ドンブラザーズ×ウマ娘 俊足の残夢   作:ホシボシ

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ドン四話 バイバイのマホウ-4

 

「なるほどライダーか。これはまた皮肉なものだ」

 

見つめ合うサルブラザーとサルブラザー。

動いたのはほぼ同時のことだった。

交差する剛腕。弾きあったが、これは挨拶である。

 

猿原は風のように舞い、水のように流れ動く。

そのしなやかな動きから繰り出される力強い一撃をおみまいするつもりだったが、どうしたことか、動きの先に常にシライがいるではないか。

ペースが乱れる。打撃音が続き、猿原は気づいた。

 

その時、衝撃が走る。

猿原の頬に打ち込まれた拳。

気づけば世界は反転しており、猿原はうめき声と共に体を起こす。

 

「フンッ!」

 

走った。そして殴り合う。

やはりと──、確信に変わったそれ。

猿原は再び地面を転がり、そこでシライが答えを口にする。

 

「どうやら出力は同じみたいですね」

 

「ああ、そのようだ……ッ! ぐッ!」

 

にもかかわらず、猿原が負けている。

 

「兄さんは所詮、風流を好むお人。喧嘩の世界で生きてきた俺のほうが、同じアバターであっても動き方には差が出るというものです」

 

シライは背を向けて自らを指し示した。

赤いお尻を強調したのではない。彼が見せつけたのは『背中』だ。

サルの毛皮に覆われてわからないが、あの下にあるものは想像できる。

 

「喧嘩屋ではなく、賭け屋と聞いたが……」

 

「なかにはお行儀の悪い人もたくさんいるので、そうした人をとっちめるのが俺の役割です」

 

そこでレース場から歓声が聞こえてきた。

離れて人気のないこの場所にも届くほどのものだ。

 

「選手紹介か……あるいは今日、ゲストでやってくるゴールドシップさんとメジロマックイーンさんが顔を見せたんでしょう。そうそう、それもまた一つの勝負でね」

 

「?」

 

「今日のウイニングライブはゲストを含めてのライブで、何を歌うかが未定でしてね。それで我々は一つ勝負をしています」

 

「何を歌うかで賭けているのか」

 

「そういうことです。まあ、ですんで、レースが中止になるのは困る」

 

猿原はため息をついた。

トレセン側がレースを中止するように何度か要請しても、なんだかんだと開催にこぎつけたのは運営側にマツイ組の息がかかったものがいるからなのだろう。

 

「でも仕方ありません。ただのかけっこより賭けっこのほうが百倍面白い。でしょう?」

 

「あいにくだが──」『よッ! 魔法戦隊!』

 

「!」

 

「私は金が嫌いでね!!」

 

青い魔法使いになった猿原は水流を生み出し身を隠すと、瞬く間に消え去った。

 

 

 

 

「ウマ娘なんてくだらねぇ」

 

そう言って鼻を鳴らした憤怒鬼。

 

「女にする意味がわからん。ライブをする意味もだ」

 

憤怒鬼が地面を殴ると、紫色の衝撃波がドーム状に広がり、ドンブラザーズたちが面白いように吹っ飛んでいく。

憤怒鬼もまた断絶のエネルギーを使えるようだ。

その背後にはまるで怨念のように広がる、赤紫色のエネルギーが人の形をして呻いていた。

 

「人間界で行われているウマ娘プレイヤーの愚行や闇が、そのまま俺のパワーに変換されていく。今日もあいつらはくだらないことで怒り、争い、醜く吠えている」

 

断絶のエネルギーが剣となった。

向かってきたドンドラゴクウの攻撃をいなしながら、その鎧に赤紫の斬撃を刻んでいく。

 

「この世界の人間も同じだよ」

 

マツイは失望と驚嘆と喜びが織り交じったあまりにも複雑な顔をして唇の端を吊り上げた

 

「この鬼さんに聞いたが、あんたらの世界ではウマ娘の元になった生き物を走らせては、着順で金を動かしてる。私らはそれを再現してただけじゃないか。何がいけないってんだ?」

 

「こ、この世界では禁止されてます!」

 

キジブラザーはフラワーたちを思い出して叫んだ。

 

「一生懸命頑張ってる人たちを利用して、ひどいじゃないですか!」

 

「金は命だ! いや時には命より重い! それが絡むからこそ真のドラマが生まれるのだよ!」

 

