※注意
この作品には以下の要素が含まれます。苦手な人は我慢してください
・男トレーナー×ウマ娘
・女トレーナー×ウマ娘
・ウマ娘×ウマ娘
上記の恋愛描写があります。いずれもカップリングの表記はしていません。
・オリジナル設定、要素
・メタ描写
原作の割合ですが、ドンブラザーズのほうが多めではありますが、軽く説明してあるので序盤は見てなくてもギリギリいけるかなと思います。
ただしドン四話あたりから原作を知らないと意味不明だと思います。
ウマ娘も、アプリ版を知らないとほとんど意味がわからないかなと思います。
アニメ版やコミックスなどの要素はないので、とにかくアプリ版だけやっておいてもらえたらなと。
私自身ちょっと競馬の知識がほぼ皆無なので、その点についても申し訳ないのですがご理解いただけたらなと思います。
あとはもう一点だけ重要なことが。
この作品には競馬ファンやウマ娘ファンが不快になるだろうワードがいくつも出てきます。
ですがこれは、それぞれのファンやお馬さんを貶めるためではなく、ウマ娘というコンテンツを少しでも楽しんでもらいたいという意図であえて使用していますので、ご理解いただければなと思っています。
最後に、この作品は実際の人物や企業・団体とは一切関係がありません
僧侶はセックスをしない。
男は、スマホを睨みつけていた。
「殺すなかれ、盗むなかれ、嘘をつくなかれ……ッ。酒を断ち人を責めず自慢はしない!」
男はいつだったかネットで見た僧の掟をブツブツと呟いていた。
どの時代のものなのかはどうだっていい。いずれにせよ、それが世界をよりよくするルールであると男は思っていた。
だから自分もそのように生きる。それで世界は素晴らしいものになる。だから他人もそうするべきだ。
男は、スマホを睨みつけていた。
「ありがとう」
お礼も言えない人間が増えているとネットで見た。自分はそうはならない。
たとえその言葉が相手に届かなくても、それでも感謝の念を抱くことは人として当然だ。
男はもう一度、お礼を言ってエアグルーヴの腹が膨れているイラストをリツイートした。
男は先ほどから何度も『太り気味』のイラストをリツイートしている。何度もだ。
ふと、血走った目がおぞましいコメントを見つけた。
・何がいいかわからない。
・引くわ。
・うまぴょいしたんで──
男はスマホを投げて叫んだ。怒りと焦燥の雄たけびを七畳一間であげた。
こいつらは本当に頭がどうかしてしまったのではないか? 人間はいつしか違う種族になってしまったのではないか? 怒りと不安で、男は恐怖さえ覚えた。
なぜ理解できない? なぜ履き違える? どこに妊娠の文字がある?
男は義務教育の敗北を感じていた。文字も読めないのか? 文字も理解できないのか?
たとえ妖艶に描かれていたとしても、そこには性欲の類は一切、無い。
衣服から覗かせる膨れた腹の肌はただの美であり、エアグルーヴのキャラクター性からもたらされたこの状態は、ギャップが生み出した可愛げでしかない。
ウマ娘であり、アスリートならば、一般人よりは食べるのは当然だ。
似合わないというヤツは今すぐ育成イベントの『努力の味見』を経験して下の選択肢を押すといいだろう。
普通ならば、それで、いずれ、なる。
そう。だから『わかって』いないヤツは、よほどの強運の持ち主か、あるいは育成回数が足りない未熟者なのだ。
自分の至らなさを棚にあげる人間の言葉に重みなどあるのか?
否、ない。
改めて男は憤慨した。
これは下劣な性的欲求がもたらした興奮などではない。
モナリザやミロのビーナス、ゴッホのひまわりを前にした人間が自慰行為を始めるだろうか? そんな馬鹿な話はないのである。
なのになぜ理解してくれないんだ。なぜ理解できないんだ。こんな簡単なことが。
そして、なによりもなぜ、このあまりにも高尚な芸術をネットにはびこる絵師たちは創作しないのだろうか? それが男にとってはあまりにも腹立たしく、あまりにも──悲しい。
事実があるではないか。よく腹が膨れるスぺちゃんやオグリは、いずれもウマ娘というコンテンツにおいては主役級。
つまり、トップレベルのキャラクターなのだ。
男は指を走らせた。
このあまりにも簡単な問題を誤解したままだと人間は退化したまま日々を過ごし、いずれラクダになり、サルとなり、退化していくだろう。
怖い。怖すぎる。だから男はもはや説明する意味がないはずの『常識』を書いて、ネットにアップした。
すると、一言。
『きもい』
男は理解できなかった。
しばらく放心し、ゲシュタルト崩壊を起こした三文字を見つめる。
やがて意味を理解し始め、男は真っ青になって叫んだ。
明らかに捨て垢のそれが、スぺちゃんのアイコンをしていた。
許しがたい大罪である。あの愛らしいスペシャルウィークの姿を借りて、他者を否定するのか? 偉大なる競走馬の名を借りた美少女の姿で誰かを貶すのか?
