ドンブラザーズ×ウマ娘 俊足の残夢   作:ホシボシ

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ドン一話 おウマのはなよめ-4

 

「さっそくですけど、面白い漫画を書くにはどうすればいいんでしょうか!?」

 

『ふむ。まあ、やはりそれはストーリーなのだけれど、そこはアドバイスのしようがない。それぞれがオリジナリティを磨いてるからね。だろ? ウマージさん』

 

『……ああ。その点は同意だ』

 

『ただしやはり定石や鉄板というものが存在していてね。恋愛要素だよ』

 

「ほうほう! 恋愛、ラブですね」

 

『うん。サブスクで人気の映画を五本ほど見てみるといい。ほとんどに何かしらの恋愛を思わせる描写は出てくるはずだ。古今東西、結局それが王道で好まれるんだよ』

 

「たしかに! なるほどです!」

 

『だとすれば簡単だ。その楽しさをキミの創作にも詰め込めばいい。ウマ娘ならば過酷なトレーニングやレースで戦うウマ娘のそばには誰がいる?』

 

「それはやっぱり──」

 

『そう、ウマ娘だよ』

 

「そうか! ウマ娘か!」

 

『ちょちょちょちょちょ!』

 

「?」

 

『こらこら! ウマージさん違うだろ? ウマ娘の隣にはトレーナーだよ』

 

「あ! そっか、トレーナーですね!」

 

『こらこらこら!』

 

「?」

 

『こりゃ!』

 

「え?」

 

『ウマ娘だってば。わかるでしょジロウくん』

 

『いやいやあのねウマージさん。普通に、普通に考えてね、超信頼できる異性がいたら、どうする? どうなる? わかるよね? え? バレンタインイベントとかやってないの? ウマ娘同士はライバルなの。高め合う友人なの。恋愛になるわけないだろ』

 

『え? えええ? 令和! 令和やぞ! いいんかその発言は』

 

『何もそこまでは言ってないよ。あくまでも一般的な──』

 

『はい差別―!』

 

『はぁあああ! かっこクソデカためいき! ああ、まあいいや。あのねジロウくん。一つ例を出すんだけど、天下のゲーム本編様でもね、すべてのシナリオが褒められてるわけじゃないんだこれが。ヘリオスショックって知ってるかな? 育成ウマ娘のストーリーのなかでもダイタクヘリオスのは賛否両論でね。今までのウマ娘たちはちょっとは否定的な意見があっても、そこまで割れるほどじゃなかった。なのにこれがまあ一部では不評でね』

 

『まあ、あなたは否で調べてるんだから、そりゃ出てきますわな』

 

『……誰もそんなこと言ってないけどなぁ。ロブロイシナリオ否定してる人いましたか? ウインディちゃんのシナリオは賛否両論でしたか? 違うでしょ? ジロウくん、キミも今すぐ検索エンジンで『ヘリオス シナリオ』と検索してみるといい。サジェストに微妙や不評が出てくるから』

 

「あ、あのっ、それはいったいどうしてなんですか?」

 

『それはね、ジロウくん。ヘリオスのシナリオはトレーナーの影があまりにも薄かったんだ。育成シナリオはトレーナーとの二人三脚が絶対。そこをないがしろにしてしまったせいで、ヘリオスやその周りのキャラクターの評判も結果的に下がってしまった。でも悲しいが、仕方ないんだ。せめてトレウマ要素を入れてくれればまだ救いもあっただろうに』

 

『はいでたー! 結局トレウマ厨はグダグダと言い訳並びたてて、その描写がなかっただけで叩くヤツー! 普通に評価がいいのにトレウマ厨が騒ぎ立てるせいで否定意見が盛られてるだけだから! いいかなジロウくん、ヘリオスシナリオは素晴らしかったんだ。たしかに否定的な意見もないことはないが、それはヘリオスをもっとピックアップしてほしかったというだけでトレウマなんて関係ないんだよ。むしろこのシナリオの評価が上がればウマウマが増えるのではないかと焦っているが故に──』

 

「ちょッ、ちょっと待ってください! 二人ともやめてください! どうしてしまったんですか!」

 

ジロウは二人を落ち着けようとするが、なかなか言い争いは終わらない。

 

「いやリュウソウジャーのほうがクソ! リュウソウジャーはクソ!」

 

「セイバーはゴミ! 仮面ライダーセイバーのほうがゴミ!!」

 