「確かに競走馬はそうかもしれない。でもリスペクトという概念が存在しているように! 競馬は競馬、ウマ娘はウマ娘ッ! そこには確固たる違いの壁があるんじゃないんですか!」

 

「どうでもいいよ俺は」

 

憤怒鬼は会場を見る。

 

「この世界がめちゃくちゃになればいい」

 

「……ッ?」

 

「ウマ娘なんて終わりだ。あんなもん、もはや終わったコンテンツなんだよ」

 

「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「ッ!?」

 

怒号が聞こえた。

飛び出してきたのは強欲鬼だった。

 

「ウマ娘は終わってなんかない! 輝き続けてる!」

 

同じく断絶のエネルギーを剣に纏わせて憤怒鬼と斬り合う。

 

「プ●セカにも勝つし!」

 

なにがセルラン悲報だ。

 

「F●Oにも負けない!」

 

なにが人がいなくなっただ。

 

「クロスデュ●ルが終わったよ? でもウマ娘は終わらない!」

 

鎧が、赤紫に染まった。

 

「だって素晴らしいからァアアアアアア!!」

 

断絶の波動を上回る。それは『絶縁の波動』が解き放たれた。

憤怒鬼はもちろんドンブラザーズたちはさらに吹き飛ばされ、その強力なエネルギーを浴びたマツイはすぐさま粒子に分解されて、そのまま強欲鬼の鎧へと吸い込まれる。

だがしかしその中であっても逆に強欲鬼のもとへ吸い寄せられるものがあった。

ドンモモタロウが運んでいた、『荷物』である。

強欲鬼はすぐさまそれを開けて、中から物騒な物体を取りだす。

 

「やっぱり!」

 

変身が解除された真利菜が目を見開いた。

それはどうみてもタイマーがついたダイナマイトであった。

さらによくわからないが、どうやら爆発の衝撃を増幅させる装置がついている。

なぜそう思ったかと言うと、増幅装置と書いてあったからだ。

 

「うあああああああああ!」

 

よくわからない叫び声をあげ、強欲鬼はジャンプ台を使って跳躍。

一気に、マツイ組やゲストたちがいるビルの屋上まで移動する。

 

「ウマ娘を汚そうとする奴らは──」

 

強欲鬼は剣を屋上に突き刺した。

すると鎖のようなエネルギーがビルに巻き付いて、すべての窓ガラスや自動ドアが強化されたうえでロックされる。

つまり、中にいる人間を閉じ込めたのだ。

 

「いなくなればいい!!」

 

爆弾を適当に触っていると、タイマーが作動した。

はじまったカウントダウン。それを屋上において、強欲鬼はその場を去った。

いつの間にか憤怒鬼もいなくなっている。ドンブラザーズたちは変身を解除してビルを見た。

絶縁の波動はかなり強力なものだった。

体中が痛いし、龍二に関しては、受け身に失敗したのか気絶したままである。

 

「あぁ! ど、どうしたらいいの!?」

 

「落ち着け真利菜! たしか警備システムがどうとか言っていたな!」

 

「そ、そっか! ちょっと連絡してみましゅ!」

 

噛んだが誰も指摘しない。

そうしていると瀬戸内につながった。

 

「実はうんぬんかんぬんで……ッッ」

 

『なるほど。うんぬんかんぬんで……杏果!』

 

『ひゃい!』

 

『かわります』

 

『あの、はい。もしもし? モモカだよ』

 

「じ、実はうんぬんかんぬんでして!」

 

『えぇ! うんぬんかんぬんなの! た、大変だぁ!』

 

「そうなんです! ど、どうしたら……!」

 

『えっとね、モモカね。爆弾解除したこと、あるよ』

 

「本当ですか!?」

 

『うん。指示するから、一緒に解除してくれる……?』

 

「もちろんです! えぇっと……」

 

「僕がいきます!」

 

キジブラザーは飛翔。

そのままビルの屋上に着地すると変身を解除して、杏果との会話をカメラ通話に切り替えて指示を待った。

 

『がんばるぞぉ、おー……!』

 

緊張しているのか、杏果は自分を鼓舞していた。

 

『えっとね、まずね、蓋を開けるんだけどドライバーはある?』

 

「はい、さっき係の人に借りてきました」

 

『爆弾のタイプによっては普通にネジを外しちゃうと爆発するものもあるんだけど、それは大丈夫、通常通りにネジをまわして』

 

「わかりました……!」

 

雉野は言われた通りに爆弾に取り付けられたタイマーの蓋を外してみた。

するとそこにはあまりにもベタな赤と青の線が見える。

 

