※クラピカ幼少期の話が少し入っております。
あれから十分近く経つがマジタニは起き上がらず、未だに重い沈黙が流れる。
遠くからマジタニを観察しているが、1つ気がかりがあるので僕はぶつぶつと呟いているレオリオさんに声をかけた。
「レオリオさん」
「んだよォ」
「ずっと気になっていたのですが、あのマジタニと名乗った試練官の生死を確認したのは先程の試練官のみ、なんですよ。」
「どういうことだ。」
「つまり本当に気絶しているのか、もしかしたらあの試練官が嘘をつき…刑期の為に時間稼ぎしている可能性があります。…ですので、試練官に自分にも生死の確認させろ、と言ってみてはいかがでしょう?」
「そうか…!」僕の話を聞いたレオリオさんは、ガバッと起き上がりリングがある方に向かい
「おいっ!そいつの生死を確認させろ!目を覚ますどころかとっくに死んでるかも知れねーからな。」
と叫ぶと、先程の生死を確認した試練官が出てきて
「さっきも言ったでしょ、彼は気絶しているだけよ。」と答えた。
「時間稼ぎも頭にあるお前らの言葉じゃ信用ならねーな!それに俺は医者志望なんだよ。」
その言葉に試練官はやれやれと肩を竦め、
「それじゃ、賭けましょうか?……彼が"生きてる"か"死んでる"かで賭けをしましょう。」
「賭け?何も賭けるもんなんてねぇぞ!」
(いや………ある。時間か)
「時間よ。」
「賭けで勝負。「時間」がチップがわり。
…モニターを見て。使える時間は50時間ずつ。ただし10時間単位でしか使えない。どちらかの時間が0になるまで賭けを続ける。賭けの問題は交互に出すこと。もしそっちが0になったらタワー脱出のタイムリミットが50時間短くなる。私が0になれば刑期が50年長くなる。この勝負を受けるなら彼の生死を確認させてあげるわよ。」
説明を聞いたレオリオさんは
「…イカれた女だぜ。自分の刑期をチップがわりにするとは…」
と苦い顔をする。同じく話を聞いていたクラピカさんは、
「慎重に考えろよレオリオ。もしこの勝負で負けたら一気に脱出時間が10時間程に減るんだぞ。」
とレオリオさんに釘をさした為、勿論二人の間に再度火花がちる。そしてこの展開も慣れてしまい、ああまたか…慣れって怖いなと薄笑いした。
ゴンくんが喧嘩を制止してレオリオさんが試練官を見据える。
「オーケー、勝負は受けるぜ。」
その言葉を聞いた試練官は顔の隠されたフードの奥でニヤリと笑った気がした。
「じゃあ、最初は私から出題したからどちらかに何時間賭けるかはあなたが決めていいわよ。」
レオリオは少し瞳を閉じた後、人差し指を突き出して「生きている方に10時間!」と答えた。
(…仮にこれで外しても奴の死さえ確認できればクラピカの勝利が確定する。もし死んでいる方に賭けて気絶しているだけなら踏んだり蹴ったりだからな。)
「それじゃ確認して貰いましょう。」という試練官の言葉と共に中央へ続く橋が出現した。
レオリオと試練官は橋を渡り、レオリオが生死の確認をする。
「ね、気絶しているだけでしょう?」
と試練官が問うとレオリオはゆっくり頷いた。
