「こちらが最終試験会場です。」と通された部屋に入ると、そこには今までの試験官の方々にサングラスにスーツを着た方が10人ほど、そして中央に布がかけられたホワイトボードがある広い部屋だった。
そこにネテロ会長が現れ、ホワイトボードの横に立つ。
受験生の姿を確認した後、咳払いし
「最終試験は1対1のトーナメント形式で行う。」
とネテロ会長はかけられた布を外した。
ホワイトボードには自分達の受験番号が並び、頂点には一本の線。つまり、(合格者は一名だけか…!)無意識に肩に力が入り拳を握りしめる。
「さて、最終試験のクリア条件だが…至って明確。"たった一勝"で合格である!!」
ネテロ会長の言葉に自分の耳を疑ったが、
「つまりこのトーナメントは勝った者が次々と抜けていき、敗けた者が上に上がっていくシステムじゃ。この表の頂点は不合格を意味するわけだ。」
(聞き間違いじゃなかった。なら不合格は1名。8人は合格できる…!)全身から余分な力が抜けた。
「誰にでも2回以上の勝つチャンスもある。…ここまでで何か質問あるかね?」
その言葉にスっとキルアくんが手を挙げ、
「組み合わせが公平に見えないんだけど。」と言った。
ネテロ会長は「当然の疑問じゃな。」と頷き話を続ける。
「この取り組みは今まで行われた試験の成績を元に決められている。簡単に言えば、成績がいい者にはチャンスが多くある、ということかの。」
「…それって納得出来ないな。もっと詳しく点数の付け方とか教えてよ。」
さらにキルアくんが質問すると、ネテロ会長は胸元で人差し指をクロスさせ
✕の形をとりながら「ダメじゃ。教えられーん。」と言った。
しかしその後、ネテロ会長は左手を腰に当て右手は顎を触り唸り始めた。そして
「…極秘事項だから全ては言えんが、まぁ…やり方ぐらいならいいかの。まず、審査基準。これは大きく3つ。"身体能力値"、"精神能力値"、そして"印象値"これらから成る。身体能力値、精神能力値はその名の通りじゃ。深い意味はないしあくまで参考程度でもある。…重要なのは、印象値!これは即ち前に挙げた値ではない"何か"!」
そう言ってネテロ会長はチラリと僕を見てきた。(やっぱりあの試合見てたんだ…!)
「それと飛行船で聞いた主らの話と吟味した結果じゃ。話は以上。説明を続けるかの。」
「戦い方も単純明快。武器OK、反則なし、ただ相手の口から『参った』と言わせれれば勝ちじゃ。ただし、相手を死に至らしめたり委員会の者の忠告を無視した者は即失格!その時点で残りの者は合格、試験は終了じゃ。よいな。」
その言葉を最後にネテロ会長はホワイトボードから離れ、黒スーツの委員会の人達が僕達を部屋の端へ移動するように促してきた。
中央が空き、そこへ一人の委員会の人が
「それでは最終試験を開始する!!第1試合、ハンゾー選手対ゴン選手!こちらへ。」と手招きをした。言われた二人は中央で対峙する。
「私は立会人を勤めさせて頂きます、マスタと申します。よろしく。さて準備は宜しいですか?」
(ハンゾーって呼ばれた人、あの人2次試験でスシを知ってた人だ。)
そのハンゾーさんが立会人に指を指し、
「聞きたい事がある。勝つ条件は『参った』と言わせるしかないんだな?気絶させてもカウントは取らないしTKOもなし。」と確認をした。
立会人はそれに肯定した。(なるほど、それは厄介だな…。)
そして勝利条件を理解した僕が想像し得る一番最悪の展開、それは現実となって僕の目の前に突きつけられた。
***
立会人の「それでは、始め!」という合図とともにゴンくんは素早く距離を置く、が…ハンゾーさんはそれを上回るスピードで追いつき、肘打ちでもってゴンくんを戦闘不能にさせた。普通の試合ならばこれで勝敗が決まるが、この試合では"決まらない"。それからハンゾーさんによる絶妙に急所を外した攻撃とそれに耐え続けるゴンくんの泥試合、もとい僕が一番考えたくなかった試合が繰り広げられた。
・
・
・
*
死や気絶になるほどではない攻撃は、死や気絶よりもつらい。むしろ気絶した方が楽だ。
狂えないから。
耐えなくていいから。
何も考えなくていいから。
…僕は
ああ、遠くから声が聞こえる。
「一体一の勝負に他者は入れません。仮にこの状況でレオリオ選手が手を出した場合、貴方が失格になりますよ。」
つまり、見続けなければならない。?
