ドンブラザーズ×ウマ娘 俊足の残夢   作:ホシボシ

3 / 21
ドン一話 おウマのはなよめ-2

「とりあえず」

 

トコは美咲の隣にいるフラワーを示す。

 

「フラワーA」

 

トコは次に自分の隣にいるフラワーを示す。

 

「フラワーB」

 

最後に、梨花とスカーレットの隣にいるフラワーを示す。

 

「フラワーC」

 

わかりやすくしようという提案だろうが、スカーレットが不服そうな顔をする。

 

「Aがいいんですけど」

 

「ま、まあまあ。いいじゃないそれくらい」

 

ボソッと呟いたから周りには聞こえていないからいいものを。

また面倒な悪い癖がでたと梨花は思う。

というのも、スカーレットは異様に一番に拘る性格なのだ。

なんとか納得させようとするが、何を言ってもしっくりは来ていないらしく不満げな表情だ。

するとフラワーBが、ちょんちょんとスカーレットの肩を突っつく。

 

「bestは最上級の意味ですから。Bが一番だと思いますっ」

 

「たしかに! ふーちゃん賢い!」

 

よくわからないが納得してくれたようだ。梨花はホッと胸をなでおろした。

しかし一方で別の強い感情がスカーレットの中に芽生えたらしい。彼女はうずうずとしながら、人差し指を突き立てた。

それはスカーレットがよく使う。一番、一着を意味するジェスチャーでもある。

 

「あの、一番、決めてみませんか……?」

 

 

 

 

「やったわ!」

 

本当は学園のコースを使いたかったが、パニックになる可能性があるので場所は河原となった。

往復1200mの道を一人ずつ全速力で走り、タイムを競う。

その結果、勝利したのはフラワーC。

つまり、浅口梨花の担当しているニシノフラワーだった。

 

「すごいじゃない! ふーちゃん!」

 

「ふふふ、綺麗に咲けました!」

 

スカーレットが駆け寄ると、フラワーは両手を合わせた後、少し開いてお花のシルエットを手で作った。

 

「すっごいスピード感だった! 体の動きもダイナミックで漫画のアイディアがもうバシバシ降りてくるって感じ!」

 

「ああ。実に見事なものだった。思わずここで一句――」

 

風光る

 記録を超えて

  ゴールイン

 

「たしかに、人間に比べるとかなり速いな」

 

見学に来たタロウたちも興奮しているようだ。

だが雉野は、喜ぶ人間よりも、負けた側の人間に目が行ってしまう。

平気だろうか? ショックを受けていないだろうか? フラワーBは僅差だったが、フラワーAに関してはそれなりに差をつけられた印象ではある。

だからこそ彼女らの表情を見るのが苦しい。

 

「ちょっと、いい?」

 

少なくとも、トコはムッとしているように感じた。

 

「走る前に食べたカップケーキ。あれなに?」

 

「やだ、ドーピングじゃないですよ。カロリーひかえめの特別性です。今日はちょっとフラワーの元気がなかったので、おやつをあげてテンションを上げようかなって」

 

「元気……テンション……?」

 

トコはハッとしてスマホを通してフラワーBを見た。

画面に映ったフラワーの心拍数や、その他もろもろの数値が表示されているが、『やる気』と書かれたメーターが低めである。

 

「フラワー、最近、何かあった? 睡眠の質が悪い」

 

「ご、ごめんなさい。実は先週の放送で応援してるプリファイでピンチになっちゃって……」

 

トコはすぐにスマホでフラワーが見ているプリファイのデータを検索する。

すると先週の放送の『引き』でフラワーの好きなプリファイが敵の攻撃を受けそうになったところで終わったらしい。

 

「なるほど。安心して。よくある死ぬ死ぬ詐欺。過去のプリファイシリーズでメインキャラクターが死んだことはないし。この脚本家は過去の担当作品で一人も死人を出してない」

 

「本当ですか。よかったぁ」

 

フラワーのやる気が上昇する。

きっとこの状態で走れていたのなら、結果は違っていただろう。

 

