ドンブラザーズ×ウマ娘 俊足の残夢   作:ホシボシ

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ドン三話 おうごんのユーラン-1

 

「時間がない!」

 

マックイーンはハッとして自分の右腕を見た。

二の腕にはカウントダウンのように減っていく数字が見える。

空にはシュークリーム星が輝いており、そこにあるモンブラン王国では第三宇宙協定会議が開かれている真っ最中だ。

 

「シュワァア!」

 

王城トレーナーはレジスタンスと共に緑色のビーム光線が行きかう中を疾走していた。

だが仲間が次々と捕らえられていく中で、遂にあのパーフェクトマシーンが動き出す。

天帝は、『既に』動き出していたのだ。

 

「まずい! 王国は既に衛星を完成させていたのか! 翼! 速くしねーとマジでヤベェぞ!」

 

「ひゃはははは! どうした! そんなもんかぁ? テメェの覚悟はッ!」

 

開闢のカイザーは手を緩めない。ゴルシの表情もさすがに険しくなってくる。

 

「くそコイツ……! 土下座にギロチンもたせてやがる……ッ!? 歪んでるぜ! ブライト! まだか!」

 

「ほわぁ、すみません。もう少しだけお待ちになってくださいなー……」

 

ブライトに期待したところだが、どうやら難しそうだ。

おやつに『ちゅぶグミ』を選んでしまったのは、『知将』の策略であった。

ブライトは同時に口に入れるというテクニックを知らないために、一つずつ噛むしかないのだ。

しかもこのグミはなかなかのハードタイプ。

ブライトが先ほどから必死に口をモゴモゴと動かしているが、どうやら詠唱が可能になるのはかなり先のことだろう。

 

「ここまで読んでいたのか! アグニ!」

 

「当然だ。見よ、ゴールドシップ!」

 

アグニは天を指す。空は青から赤にその色を変えていく。

 

「まもなくッ、世界は、滅亡する!」

 

「終わりじゃ!」

 

「まだだ! 諦めんなババア!」

 

占いおばばは諦めるが、ムッキスはまだ諦めていない。納豆を一万回混ぜ続けてる。

 

「なんだ……?」

 

犬塚翼は、困惑していた。

 

「いったい何がどうなってんだーッ!?」

 

まだ彼だけ完全に意味がわかっていない。

そもそも。なぜこうなったかというと──

 

 

 

 

時は幕末。

 

ピザ職人、ピエール・エフマンは刀を捨て、アンチョビを取った。

これがかの有名なアンチョビ事変である。

このあまりにも勇敢で無謀な決断はバタフライエフェクトのように多方面に影響を与えた。

有名なところでいえば、あのフランスの哲学家・ジュピトラシュエヌの『Fの樹』である。

奇しくも、印象派に影響を与えた『影の一撃』としては有名だが、それが光であるならば同じくして闇が生まれるのが世の常というものだ。

ご存じ、暗黒四天王の登場である。

円卓を囲むようにして、闇の軍勢が産声を上げていた。

 

「今宵の闇に、乾杯」

 

四天王・絶影のパルムがダークエネルギーで満たされたグラスを掲げる。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオ!」

 

四天王・神風のグリフォンは吠えた。

 

「きゃははははは! ねえねえ『こ』わしてもいいの?」

 

四天王・暗黒令嬢メラギラは羽を広げてニヤリと笑う。

 

「面白いですね……!」

 

四天王・荘園のバフェは意味深な笑みを浮かべていた。

 

「キルキルキル……!」

 

四天王・殺戮のキルロードは一点を見つめている。それは光か、はたまた……

 

「さあ、永遠を始めよう!」

 

四天王・エターナルスタートが『物語』の始まりを告げる!

 

「面白くなってきたんじゃなーい? 遊んでもいいわけ?」

 

四天王・イイワケーがダイスを構える。

 

「泡沫は月の夜に照らされたほうがよく消える……」

 

四天王・シンジケート山田は目を光らせた。

 

「わたしはただ……、やさしさを忘れたくないだけなんです」

 

四天王・バリアブルストームは儚げな笑みを浮かべていた。

 

「ま、おれはなんでもいいけどね」

 

四天王・ハンバーグリンドバーグはけだるそうに天井を見ている。

 

「エヴィ・アブロ・ディシー・ゲラヴェイ……!」

 

四天王・プログラムTは暗黒プログラムインストール中……

 

「おはよう……」

 

四天王・グッドモーニングに朝はこない。

 

「おやすみ」

 

四天王・グッナイは夢をみない。

 

「さあ、面白くなってきやがったなぁ」

 

四天王・エフェクトボンバーは戦いの予感を感じて笑った

 

「あぁあ! めんどくせぇ! 全部焼き尽くしてやるよォ!」

 

四天王・ゴッデンフレイムは火力を上げたかった。

 

「シュルルルルルッッ!」

 

四天王・バイボンは目を細める。

 

「………」

 

四天王・ピクチャーノーは何も語らない。

 

「知ってる? 星って、遠いんだよ……」

 

四天王・ラストレムナンツは何を見ているのだろうか?

