ドンブラザーズ×ウマ娘 俊足の残夢   作:ホシボシ

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ドン二話 じぶんハツデンキ-4

 

瑛子は、鬼が生まれていることなど知らない。

そんなことよりももっと大切なことがあった。

だから、なかば無意識に口を開いている。

 

「あのっ!」

 

「はい?」

 

「交流会……、あとで走るイベントありますよね」

 

「はい。前のように、私と参加したいっていうウマ娘さんたちとで走ります」

 

「また、私と走ってもらってもいいですか?」

 

「もちろんです!」

 

瑛子はまたロブロイに嫉妬した。

コンプレックスを克服して、それできっと彼女はまたトレーナーと良い雰囲気になったりして、それで自分よりもまた一つ幸せになる。

だから一刻も早く彼女に勝ちたかった。

 

 

そして──

 

 

「あれ?」

 

繰り返す。

 

「あれ?」

 

最後にもう一回。

 

「あ、あれ……?」

 

汗まみれで、ゼヒュゼヒュと息を鳴らして、歪んだ顔の瑛子は、いまだ涼し気な顔で余裕を感じさせるロブロイを見ていた。

交流会の目玉ともなる参加型レース。

勝ったのはロブロイだった。歓声を浴びたのは瑛子ではなくロブロイだった。

 

「お疲れ様です」

 

ロブロイは瑛子に手を差しのべるが、それを取る気にはなれなかった。

 

「は、速い……! この前よりッ、どうして? あ、あの時は手加減していたんですか?」

 

「いえ。そうではなくて、ですね……」

 

ロブロイは誇らしげに笑みを浮かべた。

 

「あなたに勝ちたかったから、練習しました!」

 

「え……?」

 

「ま、強くなったってことだよ」

 

真庭トレーナーが後ろからきてロブロイの肩をポンポンと叩く。

 

「この子は結構……いやかなりの負けず嫌いでさぁ。もうキミに負けてからバッチバチ。練習もいつもより気合が入ってたなぁ」

 

「い、いえ。トレーナーさん、そこまでは……!」

 

「大丈夫。ウマ娘としては当然のことさ。メアリーちゃんもまた戦ってあげてね。キミは相当伸びるよ」

 

「練習……」

 

瑛子はロブロイに勝ってから今日まで、まったくトレーニングをしていなかったことを思い出した。

とんでもないチート能力が手に入って、それで終わりだと思っていた。

むしろウマ娘の食欲に感動して、たくさん食べていたっけ?

だから体が前より重くなっている。

 

瑛子は何も言わなかった。

走る前、ロブロイの英雄譚が展示されていたので中を見た。

そこには以前、ロブロイが言っていたようなことが書かれてあったっけ。

 

『あの人のために勝ちたい』

 

『なによりも自分自身のため』

 

『その傲慢さを自覚すれば、もっと強くなれる』

 

目的があって、手段がある。あくなき向上心。

 

「はぁ、そっかぁ……」

 

瑛子がへたり込んでいると、彼女の名を呼ぶ声がした。

メアリーじゃない。『瑛子』と呼ばれた。

視線を移すと、はるかが立っていた。

 

「これ! 見て!」

 

はるかはスマホを突きつける。それは『鬼頭はるか』のSNSのページだった。

それを見て瑛子はハッとする。

はるかがウマ娘の二次創作を描いてアップしていたのだ。

しかも内容は、現実では冴えない女性が、ウマ娘の世界に転移して活躍するというものだ。

間違いなく、それは今までの瑛子のことをモデルにしている。

視線は無意識にハートマークに向かっていた。

"いいね"が、瑛子が描いていたイラストよりも多い。

 

(ずるい!!)

 

そう思った。

だってその体験談は瑛子にだって描ける。

瑛子のほうが詳しく描ける。なのに、はるかがそれを盗った。

 

「私のことなのに! ことなのにッッ!」

 

なんだかとても惨めで、それでいて、腹が立つ。

ロブロイにも負けて。

はるかにも負けて。

 

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

「みんな! 馬鹿にしてぇエエエッッ!」

!▲!蜊ア髯コ莠コ迚ゥ隘イ譚!▲!

