ドンブラザーズ×ウマ娘 俊足の残夢   作:ホシボシ

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ドン一話 おウマのはなよめ-1

雉野がパトロール当番に選ばれたのは三人目のことだった。

タロウ、猿原ときて、雉野。

たしかにこの二日間、目立った異変は起こっていないし、何かが変わったわけでもない。

とはいえ何かが起これば愛する妻のみほに危険が及ぶかもしれない。だから雉野は休日を返上してパトロールに出向くのだ。

 

(みほちゃんは僕が守る!)

 

と、意気込んでみたものの。

レイヤーの扉を開いてウマ娘の世界にやってきたはいいが、ウマ娘がいるだけでであとは人間界そのものだ。ヒトツ鬼もヒトツキもいるようには見えないし、しばらく歩き回ったが異常はなし。

勇気を出して道を行くウマ娘にここ最近、何か変なことがないかを聞いてみたが、「ゴールドシップが空を飛びながら蕎麦を食べていた」などというよくわからない答えしか返ってこなかった。

いや、それはそれでめちゃくちゃ気になったが、それからも世界融合の謎を解き明かそうとするが何にもうまくいかない。

 

「ちょっと休憩しようかな……」

 

公園にやってきた雉野は、適当なベンチを見つけて座る。

 

「はぁ」

 

ため息をついて、うなだれた。昨日の会社でのミスを思い出してしまったのだ。

もともとあまり仕事ができるほうではなかったが、契約書にミスがあって大目玉をくらってしまった。

気を付けていたつもりなのだが、実に情けない話である。

 

「「はぁ」」

 

再び、大きなため息が――

 

「「ん?」」

 

声が重なった。雉野が左を見ると、そこにはいつの間にか人がいて、向こうも雉野を見る。

 

「「うわぁ!」」

 

またもやシンクロした驚きの声。

二人はのけぞって、すぐにベンチから離れてペコペコと頭を下げあった。

 

「あわわ! すみませんボーっとしてて!」

 

「いえッ、ぼくのほうこそすみません! 考えごとしててつい隣に!」

 

雉野はその人が一瞬『どちら』なのかわからなかったが、どうやら男性のようだ。

中性的で、小柄な彼は、『美咲(みさき)(やなぎ)』という。

 

「トレセン学園で、トレーナーをやっているんですけど……」

 

トレーナーという単語を口にした際に、美咲の表情が曇った。

話の途中のはずなのだが、詰まったように続きが出てこない。

 

「あ、あの! 僕なんかでよければ、話くらいは聞きますけど……」

 

「ありがとう、ございます。実はぼく――」

 

トレーナーというのは簡単にいえば担当するウマ娘がレースで勝てるように、いろいろと鍛えてあげる人のことをいう。

その需要は年々高まっていき、高校卒業と同時にライセンスを取得できるようにしてあるところまであるらしい。

彼もまた新人トレーナーの一人であり、同じく新人のウマ娘を担当しているらしいのだが、どうにもこうにもレースで結果が出せなくて悩んでいたようだ。

 

「担当してる子はとっても才能があって素敵な子なんです。だからどうしても勝たせてあげたいんですけど、なにしろトレセンに通う子たちは本当に強い人たちばかりで」

 

一応、ウマ娘のレースは三着までに入ることができればライブで前のほうに立って歌うことができるが、その実、人々が注目しているのはやはり一位のみだ。

彼女が勝てないのは担当しているトレーナーがイマイチだからではないのか?

そういう類のコメントを見かけてしまい、すっかり落ち込んでしまったというわけである。

 

「彼女は他のウマ娘さんたちよりもまだ幼いんです」

 

それは言葉通りの意味であった。

トレセン学園に飛び級して入学したという経歴を持っているのだ。

ウマ娘は、急激な成長を見せる『本格化』という時期があるのだが、それを迎えているという事が理由の一つらしい。

 

「ただそうなると肉体の変化に戸惑ったり、慣れない寮生活とか、周りの子はお姉さんばかりですから、きっと精神面では大きな不安を抱えてると思うんです。だからぼくが落ち込んでちゃダメなんですけど……」

 

「トレーナーさんっ!」

 