「どっちかを切ればいいんですよね……?」

 

『うん。でもね、間違えちゃうとドカンなんだよ……!』

 

それに、どちらを切ればいいのかは爆弾によって異なるらしい。

 

『確認してみるからよく見せて』

 

「は、はい……!」

 

雉野はスマホを爆弾に近づけた。

 

『あ、あのっ!』

 

「すみません! 見にくいですよね……!」

 

わかってはいるが、爆弾を前にするとどうしても手がブルブルと震えてしまう。

 

(うぅ、怖いよぉ、みほちゃぁん……)

 

タイマーこそあれど、ふいに爆発する可能性はあるし、爆弾を仕掛けた人間が今の様子を見て遠隔で爆発させることもできるはずだ。

 

『赤だよ! 赤を切ればいいよ!』

 

「赤ですね! わかりました!」

 

『な、なーんちゃってぇ! 冗談だよっ、本当は青を切ればいいの。びっくりした? えへへ』

 

「絶対にここでやっていい冗談じゃなぁあああああああああああああいッッ!!」

 

雉野ッ! キレた!

 

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃいいい!』

 

雉野が映した切断済みの赤い線を見て、杏果は涙目になりながら何度も頭を下げている。

 

『緊張しているみたいだったからほぐしてあげようとっ! うえぇええええん!』

 

爆発音と共に雉野は吹っ飛んでいった。

が、しかし、そういえばと咄嗟にアバターチェンジ。

キジブラザーになったおかげなのか、屋上の手すりに背中をぶつけるくらいで済んだ。

 

「いやッ? ん!?」

 

おかしい。そもそも衝撃がそんなにない。

背中をぶつけたのだって、半ば自分で後退していたからだ。

痛みも全くないし、これはいったいどういうことなのか?

 

「あああああああああああああ!」

 

叫んだのは龍二だった。

目覚めた彼は空を見てやってしまったと叫ぶ。

 

「間に合わなかったか!」

 

「ど、どういうことですか?」

 

真利菜が問いかけると、龍二はそもそもなぜここに来たのかを説明する。

桃井が運んでいた爆弾を届けるように手配したのはゴールドシップだった。

彼女は以前、マックイーンがこんなことを言っているのを聞いたのだ。

 

『そろそろお祝いしないといけませんわね』

 

その時が来たのだと思ってサプライズボムを用意したのだが、途中で大きな勘違いをしていたことに気づいたので、至急訂正する必要があると思ったらしい。

だが、既に荷物は発注済みでキャンセルができない。

なので王城を通して、龍二に先回りで荷物を受け取ってほしいと依頼したのだった。

 

「サプライズ……?」

 

真利菜が空を見る。

ダイナマイトが爆発すると中に詰め込まれていた小型ドローンが一斉に飛翔。

どういう技術なのかは知らないが、ドローン群からレーザーが発射されて空にメッセージと花火の映像が浮かび上がった。

 

『祝! メジロマックイーン体重64キロ到達!!』

 

デカデカと空に浮かび上がるメッセージ。

 

「ぎえええええええええええええええええええええ!」

 

ほどなくしてゴルシの悲鳴が聞こえてきた──気がする。

そこで龍二は補足の説明を口にした。

 

「どうやらマックイーンって子が言ったのは、二人でやってるぱかチューブの登録者が100万人突破したことだったらしいんだが、ゴルシってヤツはミスっちまって、それで……」

 

「え? え? え? ちょっと待ってください。ということはタロウ様が運んでいたのは、犯行予告者が送ったものではない……!?」

 

「犯行予告? なんだそれ」

 

真利菜は唸った。

ということはやはり、悪戯だったのだろうか?

 

「あぁ!」

 

時を同じくして強欲鬼は、レース場の天井下、人の気配のない通路にて、空に浮かぶメッセージを見ていた。

やはりそんな都合よく爆弾が運ばれてくることなんてない。鬼の力で願望が現実になったのだと勘違いしたが、どうやらそこまでの異能の力はないようだった。

 

「これじゃダメだ……! これじゃレースは止まらない!!」

 

夢を見た。それは明晰夢だ。強欲鬼の力が夢を見せてくれた。

この会場で行われるレースで賭けが行われようとしている。

でも止め方がわからない。

でもでも、ウマ娘が闇組織の金もうけの道具になるなんてダメだ。

でもでもでも、じゃあ、どうすればいい?

