「こっちよ」
部屋に入るなり、朗希くんは浴室に連れて行かれた。彼は服を脱いで浴室に入る。
「ふうー……」
湯船の中に体を温まった彼は冷えた体に温かさが染み渡ったようだ。
「よかった、元気になったみたいね!じゃあお姉さん、ちょっと出かけてくるけどすぐ戻るから待っていて!」
そう言って出ていった紗季さんの言葉通り、それから五分も経たないうちに戻ってきた。手には白いバスタオルや新しいシャツ、ズボンを持っていて、それを彼に渡しながら話しかけている。
「どう?まだ寒い?」
「もう平気です。ありがとうございます」
「いいのよそんなこと……。でもまさかあんな沖まで行くとはねぇ!」
「本当に助かりました。僕一人なら間違いなく死んでいました」
「あはは、大げさだな~」
二人は笑顔で話している。そしてまた紗季さんは話し出した。
「これからは気を付けること。いい」
「はい……」
紗季さんが朗希くんの頭を撫でる。
「でも君が無事で良かった。それじゃ、今日は泊まっていきなさい」
「え、いいんですか?」
「もちろんよ!それに君のことも心配だし、何より私が一緒にいたいし!」
「でも、僕はお父さんと来ているから、勝手には決められません」
その時、さっき助けてくれたライフセーバー、数人の地元に住んでいるであろう高齢者の集団が玄関前に来た。私は廊下の奥のほうに隠れるように耳を傾ける。
「ここの娘と福田先生はこの町きってのインテリゲンチャアじゃのぉ」
「でも相田のオヤジもインテリ娘の片がついてほっとしとるじゃろ」
「福田先生も辛いとこだね。ここに長くおる気はないじゃろうけど、まさか紗季に惚れられるとはねぇ」
彼らの高い笑い声が聞こえる。遠慮している感じじゃない。その時、後からやって来た先生に気づいた紗季さんが駆け寄る。
「今日は遅いし、朗希くんもこんなだし、泊っていきませんか」
先生は少し思案してから、首を縦に振った。紗季さんの表情が心なしか明るくなる。
「……はい!よろしくお願いします!」
彼は勢いよく頭を下げた。私は思わず微笑んだ。その後、朗希くんと一緒にリビングに行くと、テーブルの上には豪華な料理の数々があった。
「おお~!」
「すごいですね」
「ふふん、これくらい朝飯前よ!好きなだけ食べていいわよ!」
私たちの前に並べられたのは和洋中の様々な種類のご馳走。どれもとてもおいしそうだ。
「いただきます!!」
私たち四人は夕食を食べ始めた。食事中、紗季さんの学生生活の話を聞くと、彼女は地元の大学に通っているらしい。勉強はあまり得意ではないが体育が得意らしく、その身体能力を生かしてライフセーバーになっているとのことだ。
「すごいですね」
「そんなことないって」
紗季さんは豪快に笑いながらご飯を食べ続ける。その後も会話は続き、やがて夜が更けてきたところで紗季さんの家のお風呂を借りることになった。
「お先に失礼しました」
「ああ、俺が最後か」
そう言って今度は先生がお風呂へ向かった。私は急いでドライヤーで髪を乾かす。
「ふうー、あったまるなあ」
先生はお風呂に浸かっている。気持ちよさそうだ。しばらくして先生が出てきた。やはりこの人はかなり長身なので、普段着だと体格の良さがよくわかる。
「先生、お風呂はどうだった?」
「最高だよ」
先生は私の長い黒髪に目をつけた。
「ん、綺麗な髪だな。……あ、これ、セクハラか?」
私は思わず赤くなる。
「構わないです。邪魔になるので切ってもいいんですけど、お母さんに似てるから切るのもなんだかなって思って」
「そうか。まあ、俺はこの髪型似合ってると思うぞ。真礼の母親のことは知らないけどさ、きっと喜んでるんじゃないかな」
先生は少し照れくさかったのか、頭を掻きながら言った。
「……はい!」
「よし、じゃあそろそろ寝るか。もう遅いし」
紗季さんは私たちを寝室に案内した。彼女はそこに三人分の布団を敷いてくれた。
「じゃあおやすみ!」
彼女は隣の部屋に入っていった。
「おやすみなさい」
私たちは挨拶をし、それぞれの布団に入った。虫の音が静かに響き渡る。電気を消してしばらくすると、隣から声が聞こえてきた。
「真礼さん、起きてる?」
「なんですか」
私が振り返ると、そこには小声で囁いた紗季さんがいた。
いかがだったでしょうか。