「玉野トレーナー! 浅口トレーナー! お願いがあります!」

 

美咲は勢いよく飛び出し、地面に膝をつける。

 

「どうかッ、ぼくに指導していただけないでしょうか!?」

 

「え? 指導?」

 

「はい! ぼくはどうしてもフラワーを勝たせてあげたいんです! それに──ッ!」

 

美咲はフラワーAの成績が芳しくないことを素直に打ち明けた。

何度か惜しい結果にはなっているが、一着をとれたことがないのだ。

さらに問題はあるようで──

 

「もうすぐチャンピオンズミーティングの決勝があるんです」

 

チャンピオンズミーティング。いくつかあるレースの中でも特殊なものだ。

どんな学年や実績でも参加することができ、実力の近いウマ娘同士でマッチングが行われてグループ分けが行われ、それぞれで勝利者が決まるという一種のお祭りである。

優秀なトレーナーとウマ娘は、『グレートリーグ』という形式で戦うのだが、美咲は新米トレーナーが集まる『オープンリーグ』にしか参加したことがなく、さらにその中でも敗北が続いたものが送られるBグループでの経験しかない。

今回は決勝とあるが、これは同じチームのメンバーの活躍が原因なだけでフラワーは半分より下がせいぜいだった。

 

「フラワーはもともと飛び級で入ったこともあって注目度は高いウマ娘です。ですのでこの結果が続くのは周囲の反応もよくありません。学園からも次のカプリコーン杯で勝てなければ、トレーナー交代を考えると言われています! でもぼくはっ、フラワーのトレーナーでありたいんです! だからお願いします!」

 

梨花とトコは顔を見合わせる。まあ、断る理由はない。

元の世界に変えるにはどうやら化け物を倒してもらう必要があるらしく、その間は暇も暇である。

 

「住むところさえ用意してもらえれば……」

 

「もちろんです! ぼくの部屋を使ってください。ぼくは実家が近いのでそこから通います!」

 

話は纏まったようだ。話を聞いていた雉野も安堵を覚えた。

自分でそんな話をしたからか。

なんだか自分とみほが、二人に重なってしまうのだ。

 

「僕にできることがあったらなんでも言ってください! そうだ、桃井さんたちも手伝ってくださいよ!」

 

「……そういえば、まだ関係を聞いていなかったな」

 

「関係ってほどでもないんですけど。とにかく、うんぬんかんぬんで、なんとか彼の力になってあげたいんですけれど……!」

 

「悪いが俺には仕事がある。それに陸上はサッパリだ」

 

雉野ははるかを見るが、すぐに目を逸らした。運転免許と、ボロボロの車がよぎる。

彼女に『走り』を語らせてはいけない。そんな気がするのだ。

 

「ちょっと雉野、なにその目は。スポーツ漫画を描くために取材はしたことありますけど?」

 

「いやいいです。猿原さんはどうですか? 教授って呼ばれてるんだからこういう類の相談だって経験あるでしょ?」

 

「もちろんあるが、マラソン大会に向けてがほとんどだ。幸いにして餅は餅屋、専門家が知恵を授けてくれるというのだから、それで済む話だろう?」

 

「それは、まあ」

 

「焦る気持ちはわかるが、キミはサポートに徹し、あとは静観していたまえ」

 

「……わかりました。だったら買い出しとかは任せてください!」

 

「ありがとうございます雉野さん! よし! 頑張ろうねフラワー!」

 

「はい! みなさんの期待に応えられるようにがんばりますっ!」

 

 

 

 

ということで、もう本当に時間がないらしく、さっそく特訓が始まった。

トレーナー室でトコはまず、自分のスマホを美咲と浅口に見せる。

 

「ワタシの世界ではこのトレーニングアプリ・『デウス』をメインで使ってる。体調とかが数値化されてるし、イヤホンとカメラをつけてもらえば遠隔で指示もだせる」

 

スマホ越しにフラワーAを見ると、彼女の筋力や走行方法や過去のレースの映像が映し出され、アプリが下した評価が表示される。

 