噂をすればなのか、向こうから小さな女の子が手を振って走ってきた。

彼女の笑顔を見て、つられるように美咲も笑みを浮かべて手を振った。

 

「すみませんお待たせてしてしまって」

 

「ううん。大丈夫。まだ十五分も前だしね。そうだ、紹介します雉野さん。この子がぼくの担当させてもらってる──」

 

そのウマ娘は美咲の隣にくるとペコリと頭を下げた。

 

「はじめまして、ニシノフラワーです。よろしくお願いしますっ」

 

聞いた通り小柄なウマ娘だった。

柔らかな雰囲気で、ニコニコとほほ笑んでいる。

 

「持つよ」

 

美咲はフラワーが持っていた大きな風呂敷を右手で受け取ると、若干笑顔を引きつらせる。

 

「ごめんなさい。重かったですか?」

 

「い、いや! 大丈夫だよ!」

 

本格化がはじまったフラワーのパワーは子供であっても美咲を凌駕しているらしい。

とはいえだ。それはそれ、これはこれである。

フラワーもそれは理解できたのか、美咲の左手にあったカバンに触れた。

 

「こっちはわたしのですよね? だったら持ちたいです!」

 

「う、うん。だったら、そうだね、お願いしよっかな」

 

美咲は左手が自由になると、すぐに風呂敷を持つ手を両手に変えた。

やはり重かったようだ。

何が入っているのか聞いてみると、お弁当だという。

 

「今日はトレーナーさんと一緒にピクニックの日だから。はりきって作りすぎちゃいました!」

 

「へえ、いいですね。ピクニック」

 

「ぼくも少し料理ができるので、お互いのお弁当を作ってるんですよ」

 

「トレーナーさんの作るお弁当はとっても美味しいから、大好きなんです!」

 

「え、えへへ。どうもありがとう。でもぼくなんてまだまだで。フラワーの作るご飯が一番美味しいからね」

 

二人はニコニコとほほ笑みあっていた。

どうやら空気感は、かなり近いものがあるらしい。

 

「いやぁ、いいですね。ぼくもみほちゃんと食べるごはんが世界で一番美味しいと──」

 

雉野は言葉を飲み込んだ。みほの自慢をしようと思ったが、完全に邪魔者でしかない。

パトロールもまだあるし、ここは二人と別れたほうが賢明だろう。

 

「じゃあ僕はそろそろ」

 

「わかりました。どうもありがとうございました」

 

「……そういえば雉野さんはトレーナーさんとはどういう関係なんですか?」

 

「さっき知り合ったばかりで。だけど、ちょっと悩みを聞いてもらって」

 

「悩み、ですか。ごめんなさい。わたしがレースで勝てないばっかりに……」

 

「えッ、違うよ! 違う違う! それは違うからね!」

 

フラワーもそのことについてはいろいろと思うところがあるようだ。

たしかに年齢や体躯の問題はあるとはいえ、ことレースにおいては本格化が始まっているかどうかがなにより重要なポイントらしく、鍛え方次第ではそれらの差は十分、超えられるとされている。

 

「焦らなくていいから。次は絶対勝とうね!」

 

「……はい。がんばります!」

 

静かな返事ではあったが、フラワーの小さな体の中に激しい炎が垣間見えた気がする。

その時、雉野は少し劣等感に似たものを抱いた。

黙って立ち去ればいいものを、足を止めて口を開いてしまう。

 

「あ、あの」

 

彼が変身するキジブラザーは脚がとても長く、身長は220cmにまで伸びる。

雉野はその姿は嫌いではなかった。みんなを見下げることについては、悪い気はしない。

それこそフラワーと比べれば、その差は圧倒的だろう。

 

だからこそフラワーのほうが『大きい』と感じてしまったことについて、自分でも激しい違和感を覚えた。

その疑問の正体が知りたくて、雉野は一つの質問をぶつけてみる。

 

「フラワーさんは、どうして走ってるんですか?」

 

「理由はいろいろあります。でも、今、一番大きなものは──」

 

フラワーはまっすぐに雉野を見た。

 

「わたしが勝てば、トレーナーさんもたくさん褒めてもらえますよね? だから走るんです」

 

雉野は少し安堵した。これは、自分の中にもある。だからフラワーよりも高いままだ。

 

「いいですね。なんか、支えあうって感じで」

 

