HUNTER×HUNTER 霊光波動拳の◯◯   作:ニラ

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02話

 

 

 

 少年――ユーマが幻海に弟子入りをした翌日。

 日も未だ完全に昇りきらない早朝に、2人は向い合って立っていた。

 場所は、幻海の住む修練場の庭である。

 

「ばーさん……眠ぃよ」

「グダグダ抜かすな。今何時だと思っとる!」

「……朝の5時前」

「解ってるならシャキッとしな!」

 

 ユーマは

 

(どういう意味?)

 

 と、思って首を傾げたが、まぁ恐らくは、『時間は朝だって解ってるならツベコベ言うな』と言うことなのだろう。

 

「早速修行を始めるわけだが、その前にそこに置いてある服に着替えな」

「服?」

 

 幻海に促されて視線を向けると、其処には一つの葛籠があり、中には一着の白い服が折り畳まれて入っていた。

 

「これって、新しい道着?」

 

 ユーマは中に入っていた服に手を触れる。見たところ、現在自分が着ているモノと同じデザインの道着のようだ。

 特に変わった感触でもなく、手触りも同じように感じられる。

 何故今の道着ではなく、こちらの物に着替え無くてはならないのだろうか?

 

 チラッと幻海に視線を向けると、『さっさとしろ』といったような視線を返されるユーマ。

 何かしらの理由があるのだろう――と考え、潔く着替えようと道着を手にとった瞬間

 

「な、なんだ、コレ」

 

 直ぐ様に理由が解ってしまった。服を持ち上げた瞬間、ズシリッと、腕にかかった重量に驚きの声をあげたのだ。

 

「その道着は全部合わせて、約25kg程の重さがある。今日から暫くの間、寝る時以外はその道着を着て過ごすんだ」

「えぇっ!? だ、だって……えぇ!?」

「つべこべ言うんじゃないよ! さっさと着替えちまいな!」

「わ、解ったよぉ!」

 

 幻海の言葉に渋々とだが、着替えを始めるユーマ。

 リストバンド、アンクルバンド、アンダーシャツ、道着の上下を着込んで行く。

 一体どんな材質で出来ているというのだろうか? それらを一つ一つと身に着けていくたびに、ユーマは全身の動きにくさが増すのを感じていた。

 

 まぁ、25kgと言えば、同年代の子供の平均体重に匹敵するのだ。ユーマにとっては、人一人担いでいるといっても過言ではあるまい。

 

「――……婆さん、着替えたけど」

「良し。それじゃあ、早速修行の第一段階に入るよ」

「第一段階?」

「先ず、お前さんに必要なことは――体力じゃ!」

「いぃっ! 体力!? オーラの使いを教えてくれるんじゃないのかよ!」

 

 弟子入りして最初に教わることが、まさか体力つくりだとは思いもしなかったユーマは、幻海の言葉に非難の声を上げる。

 しかし、幻海はそんなユーマを馬鹿にするように、鼻を鳴らして返事を返した。

 

「やっとこさ卵の殻に罅をいれたようなヒヨッコ以下のガキが、何も解らずにピーピー騒ぐんじゃあ無いよ。良いかい、念っていうのはオーラを操る力だ。オーラ……つまりは生命エネルギーのことさ。それだって言うのに、何の下地も出来てないただの小僧だったお前に、いったいどれだけの力が有るっていうんだい?」

「ひ、人並みにはちゃんと!」

「ほう、そうかい? それじゃあお前は、そこらに居る大人よりも優れた体力があるってのかい?」

「それは……」

 

 畳み掛けるように言ってくる幻海の言葉に、ユーマは流石に言葉を失ってしまう。

 人並み――この場合は歳相応のことだが、それ並には体力はあると思っているユーマであるが、流石に大人と比べられてはどうしようもない。

 

「解ったらツベコベ文句を言う前に、黙って私の言うことを最後まで聞くんだね」

 

 幻海はそう言うと、ユーマの言葉を待たずにスタスタと歩き出して行く。ユーマは一瞬出遅れたが、直ぐにその後を付いて歩き出した。幻海は後ろからついてくるユーマの気配に、一瞬だけ視線をそちら側へと向けたが、直ぐに正面へと戻して歩を早めていく。

