ドンブラザーズ×ウマ娘 俊足の残夢   作:ホシボシ

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ドン三話 おうごんのユーラン-3

 

お嬢様部。

楽しくお喋りをして、紅茶を飲んで、ケーキを食べて──

そして、一緒に練習して強くなる集まりのことである。

メンバーはマックイーン、ブライト、カワカミの三人だ。いずれキングヘイローやダイイチルビーも入ってくれれば楽しくなると話していた。

 

そんな中、マックイーンのデビューが決まった。

メジロのウマ娘としてようやくスタートラインに立てるととても喜んでいたし、ブライトたちもマックイーンの活躍を信じて期待した。

だが悲劇はすぐに起こった。

なんと彼女の担当トレーナーである『カメダ』は、詐欺師だったのだ。

 

もともとは山伏の格好で霊能力者を名乗り、一般家庭をターゲットとしていたのだが、ある組織に雇われた彼はマックイーンを陥れるために本物の担当トレーナーと入れ替わっていたのだ。

物腰の柔らかい彼をマックイーンは信用してしまい、差し出された紅茶を飲んでしまった。

そこに入っていた薬の影響もあって、ホープフルステークス5着という結果に終わってしまった。

 

「それは問題なのか?」

 

『はい。メジロ家のウマ娘でこの結果を出してしまったのは長い歴史のなかでもマックイーン様のみです。これは絶対に勝たなければならないレースだったのです』

 

悲報・メジロ家期待の新人さん。ドーピングをした上で五着ww

これはカメダが流したワードであるが、瞬く間に広がってしまった。

 

『ウマ娘にはファンという特殊な概念があります。それは時に数字で視覚され、そのウマ娘の価値としても認識されるようになるのです』

 

定期的にファン投票が行われ、そもまたメジロ家のウマ娘としては重要視するポイントであった。

 

『具体的に言えば、ホープフルステークス終了時には三千人を達成していないと論外とされています。しかし一連の事件もあってマックイーン様は……』

 

「達成できなかったというわけか」

 

『はい。これにより定期的に行われる評価会でマックイーン様が獲得したのは『E』判定。上に行くほど上がりますので、かなり低いということになります』

 

ネット上で彼女につけられたあだ名は、『メジロマックE-ン』という屈辱的なものだった。

 

『メジロ家は相撲の横綱のようなものです。引退条件は簡単です』

 

「負けること……」

 

『はい。ですので、マックイーン様はメジロ家失格の烙印を押されてしまいました』

 

「そうか……ん? だがちょっと待て、お前はなぜカメダが詐欺師だと?」

 

『怒りに燃えたゴールドシップ様と私がヤツの悪事を暴いたのです。惜しくもカメダ本人は逃してしまいましたが、真実は世間に公表され、マックイーン様のドーピング疑惑等は払拭されました』

 

だが同情の声は多数上がったものの、バッシングが消えることはなかった。

 

『メジロ家は良くも悪くも、あまりに巨大』

 

「嫉妬や期待。騙されたという事実は消えないか……」

 

『そういうことです。ネットでは今も引退を求める声が多く見られています。一部ではサクラを雇っているという話も聞きますが、いずれにせよマックイーン様は深く傷つきました』

 

「ああ、気の毒だ」

 

『そんな時です。特別移籍の話が出たのは」

 

主に地方のレース場や、あるいは今後発展するだろうウマ娘のレースを考えて様々な団体に所属して『走るなど』をする。

あるいは、なんらかの影響でレースに出られなくなったウマ娘たちのリハビリを行うなど、一口に移籍と言っても中身は多岐にわたる。

 

『一つだけ言えることがあるのなら、特別移籍はありとあらゆるウマ娘を受け止める楽園への招待状なのです』

 

産むからと意地を張ったウマ娘も、今は無事に出産を終えて母子共々健康でトレーナーと幸せに暮らしている。

やたらと変な語尾をつけて喋るようになったウマ娘も、今は占い師として成功している。

金策のために酷使されてしまったウマ娘も、今はもうすっかり元気になって楽しくやっている。

闇のわだすも、消えずに幸せにしているべ。

 

『しかし移籍するということは、少しオブラートに包んだ言葉でもあります』

 

違う言い方をすればそれは表舞台から消えるということでもあった。

事実、移籍経験のあるウマ娘はチャンピオンズミーティングの参加資格を永久にはく奪されるというシステムもある。

マックイーンは、それを受け入れることができなかった。

レースで活躍するだけがウマ娘じゃないと言われても、メジロとして生きる彼女のプライドがそれを許せなかったのだ。

だから──。そこで映像が切り替わる。

 