これは、なんだ?
どういうことだ。いったいぜんたい何がどうなっている?
あまりにも恐ろしい化け物がいる。
男はブルブル震えながら呼吸を荒げた。
しかし、なんだ? なぜ誰も石を投げない?
なぜこの男(女かもしれないが)を、のさばらせておく?
それよりもなぜ、ウマ娘のイラストを描いている人間は、太り気味をメジャーにしない? なぜ誰も腹を膨らませない? 美味しいものを! 食べさせてあげないんだ!?
なぜ、なぜ? なぜだ!? なぜ──ッッ?
!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!
「なんでぇええええええええええええええ!」
!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!
「いっパいタベロぉおおおオおおオオオッッ!」
男は『鬼』となった。
”暴食鬼”。姿はいつだったかこの世に具現した『電子鬼』と酷似しているが、カラーリングがまったく違う。
鬼はアパートの扉を蹴破ると、一心不乱に走った。
大通りに出て、困惑する。
誰も、何も、食べてない。にんじんも、ハンバーグも、なんにも!
「食べろォオオオオオオオオオ!」
鬼が口を開けると、困惑する人々が吸い込まれていく。
腹は満たされるが、膨れてはいない。
もっと食べないとダメなんだ。だから鬼は次の獲物のところへ──
「ハーッハハハハ!」
「!」
「さあ! 祭りだ祭りだァ!」
「敵発見!」「どっちですか! あ、こっちか!」「やれやれ、また戦いか」「あ?」
鬼は困惑した。
いつの間にか五体の奇天烈な集団がいて、鬼を発見するやいなや走り出す。
真っ先にやってきたのは赤色の"ドンモモタロウ"。
サングラスの形をした刀、ザングラソードを構えて加速した。
鬼は腕を振って首を狙ったが、ドンモモタロウは姿勢を低くすることでそれを回避しながらも一切減速せずに胴を切り抜けた。
鬼の体から火花が散り、同じくしてドンモモタロウはブレーキをかけて一気に振り返る。
その際にも刀は振るっており、鬼の体に傷がついた。
「ほらほらァ! どうしたどうした! 動きが遅いぞ!」
「がぁ! うごごォ! こっちは食後なんだ!」
「だったら運動に付き合ってやる!」
ドンモモタロウから繰り出される容赦のない連撃が鬼に刻み込まれていく。
これでは細切れにされてしまう。鬼は叫びながら全身から衝撃波を発生させ、まずはドンモモタロウを吹き飛ばす。
が、しかし、ドンモモタロウは吹き飛びながらも『銃』を抜いていた。
こちらもサングラスがくっついた光線銃・ドンブラスター。赤色の光弾が連射されて、鬼は悲鳴を上げながら後退していった。
「おりゃーッ!」
「ぐあぁ!」
さらに背中にすさまじい衝撃を感じて、鬼の体を浮き上がる。
黄色の戦士、"オニシスター"がスイングした金棒がヒットしたのだ。
彼女は勢いそのままに金棒を振るいあげるが、同じくして鬼も地面を転がって追撃を回避する。
オニシスターが金棒を戻したのと、鬼が立ち上がったのはほぼ同時のことだった。
オニシスターが向かってくる前に衝撃波を発生させて吹き飛ばす。
しかしその頭上を飛び越えた影があった。
青い戦士・"サルブラザー"だ。
第二波を放つ前に近づかれる。鬼はそう思って、サルブラザーに殴りかかった。
「ひらり!」
サルブラザーは屈強な肉体にはふさわしくないしなやかな動きで拳をかわすと、鬼の腕をつかんだ。
そして体を捻りながら跳躍。
両足で鬼の体を挟みながらさらに体を捻り、あっという間に組み伏せてしまった。
鬼からしてみれば一瞬で平衡感覚が失われて、気づけば地面に倒れている。
「どいてくださーいッ! いっきますよー!」
