ドンブラザーズ×ウマ娘 俊足の残夢   作:ホシボシ

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ドン二話 じぶんハツデンキ-3

 

 

「それは日記みたいなものでして。えーっと、その……」

 

ロブロイは赤くなって真庭を見た。

すると彼は曖昧に笑ってノートPCを閉じる。

 

「どうやら、俺は消えたほうがいいみたいだね?」

 

「すみません。後からやって来たのに……」

 

「ま、ここはキミの部屋でもあるからさ。それじゃあまた後で」

 

真庭が退出すると、ロブロイは改めて本を手に取った。

 

「ここには、私とトレーナーさん。二人で作った物語が記されてるんです」

 

「二人の物語、ですか?」

 

「はい。まあちょっと伝記風につけた日記みたいなものなんですけど……」

 

「あ、あのっ、知りたいです。聞いてもいいですか?」

 

「はい。えっと……」

 

ロブロイは端的にこの本にまつわるエピソードを話してくれた。

英雄に憧れるも気弱で奥手な少女が、英雄を探しているトレーナーと出会って紡がれる物語だ。

多くの強敵を倒し、時にはライバルの光となり、人々は彼女を見て『英雄』がいると口にする。

今も尚、続くその物語、手にしているのはその一冊目というわけだった。

 

「この本のおかげで、だいぶ強くなれた気がします」

 

「そう、なんですか……。羨ましいです」

 

話を聞いていると、瑛子は過去のロブロイに近い性格であると思った。

自信がなくて。実力も足りなくて。他人と比べて。

でも、だけど、心のどこかで常に期待している。

ロブロイはそこから成長を繰り返したが、果たしてそんなことが自分自身に可能なのだろうか?

 

「強くなれるコツとかありますか? やっぱりトレーナーっていう存在は大きいのかな?」

 

「それはあると思います。でもそれでいうと、やっぱり自分に嘘はつかないほうがいいと思うんです」

 

「嘘?」

 

「はい。私は英雄になりたいという気持ちを傲慢なものだと考えてしまい、外に出せずにいました」

 

それは夢に限った話ではない。

たとえばトレーナーにしてもそうだ。真庭はロブロイと知り合った時に、『英雄のようなウマ娘』を探していると言った。

遠くだったので顔は見えなかったが、すごい走る子がいたから、その子と契約したいというのだ。

ロブロイはその英雄探しを手伝うことになる。

 

「私は、トレーナーさんの探し求める英雄とは、自分よりも遥かに優秀なシンボリクリスエスさんだと思い込み、それを伝えようとしました。ですがその時、私の中に激しい嫉妬と独占欲が芽生えたんです」

 

結果としては違っていたのだが、今にして思えばあの時から変えられたのかもしれない。

 

「私の中にある負と言ってもいい感情。でもそれは確かなエネルギーに換えることができるもの。英雄になりたいというあまりにも強い承認欲求を私はいつからか受け入れ、それを糧にしました」

 

少し遠回りな言い方をしたが、それほど難しい話ではない。

謙遜や遠慮はある程度は必要だが、自分を卑下しすぎるのもまた愚かなことである。

 

「メアリーさん。私も貴女も、今、トレセン学園にいます。ここは英雄になりえるウマ娘しか来ることのできない場所なんです」

 

「英雄……」

 

「そう。多くのを見て、学んで、時に自信が失われる時もあるでしょう。ですが時にはもっと傲慢になったほうがいい。自分の中にある光も闇もさらけ出し、そこから磨くべきものを見つける。そうすれば少なくとも自分自身を信用することができるだろうから……」

 

トレーナーにも言われたことだ。

 

『順位を決めるのがレースなわけだし。一位なったら当然負けちゃった他の子は悲しいよね。そういう勝負に身を置いてるんだから、いつだって良い子じゃなくていい』

 

「光と闇を受け入れて、力に変えること……」

 