耐えなければならない。?
動いてはいけない。?
手を出してはいけない。?
…………………………………どのくらい経ったのだろう。
ずっと打撃のみだったハンゾーさんが、
遂に意志の固いゴンくんに「腕を折る。」と慈悲を無くすという最終警告をした。
それでもゴンくんは…
「いやだ!!」
「やめ…」
「「ッア゙ア゙!!!!!!!!!!!」」
僕の言葉も想いも虚しく、そして一番馴染みのあって、一番聞きたくない、嫌な耳障りの音が体中に、辺りに、響き渡った。
***
ゴンくんは青ざめ、汗が吹き出し苦悶の表情のまま静かに痛みに耐えていた。
僕はその様子の理解と思考とは別に、脳内で呪詛のように数字の羅列がずっと繰り返し響いていた。
(失格者は1人だけ、手を出したら僕が失格者。元の世界に戻れない…?いや、違う。僕がハンターになるのはあくまで確証がある情報を入手できるからだ。無くても不確かな情報ならある。それを虱潰しに見ていけば…膨大だって分かってる。でもこのままじゃ
僕の脳内にまだ、試験会場にもついていない時のゴンくんの言葉が蘇る。
『もし本当に大切な二人の内1人しか助けられない場合に出会ったらどうする?__どちらを選んでも本当の正解じゃないけれど、どちらか必ず選ばなくちゃならない時いつか来るかもしれないんだ。』
(…
僕は一歩前に出る。視界の隅から僕を抑えようと委員会の人達が走ってくる。僕は気にせずもう一歩前に足を踏み出そうとすると中央から、ゴンくんが
「カネキさん。オレは、大丈夫だから」
と僕の内側を全て見透かすようにまっすぐ僕を見つめ優しく微笑んでいた。それは、まるで…
「ヒ、デ…」
ゴンくんはボロボロで状況だって何も変わってないのに、ましてや年齢といいヒデに似ても似つかないのに、何故かとてつもない安心感と人肌感に歩は止まり肩の力も抜け、肩どころか体ごと力が抜けてぺたんと座り込んでしまった。やって来た委員会の人に肩を貸されて我に返り、周りの目に気づき慌てて僕は立ち上がる。
*
ゴンくんはハンゾーさんがこちらの様子を見ている隙をつきハンゾーさんに反撃した。
片腕を押さえつつ苦痛の表情で「ッ〜!オレは絶対に、参ったって言わない!」と向かい合う。
その様子を見たハンゾーさんは袖に隠していた刃物を取り出し、
「…俺は忠告しているんじゃない、命令しているんだ。今度は分かりやすく言ってやろう。次は脚を切り落とす。だからその前に参った、と言え。」
と刃物を構えた。ゴンくんに注目が集まり…
「それは困る!」と答え…た。
「…ん?」僕は思わず疑問の声を口に出す。
ゴンくんは話を続け、
「脚を切られちゃうのは嫌だ!でも降参するのも嫌だ!だからもっと別の方法で戦おう。」と言った。
…どうやら僕の聞き間違いではないようで、
そのうち他の外野の人達が意味を理解し、小さく笑い始めた。
当の言われたハンゾーさんはわなわなと拳を握り震え
「てめー!自分の立場分かってるのか!?その脚マジで切り落とすぞ!?」
「それでもオレは、参ったと言わない。…それにもし脚切ったら血がいっぱい出てオレ死んじゃうよ。その場合、失格するのはあっちだよね?」
とゴンくんは立会人に確認し、立会人が戸惑いつつ肯定すると
「ほら、お互い困るから考えようよ。」
その異常性と本気度にハンゾーさんは何も言えなくなりたじろぐ。
「…ふふ、もう大丈夫だ。ハンゾーも我々も完全にゴンのペースだ。」
「…あ、ああそうだな。俺もカネキもゴンの為に躍起になったらこんなことになっちまうなんてな。あいつぁすげぇよ。色んな意味でよ。」
