ドンブラザーズ×ウマ娘 俊足の残夢   作:ホシボシ

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最終話です。
今までお付き合いいただき本当にありがとうございました。

あと注意点が一つあるのですが、今回のお話はドンブラザーズを知らないと意味不明なシーンが多いと思います。
知っていても一部、意味不明なシーンがあるとは思うので、そこは申し訳ありません


ドン五話 しゅんそくのザンム-1

「縁ができたな」

 

倉敷刀馬はポカンとしていた。

研究室の扉を開くと、桃井タロウがいて、突如そんなことを言ってきたのだ。

しかも淡々と無表情で。そんな配達員は見たことがないものだから、混乱していた。

 

「はーい! モモカが持ってくよ!」

 

助手である倉敷杏果が後ろから顔を見せた。

しかしタロウはそれを拒む。

なぜならば、彼自身が荷物を部屋まで持っていくからだ。

 

「お、お茶、淹れてくるね……!」

 

モモカが引っ込む。

反対に荷物を置いたタロウはソファにドッカリと座り込んだ。

 

「アンタ、髪が長いな」

 

「ええ。まあ、切りに行く時間がなくて」

 

「なぜだ」

 

「考えて……いる…からです」

 

「千里眼だったか? あれは凄いものだ」

 

「………」

 

「他にもいろいろなものを作っていると聞いた。ナイチンゲールだったか?」

 

「ええ、まあ」

 

「仮面ライダーも作れるのか?」

 

「………」

 

倉敷は無言だった。

しばらくして、ため息をつく。

 

「ええ、まあ。というよりももう既に」

 

一瞬だった。

ドンモモタロウは刀を振るう。

しかしそれが『非公認鬼』に届く前に、彼が手にした短刀がドンモモタロウの首筋に合わせられた。

二人は、しばし、見つめ合う。

 

「倉敷刀馬。やはり貴様がこの世界の心臓か」

 

「……よく、わかりましたね」

 

「俺ではない。力を貸してくれた者がいてな」

 

そこで非公認鬼は壁にある天使の絵を見た。

それに似たものが、この星の空高くに浮遊している。

 

「ナイチンゲールは、救済の名前です」

 

「それはたしか──」

 

ドンモモタロウは詳しく知らないが、その名は以前、登場していた。

メジロマックイーンに使用した。傷ついた心を回復させる『医療用装置』だ。

対象を仮想世界に飛ばして、嫌なことをすべて忘れさせるというもの。それはどんな設定も可能であり、あの時はたまたまウマネストを選択していたが、別にもっと違う世界を創ることだってできていた。

 

「たとえば我々がいる、ウマ娘の世界であるとか」

 

「なるほど。そういうことか」

 

「ええ、ここは『ウマ娘の世界』、つまりパラレルワールドなどではありません。私が人間界でウマ娘の世界を妄想しただけなんですよ」

 

 

回想。

すべては、ただ一人のために。

 

 

父も、母も、仕事が忙しく、夜遅くまで──あるいは、帰ってこない日もあった。

一緒に遊んだ記憶なんてない。どこかに連れて行ってもらったことも、授業参観に来たこともない。

それでも寂しくなかったのは、妹がいたからだ。

杏果もきっと、そう思ってくれていると、倉敷は思っていた。

二人はとても仲が良かった。

一緒に勉強して、一緒に遊んで、一緒にご飯を食べて、一緒に寝る。

誕生日も両親は仕事だったが、二人で祝えば、それなりに幸せだった。

それなりに歳が離れているということもあったのだろう。

喧嘩らしい喧嘩もせず、これからもきっと、ずっと仲良しで──

 

『杏果が病気になりました』

 

母親からのメールも、深くは考えていなかった。

だからその日の放課後は友達とファストフード店に行って、友達の家に行ってゲームをした。

家に帰ってくると置手紙があった。

そこには、杏果の病気がとても重く、すぐに入院の手続きがどうのこうのとあった。

 