ロブロイのレンズの奥にある瞳がまっすぐで、瑛子は言いようのないショックを受けた。

世界が交わりあっているのならば、パラレルワールドがすぐそこにあるということだ。

だから瑛子はもしかしたら、このウマ娘の世界にも自分と同一の存在がいるのではないかと思った。

 

そして、その存在こそ、この目の前にいるゼンノロブロイなのではないかと最初に思ったのだ。

声が似ているし、眼鏡もしていて、顔立ちだってどこか面影がある。

ウマ娘は競走馬の魂が混じり合っていると聞く。

ならば、所謂ウマソウルを与えられなかったIfの存在こそが自分かもしれない。

そう思ったが、あまりにも違いすぎる。

 

(帰りたいな……)

 

そう思った。

思ったが、ふと、先ほどの言葉を思い出す。

光も、闇も。そういうことであれば瑛子は確かにロブロイに対して劣等感を抱いたのだ。

 

「………」

 

せっかく、ウマ娘になれたんだ。

一度だけ走ってみようと思った。

 

 

 

 

瑛子はコースに立っていた。

横を見ると、他のもたくさんのウマ娘が立っている。

その中には当然、ロブロイの姿もあった。

あの、英雄ロブロイと走れるだなんてと多くのウマ娘がはしゃいでいた。

そんな中、スターターピストルの音が聞こえた。

一斉にスタートダッシュを決めるウマ娘たちの中で、出遅れた瑛子が足を前に出す。

 

「ッッッ」

 

思ったより早く走れる。たくさんのウマ娘を抜いて前に出られる。

瑛子は一瞬笑顔になったが、それはすぐに曇った。

昔の運動が全然できなかった自分を思い出す。馬鹿にされて、リレーでは一緒のチームにならないようにと、みんな手を合わせていた。

体が重い。息が切れる。

こんなものかと失望した。ウマ娘になったところで疲れるんだ。ペースが乱れれば、すぐに追い抜かれる。

 

「……ッ」

 

もう一度、ロブロイの言葉を思い出した。

心をさらけ出すこと。自分と向き合うこと。

今、嫌悪した。マイナス思考な自分に何をやってんだと思った。

成功者はこんなにウジウジしていない。お前は馬鹿にされたままでいいのか、瑛子。

 

『出る杭は、叩かれますよね?』

 

コースに入る前、瑛子はロブロイに話しかけた。

 

『怖くないんですか?』

 

『怖いです』

 

ロブロイは即答した。

 

『でも、その先に臨む世界があるなら、私は剣を持ちます』

 

かっこいいと思った。

 

(私より年下のくせにッッ、偉そうに言いやがって!!)

 

同時に、嫉妬した。

 

(超えてやる!!)

 

周りから見られてる。そのことを気にしていたが、やめた。

どれだけ不細工に歪んでもいい。

とにかく足を前に出すことだけに集中する。

 

(苦しい! けど──ッ!)

 

体が重い。脇腹も痛い。

吐きそうだ!

でも、前に出られる。

人間の時とは違って、どんどん加速できる。

 

「えっ!?」

 

ロブロイの驚く声が聞こえた。

瑛子は笑っていた。さぞ醜い顔だったろうが、それでいい。

瑛子はロブロイを抜き去り、なお、加速する。

前に誰もいない。初めての景色だった。

 

(気持ちいい)

 

立ち止まり、振り返る。

まだ少し遠くにロブロイが走っているのが見えた。

歓声が聞こえる。瑛子はそれが全てロブロイに向けらえれたものだと思っていたが、試合後に囲まれたのは瑛子のほうだった。

 

「あなた凄い! まさかロブロイさんに勝っちゃうだなんて!」

 

「ほんとほんと! びっくりしちゃった!」

 

「とんでもない天才がいたもんだ! ねえ、握手して握手!」

 

ふひふひふひ。瑛子はずっとそうやって笑っていた。

今まで味わったことのない何かが自分の中を渦巻いている。

なによりもいまだに信じられないといった表情のロブロイを見て、気絶しそうになった。

 

「ま、まさか負けるなんて思いませんでした! あなたは何者ですか!?」

 

(き、きッ、きもちぃいいいいいいいい!)