 

「ねえ、これみてぇ?」

 

四天王・イナヅは心の声を──

 

「いや四天王ッ何人いますのッッッ!?!?!?」

 

そう叫びながらメジロマックイーンは体を跳ね起こした。

 

「……っ?」

 

森の中で目覚めたことに強い違和感を覚えた。

ここはどこだ?

たしか、今日は『お嬢様部』で一緒にカフェに行こうと……

 

「ッ、大丈夫ですか?」

 

マックイーンは少し離れたところに男が倒れているのを発見した

すぐに駆け寄って体を揺らしてみると、男性はゆっくりと目を開く。

 

「ここは……?」

 

(わたくし)もどこなのだが……、ここに来た記憶がありませんの」

 

「っ、どうやらオレもそうらしい。アンタ名前は?」

 

「私はメジロマック──」

 

マックイーンは喉を押さえて俯いた。

 

「どうした?」

 

「い、いえ」

 

なぜだか言葉が詰まる感覚があった。

名前を上手く口にすることができない、そんな曖昧な気分だ。

 

「そいつはメジロマックイーン。そしてアタシの名前はゴールドシップだ」

 

「え!?」

 

木の陰からもう一人のウマ娘が姿を見せる。マックイーンの知り合いのようだ。

 

「アンタら、ずいぶん変わった名前なんだな。それにその耳と尻尾──」

 

「あん? ウマ娘なんだからそりゃそうだろ。てか、そういうお前は?」

 

「オレは犬塚(いぬづか)(つばさ)だ。今は逃亡──……」

 

「?」

 

「売れない役者をしている」

 

二人は犬塚のことを知らないようだ。ならば『無実の逃亡犯』だと告げる必要もあるまい。

 

「それよりゴールドシップさん。これはどういうことですの! どうせまた貴女の悪戯でしょう!?」

 

「……いんや。お前らよりは事情を知ってるかもしれねぇが、ゴルシ様も巻き込まれたものにしか過ぎないってことよ。マックイーン、腕を見てみろ」

 

「?」

 

マックイーンが袖を捲ると、肌に何やら『99』とある。

 

「こ、これは?」

 

「ゴルピッピポイントだ」

 

「貴女が関わっているとしか思えない名前なのですが……」

 

「困惑してるのはこっちも同じよ。いいかマックちゃん、落ち着いて聞けよ?」

 

「?」

 

「それがゼロになれば、世界が滅ぶ」

 

「えぇ!?」

 

「なんだと?」

 

「今、アタシのトレーナーに状況を偵察させてるが──」

 

ちょうどトレーナーが帰ってきた。

空から着地したのはゴールドシップの担当、王城(おうじょう)トレーナーである。

犬塚は思わず目を見開いた。

 

王城のシルエットががどう考えても異常なのだ。

体は屈強な長身の男といったところだが、頭部が『城』である。

しかもその城から小さな腕が生えている。

つまりこの男、腕が四本ある。

 

「日高のカイリキーって呼ばれてたんだよ。な?」

 

『ゴルシ……!』

 

「それで、どうだった?」

 

『ゴルッ、ゴルゴ……! ゴルシ』

 

「なに……? やはりッ、そうか。わかった引き続き偵察を頼むぞ!」

 

『ゴルシィイイ!』

 

王城は靴裏にあるブースターから火を放ち、空高く飛び去って行った。

 

「な、なんだあの男は! まったく意味が不明だ!」

 

「わかりますわよ犬塚さん。トレセンでも話題になってますの。明らかに人間じゃないトレーナーがいるって……」

 

「ンなことァどーでもいいんだよ! いいかテメェらよく聞け!」

 

王城トレーナーの報告によると、どうやらここは地球とは違う世界のようだ。

 

「つまり、異世界に転移しちまったってことだな」

 

「な、なんなんですのそれは……」

 

「いや、そう突飛な話でもないのかもしれない」

 

