徒が紛れ込んでいると確定した。
もし彼がその生徒とペアを組んでしまったら、容赦なく0点を取られてゲームオーバー……本人はただ平穏を求めているだけなのに、新年度早々余計な苦労を背負い込んじゃったものだね彼も。たった1~2人の生徒を退学させるためだけに、随分とまあ大がかりな企みを企てたものだよまったく。
「そして今回の試験難度だが、これまでお前達が受けてきた中でも間違いなく最難関と断言できる。しかしそれは高得点を狙う場合の話で、学力判定がE付近の生徒でも予習なしで150点は取れるように作られている。これはあくまで目安だが─」
黒板に学力別の予測点数が表示される。
学力E 150~200
学力D 200~250
学力C 250~300
学力B 350前後
学力A 400前後
「真面目に勉強していればこれくらいの点数は取れるだろう。そしてこの目安が意図的に点数を下げたかどうかの参考にもなる。多少の下振れならともかく、例えば学力A判定の生徒の点数が150前後だと
真嶋先生はそこで一度言葉を切ると、俺と有栖へそれぞれ視線を向ける。
「これまで全ての試験で満点の坂柳と本条だろうと、満点を取ることは不可能だと考えていい」
──ビンゴ。
とうとう来ちゃったか……俺と有栖の、雌雄を決するときが。
俺が有栖にちらりと目配せすると、有栖も覚悟を決めた表情で無言のまま頷く。受けて立つってか……面白い。
そういうことならパートナー探しなんてかったるいことやってられないな。
俺はOAAを操作して優秀な子が多そうな1年Aクラスの項目を開き、適当に画面をスライドさせて生徒を無作為に選び、その子にパートナー申請を送った。
どこの誰だろうと学力A+の俺を拒む理由なんて無いだろうし、もしこの子が意図的に0点を取ったとしても俺は退学を免除できるだけのプライベートポイントを所持している。理事長代理には悪いけど、この試験では彼1人に集中してもらおう。
俺や有栖でも満点を取れないテスト……それはつまり俺と有栖の優劣が、とうとうハッキリついてしまうってことだ。本気のこの娘の相手をする以上、そんな些事にかかずらっている余裕なんてある訳がない。
「以上が特別試験の概要だ。気を引き締めて挑むように」
その後はテスト範囲に関する説明が口頭で行われた。去年習った範囲をしっかり予習しておけばほぼ大丈夫らしいが、そんな緩いテストで俺や有栖が満点を逃す筈がない。……まず間違いなく、高校レベルを大きく逸脱した問題が仕込まれていると考えるべきだね。
ひと通りの説明が終わり真嶋先生が教室から出ていくと、いつものように有栖が教壇に立ち方針発表タイムへと入る。うちのクラスは有栖という絶対的リーダーによる独裁で成り立っているため、皆で話し合って特別試験に取り組んだりはしない。有栖が戦術戦略を全て決め俺達はそれに従って行動する、というのがAクラスの基本スタンス。
賛否が分かれるやり方だろうけど、ここまで有栖の言う通りにして他クラスに遅れを取ったことが無いので、大抵の場合は有栖の方針にクラスメイト達は異議を申し立てたりしない……んだけど、
「今回の特別試験ですが……4位を狙いにいこうと思います」
流石に今回ばかりはクラス中がざわついる様子。百歩譲って真面目に取り組んだ結果最下位ならともかく、最初から最下位を狙いにいくなんて言われたらねえ……まあ有栖の考えをきちんと説明をすれば、皆も納得してくれるだろう。
「えっと姫さん……どういうことか説明してもらってもいいか?」
皆の困惑を代表して疑問を投げ掛けたのは、男にしては長い金髪を後ろでまとめ、側頭部を刈り込んでツーブロックに仕立て上げるという愉快な髪型をした男子生徒……
パッと見チャラついた印象を抱かせるが実際見た目通りチャラく、全身から軽薄な気配と胡散臭さをプンプン漂わせているが、その実クラスでも一二を争うくらいAクラスの座に執着していたりする。そのため橋本はいつもの軽薄な態度が嘘のように怪訝な表情をしている。
「もちろん順を追って説明しましょう。……まず前提として、私は今回の試験でクラスの指揮を取ることができなくなりました」
「できなく、なった? どういうことよ。意味わかんないんだけど」
同じく怪訝そうな表情で首を傾げたのは、紫色のロングヘアをサイドテールにした女子生徒……マスミンこと
万引きの現場を有栖に押さえられて以来、有栖にこれでもかと馬車馬のように働かされているクラス屈指の苦労人だ。そのことへの不満は一切隠さず有栖に不満をぶちまけることも多々あるけど、有栖から親友認定されてることを内心満更でもなく思っていることはお見通しだ。……あとこれは補足情報だが、美人でないすばでーなのに愛想の欠片もない性格が災いして、男子からの人気はそこまで無い。
「真嶋先生が仰った通り、今回のテスト難易度は過去類を見ない程の難易度となります。それこそ私や桐葉ですら満点を逃すほどの。……それはすなわち、これまでずっと同列1位だった私と桐葉の優劣がついてしまうということです。桐葉に勝つためにも私は今回、自らの研鑽に専念しなければなりません」
「……坂柳。お前はリーダーとしての責務を放棄してまで、本条との決着に固執するというのか?」
責めるような口調でそう問いただしたのは、禿頭と高校生には見えないおっさんフェイスが特徴的なガタイの良い男子生徒……ランスこと