その様子を見ていたゴンくんは
「よし!!まずはレオリオが1歩リードしたね!」
とガッツポーズをする。が、隣にいたキルアくんは
「……まずいな」と少し眉をひそめた。
ゴンくんが聞き返すとキルアくんは考えを口にした。
「あいつ、このまま目覚め無いかもしれないぜ。…さっきあの女が倒れているアイツに近づいていっただろ?オレもあの時時点でもう死んでるんじゃないかって考えてたけど、むしろ死んでいるより生きていて起きない方があいつらにとって都合がいいんだよね。」
話を聞いたクラピカさんは立ち上がりこちらに来て中央を見る。
「だから残り時間、アイツがずっと起きなかったらそれだけであいつら、72年分の刑期が縮まるんだからね。」
それを聞いた僕は「それはないよ。安心して」というと、3人はこちらを向き首を傾げる。
「僕もその事を一瞬考えちゃったけど…でもこの勝負には"賭けの問題は交互に出す"というルールがあるでしょ?つまり、次の質問で本当に気絶しているかどうか、を問題にすればいい。そうしたらクラピカさんの勝負にも結果がでる可能性が高まるし、レオリオさんも少し肩の荷が降りるんじゃないかな。」
ゴンくんは、なるほど!やっぱりカネキさんは頭いいね!と頷く。
と、そこに試練官の声が辺りに響いた。
「さぁ次はあなたの番よ!賭けの内容を決めてちょうだい。」
次のターンになったレオリオさんはマジタニを指さし、
「こいつが本当に、気絶しているかどうか。賭けようぜ。」
その言葉にキルアくんはナイス!オッサン!と声を上げた。
***
(おい…どうすりゃいいんだ!?こんなのメモに書いてなかったぜ!?)
俺様が目覚めた時、すぐ側にメモが置かれてあった。
【気絶したフリを続けろ!!このメモは口の中に隠せ!!】
すぐにピンと来たぜ。このままタヌキ寝入りを続けたら労せずして刑期72年分が無くなるからな。
(どっちだ!?このまま起きなくていいんだな!?)
「……いいわよ。本当に気絶している方に20時間賭けるわ。」
(オーケー。このまま俺様はタヌキ寝入りするぜ。)
「……でもどうやって確認するつもり?」
と試練官は聞くと、レオリオさんは気絶しているマジタニの肩を貸し、
「なに、カンタンさ」と端に移動して
「こいつをここから下に落とす。本当に気絶しているだけならそのままスンナリ下に落ちて死ぬはずだ。」と言った。
その答えに試練官は「気は確かなの?まだ彼は前の勝負が終わってないのよ。そんな方法は認められないわ!」と声を荒らげた。
「安心しなよ、もしこいつが本当に落ちて死んだらクラピカとの勝負はこっちの反則負けって事でそっちは一勝だ。それで文句ないだろ?」
「これは…あの試練官死んでいませんね。…真面目で相手を気遣ってくれる、そしてアタッシュケースに入っていた大量の治療道具に医者志望といったレオリオさんが簡単に人を殺すような事、しないでしょうし…」
3人は僕の言葉を聞きつつ勝負の行方を見守る。
「…そうね、それでいいわ。」(なんだとォ〜〜!?ふざけんじゃねぇーぜ、人の命をなんだと思っているんだ!?)