中学生だった杏果は、陸上部の練習中に倒れたらしい。

医者の話では杏果は筋力が弱くなっていく病気であると。

徐々に、やがて歩けなくなり、腕も上がらなくなり、最後は心臓を動かすことができなくなって死ぬ。

治す方法はないと言われた。

 

「ねえお兄ちゃん」

 

死ぬ。

 

「モモカ、治るよね?」

 

死ぬ。

 

「また走れるようになるよね!」

 

死ぬ。

 

「だってモモカ! 走るの大好きだか──」

 

「治るよ」

 

倉敷は笑っていた。

 

「治る」

 

ずっと、杏果のみぞおちを見ている。

 

 

 

 

「………」

 

病院の帰り道。

 

「………」

 

翌日

 

「………」

 

その次の日。

 

「………」

 

さらに、その次の日。

 

「………」

 

倉敷はずっと考えていた。

杏果はどうすれば治るのだろうか?

医者ではない彼にできることなど、ほとんどない。

どれだけネットで調べても、同じ病気で完治した人は一人もいなかった。

 

しかし倉敷には漠然とした自信があった。

きっとアメリカから綺麗な女医が颯爽と現れ、失敗しないらしいので、サッと手術して治してくれるはずだ。

あるいは法外な請求をする闇医者に目を付けられるのだが、兄妹の絆が原因でなんだかんだ無償で助けてくれるはずだった。

あるいは──……。

 

倉敷は、妹が病にかかっていない世界を、治る世界を妄想した。

いつしかそれは常に頭の中にあるものとなった。

杏果はなんの憂いもなく、またお気に入りのシューズを履いて、グラウンドを駆けている。

 

彼は、鬼になっていた。

妄想した世界が本物になっていた。

 

「ほら、治っただろ。杏果」

 

本当だ。ありがとう。お兄ちゃん。

杏果はそう言って笑った。

気にする必要なんてないのに。倉敷はそう思った。

なぜならば杏果は妄想の世界では病気になっていないからだ。

そもそも入院すらしていない。

 

だが、一つ。

困ったことがあった。

 

杏果のために用意した世界なのに、杏果が活き活きと動き回ると世界に亀裂が走るようになった。これは紛れもなく崩壊の前兆である。

それは非常によくないことだった。

もしも妄想でできた世界が消えれば、杏果には現実が襲い掛かってしまう。

ならば彼女はまた病気となり、そして──

 

どうすればいい? 倉敷は考えた。

考えると時は流れる。

徐々に崩れていく世界や、人々。

しかし、その中で、形を保っている人間がいた。

 

「どーも。はじめまして。僕は財団Xのマシューです」

 

白装束の男は自らをスポンサーだと名乗った。

倉敷の──非公認鬼の『世界を創造』する力には無限の可能性があると言ってくれた。

 

「財団の資金と技術力を結集させて作ったのがナイチンゲール。それは私が変身する非公認鬼の力を高める増幅装置なんですよ」

 

「………」

 

天使の像が、優しく、静かに、微笑んでいる。

 

「アレがあれば、この妄想世界というレイヤーを人間界に重ね続けることができる。桃井さん。あなたが鬼退治をしているのは知っています。私を倒すということは、この楽園を崩壊させるということだ」

 

「………」

 

「杏果を見ましたか? この世界なら、彼女は走りまわることができる。しかし妄想世界が亡くなれば彼女は動けなくなる。いいえ、死ぬんです……!」

 

ドンモモタロウの表情はわからない。ただ無言で立っている。

 

「貴方は、杏果を犠牲にできますか?」

 

非公認鬼は倉敷へと戻った。

ほどなくして、ドンモモタロウは桃井タロウへと戻る。

 

「……どうも。話は終わりです。私は黙りたい。喋っているとどうにも妄想の完成度が下がる。空想に集中したいんですよ」

 

タロウは目を閉じた。

 

「まだだ」

 

そして、目を開く。

 

「まだだ! 荷物を開けてない!」

 

