原神オリ主日常もの   作:爆死太郎

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2.酔いどれ騎士

 自立するというのは大切な事である。

 

 現在俺は西風騎士団にほぼ養ってもらっている状態だ。そりゃ雑用係として業務をこなしてはいるものの、これまでは俺なんかいなくても問題なく回っていたのを考えると無用の仕事であることは明白。

 

 つまり、いつまでも甘えてはいられないという事だ。俺は雑用係の業務をこなしつつ、空いた時間を使って次の就職先に向けて行動していた。

 

 次の就職先は既に決まっている。その名も冒険者。その業務は幅広く、ありていに言えば何でも屋である。遺跡などの調査から魔物や盗賊退治、はては探し物を探すのを手伝ったり、事務仕事をしたりと本当に幅広い。

 

 何故冒険者になろうと思ったのかというと、それが俺に一番よく合う職業だと思ったからだ。

 

 実は俺は転生する際にランダムに特典を押し付けられた。その名も『刀を振る才能』だ。バリバリの戦闘向きの特典である。押し付けられたとはいえ、俺にとっては貴重な飯のタネだ。活用しない手はない。

 

 では西風騎士団でもいいのではないかと思われるかもしれないが、モンド人でもないただの居候の俺にとっては入団は狭き門だ。まずアンバーにこれ以上面倒をかける訳にもいかないし、選択肢としては無し寄りの無しになる訳である。

 

 そういう訳で冒険者だ。方針としてはこうだ。冒険者として十分な稼ぎが出るまで、騎士団の雑用と冒険者の二足の草鞋で生きていく。で、冒険者一本で生きていけそうになったら騎士団をお暇して自立する。これが俺の当面の方針であり、目標である。

 

 さて、雑用係が休日の今日。俺は冒険者協会から斡旋された依頼をこなす。

 

 依頼内容はスライムの討伐だ。

 

「…ふう」

 

 はい終わり。スライムが消えていくのを見送って俺はなけなしのお金で買った安物の刀を鞘に納めた。

 

 一瞬で終わってしまった。むしろ移動の方が数十倍も時間を取られたな。

 

 ここは清泉町。モンド城からは徒歩で2時間程。モンド城を出て、後は道なりに進むとたどり着ける小さな町だ。

 

 清泉町のすぐそばには崖があり、そこから流れ込んでくる滝で作られた小さな池が存在する。そこに氷スライムと呼ばれる元素生物が現れ、池を凍らせてくるものだから生態系に影響が出ているらしい。

 

 スライムには小さいスライムと大きいスライムの二つの個体が存在するが、今回はリーダーである氷スライム大、そして氷スライム小が数匹で群れを形成していた。

 

 スライム小の方は何とでもなるが、大の方は結構面倒だった。とはいえ流石は腐っても特典。刀を振るえば氷の装甲をさっくり両断することができ、討伐を完了させることが出来た。

 

 清泉町にいた依頼人に報告し、俺はモンド城へと戻る。途中で襲ってきたヒルチャールも同じように刀で倒して、モンドに辿り着いたのは夕方だった。

 

「…疲れたなー。腹も減ったし…」

 

 俺は疲労がたまった身体を引きずって、良い匂いに釣られて酒場に立ち寄った。

 

 オレンジ色の明かりに包まれた店内は、丁度飯時ということもあって大勢の人で賑わっていた。

 

 席がなさそうだ。…いや、一つだけ椅子が空いている。テーブルには既に座っている人がいるため相席になるが、俺はそういうのは気にしない性質だ。

 

「ああ、お客様。申し訳ありませんが現在満席でして…」

「満席、ですか?あそこの席空いてるように見えるんですが」

「あ、ああ、それはそうですが…もしかして、モンドに来てから日が浅い方ですか?」

「…そうですけど、それがどうかしましたか?」

「いえ…まあ、そういう事ならどうぞ」

 

 何なんだ一体、もったいぶった言い方して。俺は首を傾げながらもその席に移動する。

 

「相席失礼。えっと、メニューメニュー…」

「…どうぞ」

「ああ、どうも」

 

 相席相手に親切にもメニュー表を渡されて、俺は礼を言いつつその中を見てみる。

 

 …うーん、ここはやはり鶏肉のスイートフラワー漬け焼きと、ハッシュドポテトの王道の組み合わせで行こう。

 

「すみませーん、この二つください!」

 

 店員に注文を付けて、数分経過するとすぐに料理がやってきた。

 

 まずスイートフラワー漬け焼き。スイートフラワーとは糖分が高い甘い花で、甘味料としてモンドで親しまれている花の事だ。その甘さは無類で、このスイートフラワーを使用した特性のタレに付け込んだ鶏肉は、柔らかく、甘辛いタレが良く染みて絶品となる。

