ドンブラザーズ×ウマ娘 俊足の残夢   作:ホシボシ

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ドン二話 じぶんハツデンキ-2

 

マカロニピースは優しいおじさんだ。

祖母と食べたグラタンに入っているマカロニが好きで、世界が平和であればいいと思っているからその名前でSNSを生きようと思った。

彼は、ウマ娘が好きだ。

理由はいろいろあるが、一番はやはり魅力的なキャラクターであろう。

 

なかでも彼は胸の大きなウマ娘が好きだった。

それが女性の魅力であるとずっと思ってきたからだ。なかでもSSRクリークは芸術的であると思い、完凸するまで課金をした。

最近は脇も魅力的であると考えている。

なかでもプリンパフェ将軍の描くサクラバクシンオーは見事である。

まったくもって露出を強調していない、ゲームまんまの勝負服であるにも関わらず、尋常ではないエロスを感じるのだ。

 

それは彼だけに言えたことではない。

性的なイラストを投稿してはいけないということを守りつつも、絵師たちはオスの本能を刺激させるようなものを提供してくれている。

それは何も二次創作だけに言えたことではない。

露出は直球的なエロスではあるが、時にそれは女性の魅力を引き立たせる役割を担っている。

キュートさを、クールさを、パッションを演出する一つの小技なのだ。

 

事実、原案よりも露出度が上がったウインディや、シチーを見ていただきたい。

フラッシュやフジキセキ、ゼファーの強調を褒めて頂きたい。ブルボンやハヤヒデのさりげなさに感動してほしい。

タイキやハロウィンクリークのような直球を崇めて頂きたい。

マカロニピースは以前、こんなコメントを見つけた。

 

『水着で走らせるとか最悪だろ。コスプレ大会かよ。公式が自分からイメ損してどうすんの?』

 

『レースはビーチフラッグスじゃねぇんだよ。魂込めて走ってんだろ? 冬も水着で走らせんのか? くだらねぇ』

 

こんな浅いヤツらがいたのかと両手を広げてやれやれというアメリカンなジェスチャーを取ったものだ。

彼らは何も理解していない。想いというものをないがしろにしている。イベントを本当に読んだのだろうか? バブリーランドに招待してあげたいくらいだ。

だが、たしかに困ったコメントがあったのも事実だ。

 

・公式がここまでやってるから性的なものを解禁してもいいのではないか?

 

まったく、とんでもない発言である。

おそらくは荒らしの類なのだろうが、本気で言っている可能性もある。

それはいけない。やはり決まりごとは守らねば。

そのうえで楽しめばいいではないか。幸いに優れた絵を提供してくれる人たちは多い。

 

「えっちじゃん」

 

思わず呟いた。水着マルゼンのイラスト。

 

「………」

 

マカロニピースは腕を組んで俯いた。

 

「ウマシコでもするか」

 

口に出すもんじゃない。だがとにかく彼は立ち上がり、移動を開始する。

 

「………」

 

だが、すぐに立ち止まった。

はて、ちょっと待てよ? そもそもどうして裸はダメなんだ?

性的なものの線引きは人それぞれじゃないか。

もちろん性行為ともなれば一発でアウトだろうが、ヌードは芸術だ。

それを性的というのであれば、今すぐ数多くの名画に謝罪をしたまえ。

きっとキミは偉大なるルーブルに鼻で笑われることになるだろう。

 

「なら──、ある!」

 

マカロニピースはすぐにウマ娘が裸になっているイラストを探し始めた。

だがそんなものはない。なぜなら禁止されているからだ。

しかしマカロニピースは理解できない。彼はネットの掲示板で叫んだ。誰か知りませんかと。

結果、多くの嘲笑と罵倒が彼を出迎えた。

理解できない。お前らはそういう目で見ているかもしれないが私は違うのだと。

しかし彼の叫びは、残念ながら誰にも届かない。

 

『登録してないのかコイツ』

 

チラと目に入ったコメントだが、なんだか怒りが込み上げてきた。

お前らはそうやって怪しげなサイトに誘導する気だろう。

その手には乗るか。

私はどこのサイトにも登録したことはない。電子マネーも使っていない。クレジットカードも登録したことはない。

 

『このインターネットに、存在しないものなどない』

 

ふいに目についたこのコメントが、知の賢人の言葉に思えた。

ある筈だ。

だが、ない。なぜ、ない。

何をしているんだ絵師共は。

やめろと言われたらやめるのか?

その程度かお前らの想いは。

そんなことだから、そんなことだからッッ、そんな、そんな――ッッッ!

そんなぁああッッッッ!!!