「そのかわり変更するわ。彼が目覚める方に40時間賭けることにするわ。」
と試練官が答えると、レオリオさんはニヤリと笑い
「ようやく尻尾をだしやがったな。……それじゃ放すぜ。」
その言葉とともに「待て!!離すな!!!起きてる!起きてるよォー!!?」とマジタニは手をばたつかせた。そして
「イカれてるぜ!お前ら!付き合ってられねー。俺様の負けで結構だ!恩赦なんざクソ喰らえだぜ。全く…刑務所の方がよっぽど安全だぜ。」
とマジタニは吐き捨てて橋を渡り戻っていった。
「……わかっていたのね。あいつが起きてること。」
「お互い様だろ。…さっきも言ったが、俺は医者志望なんでね。眼球運動を見りゃあすぐ分かる。」
「さて、これでそっちのチップは残り20。」
「だが、勝負に関してはこっちは2勝だ。次の賭けの質問はそっちだぜ。何を賭ける?」
「……そうね、それじゃあ…」
そう言って遂に試練官は顔を隠しているフードを取り、髪を結んだ女性が姿を現した。
「私が男か女か、賭けてもらうわ。」
という問題にレオリオさんは戸惑いを浮かべた。
「そ、そいつは構わねーが……俺が外した場合、どうやって確認するんだ?」
その言葉に試練官は微笑みを浮かべながら
「あなたの気が済むまで調べていいわよ。私の体を、ね。」
その方法に隣からため息が聞こえ、向くとクラピカさんが
「レオリオの奴……男に賭けるな。」
と呆れた顔で呟いた。
「……ですね。」と僕とキルアくんは頷いた。
「男に10時間!!」とレオリオさんが答えると
「あんの…スケベオヤジ」と今度はキルアくんがため息をはく。ゴンくんだけは
「え?なんでわかったの?」と聞いてきたが、僕とクラピカさんは乾いた笑いで誤魔化した。
キルアくんだけは正直にレオリオさんの脳内を代弁し、ゴンくんは納得していた…。
「さぁ!!答えは!」
「うふふ、残念。私は女よ。」
「ッ!ま、マジか…?」
「確かめてみる?」
「も、もちろんだぜ!」
「…僕達は後ろ向いていましょうか。」
「…ああ…そうだな」
「それにしても…この勝負はレオリオの負けだろうな…。」
クラピカさんの言葉にゴンくんは
「え、レオリオ負けちゃうの?」と聞く。
「ああ。恐らく、だがな。その可能性が高い。…レオリオは慎重になり過ぎている。チップの賭け方がその証拠だ。そして問題に対してまず確認するのが負けた場合…リスクの確認だ。もしかしたらこれからが本勝負、のつもりがあったかもしれないがチップは既に90:10。レオリオが斜め上の問題を出さない限り負けだろう。」
とクラピカさんは腕時計の試験の残り時間を確認し険しい顔になる。
「さぁ、次はあなたが出題する番よ!」
という声が後ろから聞こえ僕達は振り向いた。
再度中央に体を向けると幸せそうな顔をしたレオリオさんがその言葉に我に返り、腕を組み悩み始める。そして
「よし、ジャンケンで勝負だ!!ジャンケンで勝つかどうか賭けようぜ!」
と拳を前にだした。
「…いいわよ。私が勝つ方に80時間賭けるわ。」
そのチップ量にレオリオさんはたじろぐ。
その姿を見た試練官は笑みをより深めて
「別に問題ないでしょ?賭ける時間は私の自由。それにアナタが負けても減るのは10時間だけよ、安心して。」
「これは…負けたな。」とクラピカさんが負けを確信し、ゴンくんは
「ジャンケンは運だからいい問題だと思うけど、なんで負けなの?」というと
「いや、これはあまりよくない問題だ。特にこの場合は。ジャンケンは運と思いがちだが、実際はその人の精神に大きく関わる。緊張すれば体が強ばりグーを出す割合が大きくなる。さらに相手は巨額のチップを投入し精神負荷をかけてきた。慎重な思考のレオリオには大きな打撃を受けただろう。そして相手はわかった上で投入している。レオリオの思考は既に相手の手のひらの上だ。」とクラピカさんは答えた。皆が見守る中で中央では二人が
