原神オリ主日常もの   作:爆死太郎

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3.愉悦な男

「よう、居候じゃないか。今日も随分と仕事に精を出しているな」

 

 今日も今日とて俺は雑用の仕事をこなしている。今は大理石の床をぞうきんで拭いている所だった。

 

 見よ、鏡面と化した大理石の床を。騎士たちが足を滑らせて至極歩きづらそうにしているが構うものか。俺は雑用の魔神となりこの世の全ての床を鏡面にするまで止まらない。ついでにガラスも。

 

 …まあ、冗談はここまでにしておいて、俺は珍しい展開に内心首を傾げていた。

 

 仕事をしていた俺を呼び止め、壁にもたれかかって話をしてきたのは長身の優男だった。

 

 ガイア・アルベリヒ。西風騎士団の騎兵隊長であるこの男は常に温和だ。口調もかなり独特だがノリが良く、口がよく回る為市井からの人気は割と高い。

 

 俺もあまり喋るような関係ではないが、挨拶程度は交わす仲だ。何せ世話になっている西風騎士団の一部隊の隊長を務めているお偉いさんだし立派な人柄だ。腰が低くなるのも当然だろう。

 

 さて、そんな多忙なガイアさんが俺に何の用だ?俺はぞうきんをバケツにかけて立ち上がった。

 

 ガイアさんは俺よりも頭一つか二つ分長身だ。

 

「これはこれは、ガイアさん。俺に話しかけてくるなんて珍しいですね。何か用ですか?」

「いやなに、我らが愛すべき隣人に少し尋ねたいことがあってな。少し雑談に付き合ってくれないか―――ヤマト殿?」

「は、はあ…」

 

 なんだろう、ちょっと雰囲気が変だな。

 

「これは友人から聞いた話なんだが…」

「え?いや、はい。聞きますよ」

「ありがとう。…友人が、少し前に行き倒れの外国人を連れてきた。名前からして恐らく稲妻の人間だが、温和で無害そうな人柄だったから西風騎士団で面倒を見ることにしたんだ」

 

 あれ?それって…。

 

「そしたらどうだ。普段は黙々と仕事をこなす真面目な人間かと思ったら、不意に危険飛行をしたり騎士団内部の女性とワンナイトラブとしゃれこんだりするじゃないか」

 

 俺は気づかぬ間に喉を鳴らしていた。

 

「職務柄かねてより彼の事を怪しく思っていた誰かさんは、彼には何か目的があり、我らが西風騎士団に入り込んで内部工作でもしているんじゃあないかと疑っている訳だ…はてさて、俺は一体どうしたらいいのだろうな?」

「い、いやぁどうかな。俺はちょっとよくわかんないですねあははは!あ、でもその誰かさんには別にそこまで考え込まなくてもいいんじゃないかと伝えておいてくださいそれでは!」

「まあ待て。実はもう一つお前に聞いてほしい話…いや、お願いがあるんだ」

「はい!なんでしょうか!」

 

 拒否権はない―――!俺は背筋を伸ばしてガイアさんからの言葉を待った。

 

「お前は冒険者なんだろう?実は最近、モンド城の近くでヒルチャールの集落が形成され、怪しい動きをしているという情報が入ってきた。ただ最近は人手が足りなくて、ヒルチャール如きに騎士団をぞろぞろと連れて行くのも気が引けてね。そこでどうだろう。最近腕が立つことで噂の冒険者を雇い、何とかしてもらおうかと思ったんだが…」

「是非やらせていただきます!」

「そうかそうか。そういう事なら頼んだぞ。依頼はキャサリン経由で指名させてもらうとしよう。我らが愛すべき隣人の武運を祈っている」

 

 それはもう楽しそうに笑みを浮かべながら、手を振って去っていくガイアさんの後姿を俺は茫然と見送っていた。

 

「…性格が良いというよりも、むしろ良い性格してるって言った方が正確だったな」

 

 俺はため息をついて、次の休日を潰す覚悟をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ヒルチャールの集落は確かに存在した。この件に関しては既に冒険者協会側も把握していたらしく、遅かれ早かれいずれ依頼を出そうとしていたようで、手間が省けて助かったとキャサリンさんが冗談っぽく言っていた。

 

 さて、ヒルチャールと一言で言っても、個体差はある。むしろヒルチャールは人のソレと比べてかなり顕著だ。

 

 まず普通のヒルチャール。子供程度の背丈だがこん棒や盾、弓などで武装してくるため厄介だ。弓の場合は元素力も使って属性の矢を放ってくるため油断はできない。

 

 次にヒルチャール暴徒。大の大人よりも一回りも二回りも大きい筋肉質な身体付き。巨大な盾や、炎や雷の噴き出る斧などで武装する。危険度は当然普通のヒルチャールよりも数倍跳ね上がる。

 

 最後にヒルチャールの王。もはや巨人と形容しても良い程の体躯。全身に雷や岩の装甲を張り、並大抵の攻撃を防いでくる。その上爆撃レベルの範囲攻撃や、大岩を砕くほどの強烈な一撃をかましてくるため、神の目を持った人間くらいにしか対処は出来ない。

 

 今回の集落では、無数のヒルチャールと暴徒が存在するらしい。ヒルチャールは8体程度、暴徒は2体いる。

 

 という訳でさっくり戦闘に入る。俺は音もなく小高い木の上に登って、抜刀の構えを取って跳躍。

 

「雷の呼吸、一ノ型 霹靂一閃…3連」

 

 それはとある漫画に出てくる技。俺には刀を振るう才能が特典として与えられた訳だが、神が与えたものということでその性能はべらぼうに高い。創作物に出てくる技なら割と再現可能なのだ。

 

