女王の女王─2年生編─   作:アスランLS

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ちょっと切りどころが中々見つからず、いつもより長くなっちゃいました。あと桐葉君のペア相手がいよいよ登場です。



秀司と一夏

 

【side:桐葉】

 

「宝泉和臣君、ですか」

「へえ、今年の1-Dにはそんなやんちゃ君がいるんだ」

「や、やんちゃ君って……とてもそんな可愛いげのある感じではありませんでしたよ? なんでもあのDクラスの三宅君が通っていた中学の、えっと、番長格さんを病院送りにしたとか……」

「このご時世に番長なんてのがまだ生き残っていたことの方が驚きだね」

「確かに最近聞きませんね」

 

 放課後になりクラスメイト達がぞろぞろと教室を出ていく中、俺と有栖はミキティに昼休みの1年生カチコミ事件の詳細を聞いている。時期が時期だし、目的は当然特別試験関連なんだろうけど……カメラのある場所でケン坊(須藤健)を突き飛ばし、フッキーちゃん(伊吹澪)を締め上げ、挙げ句の果てにリュンケル(龍園翔)とドンパチまでやらかしかけたって? 

 Dクラスに配属された奴に相応しい短絡的な振る舞いと言えばそれまでだけど、1年生は俺達よりもSシステムについて詳しく教えられている筈なのにその暴挙……なーんか少しだけ引っかかるなあ。 

 

「…………」

 

 有栖も同じ違和感を感じたようで顎に手を当てて何かを考えこんでいるが、どうやら俺と同じくその違和感の正体は掴めないでいるようだ。一応思い当たることはあるけど憶測の域は出ない。俺達の察しが悪いと言うよりは、何か決定的なピースが欠けていて現状では答えに決して辿り着けない……そんな感じがする。

 

「……まあ今は静観しておきましょう。それにしても、桐花さんは以前と変わらず勇猛果敢ですね」

「無鉄砲、とも言うけどねー。こうと決めたらすぐ考え無しに突っ込んで行っちゃうんだから。お兄ちゃんすっごく心配」

「行き当たりばったりなのは貴方も人のこと言えないでしょうに」

「おっとこいつは一本取られたぜHAHAHA」

 

 ふーむ、そう考えると俺達って意外と似た者同士かもしれないね。ただまあ相違点を上げるなら、同じ行き当たりばったりでも飽き性故にそのときの気分次第で好き放題方針を変える俺に対し、桐花ちゃんは一度やると決めたことは絶対にやり遂げる。その宝泉君とやらがあの子に目をつけられたんだとしたら、彼が根負けするまでこの先会うたびに噛みつかれ続けるだろうね。可哀想に。

 

「情報提供ご苦労様です。今後も頼りにしていますね山村さん」

「は、はい……!」

 

 有栖からの労いの言葉に、有栖に心酔してるミキティは感極まった表情のまま教室から出ていった。

 以前までうちのクラスの情報収集係は橋本で、勿論今でもあいつは自発的にそれを行ってはいる。しかし彼の学年屈指の胡散臭さと去年のちょっとしたやらかし(元凶は有栖と清隆君だけど)のせいで、各クラスの主要人物からやたら警戒されていて正直適任とは言い難くなっている。

 そこで活躍が期待できるのがミキティだ。橋本が大手を振って情報収集に勤しみ、各クラスが彼を警戒している隙にミキティが情報を気づかれることなく盗み出す。さっきミキティは三宅君が宝泉君の過去について話していたと言っていけど、とうの三宅君は自分が喋ったことをミキティに聞かれていたことすら気づいてないだろうね。

 総括すると、ミキティの情報収集能力はクラスでも随一。OAAの評価はクラスで一番下だけど、俺の次に有栖が頼りにしている立派な主戦力だね。

 ……それにしても、だ。有栖に惚れちゃってる俺にとやかく言う資格は無いけどさ、いったいこのサド幼女のどこに心酔する要素があるのかな? そして有栖、笑顔のまま俺の足の甲に杖を食い込ませるんじゃない地味に痛いんだよ。エスパーに目覚める程幼女扱いが嫌か。