 

エネルギーエフェクトが迸り、瑛子の姿が警察鬼によく似た『嫉妬鬼・桃』に変わる。

すると唸り声が多数聞こえてきた。

まずは警察鬼型の嫉妬鬼が飛び出してくる。

わちょもすが変身する『朱』と、プリンパフェが変身した『緑』だ。

 

「オオオオオオオオオオ!」

 

さらに雄たけびが聞こえ、怪盗鬼型の嫉妬鬼がやってくる。

雲雀が変身している『黄』と、アッキーが変身した『青』だ。

計五体の鬼を前にして次々と悲鳴が聞こえる。

ウマ娘たちが離れていく中で、はるかは前に出た。

 

「瑛子さん……! 待ってて! アバターチェンジ!」『よッ! 鬼に金棒!』

 

オニシスターは金棒を構えた。するとロブロイが前に出る。

 

「あのッ!」

 

「なに!?」

 

「お願いします……! 助けてあげてください!」

 

「うん! 任せて!」

 

オニシスターが力強く頷いたのを見て、ロブロイは少し安心したような表情を浮かべた。

 

「とにかく離れたほうがよさそうじゃない!? みんな逃げて!」

 

真庭はロブロイを抱えると、周囲のウマ娘や一般客を連れて走り出した。

一方でオニシスターの周囲に次々と仲間が転送されてくる。

 

「これはまた……、鬼が多いな」

 

サルブラザー。

 

「みなさーん! こっちです! 逃げてくださーいッ!」

 

キジブラザー。

 

「ん? っておわ! なんだ!? なんで変な耳とか尻尾つけたヤツらばっかなんだ?」

 

イヌブラザー。

 

「はーッははははは!」

 

そして──

 

「祭りだ祭りだァ!」

 

天女が笑い、舞っている。

そんな中で屈強な担ぎ手たちがバイクの乗せた神輿を連れてきた。

そのシートの上でドンモモタロウは扇子を扇ぐ。

 

「随分と曇った顔をしているな! 安心しろ、すべての闇は、俺が切り祓う!」

 

バイクが飛び出した。

鬼たちの群れに突っ込んでいき、その衝撃でドンモモタロウは放り出される。

とはいえ、華麗に着地を決めると、バイクに轢かれて倒れている鬼たちのもとへ刀を持って走っていった。

 

「悲しいか?」

 

斬る。

 

「苦しいか!」

 

斬る。

 

「糧にしろ! その道が見つからないなら、俺が照らし出してやる!」

 

斬る。

 

「そらそらそらそらァアッ!!」

 

手当たり次第に斬りまくる。

 

「笑え笑え!」

 

ドンモモタロウは青鬼の胴体に刃を押し当て、ギアを激しく回しまくる。

刀が発光し、虹色の眩い光を放った。

 

「悩みなんか吹っ飛ばせェエ!!」『アバタロ斬!』

 

「うげぇえああああああああ!!」

 

虹色の一閃が鬼を破壊する。

 

「うるせええええええ!!」

 

緑鬼が吠えた。

拒絶の波動がドンモモタロウを飲み込み、吹き飛ばしていく。

激しく地面を転がる中で、ドンモモタロウは新たなギアをつかみ取っていた。

 

「面白い! これならどうだ?」『ドンブラコォ!』

 

立ち上がると同時にドンブラスターの銃口を天に向ける。

 

「アバターチェンジ! ロボタロウ!」『ドン! ロボタロウ!』

 

機械装甲が飛び回る。跳ね回る。

それらは次々とドンブラザーズたちに装着されていき、キジブラザーとイヌブラザーは人型から完全にモチーフとなった動物のシルエットに。

サルブラザーにはパワーアームが、オニシスターには重厚な装甲が与えられて強化されていく。

 

「来い! 俺を拒絶してみろ!」『よッ! 世界一!!』

 

ドンモモタロウもまた、機械形態『ロボタロウ』に変わっていた。

 

「心桃滅却……!」『秘儀!』

 