「それがウマ娘とトレーナーですから」

 

「僕もみほちゃんがいてくれるから頑張れるんです。うまく説明できないけど、きっとそういう機能みたいなものが人間にはあるんじゃないかなって」

 

「他人のために、ですか」

 

「はい。とにかく僕も、みほちゃんと、二人みたいな関係になれたらいいなって思いました」

 

「奥さんと旦那さんみたいにですか……なんだか恥ずかしいね。えへへ」

 

「でも、それくらい大切に想いあえたら、とっても素敵だと思いますっ!」

 

微笑み合う二人を見て、今度こそ雉野は立ち去ろうと踵を返した。

 

 

 

 

一方、その頃、別の場所では二人の男が言い争っていた。

 

「話にならんわ! 兄者は何もわかっていない!」

 

「愚かなのは貴様のほうだ弟よ! なぜ理解できぬのだ」

 

「黙れ! 阿呆と話すことなどもうないわ!」

 

弟は部屋に戻ると、椅子に座り、苛立ちのままに手すりを殴った。

やはり、あの男では会話にならない。知識人は電脳の海を越えた先にしかいないのか。

男はすぐにSNSを起動して同志たちのもとへと赴く。

だが弟はそこで悲鳴を上げた。

PC画面には一枚のイラストが流れてきたが、そこには『タキモル』と記載されたおぞましい単語が見える。

 

「トレーナーは教師のようなものだろ! それが生徒に手を出すなんて言語道断!」

 

弟は画面を破壊しそうになるのをなんとか堪えて、すぐに長文の文句を絵師に送り付けてページを閉じた。

 

「ウマ娘を無礼(ナメ)るなよ? トレウマを持て囃す人間は、真のウマ娘ファンではない」

 

タキモル作者に送った文句の終わりにも同じことを書いた。

理解できない。気色悪いだけだ。トレウマは地雷だとプロフに書いてあるだろうが。

なのになぜそんな不快なものを見せる。不快なものを生み出す? 邪道であるとわからないのか?

 

弟はすぐに保存してあるイラストを表示して浄化の作業に入る。

そこにはアグネスタキオンと、エアシャカールが妖艶な雰囲気を醸し出しているものがあった。

そう、弟は今、タキシャカにハマっていたのだ。

彼は百合、つまりガールズラブこそがこの世で最も尊いものだと確信している。

 

「人間は人間と恋愛し、ウマ娘はウマ娘と恋愛をする。それが真実だろうがぁぁあ……ッ!」

 

ウマ娘×ウマ娘。ウマウマこそがこのコンテンツの正解なのだ。

トレーナーとはあくまでもサポーター、つまり露悪的な言い方をすれば『おまけ』だ。

もちろんその存在の重要性は理解している。事実、プレイヤーの名をトレーナーは名乗る。

 

だが、だからこそ壁になるべきなのだ。

それは簡単な話である。やはりウマ娘の真の苦しみや喜び、魂をぶつけえる関係性は、同じウマ娘同士でしか芽生えない。

トレーナーへの感情よりももっと大きなクソデカ感情はウマ娘にしか抱けない。

 

それは普通にプレイしていれば『わかりそうなもの』なのだが、どうやら読解力の足りない人間が増えてきてしまったらしい。嘆かわしいことである。馬鹿でもスマホが持てるのだ。

 

だが最近のストーリーの流れを見ていると、ウマウマが優勢に立っていることは言うまでもない。

公式はきっとはじめからウマウマを推していきたかったのだが、些細な優しさを勘違いした、がめついプレイヤーたちのせいで言い出せずにいたのだろう。

だがそれでいい。臆することはない。私は支持し続ける。同志たちは電脳の海に溢れている。

いずれはトレウマなど消え去り、真の楽園が建設される。

 

それでいい。

それを待てばいい。

待てば、待てば、待て──

 

 

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

「待てるかァアアアアアアアアアア!」

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

 

 

 

 

 

 

「百合厨きもちわるい!」

 

兄者は画面を破壊しそうになるのをなんとか堪えて、すぐに長文の文句を絵師に送り付けてページを閉じた。

 

「ウマ娘を無礼(ナメ)るなよ? ウマウマを持て囃す人間は、真のウマ娘ファンではない」

 

シチユキ作者に送った文句の終わりにも同じことを書いた。

理解できない。気色悪いだけだ。ウマウマは地雷だとプロフに書いてあるだろうが。

なのになぜそんな不快なものを見せる。不快なものを生み出す? 邪道であるとわからないのか?