(…本当に。矛盾だらけなのに妙な納得感。…ああそうか、これは理想だ。喰種と人間の間で生温い理想を掲げていたあの頃の僕と。)
場の空気が変わったが、状況までもは変わってはいない。すぐにハンゾーさんは刃物をゴンくんの額に当てた。
「やっぱりお前は何も分かっちゃいねぇ。死んだら来年もクソもない。だが俺はまた来年の試験に行けばいい。俺とお前は対等じゃないんだよ。」
それでもゴンくんはハンゾーさんを真剣に見つめ続けひかない。再び緊張の糸が張り詰めるが、
「オレは親父に会いに行くんだ。いつか会えると信じてる。でもここで諦めたら一生会えない気がするんだ。だから退かない。」
そう言ってハンゾーさんの目を見て、対峙する。
立場が上のハンゾーさんの方が汗が流れ、遂に
「…参った。俺の負けだ。俺にはお前を殺せねぇし参ったと言わせれる術が思い浮かばない。」とハンゾーさんが折れた、が…
「そんなのダメだよ!ずるい、ちゃんと二人でどうやって勝負するか考えようよ!!」と何故かゴンくんが納得しなかった。
それを聞いたハンゾーさんがゴンくんと言い争いをし始めた。
「……要するに、だ。俺はもう負けたつもりだが、もう一度勝つつもりで真剣に勝負してさらにお前が気持ちよく勝てるよう、一緒に考えろ、という事だ?」
その言葉にゴンくんは満面の笑みで頷く。ずっと耐えていたハンゾーさんは遂に堪忍袋の緒を切り、ゴンくんを思いっきり殴り飛ばしてゴンくんは気絶、ハンゾーさんが負けという決着となった。
***
気絶したゴンくんは委員会の人達によって運ばれ、
「ハンゾー選手、休憩を挟みますか?問題なければこのまま第2試合に入りますが…」
「問題ない。むしろ体があったまって来たぐらいだ。」
「では、第2試合、ハンゾー選手対ポックル選手。位置に。」第2試合が始まった。
立会人の掛け声とともに、ハンゾーさんは先程と同じスピードでポックルさんを捕まえ、ゴンくんと同じ腕を折る関節技を決め
「悪いがあんたにゃ遠慮しねーぜ。これ以上負けるつもりないからな。」
そう言った。
遠慮も何もゴンくんにだって腕は折ったのだ。
だからこそゴンくんと違いポックルさんはすぐに負けを認めハンゾーさんが勝ち、ポックルさんが負けとなった。
次の試合、第3試合はポックルさん対キルアくん。
だけど立会人の開始の合図とともにキルアくんが
「参った。……悪いけどあんたみたいな弱い奴と戦う気ないんでね。」
と言った為、戦う前にキルアくんの負けで終わった。
「では、第4試合、キルア選手対ギタラクル選手。位置に。」
***
ギタラクル選手。ハンター試験会場、正確には第1次試験会場に着いた後、ヒソカとは別に薄らと血の匂いがした人の一人。
そしてここまでの間、僕が見た限り誰かと話している所を見たり戦っている所も見た事がない不気味な人。
「始め!!」
この勝負によって1ブロックの不合格者候補になってしまう。だからかキルアくんは先程のように負けを言わず、相手がどんな攻撃を仕掛けてきてもすぐに
対応できるよう注視しつつ、ジリジリと距離を詰めていた。それでも尚、一切動かないギタラクル選手に僕はより一層不安と疑念が深まる。
キルアくんがある程度の距離を詰めた時、
「久しぶりだね、キル。」
今までずっと、一言も発さなかったギタラクル選手が、口を開きキルアくんは動きを止めた。
代わりにギタラクル選手がゆっくりと顔中のピアスのようなもの__針にも見える。を抜き始めた。
全て抜き終えると、骨や筋肉を無視した動きで顔の形が変わっていき、骨格や髪の色、髪の毛量が全く違う別人の顔が現れた。