 

「さて、それでは私も失礼しますね。また明日学校でお会いしましょう」

「ほーい、しーゆーねくすとたいむ。マスミンとファルコンもまたねー」

「ああ」

「ん」

 

 俺へのちょっとしたお仕置きを済ませて溜飲を下げた有栖は、護衛役としてマスミンとファルコンを連れて教室を後にした。

 どうせ引き分けで終わるだろうな……と正直高を括っていたこれまでの学力試験試験と違い、今回の特別試験は俺と有栖の優劣がはっきりついてしまう。俺達はお互いを蹴落とし合う敵同士となるので、淋しいけど試験が終わるそのときまでベタベタと馴れ合う訳にはいかない。マジで淋しいけど。ああ淋しいいぃぃぃ……。

 

「……おっと。そういやペア組んだ子とまだ顔合わせもできてないや」

 

 どうせ今日はもうあと1時間57分しか学習に取り組める時間残ってないし、可愛い後輩達と親睦を深めにいきますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、本条先輩こんちわっす。わざわざ1年フロアに来るなんてどうしたんすか?」

「やあ高橋君、交友会以来だね。松任谷君いるー?」

 

 去年俺達が苦楽を共にした教室まで向かうと、先日仲良くなった高橋 修(たかはし おさむ)君に声をかけられたので、こちらの用件を簡潔に伝える。

 

「秀司? まだ教室にいますけど、あいつに何か用事っすか?」

「大した用じゃないんだけど、ペア組んだ相手とまだ顔合わせすらしてないのはちょっとどうかと思ってさ」

「えっ、ちょっ……秀司のペア相手って本条先輩なんすか!?」

「そだよー。知らなかったの?」

「マ、マジすか……だからあいつ試験説明中に『11万ゲットや』とか呟きながらガッツポーズしてたのか……!」

「ふむふむ、自分に素直な子なようだね」

 

 まあ学力A-の彼と学力カンストの俺が組めば、まず間違いなく上位5名に食い込めるだろうから、そのリアクションは何ら間違ってはいない。

 

「ちょっと待っててくださいね。……おーい秀司ー! お前とペア組んだ先輩がわざわざ来てくれてるぞー!」

 

 高橋君は元気良く教室に入っていき、1~2分してから入れ替わるように1人の男子生徒がのそのそと教室から出てきた。その男子生徒を一言で言い表すなら、そうだね……

 

「この世ならざる美」辺りが適切かな。

 

 絹のように滑らかなアッシュグレーのウルフカット。隅々までダイヤモンドで研磨したかのような艶のある肌。整い過ぎて逆に不気味なくらい整った顔の造形。そして青、緑、オレンジが絶妙なバランスで入り交じった、アースアイと称される幻想的な瞳。

 2年にも司城や里中、平田君とすっごいイケメンはいるけど、その3人でも()()と比較すれば没個性のエキストラに成り下がってしまう程の、比類なき容姿の持ち主だ。美しさは罪……だなんて言い回しをどこかの誰かがしていた気がするけど、その理論に則るならこの子は間違いなく極刑ものだ。控訴どころか弁護する権利すら与えられないだろう。生まれる時代が違えば冗談抜きで、この子1人を巡る争いで一国が傾いていたかもしれない。

 

「あー……お待たせしてしもてえろうすんませんな。わざわざご足労頂いてどうされたんすか?」

 

 どこか気だるげな話し方をするが、そんないかにもかったるそうな態度でも絵になってしまってるのだから始末に負えない。ほら、この子のせいて周りの1年(主に女の子の)の注目も浴びちゃってるよ俺達。半分位は俺に視線を向けてる気もするけど気のせいだということにしておくので、100%この子の責任だ間違いない。

 

「いや特に用事は無いんだけど、ペアを組んだ以上ちゃんと親睦深めとかなきゃなって思い立ってね」

「あーそうなんすか……いや、本来後輩の自分から顔出さなアカンのに、重ね重ねえらいすんません」

 