混乱。そうしていると、歓声があがる。

まもなくレースが始まるのだ。ビワハヤヒデと備前を筆頭にメンバーが歩いてくる。

 

「トレーナーくん。改めて情報を整理しよう。私が戦う長距離担当のウマ娘は──」

 

「マンハッタンカフェ。普段の女優業とは似ても似つかない血に飢えた獣のような走りをすることから『猟犬』と呼ばれているウマ娘だ。退屈な走りが許せないらしく、過去のインタビューでもウマ娘になっていなかったら退屈すぎて犯罪を起こしているかもとまで口にしている」

 

「ほう。ペースを乱されないようにしなければな」

 

「トレーナーに異常な執着を見せているようで、他の女性と会話をしていただけで不調になるらしい。強力なウマ娘だが波がある。キミの理論で超えよう」

 

ハヤヒデは頷き、タブレットで過去のインタビューの映像を映し出した。

そこには今回、中距離でロブロイと戦うナイスネイチャが映っている。

 

『あちゃー、またこれだよー、ほんっとアタシって運ないよねー。ま、そういうキャラなんだからしゃーないかぁ。あ、最後に一つ、お金持ちでイケメンの彼氏随時募集中でーす』

 

「シニカルなキャラクターを気取っているが、なかなかどうして端々に悔いが見て取れるな。彼女のようなタイプは努力を見せずに本番で爆発するから恐ろしいよ」

 

「事実、実力は折り紙付きだからな」

 

「ふむ。ところで彼氏は見つかったんだろうか……? あ、いや、なんでもない」

 

ハヤヒデに急かされ、備前はマイル担当のアドマイヤベガへ話題を移す。

 

「レースに対して非常にストイックらしい。勝利への執着心が強く、並々ならぬ覚悟を感じさせるそうだが、一方でトレーナーだけでなくトゥインクルシリーズ関係者すべてに対して敵意を持っているような言動が目立つという。それに、どうやら彼女だけにしか見えていない『妹』がいるらしく……あまり穏やかな状況ではなさそうに見えるが」

 

「レースはある意味、極限だ。目に見える評価は心を蝕んでいく。それを糧にできるものもいるが、どのみち負荷はかかるだろうな」

 

「プレッシャーか。そういえば短距離担当はキングヘイローもそんな話を聞く」

 

「文字通り、どんな手を使ってでも勝とうとすることで有名らしいが、きっと彼女の中にも矜持はあるんだろう」

 

ハヤヒデは自分のチームを見る。

短距離担当のサクラバクシンオーは、瀬戸内から水を受け取っていた。

 

「飲め」

 

「はい! ごくごくごく!」

 

「感じるか?」

 

「何がですか?」

 

「サクラパワーだ」

 

「サクラ……ッ! パワーッッ!?」

 

「そうだ。お前が飲んだ水、そこに俺はサクラパワーを注入しておいた(適当)」

 

「するとどうなるのでしょう!?」

 

「お前は無敵となる(適当)」

 

「ちょわ! ということはつまり……バクシンができるということですか!?」

 

「その通りだ(適当)」

 

「はーっはははは! 漲る! 漲ってまいりました! このサクラバクシンオ―。最高のバクシンをお見せすることを誓いますとも! ええ!」

 

一方、マイル担当のニシノフラワーは笑顔で美咲を見た。

 

「トレーナーさんっ! いつもの言葉、かけてもらってもいいですか?」

 

「キミなら大丈夫」

 

「はい!」

 

「キミを信じてる」

 

「はい!」

 

「キミは最高にかっこいい!」

 

「はいっ!」

 

レース前の決まり事のようなものだ。

それは中距離担当のゼンノロブロイも同じで、担当の真庭トレーナーは『ゼンノロブロイの英雄譚』にまた新しい歴史を記しているところだった。

 

「どうロブロイ。緊張してる?」

 

「ほんのちょっとだけ。でも今は、期待感のほうが高まっています……!」

 

「いいね。じゃあどうせなら勝っちゃおう。今から始まるのはキミの物語だ。キミの望むとおりの結末を紡げばいい」

 

「トレーナーさんはどんな展開が好みですか?」

 

「そうだなぁ。まあ今日は他を圧倒する英雄が見てみたいな。誰も寄せ付けず、最強のパワーを軽々と振るい、レースが終わればきょとんとした顔で言うんだ。あれ? 私なにかやっちゃいましたか? ってね」

 

