その後、二人は瀬戸内を連れてトレセン学園にやって来た。
案内されたトレーナー室に入ると、そこにはロブロイと真庭トレーナー、ハヤヒデと備前トレーナーが待っていた。
「大丈夫ですか? 襲われたって聞いたけど」
「おい真庭、なんでちょっと嬉しそうなんだよ」
「おれ、余裕なくなってる瀬戸内さん好きなんだよなぁ」
「だ、大丈夫でしたか!?」
「ロブロイは優しいねぇ。ああでも念のためバクちゃんには黙っててくれな……」
謎の集団に襲われた。
それを話すと、備前はタブレットを操作してデータを表示する。
「同様の事件が他にも二件、報告されているようだ。一つは担当ウマ娘が駆けつけて男たちは逃走し、もう一つはたまたま通りかかった消防士の男性が助けに入ったことで事なきを得たようだが……」
二件目の事件は、男性が助けに入る前に、犯人グループの一人がトレーナーに担当ウマ娘の名を聞いてきたという。
なにかあると思い、トレーナーは担当ウマ娘の名を明かさなかったが、そしたら怪我をさせると脅されたようだ。
「担当は誰だったんだ?」
「ブリッジコンプだ。自分やトレーナーが狙われる理由に心当たりがないか聞いてみたようだが、特に思い当たる節はなかったそうだ」
「ここ最近、めちゃくちゃ調子いいって子だな。注目も集めてるから本人の知らないところで恨みをかってる可能性はあるか」
「データによると過去には捏造された発言を信じた一部のファンから、トレーナーが狙われる事件があったらしいが……」
「……まあ気にしてても仕方ねぇ。とりあえず警察いって、あとで学園に報告しておくわ」
瀬戸内はソファでお茶を飲んでいる猿原たちを見る。
「改めて礼を言う。アンタらがいなかったら、どうなっていたことやら」
「お気になさらないで。当然のことをしたまでですから。ね、真一さん」
「まあ、それが我々の役目、というものだからな」
「たしか──」
ハヤヒデはロブロイたちを見た。
するとロブロイは頷き、瑛子の件を説明する。
人が欲望に飲み込まれると鬼となる。
それを倒すのが、猿原たちドンブラザーズなのであると。
「鬼は人を消してしまうが、ドンブラザーズが鬼を倒すことができれば、消えてしまった人や鬼になってしまった人は元に戻る」
猿原が補足した。
それがルールであり、同時にそれはドンブラザーズにしか事態解決は不可能であるということを意味している。
「恐ろしいが、任せるしかねぇってわけだ」
「安心してください。皆さんの平和は必ず私たちがお守りします。ね? 真一さん」
「そういうことだとも。鬼のことは我々ヒーローに任せて、キミたちはキミたちのやるべきことをやればいい」
「そうだな……ただあれだ。せめて礼くらいはさせてくれ」
瀬戸内は財布を取り出すが、真利菜が慌てて止めた。
「お金をもらうヒーローだなんて! 気持ちだけで充分です!」
「そうとも。それに私は金が嫌いでね」
「そ、そうか? だがなんもナシってのはオレの気が済まない。せめてこれならいいだろ」
そう言って瀬戸内はトレセン学園近くにあるラーメン屋の無料券を差し出した。
「トッピング全部のせの特別バージョンだ。一枚で二人分使えるから。昼食にでも使ってくれ」
「で、ですが……」
「まあ、それくらいならいいじゃないか真利菜。無償というのはそれはそれで向こう側が気負うものだ」
「そうですか、でしたらありがたく頂戴します。そうだ、わがままついでにもう一ついいですか?」
真利菜はカメラを取り出して、一同に見せる。
「実は私、写真家でもあって。よろしければウマ娘さんたちを撮影させていただくことは可能でしょうか?」
「ああ、それなら後で──」
そこでトレーナー室にある電話が鳴った。
「どうぞ」
「ああ、悪いな」
瀬戸内が電話を取ると、まもなくして表情が一気に険しくなった。
「なんだって!? ああ、ああ……わかった。じゃあ後で」
「どうなされたんですか?」
「実は今度、チームレースっていうのがあるんだが──」
チームレースとは、チャンピオンズミーティングと同じく、定期的に開催される特殊なレースイベントのことだ。
短距離、マイル、中距離、長距離、ダート、それぞれの担当でチームを組んで計五回レースを行い、そこで獲得する評価点の合計で争うというものだ。
今、ハヤヒデたちが集まっているのも同じチームだからである。