「駆け落ちしようぜ、マックちゃん」

 

ゴルシが笑っていた。

すると再び映像が切り替わる。

そこには暗い長髪の男と、気の弱そうな少女が映っていた。

 

「"ナイチンゲール"は、VRウマレーターを利用したメディカルリラクゼーションシステムです」

 

研究者の倉敷(くらしき)刀馬(とうま)はウマ娘の視線に気づくと疲れたようにため息をつき、助手であり妹でもある倉敷(くらしき)杏果(ももか)の肩を叩いた

 

「あ、あのっ、ここからはモモカが説明しまひゅ……!」

 

そういって杏果はヘッドギアを取り出す。

 

「記憶をつかさどる部分に刺激を与えて、トラウマになった部分を忘れる機能もあります。ウマレーターのようにいろいろなゲームに繋げて、その世界を冒険することで、ストレス値を下げるんです……! 過剰なストレス値は腕かどこかに上限100で表示されて、それがゼロになれば一般的な精神状態になると思われます……! だよね、お兄ちゃん!」

 

「ああ。没入こそ嫌なことを忘れる一番の要素であると思われますから……ぬぷふふふ」

 

(笑い方きも……)

 

ウマ娘たちが怯んでいると、その中をかき分けるものがいた。

 

「それ、使わせてくれ」

 

ゴールドシップは、気絶させたマックイーンを抱えていた。

 

 

 

 

「そういうことだったのか」

 

すべてを知った犬塚は唸った。

つまりこのカオスワールドはナイチンゲールが作り出した仮想世界だったというわけだ。

マックイーン以外のウマ娘は事情を知っているようで、ならばあの落ち着き方や適応力も理解できるというものだ。

 

「だが待て、オレはそんなものをつけた覚えはないが……!」

 

『それは私にもわかりません。なんらかの事情で、犬塚様もマックイーン様と同じように記憶が制限されている可能性があります』

 

「……っ」

 

『とにかく今はマックイーン様です。今回はステージにファンタジーゲームを使用しているため、ボスを倒してしまうと治療が終了してマックイーン様が目覚めてしまうのです』

 

「なるほど。話を聞くにあのゴルピッピポイントと呼んでいたのがストレス値か。まだゼロには遠いな」

 

『はい。ですので、時間を引き延ばしたいのですが、あいにく(エネミー)データが残っていないのです』

 

「そういうことならば仕方ない。オレが一肌脱ごう」

 

『感謝いたします。それでは五秒後に帰還します』

 

5

 

4

 

3

 

2

 

1

 

「クワーッ! クワックワックワックワックワーァッッ!!」

 

「!?」

 

悪魔――、覚醒。

 

「犬塚さん!?」

 

「ん黙れ! そんな男などもう存在しないクワッ!」

 

そう、犬塚翼とは仮の姿でしかない。

真の姿とは、大悪魔・『ブラックワックワデビル』だったのだ。

 

「メジロマックイーン! よくも我々の計画を邪魔してくれたな!」

 

「まさか、はじめから私たちを!」

 

「ワッワッワ! ワルワルワル! その通り、オレははじめっから敵だったのだ!」

 

「何をするつもりですの!」

 

「貴様をチクチクしていじめてやるクワーッ!」

 

「クロスイレイズエクセリオン!」

 

「クワあああああーッ!」

 

無数の天使型攻撃ビット『エクセリオン』に囲まれ、ブラックワックワデビルは浄化されていく。

 

「あんだ!?」

 

ゴルシが周囲を探ると、空に裏四天王の一人である『クロエ』が翼を広げて浮遊しているのが見えた。

しかし彼女はゴルシの必殺技で吹っ飛んでいったはず。

戻って来たのか、それとも――

 

「ふふふ!」

 

「ッッ、まさかテメェは……! タロマツか!」

 

「そ――、いや誰だ!? タロマツ!? ん!?」

 

「冗談だぜ、前島ァッッ!!」

 

「だから誰だ! 私はカメダだ!」

 

「!?!?!?!?!?!!?」

 

「ククク! 今頃気づいたのかゴールドシップ!」

 

「?!?!?!?!???!?」

 

「お前らに計画を邪魔された時から――」

 

「!?!?!?!?!?!?!?」

 

「もういいだろ! もう驚かなくていいだろ!」

 

「カメダぁああああああああ!」

 

