祝! 侍ジャパン世界一!
有給申請してまでテレビにかじりついて見届けた会がありました!
【さくらんぼの枝を舌で結べるか?(前編)】
①橋本の場合
橋本「……(モゴモゴモゴ…)……おっ、結べた結べた」
桐葉「おお。流石チャラ男、そつなくこなしたな」
橋本「チャラ男やめい」
成功(所要時間:3分)
評価:B+
②神室の場合
神室「……(モゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴ…)」
桐葉「マスミーン、そろそろ諦めたらー?」
神室「うっさい、今集中してるから話しかけんな」
桐葉(意外と負けず嫌いだねー……)
成功(所要時間:2時間36分)
評価:ギリC-
③鬼頭の場合
鬼頭「……(モゴモゴモゴモゴモゴモゴ…ブチッ!)っ!?」
桐葉「……ブチ?」
鬼頭「…………枝が千切れてしまった(ズーン…)」
桐葉(いや逆に凄くね?)
失敗
評価:E-(桐葉的にはA)
【side:桐葉】
昼休み、みんな大好きランチタイム……は一先ず置いといて、俺と有栖は屋上にてある人物の到来を待っていた。
これから行われる話し合いは今回の特別試験に深く関わる最重要機密事項のため、決して部外者(特にBクラス)に盗み聞きされる訳にはいかない。この見晴らしの良い場所なら俺の眼からは決して逃れられないので、こそこそ密談するにはうってつけのスポットだ。
……ただまあ漠然と待ってるだけじゃあ退屈なので、俺と有栖はブラインドチェスでもしながら時間を潰す。お互いがちゃんと頭で棋譜を思い描けないとゲームが成立しないが、馴れてしまえばボードも駒もいらないし便利なのでオススメだぜい☆
「b5にポーン」
「同じくb5、ナイトです」
「じゃあさらにb5に……おっ、来たみたいだよ」
ゲームも終盤に差し掛かった頃、カツンカツンと階段を上る音が2人聞こえてきたかと思えば、屋上のドアが開かれた。……いいタイミングで来てくれたね。割とピンチだったから助かったよ。
「来てくださったようですね、一之瀬さん。それに神崎君も」
「ザキちんに卍解ちゃんおひさー」
「お待たせ、坂柳さんと本条君」
俺達に向かって朗らかに笑いかける女子生徒……
ストロベリーブロンドのロングヘアをした、学年でも屈指の器量とわがままばでぃーの持ち主。OAAの評価は平凡な運動能力以外は高水準にまとまっており、特に社会貢献性はA+と俺にさえ匹敵する。困っている人がいれば迷わず手を差し伸べ、悲しんでいる人がいれば寄り添って共に心を痛めてあげられる、顔もスタイルも頭も性格も良いおおよそ非の打ち所の見当たらないCクラスのリーダーだ。
ちなみに俺の付けた彼女のアダ名、卍解ちゃんは「ストロベリーブロンドの髪→ストロベリー→苺→一護→ 卍 解 !」という連想ゲームにより生まれた傑作なのだが、何故か周りの反応は微妙。なんでや。
そして友好的な彼女とは対照的に警戒心を隠しもしない、やや癖のある薄紫色の髪をしたイケメンの男子生徒……
名実ともにBクラスのナンバー2だけど、去年は卍解ちゃんの方針を尊重して常に一歩引いた立ち位置にいたため、目に見える実績とかは特に残せていない。学年末試験で元Cクラスに敗北しBクラスの座を奪われたことで、今後は積極的に行動すると決意したらしいけど……。
「お時間は大丈夫でしたか? 何しろ急なお願いでしたので、断られることも覚悟の上でした」
「坂柳さんから連絡を貰えるとは思ってなくてびっくりしちゃったけど、全然大丈夫だよ」
有栖が彼女に送ったメールは、『今回の試験について重大な話があるので1人、もしくは一番信頼の置ける生徒と2人で屋上まで来てほしい』という内容だったので、ザキちんを連れて来たのはまあ予想通り……というか予想通り過ぎてつまんねーな。
「……それにしても、どうして急なお願いを受け入れてくれたのです?」
「とうしてって言われても、特に予定も無かったし─」
「いえ、そうではなく。私は以前貴方に対して少々酷いことをしてしまいましたので、嫌われていてもおかしくありませんから」