「巻き込まれんなよ! 一瞬で決めてやる!」
桃色の戦士・"キジブラザー"が翼を広げて飛行する。
さらに黒色の戦士・"イヌブラザー"もまた銃をもって地面を駆けた。
一方は空高くから。
一方は対象の周りを高速で駆け回りながら銃を連射して次々に弾丸をヒットさせていく。
「ぐあぁう! うぅうおおお!」
鬼は煙があがる体を震わせながらなんとか立ち上がったが、そこで辺りが真っ暗になっていることに気が付いた。
いつのまに夜になっていたのだろうか? わからないが、前には立派な『ヤグラ』が見える。
そこで鬼はついさきほどのドンモモタロウの言葉を思い出した。
そうだ。これは、祭りなのか。だから夜なのか。
「祭りにはおいしいものがいっぱいある! 誰か! かき氷を一つくれ!」
「いいだろう! たっぷりと味わうがいい!」
「何が味があるッ!?」
「一つなんてケチなことはいわん! 全部まとめてくれてやる!」
いろとりどりのシロップがある。七色の光。
全部、食べられるのか。嬉しさのあまり鬼はガッツポーズで叫んだ。
これでたくさん、ウマ娘ちゃんたちの太り気味のイラストが!
「待っててくれ、マックイーン!」
『必殺奥義!』『モモタロ斬!』
それが鬼が聞いた最後の音声だった。
「ウマ娘! 最高ォオオオオオオオ!」
鬼は爆発を起こし、消えていく。
「……?」
男は、スマホを見つめている。
はて? 何か、夢を見ていたような。
だが覚えていない。しかし夢とはそういうものだ。いつか忘れてしまうもの。
男が時計を見ると時刻は16時。
少し早い気もするが、食事にしようと思った。冷蔵庫に牡蠣がある。
あれにオリーブオイルとにんにくを絡ませてオーブンで焼こう。冷凍餃子もあったからそれも焼いて、胡椒がたっぷり入った酢につけて。
それとキュウリとなす、にんじんの浅漬けがあった。
それをビールで流し込もう。
男はスマホを置いて、キッチンへと向かった。
◆
「ありがとうございましたー」
女子高生漫画家として彼女には輝かしい未来が待っている筈だったが、とあるサングラスを手に入れてからはその生活が一変することとなる。
それをかけると、人間界とは違う上位世界、
すると因果関係は不明だが、彼女の漫画に盗作の容疑がかけられ、さらにそれだけではなく化け物が見えるようになってしまった。
彼女はいつのまにか、戦士としての資格を手に入れていたのだ。
それこそが、暴太郎戦隊・ドンブラザーズ。
彼女は黄色の戦士『オニシスター』に変身し、脳人や、人間が欲望に取りつかれた際に変化するモンスター『ヒトツ鬼』との戦いに身を投じるのだった。
「………」
夕方ということもあってか、喫茶店の客はまばらだ。
マスターも暇なのか、カウンターの向こうでスマホを眺めている。
そんな中、一人の男が唸った。
いや、いろいろと語弊があるのかもしれないが、とにかく彼には金がない。
風のままに生きるというスタンスのせいか、はたまた銭に触れると火傷をするというよくわからない体質のせいか、あるいは単に働きたくないだけなのか。
得意の俳句を金代わりにしたり、豊富な知識をいかした人生相談の代わりに、食材や衣類を受け取ることで生活している。
今日は向かいの席にいるピンクの戦士・キジブラザーの
雉野は、冴えないサラリーマンである。
そんな自分があまり好きではなかったが、だからこそ自分を愛してくれた妻である『雉野みほ』のためならなんだってする男である。
「それにしても、あのヒトツ鬼、いつもと様子が違うようだったが……」
「それはなんとなく僕も感じました」
「ヒトツキ、だよ」
「ん? マスターは何か知っていると?」
「いや、でも名前だけは聞いたことがある」