「荷物……?」

 

「そうだ。開けてみろ!」

 

倉敷はタロウが運んできたダンボールを見る。

そこにある名前は、倉敷の母のものだった。

話は戻るが、タロウは一番最初に世界融合の話が出たときから、ある人物たちにコンタクトを取っていた。

 

それは脳人。

つまり、ドンブラザーズの敵対勢力である。

ソノイ、ソノニ、ソノザ。三人に、今、世界で起こっている異変を解き明かす手伝いをしてくれないかと言ったのだ。

脳人としても人間界にもしものことがあっては困る。

ということで、その提案を飲んだというわけだった。

元老院の協力もあってか、ソノイたちはすぐに財団Xという異物にたどり着き、そして彼らがコンタクトを取った倉敷に目をつけたのである。

 

タロウは倉敷の実家を訪ねた。

すると両親は倉敷が行方不明であると答えた。

彼が拠点を人間界から、妄想世界(ウマ娘世界)に移したからである。

 

「お前の母に、言われた」

 

もしも息子の居場所を知っているなら、どうかこれを渡してほしいと。

 

「それを、持ってきた。見てみろ」

 

「………」

 

倉敷は怪訝そうな表情を浮かべながらダンボールを開ける。

中にあるものを見た。すると、彼は真っ青になって、ダンボールの蓋を閉じる。

 

「ぐッ!」

 

汗を浮かべ後退していき壁にぶつかると、込み上げてくる吐き気を抑えた。

 

「なぜだ。なぜそんな顔をする!」

 

桃井タロウの視線が、倉敷を貫く。

 

「そんな苦しげな顔をするためのものではなかったはずだ!」

 

タロウはダンボールの中を見た。

そこには靴があった。

杏果の、お気に入りのシューズ。倉敷が買ってあげたものだ。

 

「元気に──、なったら──これを、履いて、走――ッ」

 

妄想が、ブレる。

 

「わからんのなら、教えてやる。俺は嘘がつけない」

 

タロウは淡々と、言った。

 

「杏果はもう死んでる。それは形見なんだ」

 

 

 

 

「ねえお兄ちゃん」

 

「ん? どうした?」

 

「それ、なぁに?」

 

ベッドの上で、元気のない妹が聞いてきた。

せっかく見舞いに来たのに、ろくに会話もしない兄を気遣ったのだろう。

別になんでもよかった。きっかけになればそれでよかっただけだ。

 

「あぁ、これは……その、ウマ娘っていうゲームだよ。最近話題になってたから、半ば付き合いもあって……。やれってうるさいんだよ、友達が」

 

「ふぅん。そうなんだ。面白い……?」

 

「どうだろう? 俺は競馬はよくわからないから。でもまあ、クオリティも高いし、たぶん、面白いよ」

 

「じゃあ、やらせて。入院は退屈だから」

 

珍しい病気であるということや、両親が金を持っていたということもあって、広い個室を用意してもらえた。

それが杏果にとっては少し不満だったのだ。

倉敷は迷った。

やらせてもいいのだろうか?

体力を奪うことにならないだろうか?

レースをテーマにしたシナリオは、杏果にとっては酷ではないだろうか?

 

倉敷は考えて、考えて、考えて、やがて杏果にスマホを渡した。

もうすぐ死ぬのだから、好きにさせるべきだと思ったのだ。

それに最期の時まで、二人を繋ぐ『無関係で便利なもの』があったほうがいいと思った。

倉敷にとって。杏果もとってもだ。

とりあえずウマ娘の会話をしていれば何もなかった日のなんでもない『いつもの二人』に戻れた気がしたから。

 

「あ」

 

ある日、杏果がスマホを落とした。

拾ってあげると、もう一回落とした。

 

「……持っててあげるよ」

 

「ありがとう」

 

その日も杏果はウマ娘の育成がどうとか、この子はここが可愛いとか、そういうことしか喋らなかったが、倉敷は二つ返事になるだけだった。

言葉が入ってこない。思考がボヤけてる。

 