100パー演技だろうけど、気色悪いくらいしおらしい態度で卍ちゃんの様子を伺う有栖。……というか少々なんてマイルドな言い方をしたけど、卍解ちゃんの隠したがっていた秘密を学校中に拡散して精神的に追い詰めるのは控えめに言って下衆の極みだったよね。流石の桐葉君もちょっと引いちゃうぜ。
しかしながら驚くべきことに、問答無用でグーパンしてもギリ許されるんじゃないかってくらいには酷い目にあったにも関わらず、卍解ちゃんは別に有栖を恨んでいる訳じゃないみたいだね。心広ーい。
「私は坂柳さんが酷いことしたなんて思ってないよ。中学時代の過ちについては後悔してもし切れないけど、その秘密を誰にも話さないでってお願いしたわけでもないし、責任を向けるのは違うよ」
「……なるほど。やはり貴方は紛れもない善人のようですね。完全な善人などこの世にはいないという私の持論は、撤回するべきかもしれませんね」
「そだねー、爪の垢を煎じて有栖の血管に注射したくなるくらい人間できてるよ」
「せめて飲ませてください」
「前置きはそのくらいにして本題に入ってくれ。お前達の茶番に付き合っているほど俺達も暇ではない」
不機嫌さを隠しもせずザキちんがそう催促してくる。……まだまだ青いなあ。
「神崎君、そんな言い方─」
「いえ、彼の言う通り少々戯れが過ぎたようですね。本題は勿論今回の特別試験になります。……一之瀬さん、我々Aクラスと手を組みませんか?」
「え……?」
まるで想定していなかったのか、有栖の提案を聞いた卍解ちゃんは言葉を詰まらせる。一方ザキちんは不機嫌さをさらに表に出しながら一歩前に出る。……やれやれ、
「……話にならん、よもやふざけてるのか? 優先して蹴落とすべき相手と手を組んで何になる? ましてや去年あんなことをしておいて、よくそんな提案を─」
「はい、ザキちん
「─っ!?」
ザキちんの台詞を強引に遮りつつ、俺は親指と人差し指でピストルを作り彼の顔に突きつけバンッ☆と撃ち抜いた。
どうやら完全に虚を突かれてしまったらしく、ザキちんは思わず一歩後退してしまう。他の二人は俺の意図を察しているようで、卍解ちゃんは苦笑いしつつも気圧された様子はなく、有栖に至っては呆れたように溜め息をついている。
「卍解ちゃん本人が気にしてないと言ってるのに、わざわざ蒸し返してどうするのさ。ましてやクラスを代表してついた交渉のテーブルで、相手がしてきた提案の内容を聞き出しもせずに。上に立つ者はたとえ気に入らない相手だろうと、状況によっては手を組む柔軟な思考が求められるんだよ?」
「ぐっ……!」
「だいたいだね君、いつもは冷静沈着なのに今回は随分と噛みついてくるじゃあないか。攻撃的な態度は余裕の無さの裏返し。上に立つ者は決して弱味を見せてはならず、常に毅然とした振る舞いを求められるってのに君ときたらまったく……。君達Cクラスが今回の特別試験で相当手こずると俺達は予想をしてたんだけど、他でもない君がそれを断定させる裏付けになってしまったぜ?」
坂柳有栖、龍園翔、一之瀬帆波、堀北鈴音……それぞれのリーダーとしての在り方はまるで違うけど、少なくとも皆今のザキちんのように交渉を持ちかけてきた相手を感情的に拒絶したりはしない。
自クラスにもメリットはあるのか、手を取り合うべき理由があるのか、相手の狙いを看過したその上で上手いこと利用できるのか……それらを判断するためにも、取り敢えず相手の話を聞く姿勢を取るだろうね。
「卍解ちゃんの補佐に一年間甘んじた弊害かなー。駆け引きの土俵に上がるには減点要素が多過ぎて問題外だね。クラスのことを第一に考えるなら、この場は出しゃばらない方が良いんじゃない?」
「……っ!」
俺の戦力外通告にザキちんは悔しそうに歯噛みしつつも、聡明な彼は俺の忠告が的を射ていると判断したのか押し黙ってしまった。
駆け引きで優位に立とうとするなら彼を下がらせるのはぶっちゃけ悪手なんだけど、空回りし過ぎててなんか可哀想だったし仕方がない。それにまだ発展途上の子の芽を摘んじゃうのは人としてダメだよね、うん。
……そういうわけだから有栖、笑顔のまま無言で圧をかけてくるのヤメテ。邪魔しちゃってごめんよ悪気は無かったんだよマジでマジで。
「すみません二人とも。桐葉の奇行は発作のようなものですので、どうか流していただけますか」