 

 

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

「ウマシコォオオオオオオオオ!」

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

 

 

怪盗鬼に酷似したヒトツキ、嫉妬鬼・赤が走る。

標的を見つけたところで彼は急ブレーキをかけた。

 

「な、なんだ貴様は」

 

「PN・帝坂だな?」

 

「なんの話だ?」

 

「先日のナイスネイチャのイラストは見事だった。トレーナーを前にした彼女はとても美しい」

 

「……ああ。しかしなぜ俺の顔がわかった?」

 

「そんなことはどうでいい! それより! なぜもっと露出を増やさないッ!?」

 

「なに?」

 

「浴衣からはだける裸体をなぜ描写しない! 部屋の中で! 同室ならば! もっとむき出しでもいいだろ!」

 

「貴様、ガイドラインを知らんのか?」

 

「あんなモン! 公式が勝手に言ってるだけだ! 我々の声が多数派になれば、公式も簡単に掌を返す。弟が消されたソシャゲを知ってるか!?」

 

「くだらないな。そもそも理由は一つだ」

 

「なんだと? それはいったい!?」

 

「品がない」

 

「な、なッッ! なんだそれはあッッ!!」

 

「俺が思うネイチャの魅力は、トレーナーへの恋慕の心だ。ありとあらゆる手を使って少しずつ精神的距離を詰めていく様こそが美の象徴。にもかかわらず肉体を武器にするような描写を描け? 愚かな! たとえ公式が許可を出したとしても俺のセンスが許さんわ!」

 

「!!」

 

「おかしなコスプレをしているが、まずは姿を見せろ。話はそれからだ」

 

「うるせぇえ! ウマシコォオオオオオ!」

 

鬼は拳を握りしめ、地面を蹴って走りだす。

だがちょうどその時、銃声と共に鬼の背中から大量の火花が飛び散った。

 

「ぐあぁあ!?」

 

立ち止まり、振り返る。

するとそこにはドンブラザーズ。

 

「ねえ、ウマシコってなに?」

 

「わからないが……、ろくな意味ではなさそうだ」

 

「あれもこの前と同じ、ヒトツキってヤツでしょうか!」

 

「あ? ヒトツ鬼はヒトツ鬼だろうが。何言ってんだ?」

 

「ハーッハハハ! さあ! 行くぞお供たち!」

 

刀を振り回しながらドンモモタロウが先行する。

踏み込んだ払いの一撃を、鬼は腕でガードするが、そこでドンモモタロウは体を捻ってさらなる一撃を腕に叩き込む。

衝撃でわずかに体が揺れた。

そこでドンモモタロウは左手に構えた銃で鬼の足の甲を撃った。

痛みと衝撃で怯み、力が緩む。

そこでドンモモタロウは踏み込み、強引にガードを崩しながら胴体を切り抜けた。

 

「ぐうぅうッ!」

 

鬼は踏みとどまる。

前からは金棒を持って走ってくるオニシスターが見えた。

 

「おりゃぁ!」

 

オニシスターは金棒を振り下ろすが、鬼は腕をクロスさせてそれを受け止めた。

僅かな競り合い、そこで鬼は雄たけびを上げて腕を振るいあげた。

 

「おわわわ!」

 

オニシスターは下がっていくが、そこで前進してきたサルブラザーががら空きになった胴体へ拳を打ち込んだ。

 

「ぉおおお!」

 

叫び、全身に力を込めて鬼は踏みとどまる。

だがさらに追撃にと、飛行してきたキジブラザーの突進が命中。

これで鬼は完全にバランスを崩して、後ろへ後退していく。

そこへ飛んできた小さなシルエット。イヌブラザーの飛び蹴りが胸に直撃し、さらに勢いづけて後退したあとに鬼はついにダウンした。

 

「「「「「アバターチェンジ!」」」」」『キュウレンジャー!』『よッ! 宇宙戦隊!』

 

鬼が立ち上がった時にはドンブラザーズたちの姿が全く別のものに変わっていた。

 

「感覚は一緒ですーッ!」

 

まずはワシの戦士となったキジブラザーが翼を広げて突っ込んでくる。

まとわりつくように何度も突進や蹴りを繰り出し、それを打ち落とそうと注意が逸れたところで一気にイヌブラザーが距離を詰めてきた。

三頭身ほどしかなかったシルエットではなく、今は屈強な牛の戦士となっている。

 

「ふっとびやがれーッ!」

 

「うわぁあああああ!!」

 

その剛腕で鬼をガッチリと掴むと、捻りを加えて鬼を投げ飛ばした。

そこでカジキの戦士となったオニシスターと、オオカミの戦士となったサルブラザーも地面を蹴って、鬼めがけて飛んでいく。

 