「BからBプラス。オープンリーグでは現在、この評価がAプラス程度ないと勝つのは難しいとされてるわ」

 

「ちなみに、フラワーBさんと、フラワーCさんのデータは?」

 

「フラワーBは『UG』、フラワーCは『SS』」

 

「が、がんばります」

 

「仕方ないところもある。ワタシは過去のノウハウの先にあった技術を使わせてもらってるけど、ここには、それがない」

 

トコは一通りデータに目を通し、何度か頷いた。

 

「美咲トレーナーは、いうほど悪くない」

 

「ありがとうございます!」

 

「でも一人では限界がある。それはウマ娘も同じ。なによりも大切なのは合同練習」

 

「一応、仲良くさせてもらってるトレーナーさんが担当してる子とやらせてはもらっているんですが……」

 

「少なすぎる。期間も、人数も。先行脚質であれば、中距離や長距離の子と練習してもいい」

 

「スケジュールや向こうもペースもあるだろうからと、少し遠慮していました……」

 

「そう。でもダメ。一緒にやるの。ワタシには友達がいない。だからこそわかる。人は高め合える生き物。周りを見て、自尊心を失った人間は奇行に走る。あれは結局、孤独だから」

 

このトレセン学園に通っている以上、負けたくないという想いがある。一緒に高め合いたいという想いがある。

いや、少し訂正するなら、その想いがなくても感化され、芽生える。

 

「勝ちたいという信念、走りのテクニックを真似る。盗む。授かるスキル。いずれも複数人での集まりがもたらすもの。感化され、影響され、衝突し、育むの」

 

だから、トコは何人ものウマ娘を担当しているのだ。鼓舞し合い、高め合うために。

極限状態にいた人間たちのなかで励まし合ったグループのみが生き残ったというデータもあるくらいだ。

 

「関わりが、才能の爆発を生み出す。ワタシはこれを、アオハル育成と呼んでる」

 

美咲は必死にメモを取るが、なかなかハードルが高い意見である。

一人で練習したいというウマ娘やトレーナーも珍しくない。

そんななかで新人が一緒にやりましょうと引っ張ってくるわけだ。

 

それにもう一つ気になる点がある。

トコがいる手前、口が裂けても言えないが、たとえば気の弱いウマ娘は合同練習の誘いを断れず、複数人でのプレッシャーに押し負けたり、ペースを乱されたり、模擬試合に負けたりして自信を無くすなどマイナスに繋がる可能性があるのではないだろうか?

 

もちろん少数派だろうとは思うし、その程度でつぶれるくらいならば遅かれ早かれトレセン学園からは消えていると言われればそれまでだが、どうにもそんな子を作るのは気の毒だと思ってしまうのだ。

するとそんな雰囲気を感じ取ったのか、トコはため息をついた。

 

「周りは、気にしなくていい。とにかく人を巻き込んでマジョリティになるの。そうすれば小さな意見なんて無視しても問題がなくなる。結果が覆すの」

 

「はぁ。そ、そういうものですか……」

 

「たしかに、ワタシは、ほとんどのトレーナーにも、多くのウマ娘にも嫌われてるかも。でも何か問題が? トレーナーにもっとも大切なことは他人にどれだけ嫌われようとも、担当しているウマ娘を勝たせること」

 

「それは、もちろんぼくも同じ気持ちです。ですが不満は連鎖しますから、衝突が続けば誰かがトレーナーから担当ウマ娘のほうへ憎悪を向ける可能性もあるから……それはよくないと思うんです」

 

「……たしかに、それは、そう。一理、ある」

 

すると次は梨花が前に出た。

 

「私もトコちゃんとは少し意見が違うかも。一緒に練習することは大切だけど、なによりも道具を使うことが大切だと思うの」

 

「練習器具ですか? トレセンが用意してくれてるものしか使ってないかも」

 

美咲はトレーニング器具のをリストを梨花に見せるが──

 

「えー! この世界ってアンクルウェイト売ってない? スパルタメガホンもバイタルドリンクもぉお!?」

 

「な、なんですかそれ?」

 

「ごめん美咲くん! 私もうアドバイスなんッにもできないかも!」

 