犬塚にはおぼろげながらここに至るまでの記憶があった。

はじまりは、いつものように警察に追われている時だった。近くに喫茶どんぶらがあったので、そこに逃げ込んだのである。

 

「悪いが、少しだけ匿ってもらえないか!?」

 

そういうと、はるかは鬼塚をカウンターの奥に押し込んだ。

そのおかげで、なんとか警察を撒くことができたのである。

 

「すまないな。迷惑をかけた」

 

「いえ、いいんですけど……」

 

「詫びにコーヒーでももらおうか」

 

カウンターの端でコーヒーを飲んでいると、楽しそうにはしゃぐ声が聞こえてきた。

犬塚は肩を竦めながら様子をうかがうと、そこには馬の耳と尻尾をもった女の子が見えた。

はて、そういえば以前も見かけたような。

それだけではなく警察から逃げるために脳人レイヤーにある扉を利用とした際も、うっすらとそういう子たちのシルエットが見えた。

店内をうかがうと、そういうコスプレイヤーがたびたび来ますと書いてあるが、どうにも引っかかる。尻尾も耳も動いているし、偽物とは思えない。

それになんだってそんな娘たちが来るのか?

以前もどんぶらには来ているが、こんなことは初めてだった。

 

「さすがに気になります?」

 

はるかが聞いてきた。

するとカウンターにいたマスターが視線だけを犬塚に送る。

 

「いいんじゃない。彼にくらいは教えても」

 

そこではるかは、犬塚に、今現在ウマ娘の世界と人間界が融合していることを告げる。

 

「つまり異世界同士が融合したというわけか……」

 

「結構、冷静ですね」

 

「驚いてはいるが、そういう内容の演目をいくつか演じたことがあるからな」

 

それに、イヌブラザーとして選ばれたことで、ある程度の耐性はついているというものだ。

 

「ごきげんよう。お久しぶりですわね」

 

「!」

 

隣に気配がして左を見ると、いつのまにかそこには女性が座っていた。

覚えがある。

以前、犬塚に愛する人が描いた絵を盗んでほしいと依頼してきた『伊集院(いじゅういん)瑞穂(みずほ)』だった。

 

「お前か、奇遇だな」

 

「ええ、こんなところで先生と再会できるだなんて」

 

「先生? おかしな言い回しをする」

 

「あら、私はずっとそう思っていましたわ。まだ逃亡生活は続けていらっしゃるの?」

 

「まあな……」

 

(わたくし)も結局あれから、やみつきになってしまいまして」

 

「?」

 

「今日も後で──」

 

そこで、入り口からまたウマ娘たちが入ってきた。

その会話が、犬塚の耳を貫く。

 

「警察の人多かったけど、何かあったのかな?」

 

犬塚は急いでコーヒーを飲み干すと、ポケットに入っていた小銭を叩きつけるようにカウンターに置いた。

 

「釣りはいい! 世話になったな!」

 

そう言って犬塚は店を飛び出していった。

 

「マスター」

 

「?」

 

「十円足りません」

 

「………」

 

「まあ、さすがですわ先生!」

 

こうして逃げ出した犬塚は、しばらく走り続けた後、さらに追ってを撒くためにサングラスをかけてレイヤー世界の扉を開いた。

記憶にあるのはどうにもここまでだ。

 

「異世界というものに紛れ込んだという説も、考えられるのかもしれない」

 

「そ、そんな!」

 

「とにかくアタシのトレーナーが近くに村を見つけた。まずはそこに向かおうぜ!」

 

たしかにここでジッとしていても仕方がない。

マックイーンたちはゴルシに連れられてその村を目指した。

 

 

歩く途中でわかったが、やはりどう考えても日本とは思えない景色が続く。

ビルや電波塔などもちろん存在せず、果てしなく続く平原や崖。

外国の人里離れたところならばと思ったが、遠くのほうには翼竜に近いシルエットが飛行しているようにも思える。

そうしていると三人は村に到着した。

既に王城トレーナーが先行しており、村長である『おばば』に話は通してもらっていたようだ。

 

彼女はマックイーンたちを見るなり目を見開いて固まる。

驚いているようだ。どうやらこの村では王城トレーナーよりも、ウマ娘のほうが珍しいらしい。

というのもこの村には古くからの言い伝えがある。

かつて魔王が現れた際に、ウマの耳と尻尾を持った『モンク』と『ヒーラー』たちが世界を救ったとされているようだ。

 

「やはりまた世界に何かが起ころうとしているのかもしれませぬ……! 実は先日も、ウマ娘がこの村にやってきまして」

 

「えぇ? 本当ですの!?」

 