意味深なことをいうが、それ以上マスターが口を開くことはなかった。
「いずれにせよ」
少し離れた席で腕を組んで座っていた
彼こそがドンブラザーズのリーダーである、ドンモモタロウなのだ。
「倒すだけだ。俺たちのやるべきことは変わらない」
「それはそうだが……。そういえば散り際にウマ娘と言っていた。あれは?」
「ああ、携帯のアプリですよ。ソーシャルゲームっていうのかな」
雉野はスマホでいくつかのページを開いて、それを猿原に見せた。
はるかも興味があるのか、画面を覗いてくる。
「今、とっても人気なんですよ。クオリティも高くて」
「なんか、クラスでもめちゃくちゃ流行ってる。実際の競馬で走ってた馬の名前を使ってるんだよね? それでレースで勝ったらライブもあって女の子が歌って踊るの」
「ちょっとした社会現象ですよ。僕の会社でも今度タイアップイベントの手伝いをすることになりまして」
「へぇー、そうなんだ」
「経済効果も凄まじく。競馬に興味がなかった同僚の人もこれを機に始めたって話をちょくちょく聞きます。まあ僕はどの子にかけていいのかサッパリだし。すぐにお金、無くなっちゃうんで、やってはないんですけど……」
「やれやれ、くだらないな。賭け事など醜い欲望があふれて体調が悪くなる」
(賭ける金がないだけだろ)
「……なにかね?」
「いや、なんでも! わたし未成年だし競馬はやったことないけど、お馬さんは可愛いよね。タロウはどう? 競馬やったことあるの?」
「ない。馬は乗るものだ」
「……乗っているところなど見たこともないが」
「あ、でも、それこそ最近はウマ娘の影響で乗馬を始める人とかも増えてるんですよ」
そこで雉野はハッとして鞄からスマホを二つ取り出した。
「そうだ。ちょっとやってみませんか? 会社から貸してもらった試遊用のスマホがあるので、はるかさんと、猿原さんもぜひ」
「えー、いいの?」
「ほう」
「いくつかのキャラクターが入ってる特別版で、機能は制限されるんですけど育成モードは普通に遊べるみたいなんで。できれば嘘偽りのない感想をお願いしたいです」
「いいのかね? 私はそれなりに厳しいが」
「わたしも、あんまり陸上とか競馬興味ないし、漫画だって描かなきゃいけないから期待しないでね?」
「わかりました。桃井さんも、よろしければどうですか?」
「いや、悪いが遠慮しておく」
そういってタロウはスタスタと歩いて店を出て行った。
「………」
マスターは、スマホを見ている。
『育成ウマ娘交換Ptが交換可能数になりました』
『所持育成ウマ娘交換Pt 200』
『交換ラインナップから対象の育成ウマ娘と交換できます』
マスターは、震える指で『OK』をタップした。
翌日の喫茶どんぶら。
はるかと猿原が肩を並べて座っている。二人の目の下は、黒い。
「「徹夜をしてしまった……」」
二人は口をポカンと開けて虚ろな瞳で天井を見ていた。
「いやはや、流行り物は廃り物と思っていたが……なかなかどうして馬鹿にはできないな」
「あそこでアオハル魂さえ爆発してれば……あそこで根性以外にきていれば──」
「キミはグラスワンダーというウマ娘を育成したか? 彼女はわびさびを心得た素晴らしい女性だ。イナリワンくんも粋がわかっている」
「ちゃんと休んでれば……なんでやる気ダウン……偏頭痛……」
睡眠時間が足りていないのか、お互いの言葉は会話をしているようで宙に浮いている。
「ん?」
はるかはふと、喫茶店のメニューが変わっているのを見つけた。
にんじんケーキ、にんじんソーダ、にんじんチップス、キャロットパイ、にんじんの握り。
はて、こんなもの、いつのまに増えたのだろうか?
(それになに? この異様なにんじん推し。はッ! まさかウマ娘のやりすぎでおかしく――!?)