彼女らの『B』チームは明日レースを控えているのだが、その会場に爆弾を仕掛けたという連絡があったらしい。
会場にはAIによる警備システムが存在しており、そこから判断すると99.9%は悪戯であるとされているが、トレセン側としては万が一にも生徒や観客たちを危険にさらすことはできないと会場を使用することはないと判断したようだ。
ただレース自体は開催してほしいという声もあり、そこの調整を今から行うらしい。
現段階ではレース場を変更し、警備員も増員して、手荷物検査などを徹底。さらには最新の爆発物探知機を導入するとある。
「しかしチャンピオンズミーティングとは違って、チームレースは割と小規模なイベントではあるが、今回はやけに力が入っているな」
「運営の一部は脅迫に負けて、レースを辞めたという例を作りたくないようだ。トレセン側は百パーセントの安全が保障できなければ中止にするべきと言っているが、そこも含めて調整中らしい」
トレーナーたちを入れての会議も行われるようで、瀬戸内たちはそちらに移動するようだ。
「真一さん。私たちはお邪魔みたいですし、失礼しましょうか」
「それがよさそうだ」
「何か困ったことがあれば、なんでもおっしゃってくださいね。すぐに駆け付けますから」
そういって真利菜はトレーナーたちと連絡先を交換して、部屋を出ようとする。
すると別れ際、ロブロイに声をかけられた。
「はるかさんはお元気ですか? 漫画、頑張ってくださいと伝えてほしいです」
「わかりました。英雄ゼンノロブロイさんの激励とあれば、きっとはるかさん、大喜びしますよ」
「え、英雄だなんて……でもありがとうございます。うれしい。照れますね、えへへ」
そのはるかはというと──
「どう? タロウ、今度のヒロインはね、加湿器の擬人化なの!」
「つまらん! 6点だ!」
「今ッ、わたしは! 人を殴りたいと! 思っている! 目の前にいるッッ、お前を!」
どうやら、あまり上手くいっていないようだ。
さて、猿原たちはというと、特にやることもないので瀬戸内からもらったラーメンの無料券を使うためにラーメン屋を目指していた。
「キミはラーメンは好きか?」
「ええ。写真撮影って結構体力使うんですのよ。だからがっつりしたものは好きです。真一さんは?」
「よく食べるよ。私はメンマ大盛が好みでね」
「歯ごたえがあって美味しいですものね」
「ああ。想像するのが簡単でいて楽しい」
「想像?」
「私には金がない。よってラーメンは頼めない。そこで空想のラーメンを注文するわけだ」
「………」
「真利菜。化け物を見るような顔で人を見てはいけないよ」
「……はぁ。真一さんが何を仰ってるのか私ちっともわからないわ」
そこで、ポツリと頬に感触が。
ここ最近雲が多い。そのせいもあってか雨が降ってきた。
あいにく傘はもっていないが、近くに屋根のある場所があったので、そこに逃げ込んだ。
「ここで一句」
足をとめ
山頂眺む
菜種梅雨
「どういう意味なんですか?」
「俳句の意味はさておき、空想の力は偉大だということさ。私にはここ一面に菜の花が見えるがキミはどうだ?」
「あら、バカになさらないで。写真は真実を映すけれど、その裏にある想いやメッセージを見る人々は想像します。そして時に人を、世界を空想する」
「なるほど。たしかにそうだ」
雨がやんだので、二人はまた歩き出した。
「ここ最近、強い拘りを持った人間が鬼になっているようだ。悪いこととは言わないが、空想の力を身につければ人は柔軟に生きられる。赦し、認めることは、時としてこの世で最も難しいことになる」
「それは、わかります。特に自分に非がないと思っている時はなおさら」
「そう。だが往々にして人は理不尽な目に合うものだ。その時に空想の力のない人間は、ただありのまま襲い掛かる現実に抗えずに飲み込まれてしまう」
二人は目的地にたどり着いた。
幸いに行列はできていないが、扉を開けるとなにやら騒がしい。
どうやら客の一人が店員にいちゃもんをつけていたようだ。
「やれやれ。アレもまた、空想なき人間の末路の一つと言えるだろうな」
「どうなされたんですか! ちょっと落ち着いてください」
真利菜は仲裁に入ろうとするが、客の男性は相当頭にきているようで、何か文句があるのかと真利菜を怒鳴りつけてきた。
すると、ため息まじりに猿原が間に入る。
「冷静になれ。周りが見えていないのか?」