「お兄ちゃんはいいね、健康で」

 

なのに、その鋭利な言葉だけは鮮明に入ってくる。

 

「モモカはもう走れないのにお兄ちゃんは走れるんでしょ?」

 

「……まあ」

 

「お兄ちゃんは走るのが好きじゃないって言ってたのに」

 

「………」

 

「かわってよ」

 

そんなことを、言われても──困る。

だがまあ、理解はできる。杏果もきっと理解してる。

理不尽な目にあって腹が立つのは当然のことだ。周りに当たるものがあれば当たるのは不思議な話じゃない。

だから倉敷は病室に行くのをやめた。

日々、弱っていく妹を見るのが辛かった。

冷たい目で見てくる彼女が嫌いだった。

 

「ゲームなんてしないでよ。こんなに苦しんでいるのに」

 

それを言われてから行かなくなった。

本当に口に出していたかどうかは定かではないが、倉敷の頭の中にいる彼女はそう言ったのだから、少なくともそれは偽りではない。

倉敷は余った時間、ウマ娘をプレイし続けた。

ウマ娘じゃなくてもよかったが、それはたまたまウマ娘だった。

なぜウマ娘だったのかは、よくわからない。

 

『杏果が亡くなりました』

 

母から来たメッセージはあの日と同じ、淡々としていた。

葬儀の準備をしている時、もっと病院にきてあげればと両親に言われた。

 

「会いたがってた。最期も、きっと」

 

それを聞いて倉敷はその場を離れた。

喪服姿のままバスにのって、電車に乗る。

ウマ娘をして、時間を潰しながら。

 

どこに向かうのかは彼にもわからない。

しかし目的ならば一つ、絶対なるものがあった。

杏果を、探しに行くのだ。

 

そんなことはありえない。そんな馬鹿なことはない。

倉敷もわかっている。だからこれは逃げではない。

しかし移動を続けるのは彼に漠然とした確信があったからだ。

杏果はいる。どこかにいる。

誰もそれに気づいていない。

だが、自分だけは気づいている。

 

どれだけかかってもいい。暇をつぶせるウマ娘がある。

そしてウマ娘をプレイしていれば杏果と再会した時に共通の話題がある。

逆に言えばもう二人の間にはそれにしかないから、今更やめることはできない。

 

でも杏果もそれでいいはずだ。

あの時の言葉も一切何も触れはしない。

ただ僕らは、ウマ娘の話をすればそれでいい。

それですべて水に流して──

 

「お兄ちゃん」

 

杏果がいた。

 

「ほら、死んでない」

 

鬼が笑った。

 

「妄想の鬼、ですか」

 

しばらくして財団Xのマシューがコンタクトを取ってきた。

彼らは世界を移動する船を持っているらしい。

ムネモシュネやメガリバースマシン、エニグマなどいろいろなものを見て、なかには深く噛んでいるものもあるようだった。

 

「ナイチンゲールもその一つに加わる。貴方の力は素晴らしい」

 

妄想世界確立機。

事実、そこにいる存在たちは『本物』だった。

妄想力が弱いとすぐに瓦解し、破綻するため、倉敷が詳しいもの。妄想しやすいもの。

つまり、今のところはウマ娘くらいしか形にできないが、いずれはどんな世界も作れるようになる。

 

「人間界も、やがては妄想の世界に飲み込まれる。重ね合わせたレイヤーが一枚の絵を形作るように」

 

マシューは制作協力の対価として非公認鬼のデータを取らせるように言ってきた。

おそらく鬼を量産するつもりなのだろう。

そしてナイチンゲールも合わされば、お手軽な侵略装置となる。

世界に世界を重ね合わせ、やがて元の世界を飲み込む。

 

「次のフェーズに移行すれば、妄想を現実にすることができる」

 

どんなものでも生み出せるようになる。それはまさに、神の領域。

 

「なぜヒトツキたちが生まれたと思う?」

 