「オーズは絶対に許さん! 制作陣ははいつかの明日を無視し──」

 

そうこうしていると、他の客も言い合いを始めたではないか。

負が連鎖している気がする。至る所から怨念こもった声や、喧嘩の声がする。

そこでふと、猿原が耳に手を当てて、音に意識を集中させる。

 

「なあ、ウマオとウマージ、二人の声が重なって聞こえないか?」

 

「え? あ、たしかに」

 

「機材の不調か? いや、これは……」

 

もっと集中したかったが、ここでジロウが手をパン! と大きく叩いた。

 

「こんなのよくないですよ! そうだ! いったん話題を変えましょう! 要するに、ウマオさんはトレーナーとウマ娘のラブが好きで、ウマージさんはウマ娘同士のラブが好きってことですよね。ボクも事前に調べてきたから、そういうジャンルがあるのは知ってますよぉ。ほら、この前もこんなにかわいらしいイラストが出てきて。キタスイっていうのなんですけど、この魅力はどんなところにあるんでしょうか?」

 

『浅い』

 

「へ?」

 

『あ・さ・い! 浅いッ!』

 

「えぇ……」

 

『あのねジロウくん。よく聞いてな。カフェユキとか、マクイクとか、フランウンスやタイフラ推してるヤツってウマ娘の人気に便乗して騒いでるだけの中身空っぽ人間なの』

 

「そ、そうだったんですか!?」

 

『これらは所謂、史実カプと言って、モデルとなった競争馬の関係性をそのままウマ娘に当てはめてるんだけど、これはあくまでもファンサービスであってウマ娘は運命を変えるということがコンセプトなの。だから史実通りになったらまったく意味ないのよ。史実は史実、それを分け隔てることこそが名前を貸してくださった競走馬たちに対する真のリスペクトなの。人生そのまま真似して何になるの? それくらいウマ娘をちゃんとプレイしていればわかりそうなものなんだけどねぇ……』

 

「は、はぁ」

 

困惑するジロウ。それを見て猿原もまた首を傾げた。

 

「どういうことだ? ウマ娘同士のカップリングの話なのにウマージが否定を始めたぞ?」

 

「ウマウマ派も一枚岩じゃないってことでしょ? 面倒な世界なのよ」

 

すると、ジロウはなんとか話題を変えるために次はウマオに笑いかける。

 

「そ、そうだ! こんなイラストも話題になってたんですよ。ウマ娘さんとトレーナーのラブコメで──」

 

『きもちわるっ!』

 

「なんでですか!? トレーナーとウマ娘ですよ!?」

 

『あのねジロウくん。トレーナーの顔や容姿を事細かに書いてるヤツは承認欲求のためにウマ娘を踏み台にしてる隠れアンチなんだよ』

 

「意味がわかりません!」

 

『シルエットを出すにしても『T』顔とか、カタカナの『ト』でいいのに自己主張きも! きもももも! 特にサーフィンとかスノボしてそうなトレーナーはいやなの。アニトレとかセクハラみたいなのして叩かれてんじゃん! ああいうのはあかんの!』

 

「こちらもこちらで、なかなか業が深そうだ」

 

「めんどくせー……!」

 

『『こだわりが強いと言ってもらおう!』』

 

その後も二人はイベントストーリーがどうとか、アニメがどうとか、詳しく知らないものからしてみれば異国の言葉かと思うくらいの専門用語を織り交ぜながら討論を繰り返した。

だがやがてもう耐えられないと猿原は立ち上がり、ジロウのもとへ移動する。

 

「先ほどから話を聞いていたが、不毛の一言だ。どちらの要素も存在しているのだからありがたく供給を頂戴すればいいじゃないか。そしてもう一つの要素があるものを目にするのが辛いなら見なければいい。ただそれだけのことだろ? イベントをスキップするなり、アニメは見ないなり、トレーナーへのチョコは友愛のものと解釈するなりすればいいではないか。すべてを知り受け止めることのみが愛か? 私はそうは思わない」

 

『ウマ娘たちが命を懸けて戦っているように! これは俺たちの戦いなんだ!』

 

「違う。ウマ娘は娯楽だ。無意味な苦しみは負わなくていい。辛いと思った時点で何かを間違えている!」

 

僅かな沈黙が流れる。

それを破壊したのは、ジロウが指を鳴らす音だった。

 