刀を構える。

すると背中にあるブースターが光を放ち、彼は地面を離れて猛スピードで突っ込んでくる。

 

「く、くそぉおお!」

 

拒絶の波動が放たれた。

しかし飛行するドンモモタロウはわずかに減速したが、全く止まる気配を見せずに飛行する。

いやむしろ、鬼に近づいた一定距離で一気に加速した。

ドンモモタロウは一瞬で鬼の背後に着地し、虹色に輝く刀を下す。

 

「あ、あぁァ……!」

 

緑鬼は傷を押さえた。

確かに虹色に発光する刀痕が刻まれていた。

 

「アバター光刃!」『気合!』『異才!』『居合斬!!』

 

「ぎゃああああああああああ!」

 

鬼が倒れ爆発が起きる。

 

「オレも混ぜろォオオ!」

 

その爆炎をかき分けて銀色のシルエットが飛び出してきた。

ジロウの中にいる闇の人格が変身した戦士・『ドントラボルト』だ。

朱鬼めがけて獣のように走っていく。

 

「ドラゴンファイヤー! アイツのへたくそな絵を見ていると頭がおかしくなる!」

 

トラボルトは持っていた斧を投げた。

それは朱鬼に当たると、跳ね返って再びトラボルトの手に戻る。

敵が怯んでいる間にトラボルトはターゲットにとびかかり、押し倒してマウントをとった。

 

「憂さ晴らしだァ!」

 

倒れた鬼へ何度も斧を打ち付けるが、そこで拒絶の波動が発動されてトラボトルと引きはがされる。

 

「警察を馬鹿にするなよ!」

 

朱鬼は立ち上がるが、同時にトラボルトも跳ね起きた。

 

「警察だァ? 所詮は人間が作った組織。歴史の前に消え失せろォ、アバタァチェンジィイ!」

 

白虎の戦士・キバレンジャーに姿を変えたトラボルトは、柄に虎の顔がついた剣を鬼に向けた。

 

『吼新星・乱れやまびこ!』

 

咆哮と共に衝撃波が発生して、拒絶の波動とぶつかり合う。

それぞれの衝撃波は互いを相殺し、そのなかで先に動いたのはトラボルトのほうだった。

剣を投げて鬼にぶつける。

倒れた鬼は、周囲が暗くなっていることに気づいた。

立ち上がると、トラボルトが立っていた場所に、発光する虎の紋章が見える。

 

『タイガー! 奥義!』

 

これはまずい。

朱鬼は拒絶の波動を連射するが、巨大なトラのエネルギーは減速することなく近づいてくる。

 

「雷刃!」

 

「うっ!」

 

「闇駆白虎!!」

 

「うわああああああああああ!」

 

『乱れ雷虎! ホワタァーッ!』

 

爪と牙にねじ伏せられて鬼は光の中に消えていった。

同時に闇が晴れ、元の世界へと戻る。

 

『……再見(ザイチェン)

 

爆発が起き、朱鬼は跡形もなく消え去った。

 

「俺たちも決めるぞお供たち!」『パァーリィータァーイム!!』

 

山や星空が描かれた垂れ幕のレイヤーが下がり、世界が姿を変える。

残った鬼たちは困惑し、動きを鈍らせる中で、ドンブラザーズが動きだした。

前に出るキジブラザーとイヌブラザー。

同じくしてサルブラザーが力を込めて地面を叩いた。

衝撃を味方につけて、ドンモモタロウとオニシスターが飛び上がる。

 

「トゲトゲ祭りーッ!」

 

オニシスターの体や武器から棘状のミサイルが発射された。

ホーミング弾のため、ミサイルは先行するキジとイヌに向かって自動で追尾を開始する。。

 

「通りますよー!」

 

キジブラザーは高速で黄鬼の頭上を通り過ぎる。

一方で彼を追っていたミサイル群は、そのまま黄鬼に向かって次々と着弾していった。

 

「エアアアアアアアアア!」

 

黄鬼は爆炎に飲み込まれて消滅。

一方でイヌブラザーも桃鬼の肩にくらいついた後、足で体を蹴って飛び跳ねた。

 