今の話を聞いて、桃井タロウが出した言葉がコレだった。

倉敷は沈黙する。無表情で、一見すれば何も変わらないように見えた。

しかしタロウは気づいていた。

この部屋にある鏡が途中から割れていた。

それは過去のことを、妹のことを話している時だ。

 

鏡には亀裂が走り、それを境として他のドンブラザーズが映っていた。

サングラスをかけた彼らには、世界のすべてが見えている。

崩壊しかけた世界の隙間から、一同は倉敷の姿を、声を、タロウと共に捉えていたのだ。

 

「ヒトツキとは、再構成されたヒトツ鬼。妄想世界によって生まれた鬼だったんです!」

 

雉野が眼鏡を整えた。

トレウマだのウマウマだの、二次創作だの、アンチだの信者だの、鬼を取り巻くものは全てウマ娘の『中』ではなく、『外』の出来事だった。

 

「ナイチンゲールによって痛みを忘れたかったのは、アンタも同じだったんじゃないか?」

 

犬塚が吠えた。

妄想に浸ろうとしたときにそれを邪魔してくる現実。

それが、倉敷の妄想する鬼だ。

違う例でいえば、悩んでいる時に頭上に現れる天使こそがウマ娘で、悪魔こそが鬼だった。

 

「キミはウマ娘をプレイしていた時間を正当化しなければならないと思っている。だがそんな自分に嫌悪もしている」

 

猿原が指摘した。

 

「ウマ娘を取り巻く人々を見て決めたいだけだ。あの時の時間が正しかったのか、どれだけの価値があるのかを」

 

最後に──はるかが、倉敷を、見た。

 

「これは、あまりにも面倒で遠回りな自問自答」

 

鏡にだけ入っていた亀裂が、世界に走る。

ウマ娘を好きであり続けるべきか。それとも嫌いになるべきなのか。

それを他者を通しながら判断しようとしていた。ただ、それだけ。

 

「それは本当に自分では決められなかったこと? 世界を巻き込んでまでやろうとすることなの?」

 

倉敷は答えない。

答えられないのかもしれない。

 

「そんなこと、妹さんは望んでいると思いますか?」

 

「漫画家さんにしては使い古された言葉を言う。そんなことは──」

 

「わからないとは言わせないわ。貴方の中で、杏果ちゃんは生きてるんだから!」

 

鏡が、完全に割れた。床に落ちる破片。

桃井タロウは倉敷を睨みつける。

 

「お前はただ、違うやり方で、また妹から目を逸らそうとしているだけだ!」

 

「……違う」

 

「妄想は、現実ではない!!」

 

【髱槫?隱肴姶髫(非A)髱槫?隱肴姶髫】

「違う! 私なら現実にできる!!」

【髱槫?隱肴姶髫(非A)髱槫?隱肴姶髫】

 

非公認鬼は、タロウをラボごと吹き飛ばした。

そこに広がる新しい世界。

いつか妹と見に行こうと約束した。桜が有名な公園に来ていた。

 

「ハーッハハハハ!!」

 

桜が舞い落ちる中で、天女が舞い、闊歩する。

その後ろでは担ぎ手たちが、赤い神輿を携えてやって来る。

テンテロテンテロテンテンテン♪

テロレロテロレロレレレレレン♪

雅な音楽が聞こえるなかで、神輿の前にカラフルな色を持った戦士たちが転送される。

 

「現実を見ろ! 救いを妄想しても何も変わりはしない!」

 

神輿の上、赤い戦士が扇子を広げた。

 

「怖いのか?」

 

力強く扇子を扇ぐと、風が起こり、花吹雪が舞う。

 

「なら笑え! 恐怖を超えろ!!」

 

扇子を閉じて、放り投げた。

 

「名乗りの時間だ。お供ども! 今ここにいる自分(げんじつ)を、高らかに告げろ!!」

 