「うふふ! そんな物語もいいですね。じゃあ無双しちゃおうかな!」

 

それぞれが、それぞれのやり方でモチベーションを上げていく。

敵チームのダート担当であるハルウララも、トレーナーにしがみついていた。

 

「あーっ! 今、他の子見てたでしょ! んん! 見返してやるんだから!!」

 

天真爛漫な性格のウマ娘で、集中力が続かずなかなかレースでは勝てないが、持ち前の明るさで何度も立ち上がってくることで有名である。

折れない心がいかに大切なものなのかは理解しているつもりだ。

ハヤヒデは、自分チームのダート担当であるティップを見た。

 

「ティプ様~、がんばってねぇ」

 

こっちは苫田トレーナーのほうがティップにしがみついている。

とはいえ、たった一つ違うのは、ハルウララのほうが表情が活き活きしていたということくらいか。

 

「………」

 

ハヤヒデはメガネを整え、目を細めた。

 

 

 

 

「!」

 

レースが始まる。

レースが始まってしまう。

強欲鬼の中に今まで感じたことのない焦りが芽生える。

その脳内には夢のようにして人間界の光景もフラッシュバックしてくる。

ほらまたウマ娘界隈がと指をさされている。声優問題、二次創作界隈、運営批判を青い鳥が運んでくる。

 

だめだ。こんなのダメだ。

 

パズド●に負ける。

モン●トに殺される。

F●Oに消される。

●神に持っていかれる。

ヘ●バン信者にマウントをとられる。そんなのは嫌だ!!

 

だから、これ以上、ウマ娘の品位を落とすわけにはいかない。

ウマ娘は神聖で、高尚で、気高いソシャゲでなければ人が離れてしまう。

だからこんな裏賭博が行われていると知られれば、きっと、どちらも──

 

(こうなったら会場に乱入して暴れてやろう!!)

 

そうすることで人は全てを鬼のせいにすることができる。

それはきっと、一番簡単で、一番楽な方法なんだと。

だから強欲鬼は手すりを掴んだ。降りて、暴れて――

 

「邪魔をするなァ!」

 

「!!」

 

その時、憤怒鬼が強欲鬼に掴みかかった。

 

「ウマ娘はもっと荒れるべきだ! 評価を落とし、世間から冷たい目で見られるべきだッ!」

 

「ぐッ! うぁぁッッ!」

 

「あんなゲームをやっているのは障●者であると! 後ろ指をさされる! それが全てだ!!」

 

「お前か! お前のせいでぇえぇえ!」

 

鬼同士が掴みかかり、殴り合う。

二人が言っていることは、ただの人間には理解できないものだろう。

それは極論の果てにある、一つの到達点。

 

「あんなところに……ッ!」

 

シライから逃げ来た猿原は、人の気配がないところで少し休もうと思っていたが、それが鬼を見つけることに繋がった。

 

「アバターチェンジ!」

 

すぐにサルブラザーとなりて、目に入った憤怒鬼をドンブラスターで撃った。

 

「グゥウウ!」

 

予想外の攻撃に怯んでいると、倒れていた強欲鬼が跳ね起きた。

持っていた剣に、絶縁の波動が集中していく。

真っ黒に染まったそれを、容赦なく振り下ろした。

 

「があぁぁああ!」

 

憤怒鬼は火花を散らしながら後退していき、ダメージからか変身が解除された。

膝をついた男の名前は、神宮寺(じんぐうじ)という。

彼は人間界で医者をしていたが、ある日『ある人物』から鬼になってみないかと誘われた。

神宮寺はそこで人間界とウマ娘の世界が交わっていることを知らされる。

それを聞いて、彼は鬼の道を選んだ。

 

なぜならば神宮寺はウマ娘が嫌いだったからだ。

 

鬼となった彼は、なぜかウマ娘界に自分の居場所があることに気づいた。

つまり、ウマ娘の世界に神宮寺という医者が存在していたのである。

どういうことなのかはわからないが、それは非常に好都合だった。ウマ娘の世界にいた自分がどうなったのかだとか、そういうことは考えない。

ただありのままに怒ればいい。心の中にいる『鬼』がそう教えてくれた。

それを受け入れればいい。神宮寺はウマ娘の世界を破壊するために、患者の一人であったマツイに声をかけた。

 

自分も賭博に噛ませてくれと言う。

イカサマを確実にするために、自分の患者を『利用』するからと提案した。

そう、患者。

神宮寺は萌絵という少女の担当医であった。

 

 

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