 ふむふむ、とりあえず物凄く図太い子だってことはわかった。口ではこう言ってるけど内心では欠片も申し訳なく思ってない……どころか俺がこうして会いに来たことも正直面倒に思ってるようだ。中々愉快な子だね。

 

「とりあえず自己紹介から始めよっか。2年Aクラスの本条桐葉でーす。本日の座右の銘は『盗んだバイクでGO!バイク王!』かな」

「それただの無法者ですやん……それに本日のって、座右の銘ってそんなころころ変えるもんちゃいますやろ……」

 

 お、流石関西弁なだけあってツッコミが的確だね。

 

「あー……自分は1年Aクラスの松任谷 秀司(まつとうや しゅうじ)っす。こんな名字ですけど親は別に歌手ちゃいますので悪しからず」

 

 うん、まあ松任谷と聞けば日本人の大半はあの国民的歌手を思い浮かべるよね。滅多にいない名字だし。

 

「だけどまあ、君の常識外れのルックスのせいもあるんじゃない? こうして実物を拝んでみれば、そこらの芸能人じゃ太刀打ちできない程オーラが凄いし。うわー眩しすぎて直視できないや」

「いやいやいや、オーラがどうとか本条先輩だけには言われたないですわ……もう先輩のこと知らん1年おらん思いますよ?」

「まあ盛大にやっちゃったからねえ。思い付きにしては中々いい感じの結果に……おや?」

 

 OAAの全体チャットに1年Aクラスの天沢 一夏(あまさわ いちか)ちゃんが書き込みをしたらしい。その内容はケン坊とリアルファイトで戦う相手募集中とのこと。……いや、どゆこと? 

 

「ねえ松任谷君。天沢ちゃんはどういう意図でこんなストリートファイター風味な募集かけたんだろうね?」

「……さあ? 天沢さんは一匹狼気質と言いますか、クラスでも若干浮いとりますので俺もようわかんないっすわ」

 

 ……ほほう? 

 

「まあいいや。興が乗ったしエントリーしてみよっと」

 

 天沢ちゃんに参加表明のダイレクトメールを送り、どこへ向かえばいいか返信を待つ。

 

「そんなんに参加して大丈夫なんすか?」

「おや、心配してくれるんだ? 大丈夫大丈夫、俺こう見えて意外と結構強いんだよ?」

「いや見たまんま強そうに見えますけど。運動能力もカンストしてはるし……そうやなくて、この学校暴力とかそういうのあんま大っぴらにやんのアカンのとちゃいます? クラスポイント減らされますよ」

「ああ平気平気。ケン坊を怪我させずに無力化するなんて、赤子の手を蝶々結びにするようなもんだし」

「それただの虐待ですやん……」

 

 おっ、返信きた。指定された場所はっと……ああ、以前Cクラスの荒くれ軍団が六助に絡んでた公園の付近か。確かにあそこなら監視カメラも無いし、試験期間中故に人気も少ないから喧嘩するには持ってこいの場所だね。

 

「それじゃあねシューちゃん、試験当日はお互いベストを尽くして頑張ろう!」

「ええ、わかっとりま─シューちゃん!?」

 

 おっ、やっとダウナー状態以外のリアクションを見せたね。テンション上げたら死ぬ病気にでもかかってるのかと思ったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼ばれて飛び出てピラリラリーン☆生粋のファンタジスタ本条桐葉、ただ今参上!」

「本条センパイこーんにちわ」

「うわ、来やがったよ……」

「来なくていいのに……」

「わーお清々しいほど塩対応」

 

 指定された公園付近に向かうとケン坊、ホリリン、清隆君、そして赤髪ツインテールの女の子……天沢ちゃんがいた。

 ふむふむ……相変わらず無表情の清隆君は置いとくにしても、ケン坊とホリリンが俺の参戦を凄く嫌そうにしてるってことは、リアルファイトでケン坊が負けることを好ましく思ってないってことになる。俺の記憶が確かなら天沢ちゃんの学力は確かAだったので、おそらくホリリンはケン坊と組ませて彼を安全圏に置きたがっている筈だよね。