 

兄者はすぐに保存してあるイラストを表示して浄化の作業に入る。

そこにはユキノビジンが恥ずかしそうにトレーナーと手を繋いでいるイラストがあった。

そう、兄者は今、トレユキにハマっていたのだ。彼はウマ娘とトレーナー、つまりノーマルラブこそがこの世で最も尊いものだと確信している。

 

「ウマ娘はトレーナーと恋愛をする。それが真実だろうがぁぁあ……ッ!」

 

それこそがこのコンテンツの正解なのだ。

ノーマルラブという名前に関しての議論は大いに結構であるが、ヘテロでもなんでも。いずれにせよ帰結する答えは同じ、一つでいい。

 

ウマ娘とウマ娘にあるものは高め合える関係性。

それは友情であり、ライバル関係であり、いずれにせよ友愛である。

その大きさはどれだけ進んでもラブに変わることはない。そこを勘違いしているウマウマ厨はきっと人を愛したことがない可哀そうな人間なのだと確信していた。

 

あまりにも簡単な話である。

やはりウマ娘の真の苦しみや喜び、魂をぶつけえる関係性は、二人三脚で歩んでくれているトレーナーにしか芽生えない。

ウマ娘への感情よりももっと大きなクソデカ感情はトレーナーにしか抱けない。

 

それは普通にプレイしていれば『わかりそうなもの』なのだが、どうやら読解力の足りない人間が増えてきてしまったらしい。嘆かわしいことである。馬鹿でもスマホは持てるのだ。

 

だが最近のストーリーの流れを見ていると、トレウマが優勢に立っていることは言うまでもない。

公式はきっとはじめからトレウマを推していきたかったのだが、些細な優しさを勘違いした、がめついプレイヤーたちのせいで言い出せずにいたのだろう。

だがそれでいい。臆することはない。私は支持し続ける。同志たちは電脳の海に溢れている。

いずれはウマウマなど消え去り、真の楽園が建設される。

 

それでいい。

それを待てばいい。

待てば、待てば、待て──

 

 

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

「待てなァアアアアアアアアアいッッ!!」

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

 

 

 

 

 

弟は色欲鬼・赤へ。

兄は色欲鬼・青へとそれぞれ変化する。

赤はかつて人間界に現れた『世界鬼』に酷似しており、青は『電撃鬼』にシルエットは一致していた。

脳内センサーがすぐにその気配を察知し、赤鬼は走り出した。

 

「トレウマだ! 今のはトレウマだ! だめだ、ダメだ駄目だァアア!」

 

「!」

 

美咲、フラワー、雉野は声がした方向を見る。

そこには怒りに吠えながら走ってくる赤鬼の姿があった。

 

「危ない!」

 

雉野は美咲を突き飛ばした。

彼が立っていた場所へ繰り出されたラリアット。空を切った攻撃のせいで赤鬼の苛立ちはさらに加速していく。

そして振り返り、彼は絶望した。

倒れた美咲のほうへと駆け寄っていくフラワーが見えたのだ。

違う。違うだろ。お前が駆け寄るのはウマ娘の胸の中じゃないのか?

 

「キモすぎるゥうッ!!」

 

赤鬼は吠え、再び走り出す。

 

「アバターチェンジ!」『ドン! ブラスター!』『よッ! トリッキー!』

 

キジブラザーはすぐに赤鬼を抑えようとしたが、その時、背後から走り抜ける影があった。

 

「トレウマァアアアア!」

 

青鬼は赤鬼に掴みかかると地面を転がっていく。

 

「え? え? ど、どういうこと!?」

 

困惑するキジブラザーを見ることもなく、二体の鬼は殴り合い、怒りをぶつけあう。

 

「トレウマ派はカス! ボケ!」

 

「ウマウマ派はクソ! アホ!」

 

何がどうなっているのかサッパリわからずに立ち尽くしていると、背後に複数の気配を感じた。他の仲間たちが転送されてきたようだ。

 