「わかりました! 両方の派閥が満足するよう、ボクが折衷案を出しましょう!」

 

「ジロウ、やめて」

 

「ジロウ、やめなさい」

 

「何を言うんですかはるかさん! 猿原さん! 素晴らしい案ですよ? まずウマウマの間には、あえて男を挟みましょう! 序盤はウマ娘たちの愛を描き、最終的に一人がトレーナーの魅力に上書きされて、トレウマになるという展開です! 価値観は変動するというメッセージ性もありますし、悲恋の切なさも際立ちますからね! そしてトレウマにはチャラついた先輩トレーナーを差し込みます。途中からこのキャラクターを出して、最終的にはこっちとウマ娘がくっつくようにするんです! なぜならば初恋は実らないというデータがあると聞きました。その通りにして、ほろ苦い恋愛にしましょう! どうですかお二人とも! これが公式になるようにしますから、待っていてくださいね!」

 

『す』

 

「え?」

 

『す』『す』

 

「酢?」

 

 

 

 

 

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

『『殺すッッ!!』』

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

 

 

 

 

 

 

「うわああああああああああ!」

 

衝撃波に揉まれながらドンドラゴクウたちは吹き飛び、地面に激突する。

 

『ウガアアアアアアアアアア!』

 

赤鬼と青鬼は怒りの咆哮と共にエネルギー弾を乱射。

光弾が次々と倒れているドンドラゴクウ、イヌブラザー、サルブラザー、オニシスターへ降り注いでいく。

 

「おい! どうなってんだ! なんか滅茶苦茶キレてるぞ!」

 

「「こいつのせいだ!」」

 

「あああああ! ごめんなさぁぁい!」

 

サルブラザーとオニシスターに指さされて、ドンドラゴクウは丸くなる。

そうしていると桃色の光が迸り、キジブラザーが転送されてくる。

 

「あれ? ここって……」

 

後ろから歓声が聞こえる。

振り返ると、そこには中京レース場が見える。そこはまさしく本日まもなく行われるカプリコーン杯Bグループ決勝の舞台であった。

どうやらヒトツキたちの目的は、あそこを破壊することらしい。

 

「トレウマは全て消し去る!」

 

「ウマウマは全て葬り去る!」

 

「………」

 

その言葉を聞いて、キジブラザーの脳裏に美咲がよぎった。フラワーがよぎった。

そしてスカーレットや梨花、トコの姿、他のトレーナーやウマ娘たちの姿がよぎる。

 

「あるんだ……!」

 

「なに?」

 

「どれもある! すべて存在している!!」

 

キジブラザーはレース場を守るようにヒトツキたちの前に立ちはだかる。

 

「世界の数だけ出会いがあって! かけがえのない絆があるッ! あそこにあるのもそのなかの一つなんだ! それを否定することは、誰にもできはしないんだぁあああ!!」

 

翼を広げて、飛び立つ。

ロケットのように猛スピードでヒトツキたちへ突進を──

 

「フンッ!」

 

「ありゃー!」

 

赤鬼が発生させた衝撃波でキジブラザーは簡単に吹っ飛ばされ、空中を激しく回転しながらそのまま地面に叩きつけられた。

 

「いたたた……ッ!」

 

「ちょっと! 今のは華麗に鬼たちをぶっ飛ばす流れだったでしょ!」

 

「ですよねー、ごめんなさーい!」

 

「だがたしかに、あの衝撃波は厄介だ。まるで異なる意見をすべて跳ねのけるような力強さを感じる!」

 

立ち上がったサルブラザー。

そこでヒラヒラと紙吹雪が舞っていることに気づいた。

と、いうことは──

 

「ハーッハハハハ!」

 

テンテロテンテロテンテンテン♪

 

「!」

 

テロレロテロレロレレレレレン♪

 

雅な音が聞こえる。

ヒトツキは周囲を探ると、すぐに異様な光景が目に飛び込んできた。

紙吹雪が舞うなか、赤い神輿を担いだ屈強な男たちが歩いてくる。さらにその周りには天女たちが舞っており、ある者は扇子を振るい、ある者は花びらをまき散らしていった。

神輿の上には赤いバイクがあり、そこにはドンモモタロウが座って扇子を扇いでいた。

 

「やあ! やあ! やあ! 皆の衆! 祭りは順調か?」

 