「にゃはは、全然気にしてないよ。本条君の破天荒さは誰もが知ってることだしね。……それで、手を組みたいってのはどういうことなのかな? 坂柳さん達のクラスに追い付く機会をみすみす棒に振る訳だし、よほどの理由が無ければ協力するメリットは無いと思うんだけど」
ザキちんの言い分も決して的外れではない……とさりげなく彼へのフォローを忘れない、できる女卍解ちゃん。
2つのクラスが協力し優秀な1年生を囲い込むことができるなら、ワンツーフィニッシュもそう難しいことではないが、卍解ちゃん達が1位を取れたとしても俺達が2位ならクラスポイントはたった20しか縮められない。第一俺達Aクラスと彼女達Cクラスには結構な学力差があるので、下手をすればさらにリードを広げられるだけに終わる。
普通に考えればなるほど手を組む理由がまるで見当たらないが、想定していた通りの反応に有栖は薄く笑いながら首を振る。
「いえいえご心配なく。私達が手を組んだ上での最終目標はA、Cクラスのワンツーフィニッシュではなく、Cクラスの単独勝利、Aクラスの単独敗北です」
「……え? それってどういう─」
「今回の試験、私と桐葉を除くAクラス37名の生徒の指揮を、一之瀬さんに委ねたいと思います」
実情を知らない彼女等からすれば意味不明な提案を間髪入れず畳み掛ける有栖に、卍解ちゃんもザキちんも圧倒され口を挟めない。
「神崎君の余裕の無さからして、どうやら現状では今回の試験で勝つビジョンが見えないご様子。少々勝手な予想を述べさせて頂きますが、その理由は大きく分けて2つあると考えました」
「2つ……?」
「ええ。その1つは一之瀬さんが今回の試験で優先することはおそらく、クラスメイトから退学者を出さないことと、特別試験に戸惑う新入生の救済でしょう」
一年の三学期、学年末特別試験の直前に月城理事長代理が清隆君を退学させるため強引にねじ込んだ、『クラス内投票』という特別試験があった。クラスの中から誰を退学させるかを投票で決めるという非常に不誠実な試験だったのだが、卍解ちゃん達は2000万ポイントと引き換えに誰も退学させることなく試験を乗り切った。そんな彼女らがクラスメイトの誰かが退学になることを許容する筈もない。
そして1年生についてだけど、まだ入学して間もない彼等の中にはいきなり上級生とペアを組まされることを不安に思う子も決して少なくない筈。そんな彼等が退学のリスクが無いとはいえ決して軽くないペナルティに怯えているなら、進んで手を差し伸べるのが一之瀬帆波という女である。
「……どうしてそう思ったのかな?」
「貴女が一之瀬さんだからです。私のよく知る貴女は、困っている人を見て見ぬフリをするような方ではありません」
「んー……そうとは限らないよ? 私達はCクラスに落ちたせいで余裕を無くしてるし、クラスメイトならまだしも特に面識の無い1年生を助けてる暇は無いんじゃないかな?」
「ふむ、一理ありますね。……ところで桐葉」
「はい嘘ー。どうやら卍解ちゃんは、学力に不安を抱える1年生をクラスぐるみで助ける気満々みたい」
「むぅ……坂柳さん、そこで本条君に頼るのはちょっとズルいんじゃないかな?」
「私は使えるものは使う主義ですので」
眼に関する全ての機能が異常に発達した俺は呼吸、心拍、汗、意識の波長、筋肉の収縮等の些細な変化から、嘘や隠し事を意のままに見抜くことができる。なので「二足歩行する嘘発見機」、「歩くプライバシーの侵害」なんて不本意な称号を頂戴しちゃってるんだなこれが。交渉のテーブルにみすみす俺を参加させちゃった彼女の判断ミスだね、間違いない。
「話を戻しますが、学力に不安を抱える生徒の救済については、私達Aクラスが全て引き受けましょう。学力C評価の生徒を学力Eの1年生と組ませて退学のリスクを背負わせる……なんて理不尽な組み合わせでない限り、私のクラスのペア決めは一之瀬さん達の自由に決めていただいて構いません。一方学力平均では私達に次ぐ一之瀬さんのクラスの生徒と有望な1年生を組ませていけば、十分1位を狙えるでしょうね」
そしてポンコツ軍団と組まされる2年Aクラスは一気に最下位候補にまで成り下がる。……これまでの特別試験の積み重ねでできてしまった大量のリードを、どうにかして縮めたい彼女らにしては願ってもないだろう。