「うあぁあああ!」

 

ミサイルが桃鬼に直撃していく。

だが彼女は拒絶の波動を発動しており、いくつかのミサイルを着弾前に潰してみせた。

 

「!」

 

ドーンと懐かしい音がする。

桃鬼が空を見ると、打ち上げ花火が空に咲いており、その前にドンモモタロウの影が見えた。

火が消えると闇がドンモモタロウを隠す。

するとまた花火があがり、シルエットは確実に鬼のほうへ近づいてくる。

逃げるべきか。立ち向かうべきか。考えた時間は一瞬だが、すでに痛みを感じていた。

花火のようなエフェクトをあげながら刻まれていく斬撃。

 

『ロボタロ斬!!』

 

ドンモモタロウが鬼を切り抜けた。

ダメージにひるんでいると、オニシスターとサルブラザーが同時に地面を叩く。

すると衝撃で鬼の体が空に向かって打ちあがり、そこで刀痕から虹色の光が溢れた。

 

「うあぁぁ……!」

 

「「「「「ドン! ドンッ!! ドンブラザーズ!!!」」」」」

 

「あああああああああああああああああ!!」

 

巨大な花火が空に輝く。

瑛子はそこで意識を失った。

 

 

 

 

「悔しかったでしょ?」

 

「………」

 

彼女は、人間に戻っていた。

目覚めた瑛子は、はるかの問いに無言で頷いた。

レースで負けた時よりも何倍も、何百倍も悔しかった。

 

「そんな顔ができる人が、イラストをあきらめたなんて言えるもんですか!」

 

「………」

 

速くなりたいと心の底から思ったことなどない。

でも、『上手くなりたい』とは思ったことがあるかもしれない。

瑛子は必死に絵を学んだことや、ショックを受けながらも新人賞に投降していたころを思い出した。

 

「今度ね、漫画の新人賞があるの」

 

「え?」

 

「大賞は出版が確約。プロもアマも参加は自由!」

 

はるかは、ニヤリと笑った。

 

「そこで勝負よ! 瑛子さん!」

 

「……ッッ!」

 

瑛子はそこで自分がいるのがトレーナー室だと気づいた。

縋るように周りを見ると、ロブロイと目が合った。

ロブロイは何も言わず、ただただ優しい目をしてゆっくりと頷く。

瑛子もまた、同じように頷いた。

 

「望むところです!!」

 

ニヤリと笑って、はるかに返した。

そんな二人を見て、ロブロイは嬉しそうに笑う。

 

「やりましたね、トレーナーさん」

 

「ああ。よかったんじゃない? 丸く収まったみたいだし。あ、みなさんお菓子食べます? みかんとかバナナもあるから! さあどうぞどうぞ!」

 

ということなので、はるかたちはお菓子を食べてジュースを飲んで笑った。

 

 

それから。それから。

 

 

「ペンネームは、ベルモットでいいんですよね?」

 

「はい! でも本当にいいんでしょうか?」

 

「ええ。珍しいことじゃないんですよ。拾い上げっていうのは」

 

名刺をもらった瑛子は、出版社のなかにある喫茶店でガチガチに固まっていた。

 

「あ」

 

そこで瑛子は編集者の男性の傍にグラスワンダーのラバーストラップがあるのを見つけた。

 

「ウマ娘、お好きなんですか?」

 

「え、ええまあ」

 

「?」

 

「ちょっと戒めに。自分でもいうのもなんですが、行き過ぎた正義感が原因で多くの人に迷惑をかけてしまったことがあって。これを見て、あの時のことを……ははは」

 

「そうなんですか」

 

「ちょっと固くなりすぎていたかもしれません。編集者たるもの、もっと広い視野が大切だというのに……。とにかくッ、そんなときに先生の作品が目につきまして。僕にはすごく刺さりました。気の弱い英雄と、何の力もないけど、ひょうひょうとして彼女にアドバイスを送る賢者の二人は応援したくなりますよね。それだけじゃなくて、謎の桃太郎モチーフのヒーローも普通だったら出てこないけど、なんだかマッチしているというか」