「なんだと!!」
客の男は今にも猿原に殴りかからんとの勢いだったが、さらにそこで別の男性が二人の間に入ってきた。
「よしたほうがいい。このお兄さんはどうやら相当の手練れのようだ。怪我をするのは貴方のようですぜ」
「うるせぇ関係ないヤツらは引っ込んでろよ!」
「どちらに非があるのかはわかりませんが、あまり声を荒げるのは品がない。そうは思いませんか?」
男はさりげなく何か、バッジのようなものを客の男に見せた。
すると客の男は血の気が引いたように真っ青になり、そのまま何も言わずにフラフラと店を出て行った。
「ありがとうございました! おかげで助かりました!」
真利菜が頭を下げる。
「いえいえ、先に動いたお二人の勇気こそ立派です。それよか席が空いたようだ。さあさあ、さっきのことは忘れて、美味いラーメンでも食いましょう」
カウンター席。真利菜が座り、猿原が座り、そして男が座った。
ラーメンを注文し、待っている間、猿原は男を見る。
「俺の顔に何かついてますか?」
「ああ、すまない。知り合いに似ていたもので。失礼だが名前を聞いてもいいか?」
「ええ、構いませんよ。俺ぁ、シライと申します」
猿原はなるほどと思った。シライという名には覚えがある。
以前、猿原と共にラーメン道の事件に関わった『白井』という男と同一的存在なのだろう。
ニシノフラワーが異なるパラレルワールドにそれぞれ存在していたように、完全に一致ではないが限りなく近い人間がウマ娘界にいたのだ。
「その知り合いはラーメンが好きでね。ここで会ったことに不思議な縁を感じたわけだ」
「ほほう。そうですか。いや実は俺もラーメンにゃ目がなくてですね。昼は毎日ラーメンと決めてるんです」
「ほう、そうか。悪くない趣味だ」
「寿命は削ってるでしょうがね。へへ、兄さんは何か好きなものは?」
「私は俳句を嗜んでいる。わびさびを心得た、風流人なのだ」
「ほぉ、こりゃ面白いお人だ。まだお若そうなのに洒落てなさる」
シライと他愛もない会話を繰り返し、猿原は久しぶりの本物ラーメンに舌鼓をうった。
◆
釣り発言や捨て垢、それらは卑怯だ。
どんな意見も露悪的なアカウントなのだからと見過ごされるなんて不公平にもほどがある。
言葉は形を持った途端に真実になる。電子の海に嘘などないと、鈴木は思っていた。
そもそも最近、何かがおかしい。
違和感を感じたのはあの愛らしいオグリキャップに対する悪意のあるメッセージを見た時だった。
たくさんご飯を食べたり、ぬいぐるみに嫉妬したり、仲間たちとの掛け合いだったり、コミックスでの活躍であったり、とても素敵なキャラクターだ。
なのに、なぜ? 彼女に対する悪意がこんなにも溢れているのか?
「お、おもんない……? クソゲー? しょうもない?」
やめろ。やめてくれ。思い出して叫ぶ。
どうしてウマ娘というコンテンツで、キャラクターに悪意を向けることができるんだ。
コンテンツの成り立ちを考えてくれ。鈴木は虚空に向かって叫んだが、電子の世界に生の言葉など届くわけがない。
だから、その後、こんな発言を見つけた。
勘違いしないでほしい。誰もオグリキャップというキャラクターを悪く言っているわけではない。ゲームそのものへの不満、つまり運営の無能さに呆れているのだと。
(それがアンチだろうが!!)
鈴木は心の中で叫んだ。
しかも、おまけにその発言の主とは違う人間が、明らかにクリオグリを悪くのを目にした。
なにが『競走馬のことじゃなくてクリオグリという性能を悪く言ってるだけ』だ。
なにが『ゲームのことを言っているわけじゃない。ちょっと考えればわかるだろ。どんだけ読解力ないんだ』だ。
クリオグリは、性能も含めてオグリなんだ。
クリオグリを否定することこそが、もはやリスペクトに欠けた行為ではないのか?
『クリオグリ悪く言ってるヤツは落ち着け。お前らそのツイート馬主に見せることができんの?』
そんなコメントを見つけた。よく言ってくれた!
『まあ一番許せないのは運営なんだけどな』
ほへ……?
『こんだけヘイト集めてるのにキャラバランス調整しないのはどう考えても公式の甘え、ある種それは公式によるイメ損と言ってもいい。キャラへの罵詈雑言とか、死体蹴りライブとかまで言われてんのに調整サボってんのはオワコンって言われても仕方ないわな(笑)』
(お前アンチやろ! 裏事情も知らんくせに!!)