 

 道場をグルリと回りこむように移動していく玄海とユーマ。丁度裏側へと回り切ると、玄海はユーマへと向き直った。

 

「はぁ、ふぅ……」

 

 距離にすると100mも無い道のりだったが、ユーマは既に息を乱してしまっている。

 

「見な、この裏手の山の頂上付近に、一本杉が立っているのが見えるだろう?」

「一本杉? ……アレか」

 

 指さして言ってくる幻海の言葉に、ユーマは目を細めて山の頂付近に視線を向ける。すると確かにズット先にではあるが、頂上付近には一本の木が立っているのが見えた。

 

「今からあの、一本杉を目指して修行前の軽いランニングだ。キリキリ走りな」

「あそこまで山登り? この格好で?」

「山登りじゃない。ランニングだって言っただろうが!」

「だ、だって、こんな重たいの着てるんだぞ!」

「グダグダ言っとらんで、さっさと走れこのバカタレが!」

「な、何だってんだよぉ!?」

 

 文句を口にするも、ユーマは幻海の迫力に負けて山へと向かって駆け出していった。しかし、ドス! ドス! と音を鳴らしながら進むその速度は、お世辞にも駆けているとは言えないような遅さである。

 

「言い忘れてたけどね。30分経ったら私が育てた猟犬を何匹か放つから。其のつもりで居な」

「この鬼ババァ!!」

 

 幻海はユーマの後ろ姿を眺めながらそう言って叱咤激励(?)をすると、ユーマは捨て台詞を吐いて少しばかり走る速度を上げるのであった。

 

「ふん。やりゃあ、まだ早く走れるじゃないか。怠けとる証拠だバカモンが」

 

 山入口の林の中へユーマの姿が消えたころ、幻海は呆れ口調で言うのだった。

 

 

 ※

 

 

 結局のところ、その日の軽い(?)ランニングをユーマが終えたのは、昼もとうに過ぎて夕方に成ろうかという時間だった。ゴールをした時に、腕や足に追跡役として放たれた犬が数匹噛み付いたままであったのは、ある意味ではシュールである。

 

 とは言え幻海は、そんなユーマに対して

 

「遅いっ! 一体何処をほっつき歩いとった! それともう一つ、誰が纏を使って良いなんて言った! 体力のないガキが、無闇に使うもんじゃないと言っただろうが! もし明日からも使うようなら、今日とは違った追いかけ役を用意するからね……覚えておきな!」

 

 との、ありがたい言葉をプレゼントしてきた。

 因みに纏とはオーラを其の身に留めておく技法であり、ユーマが幻海と出会った当初から使っていたモノの名前である。

 

「お前の足が遅すぎたもんだから、予定していた修行をする時間が無くなっちまったよ」

「そ、それじゃあ……今日は、もう終わり?」

 

 息も絶え絶えに言うユーマだが、其の顔には若干の喜色が浮かんでいる。

 疲れが溜まったため、早々に休みを取りたいのであろう。

 もっとも

 

「そんなわけ無いだろう? 今から腕立て、腹筋、スクワットを、各100回ずつやるんだよ」

「ひゃ、100回!?」

「お前の体力に合わせて、数を減らしてやったんだ。有難く思いな」

「減らしてるのか? え……コレで?」

 

 イジメではなかろうか? 一瞬そんな言葉が浮かんだユーマであったが、弟子に成るといって昨日の今日で、流石に文句をいう訳にもいかず、震える身体に鞭打って、課せられた筋力トレーニングを始めていった。こうして、ユーマの弟子入り一日目は過ぎて行ったのである。

 

 因みに、次の日にユーマは幻海の言葉の意味をようやく理解することになる。

 それは、全身を襲う倦怠感だ。

 

 無論のことだが、前日に無茶をした反動での疲れや体中の筋肉が上げる悲鳴のような筋肉痛もあるのだが、ソレとは違った疲れが身体に現れたのだ。

 