「はい。どうやらヒーラーとしての資格を持っているようなのです。祠のほうにおりますので」

 

ということなので祠に向かってみる。

 

「すまないが、ちょっといいか?」

 

「どうかしたんですの?」

 

「いや、おばばと会話ができたのが気になった。異世界というのなら日本語が通用するのはおかしい」

 

「王城トレーナーがしてくれたのでしょう。あの人は頭頂部から翻訳光線をドーム状に発射することができます。それに照らされた方は言語が日本語になりますの」

 

「なんだそれは!」

 

「不思議ですわよね。でも実際そうなのだから不思議に思っていたらキリがありませんわよ」

 

そこで一同は祠に到着した。中に入ると、マックイーンはアッと声をあげた。

 

「ブライト!?」

 

「あらー、マックイーンさまぁ、奇遇ですわねぇ」

 

「貴女も異世界にきてましたの!?」

 

「はいー、わたくし、なにがなんだかよくわかりませんけれど、マックイーンさまとお会いできて安心しましたわぁ」

 

メジロブライト。

マックイーンとは親しい仲のようだが、どうやら彼女がこの世界に新たに舞い降りたヒーラーのようだ。

祠に納められていた(ワンド)を手にして魔法の使い方を学んでいたようなのだが、少々困ったことが起きているのだという。

 

「実はマックイーンさまたちが来る前にこれが届きまして……」

 

そう言ってブライト差し出したのは一枚の予告状だった。そこにはこう記されている。

 

『ヒーラーの杖を頂きに参上します。怪盗レッドシャドー』

 

「なにぃ! あのレッドシャドーが!?!?」

 

「ッ、知っていますのゴールドシップさん!」

 

「いんや」

 

「だろうと思いましたわ! もう! 知らないなら黙っててください!」

 

そこで犬塚は、ぷんすこと憤るマックイーンの手から予告状を抜いた。

 

「怪盗か。随分と世界観に似合わない存在が出てきたな。それにしても……」

 

「?」

 

「この予告状、肝心のいつ奪いに来るかが書いてないぞ」

 

「本当ですわ! これはいったい……」

 

「そこまで優しくないのか、あるいはただのマヌケか……」

 

ウマ娘が召喚されていることを考えると、また何かしら『世界の危機』が訪れる可能性もある。

そうした場合、この杖は必ず役に立つ代物なので、奪われることは避けたい。

他にやることもないし、とりあず村にある書物を祠に持ってきてもらって、それを読みながら時間をつぶすことにした。

 

「あー! 飽きた! 外でエアリノベーションをエア大家族に提案してくるわ」

 

「はいはい」

 

マックイーンは本から視線を外さない。ゴルシは嫌そうな顔して祠を出て行った。

 

「……トレーナーもそうだが、アイツも変わったヤツだな」

 

「ええ、本当に」

 

「親しいのか?」

 

「よくわかりませんわ。いっつも纏わりついてきて……」

 

「アンタのことが好きなんだろうな」

 

「まさか。誰に対してもあんな意味不明な態度で」

 

「そうか。じゃあそっちの……メジロブライトだったか? 名前が似てるが姉妹なのか?」

 

「いえー、憧れのマックイーンさまと姉妹だなんて、恐れ多いですわぁ」

 

「ですが他人でもありません。私たちは同じメジロ家のウマ娘ですの!」

 

メジロ家。

長きに渡り数多くの名ウマ娘を輩出し続けている名門一族で、英才教育を受けたエリート集団なのである。

ウマ娘界隈の中ではその名を知らぬものはいないと言ってもいい。

マックイーンもブライトも自らがメジロのウマ娘であるということに誇りを持っているらしい。

いかに素晴らしいのかをしばらく犬塚に熱弁していた。

やがてその締めに、マックイーンはこう語る。

メジロ故に、勝たなければならない──と。

 

「ですから一刻も早く、元の世界に戻らなければなりませんわ……!」

 

すると祠の扉が開き、ゴルシが戻ってきた。

 

「なあ、こんなんありましたけど」

 

それは怪盗レッドシャドーの第二の予告状であった。

 

『申し訳ありません。時間を書くのを忘れていました。あと一分後に伺います』

 

「……どうやらマヌケのほうだったみたいだな」

 

「で、でもあと一分って!」

 

「とにかくお前らはここにいろ。オレが様子を見てくる」

 

腹の立つ話である。

この予告状を見てから一分なのか、置いてから一分なのかがサッパリだ。

だがいずれにせよ時間はほとんどない。祠の周りには高い建物もないし、隠れられそうな場所もないため、何者かが近づいてきたら絶対にわかるはずだ。

 