 つまりあの対戦相手募集のメッセージは、ケン坊と組む条件として天沢ちゃんが持ちかけた提案だと推察できる……けど念のため本人に裏付けを取っとくか。

 

「天沢上等兵、状況を簡潔に説明したまえ!」

「イエッサー本条軍曹! 腕っぷしの強い人が好みなあたしは須藤先輩とペアを組む条件として対戦相手を募集したところ、あまりにもガチな相手が来てしまい堀北先輩達はテンションがダダ下がりしているという訳であります!」

「お前らなんでそんな息ぴったりなんだよ!?」

 

 ちょっとした思いつきで軍隊式で現状の説明を要求したところ、天沢ちゃんはノリノリで敬礼しながら返答してきた。うんうん、そういう子嫌いじゃないよ。そしてやはり推察した通りだったか。

 

「ええと、あなた達って顔見知りなの?」

「いや全然? 面識もゼロだね」

「うん、今初めて会ったばかりだよ。流石に本条センパイの噂くらいは聞いたことあるけど」

「その割には随分と打ち解けてるように見えたがな」

「そこはまあ、コミュ力の為せる業ということで」

 

 初対面だからって連帯感を高められないようでは、ましてやよそよそしい態度で接して気まずくなるようでは機転思考力A評価が廃るってもんだよ。

 

「それじゃあ俺も暇じゃないからさっさと始めよっか。かかっておいでケン坊」

「ほ、本当にやるのかよ?」

「安心してよ、利き腕は勘弁してあげるから」

「利き腕じゃない方に何するつもりだ!?」

「いいからかかって来なさい、遅延行為はマナー悪いよ」

「ぐっ……腹括るしかねぇのか……!?」

「はいストーップ、戦いは中止ー」

 

 血で血を争う戦いのゴングが鳴ろうとしたそのとき、天沢ちゃんが俺達の間に割って入った。せっかく新しく身に付けたワイヤー術を試せるチャンスだったのに水差さないでよもう。

 

「な、なんで止めるんだよ!?」

「えー? 止めなくてよかったの?」

「うっ、いや、それはだな……」

「いくら須藤先輩が自分の強さに自信あるからって、空手インターハイチャンピオン相手はちょっと無謀なんじゃないかな?」

 

 ああ、そういや去年そんなこともやったっけ。チカちゃん先輩元気でやってるかなあ? ……チカちゃん、か。この子の下の名前って確かいちか、だったよね? よし、この子のあだ名はチカちゃん(二世)に決定! 

 

「う、うるせぇ! んなもんやってみなきゃ─」

「ほほう?」

「─わかるような、わからねぇような……」

 

どっちだよ。

 

「まあまあ、代わりにチャンスをあげるからさ」

「チャンス、ですって?」

「あたしは強い男の人だけじゃなく、料理が出来る男の人も好きなんだよね」

 

 へえ……つまり理想のタイプはサンジ君か。中々良い趣味してるねこの後輩。

 

「須藤先輩だっけ、あたしに手料理振る舞ってくれる? とびっきり美味しいの」

「て、ててててりょうりぃっ!?」

 

 狼狽え過ぎでしょケン坊。いやまあ君が出来る料理なんてせいぜいカップ麺くらいだろうけど。

 

「美味しいのは当然として、あたしがリクエストした料理を作ってもらうよ」

「いや待て待ってくれ! 俺料理なんて1回もしたことねぇし!」

 

 ケン坊さては混合合宿のときの朝食当番、何かしら理由つけてサボってやがったな。

 

「えー? じゃあチャンスは撤回かなあ」

「代わりに私が作るというのはどうかしら?」

「はいダメー。料理ができる()の人が好きって言ったでしょ? それに組む相手が料理出来る人じゃないと意味無いじゃない。他の男の人に代役を頼むのはアリだけど、須藤先輩とは組まないよ。だったら須藤先輩を今から料理の達人に仕上げてみる? でもあまりもたもたしてると他の人とパートナー組んじゃうかもね」