 これは碌なオーラも持たずに、纏を行った反動である。

 この日のユーマは、全身の倦怠感と筋肉痛に襲われながら、総重量25kgの服を着こんで山を駆けるのであった。

 

 ……まぁ、当然のように犬には噛み付かれてしまうのであるが、それは必然として受け止めるしかなかろう。

 

 そういった過酷なトレーニングに、半ば泣き出したい気持ちを抑えながら、ユーマは必死に強くなるためだと自身に言い聞かせてトレーニングを続けていったのである。

 

 ――そうして、3週間が経っころ。

 

「お、終わったぁ……」

 

 昼が過ぎる前、正午よりも前の時間にユーマは大の字になって倒れこんだ。

 軽い?ランニングと筋力トレーニングが、遂に昼になる前の時間に終了したのである。

 

「どうだ婆さん! 昼前に終わったぞ! ザマァ見ろ!」

 

 なにやら趣旨を履き違えたようなユーマの台詞であるが、大方途中から、目的が幻海の課すトレーニングを午前中の内に終わらせる――にシフトしてしまったのだろう。

 

「ようやく、昼前に終わせるようになったか。全くチンタラしおってからに」

「ゼハ、ゼハ、この疲れ具合を見て、ゼハ……良く、そんなことが、言えるな、ば、婆さん」

「文句があるなら、言われないようにもっと速度を上げるんだね。まぁ……とは言えだ、自分でも解っとるだろうが、修行開始時に比べれば若干体力が増えとるようだ。今日のところは褒めておいてやるよ」

 

 幻海はフッと僅かな笑みを浮かべて、ユーマに労いの言葉をかけた。それはユーマからすれば、眼を丸く見開くほどに驚くことだった。

 修行を始めて3週間。

 其のような言葉を掛けられることはなく、只管に罵倒されてきたのだから。

 ユーマはその事に驚き、思わず余計な一言を口走ってしまう。

 

「婆さん……ただの鬼じゃなかったんだな?」

 

 瞬間、幻海の額に青筋が浮かんだ。

 

「誰が鬼だ! ちょっと褒めたら直ぐ調子に乗りおって! ……どうやら褒めたのは間違いだったようだね。そんだけ元気が余ってるなら、いまのと同じメニューをもう一回こなしてきな!」

「うぇーっ!? マジかよ!」

「ホレ! さっさと行け!」

 

 とんだ藪蛇である。

 しかし、なかったことには出来そうもない。

 ユーマは悲痛な表情を浮かべつつ、フラフラと立ち上がると

 

「畜生! 余計なこと言うんじゃなかったぁ!」

 

 そう叫び声を上げてから、再度ランニングのスタート地点へと戻るために駆け出していくのであった。

 

「本当に元気が余ってるね……明日から、もう少し道着を重くするか」

 

 幻海はボソリと不穏なことを口にしているが、それは冗談でも何でもないのであった。

 

 因みに、この三週間ほどの、ユーマの食生活だが――

 

「婆さん……なに、コレ?」

「飯に決まっとるだろう」

「コレが?」

 

 ユーマは言いながら、目の前に出された椀に入っている、幾つかのコロコロとした物体を箸で突っついていた。黒いような、緑のような、筋張ったような奇妙な丸い物体。大きさは凡そ2~3cmだろうか?

 ユーマは自身の短い人生経験の中で、残念ながらこのような物体を見たことは無かった。

 

「100種類以上の薬草を、特殊な製法で栽培して精製した、君薬の一種さ。ソイツだけでも十分に必要な栄養を摂取出来る。上等な仙薬みたいな物だよ。有難く食べな」

「仙薬……。俺はソレよりも、普通の飯が食いたい」

「これは辟穀の行も兼ねてるんだよ」

「へきこくのぎょう? なんだよ、それ?」

「簡単に言えば、肉や穀物を断つことで、体内の不浄な氣――オーラを整えて清らかにし、そして増加させる修行のことさ」

「はぁ……ここでも修行か」

 

 ムーっと眉間に皺を寄せたユーマは、君薬と呼ばれた丸い物体を睨みつけた。

 それでどうにかなる訳ではないのだが、しかし修行修行となっていては息が詰まると思ったのである。しかし、幻海はそんなユーマの心境を解ってか、魔法の言葉を持ち出してきた。