「鼻―ッ!」

 

「ぎゃあ!」

 

鋭利に尖った部分で攻撃を加え──

 

「ザクリ!」

 

「ぎぃい!」

 

鋭い爪の一撃が加わる。

 

「がああ!」

 

地面に倒れた鬼は気配が近づいてくるのを感じた。

慌てて立ち上がると、今まさに大剣を振り下ろす獅子の戦士となったドンモモタロウが見える。

やむをえない。鬼は自らの防御力を信じた。

肩で大剣の一撃を受け止めると、すぐに腕をまわして大剣をつかみ取る。

 

「星を見せてやる」『ギャラクシー!』

 

「へ?」

 

鬼は競り合いが始まるのかと思ったが、ドンモモタロウは武器から手を放し、発光する左手で鬼の腹を殴った。

瞬間、ドンモモタロウの背後に星のマークが浮かび上がると、惑星を模したエネルギーが拳から放たれて鬼は流星と共に後方へ吹っ飛んでいった。

 

「………」

 

鬼の意識はもうろうとしていた。

だがその時、彼は激しい嫉妬を覚えた。

その正体が何なのかはわからないが、果てにある最終結論ならばわかる。

すべては──

 

「ウマシコのためッッ!」

 

鬼は、立ち上がった。

 

 

 

 

「バカタレがアンチこの野郎ッッ!!」

 

わちょもすは、思い切り壁を殴りつけた。

SNSの名前を『わちょもすわんだー』に変えたのは『グラスワンダー』の凛とした態度に胸を打たれたからだ。

そのイベントは歴史資料展にて、男たちがウマ娘のビジュアルに点数をつけていたところ、その不誠実さにグラスワンダーが怒るという内容であった。

 

近年、インターネットでは女子陸上やバレーボール、ビーチボールやサンバなど、アスリートやパフォーマーを性的な目で見ている層がいる。

わちょもすもかつては陸上部で走っていたため、真面目に頑張る人たちをそういう目で見ている層に怒りを感じていた。

そうした中、ウマ娘と出会った彼は、魂やプライドを懸けて走るキャラクターに感動し、そのコンテンツを存分に楽しんでいた。

しかし最近、どうにも目障りなイラストが目に入ってくるようになる。

 

「ウマママだぁ……ッッ?」

 

すぐに指が走る。

作者へメッセージを送信。

 

『ウマ娘を無礼るなよカスが……!』

 

子供を産んで幸せそうにしている姿は、まるで一線を退いたかのようにも見える。

アスリートである彼女たちの存在を、まるで否定するような。まさにウマ娘を冒涜しているとしか思えない有害な存在をすぐに通報した。

トレーナーとは指導者である。ウマ娘が彼から授かるのは赤ん坊ではなく、タイムを縮めてくれる技術のみだ。

 

「カップリングだぁ?」

 

ウマ娘同士の恋愛を匂わせるイラスト。これらをまとめて通報した。

 

『ウマ娘を無礼るなよクソが……!』

 

わちょもすにも当時、友人やライバルはいた。

負けたくないという気持ちや、共に高みに行きたいという気持ちを、まるで百合の踏み台にされているような気がして我慢がならなかった。

アスリートは共に学ぶものをそんな目では見ていない。当然の話だ。

 

他にもゴルシやマックイーンを『爺孫』と呼んでいる連中にはめまいがする。

確かに史実ではそうだったかもしれないが、ウマ娘としての彼女らはそのような関係はない。

それはタキオンとダスカ、ギムレットとウオッカ、ルドルフとテイオーにしても同じである。

括りとして呼ぶのならばまだしも、本当に血縁関係のように扱っているイラストには反吐が出た。

 

まだある。他人のイラストにアグネスデジタルのイラストを貼っているヤツだ。

彼女はお前の代弁者じゃないんだ。文字も打てないのかお前は。

ましてや他のコンテンツのものにまで持ち出すなんて言語道断だろ。

 

「がッ! ががががが!」

 

わちょもすは動揺した。

 

「があああああああああああああああ!」

 

怒りに任せて思わず壁を殴りつけた。

わちょもすは思わず目を閉じた。でなければ脳が怒りでどうにかなってしまう。

手探りでマウスを探し、ブラウザバックする。

呼吸がおかしい。健康を害した。誰のせいだ?