(明らかに人とは喰種とも違う何か。まるで幻覚でも見ていたような。針人間?やっぱりこの世界には
そちらばかりに気を取られていたが、キルアくんの方に目を向けると、キルアくんは顔が真っ青になっており、この世の終わりを見たかのような怯えた目、震える唇で小さく「兄、貴。」と呟いた。
(あ、れが…キルアくんのお兄さん。顔の変形は暗殺技の一種?それでも明らかにおかしかったけど。だけどそれなら血の匂いがするのも不気味な雰囲気なのも納得出来るな。キルアくんが怯えているのは家出…?)
ギタラクルさんは、キルアくんの様子を気にもとめず話をする。
キルアも我に返って余裕を取り繕った。
*
「母さんと
「…まぁね。」
「母さん泣いてたよ。……感激してた。『あのコが立派に成長してくれて嬉しい』ってさ。」
「あっそ。」
「『でもやっぱりまだ外に出すのは心配だから』ってそれとなく様子を見てくるようにって頼まれてたんだけど、奇遇だね。まさかキルがハンターになりたいなんて思ってたなんて。実はオレも次の仕事の関係上、資格が必要でさ。」
「…別になりたかったわけじゃないよ。ただなんとなく受けてみただけ。」
「へー、ならよかった。安心した。それなら心置きなく忠告できる。いいかい、キル。お前はハンターに向かないよ。だって、"お前は根っからの殺し屋"なんだから。…お前は熱を持たない闇人形だ。
自身は何も欲しがらず、何も望まない。陰を糧に動くお前が唯一、歓びを抱くのは人の死に触れた時。
そうやってお前は親父とオレに育てられてきた。そんなお前が何を求めてハンターになる?」
「確かに…ハンターになりたいと思ってるわけじゃない。…だけどオレにだって、欲しいものぐらいある。」
「無いね。」
「ある!今望んでることだってある!」
「ふーん。じゃあ言ってごらんよ。何が望みか。」
話す度にキルアくんの生気が抜け、青から白くなっていく肌。滝のように汗が流れていても、言葉を継ぐんでいたが遂に言葉が止まり、キルアくんは唇を噛んだ。
「どうした?本当は望みなんてないんだろう?」
「違う!!」しかしお兄さんの言葉にはすぐに否定した。そしてキルアくんは震える手を握りしめ、蚊の鳴くような声で
「……ゴンと、…友達になりたい。もう人殺しなんてうんざりだ。普通に、普通にゴンと友達になって、普通に遊びたい。」
キルアくんは想いを明かした。
*
それを聞いた僕はあの言葉を思い出した。
4次試験前に言われた
『ゴンに手を出したら容赦しないから。』
(キルアくんは…僕と似ているんだ。
…でも
だから、お兄さんに向かってレオリオさんが
「ソイツとゴンはもうとっくに
と叫び、それを聞いたお兄さんが
「よし、ゴンを殺そう。」そう言って扉に向かうお兄さんに、立ちはだかるように僕は扉の前に立つ。
僕だけじゃなく、クラピカさんレオリオさん、ハンゾーさんまでも。
「ギタラクル、さん。先には行かせませんよ。たとえ、行けたとしても今は試合中です。ゴンくんを殺したら貴方が不合格者となりますが宜しいんですか?仕事の関係で資格が欲しいと仰っていましたが。」僕の言葉に
「あーそうだった。うーん困ったな。…そうだ!合格してからゴンを殺そう。」
お兄さんはそう結論づけた。
そしてキルアくんはその言葉にビクリと体を揺らし、後ろの風景に溶け込むんじゃないかと錯覚するほど、透き通った白い肌に唇もカサつき真っ青になっていた。