「テンションを合わせろ! くそ、だめだ! 疲れる! もういい!」

 

奇しくも、カメダはその言葉を叫んだ。

 

「アバターチェンジ!」

 

アバターを変える。

クロエの姿から、アグニへと変わって着地した。

詐欺師カメダ。マックイーンを陥れて逃走としたと聞いたが、どうやらマックイーンが治療中と聞きつけて自らも仮想世界に潜入していたようだ。

メジロ家の衰退こそが彼に与えられたミッション。

それは今も変わっていない。

 

「ハァアアア!」

 

カメダが手をかざすと、天から紫色の光が降り注いで、ゴールドシップたちを照らす。

 

「ぐあぁああ!」

 

ゴールドシップは頭を押さえて膝をついた。

彼女だけではなく、ブライトやカワカミも苦しみだす。

もちろんマックイーンもだ。腕を見るとポイントが急上昇しているのがわかった。

 

『何をした!』

 

王城トレーナーはカメダのほうを目指すが、凄まじい抵抗感を感じて動きが鈍る。

まるでドロドロのスライムの中に沈んでいるかのようだ。

体が重すぎて、前に進むことができない。

 

「なに、少々、機械を弄らせてもらったまでだ」

 

ストレスを軽減させることができるなら、逆にストレスを与えることもできる。

光が精神的な負荷を与え、それはやがて身体にも影響を及ぼすだろう。

 

「これはいい! 心が壊れてしまえば走ることはできなくなる! これならどんなに鍛えたウマ娘だって簡単に壊すことが――」

 

カメダは言葉を止めた。

これ以上喋ると殺されると、本気でそう思った。

それほどにメジロマックイーンの眼光は鋭く、ただまっすぐにカメダを睨みつけていた。

なによりもこの凄まじいストレスの中、彼女は怯むことなく立っている。

 

「私はメジロのウマ娘として、誰にも負けないものを抱えていると自負しておりましたわ」

 

「な、なんの話だ!」

 

「覚悟の話です。ですがトレセン学園で知ったのは、誰もが私と同じものを抱えているということ! カワカミさんも、もちろんブライトも、そしてなによりもゴールドシップさんもですわ!」

 

マックイーンは地面を蹴った。

 

「走りたいと願うウマ娘の想いを踏みにじり、悲しませようとすることだけは!!」

 

「!」

 

「許せませんわ!!」

 

マックイーンは走った。

走り、走り抜け、カメダの背後に回る。

 

「速い!」

 

「たりめぇだろ! マックちゃんはなぁ!」

 

頷きあうマックイーンとゴルシ。

 

「一番すげぇ! ウマ娘なんだよォオオオオオ!」

 

マックイーンは水鉄砲から水を。

ゴルシはバズーカーを取りだしてマックイーンとゴルシの顔をした水風船を発射した。

カメダは二方向からくる攻撃に反応できず、真っ向から受けてしまう。

 

「な、なんだこれは!」

 

ただの水かと思いきや、空気に触れると一気に粘着性を増してトリモチとなる。

顔にもへばりついているため、目が開かない。

そうしているとカメダの足元に火花が散り、衝撃で彼は地面に倒れた。

すると空から次々とゴルシの周りに人影が着地していく。

 

「よおゴルシ! 待たせたな!」

 

「ジェームズ!」

 

「ふん……!」

 

「ラホマン!」

 

「わたしもいるわよ!」

 

「エリアン!」

 

「ほっほっほ!」

 

「ジーマス!」

 

「おっとと、遅かったかぁ?」

 

「雄三!」

 

「オイラもいるよぉ!」

 

「もっつぁん」

 

「ぴーっ!」

 

「ピーマン!」

 

「行くか!」

 

「山田大吉三世!」

 

「よっ!」

 

「ジュニア!」

 

「ぷるるるる!」

 

「チーマンジャパン! っしゃお前ら来てくれたのか!!」

 

「いやだから誰ですの全員! 見たことありませんわ!!」

 

ゴルシーズは手をかざし、ゴールドシップたちにパワーを送る。

すると天から光が伸びて、ゴルシとマックイーンの姿を変えていく。

 

「こ、これはなんですの!?」

 

「魂の光だ! そうか、あいつら……力を貸してくれるのか!」

 

極限なる輝き。

見よ、ゴールドシップとマックイーンがウサギの着ぐるみに身を包んでいた。

 

「完成! バニーマンフォーム!」『脳天直撃です♪』

 