決まっている。頭のおかしい絵師のせいだ。

そのイラストはウマ娘がバニー服を着ていた。ウマ娘が水着を着ていた。ウマ娘が露出度の高い服を着ていた。

わちょもすは思わず叫んだ。

ごめん、グラス。人間がこんなにも愚かでごめん。

 

「ウマ娘は、テメェらのいいね稼ぎの道具じゃねぇええんだよぉおお!!」

 

ウマママも、百合も、吐き気こそすれど若干の理解はできる。

だがウマ娘が過剰に肌を晒したり、胸のサイズが大きくなっていたり、トレーナーや他のウマ娘にメスの顔をして誘っているようなイラストだけは理解ができなかった。

なんのためにプールトレーニングにて公式が露出を押さえた水着を採用していると思っているのか。

 

お前らは偉大なるアスリートたちすべてを馬鹿にしている!

ウマ娘の二次創作はかっこよく走ったり、ありふれた日常のところだけを描写すればいい!

女を強調するようなものを、描くな!

そんな馬鹿共は犯罪者と変わらない!

 

 

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

「逮捕だァアアアアアアアアアアア!!」

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

 

 

銃声が聞こえる。

立ち上がった赤鬼の全身に弾丸が命中した。

 

「なんだ!?」

 

サルブラザーが振り返ると、『警察鬼』によく似たヒトツキ、嫉妬鬼・朱が立っていた。

 

「ウマシコ警察だ! 大人しく投降しろ! でないと撃つぞ!」

 

「もう撃ってるんですけどそれは……」

 

「黙れピンクいの! お前も逮捕するぞ!」

 

「ご、ごめんなさーい! 逮捕しないで! 前科がつくと絶対に仕事をクビになって──」

 

「落ち着けキジブラザー! アレもヒトツキだ!」

 

「え? あ、そっか!」

 

にらみ合う赤と朱。二人の鬼。

 

「ウマ娘は高尚な存在だ。僅かでもゲームで描写されている事実以外のものを描いているヤツらはイナゴ! ハイエナ! 筆を折るまで批判して追い詰めて、二度とウマ娘に近づきたいと思わせないことが大切なのだ!」

 

「黙れ! 創作は自由だ! 芸術は! 表現はッ、何にも縛られちゃいけない! 自分の好きなウマ娘たちの魅力を他の人にもわかってもらいたい。ウマ娘が好きな人のためにウマ娘を描いた人の優しさを否定しちゃいけない! 創作は自由だ! だから裸体を書いてもいいじゃないか!!」

 

鬼たちの視線が交差する。一方でその熱量が伝わらないドンブラザーズたち。

 

「これまた……極端な連中だ」

 

「どうするの? 二手に分かれる?」

 

「いや一体ずつでいい」

 

ドンモモタロウはアバターチェンジを解除して獅子の戦士から元の姿に戻ると、刀の剣先を地面につけた。

すると地面が水面のように変わり、赤鬼が立っていたところに虹色の波紋が広がる。

 

「今、一人消える」『アバタロ・斬!』

 

電子音が聞こえた。

 

「あえ?」

 

赤鬼は不思議に思った。

ドンモモタロウが一瞬にして消えた。

ゆっくりと自分の体を見ると、虹色の線が入っている。

後ろを見ると、ドンモモタロウが立っていた。

 

「あ」

 

赤鬼が間抜けな声をあげたのと同時に爆発が起きる。

一方で他の仲間たちは朱鬼のほうへと向かっているが──

 

「公務執行妨害!」

 

ヒトツキたちが放つ強力な衝撃波。『拒絶の波動』が繰り出されて吹き飛ばされた。

そうしている内に猛スピードで朱鬼は逃走し、忽然と姿を消した。

 

「いい走りをしている!」

 

ドンモモタロウは扇子を扇いだ。

そこで彼は消滅し、他の仲間たちも消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

はるかはすぐに現場に走り、座り込んでいた帝坂に声をかける。

 

「なんか……変なヤツに襲われたって聞きましたけど」

 

「ああ。確かに変なヤツだった」

 

「ウマシコって、言ってませんでした?」

 

「お前も襲われたのか? ウマシコ……まあ要するに、禁止されているウマ娘の性的なイラストを寄越せと言ってきたわけだ」

 

「うげー……」

 

「ま、人間は禁止されているものほど見たくなる。困った生き物ではある」

 

「押しちゃいけないスイッチを押したくなる……みたいな?」

 

それならば心当たりがある。はるかは気まずそうに目を逸らした。

 

「で、でも禁止されてるんだから、それはちゃんと守らないと。創作者の基本でしょ?」

 

「ああそうだ。だがまあピ……」

 

帝坂は口を閉じた。

以前、ネットのニュースで見た。

差別をしてはいけないという授業をした後で、学んだ言葉を使って差別をしようとする生徒が出てきてしまったという事件を。

人は、知りすぎると時に、罠にかかる。

 