 

 小悪魔のように笑いながら捲し立てるチカちゃんⅡの表情は、とてもとても愉悦に満ちていた。なるほど、この子たぶん有栖と同じカテゴリーに属する人種だね。

 しかしホリリン達も幾多の修羅場を潜ってきた猛者達なので、ただ振り回されるばかりではない。天沢の要求に従うことで得られるメリットより、その間に他の生徒にアプローチできなくなるリスクの方が大きいと判断し始めている。

 

「わかった、じゃあ特別サービス。あたしの舌を満足させたら、須藤先輩と組んであげる」

 

 そういう空気を察したのかチカちゃんⅡはちょっとした譲歩を提案した。ふむ、引き際もちゃんとしているようだね。

 そしてそれを聞いたホリリンは、何故か清隆君の方を向く。

 

「綾小路君。確か前に料理が得意だって私に自慢してたわよね?」

 

 なんだろう、無表情の筈の清隆君から「初耳なんだが……」って心の声が聞こえてくるようだ。……が、面白そうなので敢えて乗っかっておくぜい☆

 

「ああ、料理は唯一の得意分野だ」

「そうだね、彼の作るオルトラーナは絶品だよ」

「な、なんだその大魔王みたいなヤツは……?」

「オルゴ・デミーラは関係無いよ」

 

 ちなみにオルトラーナは野菜をふんだんに使ったピザ、もしくはパスタのこと。以前有栖に振る舞ったところ、とても美味しそうに食べてたなあ。

 その後の取り決めで、明日の放課後に料理を振る舞うことと、その直前にケヤキモールにてチカちゃんⅡと清隆君が二人だけで食材の買い出しを行うことが決まった。

 

「それじゃあまた明日、ばいばーい」

 

 満足そうに階段を下りていくチカちゃんⅡを見届けた後、流れからしておそらくは大した料理スキルを持っていない清隆君がホリリンに向き直る。

 

「なあ堀北、わかってるだろうが─」

「黙ってて。何とか作戦考えるから」

 

 ああ、やっぱり窮地に立たされてるんだ。料理の練習しようにもたった1日じゃできることは限られているし、何を作るのか当日までわからないとなると事前にその料理を練習することもできない。

 というかチカちゃんⅡがチョイスした料理次第では作り方すらわからずゲームオーバーという可能性も……まったくホワイトルームとやらも天才がどうとか言う前に、料理の1つくらい教えといてあげなよ。

 ……しかしまあこうして関わっておいて何もせず帰るってのも、何だか時間を無駄にしたようでちょっと癪だよね。そこで俺は懐から数個のUSBメモリ取り出しホリリンに手渡した。

 

「ホリリン、これ貸したげるよ」

「USBメモリ……?」

「その中には俺が考案した、和洋中様々な分野の料理のレシピのデータが入ってる。有効に使えばあの子の舌を満足させるのは容易いだろうね」

「っ……!」

「あ、借りパクせず後日にはちゃんと返してね」

 

 俺の食生活は栄養バランスのみを優先した無機質なものだけど、誰かに食べさせるならそんな無粋なものを出すわけにはいかない。だから多種多様の料理を作れるようにレパートリーは増やすだけ増やしてあるのだ。

 ちなみにレシピは全て頭の中に入っているから俺はもう必要の無いものだけど、花嫁修行を控えた桐花ちゃんに渡す予定があるからね。

 

「どういうつもり? 何故あなたが私達に塩を送るような真似をするのかしら?」

「ありゃ、要らなかった?」

「誰も要らないとは言ってないわ。ありがたく使わせてもらうわね」

 

 返してもらおうと手を伸ばしたが、ホリリンは光の次くらいの速さでUSBをポケットにしまいこんだ。随分と強かになったね君も。

 

「それで、君達に手を貸す理由だっけ。いやまあ特には無いんだけど強いて言うなら、学力Aの1年をリュンケル達に持ってかれるくらいなら君達に渡った方が都合がいいからかな?」