「ちょっともぉー! お風呂入ろうと思ってたのにぃ!」

 

「転送されたが、ここはどちらの世界かな……?」

 

オニシスター、サルブラザーが歩いてくる中、イヌブラザーも同じように歩いてくるが、突如として急ブレーキをかけ、しばらく沈黙したのちに後退してくる。

 

「あん!?」

 

イヌブラザーはニシノフラワーを見て立ち止まっていた。

 

「なんだぁ? 耳? しっぽ? コスプレか? よくできてんな!」

 

「え? あ、あのっ」

 

フラワーが口を開いたところで、その前をキジブラザーがドタドタと走り抜ける。

 

「皆さん聞いてください! ちょっと変なんです! ヒトツキ同士で殴り合ってて!」

 

「ほう。だが倒してしまえば同じこと! 続けお供たち!」

 

「よッしゃー!」「おい、いいのか? まあ……いいのか」「オレに命令すんな!」

 

「あ、ちょっと!」

 

キジブラザーは止めようとするが、すでにドンモモタロウは鬼たちへ切りかかっているところだった。

 

「ぐあぁ! な、なんだ貴様は!」

 

「楽しそうだな、俺も混ぜてくれ!」

 

「混ぜる? ならば聞かねばなるまい!」

 

赤鬼と青鬼は肩を並べて立ち、赤鬼は左手を、青鬼は右手をドンモモタロウへ差し出した。

 

「「聞こう! 赤き剣士よ!」」

 

「なんだ?」

 

「そなたはウマウマ派?」

 

「それとも、トレウマ派?」

 

「………」

 

「「さあ! どっちかな?」」

 

「知るか! どっちでもいいわ!!」

 

「「グアァアアアア!?」」

 

一閃。

虹色の斬撃が赤鬼と青鬼をまとめて切り裂き、吹き飛ばした。

 

「なんの話だ?」

 

「またウマ娘だよ。トレーナーとウマ娘ちゃんの恋愛か、ウマ娘同士の恋愛か。わたしはどちらかというと、んー、トレウマ派かなぁ?」

 

「なるほど。いちいち考えたこともなかった」

 

「あぁ? なんだなんだ? さっきから何を言ってるかオレにはサッパリだぜ」

 

「あのねワンちゃん! ウマ──」

 

「うるさいぞお供たち! ヒトツキ共もくだらんことで争うな! どちらも既にあるものならば、どちらかを無くすなどありえはしない。受け入れろ!」

 

そこで鬼たちの様子が変わる。

これは、怒りだ。

大いなる怒りに震えながら、拳を握りしめ、尚も震える。

 

「くだらない、だと? ウマ娘たちの想いが、くだら、ない?」

 

「愛が、どうでも、いい……? だと……?」

 

鬼は、天を、仰ぐ。

 

「「くだらなくなんかねぇエエエエエエエエエ!!」」

 

風が、吹きすさぶ。赤と青の衝撃波がドンブラザーズや美咲たちを吹き飛ばした。

亀裂が走る音がする。これはきっと幻聴などではない。

 

「な、なんなの今の!」

 

オニシスターが立ち上がったのと同時に、他の仲間も次々と立ち上がっていく。

 

「フン! やるな!」

 

そんな中、ドンモモタロウは胡坐をかいて扇子を扇いでいた。

どこを見ても鬼の姿はない。

 

「逃げ足の速いヤロー共だぜ……」

 

そう言って、イヌブラザーが消えた。

 

「キミが怒らせたからではないのか?」

 

そう言って、サルブラザーが消えた。

 

「そうよタロウ。人によってはかなり重要視するところなんだから」

 

そう言って、オニシスターが消えた。

 

「勉強になったぞ……! ハーッハハハハハ!」

 

そう言って、ドンモモタロウが消えた。

 

「?」

 

残されたキジブラザーは変身を解除して、そこで気づく。

辺りを見回すと、美咲が倒れているではないか。

どうやら衝撃波に巻き込まれてしまったようだ。

 

「あッ! 大丈夫で──」

 

駆け寄ろうとしたが、それよりも前にフラワーが美咲に声をかけていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「う、うぅぅ」

 