「愚かなもんだな」

 

「?」

 

「いるんだよ鬼頭はるか。この世界には、やるなと言われてもやるヤツが。やってはいけないと理解しながらやる人間と、本気でなぜダメなのかを理解していない人間が」

 

「……っ」

 

「俺は帰って明日あげるイラストを描く。お前も漫画を描け。一次創作で成功するのが一番だ」

 

帝坂はそう言って、一度も振り返ることなく歩き去っていった。

 

「あ! いけない! 瑛子さん!」

 

はるかはすぐに走り出した。

 

 

 

一方で瑛子は混乱していた。

たしかにトレセン学園があって、そこからウマ娘たちが出入りしている姿が見える。

本当にはるかが言った通り、世界が融合していたのか? だとしたら──

 

「……っ」

 

だとしたら? 何になる?

何にもならない。べつに。二つ世界があって終わりだろう。

ドンブラスターとやらがなんなのかは知らないが、はるかはきっと何かを知っていて、関わっていて──

あるいは、この事件を解決するヒーローそのものかもしれない。

 

でも瑛子は違う。ただのモブキャラだ。

知らぬ間に巻き込まれ、知らぬ間に事件が終わってる。

なんだかそれはとてももったいない気がした。もしも叶うなら、●●●に……

 

「あの、何かお困りですか?」

 

「え? あ……あの、ちょっと道に迷っちゃ──」

 

瑛子が振り返ると、ゼンノロブロイというウマ娘が立っていた。

ガチャの時は石がなかったので持っていないが、存在は瑛子も知っていた。

英雄に憧れている眼鏡をかけたウマ娘である。

 

「新入生さん? だったら、私でよければ案内しますよ!」

 

「え? し、新入生……? 何を言って──」

 

なんだか、感覚がおかしい。めまいがする。

瑛子は一度、目を閉じ、深呼吸をしてから目を開いた。

すると気づく。服がジャージになっていた。

耳がなくなって、上についていた。尻尾が生えている。

 

「え!?」

 

瑛子は、ウマ娘になっていた。

だからロブロイは学園の生徒だと勘違いしたのだ。

瑛子の年齢は22だが、童顔に見られてると周りからも言われていたし、なによりも本当に身長などがわずかに縮んでいる気がする。

 

(これはいったい……!?)

 

「お名前は?」

 

「え? あっ、えっと……」

 

瑛子と口にしようとしたが、少し思うところがあって、口を閉じる。

 

「?」

 

「あ、あの、スーパーメアリーです……」

 

「メアリーちゃんですね!」

 

刹那、瑛子の胸にゼッケンが現れた。

そこには番号と、その下にスーパーメアリーと記載されている。

 

「!?!?!?」

 

驚く瑛子だが、ロブロイは特に目立ったリアクションをしていない。

まるで最初からゼッケンがつけられていたかのような、異変を感じているようには見えなかった。

 

「そうだ。まだ時間もありますし、よかったらトレーナー室に来ますか?」

 

「え? は、はい……!」

 

ロブロイに誘われて、瑛子は流されるように頷いた。

学園を歩く中で瑛子は自分がおかれている状況を知る。

どうやら今の自分は、トレセン学園に入学する前のようだ。

体験入学のようにレクリエーションとしてロブロイと走れるイベントがあるらしい。

なぜかはわからないが、今日はそれに参加しているということになっているようだ。

 

「トレーナーさんこんにちは。ちょっとここ使わせてもらってもいいですか?」

 

「こ、こんにちは」

 

「こんにちは。いいけど、どうしたの?」

 

ロブロイの担当である真庭(まにわ)トレーナーが出迎えてくれた。

 

「スーパーメアリーちゃんです。今日の参加者で、出番まで休憩をと思いまして」

 

「そうなんだ。お菓子もあるから食べて食べて。あ、なんか飲む?」

 

「い、いえ。ありがたいですが……、その、緊張しておトイレに行きたくなるので……」

 

「そっかぁ。了解了解。まあここに置いておくから、いつでも食べて」

 

「ふふ、気持ちわかるなぁ。大丈夫、私も昔はそうでしたから」

 

「は、はぁ」

 

なんだか瑛子の記憶にあるロブロイよりも堂々としている気がする。

そう思って、部屋の中を見てみてればいくつものトロフィーがあるし、資料を入れた箱の一つが温泉まんじゅうだった。

 

「ん?」

 

瑛子は、部屋の中にひときわ目立つ本を見つけた。

聞いてみると、あれは『ゼンノロブロイの英雄譚』なのだという。

 

 

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