 

 今回の特別試験で俺達Aクラスは卍解ちゃん達Cクラスを勝たせるように動いているが、彼女らとトップを争う対抗馬はリュンケル達Bクラスのみだろう。

 Dクラスはただでさえ最下位クラスなので総合的な学力も後輩に対するブランド力が低いし、さらに財力も乏しいから1年生をポイントで釣ることも難しい。

 俺達が全力で勝負を捨てているのでたぶん最下位にはならないだろうけど、トップ争いに食い込めはしない。

 

「……1年生達に聞いたところ、CクラスとBクラスはプライベートポイントを用いて優秀な1年生を奪い合ってるそうよ」

「へえ、そうなんだ。まあ手っ取り早く人材を確保するなら出すもん出すのが一番お手軽だし、そう不自然なことでもないんじゃない?」

「いいえ、Cクラスがマネーゲームに参戦したのは不自然よ。あのクラスはこの前のクラス内投票で退学者を回避した代償に、プライベートポイントが枯渇していた筈。1年生の興味を引くだけのポイントを用意できるとは思えないわ」

「ふむふむ、確かにそうだね。でもだからって嘘の報酬をちらつかせて可愛い後輩達を騙すような真似は、卍解ちゃんが承認する筈無いよねえ。となると、Cクラスにスポンサーがついたと考えるのが妥当かな?」

「ええ、そうなるわね。……話は変わるけど、あなた達Aクラスは学力に不安を抱える生徒を優先して確保してるそうね」

「そだね」

「それに以前一之瀬さんの件でAクラスとCクラスの仲は決して良くない筈なのに、昨日何故か共同で交友会を開いてたわね」

「うん」

「……単刀直入に聞くわ。Cクラスに資金援助したのはあなた達Aクラスね?」

「ピンポンパンポン大正解~♪」

 

 特に否定する理由も無いのでパチパチと拍手しながらホリリンを褒め称える。……今の時点で去年の5月頃と比べれば随分と進歩したと言えるけど、クラスのリーダーとして俺達と戦っていくならここからご重要だよホリリン。

 

「それでホリリン、得られるクラスポイントを放棄してまでCクラスの支援をする理由は何だと思う? 君の率直な予想が聞きたいなー」

「……あなた達Aクラスがされて一番困ることは、おそらく他の三クラスが手を結ぶことでしょうね。それを防ぐために坂柳はさんはCクラスを懐柔しにかかったのかしら?」

「うん、3分の1正解。中々悪くない予想だね」

「……残る3分の2は何なの?」

「簡単に答えを聞こうとしないの。後日USB取りに来るから、そのときまでにちゃんと考えといてね。それじゃアディオス☆」 

 

 赤いガーベラの花束(花言葉:チャレンジ、神秘の愛)を放り散らして彼女等の意識をそれに誘導しつつ、俺は消えるようにその場を後にした。

 ……それにしても、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 清隆君といいチカちゃんⅡといいシューちゃんといい……()()()()()()()ってのは美形でないと入れないのかな?




本作品三人目のオリキャラ、超絶イケメン松任谷君。空前絶後の美形です。クトゥルフステータスで表すとAPP21くらいあります。
原作にはいなかった新たなホワイトルームの刺客が桐葉君に牙を剥く……前に何故か秒でバレちゃった模様。ついでに天沢さんも。
素性を隠していたり何かしら企んでいる人は、エンカウントするだけでほぼアウト。とんだ理不尽ギミックがあったものです。












【学生データベース】

松任谷秀司
クラス:1年Aクラス
誕生日:7月1日
身長:172㎝
体重:67㎏
特技:いつでもどこでも眠れる
趣味:食べ歩き
好きなもの:人のお金で食べるご飯
苦手なこと:面倒ごと
将来の夢:できるだけ楽して程ほどに幸せな人生を送りたい
座右の銘:人は人、自分は自分

学力……A-(85)
運動能力……A-(83)
機転思考力……C(46)
社会貢献性……D(34)
総合……B(66)



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