「ジャンケン…ポン!」と掛け声ともに、
レオリオさんはクラピカさんの言う通りにグーをだし、試練官もグーをだした。
(クラピカさんのいう通りだと…試練官は確認したんだ。レオリオさんの思考を。)
「あいこで…ショ!!」
その掛け声と一緒にこの勝負に決着がついた。
***
「今、彼らの残りタイムはどのくらいかしら。」
「60時間45分だよ。」
「あらあら…それは大変ね…うふふ。それで?次は誰が行くのかしら?」
「…残り時間なんて関係ない。俺の相手は死ぬしかないのだから。」
身を縮こまらせながらレオリオさんはこちらに戻ってきた。
「すまねぇ…負けちまった。」
肩を落としながらクラピカさんと距離を空けて立つ。
「…クラピカさんの勝敗がついたのは有難いですよ。切り替えて行きましょう。次は僕かゴンくんの…」
と僕が話をしている中、中央の奥から値踏みする視線を注がれ言葉が詰まる。
そして壁をガリガリと壊しながら次の試練官が姿を現した。その姿を見た瞬間、レオリオさんは「マジかよ…」と呟き目を見開いたまま固まる。
「…レオリオさんご存知なんですか?」と
僕が聞くと相手を注視したまま頬に汗を垂らし、
「俺達の負けでいい…。あいつとは戦うな。」と警告した。
「レオリオ、そんなにやばい奴なの?」
「…ああ。あいつは"
「…久々にシャバの肉を掴める。」
「あんな異常な殺人鬼、相手にすることねェ。噂では刑期は950年以上あるっつう話もある。だから俺達の負けでいい。最悪試験ごとダメになってもまた"来年"ある…。」
「……。」
***
『ふーん。そんなにバラバラにして何が楽しいのかしら。とてもじゃないけど私には理解出来ないわ。つまらない男。』
『フハハ!利世は相変わらずだね。俺には分かるよ。いいなぁ…俺もまた遊びたいよ。カネキくん』
『はぁ……ねぇカネキさん、話聞いていたんでしょう?最悪の大量殺人犯。950年以上の罪。最低でも146人の犠牲者。その中に丁度、君の"今の"お友達と同じくらいの子が犠牲になった。事故でも復讐でもない。ただの一人の欲望のままに殺された。』
『体の震え、泣き叫ぶ声、涙と汗と鼻水と唾液でぐしゃぐしゃの顔。それが堪らなくゾクゾクするんだよ。彼とは話が合いそうだ。話せるもんなら是非声をかけたかったよ。』
『あなたのお友達…あの話を聞いても負け、だなんて絶対言わないわ。だって頑固だもの。そうしたらゆっくりもがれる様子をただただ遠くから眺めるしかないわね?カネキさん。あら、そんな顔してどうしたの?…ふふ、あの時の事を思い出したのかしら。』
『"命を軽々しく扱うやつは許せない。僕の居場所を壊すやつは容赦しない。"だったかしら?やっぱりあなたの好きな者じゃない?ねぇカネキさん。"何も出来ないのは嫌"なんでしょう?守りたいんでしょう?ここだけじゃない。あの場所も。あの世界へ戻るにはやる事は一つしかないわ。』
『この世界は弱肉強食。喰われる前に喰うしかない。』
『本当は気づいているくせに。飛行船にいたあの時から。』
『この世の不利益は当人の能力不足。』
『さぁ。喰べて』
『選べ、選べ、選べっ!カネキィ』
「………。」
***
「……詳しく教えてくれてありがとうございます。レオリオさん。ここは僕が行きますね。」
カネキさんは顔を伏せていて表情はよく見えない。
だけど…なんとなくカネキさんが遠くに行ってしまう気がした。
「カネキさん…行っちゃうの?」
「うん。僕は大丈夫だから。でも…もし勝負は負けちゃったら、ゴンくん頑張ってね。」