ドンモモタロウは扇子を閉じると、それを投げ捨ててビークルマシン・エンヤライドンのハンドルを握った。

 

「思えば思わるる! だが宴もたけなわ! そろそろお開きとしよう!」

 

アクセルグリップを捻ると、バイクが急発進。

神輿を飛び出して、そのまま猛スピードで鬼たちのほうへ突っ込んでいく。

 

「うぉおお!」「ちぃい!」

 

鬼たちはなんとか転がることで突進を回避したが、既にドンモモタロウは着地しており、刀を振り回して鬼たちを攻撃していく。

 

「老いたる馬は道を忘れず!」

 

老いた馬は道をよく知っているので、迷わない。

つまり、経験を積んだ人は判断を誤らないという、ことわざである。

 

「お前たちも、自らの楽園に閉じ込められる前に、世界を知るがいい!」

 

「「黙れ! わけのわからないことを!!」」

 

鬼たちの声が重なる。

赤と青の衝撃波がドンモモタロウを襲い、刀を盾にするも簡単に吹き飛んでいった。

だがドンモモタロウはその中で銃を構え、しっかりとギアをまわしている。

 

「アルターチェンジ!」

 

銃から小型のロボットが発射された。

意識を肉体ではなく、そちらに移したのだ。

ドンモモタロウはだらしなく地面に墜落するが、アルターは衝撃波の中を突き進み、鬼に激突。さらには手に持った小型の刀で次々と攻撃を打ち込んでいった。

 

「くそッ! 目障りな!」

 

「なんだこれは! どけ! 邪魔だ!」

 

鬼たちが混乱している間に、仲間たちも起き上がっていく。

 

「やってくれたな!」

 

「いきますよーッ!」

 

サルブラザーが拳を打ち込み、青鬼を吹っ飛ばす。

キジブラザーが長い足を叩き込んで赤鬼を吹っ飛ばす。

 

「よし! オレも行くぜ!」

 

「待ってワンちゃん!」

 

「あん?」

 

「アバターチェンジ!」『カーレンジャー!』『よッ! 激走戦隊!』

 

姿が変わったオニシスターは、四角くて黄色い物体をイヌブラザーに差し出した。

 

「イモ羊羹よ! 食べて!」

 

「戦闘中にか? まあ小腹も空いてるし、あむあむあむッ!」

 

おいしく一つペロリと召し上がると、次の瞬間、イヌブラザーの体に異変が起きる。

 

「おわあぁああ! なんだこりゃ!」

 

イヌブラザーの頭がみるみる巨大化していき、あっという間に一軒家くらいにはなった。

 

「あれ? なんで頭だけ? まいっか! いけーッ、ワンちゃん!」

 

「うぉおおおおおおおおッッ! くらいやがれーッ!」

 

「「ぐあぁああああああああああ!」」

 

イヌブラザーが頭を振り回し、ヒトツキたちをまとめて吹っ飛ばした。

 

「なにがどうなって……ッ!」

 

赤鬼が立ち上がると、辺りが真っ暗になっていることに気づく。

 

「な、なんだ!?」

 

『アーバタロ斬・アバタロ斬♪』

 

「どうなって──!」

 

虹色に発光する何かが見えた。

これはヤバい。赤鬼はすぐに逃げだすが、逃げ遅れた青鬼はそこで激しい光の点滅を感じる。

それは銃を撃つ際に発生するものだ。

次々と光弾が肉体に直撃していき、動きが完全に止まってしまう。

青鬼はそこで虹色の光が動くのを見た。

それは一瞬で眼前に来ると、次々と周りを移動しながら肉体を切り裂いていく。

 

『必殺奥義!』『モモタロ斬!』

 

やがて虹は、刀へと成る。

ドンモモタロウが発行する一撃を鬼へ刻み付けた。

 

「うああああああああああ!」

 

傷からは光が漏れ、エネルギーが溢れ出る。

鬼が倒れると、それは一気に解き放たれた。

 

「「「「「ドン!」」」」」「「「「「ドン!!」」」」」

 

「「「「「ドンブラザーズ!!!」」」」」

 

「があああああああああああああ!」

 

激しい爆発と共に鬼は完全に消え去った。

 

「ドラゴン奥義!」

 

逃げた赤鬼は急ブレーキをかけた。

闇の中で激しく光る、龍の紋章がそこにある。

 

そう、龍だ。

 