一瞬グラスワンダーの声がしたような気がしたが、気のせいだろう。

ゴルシとマックイーンは互いの足を掴み、輪を作ると猛スピードで転がり跳ねた。

 

「なに!」

 

輪っかの部分にカメダを入れて、がっしりとホールド。

さらにそこで王城トレーナーが黄金に光り輝き、人差し指をカメダに向けた。

 

「指ビィイイイイイイイイイイイムッ!」

 

「うぎゃあああああああああああ!!」

 

光線が直撃すると、カメダのアバターデータが消し飛び、完全に消滅した

ちなみにここに翼はいない。

先ほど三度、ドンブラスターが現れたからだ。

 

「ウマネストは面白いんだァアアア!」

 

奇しくも同じタイミングで鬼が倒れ、爆発していた。

犬塚が再転送された時、ゴルシやブライトたちは皆、マックイーンを囲んで心配そうに声を荒げていた。

見ればマックイーンが倒れて苦しげにしている。

 

「どうなってる!」

 

「過剰負荷の中、無理をしすぎたんだ。だから大きすぎるストレスがかかって、それで……」

 

「どうすれば治る?」

 

『オルジュの葉が必要かもしれません』

 

王城トレーナーがいうには、それを煎じて飲ませればとてつもないリラックス効果があるというアイテムらしい。

ナイチンゲールはある程度アイテムの効果も実際のヒーリング効果とリンクしているため、ストレス値を一気に下げる効果が望めるかもしれないとのことだ。

 

『ですがこれは最難関ダンジョンである龍の渓谷の最深部にて、低確率でしか見かけないかなりのレアアイテム。はたしてドロップするかどうか……!』

 

「そんなこと言ってられませんわ! 行きましょうブライトさん! ゴールドシップさん!」

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

「え? 犬塚さん?」

 

「とにかく! ちょっと待ってろ!」

 

犬塚は走り、サングラスをイメージする。

すると手にサングラスが出現した。

それをかけてレイヤー世界のフィルターをかけて扉を開くと、犬塚は喫茶どんぶらにワープした。

急いで中に入ると、カウンターにいるマスターに話しかける。

 

「なあアンタ! 前に言ったよな! 喫茶どんぶらに無いものは無いって」

 

「……言ったよ」

 

「オルジュの葉って置いてないか? 流石に――」

 

「あるよ」

 

「よし!」

 

どんぶらの冷蔵庫を開くと、大葉のとなりにおいてあったので、それを掴んで犬塚は再びレイヤー世界の扉を開く。

犬塚はすぐにオルジュの葉をおばばに渡し、それを煎じてもらってマックイーンに飲ませた。

 

 

 

 

『次のニュースです』

 

詐欺及び恐喝容疑で逃亡中のカメダツトム容疑者が逮捕されました。

冷蔵庫を開けたら、頭部が城の男が出てきて取り押さえられたなどと意味不明な供述をしており、警察は薬物使用も視野に入れて──

 

 

 

 

「………」

 

しばらくして、マックイーンの呼吸のリズムが変わったことに気づいた。

深く息を吸って、深く吐き出す。

しかし、目は瞑ったままだ。

 

「マックちゃん。おめー途中から気づいてただろ」

 

ゴルシが話しかけると、しばらくしてマックイーンはもう一度深い呼吸を繰り返した。

 

「べつに。ただ……」

 

「おん?」

 

「貴女が何かを企んでいることだけはわかりましたわ」

 

「ほーん」

 

「ずっと一緒だったからわかるんですの。些細な嘘だったり、そしてそういう時はだいだい私のためを想ってくれているのだということが」

 

「………」

 

「どうするつもりでしたの。無理やり引きずり込んできて、それで終わりじゃありませんわよね? ここで一生遊び続けることなんてできませんわ……」

 

「このゴルシ様の高尚な考えをマックちゃんが理解できるとは思えねぇな」

 

「なんですって!?」

 

「いつものように戻ってほしかった。ここで楽しみを覚えさせれば、走る者としての夢以外を見つけられる――」

 

そうブライトが呟いた。

 

「ですわよね?」

 

ブライトはゴルシを見るが、肩を竦められるだけで返事はない。

一方でマックイーンはしばらく沈黙していた

意図はわかる。わかるが――

 

「メジロ家のウマ娘に走るなだなんて……」

 

「苦しくないのか?」

 

「………」

 

「いつものお前なら、苦しくてもすぐに苦しくないって言ってたぞ。でも今は黙ってる」

 

「それは……」

 