と顔をあげ、眉を下げながらオレに微笑んだ。オレには辛そうにしか見えなくて、でも橋が現れてカネキさんは中央に向かって行ってしまった。
*
「よろしくお願いします。勝負の方法はどうしますか?」
「勝負?勘違いするな…」
「これから行われるのは一方的な虐殺だ。試験も恩赦も俺には興味がない。お前はただ泣き叫んでいたらいい。」
「デスマッチ、という事ですね。…わかりました。ただ、また同じようにされると困るので、気絶した場合も負け、というルールを追加しても?」
「ふん、構わない。」
「ありがとうございます。最後に一つ。あなたは快楽殺人者ですか?……相手の事を考えたり…想ったりしたことは?」
「ない。俺はただ肉を掴みたい…それだけだ。」
「…そうですか。」
僕は試練官に背を向けて僕を見守る四人に、
「皆さん、すみませんが僕の試合が終わるまで目を閉じて手で耳を塞いで貰えますか?」
と月山さんに言うように冷たく命令した。
四人は僕の様子に固まったが、クラピカさんが返事をし言われた通りにするとキルアくん、レオリオさん、最後に「カネキさん…気をつけてね。」とゴンくんが目を閉じ耳を塞いだ。
全員の様子を確認した僕は改めて試練官へ向き
「お待たせしました。始めましょうか。」
と指を鳴らした。
***
試練官は笑みを深めて僕の両手首を素早く掴む。
ミシミシと骨と肉が悲鳴をあげる音はするが、試練官は予想と違う事に驚きの表情を浮かべる。
僕は両手首の悲鳴を無視して試練官の鳩尾に足をかけ、思いっきり押す。
少し攻防が続いたが遂に相手の肩がギチギチミチミチと肉がちぎれる音を立てて、そして試練官は軽く吹っ飛んだ。
僕の手首にはガッチリと掴み肩から先のない腕がブラブラと揺れ、香ばしくて甘い血が滴り、床を赤く染め上げる。
『あなたのお肉。手首についた極上の骨付き肉。』
喉が鳴る。唾液が溢れそうになる。腹が鳴る。
僕は無理やり付いた腕を手首から引きちぎりそして
咀嚼した。ぐちゃりむちゃりごくり。僕は貪った。
「ひ、ヒィィ!あ、アイツ人の腕を食ってやがるぜ!?ここはイカれてるヤツらしかいねェのか!!?」
「なっ…彼の手首が治っていく…?」
「化け物だ…。」
体は栄養を手に入れ歓喜する。無理やり引きちぎって皮が剥がれた僕の手首はぐちゅぐちゅと音をたてて回復する。久しぶりのご馳走。久しぶりの美味しさ。甘味。美味しい。懐かしい。もっと、もっと、もっと食べたい…………かぁさん。
『『『ただの喰種でいいんだな!!!???』』』
「ッ!?……あ」
無意識に試練官の体にまで手を伸ばしていたが意識が引き戻される。
「……し、止血、しなきゃ」
辺りを見渡し近くに落ちていたフードを縦に裂き肩をキツく結び止血する。
両腕を失った痛みと鳩尾を蹴った衝撃で倒れ、気絶している試練官をそっと抱き離れた場所にいる試練官達へ
「すみません!この人を急いで治療できる場所へ…!」と叫んだ。
*
「………マジタニ!アイツ運びな。勝負はついた。……そうよね?刑務所長。ほら、マジタニあんた筋肉ついてんだから早くしなさいよ。」
「あ、お、おう…わ、わかったぜ。」
試練官側からマジタニと言っていた試練官が走ってやってきた。が、僕の傍で立ち止まり
「お、おおおい!まさか俺様も食べたりしないだろうな!?」と身構える。
「しませんよ!早く彼を!お願いします…!」
「わ、わーってるよォ!?」
マジタニは試練官を抱え奥に消えた。
***
(バーカ。あんな意味深の威圧感出しといて素直に従うかっつーの。にしてもあいつ、食人、だっけ。たまにいたっけなぁこういう依頼者。しかも思考やリクエストに癖あり過ぎるんだよね、…ゴンに近づけないようにしねぇとな。)
薄目で見ていたキルアは腕を食べていたカネキが動き出した為気づかれぬように素早く目を閉じた。
*
