「じゃあ、行ってきます!」
「はい。気を付けてね」
私は急いで学校に行く準備をして家を飛び出した。透き通った青空。今日は福田先生と彼の息子さんと一緒に泳ぎを教える日。私は、先生の自宅へ向かい、そこで合流する手筈だ。
でも、その前に先生にどうしても早く会いたくて、学校へ向かった。まだ時間には余裕があるな。
「おはようございます」
職員室に入ると、先生はすぐに駆け寄ってくる。忙しいんだな。
「真礼、おはよう。随分と早いね。何かあったのかい?」
「はい。実は……」
私は昨日のことを話した。すると、先生は驚いた表情をして言った。
「それは大変だったね。それで、どうだったの?」
「実は昨日、新しい水着を買ってきたんですよ。それで、早く見せたくて……」
私は苦笑いして言う。
「……まぁ、君ならどんなものでも似合いそうだけどね」
「あ、ありがとうございます」
先生の言葉に照れていると、背後から聞きなれた声が聞こえてきた。
「ちょっとあなたたち。朝っぱらからイチャイチャしないでくれる?」
振り返ると、そこには美鈴ちゃんがいた。彼女は腕を組み、呆れた目つきをしていた。
「み、美鈴ちゃん!? どうしてここに?」
「別に。ただ、あんたがまた勝手な行動しないように見張っていただけよ」
「えぇ~」
私が不満を言うと、先生は慌ててフォローしてくれる。
「こら、二人とも喧嘩してはいけないよ。それじゃあ、真礼。また後で」
「はい。失礼します」
私は一礼してから職員室を出た。その後、私はすぐに更衣室に向かった。そして、個室に入って鍵を閉める。
(よしっ)
私は意を決して、先日買ったばかりの水着を着た。背中が大きく開いているため、少し恥ずかしかったけど、気にしている場合ではない。
(大丈夫……だよね?)
鏡を見ながら自分の姿を確認する。
(うん。問題ない。)
これならば、先生も喜んでくれるかもしれない。私は期待を込めて更衣室を出る。それから、先生に会うまで高揚していた。気づけば先生の自宅のすぐ近くまで来ていた。確か、先生の車は白い軽だっけ。
「待たせたな!」
正面の方から福田先生の声が聞こえたのでそちらを見る。すると、停車している白い軽の側に、ジーンズパンツにTシャツ姿の先生が立っていた。先生は落ち着いた笑みを浮かべ、こちらに大きく手を振っている。隣に居るのは、息子さんかな。
「は、初めまして、福田朗希です。よろしくお願いします」
自己紹介した朗希くんは私に軽く頭を下げる。ちゃんと自己紹介できて偉い。私は自然と朗希くんの頭を撫でる。そんな私を先生は微笑ましそうに見ている。
「先生、免許取ったのは大学の冬休みだったな。学生時代は長い休みの期間とかになると、レンタカー借りて、友達と一緒に旅行に行ったり、就職活動で使ったんだ」
私はそんな先生の思い出話をわんぱく坊主を背に聞いている。
「就職してから運転する機会は減ったけどね。今の学校は家から近いし」
落ち着いた笑みでそう話す先生。最近はあまり運転していないようだが、先生の様子を見る限りでは大丈夫そうかな。
「海だー!」
朗希くんが大きな声を上げて興奮していた。私も感激した様子で海を眺めていた白い砂と青い海の明るい景色がゆったり落ち着き払っていた。駐車場で車から降りて少し歩く。
今は夏休みの真っ最中。今日はよく晴れているので、海水浴場には多くの人が遊びに来ている。パッと見た感じ、家族連れやカップル、学生と思われる若年層数人のグループが多い。
私達は人がまばらな端の方を陣取ることにした。ここなら落ち着けるしいい場所だと思う。朗希くんは砂浜の上にカバンや衣類を無造作に投げた。
私は学校で水着に着替えていたので上着を脱ぐだけで済んだが、髪型は整えたかったので更衣室に入った。改めて思ったがまるで男の子だな、私。
青いワンピース型の水着姿の私を見た瞬間、先生は大きく表情を変えた。この水着を選んで良かったと思う。
「あ、あの……どうですか?」
私は思い切って聞いてみた。すると、先生は嬉しそうに微笑んでくれた。
「ああ、とても素敵だよ。よく似合っている」
「本当ですか?」
「もちろんだとも。すごく魅力的だ。この姿を他の男に見せたくないくらいだよ」
「そ、そんなことないって……」
「本当に可愛いよ。だから、もう少し自信を持っていいと思うよ」
「はい……」
先生は私の頭を撫でてくれる。私は幸せすぎて昇天してしまいそうだった。
「あ、ありがとうございます」
私は笑顔を浮かべて歩き出す。お辞儀をしながらもう一度感謝を伝える。
「あ、でも、あまり他の男性には見せない方がいいかもね」
「え? なんで?」
「いや、その、ほら、君は可愛いからさ。そういう格好をしていると、変な連中が寄ってきそうだと思ってね」
「ラノベのラブコメならよくある話ですね」
私の振りに先生はこめかみを押さえる。そんなに!?
「例えば、君のクラスの担任とか」
「あー、確かに」
福田先生は冗談っぽく言っているが、彼の場合は本気で言っていそうである。担任よ、すまん。
「早く行こう」
「分かりました」
私は再度頭を下げて、朗希くんとともにその場を去る。私は彼に泳ぎを教えた。彼は覚えが早かったからか、すぐに泳ぎをマスターし、泳ぐ姿を私に見せては得意げな表情を見せていた。
私は海中でほほえましく眺めていると、蒼ざめた少年が飛び出してきた。それは一瞬私の眼には朗希くんに見えたが、違った。その子がやってきた方向に目を向けると、朗希くんの様子がおかしかった。
(流されてる!)
彼は水中でもがいているけれど沈んでゆくばかり。私は一目散にその方向に泳ぎ始めた。波の抵抗をかいくぐってなんとか彼のもとへたどり着くと、抱きかかえて海岸へ泳ぎ出した。体の言うことが聞かなかったけど、今はそれどころではない。
そこへ屈強な男性と身体が引き締まった女性が泳いできた。二人はライフセーバーのようだ。さっきの少年が呼んだのかもしれない。
「はあ……」
浜辺に着いたとき、彼の意識はあるものの疲労困憊だった。呼吸はあるようなのでひとまず安心したが、彼の体は熱く、全身びっしょりと濡れていた。この様子では体温を奪われてしまうだろう。
「大丈夫ですか!?」
誰かの声だ。振り返ると、そこには先ほど彼を助けたライフセーバーであろう若い女性がいた。彼女は私たちを見て少し驚いた顔をしていたが、すぐに気を取り直して言った。
「クラゲに刺されたみたいね」
そうして彼女は素早く応急処置を済ませると、朗希くんの頬に温かみが戻った。
「……風邪ひいちゃうわ。良ければ私の家に来て。着替えもあるし、温かい風呂にも入れるからさ!」
彼女はもう一人のライフセーバーに言伝を頼み、彼から両手でマルの合図をもらったことを確認してから歩き出す。私たちは彼女についていった。福田先生にもお辞儀をして、先生は頬を掻いていたが、どんな関係なんだろう。
女性の名前は相田紗季さんといった。今は一人暮らしをしており、近くに住んでいるという。
いかがだったでしょうか。