 

こんな優越感を味わったのは初めてだ。

 

「あ」

 

瑛子はそこで、ポカンとしているはるかを見つけた。

 

 

 

 

 

 

「ど、どうなってるの!?」

 

「私にもよくわからないんです」

 

体育館の裏で待ち合わせた二人は、これまでのいきさつを説明する。

と言っても、詳細はわからない。

気が付けば瑛子がウマ娘になっていた。それだけである。

 

「でも一つだけ! わかったことがあるんです」

 

「え? それはなに?」

 

「はるかさん! 私! こっちの世界の住人になります!」

 

瑛子は──スーパーメアリーはとびきりの笑顔でそう言った。

 

 

 

 

「――ってことなんだけど」

 

「なるほどな」

 

「まずいよね? これってかなり」

 

「どうだろうな」

 

タロウは荷物の仕分けをしているばかりで、はるかには一瞥もくれない。

 

「まずいよ! だって人間がウマ娘になるのよ? 普通じゃないってば!」

 

「化け物になるわけじゃないだろう。記憶が消えているようでもないし、そちらのほうがいいなら、特に問題はなさそうだが」

 

「それはまあ、そうだけど」

 

「だがたしかに、いずれ世界が分離した時に、帰還できないとなると問題はあるな。家族や友人、職場に話をつけておかないと」

 

「そうそう家族とかショックよね。なんとか説得しないと!」

 

「それも含めて自分の人生ともいえるが。彼女ももう大人だ。向こうの世界に戸籍等が用意されているなら、そちらの選択肢もある」

 

「だめだめ。説得しないと! タロウも手伝ってくれるでしょ?」

 

「……仕事が終わればな」

 

「じゃあ手伝ってあげるっ! 感謝してよね!」

 

以前、少し働いていたので慣れたものだった。

テキパキと荷物を配達していき、最後は二人で肩を並べてインターホンを押す。

 

「お届けものでーす。ハンコかサインお願いしまーす」

 

「……ああ」

 

扉を開けたおじさんは荷物を受け取ると、しばし固まる。

 

「なあ、アンタら、どこかで会ったか?」

 

「いや、記憶はないが」

 

「そうか。そうだな。すまない変なことを聞いて」

 

おじさんはペンを走らせる。

 

「ん?」

 

はるかが訝し気な表情を浮かべたものだから、おじさんはすぐに自分のサインを見た。

そこにはマカロニピースとある。

 

「ああ、すまん。ちょっとネットで使ってる名前を書いてしまった。どうやら気を失ってたみたいでぼーっとしてた」

 

「え? 大丈夫ですか?」

 

「大丈夫。ちょっと寝不足だっただけさ……」

 

「それだけじゃなさそうだが」

 

「え?」

 

「ちょうどいい。袖振り合うも多生の縁。これでアンタとも縁ができた」

 

タロウはズカズカと家の中に入り、座布団の上に腰掛ける。

 

「何か悩みがあるなら話してみろ」

 

「ちょっとタロウ! すいませんこの人ったら!」

 

「いきなりだな……」

 

おじさんは箱を見つめ、そしてそれをテーブルの上に置いた。

 

「ちょうどいい。これをもらってくれないか?」

 

おじさんが箱から出したのはスーパークリークのフィギュアだった。

 

「ウマ娘!」

 

「知ってるのかお嬢ちゃん。まあ、でも知ってるか。最近話題になってるもんな。昨日の歌番組でも声優が競馬場で踊ってたよ。最近の若い子はあれだね、全員、同じ顔に見えるよ……」

 

マカロニピースは虚ろな目でフィギュアを見た。

 