 

 フォークとナイフで肉を解して口に入れる。うん、うまい。じゅわっと肉汁が染み出して来て、それが甘辛いタレとよく合う。白米が欲しくなるが生憎モンドに白米は普及していない。稲妻と呼ばれる国では白米が普通に食べられるそうだし、いつかは行ってみたいものだ。

 

 という訳で白米の代わりにパンと一緒に食べる。…合うな~!タレと鶏肉の濃ゆい旨味、そしてパンの何にでも合う包容力が味を調えてくれる。

 

 もはやタレだけ付けてもおいしいくらいだ。

 

 次はハッシュドポテト。ケチャップにつけてかぶりつくと、サクサクの衣とみっちり詰まったポテトの旨味が口中に広がりこれもまたうまい。

 

「…貴方、随分と美味しそうに食べるわね」

「むぐっ」

 

 急に話しかけられ、俺は思わず口の中に入っていたものを一気に飲み込んでしまった。

 

「…美味いもんを食ったらそりゃ美味しそうに食べるだろう」

「ふーん」

 

 相席相手がコップを傾ける。中に入っているのはアルコールだ。上品に呑んでいる。

 

「君、旅の人よね。私と相席するなんて、よほどの図太い神経の持ち主か、事情を知らない余所者くらいだもの」

 

 俺はその言葉を聞いて、初めて相席相手に目を向けた。

 

 銀髪の美女がそこにはいた。胸がデカい。彼女は俺にジト目を向けていた。

 

「…申し訳ないけど、貴女は一体?」

「ローレンスの者、と言えば分かるかしら。見ての通りの嫌われ者よ。分かったら次からは私との相席はやめておくことね。…こんな事を説明させるなんて、この恨みは覚えておくから」

「…」

 

 なんか恨まれた。っていうか、今の言い方、凄い既視感があるな。

 

 まあそれは良いとして、ローレンスか。なるほど、それで席が一つ空いているというのに、このテーブルを独占できていた訳だ。

 

 ローレンスの過去の栄光と悪政は、ちょっとモンドの歴史を齧っただけでも大量に出てくる話題の一つだ。

 

 しかし、と俺は彼女の胸元…にある、ネクタイを見た。そこに描かれた模様は西風騎士団の掲げるそれだ。

 

「ちょっと、どこ見てるの」

「あ、悪い。不躾だったな…ただ、その模様は西風騎士団のだろ。俺は今そこで世話になってるんだ」

「…そう言えば少し前に行き倒れた人を保護したって話が出ていたけど、君の事だったのね」

「まさしくそうだ。俺はヤクモ。貴女は?」

「…エウルア。エウルア・ローレンスよ。よろしくはしないわ」

 

 ぷい、と顔を背けられてしまった。

 

「エウルアさんは、どうして騎士団に?」

「復讐の為よ。私はいずれ騎士団を裏切る者。君も私の復讐に巻き込まれたくなかったら、私から離れることをお勧めする」

「…復讐って、穏やかじゃないな。具体的に何に対しての復讐なんだ」

「諸々よ。私は罪人の末裔だもの。復讐する相手は数えきれないほどいるわ」

「…西風騎士団、なんだよな?」

「ええ。西風騎士団所属の遊撃騎士よ。それが何か?」

 

 これが西風騎士団の姿か…?

 

 そして、ここまで来てやっと思い出した。この人は多分アンバーの友達だ。良く話に出てくるのである。曰く、『独特な冗談に慣れたら普通に良い人なんだよ!』とのこと。

 

 つまり今までのはただの冗談で、ひねくった言い回しをしているだけという事なのだろうか?とりあえずアンバーの事を信じてジャブを打ってみるか。

 

「俺は所詮余所者だからな。血がどうこうは気にならない。それに、最初にわざわざメニューを渡してくれたり、エウルアさんって割と親切な人だろ?」

「…何よその言い方。ただの気まぐれにそんなことを言ってくるなんて、この恨み覚えておくから」

 

 ふむ、顔が赤い。照れてる。今のは照れ隠しか。

 

「なるほど。アンバーの言ってた通りの人だな」

「…アンバーが、私の事を?陰口かしら。このことに関してはいつかちゃんと制裁しなければならないわね」

「またまた、アンバーが陰口なんていう訳ないって分かってるくせに」

「わ、分かったような口利かないで!もう、何なのよ、君は!初対面なのにこんな気持ちにさせるなんて、本当にいつか復讐してやるんだから!」

 

 ぷい、と顔を背けて、顎を微かに持ち上げる。分かりやすい人だ。

 