ドンブラザーズたちが力強く頷くと、その時、妄想世界が違う世界に塗りつぶされた。

日本画のような背景に青い富士と、桜がある。

紅葉が舞う中、青色の戦士が月に手を重ね、別れの挨拶のように腕を振った。

 

「浮世におさらば──」

 

そして非公認鬼を睨み、決めポーズをとる。

 

「サルブラザー!」『よッ! ムッキムキ!!』

 

次に動いたのは黄色の戦士だ。

黄色い日の下で、指で絵を書く動作を取る。

 

「漫画のマスター!」

 

そして両手の人差し指を立て、それを頭上に持ってくることで角を作った。

 

「オニシスター!」『よッ! 鬼に金棒!!』

 

世界が、一瞬で夜になる。

ススキが広がり、風が吹く。

月光に照らされた黒い戦士が非公認鬼をにらんだ。

 

「逃げ足ナンバー! ワンッ!!」

 

人差し指を立てて、一番を強調する。

 

「イヌブラザー!」『よッ! ワンダフル!!』

 

月が一瞬で引っ込み、オレンジ色の夕日がにゅっと、桃色に染まった富士から姿を見せた。

その前では長身の桃の戦士が決めポーズを取っていた。

 

「鳥は堅実!」

 

そして両手を思い切り広げると、シンクロするように花吹雪が舞う。

 

「キジブラザー!」『よッ! トリッキー!!』

 

そこで神輿に乗っていた赤い戦士が飛び上がった。

 

「聴けぇいッ!」

 

体を捻り、回転しながら着地。

 

「桃から生まれた!」

 

両手で桃の形をつくるようにゆっくりと動かし──

 

「ドン!」

 

一方で力強く大地を踏んだ。

その衝撃で日本画のレイヤーが粉々に破壊され、舞台は再び桜が綺麗な公園へと戻る。

 

「モモタロウ!!」『よッ! 日本一!!』

 

扇子を広げて見得を切る。

 

「暴太郎戦隊!」

 

「「「「「ドンブラザーズ!!!!!!」」」」」

 

決めポーズをとる一同。

ドンモモタロウは大きく体を反っているせいか、オニシスターが支えていた。

 

「フンッ!」

 

オニシスターはドンモモタロウをはじくと、すぐに自分も決めポーズをとった。

天女たちは舞い、後ろにあった桜が大量の花びらを落として、ドンブラザーズたちを演出する。

 

「さあ!」

 

ドンモモタロウは扇子を閉じ、代わりにザングラソードを取り出した。

 

「勝負勝負!」

 

飛び上がり即、斬りかかった。

しかし非公認鬼は妄想の盾を作り出すと、それで刀を受け止めてガードする。

 

「飛びます飛びまーす!」

 

「アオォオオオオオオン!」

 

横を通り過ぎながら撃つ、キジブラザーとイヌブラザー。

ドンモモタロウはそのまま力強く前に出た。非公認鬼は押されながらも、何とか力を込めて盾を振るい、刀を弾く。

 

「ヒラリと飛んだ! 私は後ろ!」

 

サルブラザーは非公認鬼の背後に着地する。

すぐに振り返ったが、顔を、胴を殴られた。

怯んでいると、声が聞こえる。

そちらを見ると、金棒を持って走ってくるオニシスターが見えた。

 

「おぅりゃあああああ!」

 

フルスイングが直撃。

非公認鬼は悲鳴をあげながら後ろへ吹っ飛んだ。

 

「ぐッ!」

 

すぐに立ち上がるが、そこで波紋。

 

「終わりだ」

 

ドンモモタロウはギアを回し、刀を虹色に変えた。

飛ぶように駆ける。距離は一瞬で詰まった。

刀が、非公認鬼へと──

 

「やめて!!」

 

ドンモモタロウは、手を止めていた。

非公認鬼との間に、一人の少女が立っている。

倉敷杏果が、両手を広げて兄を庇っていた。

 

「いいスピードだ。ただの人間の加速力ではない」

 

「え……?」

 

「アバターチェンジは、終わりにしよう」

 

 

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