 

「ありがとうございます!」

 

「すぐに出版は難しいかもしれませんが、年内には出せるように二人三脚で頑張っていきましょう!」

 

「はいっ!」

 

瑛子は深く、それは深く頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 

「負けた!」

 

はるかは机に突っ伏し、スマホを投げた。

向かいにいる猿原と雉野はいぶかしげな表情で、はるかの原稿を見ている。

 

「貝が擬人化して水球をするんですか……」

 

「それでボールが豆腐……さっぱりわからん」

 

少し離れた席では瑛子を除いたオフ会時のメンバーも集まっていた。

雲雀は瑛子のフォロワーを見て肩を竦めた。あっという間に抜かれてから久しい。

固定されたツイートには、処女作の宣伝が見えた。

 

「先を越されましたわね、帝坂さん? なぐさめてさしあげましょうか?」

 

「うるさいぞ都女史。まあアイツは爆発したら化けるとは前から思ってた」

 

「え? そうは見えなかったっすけど」

 

「隠していたからな。だが作家など面の皮が厚いくらいなほうがいい」

 

「やっていけるといいですけれど……」

 

「大丈夫だろ。あれでなかなか根性がある。他人に自分の創作を見せて承認欲求を得ようなんてヤツがまともなわけがない。野心に溢れてるはずだ。弱いわけがないんだよ」

 

「ま、それはオレたちもっすよね? プリンパフェ将軍もなんやかんやで返り咲いて別ジャンルでよろしくやってますし。ごっつりフォロワー増えてましたよ」

 

「帝坂さん、あなた何かDM送ったとか?」

 

「エールと注意だ。貴様らも欲しいものリストはやめとけよ」

 

化け物になったという話ははるかたちから聞いた。

記憶はおぼろげだが、まあ確かに醜態をさらした気がする。

それでもまた、昨日も一昨日も先週も、絵をあげている。

 

「それにしてもどうして帝坂さん。あなただけ、鬼にならなかったのかしら?」

 

「お前らとはレベルが違うからな」

 

「いいますねー!」

 

「まあしいていうなら考え方かもしれん。俺はどんな作品も肯定しているし、否定もしている」

 

「というと?」

 

「誰が何を言おうと創作は生まれ続ける。それが光を生み出し、影をも生み出す。一度始まったものは止めることはできない。どこかの誰かがあえて描かなかったものは、どこかの誰かが今日描くものかもしれんのだ」

 

「………」

 

「それらは喜びも悲しみも生み出すだろう。だがいずれも、人を前に進ませる原動力となり、新たな火種となる。俺たちはただ己の信じるものを信じて進めばいい。決めるのは多数であり、個だ。評価が辛くて止まればそれは一つの道だし、自分が納得していないなら従う意味もない。まあつまりは──」

 

長々と言ったが、帝坂のスタンスは単純だ。

 

「いい物はいいでいい。それだけだとも」

 

そして、コーヒーがなくなった。

みんな、店を出て、帰っていく。

 

「いやしかし瑛子さんがトップバッターかぁ。羨ましいなぁ」

 

帰路の途中、アッキーは立ち止まり、スマホを見た。

アルバムを開いて、お気に入りに移動する。

もうずいぶんと前に撮影した写真が出てきた。

 

それはアッキーが12歳の時の卒業文集だった。

それを見つけたのは、ブラック企業に勤めて身も心もボロボロになった頃、身辺整理の途中で見つけた時だった。

 

『ぼくの夢』

 

子供の頃のアッキー長文でびっしりと、漫画家になりたいと書いていた。

アッキーは笑い、何度か頷くとスマホをしまって、また、歩きだす。

 

「まあまあまあ、これはこれは、ずいぶんとおませだこと……!」

 

雲雀は書店に寄り道をしていた。

いつまで経ってもここはワクワクして童心に帰れる。

電子書籍が普及した今でも、紙の質感が好きで雲雀は足しげく本屋に通っていた。

読む本は少々大人にはなったが、これは一生の趣味だと確信している。

彼女は本が好きで好きで仕方ない。

だからこそ、自らも筆をとったのだ。

 