「それ、転売されたものを買ったんだ。三倍以上の値段で」

 

「うぇ!」

 

「なおさら、あげようとする意味がわからないな」

 

タロウは部屋の中を見回す。

ウマ娘のポスターやタペストリーがたくさん飾ってあった。

アクリルスタンドや、DVDボックスも見える。

 

「好きなものじゃないのか?」

 

「虚飾だよ。こんなものは、全てね……」

 

「?」

 

「とっくに情熱を失ってた。はじめはね、一生できるゲームが見つかったと思ったんだ。だからグッズも集めて、そしたら充実感を得ることができた。感動することができた」

 

はじめだけ。

 

「新しいウマ娘が追加されてテンションが上がってガチャを引くんだ。結果に一喜一憂して、ようやっと手に入れたウマ娘を育成せずに放置することが続いた。毎日やっていたレジェンドデイリーレースももうやってない……」

 

ヘリオスのシナリオがいろいろ言われた時も、なんとも思わなかったし、特別なチョコも動画で見ただけだ。

シービーとターボが来た時、戻ってくる理由ができたと思ったが、育成シナリオの感想をSNSで見ただけで終わった。

 

「今は、もう──……」

 

はるかがいる手前、口には出せなかったが、もはや今、彼の趣味は体の一部を上下に擦るくらいしかない。

 

「それしかない」

 

男の目の中に淀んだ何かが見えた。

ウマシコを求めてみたが、結局それも偽りでしかない。

最後の興味が性的なものというよりかは、アングラな『まだ誰も知らないもの』というだけでしかない。

エロ飽和状態ともいえる世の中で、禁止されているのであれば別のもので性的な欲求を満たせばいいだけ。

それこそブルアカで過酷なオナニーでもすればいい。

 

「そう、ブルアカ、やろうかな。アイマスとかは、もうやってない……家庭用ゲーム機は、疲れるから。アニメも26話もあると、しんどくて……見ようとも思えない」

 

「いろいろなものに触れればいい。体力がないと思うなら鍛えてみればどうだ? 筋トレを趣味にしている人間もいるだろう」

 

「どうにも面倒でね……」

 

「それでもだ。歩かなければ、何も見つからん」

 

「………」

 

「もしかして、認めたくないんですか?」

 

はるかはマカロニピースをのぞき込んだ。

 

「もう、冷めちゃったことを……」

 

「そう、そうかもね。一言でいうなら──『絶望』だよ」

 

絶望、その言葉を聞いてはるかの脳裏によぎったのは盗作の二文字だった。

 

「かもしれない。でも──」

 

「?」

 

はるかが言葉を終わらせなかったのは、頭によぎりつづけるものがあるからだった。

 

「でも、それは、希望の始まりでもある……!」

 

「っ、ってうわぁあ!」

 

マカロニピースが悲鳴をあげたのは、タロウに掴まれて強引に立ち上がらされたからだ。

 

「ちょうどいい。新しい趣味を見つけるのを手伝ってやる。まずは映画に行くぞ、その次はボウリング、それが終わったら絵だ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

「待てないな。時間が持ったないからすぐに向かおう。はるか、お前も来るか?」

 

「……いや、やめとく。やりたいことできたから」

 

「わかった。ではな」

 

「うん。じゃあね」

 

はるかは、タロウよりも先に家を出て行った。

 

 

 

 

四日後。

瑛子は再びトレセン学園を訪れていた。

ファン交流会ということもあって、普段は入ることのできない一般の人間の姿もチラホラと見える。

瑛子は期待に胸を膨らませていた。

今までは期待通りに物事が進んだことはない。しかし今は違う。その確信があった。

事実、彼女が敷地内に入るやいなや、大勢の人間が駆け寄ってきたではないか。

 

「ロブロイさんを破ったスーパーメアリーさんですよね!? す、すごい! 握手してもらってもいいですか!」

 

「あのッ! ちょっと気が早いかもですけどファンになっちゃいました! 写真いいですか?」

 

「キミ、来年トレセン学園に来るんだよね? トレーナーの候補はいる? いないなら、俺とどう?」

 

ありがとう。

もちろん。

考えておきます。

ごめんなさい。

ちょっと通してもらってもいいですか?