安堵、後悔、いろんな感情が渦巻き呆然としていると、中央のリングに今までとは違う場所から橋が出現した。そして砂嵐の音がスピーカーから漏れる。『諸君。おめでとう。勝負はついた。』
「か、カネキさんもう目は開けていいのか?」
スピーカーから聞こえる声が耳を塞いでいても聞こえたのだろう。クラピカさんが確認してきた。
「あ、はい。すみませんもう大丈夫です!」
と大声で答えつつ急いで口元の血を拭った。
『…見事、諸君らは試練官に打ち勝ち三勝した。だが、勝負の中で時間を賭け、負けた。従ってそちらに作った新しい橋の先に部屋がある。そこで諸君らは50時間を潰してもらう。』
スピーカーから音が消え、中央のリングへ四人がやって来た。
「カネキ、血がついているが…ケガは無いか?」
「ありがとうございます。大丈夫ですよ。レオリオさん。これでも僕、避けるの得意なんですよ。」
と顎に手を置き眉を下げ微笑んだ。
「……さっさと行こーぜ。」キルアくんは頭の後ろで手を組み橋へ向かいゴンくんが追っかける。
部屋につくと監視カメラの横についたスピーカーから再度説明される。
『この部屋で50時間過ごしてもらえれば、先に進めるドアが開くので待っていたまえ』……さてさて最後に面白い物が見れるとはな。
***
「カネキさん!」部屋の中を物色しているとゴンくんが駆け寄って来た。が…
「おいゴン、よせ。あいつに関わるな。…オレと遊ぼうぜ!」
「え?キルア、どうしたの?」
「いいから来いって」とキルアくんはゴンくんの首を掴み離れた所で腰をおろす。
その様子を見ていたクラピカさんが僕に
「…カネキさん、キルアに何かしたのか?」
と近づきながら聞いてきた。
「すみません、僕もさっぱり…」
(キルアくんはアレ、見たんだろうなぁ…。……嫌われちゃった、な。)
「そうか……。そういえば…キルア。あの時は色々あって聞きそびれたんだが、試合に見せたあの技はなんなのだ?お前は何者なのだ。」
「?あの技…?ああ、別に。心臓を抜き取っただけだぜ。」
その会話を聞いていたゴンくんは首を傾げる。
「あれ?言ってなかったっけ?キルアは暗殺一家のエリートなんだよ。」さらっと落とした爆弾発言にクラピカさんとレオリオさんは驚き固まった。
*
僕は部屋にあった本棚から本を選んで読んでいると
「カネキさん、さっきはごめんね。」とゴンくんがこちらに来ていた。
本を閉じ辺りを見回すがキルアくんがいない。
備え付けの個室にいったタイミングで来たようだ。
「ううん、僕は平気だよ。それよりどうしたの?」
「カネキさんの試合が終わった後のカネキさんの顔が…ううん、雰囲気が凄く悲しそうで寂しそうだったから、気になって。」
「………そっか、ありがとう。ゴンくんは優しいね。」
そこで個室から水の流れる音がし、ゴンくんは慌ててまたね!と離れる。
僕は軽く手を振り本を開いた。
*
(……ゴンと話していた先程から、いや正確には試合が終わり目を開けた後からカネキさんの雰囲気が変わった。悲しそう、寂しそう、それもあるがもっと…何か根本的な……隣にいられない。自分と相手が違う。そんな一歩下がったような感じだ。そして不自然なキルアの関わりの拒否。カネキさん、と
うわべだけだったかも知れないがそう呼んでいたのが"あいつ"…。)
*
部屋に入り、特にする事もない為あれから皆、次に備え身を休め始めた。寝息が聞こえる中、キルアだけヨーヨーで静かに遊んでいた。私は起こさないように静かに起き、キルアの元へ行く。
「……なんか用?」
「ああ。カネキさんと何があった?…何を見た?」
「別に。何も。」
「…答えろ!」静かに小声で強めに言うと、
キルアはため息をはき