まばゆい光を放つ龍が口を開けて飛んでくる。

逃げなければ! そう思った時には既に龍が噛みついている。

 

「ライトニングドラゴンフラァアアッシュ!」

『激龍之舞!』『ア〜〜ッタタタタタッッ!』

 

龍は激しくうねり、そして鬼を突き破る。

残っていたのは一本の『矛』であった。

 

『……再見(ザイチェン)

 

「ぎゃあああああああああ!」

 

爆発が起き、もう一体の鬼も消え去った。

 

 

 

 

「負けちゃいました……」

 

作り笑いはその一瞬だけだった。

美咲は悲しそうに空を見上げる。

ニシノフラワーは四着だった。

 

「でも、立派だったと思います。フラワーちゃんも、美咲さんも」

 

雉野は本心でそう言った。

美咲は入れ替えることを拒み、フラワーもそれを了承したのだ。

 

『ちょっと待ってください。やっぱり、ぼくは、ぼくのフラワーと走りたい』

 

美咲の覚悟とは、意地を突き通すことだったのだ。

 

「負けるたびに、彼女が苦しんでいくのがわかった。それをどうにもできない自分が許せなかった……」

 

人間は失敗を経験として成長していくものだが、ウマ娘視点で考えれば失敗は許されない。

人生がかかっている。だからトレーナーに新米もベテランもない。

 

「どうして強くなれないんだろう? どうすれば強くなれるんだろう……? それがわからず、苦しくて、最初はついフラワーBさんに代走をお願いしそうになりました」

 

でも踏みとどまったのは、思い出したからだ。

 

「瀬戸内トレーナーや、里庄トレーナーは、マッチングに怯んでこそいたけれど、誰も諦めてはいませんでした」

 

力の差があるマッチングと聞いた時、勝てないのではないかとよぎってしまった自分が恥ずかしい。

 

「簡単なことなんです。ウマ娘たちを勝たせること。ウマ娘の夢を叶えること。それがトレーナーとしての絶対的な条件……」

 

そして、それは美咲も同じだった。

 

「ぼくは、フラワーを幸せにしてあげたかった」

 

出会った時のことを思い出す。

彼女はトレセン学園にきた理由を話してくれたが、それは単純なことで、もっと走りたかったからだ。

 

「フラワーに思い切り楽しんできてほしかったんです。走ることは彼女にとって、大好きなことのはずだから……」

 

「美咲さんは、これから、どうするんです……?」

 

「担当を、変わってもらおうと思います」

 

しいてヒントがあるとするなら、つい先ほどの『勝てないと思ってしまった』という点だろう。

美咲はその資格がないと、今回の決勝で思い知らされたらしい。

 

「でもフラワーちゃんはそれでいいんですか……?」

 

「ぼくがそうしたいって言ったら彼女はわかってくれますよ。優しい子ですから傷つくかもしれないけど、それもまたメンタルトレーニングと思ってくれればいい」

 

「それでも!」

 

「ッ?」

 

「それでも! やっぱり、かわいそうです!」

 

「雉野さん……」

 

「思い出したんですよ。最初にフラワーちゃん同士でレースしたじゃないですか。あの時、僕みんなのことを見てて……」

 

走る前の時間。

トコはフラワーBとおでこ同士をくっつけ合っていた。

何をしているのかを問うと、トコは雉野のほうには顔を向けず、フラワーを見つめたままで答えた。

 

「目を合わせてる」

 

「目を?」

 

「ワタシは生まれつき、目が赤かった。住んでいた田舎ではそれはよくないものとされ、いじめられたし、煙たがられた」

 

カラーコンタクトというものを見つけてからはずっとそれをつけて誤魔化していたが、ある時、不注意でつけるのを忘れて外に出てしまった。

周りからは奇異の目で見られたことがすぐにわかった。

そんな時、フラワーと目があった。

トコはすぐに目を隠したが、フラワーはにっこりとほほ笑んだ。

 

「お花みたいで、綺麗な色ですね。この子は、そう、言ってくれたわ」

 

「本当にそう思ったから言っただけですよ」

 

「ありがとう。フラワー。だからこれは恩返し。ワタシはあなたを強くする。レースで勝てる子にする。この目を、見て、嘘をついていないから、揺るがぬ瞳を見て。瞳の奥にあるワタシの気持ちを、見つけて」

 

「はい!」

 

「勝てるよ。フラワー。ワタシには、視えてる」

 