「いいじゃねぇか。数多くの宇宙には、そんな結末もあるだろ」

 

マックイーンは首を振る。

 

「だとしても、私は、私が……」

 

再び沈黙が続いた。

すると犬塚が口を開く。

 

「違いは間違いじゃない」

 

「え?」

 

「オレの父は料理人だった。だからオレも、途中までは料理人になろうとしたが、ならなかった。きっとメジロ家にも、そんな奴がいていい。違うか?」

 

「でも、でも……」

 

「もしも過去に例がないなら、お前が最初になればいい。現にお前がカメダに向かって走った時、お前の脳裏にはきっと傷ついたウマ娘たちがよぎったはずだ」

 

「………」

 

「お前は強い。だがこの世にはもっと弱いヤツらがいる。大衆の光になることもまた、メジロ家にしかできないことかもしれないぜ」

 

「………」

 

マックイーンは小さく頷いた。

やがて、もう一度頷いた。

 

「ブライト」

 

「はい」

 

「私はコースにバトンを落としてしまいました。リレーにおいてはとても大きなミスです」

 

「………」

 

「どうか、貴女が拾ってください」

 

「……はい。必ずや」

 

ブライトはスカートの裾を摘まんで深くお辞儀をした。

マックイーンは目を閉じていたが、しっかりと伝わったようだ。

 

「カワカミさんも、また一緒にお茶をしてくださいますか?」

 

「もッちのロンですわー!」

 

マックイーンは少しだけ唇を吊り上げた。

 

「ゴールドシップさん」

 

「んん?」

 

「前に私に言ったこと、あれはその……本気ですの?」

 

「なんか言ったっけ?」

 

「ですから! か、か、かけ……かけ」

 

「ああ。かけそばでワールドカップ目指そうって話か?」

 

「……おばか」

 

「ごめんなさい。ガチでわかんない」

 

「はぁー」

 

「まあでもあれだ。このゴルシ様と一緒なら、きっと永遠に退屈はしないぜ?」

 

マックイーンはニヤリと笑った。

しかしなんだかムカついたので、両手両足を広げて鼻を鳴らす。

 

「テストですわ。覚悟を試すテスト!」

 

「???」

 

「定石を知りませんの? 眠っている姫を起こすにはどうすればいいかくらい知っておいてほしいものですわ」

 

「……ゴルシ様の教養をナメんなよ」

 

「………」

 

「違っても怒るなよ」

 

ブライトとカワカミは、「まあ」と口を覆って頬を赤く染めた。

 

 

 

 

「面白かったですわ。最近のゲームは進化してますわね」

 

瑞穂はヘッドギアを外し、隣にいる犬塚も同じように外した。

 

「これは……!」

 

「木を隠すなら森の中。人を隠すなら人の中。警察も先生がゲーム喫茶にいるなんて思いませんわよ」

 

 

VRアドベンチャ―。キミもなりたい自分になれる。

壁にあるポスターにはそう書かれていた。

 

「そうか、そうだったな。オレは逃げるためにここに寄ったんだ成ったな……」

 

喉が渇いたので、ジュースを飲もうとドリンクコーナーにやって来ると、たまたまそこに私服警官が立っていた。

 

「犬塚!」

 

「まずい!」

 

犬塚は走り、出口を目指す。

 

「先生ー、おたっしゃで~」

 

瑞穂は手を振り、もう一度仮想世界で怪盗になるため、ブースに戻っていった。

 

 

 

 

『ゴルシちゃんのぱかチューブ!』

 

 

「ごるごるごっつぁんです! ども、ぴすぴーす! ゴールドシップだぜー!」

 

「なんですのその挨拶は!」

 

「はー? いつもやってんだろ?」

 

「初めて聞きましたわよ! あ、どうもみなさまごきげんよう。メジロマックイーンですわ! さて今日の企画は好きなスイーツベスト50ですわ!!」

 

「なんかこういうのって多くてもベスト5とかなんじゃねーの?」

 

「それじゃあ足りませんもの! まずはこれ! 六王製菓のテロスシリーズですわ!」

 

「あー、これウマいよな。馬だけに。ってわしゃシンボリルド――」

 

「チョコが一番ですわ。テロスと言えばコレですわ。種類はいっぱいありますけれども。これだけあれば、勝ちですわ!」

 

「ほーん。なるほどなぁ。じゃあゴルシちゃんの50位は──」

 

「続いて第49位! アモジのゴールドキャラメルパイですわ!」

 