『ドン! ブラスター!』

 

光が迸り、宙に浮かぶドンブラスターの銃口が犬塚に向けられる。

 

「なにッ!? しま──ッ」『イヌブラザー!』

 

 

 

 

転送されたイヌブラザーは周囲を確認する。どうやら銀行の中のようだ。

向こうでは騎士竜鬼に似た『強欲鬼』が剣を振り回しており、既に先に到着したドンブラザーズたちと戦闘を繰り広げていた。

 

「クソ! こんな時にィ!」

 

すぐに銃を連射するが、鬼の装甲を前に弾丸は次々と弾かれていった。

 

「もっとお金が必要なんだ! 課金しろー!」

 

お札が舞っている。

どうやら鬼は、ウマ娘に課金をするために銀行を襲撃したらしい。

 

「そんな汚い金で課金して、企業やウマ娘が喜ぶと思っているんですか!」

 

「……ッッッ!!」

 

キジブラザーの言葉に、鬼は激しく動揺していた。

 

(動きが止まった。今がチャンスだ!)

 

そこをついてイヌブラザーが床を蹴る。

 

「来い! ムラサメ!」

 

銀行の窓を破ってきたのはギザギザの刃がついた紫色の刀だった。

それは空中を飛び回り、やがてイヌブラザーの手に収まる。

 

「ハァアアア!」

 

「ぐッ! ギガアアアアアアアアアア!」

 

イヌブラザーが飛んだ。

一閃。紫色の斬撃が鬼に刻み付けられ、直後爆発が起きた。

 

「ワンちゃん凄い!」

 

「ほう! 今のは悪くない動きだぞイヌブラザー! だが俺より目立つな!」

 

「うるせぇ! こっちには時間がねぇんだ! あばよ!」

 

イヌブラザーは光に包まれ、銀行から消え去った。

 

 

 

 

「なッ!」

 

戻ってくるやとんでもない光景が飛び込んできた。

ゴルシたちや、おばばに、傭兵ムッキスまで倒れていたのだ。

さらに祠の扉は開いており、中に入るとヒーラーの『ワンド』が無くなっているではないか。

 

「しまった! 盗られたのか……!」

 

「おせぇぞ犬塚……! テメェ、どこに行って──、ぐっ!」

 

「ゴールドシップ! 大丈夫か!? 何があった!」

 

「レッドシャドーのヤツ、怪盗のくせに普通に歩いてきやがったんだ。そんでワンドを盗ろうとしたから、アタシは堂々と犬ゲームで勝負しようって……ッ!」

 

「犬ゲーム?」

 

「知らねぇのか? ゴルシ様は腕に覚えがあるんだ。だから余裕でいけるだろうと踏んで、イッヌアイズ首輪構築で挑んだんだが、野郎イヌシーズーパグズメンツ構築を持ち出してきやがって!」

 

「よ、よくわからんが、負けたのか!」

 

「すまねぇ、ワンドを盗られちまった……!」

 

そこでマックイーンたちも起き上がる。

気絶していただけで、怪我はしていないようだ。

 

「顔は見たか?」

 

「も、申し訳ありません。マスクをしてまして……! でも女性でしたわ!」

 

「女か……」

 

そこで、空から王城トレーナーが飛来し、拳を地面に叩きつけながら着地する。

 

『ゴルシ! ゴルッゴルゴルゴルシ……!』

 

「んだとぉ!?」

 

『ゴルゴルゴル! ゴルシ!』

 

「馬鹿な……!」

 

「あ、あの、前から気になっていましたが、何言ってるかわかりますの?」

 

「馬鹿野郎! 心で聴くんだよ!」

 

「お前もわかってないのか!」

 

「んなことどうでもいいだろ! 大変なんだよ!」

 

王城トレーナーが掴んだ情報によると、そもそもマックイーンたちがこの世界に召喚されたのは冥王・『苦理悪愚利』が目覚めたからのようだ。

冥王は暗黒四天王を百人復活させて世界を支配しようとしているらしい。

さらにモンブラン王国が、シュークリーム星と同盟を結んでしまうと冥王の闇の力が究極的なものになるため、それまでにどうにかしなければ絶望的であると。

 

「しかもあの、晴天のアグニが動き出せば、世界の歴史が変わってしまうらしい。謎のごまだれ計画もひそかに進行しており、事態は急を要するんだとよ……! やべぇなこりゃ」

 

「「意味が分からない!」」

 

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