心の中で、叫んだ。
みんな忙しい。それくらい運営はわかってる。慎重になってるんだ。
なぜ長い目で見てあげることができないんだろう?
そもそもいくらクリオグリが強いからといって、悪意あるコメントを書いていい理由にはならない。
不満くらいはあってもいいとは思うが、そういう要望を送る場所だってちゃんとあるんだ。
なのに自分たちのことは棚に上げるのか?
どうしてそんな愚かなことができるんだろう?
鈴木は本気で疑問に思った。
何かがおかしい。
この前もトレウマ派とウマウマ派で争いが起こっていた。
同じウマウマ派でもカップリングで争いが起こっていた。
解釈違いがどうのこうのと、争いが起こる。
そのあとは二次創作論で荒れていた。
イナゴがどうとか、いいね稼ぎがどうとか。
何が起こっている? なぜ争いあう。
そもそも玉座が死んだからどうなる?
ラモーヌはラモーヌで強いはずだ。
なのになぜ集金だのと言われなければならない。
だいたいアンチに反応するのもアンチなんだ!
ウマネスト? 面白いだろ!
ゴミっていうな!
ゴミっていうな!!
チャンミに文句を垂れるな!
文句が生まれ、文句に文句を言うやつが生まれ、文句に文句を言うヤツに文句が生まれる。
沈黙一つできないで! なんでッッ!!
「ほよ?」
ウマ娘ファンが牧場に迷惑かけたらしい。あーあやっちゃった。
結局、気持ち悪いオタクを増やしただけでしたね。オワコン運営さん♪
!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!
「やめろおおおおおおおおおおおおおお!」
!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!
鈴木は走った。
「ウマ娘のアンチ……ッッ!」
鬼となりて駆けた。
「ウマアンチィッ!」
強欲鬼はひた走る。
「ウンチィイイイイイイイイイイイイ!!」
「うるさいわ!」
「あぁ!!」
彼を待っていたのは虹色の一撃だった。
煌々と輝く刀がラリアットのように首に入り、強欲鬼は仰向けに倒れた。
しかし次に襲い掛かる一撃は取り出した剣で受け止め弾くと、体を起こして剣を振るう。
刀とぶつかり合い、火花が散った。
一度後ろに飛んで距離をとるドンモモタロウと強欲鬼。
だが鬼の周りには既に他のドンブラザーズたちが位置を取っており、一斉に襲い掛かっていく。
サルブラザーの拳が。オニシスターの金棒が。イヌブラザーの蹴りが。キジブラザーの蹴りが強欲鬼を打つが、いずれもその攻撃は重厚な鎧に阻まれる。
「僕ァは今からウマ娘アンチ共をギタギタにしないといけないんだ! 邪魔をするなよ!!」
「これはッ!」
サルブラザーは気づいた。
殴った時の衝撃がまるで鎧に吸収されていくような感覚があった。
それは気のせいではない。強欲鬼が纏う鎧が光りはじめ、そして──
「それともあれか? お前らがウマ娘アンチだったのかァアアアア!」
衝撃波が放たれた。
それは今までの鬼が使っていた『拒絶の波動』よりもさらに強力な、『断絶の波動』である。
赤紫色のエネルギーが拡散し、体の小さなイヌブラザーははるか向こうに吹っ飛んで、やがて川に落水した。
『ロボタロウ!』
しかしドンモモタロウだけはブーストで鬼のほうへと向かっていく。
強欲鬼は吠え、再び断絶の波動を拡散させる。
するとロボタロウのパワーであったとしても、競り合い、そこで動きが完全に止まった。
「マンチィイイイイイイイイイ!」
強欲鬼がドンモモタロウを切り抜けた。
ドンモモタロウも一瞬の間に刀を構えたが──
「!!」
ザングラソードが、折れた。
振り返ると、エネルギーを蓄えて赤紫に光を放つ剣を振り上げている強欲鬼が見えた。
「ボクを忘れていませんかー!?」
声がして新たなロボットが着地する。
ロボタロウ状態のドンドラゴクウと、ドントラボルトが合体することにより誕生した
「炎虎龍々!」
ドラゴン状のエネルギーが放たれた。強欲鬼は剣でそれを切り弾く。
するとすぐにトラ型のエネルギーが襲い掛かり、強欲鬼に食らいかかる。
しかし鎧がエネルギーを吸収し、それを乗せた断絶の刃がトラを切り伏せた。
「ジロウ‘sハリケーン!!」
しかしトラドラゴンジンの本命は持っていた剣である。
それを突き出すと、剣が伸びて強欲鬼のみぞおちを突いた。