「……手を組む以前にそれでは、俺達にしかメリットが無い。いったい何を企んでいる?」
「今回の提案に大した理由は何もありません。……これまで私と桐葉は幾度となくテストで競い合って来ましたが、結果は全て両者満点の同率1位でした。しかし今回の試験は過去に類を見ない難易度で、満点を取ることは不可能とお聞きしました。私と桐葉の決着を付けるまたとない機会ですので、正直クラスの指揮なんて取っている暇はありません」
「あ、あはは……」
個人的な勝負の為にクラス争いなんて平気で投げ出すなどと宣った有栖に対し、卍解ちゃんも思わず顔を引きつらせて苦笑い。
「……まだ解せないな。お前達Aクラスは学力においても4クラスの中で抜きん出ている。各々が勝手に行動しようが最下位になることはおそらく無い。だというのに何故指揮を一之瀬に任せる」
「神崎君の言う通り、確かに私のクラスの総合的な学力を考えれば、何の戦略も無しに試験に臨んでもおそらく最下位にはなりません……が、流石に1位は難しいでしょう。そこで龍園君達や堀北さん達にみすみす勝たせるくらいなら、いっそのこと一之瀬さん達が勝てるよう全力で力を貸そうと思いまして」
「……手放しに喜べない提案だね。それってつまり、警戒するに値しない私達が1位を取った方が好都合だってことだよね?」
「遠慮なく申し上げるなら、その通りです」
悔しそうにこちらを睨むザキちんとは対照的に、卍解ちゃんは笑顔のまま冷静さを保っている。しかしそれはあくまで表面上だけの話であり、内心では強い焦燥に駆られていることを俺の眼は見抜いた。
少々博打要素が強いものの、常に常識に囚われない戦術で向かってくる龍園クラス。劣等生の割合が多いものの、六助に清隆と俺と同等もしくはそれ以上の怪物を2枚も抱えている堀北クラス。
この2クラスに比べて卍解ちゃん達一之瀬クラスは正直物足りない相手だ。正攻法でしか戦わないのに、俺に対抗できる程の突出した人材が1人もいない。現状では俺達坂柳クラスへの勝率は限りなく0に近いだろう。卍解ちゃんは頭が良いのできっとそんなことは薄々察しているんだろうけど、クラスのことを想うあまりそれを直視できないでいる。
「次に、2つ目の理由ですが─」
「……これにて交渉成立ですね、私の提案を飲んでいただき感謝致します。それでは彼等のことをお任せします」
「うん、わかったよ。ここまで全面的に手を貸してもらうからには、絶対にAクラスからも退学者を出させないから安心してね」
「フフ、その点は何ら心配していませんよ」
所要時間およそ10分。
最終的に卍解ちゃんは有栖の提案を飲んだことで、「A、C協同によるCクラス圧勝大☆作☆戦」は可決された。
試験期間中俺と有栖を除く37名は、1年生を救済しつつ卍解ちゃん達Cクラスが1位を取れるよう全面的にバックアップをすることになる。
「ところで坂柳さん、私達は今日の放課後に体育館で1年生と2年生の交流会を開く予定なんだけど、Aクラスの皆もそれに参加してもらっていいのかな?」
「勿論構いませんし、特別試験期間中Aクラスは一之瀬さんの指揮下にあるので、いちいち私に伺い立てる必要はありませんよ」
「そう言われたらそうなんだけど一応、ね」
…………ふむ。体育館で交友会、交友会か……
よし、こうしちゃいられねぇ!
「有栖、卍解ちゃん、ザキちん、ちょっと急用が出来たから先に行くわ!」
「えっ。あの桐葉、いったい何を─」
有栖が咄嗟に制止するのが聞こえたが、今は時間が惜しいので聞こえない振りをする。一刻も早く真嶋先生に申請を出して許可を貰わなければならないからね。
待っててね新入生達……少し遅くなったが入学祝い代わりに、とっておきのサプライズをお届けするよ。
……俺の出した申請を受理した真嶋先生には、何故か呆れたように嘆息された。なんでや。
有栖ちゃん、Cクラスに落ちて窮地に立たされている一ノ瀬さん達を全力でバックアップする模様。具体的な戦略についてはまた後ほど。
しかし今回神崎君良いとこねーなー……。2年生編9巻にて「有能そうに見えるけど実はそうでも無い人」というイメージが私の中で定着してしまった弊害です。
そして次回いよいよ1年生達との触れ合い会ですが、桐葉君はまたよからぬことを考えているようですね。