 俺の足が膨れ上がり、足場にした木の幹を陥没させながら姿を消す。そして瞬く間にその場にいたヒルチャール共を切り伏せていた。それと同時に落雷のような爆音が響き渡る。

 

「…こんなものかな」

 

 地面に着地し、俺は刀を収めた。

 

 いやぁ、少しでも刀の使い方をうまくしたいと思い、思い付きで始めた漫画の技再現計画…こうしてちゃんと実を結べたのは達成感が半端ない。実益と趣味を兼ねたクールな仕事である。これからも継続して再現できそうなものはどんどん取り入れていこう。

 

 さて、依頼は終わったしとっとと帰るか。

 

 踵を返したその時だった。集落の真ん中に炎の渦が立ち上った。

 

「なっ…」

 

 火災旋風。そんな単語を思い起こさせる、炎で出来たつむじ風。

 

 その中にいたのは赤い外套を纏った異形の怪物。アビスの魔術師だった。

 

 アビス教団。それは異形種だけで構成された危険な団体だ。アビスが関われば知能の低いヒルチャール達が統制され軍隊として動き出し、たちまちのうちに危険度が跳ね上がる。

 

 その中でも魔術師は神の目を持たない人間たちの天敵だ。何故って?それは彼らが纏うバリアに理由がある。

 

 彼らは自分の身体をバリアで完全に覆い身を守る。そうなると元素力を使った攻撃でないとまず割る事は出来ない。つまり一方的に攻撃されるという事だ。

 

「…肆ノ型 遠雷!」

 

 試しに高速で踏み込み素早く斬ってみる。だが、当たり前のようにバリアに阻まれ魔術師には届かなかった。

 

「d;ヵげjkjg!」

 

 笑いながら杖を振るうと、炎が揺らめき俺に襲い掛かってくる。

 

「やっぱ無理だよな!くそ、どうしたもんか…!」

 

 地面を蹴って空中で身体を捻り炎を避け、後退する。

 

 逃げられればいいんだろうが、魔術師はワープも使いこなす為逃げ切るのは至難だろう。その上街も近いし森もすぐ傍にある。火災が怖いしここで釘付けにしておくほかないだろう。

 

 腕のいい冒険者か西風騎士が来てくれるまでヘイトを稼いでおく…って、言うは易しってやつだ。

 

 刀を見てみると、炎のバリアに阻まれた所為か若干刃がつぶれていた。鉄の棒としてはまだ殺傷力は残っているだろうが、刀としては死んでしまったようなものだ。

 

「高かったのに…!」

 

 涙目になる。安物とはいえ俺にとっては覚悟をするレベルの買い物だったのだ。それをこんな無残な姿にされて黙っていられると思うか。

 

 …思い付きだが、一つやってみるか。俺は身に着けていたバックパックから水筒を取り出して駆け出した。

 

「dl;kklgl;!?」

 

 炎による攻撃が来るが、それらすべてを掻い潜り、奴に肉薄する。俺は水筒をバリアの付近に投げて、そして刃が無事な部分で水筒を両断した。水がバリアに掛かり水蒸気が爆発する。

 

「水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き!」

「ギャアアア!?」

 

 最速の突きを放つ。刀はバリアを通過して、アビスの魔術師の肩に突き刺さっていた。

 

 仕留め損ねた。もう無理だ。俺はすぐに刀を引いて後ろに引いた。すると我武者羅に放たれた炎の渦が魔術師を守る様に立ち昇る。

 

 怒らせただけかー。でもヘイトは買えたし、後は延焼しなさそうな所を逃げ回るだけだ。

 

「―――なるほどな。お前のことはよく分かったよ」

 

 肩を抑えながら怒りに震え、杖を振ろうとしたアビスの魔術師が、氷山に包まれてその姿を消した。

 

 背後から声がかかる。俺は振り返って、目を丸くした。

 

「が、ガイアさん!?」

「よう。奇遇だな。気持ちのいい天気だ、こういう日は軽快に挨拶を交わして仲を深めたいところだが…その前に雑務を終わらせるとしよう」

 

 氷の山が吹き飛び、中からふらふらとアビスの魔術師が出てきた。どうやら元素を使い過ぎたようで、疲労困憊らしい。バリアももう薄い。

 

「lkl…!」

「随分と元気じゃないか、何か良い事でもあったのか?まあそんなことはどうでもいい。凍り付け!」

 

 ガイアさんが放った氷の閃光が、弱弱しく放たれた炎とぶつかる。炎は一瞬で氷に飲み込まれ、アビスの魔術師は今度こそ氷の彫像となって砕けて消えていった。

 

 た、助かった。いや、助かったんだけど…なんかおかしくないか、これ。

 

 図ったかのように出てきたガイアさんに不信感が募る。そもそもこの依頼はガイアさんから出されたものだ。そしてそのガイアさんは俺の事を疑いまくっていた。

 

 つまりこれは、俺の事をはかるための仕掛けだったってことか?

 

 俺は思わずガイアさんにジト目を向けてしまった。ガイアさんと目が合う。彼はニヤッと笑った。

 

「ふっ…これで一件落着。帰るとしよう」

「待てやコラ」

「ははは、そう怒るな。そうだ、帰ったら一杯やろう。お前とは仲良くやれそうだからな。今日は奢るぞ、ヤマト君?」

「…遠慮しませんからね?」

 

 俺は刀を鞘に納めて、怒りを押し込んでそう返した。

 

 モンド城に帰ると、ガイアさんは自分の家に引っ込んで刀を一本持ってきた。

 

「これは俺のコレクションの一つ。チ虎魚の刀という、璃月で作られた刀だ。今日は悪かったな。これをやるから許してくれ」

 

 という言葉と共に押し付けられてしまった。

 

 …誠実なんだかそうじゃないんだか。とにかく俺はそれを黙って受け取ったのだった。

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