一点集中の一撃は、固い鎧を貫いて、中にいる鬼の肉体へ深く突き刺さる。
「ぐあぁああああああああああああ!」
強欲鬼は絶叫と共に爆散し、消え去った。
「ま、前より強くなってませんか?」
キジブラザーがフラフラと戻ってくる。
「鬼になるたびに強化されているのか?」
「……ほう、面白い」
ドンモモタロウは意味深な笑みを浮かべ、仲間たちと共に消え失せた。
◆
翌日、猿原と真利菜はレース場にやってきていた。
昨日の会議で、レース場を変更し警備体制を整えてから、一般客に場所を教える。
ということになったらしい。
トレセン学園側としてはライブビューイングによる一般客の入場を制限するべきだと伝えたが、どうやらそれは通らなかったようだ。
とはいえ、折衷案を用意されたわけではある。
それを科学者の倉敷と、助手の杏果が説明してくれた。
「最新鋭の警備システム・千里眼を導入しています。ぴゅふふ」
「千里眼?」
「ええ。AIが……」
倉敷は疲れたのか、杏果に丸投げする。
「あ、えっとね、カメラに映るすべての人間の様子を確認して、何かよからぬ動きをしていればすぐに知らせてくれるんです……!」
真利菜のスマホにもアプリを入れてもらい、何かあれば通知で知らせてくれるという。
「はぁ、でも大丈夫かなぁ」
「どうしたの? 何か心配事?」
「モモカね、今日は占いが最下位なの。運はいつも悪いほうなんだけど、今日は特別悪いかも。だからモモカのせいでレース場になにかあったらって……」
「大丈夫! お姉ちゃんがいるから。真一さんだってついてるし。それに今日は──」
「そうです! ボクに任せてください! 世界一のヒーローになる男ですから! 大船に乗ったつもりで!」
ジロウが胸を叩いた。
爆弾騒ぎがあったと伝えたら、警備を手伝いたいと申し出たのだ。
「うむ。キミは期待しているよ桃谷ジロウ。さっそくだが会場をパトロールしてきてくれるか?」
「任せてください! うぉおおおおおおお! ファイヤァアアアアアア!」
かなりやる気はあるようで、ジロウは雄たけびをあげて飛び出していった。
「なんだか意地悪な顔をしてますね真一さん。ジロウさんに丸投げしようとしてません?」
「誤解だとも。彼のことを信頼してのことだ」
「もう、調子がいいんですから!」
真利菜は呆れていたが、実際に背中を押されたジロウははりきっていた。
会場を駆け回り、怪しそうな人間がいないかをチェックしていく。
そしてパドックを通り過ぎようとした時だ。何かが落ちているのを発見した。
「なんだろうコレ?」
どうやらなにかの『会員証』のようだが、詳細はわからない。
というのもだいたいこういうのは名前があったり、あるいは登録している企業かなにかの名前がありそうなものだが、そういったものが一切ないのだ。
ただの『メンバーナンバー』と書かれた8桁の英数字が並んでいるだけである。
「お、おい! それを出すな!」
「え?」
困っていると、通りすがりの男が声をかけてきた。
サングラスをかけているくらいで、あとはごく普通の男だ。
「それを見せびらかすもんじゃない……!」
「ど、どうしてですか?」
「ん? お前もしかして初めてか? とにかくそれを隠すんだ!」
「え? は、はい!」
「噂では最新の警備システムが作動していて、どこもかしこも監視体制らしい。あとで映像を確認されたら困るだろ?」
「???」
「とにかくもう十分パドックでの観察はできたはずだ。さっさと戻るぞ。もしも俺たち生観察組のせいで会にもしものことがあったらどんな責任を取らされるかわかったもんじゃない。生観察が禁止になるくらいだったらまだいいが、それだと俺の調子が狂う。やっぱ現物を見ないと不調かどうかの細かなところがわからないんだ」
ジロウは男が何を言っているのかサッパリわからなかったが、男に連れていかれるままレース場を出て、近くにあるビルの中に入っていった。
ソーシャルゲームの二次創作で難しいのは、入手確立の低いキャラクターをどのくらい読み手のほうが持っているのかっていうところにあるのかなと思います。
まあ、ただこれが逆に面白いところでもあると思っていて。
人それぞれの持っているウマ娘が違うから、たとえばそれこそチーム競技場とかで組んでる子とかチャンミで組む子とかが違う=それぞれの組み合わせの掛け合いが想像できる。
みたいな。