雉野は次に梨花たちのところへ向かった。

フラワーCが、スカーレットに抱きしめられている。

 

「一番になるのをイメージしてふーちゃん。アタシのパワーを吸い取っていいからね」

 

「はい!」

 

スカーレットはフラワーの頭をなでている。フラワーもまた、スカーレットをギュッと抱きしめた。

そしてそのまま次は梨花がフラワーを抱きしめる。フラワーも梨花の背に手をまわした。

 

「よし! 私のパワーもあげちゃう! 安心して、最強は貴女よ!」

 

「はい!」

 

そして最後に、美咲のところに向かった。

 

「トレーナーさんっ いつもの言葉、かけてもらってもいいですか?」

 

フラワーAは緊張しながらも、わくわくしながら美咲を見ている。

 

「キミなら大丈夫っ!」

 

「はい!」

 

美咲はポンとフラワーの頭を優しく叩いた。

 

「キミを信じてる!」

 

「はい!」

 

美咲はフラワーの両肩を優しく叩いた。

 

「キミは最高にかっこいい!」

 

「はいっ!」

 

最後に背中をたたく。

するとフラワーは気合が入ったようにしっかりと頷いた。

雉野はそれを覚えている。

 

「それぞれのカタチがあるんです! たくさんあるからこそ、ここにしかないたった一つのかけがえのない『絆』が!」

 

「……!」

 

「僕は確信しました。それはどんな並行世界をまたいでも替えの利かないものなんだって!」

 

負けるかもしれないと思った自分が許せない気持ちは雉野にもよくわかる。

だが、わかるからこそ、わかることがある。

きっとそれは、美咲にはまだ気づかないものかもしれないけど。

 

「いいじゃないですか弱くても。情けなくても! それでも前に進めば、何かが変わるかもしれない! この世界は、生きていればチャンスが訪れるから! だから、辛くても光を目指して前に進むんですよ! きっと!」

 

「……ッ」

 

「僕にはみほちゃんが現れてくれた。僕にはへんてこなサングラスが現れた。僕の前にはみんなが! 桃井さんが現れた! いいことばかりじゃないけど、それでも過去よりは少しはマシだから! だから、その、なんていうか……!」

 

雉野はメガネを整え、美咲を見た。

 

「転んだって、立ち上がればいいんですよ!」

 

「雉野さん……!」

 

「僕らにはきっとまだその力があるでしょう? そして立ち上がる途中に手探りで何かを掴んで、それが自分だけの武器になるなら──」

 

雉野は手に、キジブラザーズのアバタロウギアを持って、それを見た。

自信はないが、今、この瞬間ばかりはまっとうなヒーローになるべきだ。

そして若者を導いてあげるべきだ。

 

「それはきっとッ、希望になると思うから……!」

 

でないと、明日のご飯が美味しく食べられない気がするから。

 

「美咲さんの夢は、きっとフラワーちゃんの夢でもありますよ」

 

「ぼくの夢……! ぼくの、夢!」

 

気づけば美咲は走り出していた。

 

「あっ、ありがとうございます雉野さん! ぼくはやっぱり──! 諦めたくない!!」

 

美咲は全速力で走った。

フラワーより遥かに遅いと思ったが、それでも走った。

そしてフラワーの前にくる。

 

「ごめんフラワー! 少し、ほんの少しだけッ、ぼくに時間をくれないかな?」

 

「え? えっ……?」

 

「必ず、戻ってくるから!」

 

フラワーの目は潤んでいた。

テーブルにある移籍届を見てしまったのだろう。

そこには『浅口』とある。この世界の浅口のことを指しているのだろう。

フラワーはその意味を理解しようとしていたのだが、そこに美咲が飛び込んできたものだから混乱している。

それでも言葉をかみ砕いていくと、理解は追いついた。

 

「これが終わったら理事長に土下座してくる。でもとにかく! ぼくはキミと一緒に強くなりたい! キミの心に咲き続けたいんだ!」

 

「……はい!」

 

「あとッ、浅口トレーナーのところにいる時もピクニック! また一緒に行ってくれる? 