一言一言が震える。

未曽有の快楽物質。持て囃されるのがこんなにも気持ちいいものなのか。

憧れや好意を向けられること。時に嫉妬されることがここまでクセになるものなのかと感動していた。

 

「?」

 

向こうでもキャーキャーと声が聞こえている。

誰だろう? 瑛子は謎の対抗心を覚え、そちらに向かった。

すると、そこにいたのはゼンノロブロイだった。

彼女は瑛子を見つけると、にこやかな笑顔を浮かべて手を振った。

 

「あ、メアリーさん。こんにちは!」

 

「………」

 

「メアリーさん?」

 

「え? あっ、ごめんなさ──こん、にちは」

 

しかし瑛子はしばらくの間、それがロブロイだということに気づけなかった。

なぜならば今の彼女はトレードマークの眼鏡を外し、三つ編みをほどいていた。

ロブロイは瑛子の視線で、それを察したのか、恥ずかしそうに頬を赤くした。

 

「これ、ちょっと冒険してみたんです。一度外してみてはどうかって前々から言われてたんですけど、なかなか勇気が出なくて。でもほら、今日は交流会でしょう? ファンの人たちに見せるならちょうどいい日かなって。それに──」

 

ロブロイは真っ赤になってほほ笑んだ。

 

「トレーナーさんに、見てもらいたかったから……」

 

黄色い声が上がる。

どうやら二人の関係はファンたちには周知であり、受け入れられているようだった。

しかし反対に瑛子はなんとか作り笑いを浮かべるので必死だった。

 

いろいろ混乱している。

イメージチェンジ、そんなことが許されていいのかとまずはそう思った。アイデンティティの崩壊はある種のタブーだ。

しかし考えてみれば、今、ロブロイはそこにいる。生きている。

だったら髪型も変えるし、眼鏡だって外す。

しかし人間界だったら、そうはいかなかった筈だ。少なくとも瑛子はそんなコメントを見てきたからだ。

 

そう、人間界。

奇しくもこの時、都雲雀はPC画面を見て固まっていた。

 

先日、SNSにあるイラストが投稿された。

それこそまさに眼鏡を外して髪を下したロブロイのイラストだったのだ。

当然、お叱りに近いコメントが多数見られる。

何もわかっていないだとか、魔改造しすぎだとか、この手のタイプのキャラクターを変えればそうなるというのはよく見ることだ。

雲雀もいつしかそう思っていたし、たしかにこのやり方は邪道であると思っていた。

 

だがしかし、増えてくる『これはこれで』という意見。『一度は見てみたかった』というコメント。

雲雀は固まっていた。なんだその掌返しは。あれほどけん制しておいてなんだそれは。

気づけば、いいねの数が、自分が描いたイラストよりも遥かに多い。

 

「どうして……」

 

雲雀はちゃんとキャラクター性を守って来たし、その中で挑戦的な作品をいくつも生み出してきたはずだ。

SNSでは無駄な発言はせず、ただイラストを黙々とあげてきた。

にもかかわらず、他のアニメの感想でフォロワーを獲得したようなヤツに負けるのか?

ただの一発ネタに負けるのか?

見たところこの作者、ロブロイが眼鏡を外したくなくて逃げるイベントを見ていないようだ。

それを見たからこそ、そのようなイラストは描くまいと思った自分が否定された気がした。

 

「あ」

 

むちぃ! むわぁ!