 

「お前、強くなりたいんだろ?」

「解ってるよ。婆さん」

 

 強くなる。

 ユーマは何故か、その言葉に強い反応を示す。

 現に今も、如何にして食べずに乗り切るか――なんて考えていたかもしれないユーマは、一転してそれを食べる方へと考えをシフトさせている。

 

 ユーマは椀の中の君薬をジッと見ると、其の中の一つを箸でつまんで、ヒョイッと口の中へと放り投げた。

 

「うーん……」

 

 入れた瞬間は特に問題もなく、『そういった形の物が口内にある』というのが解るだけであった。2~3度ほど口の中で転がしていたが、ユーマは決心がついたのか勢い良くソレにガリッと齧りつく。

 

 すると――

 

「――グぉ、苦ッ! 死ぬほど苦い!? なんだこれ!」

 

 流石に吐き出したりはしないが、あまりの不味さに感想が口から零れてしまう。

 

「確かな食感の後に広がる、えも言われぬ苦味。口内を尽く蹂躙するかの如く満たしていく苦味。飲み込んだ後も喉に絡みつくような強烈な苦味! …………ば、婆さん、これって毒じゃないよな? 鼻の奥に妙な刺激臭も感じるんだけど!?」

 

 苦味以外の味を全く感じさせず、多種多様な苦味だけが複雑に絡み合って、それぞれの特徴(苦味)を上手く引き立てている。

 そのうえ響くような強烈な刺激臭が噛み付いた瞬間にムワッと広がり、ソレが鼻の奥で痛みとなって自己主張をしているのだ。

 

「良薬口に苦しって言葉を知らないのかい? 馬鹿なこと言っとらんで、さっさと食べちまいな」

「コレ、噛まなきゃ駄目?」

「そのまま飲み込んでも効果は有るが、口の中でドロドロに成るまで噛んでから飲み込んだほうが効果は高いね」

「…………」

 

 ユーマは一瞬、食べずに強くなる方法はないのだろうか? とも考えたのだが、結局は折れてその君薬を綺麗に平らげることにしたのであった。

 

 ※

 

 ユーマが幻海のもとに弟子入りをし、修行が開始されてから凡そ半年が経過した。毎日毎日を、ランニングと筋トレといった基礎に費やす日々。幻海曰く『軽い運動』らしいが、一般的には決して軽いとは言わないだろ。

 

 当初25kgから始めた道着の重量も、今ではドンドン跳ね上がった。半年経った現在では200kg。力士一人以上を担いでいるようなものであるが、とはいえ、それにも上手く対応していってしまうのはユーマの才能か、それとも幻海の指導によるものか?

 

「本日より第2段階めの修業に入る」

「だ、第2段階? ……ハァ、ハァ」

 

 膝に両手を突き、中腰の状態で肩を大きく上下させる。時刻は昼を少々回った時間。上手い具合に、現在の重量でも昼前の訓練が終わった所であった。

 

「今日も含めてだが、これからは午前の内に体力トレーニングを終え、残った時間を『念』の訓練に当てる」

「や、やっとか……長かったぜ」

「言っとくけどね、体力作りは並行して行なっていくよ。コンナ程度で十分だなんて思われたらとんでもないからね」

「……そうだろうと思ったよ」

 

 軽く肩を落として返事をするユーマだったが、とは言え体力つくりが無くなるとははじめから思っても居なかったので落ち込みはない。

 

「ユーマ、今日まで訓練の後にも、ちゃんと纏の修行はしてたんだろうね?」

「纏? ……あぁ、あのオーラを纏うって言うのだろ? ちゃんとやってたよ」

「それじゃ、ちょいとやってみな」

「へーい、へい」

 

 ユーマは返事をすると、スッと背筋を伸ばして意識を集中させる。

 すると身体から溢れていたオーラが、全身を覆うようにグルっとその身体を包み込む。

 