その時だった。血相を変えた雉野がどんぶらに飛び込んできたのは。
「た! たたたた大変です! 大変ですよ皆さんッッ!!」
「うるさいぞ雉野つよし。大声はやめてくれないか、徹夜明けの頭に響く」
「す、すみません! でも本当に大変なんですってばぁ!!」
「どーしたの……? 何が大変なの? わたしのほうが大変なんだってば、やる気が連続で下がって夏合宿が……」
「何を言ってるんですかはるかさん! とにかくッ、あのですね――」
雉野はどんぶらの入り口を指さして、すぐにそれをひっこめた。
楽しそうに話す三人組の少女たちが店に入ってきて、カウンターのほうへとやって来たのだ。
「マスター! 焼きにんじん三本ありますか?」
「……あるよ」
マスターはスマホを置くと、店の奥に引っ込んで、すぐに焼き立てほかほかの串に刺さったにんじんを持ってくる。
少女たちはお礼を言ってそれを受け取り、お金をマスターに渡すと、また楽しそうに何かを話しながら店を出て行った。
はるかたちは、その一連の出来事を見て固まっていた。
混乱している。とても。
なぜなら少女たちの耳は顔の横ではなくて上にあって。お尻には見事な尻尾があったのだ。
「……ね。ね? ね! 見ました!? 見ましたよね!? ね!」
雉野は震える手で眼鏡を整えていた。
そして猿原は腕を組み、やがて床を睨みながら鼻を触り、そして天井を見ながら顎を触る。
「わ、私の空想力もここまで来たか? こんなにもハッキリとウマ娘が見えるとは……」
「いやいや! あれは空想じゃないですよ。本当にいるんですよウマ娘が! なぜか! はるかさんも見たでしょ!?」
「そ、それは、うん。でもどうして……?」
困惑する三人を、マスターはチラリと見た。
安堵したような、あるいは少し怒りのような。よくわからない表情をしたままでスマホをしまう。
「どうやら、二つの世界がくっついたみたいだね」
「二つの? 脳人の世界と人間界が?」
「いや。ウマ娘界と人間界が」
「……なんだって?」
「そうよ何言ってんのマスター。ウマ娘はただのゲームでしょ?」
「いや、ありえる話だ」
タロウが店に入ってきて席に着く。
彼もここに来るまでに何人かのウマ娘を目撃したらしい。
ただし、雉野もそうだが、タロウの職場の『シロクマ宅配便』で配達している時はそのような存在は影も形も確認できなかった。
「だが何か違和感を感じて、サングラスをかけるとウマ娘が見えるようになった。レイヤーの扉を開いてみると世界を移動していたんだ」
「サングラスを?」
「ああ。だがここでかけても意味はないだろう。この店はちょうど二つの世界が重なった部分に存在しているようだからな」
タロウがいうには、彼は人間界ではなく、ウマ娘の世界側からこの店にやって来たらしい。
「どういうことだ? なぜそんなことが……?」
「原因はわからないが、過去にも似たような事件はあったらしい。仮面ライダー電王という男から聞いたことがある」
「ライダー? 電王? だれそれ? 脳人?」
「いや、戦士の一人だ。前に美味いプリンの食い方を教えてやった」
「なんじゃそりゃ……!?」
「ヤツがいうには灰色のオーロラが出たら合図だと言っていたが、覚えはあるか?」
はるかたちは首を振る。タロウもそのようなオーロラは見てはいないが、すでにどこかで具現していた可能性もある。
「それを伝えに来た。ではな」
「ちょちょちょ! どこに行くのよタロウ!」
「決まってる。仕事の途中だ」
「仕事? している場合か! 異常事態だぞこれは!」
「そうですよ桃井さん! 二つの世界が合体しちゃうなんてどうなることか!」
「慌てるなお供ども! これも何かの思し召し。袖振り合うも多生の縁ということだ」
今のところ目立った事件は起こっていない。レイヤーの扉はサングラスを持つ者しか開けないのだし、タロウたち以外は迷い込むことはないだろう。
「でもっ、ここに来るお客さんはどうなるんですか?」
「問題ないよ」
マスターはそう言って壁に貼ってある紙を示した。
そこには『たまにウマの耳と尻尾をつけたお客さんが来ますが、お気になさらず』と、書いてある。
「我々の世界の人間をナメるなよ!」
「そうかな? 今のところは上手くいってるけど」
「ぐッ! なんと情けない……ッッ!」
「安心しろ。もちろん放置しておくつもりもない。交代して見回りをするぞ。今はそれくらいしかできん」
そう言ってタロウは店を出て行った。
はるかたちが困惑して、ギャーギャーとわめいている中、マスターは椅子に座ってスマホを取り出した。
『サポートカード交換Ptを使用して対象のサポートカードと交換しますか?』
『所持数』2>3
『所持サポート』Pt200>0
『交換回数』なし
『!』獲得済みサポートカードのため、保管室に送られます
『キャンセル』【交換する】
マスターは震える指で、画面をタップするのだった。