「そうだ、アンバーと言えば、この間酷い目に遭ったんだ。空を無理やり飛ばされて、危うく死にかけた。アンバーっていつもああなのか?」

「…死にかけたって、あの子また何しでかしたのかしら。君も知っての通り、あの子は普段は誰にでも貸しを作るような人よ。でも、たまにちょっと無茶をしでかすの。風の翼関連では特にそうね…もう、困ったものよ」

「恩着せがましいみたいに言うじゃん。でも、アンバーが優しい人だっていうのは知ってるよ。命を助けられたんだからな。日頃も何かと世話をしてもらってるし、あの明るさにも助けられてる」

「ふーん、そう。君もアンバーに借りを作った人のうちの1人ってわけね。あの子の押しの強さは私もいつも味わってるわ」

「でも、何故か憎めないんだよな。あ、このまま一緒に酒を飲んでも?」

「…後悔しても知らないわよ。それから、もし話をするんだったら、君が死にかけたって言うその話をまず聞かせなさい」

「仰せのままに。店員さん、俺にもエールを一つ!」

 

 その後、俺とエウルアさんはアンバー談義に花を咲かせ、遊撃騎士や冒険者について、お互いの普段の仕事について話し、モンドのちょっとした風土や風習について、エウルアさんに講義してもらい、と好き勝手に話を膨らませ続けた。

 

 その間、当然のように酒はどんどんと俺達の胃の中に消えていった。

 

「それで…ちょっと、レディーが話してる時は…ちゃんと目をみなさいよ…」

「悪い…で、何の話だっけ…?」

「むぅ、だから、アンバーの事どれくらい好きなの?教えなさいよ」

「ん~。…いっぱいしゅき…」

「私も~…ふふ、ふふふふ!」

「あはははは!」

 

「…あの、もう店じまいなんですけど…」

 

 その後、俺達は何とか会計を済ませ、外の空気に当たった。

 

「…俺、家まで送りますよ」

「…おねがい…」

 

 俺達は夜の闇に消えていったのだった。

 

 その後、どんな地獄が待ち受けているかも知らずに…。

 

 

 

 

 

 

 朝がやってきた。小鳥がさえずる静謐な空気の中、俺は人生で最大のピンチに陥っていた。

 

「…これは一体どういう事かしら」

「これは違うんです、エウルアさん」

「黙りなさい、この変態」

 

 見慣れない部屋の中。その廊下で、俺は正座していた。そしてそれを見下ろすのは昨日の相席相手、エウルアさんだった。

 

 どうやらここはエウルアさんの家で、そして俺はその家の廊下で眠っていたらしい。エウルアさんにたたき起こされて現在に至るという訳である。

 

 どうしてこうなった。お酒って怖い。

 

「エウルアさん、ちょっとタイム!」

 

 俺はそう宣言して、そそくさとエウルアさんに背を向けて廊下の隅に移動した。

 

 そして自分のズボンを伸ばして股間を見る。

 

「…セーフ!エウルアさん、俺のここは未使用です!」

「なっ、何を変な事を報告しているのかしら!恨むわよ!」

 

 顔を踏まれた。大変美しい素足をそっと退かして、俺はぼんやりする頭の中の記憶を探り始めた。

 

「ちょっと状況を整理しよう。まず、昨日俺はエウルアさんを家に送った」

「…そうね、覚えてるわ」

「で、エウルアさんをベッドに送り届けた後、俺は部屋を出た」

「ええ」

「…そこから先の記憶が無い」

「そこで気を失ったという訳ね…はあ、全くとんでもない事をしてくれたものね。西風騎士団遊撃小隊隊長のこの私に。いつか絶対に復讐するんだから」

「これに関しては、復讐を甘んじて受け入れたいと思います…」

「全くよ!」

 

 エウルアさんはぷんぷんと怒りながら、キッチンへと向かった。そして戻ってくると、俺に水の入ったコップを差しだしてくる。

 

「気を失うくらいお酒を飲んだんでしょう?しょうがないからお世話してあげるわよ。どこか痛い場所はない?」

「…ないです」

「そう。じゃあ朝ご飯作ってあげるから、それ食べたらすぐに出て行きなさい。分かったわね」

「…何から何まですみません。生まれてきてすみません…」

「はあ…このことはしっかり覚えておくからね」

「はい…」

 

 その後エウルアさんが作ってくれたパイは、物凄くおいしかったです。

 

「…君みたいな危険人物がアンバーの近くにいるのは心配ね。これからはたまに復讐…もとい監視しに行くから、覚悟なさい」

「えっ…」

「何か文句でも?」

「…ないです…」

 

 帰り際にそんな宣言をされて、俺は家を追い出された。

 

 …友達が出来たと思ったら、次の日には思いっきり復讐相手になってしまっていました。

 

 はあ。今日も空は青い。

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