「ふむ……まぁまぁだね。まぁ半年間やってきたんだ、一応は合格ってことにしておいてやるよ」

「一応って……」

「第2段階の説明を始める前に言っておくが、これから念の修行を行うときには、絶えず今みたいな纏の状態で受けるようにしな」

「この状態で? ……いや、別に良いけど、結構気疲れするんだよな、コレ」

「その状態を保つのは最低条件だ。一端の念使いなら、眠りながらだって纏の状態を維持するもんだよ」

 

 ユーマは正直、結構難易度高いな――と思っていたが、幻海の状態を見てみるに、自分のオーラの状態と比べてもかなり落ち着いた雰囲気を感じ取ることが出来る。

 少なくとも、自分より遥かに上のレベルに居ることは確かだ。

 そんな幻海からの指示であるのなら、それを拒否する訳にもいかないだろう――と、ユーマは大人しく首を縦に振るのだった。

 

「さて、まずは念の基礎からだね」

 

 幻海はそう前置きをすると、念という能力に関しての基本をユーマに説明していった。

 それは四大行と呼ばれるオーラの運用方法で、纏、錬、絶、発といった4つのことに関してである。

 

「……婆さん、基礎ってことは他にも何かあるのか?」

「応用と呼ばれるオーラ運用の方法があるが、今のお前がそこまで気にする必要はない。先ずは練と、絶を完璧にこなせるように成るんだね」

 

 ユーマの問いに正解だと答えつつも、今は必要無い――と、その疑問を他所へと放る幻海。理不尽だと思うユーマだが、とは言え先ずは指示に従おうと、練……要は、体外にオーラを爆発的に出す技術は必須なのだろうと、子供ながらに納得をした。

 

「先ずは私が軽めに演ってみせるからね、シッカリと見ておくんだよ」

 

 幻海はユーマから離れるように数歩進むと、数回呼吸を整えるように息を吐く。ユーマは幻海の動きを何一つ見逃すまいと意識を集中するが、その最中に

 

「いぃっ!?」

 

 と、思わず驚きの声を漏らした。

 眼の錯覚だろうか? と、何度か瞬きをするも、視界に映る映像には何ら変化はない。いや、正確に言えば、変化したモノがコレでもか――と激しい自己主張を続けている。

 ユーマの視界に捉えている変化とは何か? それは、幻海の見た目、容姿のことであった。

 違う人物になったというのではなく――そう、若返っていくのだ。

 

 目元、口元の皺が消え、薄く白髪の多かった髪の毛が、艶とコシのあるものへと変化していく。肌はツヤとハリ、瑞々しさを取り戻し、瞳には今まで以上の活力が戻ってきている。

 

「ば、婆さん! なんだよソレ!」

「良いから黙ってな。……黙って、良く見るんだ」

 

 声を上げて言うユーマだが、幻海の方は随分と落ち着いた口調で制する。その声は先程とはまた違う、いくらかキーの上がったような高い声音だった。

 

 若返った。

 そうとしか言えないような現象が、ユーマの目の前で起きている。

 

 幻海はユーマを制した後、ゆっくりと肘を軽く曲げ、力を込めるように手を握りこんだ。

 

「ハァッ!」

 

 気合を入れるような声を上げた瞬間、幻海の身体を覆っていたオーラが爆発した。

 

「どわぁ!?」

 

 その圧力に押されて、思わず後方へと吹き飛ばされるユーマだが、直ぐ様に立ち直って幻海のオーラを注視する。

 

「これが……練?」

 

 幻海の身体から吹き上がるオーラ。

 それは空気を震わせ、ビリビリとユーマの肌を叩いてくる。

 

「そうだ、ちゃんと見ていたかいユーマ? 体内に存在するオーラを、精孔から一気に放出する技術だ」

「すげぇ……さっきまでの婆さんの纏も凄かったけど。こうなるともっと凄ぇ!」

 

 本来は目に見えない、触れられない物であるはずのオーラ。それがこうして空気を震わせ、ユーマの身体を刺激してくるのだ。

 

「ふぅ、こんなモンだな」

 

 幻海はそう言うと、徐々にオーラを弱めていって元の纏の状態へと戻していった。

 

「今ので大体、全力の5割といったところか。随分と衰えたもんだよ」

 