便利なトレーニング器具を駆使しながらレースに出まくって経験を重ねていく。それが浅口の育成論、その名も『メイクアニュートラック』だった。

 

「ま、まあとにかく! 担当ウマ娘に合ったトレーニングメニューを考えてあげるのは大切だけど、そもそもトレセン学園にいるトレーナーは優秀な人が多いから、そんなことは『当たり前』なの。そこから頭一つ抜け出すためにはどこかで自分だけの武器を見つけないといけない」

 

「なるほど……!」

 

「たとえば道具以外だとそうね。フラワーちゃんはスピードとパワーの伸びがいいでしょう? 美咲くんはスピードを鍛えるには何をしているの?」

 

「ランニングマシンと、フィットネスバイクを主に」

 

「そう。それじゃあ普通すぎるわ。それプラス、雑巾がけがおすすめよ」

 

「雑巾がけですか……? 考えたこともなかったです」

 

「本格化を迎えたウマ娘にとっては意外と良いトレーニングになるのよね。綺麗にもなるしね。それに慣れてきたらショットガンタッチに切り替えるといいわ。パワーは何を?」

 

「ダートと、スクワットをメインにしてます」

 

「悪くはないけど……玉野トレーナーは何をやってます?」

 

「ボクシング、瓦割」

 

「ということなのよ美咲くん。あとは──」

 

梨花は水筒を取り出すと、中にあったものをコップに注ぐ。

 

「体力がない時でもこのおいしそうな緑色のヘドロみたいなジュースを飲ませるとたちまち元気になるわ! 私が考えたの。あとでレシピを送るわね!」

 

「あ、ありがとうございます……。ですがこれは、だ、大丈夫なんですか?」

 

「うわくッッさ!」

 

「ちょっと玉野ちゃん! やめてよ! スカーレットもフラワーも顔を真っ青にして飲んでくれます! たしかにちょっと匂いと味はあれだけど、本当にバチギンになるんだから」

 

「合法ですよね?」

 

「当たり前でしょ!」

 

こうして知識を獲得していく中、フラワーたちは美咲の部屋にいた。

雉野は食料やら日用品が袋を次々と置いていく。なにせいつまでこの世界にいるのかわからないので、買いつけを申し付けられたというわけだ。

 

「歯ブラシとか洗面所に置いておきましたけど……」

 

「あ。ありがとうございまーす」

 

スカーレットの気の抜けた声が聞こえてきた。

 

ぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽす。

 

「あ、あの。なにやってるんですか?」

 

ぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽす。

 

「あ、これですか? こんな機会二度とないから……」

 

ぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽす。

 

スカーレットは、フラワーCの膝を枕にして仰向けに寝転んでいる。

スカーレットの左右にもフラワーAとフラワーBがいて、三人のフラワーは同時にニコニコとほほ笑みながらお手玉をしていた。

フラワーCの特技で無限に続けられるらしいが、それは他の二人も同じようだった。

異様な光景ではあるが、スカーレット曰く、未曽有のリラクゼーション効果があるらしい。

 

「でもとっても不思議な光景ですっ。これが鏡じゃないなんて」

 

「ですねっ、最初はちょっと戸惑ったけど、わたしはわたしみたいで安心しました!」

 

「みんなプリファイが好きなんです!」

 

トコや梨花の話を聞く限り、育成環境や世界的な技術の差はあるようだが、声のトーンや喋り方も一緒だった。

優しそうな雰囲気は彼女の本質とでもいえばいいのだろうか。

とはいえ、違うところもあるわけで。フラワーAはフラワーCとスカーレットを見る。

 

「あの、ひとつお聞きしてもいいでしょうか……?」

 

「どうしたんですかフラワーAさん」

 

「ええ。なんでも聞いて」

 

「あの、お二人は、その……どういう関係なんですか?」

 

フラワーAもスカーレットとはよく会話をしたりするが、あだ名で呼び合うほどの仲ではない。

お互いに同じトレーナーで顔を合わせる機会が多いからだとは思うが、だとしても膝枕や『尻尾ハグ』をするなんて、なかなか衝撃的だった。

 