美咲は目を開けると、けだるそうに立ち上がる。

気絶していたようだが、怪我はしていないようだ。

 

「フラワーも大丈夫!?」

 

「えっ?」

 

フラワーのリアクションがおかしい。

美咲が何を言っているのか、理解できていないようだ。

 

「ふーちゃん、知り合い?」

 

「すーちゃん。えっと……」

 

フラワーの隣に立ったのは同じトレセン学園に通うウマ娘のダイワスカーレットだった。

今度は逆に美咲の反応がおかしい。

いくらトレーナーとはいえ担当ウマ娘の交友関係をすべて把握しているわけではないが、ダイワスカーレットとこんな風に呼び合っていただろうか?

それになんだかやけに距離感が近い気がする。

 

「トレーナーさん! 大丈夫で……」

 

その時、美咲の後ろからフラワーが駆け寄ってきた。

衝撃波で吹き飛ばされた彼女は、飛び起きると同時に美咲を心配して走って来たのだ。

 

「「えっ?」」「「え!?」」「え……?」

 

同じような声が重なる。

無理もない。

ニシノフラワ―が『二人』いた。

 

「なんでッ!?」

 

雉野が叫んだ。すると後ろから声がする。

 

「それは、こちらが、教えてほしい」

 

振り返ると、中学生くらいの女の子が立っていた。

その隣には、三人目のニシノフラワーが困惑の表情を浮かべていた。

 

 

 

喫茶どんぶら。

あれから、美咲たちは雉野に連れられてここにやって来た。

そこでタロウ、猿原、はるかを紹介して、さらに一連の『世界融合』の件を明かしたのである。

 

「そんなことがあったなんて、驚きました」

 

それは本心だが、どこかリアクションが薄いのはもっと大きくて直接的なものを見てしまっているからだろう。

今も、店内には三人のニシノフラワーがいて、それぞれ困惑した表情を浮かべている。

 

「そっくりですよね。本当」

 

そう口にしたのは、浅口(あさくち)梨花(りか)というポニーテールの女性だった。

彼女もまたトレセン学園のトレーナーなのだが……

 

「獣人ではなさそうだが」

 

タロウが言ったのは、人間をコピーできる生命体である。

調べたところ、どうにもこのニシノフラワーたちは、正真正銘ニシノフラワー本人のようなのだ。

 

「あのヒトツキの影響と考えるべきだな」

 

猿原は人差し指をわざとらしく立てて強調する。

先ほどからみんなの話を聞いていると、一つの結論にたどり着いたのだ。

 

「どうやら複数のパラレルワールドからニシノフラワーくんが召喚されたようだ」

 

最近はよく映画でもマルチバースという単語を見かけるが、次元の壁を隔てた向こう側に存在する『もう一つの宇宙』にある地球では、まったく同じ人間が存在するが、異なる人生が紡がれるらしい。

その結果が、今ここに存在するニシノフラワーたちなのではないかと。

 

ということで、一同は改めて自己紹介をすることに。

 

「浅口梨花です。トレセン学園でトレーナーをしていますが、担当はニシノフラワーとダイワスカーレットです」

 

スカーレットとフラワーがペコリと頭を下げた。

同じトレーナーというだけあってか二人は仲がいいようだ。今も尻尾を絡ませあっている。

 

「ワタシ、玉野(たまの)トコ。14歳だけど、トレセン学園のライセンス、飛び級で取った」

 

顔立ちや、銀髪に赤い瞳から察するに、海外の生まれなのだろう。

 

「担当はマチカネフクキタル、タイキシャトル、ハルウララ、ライスシャワー、そしてニシノフラワ―」

 

「お、多いですね」

 

「チーム名はハレノヒ・ランナーズ。この子は、エース」

 

「照れちゃいます! えへへ」

 

ペコリと、フラワーが頭を下げた。

担当ウマ娘が多ければ多いほど、トレーナーとしてのレベルが高いというのは一般的だ。

 

「あなたは、どんな、人?」

 

「美咲柳です。新人トレーナーで、ニシノフラワーを担当しています」

 

つまりそれぞれの並行世界でニシノフラワーを担当しているトレーナーが集められたせいで、こうなっているというわけだ。

信じられない話だが、実際にこうしてそこにいるのだから疑ってもしかたない。

 

 

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