 

「はいっ! あ、あのっ!」

 

「?」

 

「映画とかもまた一緒に……行ってくれますかっ?」

 

「もちろん! また行こうね!」

 

「はいっ!!」

 

「あとご飯は、僕が作ってもいいかな? フラワーのためにたくさんおいしいものを作るから。栄養も考えてつくるから! たくさん勉強したんだ。だからたぶん大丈夫だから……ッ!」

 

「はい!!!」

 

フラワーは涙をぬぐうと、にっこりとほほ笑んだ。

 

「もし」

 

「?」

 

「もしも私が大輪のお花を咲かせることができたら、綺麗だよって褒めてくれますか?」

 

「もちろん! キミの気が済むまで褒めまくるから! 待っててね!」

 

「はい! 上手に褒めてくれたら、はなまるっ、あげちゃいます!」

 

笑いあう二人を、遠くから雉野が見ていた。

 

「はぁ、よかった……!」

 

「悪くない。50点だ」

 

「ありがとうござ……って、桃井さん!?」

 

雉野が気を使って気配を殺していたというのに、タロウはズカズカと美咲たちのところまで歩いていき、小包を差し出した。

 

「お届け物だ」

 

「え? あ、ありがとうございます。でも誰からだろう? 名前がないや」

 

「名前は秘密にしてくれと言われた。だが、確かに渡したぞ」

 

美咲が包みを開けると、タブレット端末が出てきた。

 

「これで、アンタとも縁ができたな」

 

そう言って、タロウはニヤリと笑った。

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

「気にするな。荷物を運ぶのが俺の仕事だ」

 

喫茶どんぶら。

タロウが美咲たちと出会う前から縁を結んでいた人物がそこにはいた。

その日、届けた荷物は、顔を隠す『仮面』だったか。

その際に頼まれたのだ。美咲柳が成長したと思ったら、あのタブレットを渡してほしいと。

 

「えこひいきですが、人間は『自分』が可愛いものですから」

 

女性と、その隣にいた歌姫は仮面を外して素顔を晒した。

そこにいたのは美咲柳という女性と、成長したニシノフラワーだ。

あえていうのであれば、『フラワーD』とでもいえばいいか。

 

「世界が変われば性別も年齢も変わる。か」

 

「ええ。あなたもそうかもしれませんよ」

 

「そういうものか。だが一つわかるとするなら、俺はオンリーワンということだ」

 

「そういうものですか」

 

柳とフラワーは口に手を当ててクスクスと笑う。左手の薬指にお揃いの指輪があった。

そしてその下、柳の手首には少し変わった腕時計があった。

ディケイドウォッチというらしい。これを使えば、並行世界を隔てる壁を越えて、アクセスできるのだとか。

 

「ヒトツキは関係なかったのか」

 

「他のフラワーやトレーナーのみなさんは元の世界に帰しましたので安心してください」

 

「しかし並行世界移動装置。そんなものがあって大丈夫なのか?」

 

「大丈夫ではないかもしれませんね。ふふふ」

 

「……どうしてまた、今回はこんなことを?」

 

「悲しみを感じたからかもしれません。苦しみも感じました。ウマ娘を愛したものとしては、救ってあげたい。その手助けになれば、と」

 

「よくわからんが……ご苦労だったな」

 

「それにまあ先ほどの通りですよ。このままだと、フラワーA……いえ、フラワーEちゃんが別世界の私と離れ離れになってしまいそうだったので。ね、フラワー」

 

「はい!」

 

柳とフラワーDは目を合わせてクスクスと笑った。

 

 

 

 

「すごい!」

 

美咲は自室でもらったタブレットを見ていたのだが、あまりの驚きで声を荒げた。

 

「このAI! オーパーツレベルじゃないか! 凄すぎる!」

 

昔、趣味でフリーゲームを作ったことがあるからこそある程度の知識もあるが、とんでもない技術がそこには詰め込まれていた。

簡単に言えば、どんなことでも反応してくれる『AI』が入っている。

これをうまく育てることができれば、『神』が生まれるかもしれない。

 

美咲はタブレットのロゴを見る。

そこには『美咲の父』が務める会社のマークがあった。

もちろん今のあそこにこんな代物を作れるだけの技術はない。

未来にでも、飛ばない限りは。

 

「……!」

 

なんとなく察する。

では、これをどうやって使う?