かつては有栖とクラスのリーダーの座を巡ってバチバチと争っていたくらいには優秀な生徒だったけど、有栖のえげつない策略であれよあれよと信頼を失墜させられ、今では最も発言力の低い立場に成り下がってしまっている。
「随分な言われようで心外ですね、リーダーだからこその判断ですよ。ここで私が負けてしまえば、Aクラスの戦力は半減すると言っても過言ではありません」
「……何だと?」
「かつて無人島試験で指揮を取った貴方ならご存知でしょうが、桐葉は自分より頭の悪い人には決して従いません」
世の中には人を使う側と人に使われる側の人間がいる。人を使うなんてとても退屈でつまらねーから俺が希望するのは後者なんだけど、どうせなら自分よりも頭の良い人に使われたいよね。
「中学時代に知り合って現在まで、私と桐葉の知恵比べは常に互角でした。そのため桐葉は温情で私の指示に従ってくれていますが、もし今回の試験で私が敗北した場合は、そうですね……Dクラスの高円寺君のようにアンタッチャブルになってしまうかもしれませんね」
『こっ……!?』
予想だにしない人物を引き合いに出され、クラスメイトの誰もが絶句する。
2年Dクラスの高円寺六助は俺に勝るとも劣らないスペックではあるものの、度が過ぎた自己中さで毎度毎度自クラスの足を全力で引っ張っていることは学年全体が周知している。
自分で言うのもアレなんだけど、俺は二学期以降の特別試験全てでそれはもう一騎当千の活躍をして、幾度となくクラスを勝利へと導いてきたと自負している。
そんなクラスのリーサルウエポンたるこの俺が、六助のようにクラスの足枷同然になるというのだから、皆も内心穏やかではないだろう。
「さ、流石に冗談だろ? 日頃からあんだけ姫さんとイチャついてんだ、そんな一回負けたくらいで─」
「……いや、もし坂柳がそういう取り決めを結んでいたのなら、私情を一切無視して断行する。如何なる理由があろうとも約束は破らない……本条とはそういう男だ」
橋本の楽観的な意見をバッサリ切り捨てたのは、海草のような癖のある長髪に屈強な肉体、ランス以上に高校生には見えない強面の男子生徒……ファルコンこと
Aクラスきっての武闘派で、俺を除けばクラスで並ぶ者無しの高い身体能力を有している。無駄口を好まず、課せられた役割を実直に遂行する生粋の仕事人。しかし将来の夢は意外にもファッションデザイナーだったりする。
「ぴんぽんぱんぽーん、ファルコン大正解。俺がかつて有栖と結んだ契約は、『有栖が勝てば今後の人生ずっと有栖に従い続け、逆に俺が勝てば金輪際二度と有栖には従わない』だよ。有栖のことは大好きだけど……真っ当な人間でいたいなら約束は守らないとね」
『約束』……その単語にクラスメイト達の表情がひきつった。一年間苦楽を共にしただけあって、俺が必ず約束を守る男だと身に染みて理解しているようだね。きっと彼等の脳裏には、俺が約束を守ることに固執した結果この学校を去ることになった生徒、戸塚弥彦が嫌でも浮かび上がっていることだろうね。
……そう、約束は絶対だ。1度約束してしまったからには、いかなる理由があろうと破ることは許されない。
「私はテスト勉強に集中しなければならないと、わかっていただけましたか?」
「……そういうことならやむを得ないが、それにしたって4位狙いとはどういうことだ? 俺達は最上位クラスで、それに今回は学力が鍵になる試験だ。お前が指揮をしないだけで最下位になるとは思えんぞ」
「そうですね。このクラスの学力なら無策で試験に取り組んでも、2位か3位には労せず食い込めるでしょう。……ですが今このクラスがするべきことは、たかが30や10のクラスポイントを取りに行くことではなく、3クラスの結束を妨害することです」
「……そういうことか」
聡明なランスは、詳しく説明するまでもなく有栖の狙いを理解したらしい。未だにちんぷんかんぷんなその他大勢は、その語有栖が語った詳細な説明を聞いてようやく納得してくれた。
─今回の試験の標的はBクラスとCクラス。Bクラスには嫌がらせを、Cクラスには手厚い支援を。
有栖「スポーツマンシップに則り、正々堂々全力で4位を狙いにいきます」
桐葉「スポーツマンシップとは」
ちなみに桐葉君のパートナー申請は無事受理されました。当然ぶっちぎりで最速記録ですが、景品とかは特に貰えません。
【本編で紹介できなかったAクラス主要キャラのOAA】
橋本正義
学力……B+(80)
運動能力……B+(79)
機転思考力……B(71)
社会貢献性……B-(65)
総合……B(75)
有栖「全項目が高水準にまとまっていて、総合力も桐葉に次いでクラス2位と優秀ですが……」
桐葉「ぶっちゃけ器用貧乏だね。何の面白味も無いし、橋本にできることはクラスの他の誰かで代わりが効くことが多かったりする」
有栖「龍園君や堀北さんのクラスではきっと凄く重宝されたでしょうね」
神室真澄
学力……69(B)
運動能力……87(A)
機転思考力……50(C)
社会貢献性……57(C+)
総合……67(B)
有栖「評価点はやはり女子学年トップの運動能力でしょう。流石はゴリラウーマンさんといったところでしょうか」
桐葉「体育祭学年最優秀生徒は伊達じゃないって訳だ。それから学力も最初期はクラス最下位を争ってたのに、今じゃ真ん中より上まで伸ばしたのも素晴らしいね」
有栖「私が1年かけてストレ……つきっきりで勉強を教えた甲斐がありました」
桐葉「今ストレス解消って言いかけたよね?よね?」
ちなみに葛城君は桐葉君と関わりが薄いため、原作通りの数値です。