「え。嘘だろお前それ49? この前つまみ食いしたら、阿修羅みたいな顔してたじゃんかよ」

 

「それが49位というところが今回のランキングの期待値を物語っていますわよね! こちらは待望の新商品なんですけれども、今回はキャラメルですわ。キャラメルなんてなにをどうしても美味に決まってますわ。おいしすぎて手が止まりませんわ。パクパクですわ!」

 

「まあ確かにめちゃんこ美味かったな。さてゴルシちゃんの50位なんだけど――」

 

「次はナカモリの糖質オフクッキー、ペロリですわ!」

 

「え? これもしかしてひとりごと?」

 

「もう毎夜コレですわ。ええ、毎夜」

 

「なんでちょっと誇らしげなんだよ」

 

「そのままつまんで食べられるこの商品。どうです? 見てくださいませ、ほら、速いでしょ口まで運ぶのが」

 

「それマックちゃんのさじ加減じゃないの?」

 

「ほんのり甘いのが逆にいい感じで。これ食べて炭酸水レモン飲んでこれ食べて、炭酸水飲んでこれ食べて炭酸水飲んでこれ食べて炭酸水飲んでこれ食べて炭酸水飲んで」

 

「おかしくなりそう」

 

「それですわ!」

 

「びっ! くり…した……! なに? なにが!?」

 

「永久コンボですわ!」

 

「へ?」

 

「永久機関の完成ですわ!!」

 

 

 

どんぶらこ♪ どんぶらこ♪

DON! DON! ゆらりゆれて♪

目指すは♪ どんなハッピーエンド?♪♪♪

 

 

 

『ゴルシちゃんのぱかチューブ!』

 

 

「お、さっそくコメント来てんじゃねーか。なになに? ゴルマクてぇてぇ、ゴルマクはある……」

 

「ひとッつも見当たりませんけれど」

 

「んだよノリわりぃな! ってわけで、ぴすぴーす! ゴルシちゃんだぁぞ! んみゅ!」

 

「皆様ごきげんよう。メジロマックイーンですわ」

 

「そうだマックちゃん今日はな、ゲストもいるんだぞぉ」

 

「まあ、どんな方でしょう?」

 

「お前の闇は、何色だ? どうも、パールダイス所属のリュビエ・フルールドリカよ! 今日はお二人に指導しに来てやりましたの」

 

「指導ですの?」

 

「ええ。ブイチューバーとしてもウマ娘宣伝担当としても、お二人にはまだ足りない技術があると思ってね」

 

「痛いところをついてきやがる。確かにセミのモノマネはそろそろ覚えとかねぇとと──」

 

「真逆よ! ASMR!」

 

「えー、えす? ですか?」

 

「ええ。バーチャルに生きるもの、オタクを癒し眠らせてなんぼです。今日はその技術を──」

 

 

 

 

「きこえますか?」

 

「きこえてるぞー」

 

「あなたに言ってませんわよ」

 

「いいぞマックちゃん。囁きながらのツッコミをものにしたな」

 

「鼓膜ないなったを防ぐためですもの。当然ですわ」

 

「よし、じゃあ……さっそくやっていくか」

 

「ええ。いきますわよ」

 

「「てーてー、てーてってっててー、てぇー、れーれれれーれー」」

 

「かぁんかぁんかぁんかぁんかぁん」

 

「かぁんかぁんかぁんかぁんぎぃん」

 

「「てーてー、てーてってっててー、てぇー、れーれれれーれー」」

 

「ぎぃんぎぃんぎぃんぎぃんぎぃん」

 

「ぎぃんぎぃんぎぃんぎぃんぷりぃん」

 

「「てーてー、てーてってっててー、てぇー、れーれれれーれー」」

 

「ぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃん」

 

「ぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃん」

 

「「ぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃんぷりぃん……」」

 

「ZZZZZZZZZZZZZZZZZ」

 

喫茶どんぶら。

今宵、マスターは最高の寝オチを体験したのであった。

 

 






じかーいじかい

【ウマ娘アンチ襲来! そんなオワコン、まだやってたんだ(笑)】

ここで一句
夏近し
初の課金は
ウマ娘

【心の闇と、決着をつけろ!】

たしかにゲームも競馬も、ましてや俳句もなくてもいいものなのかもしれない。
だがあれば人生の何かが変わる。変えられる。
数多くの人間が文字の中に生きて死んでいった。
それはきっと、貴方もだ。

じかい、『バイバイのマホウ』 と、いう……おはなし


………


ドーンとハッピエーッンッッ

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