「やだ! ごめん! つい無意識で……ッ!」

 

「あわわわわ」

 

スカーレットとフラワーCは気まずそうに視線を交差させて顔を赤くする。

尻尾ハグとは、文字通り尻尾と尻尾を絡ませるのだが、主にそれは『特別な相手』とするものだと言われている。だからフラワーAは無性に気になってしまったというわけだ。

 

「ごめんなさい失礼なことを聞いてしまって。でも、その、『わたし』だから。気になってしまって……」

 

「そうよね。気になるわよね。ごめんね、気が付かなくて。いい? ふーちゃん」

 

フラワーCはコクコクと頷いた。

 

「なかなか一言で説明するのは難しいんだけど、とにかく大切な人なの。ね?」

 

「はい。わたしにとって、すーちゃんは『一番』なんです」

 

「うれしい! ありがと、ふーちゃん!」

 

スカーレットは嬉しそうにフラワーCの背後から手をまわして抱きしめた。

 

「アタシ、もともと梨花(トレーナー)の担当じゃなかったの……」

 

少し寂しげにスカーレットは語り始める。

彼女はとにかく『一番』に拘っていた。それは自分のためであり、母親のためであり、いろいろと理由はあるが、とにかく一番じゃないと許せないし、一番であり続けた。

 

だが、やはりトレセン学園は世界が広かったと思い知らされる。

なかでもルームメイトであり、最大のライバルである『ウオッカ』の活躍はめまぐるしく、スカーレットは人生で初めて二位を味わわされた。

 

「アタシは必死だったから、必死すぎちゃったからそれで、結局……」

 

いろいろと歯車がズレてしまった。

一番最初のトレーナーは付き合いきれないとさじを投げ、それでまたイライラして、ウオッカにも当たるようになってしまって、そんな自分に嫌悪する日が続いた。

なんとかクラスメイトや先輩の前では優等生でいようと振舞っていたが、トレーナーの間では既にプライドが高いだけの気難しいヤツというレッテルが貼られてしまっていた。

なので新しいトレーナーも見つからず、練習もあまり結果も伸びずという悪循環が続いていた。

 

「正直、相当参ってたの。そんな時にふーちゃんと出会って」

 

その日は、誰とも会いたくなくて、一人で食事をしようと中庭の隅っこにやってきた。

つまらなさそうな表情で購買で買ったパンを齧っていると、声をかけられた。

 

「もしもよろしければ、一緒に食べてくれませんか?」

 

それが、フラワーだった。

作りすぎてしまったのでと、持ってきた弁当を見せてくれた。

彼女が飛び級をしていたことは知っていたので、さすがに子供相手にまで冷たい態度をとるのは愚かだと思い、スカーレットは一緒にご飯を食べることにした。

二人でレジャーシートを広げて一緒に座り、フラワーが作ったお弁当を食べる。

 

「すっごく美味しかった。それに自分でもよくわからないんだけど、ふーちゃんってなんだか年下なんだけど包容力があるっていうか……」

 

とはいえ子供らしい可愛さもあって、なんだか落ち着いた。

さらに耳を触ると安心感に包まれて、癒されるという噂もあったので、たっぷりふにふにさせていただいた。

それからこの際にと、いろいろな話をして、フラワーのことを知った。

両親が大好きだということや、炭酸ジュースが飲めないということ、プリファイが今も好きだということ。

 

「プリファイの歌では何が好き?」

 

気づけば、スカーレットはそんなことを言っていた。

フラワーは恥ずかしそうにしながらも、スマホを取り出す。

 

「MVがあるので。み、見ますか……? 見なくてもいいんですけど……あの」

 

「うん。見せて!」

 

「は、はいっ!」

 

二人は一つのイヤホンを分け合って、音楽を聴いた。

なんだかその時間はスカーレットにとって久しぶりに『楽しい』と思えるものだった。

だから彼女はふいにフラワーに打ち明けてしまった。

もちろん小さなフラワーに人生を説いてもらおうだなんて思ってない。ただ、この胸にずっとあるモヤモヤを少しでもわかってくれればと思っただけだ。

するとフラワーはおひさまのような笑顔でほほ笑んだ。

 