 手を握って拳を作ると、幻海は自嘲気味に呟く。

 

「今ので半分? そのうえ弱くなってアレかよ!」

「大きな声を出すんじゃないよ。喧しいね」

「いや、だってさ! ――ってか、なんで婆さん若返ってんの!」

 

 興奮するように声を上げるユーマは、そんな幻海の雰囲気とは違ってハイテンションである。

 

「私の操るオーラ――霊波動と呼んでいるが、それの純度を最高にまで高めると肉体が活性化せれ、一時的に若返る。……私の場合、20歳前後。最も肉体的に充実してた年齢だ」

 

 幻海はその言葉の最中にも徐々に元の姿へと変化していき、言い終える頃には完全に元の姿へと変わってしまった。

 

「あ、戻った」

「オーラを抑えたからね。……それよりも練がどういうものか、コレで解っただろう?」

「え? ……あぁ、まぁ」

 

 どういう物かは見ていて解ったが、ユーマは幻海が若返ったことのインパクトが強すぎて其処ではなく

 

「では、練の修行を始めるぞ」

「うーっす」

「気合を入れんか、このバカタレが!」

「あいてぁっ!!」

 

 生返事を返したユーマの頭に、幻海の鉄拳が炸裂するのだった。

 とはいえ、それは早々簡単に出来る事ではない。

 念の用法に関しては確立されているものも在るのだろうが、そもそも他人の体と自分の体は別物である、また当然、精神だって別物なのだ。

 

 その為、オーラを扱う感覚というのは人それぞれであり、一概に『こんな風にすれば良い』といった説明が出来ないものなのだ。

 感覚的なものであるためアドバイスがし難いのであれば、実演を見せた後に只管試行錯誤をするしか無い。

 

「はぁっ!」

「声を上げるだけじゃ、練は出来ないよ」

「だったら――」

「その奇妙なタコ踊りに、なにか意味があるのかい?」

「変身ポーズ」

「…………はぁ。このタワケが」

 

 流石に初日での完成は無理なようである。

 

 ユーマは幻海の叱咤を受けながら、練の修行を重ねていく。

 とは言え、これらは本当の基礎の基礎。出来なければ話にならない。

 

 練の修行を開始してから一日、二日、三日と経過した頃――

 

「で、出来た?」

 

 ユーマはようやっと練のイメージを掴むことに成功し、オーラを増大させる術を身に付けた。とは言え、それは以前に幻海が見せた練とは比較に成らないほど弱いものだったが、しかしそれでも練であることに変わりはない。

 

 しかしユーマにしてみれば、新しい物事に挑戦して、解りやすい成果が出たのだ。体力が付いて来ることも嬉しいことであったが、今回の事に関してもやはり嬉しいものであった。

 

「婆さん、見てたか! ほら! ほら! 出来るようになったぞ、練!」

「…………」

 

 見せびらかすように何度も何度も練をしてみせるユーマだが、幻海は若干驚いたように目を見開いていた。

 念――これは生命エネルギーを操る方法であるため、身に付けようと思えば誰でもそれが可能である。しかし、それでも才能というものは存在する。

 誰でも出来るが、誰でも同じではないのだ。

 

 単純に纏という技術だけにしてもそうであるし、当然今しがたユーマが身に付けた練にしてもそうである。

 

(練の習得まで3日か。コイツよりも才能の在る奴が居ない訳じゃないが、それでも驚異的な才能には違いはない。……面白いかもしれないね)

 

 幻海は口元を歪ませて、ニヤリと笑みを浮かべる。

 興味深そうに、面白そうに。

 

「練の感覚は掴めたね? それなら今度は、体力の続く限り練を持続させること。ぶっ倒れるまでヤルんだ」

「それって言葉の言い回し的な?」

「言葉通りにぶっ倒れる迄やるんだよ!」

「げぇ!?」

 

 表情を顰めたユーマであったが、文句を言っても無駄なことはこの半年間で理解出来たらしい。即座に構えを取り、言われたままに練を行うユーマ。

 

 幻海はそんなユーマに、楽しげに口元を持ち上げているのであった。

 

 

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