「…あんたらは皆、仲間と思ってるみたいだけど、オレはそうじゃない。希望者同士。つまり敵同士。そんなやつにわざわざこっそりこれ見てました、なんて内容言うわけないじゃん。ゴンに嫌われたくないし。そんなに気になるなら直接本人に聞けば?」
そして用は済んだ、とばかりに手元に視線を戻しヨーヨーで遊び出した。
「……わかった。」私は再び寝についた。
*
部屋の中では相変わらず、キルアがゴンにカネキさんを近づけないようにし、カネキさんは本を読み、レオリオはだらしなくしていた。
(カネキさん、辛そうな顔をしているが本を読んでいる時は楽しそうだな。)
「カネキさん、ああ…熟読中にすまない。その…この部屋に来てから本ばかり読んでいるな。本が好きなのか?」
「いえいえ、はい。本は好きなんですよ。子どもの時からよく読んでいて…」
そう言ってカネキさんは寂しそうに目を伏せる。
「……そういえば、クラピカさんも本、好きなんですか?クラピカさんも読んでいたり、二次試験でも文献でスシを知ったようでしたが…」
「…ああ。外の世界に出る為に猛勉強していた時があってな。それからも知識は武器になる。定期的に本は読んでいる。」
「そうだったんですか…。あの、良かったらクラピカさんのおすすめの本、教えてください。」
「おすすめ、か…」本棚の本を目線でなぞる。
(………あっ)そして懐かしい本を見つけ無意識に手に取った。
「その本ですか?」
「え?あ、ああ。…ふふ。そうだな。この本は大事な親友とよく読んでいたD・ハンターの本なのだ。…うん。カネキさんに読んでもらって是非感想を聞きたい。」
私は優しく本をカネキさんに手渡した。
「わかりました!読み終わったら感想、言いますね。」(…!!カネキさんが初めて笑った…?)
***
「あと10分でこの部屋とおさらばだね!」
「ああ!長かったぜ。寝すぎて体がだりぃ。」
「…クラピカさん、おすすめの本読み終わりました。教えてくれてありがとうございます。」
「!……そうか。どうだっただろうか?」
「…凄く素敵な本でした。ここの本はどれも興味深かったのですが、ストーリー自体はあまり頭に入ってこないものばかりで…ですが久々に夢中になれました。文法や言葉選びも面白くて綺麗で…あ、182ページの~~~…」
「~~~は、あの場面と関係性があって気づいた時は驚きました。………あ、すみませんこんなに長々と…。」
カネキさんは残り時間があと5分をきるほど細かく話してくれた。
「ああ、いやこんなにも細かく読んでくれて驚いていただけだ。夢中になってくれて良かったよ。こちらこそありがとう。…そうだ、これは私の考えなのだが、主人公が~~…」
「カネキさん、クラピカ!あと一分で開くよ!」
ゴンの言葉で夢中で話し込んでいた事に気づく。
「ゴン、ははは久しぶりに話し込んでいたよ。ありがとう。……D・ハンターの困難に負けるな、頑張って生きてみろ。それで私は救われている。」
「……僕も、生きていていいんだろうか。」
「ん?すまない、カネキさん何か言ったか?」
「いえ、何でもないですよ。」
そして『50時間の賭け分が今支払い終わった。扉は解錠した。残り時間も頑張りたまえ』再度、三次試験が始まった。
***
「『はぁ…はぁ…』」
皆、息を切らし開けるか、開けないかの選択肢がある扉の前に立っていた。
あれから○✕の迷路や、部屋全体が人生ゲームのようになっていたり、とにかく嫌という程、多数決をせまられた。終わりが見えない不安の中、時間は刻刻と過ぎ、1時間を切っていた。
もう何度目かのこの扉を開けると、遂に一筋の光明が差し込んだ。
『【最後の別れ道。】
ここが多数決の道。最後の分岐点です。
心の準備はいいですか。
○→はい。✕→いいえ。』