「だったら、わたしは二番でもいいですよ」

 

その言葉はスカーレットにとってはあまりにも衝撃的なものだった。

このトレセン学園においてそんな言葉が出てくるわけがないと思っていたからだ。

しかしフラワーは本気でそう言っている。

短距離をメインとして走っていくという。そうすればマイルや中距離を主軸とするスカーレットとは食い合わないから。

 

「だから、わたしにはもっと甘えてください。ね?」

 

「フラワーちゃん……」

 

「そうだ。わたしのトレーナーさんにスカーレットさんも見てくれないか頼んでみますね!」

 

気づけば、スカーレットはフラワーを抱きしめていた。

もちろんその場では遠慮して断ってはみたが──

 

「お前、顔が柔らかくなったな」

 

教室に戻って、ウオッカにそう言われた。

 

「なによ、悪い?」

 

「いや、いい顔してるぜ」

 

そう言われたのを覚えてる。

 

 

 

 

「とまあ、そんな感じで。うんぬんかんぬんあって、今はこうなってるってわけ」

 

「そうだったんですか……」

 

「そっちはどうなの? トレーナーと仲良さそうに見えたけど?」

 

「はい! トレーナーさんとはとっても仲良しなんです!」

 

フラワーAは胸を押さえて噛みしめるようにあの時のことを思い出した。

 

「……トレーナーさんは、わたしのおひさま、なんです」

 

奇しくも同じころに、美咲も梨花たちにフラワーとの出会いを話していた。

 

「フラワーは僕の太陽なんです」

 

美咲は幼いころから身長が低く、体も華奢だったので、とにかく運動は大の苦手だった。

それが原因で悔しい想いをたくさんして、すっかりスポーツに対する情熱は冷めきってしまった。

 

だからこそ自分と同じような人の助けになってあげられるのではないかと勉強をしていたが、どうにもこうにも新人の自分ではぶつかる壁も多く。

なかでも肝心の担当が決まらない日々が続いていた。

新人ではちょっと……。そんなことを何度言われただろうか?

 

すっかり自信を無くしてしまった時のことだ。

ニシノフラワーが走っていた。

彼女は周りのウマ娘よりも体が小さく、それでも飲み込まれまいともがく姿が、美咲の目にはひときわ輝いて映った。

 

「がんばれ!」

 

美咲は無意識に叫び、まるで彼女を追いかけるようにして体を前に出す。

しかし結局、フラワーは飲み込まれるようにシルエットの中に消えていき、六着に終わった。

美咲はしばし放心していたが、やがてあの時のフラワーの表情を思い出した。

 

彼女は何を思っているのだろうか?

悔しいと思っているのだろうか?

それとも……。

いてもたってもいられず走り出したが、そこで美咲は石に躓いて思い切り転んでしまった。

 

(うぅぅ、情けない……)

 

周りのウマ娘にもクスクスと笑われてしまったが、そんな中で声をかけてくれた子がいた。

 

「大丈夫ですか?」

 

顔を上げると、そこには心配そうにしているフラワーがいた。

彼女の後ろには空があって太陽と重なっていたから、思わず眩しさに目を細める。

フラワーは美咲の指から血がにじんでいるのを見つけると、花柄の絆創膏を貼ってあげた。

 

「キミから勇気をもらいました!」

 

美咲は素直にそう言った。他とは違っても、必死に咲こうとしている。

そんな彼女が眩しく、だからこそ自分もそうありたいと思った。

 

「ありがとうございますっ!」

 

フラワーも嬉しそうに笑ってくれた。それが二人の出会いだった。

 

 






競馬は何回かやったことあるのですが、追加でお金払っていけるちょっといい席みたいなところが快適すぎてびびりました。
あと100円からかけれるのも初心者にはありがたかったです。
ちょっと調べるのがあれでやれてませんが、アプリでもできるようなので、またいつかやってみたいなとは思てます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。