「聞いたかいキル。オレと戦って勝たないとゴンを助けられない。友達の為にオレと戦える?出来っこない。なぜならお前は友達よりも今、この場でオレに勝てるか勝てないかが重要だから。そしてお前の中で答えはもう出ている。「オレの力じゃ兄貴に勝てっこない。」それでいい。『勝ち目のない敵とは戦うな。』オレが口を酸っぱくして教えたよね?」
キルアくんは震える脚で後ろに下がろうとするが、
「動くな。…少しでも動いたら戦闘開始の合図と見なす。同じくオレの体がお前に触れた瞬間から戦い開始とする。」
お兄さんはキルアくんを制止させ、更に腕を前に出しキルアくんへゆっくりと近づく。
「やっちまえ!キルア!!どっちにしろお前もゴンも殺させやしねぇ!そいつは何があってもオレ達が止める!お前のやりたい様にしろ!!」
そうレオリオさんが激を飛ばすが、
「…参った。オレの……負けだ。」
そう言ってキルアくんは俯いた。
お兄さんは抑揚のない声で、さっきのは冗談。試しただけ。そうキルアくんに話し、肩を叩いたがキルアくんは無反応のまま俯き続けた。
お兄さんは会場の端に戻り、特に何もない。
僕も警戒しつつ扉から離れたが、念の為出来るだけ扉の近い場所に立つ。
キルアくんは体の震えが止まっていたが動かず、立会人の声掛けによってようやくこちらに戻ってきた。
クラピカさんとレオリオさんが駆け寄り、声をかけるがそれでも顔を伏せ無反応だった。
(キルアくん…。)
***
「えーと、それでは第5試合、ヒソカ選手対クラピカ選手。位置に。」
立会人の合図後、二人は戦い始める。僕から見て
「蜘蛛について、いい事を教えてあげよう♥」
そう囁き、混乱しているクラピカさんを置き去りにして「僕の負けだよ♠」と宣言し、クラピカさんの勝ち、ヒソカの負けとなった。
(蜘蛛について…?蜘蛛、多分幻影旅団の事だよな。何故ヒソカが…?いやこれはクラピカさんの問題だ。聞こえてしまった僕が考える事じゃない。)
「第6試合、カネキ選手対ヒソカ選手。位置に。」
次は僕の番だ。お互いある程度の実力を知っている。僕は雑念を払い目の前に集中しながらヒソカの前に立つ。
「始め!」
***
位置につき、僕はヒソカを注視する。
ヒソカは意味ありげに含みのある笑いをし、僕は"それ"が何を意味しているか分からない。
だけど僕はどんな攻撃でも対応できるよう、"
周りの景色が伸び、ボヤけ、ヒソカの肌の皺が分かるんじゃないか、というほどピントを合わせ、研ぎ澄まされた時に「始め!」開始の合図がきた。
だが開始の合図、と同じく僕の後ろ右横から殺気も放たれていた。視界にはちゃんと実物の含みのある笑いをするヒソカが立っている。
意味が分からない。一気に脳はパンクし、今まで練っていた対応も全て吹き飛ぶ。
脳が、理性が、理解に苦しむ中、僕の体だけは反射的に危機に反応し、防衛本能でもって身を捻り左側へ避ける。だが、先程まで全身で目の前を集中していたのもあり、かなりタイムラグがあった。勿論避けきれず、
「っぐ……」
混乱している脳に、一つの事実として神経が鈍い痛みを伝達し訴えていた。痛い。__脇腹が火傷しそうな程熱い。じんじんと熱い。痛い。まだ、時間がスローペースで動いている。熱い何かがじんわりと服に吸い付き、流れ、脚につたう。そしてやっと理性が追いつくような時の流れを感じ、自分の状態を確認した。脇腹に穴が空いている。
視界で現状を理解したら一気に空いた脇腹に冷たいすきま風が傷口を撫でているように感じ、傷口周りが冷たい。寒い。でもその奥側はポカポカと熱い。まるで大怪我を負った人間みたいに。…あ。
(この感覚は、赫包がやられたんだ。それに食事も…空腹を紛らわす程度しか喰べてない。すぐには、治らない__?)