皆が○を押すと、パネルの上にある石像から電子音と共に口の部分から機械音声が流れる。
『それでは道を選んでください。道は二つ…。
一つは5人で行けるが長く困難な道。
一つは3人しか行けないが短く簡単な道。
…ちなみに長く困難な道は、どんなに早くても最低45時間は攻略にかかります。短く簡単な道はおよそ三分でゴールに着きます。長く困難な道なら○を。
短く簡単な道は✕のボタンを押してください。短く簡単な道を選択した場合、そこに設置された手錠に二人が繋がれた時点で扉が開きます。選ばれた二人は時間切れになるまでここを動けません。』
最初に口を開いたのはレオリオさんだった。
「さて、先に言っておくぜ。俺は✕を押す。そして選ばれる二人になる気もねェ。…試験官も準備のいいこったぜ。古今東西、ありとあらゆる武器が揃えてくれてやがる。戦ってでも3人を決めろって事か。」
そう言ってレオリオさんは横の壁にかかっている武器を眺め始める。その様子を見たゴンくんは慌てて
「待ってよ!オレは○を押すよ!せっかくここまで5人で来れたんだ。5人でここを通過したい。」
「ゴンくん…。」
「一か八かでもオレはそっちにかけたい。」
そう言ったゴンくんの肩に手を置いたキルアくんが、
「おいおい、一か八かのくそもさ、残り時間は1時間を切ってるんだよ、ゴン。短い道を選ぶしかない。戦うしかないんだよ。覚悟がないんだっだら手伝ってやるぜ。」
と言葉と共にキルアくんはいつの間にか手に取っていたナイフを僕に向かって投げてきた。
「ッ!」
咄嗟に僕は避け、ナイフは壁に突き刺さる。
「キルア!!何やってんのさ!」
「何ってこうするしかないんだよ、さっさと覚悟決めろよゴン。」
***
【三次通過者、現在18名。残り時間、8分45秒】
ヒソカはじっと扉を注視する。
『残り5分です。』
一つの扉が開き、『99番キルア、403番レオリオ、404番クラピカ、405番ゴン、406番カネキ。三次試験通過第22、23、24、25、26号!所要時間71時間55分!』
「ケツいてー!」
「短い道がまさか滑り台になってるとはオレも思わなかったよ!…でもギリギリいけたね。」
「うん、でもまさかゴンくんがあの状況であんな事を思いつく方が僕は思わなかったよ。」
「全く同感だ。『長く困難な道』から入って50分以内に壁を壊し隣の『短く簡単な道』へ出る、とはな。…だが5人でいけたな。」
「はい。そうですね。ありがとう、ゴンくん。」
「どういたしまして!キルアが投げたナイフが壁に突き刺さったからもしかしたら壊せるんじゃないかって咄嗟に思ったんだよね。」
とゴンくんはニッコリ笑い頭をかく。
「咄嗟でもフツー思いつかないっつうの。」
『タイムアップ!!
第三次試験通過人数26名!!(内一名死亡。)』
スピーカーの音声が終わると共にガコンと音をたて扉が開き光が差し込む。その場にいた皆が扉を出るとそこは外で、待ち構えていた人物が口を開く。
「諸君、タワー脱出おめでとう。私がこの三次試験の試験官のリッポーだ。さて、残る試験は四次試験と最終試験のみ。四次試験は、この海の向こうに見えるゼビル島にて行われる。」
そして箱を持った人が試験官の隣に立つ。
「では早速だが、今からクジを引いてもらう。」
*
【対戦結果】
1.ベンドット:刑期199年。罪は強盗殺人。
vs99番、キルア。→99番の勝利。
2.マジタニ:刑期108年。罪は詐欺、脅迫等の累積刑
vs404番、クラピカ。→404番の勝利。
3.レルート:刑期112年。罪は希少生物販売、賭博法違反等。
vs403番、レオリオ。→試練官の勝利。
4.ジョネス刑期:968年。罪は大量殺人。
vs406番、カネキ。→406番の勝利。
*
次話:来週の土日のどちらかに12:20で投稿。