そんな文字が書かれたイラスト。

いいねが、自分よりもずっと多い。

 

「あたくしも描こう」

 

そういうの。描こう。

 

 

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

「描いてやるからなクソったれがァアア! ウマ娘男体化イラストをよぉおお!!」

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

 

 

 

 

 

アッキーは目を見開いていた。

DMが来たので開いてみると、そこには彼が応援しているブイチューバーの事務所関係者を名乗る男からのメッセージがあった。

内容はおおまかにいえばこうだ。

アッキーが所属ライバーの、リュビエ・フルールドリカのファンであることは前々から聞いていた。

ある条件と引き換えに、彼女と会わせてあげるというのだ。

 

『条件とは?』

 

『ウマエロ書いてください。絶対にSNSにはあげないんで』

 

『流石にそれは……。すみません』

 

『アッキーさんのデフォルメ的な絵柄が好きなんです。個人のやりとりならガイドラインにも触れないんで大丈夫だと思ったんですが、だめですか?』

 

『事務所関係者の証拠とかってあります?』

 

『すいません。こっちもリスク背負ってるんで。先に渡してもらう形でお願いします』

 

『すみません流石にそれは……』

 

『そうですか、残念です』

 

『そもそもやっぱりこっちにもプライドというか、二次創作でやらせてもらってるっていう自負はあるので。そういうことは他の絵師さんにも絶対にやらないでください』

 

『これちなみになんですけど。リュビちゃん今、猛烈に彼氏欲しいらしくて。誰でもいいらしいです。ちなみに彼女、絵師好きです』

 

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

『描きます。どのキャラですか?』

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

 

 

 

 

 

 

 

 

『他のヤツにも言え』

 

プリンパフェ将軍は虚ろな目で文字を綴っている。

 

『他のヤツも注意しろ』

 

文字を記す。

 

『他のヤツもやってる』

 

文字を──

 

「他のヤツもォオオオオオオオオ!」

 

叫び、そしてハッとする。

ダメだ。人のせいにしてはいけない。

悪いのは悪いのだ。他人もやっているからと言って、罪が消えるわけじゃない。

プリンパフェ将軍は以前、警察密着24時でスピード違反をしている男を思い出した。

前の車も同じスピードが出ていた。そうやってなんとか自分の罪をかき消そうとしている男を、プリンパフェ将軍は愚かだと思った。

だから自分もそうなってはいけない。

なるなら、正義の側だ。

だからプリンパフェ将軍はそちらになろうと思った。

ウマ娘のイメージを損なっているイラストを、漫画を、片っ端から見つけて、作者を注意する。そうだ。それが贖罪だ。

 

 

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

「俺が正義だァアアアアアアアアア!」

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

 

 

 

 

 

 

 

「クソがこの野郎世界バカタレがガキが!!」

 

わちょもすは、街を走る。

グラスのラバーストラップを身に着けている彼に、恐れるものなど何もなかった。

ウマエロを見つけたのはパトロール中の午前二時のことだった。

犯人と思わしき男はどうやら海外のサーバーを経由しているようで、彼もまた外国人のようだった。

翻訳サイトを駆使した結果、どうやら彼はガイドラインなんて知るかというスタンスらしく、烈火のごとく怒り狂ったわちょもすは至急彼を晒上げて、考えうる限りの罵詈雑言を添えた。

 

だがしばらくして待っていたのは予想外の展開だった。

確かにその外国人を批判するコメントも多く見られたが、それよりもわちょもすが使用した差別用語の数々が槍玉に挙げられ、彼は外国人差別者として叩かれることとなった。

既にまとめサイトにも取り上げられており、典型的なウマシコ警察として晒上げられている。

 

だがわちょもすは、自らの正義を疑っていなかった。

むしろこれ幸いと自分を叩いているものこそ、混乱に乗じてウマエロ容認の流れを作ろうとしている極悪人であると

なにが『あのアカウントのヤツか。いつかやると思っていた』だ。

 

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

「正義をナメるなぁああああああ!」

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

 

 

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