「………」

 

帝坂も立ち止まり、スマホを見ていた。

画面をスクショしたものだ。

ウマ娘を描くよりもずっと前に書いた別作品の漫画に送られたコメントである。

 

『毎日が辛くて、死んでしまいそうだったけど、この作品があるから生きていけてます。ずっと応援してます!』

 

その時、奇跡が起こった。

 

「うらっしゃあ!」

 

跳ね起きるはるか。

ぴったりと、作家たちの声が重なったのだ。

 

「「「「「よし、描くか!」」」」」

 

 

 

どんぶらこ♪ どんぶらこ♪

DON! DON! ゆらりゆれて♪

目指すは♪ どんなハッピーエンド?♪♪♪

 

 

 

「大丈夫か? ケガをしたと聞いた」

 

「ああ。キミか、ありがとう」

 

タロウはフルーツの盛り合わせを病室に置く。

マカロニピースは体を起こして、わざとらしく笑った。こうすることで無くなった前歯を強調するのだ。

 

「今日、他の病室で誰かが死んだよ。人間の一生は短い、キミの何か夢中になれるものを探せよ」

 

「ああ」

 

タロウはテーブルにたくさんの釣り雑誌があるのを見つけた。

 

「キミのおかげだ。強引に引っ張り出して船に乗せてくれたおかげだな」

 

「すまなかったな。そのせいでケガをしたと……俺のせいだ」

 

「いやいいんだ。悪いのは立ち入り禁止の場所で釣りをしていたマナーの悪い連中だよ。注意したら殴りかかってくるとは思わなかった。今度からは警察に注意してもらうよ」

 

「ああ」

 

ふと、窓の外、木の枝に鳥がとまっていた。

マカロニピースは身を乗り出して、ポカンと鳥を見ている。

 

「あれはなんて名前の鳥なんだろう……?」

 

スマホで調べようとした。

容量がもったいないので、ウマ娘は消した。

 

「よせ、寝ていろ。目が疲れるぞ」

 

「あ、ああ。でも……」

 

「元気になったら図鑑で調べるといい。鳥を見る趣味もあるそうだ」

 

「野鳥観察。バードウォッチングだね」

 

「ああ。前に双眼鏡を運んだことがあるが、その時の客が言っていた」

 

「そうか。今度やってみるよ。双眼鏡を買ったら届けてくれるか?」

 

「どうだろうな。会社の手前、約束はできんが、届けられるといいな」

 

「そうだ。腹も減ったし、食事にするか。今日は食堂にするよ」

 

「いいのか?」

 

「ああ。体は元気だ。食欲もある。一緒に食べよう。奢るよ」

 

「しかし……」

 

「奢らせてくれ。フルーツの礼もある」

 

「そうか。なら、ありがたくいただこう」

 

「食堂のメニューをコンプリートしようと頑張ってるんだ。これがなかなか楽しくてな」

 

「美味いのがあったら教えてくれ」

 

「ああ。じゃあ行こう……!」

 

 

釣り好きおじさんは、晴れやかな顔で病室を出た。

 

 

 

 






じかーいじかい

【時は幕末! ぱからっぽお嬢様部、開園!】

何? マックイーンのゴルピッピポイントがゼロになれば世界が終わる?
それを止めるためにはお嬢様部とともに暗黒四天王を百人倒して、苦理悪愚利を倒さなければならない!?
制限時間はモンブラン王国がシュークリーム星と同盟を結ぶまでだと!
しかも『晴天のアグニ』が動き出せば、歴史が変わってしまう!
その時、始動する謎のごまだれ計画とは!?

お前ら! さっきから何を言ってるんだッ!?
まったく意味がわからんぞ!

【悪魔、覚醒──!】

だが仕方ない。乗りかかった船だ。
オレが助けてやるクワーッ!
わるっ! わるっ! わっわ!


じかい、『ドン三話 おうごんのユーラン』 という、おはなし……!


………



ドーンとハッピエーッンッッ

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