「カネキさん!!」
誰かの呼び声に、自分の現状ではなく今まで何をしていたのか、それを思い出し素早く顔を上げた。そこには悠然と佇むヒソカが、目の前に、いた。
(あ、ぁ…)
赫子も出せない。殺られる。
そう、思ってしまった時__「待つのじゃ。……キルア、お主は他人の試合に手を出した。それだけで失格物じゃが、何処に行くつもりじゃ?」
その、ネテロの言葉に会場はシンと静まり返り、僕はキルアくんに攻撃されたのだと知った。
「………いえに、かえる。」
「ふむ、つまり試験放棄ということかの?」
「…。」後ろにいるだろうキルアくんは何も発せず、扉の開閉の音だけが辺りに響いた。
目の前のヒソカはそれを見届けた後、僕に向かって腕を振りあげた。
「ヒソカも待て。…キルア=ゾルディックを不合格とし、これにて試合を終了とする。」ネテロ会長は宣言し、委員会の人達が僕に向かって来た。
「ビーンズくん。」
「はい、会長なんでしょう。」
「皆の者を講堂に移動させとくれ。ワシはちとあの小僧と話してくる。…何、すぐに戻る。頼んだぞ。」
ネテロ会長は運ばれるカネキの元に向かって行った。
***
僕は運ばれ、違う部屋に着いた。目線だけ辺りを見渡すとベッドにゴンくんが寝ていた。
さらにネテロ会長がこちらにやってきて「お主、大丈夫かの。」と聞いてきた。
僕が口を閉ざしていると、ネテロ会長は僕の穴が空いた脇腹をじっと見つめ、そして
「…何か、"必要なもの"はあるかね?」
そう、聞いてきた。つまり…(分かった上で聞いているんだ。僕の試験での動きを全て見た上で。この人にはもう、隠せれない。なら、縋るしかない、か…。)
「ち……血液、パックは…あり、ますか…?」
「それだけで良いのか?」
「…はい。とりあえずは。」
「ふむ、分かった。持って来させよう。じゃがワシは今から他の合格者に説明せねばならん。また戻ってくるまでそこにおれ、良いな?」
圧と念を押したネテロ会長と委員会の人達は戻っていき、しばらくして1人の委員会の人が複数の血液パックを持って来た。僕は受け取り、栓を引きちぎって勢いよくそれを飲んだ。驚く委員会の人を尻目に貰った血液パックを次々と開け、豪快に飲みきった。
疲れた体が甘いものを欲するように、甘露なその赤い
同じように僕の瞼も重くなっていく。
精神的疲れだろうか、血を流しすぎたのだろうか、治っていく脇腹の温度がとても温かく心地良い。
その温かさに誘われるように僕はゆっくりと
アンケート結果で話の終わりが変わります。
pixivには両方とも終わりを載せていますが、こちらは結果に基づいた片方のみ。裏話や設定、最後に読み手の皆さんにちょっとした仕掛けを書いた「No14:アトガキ」もこちらには載せません。
【カネキケンは3つの光の環を見たか?】
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