それがおそらくは最後のテストなのだろう。

その時、美咲はトコが使っていた育成アプリ『デウス』を思い出す。

 

「自分だけの武器……!」

 

雉野の言ってたことが頭をよぎる。

 

「なれるかもしれない。雉野さんのように、あの子のヒーローに!」

 

美咲はすぐに作業に取り掛かった。まずはこのAIを三つに分けて、色をつけた。

赤、青、黄色。

赤には、ウマ娘の個性を伸ばす育成を手助けするための技術をラーニングさせる。

青には、ウマ娘のメンタルをケアする技術をラーニングさせる。

黄色には、ウマ娘の強さを求める方法をラーニングさせる。

そしてまずはアプリに名前をつけよう。美咲はしばし考えた後、思いついた文字を打ち込んでいく。

 

「アプリの名前は! グランドマスターズ!」

 

 

 

どんぶらこ♪ どんぶらこ♪

DON! DON! ゆらりゆれて♪

目指すは♪ どんなハッピーエンド?♪♪♪

 

 

 

「一時休戦だな。弟よ」

 

「仕方あるまいな兄者。今日は久しぶりに飲むか」

 

「ああ。いい発泡酒が入ったんだ」

 

兄弟は少し気まずそうにしながらも握手をかわした。

SNSの一部界隈では祭りが起きている。

あのトレウマ回の重鎮・井倉敏郎がウマウマを。

そしてあのウマウマ回の重鎮・白上伸樹がトレウマを創作すると発表したのだ。

 

数多の信者に激震が走り、このことに大きく動揺したが、固い握手を交わした二人を見るにつけ何も言えなくなった。

事実、愚かな争いを止めに来たと二人は語る。

ウマ娘はパラレルワールドという概念がある。チャンミにおいても同個体のウマ娘が同じコースを走っているが、それこそがこのコンテンツの本質なのだ。

すべてが存在し、すべてが真実なのだ。井倉はそう語った。

トレウマも、ウマウマも、確かに存在しているのだと白上が保証した。

 

「愛があるならば、見えるはずだ。お前の中にある世界が。数多に異なる世界が存在しているため信じるものがブレる時もあるだろうが、創作を崩さぬことこそ創作にのめりこむものの使命であると知れ。育むのだ。お前の世界を!」

 

「幸いにも公式はトレウマも、ウマウマも与えてくれている。欲しいものが手に入らなかったときは、まず待て。時間がたてば必ず光はもたらされる。そしてネットには幸いにも、多くの絵師たちが存在してくれている。いずれかがお前の渇きを満たしてくれるはずなのでそれを大切にせよ。エールをおくれ。闇に飲まれるな!」

 

「「パラレルワールドは無幻にして無限なり!」」

 

兄者は驚いた。

 

「ほう! 女装トレーナーとドーベルを合わせるか! なかなか粋なことをする!」

 

弟は驚いた。

 

「なにぃ! スペシチ? マクボノ? キンタキ!? こんなの見たことないよ!」

 

兄弟は打った覚えこそないが、絵師に送ってしまった失礼なコメントを削除し、詫びのメールを送った。

その後、醤油どぼ漬けパック寿司を肴に、発泡酒を楽しみながらウマ娘の創作に身を捧げるのだった。

 

 

 

 

 

「あ」

 

あれからしばらく経ち、喫茶どんぶらの帰り。

はるかたちは、楽しそうに歩く美咲とフラワーを見つけた。

 

「……行こっか」

 

「そうですね」

 

「え? え? どうなったか聞かなくていいんですか?」

 

「いや、無粋な真似はしないほうがいい」

 

「そうですよ」

 

雉野は安心したようにほほ笑む。

 

「二人の顔を見ました? 見なくてもわかりますから」

 

「あの素敵な笑顔……勉強させてもらいやした!」

 

はるかは頭を下げ、二人に気づかれないようにそそくさと帰っていくのだった。

 

 






じかーいじかい!


【暴走する創作欲求!】

クリエイターが集まるお茶会ってなに!? 楽しそう! わたしも行く!
でもさっきからこの人たち、どうしてSNSの話しか話してないの?
え? そんなの公式が勝手に言ってるだけ?
ウマ娘はいいね稼ぎの道具じゃない?
どどど、どーゆーことぉ!?

【ウマシコおじさん&ウマシコ警察緊急参戦!】

ちょっと、ジロウも何か言ってあげてよ!
え? ロブロイって子はメガネを外してみつあみをやめればいい?
うわっ、なに? ど、どこからか殺気が……ッッ!

じかい、『ドン二話 じぶんハツデンキ』 という、おはなし!



………



ドーンとハッピエーッンッッ

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