仮面ライダーW 追われるS   作:日吉舞

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謎の同業者 -10-

 銃声というよりは、破壊音か衝撃音と言ったほうが相応しいだろうか。辺りの空間をとてつもなく重い鈍器で殴りつけ、激しく揺さぶった音は、それほどにまで大きかった。

 

「お……のれ、何者だ!」

 

 軽く数メートルはあらぬ方へと吹っ飛ばされたプライドが、呻きながら立ち上がろうとする。

 あの発砲音の大きさだと、かなり大型の銃器で弾丸を撃ち込まれたのは確実だ。それが命中したのに、まだ起き上がろうとするプライドの頑丈さとしぶとさは、今まで仮面ライダーたちが倒してきたドーパントの中でもトップクラスだろう。

 そこへ再び射撃音が響き、プライドの上半身から大きな火花が迸った。

 

「ぐわあっ!」

 

 立ち上がったところにまた鉛弾を叩き込まれ、灰色のドーパントは仰け反りながら更に後ろへもんどりうった。

 土中に全身の八割が没していた仮面ライダーたちが、地面の硬度が戻ってきたことに気づいたのはその時である。手足の動きを止めても、それ以上は身体が沈まなくなっていたのだ。

 

「翔太郎、今のうちにハードタービュラーを呼ぶんだ!」

 

 Wの中でフィリップが叫ぶ。

 彼の呼びかけに呼応して、付近に潜んでいたスタッグフォンが飛来してきた。今度は自然な硬さを取り戻しつつある地面に腕をがっちりと捕捉されそうになっていたが、力づくで右腕を引き抜き小さく旋回するガジェットを掴み取る。

 

 上空で待機しているハードタービュラーを呼び寄せるコードを素早く打ち込むと、数秒もしないうちに聞き慣れたエンジン音が接近してくるのがわかった。滑空してくる機体を確認したWがメタルシャフトを突き出し、ハードタービュラー本体へ鞭と化した武器を勢いよく巻きつかせる。

 

 速度を落とさずに飛翔するハードタービュラーは、命綱を絡ませた主人の身体をいともたやすく土中から空中へと引き抜いた。

 

「照井、つかまれ!」

 

 そしてハードタービュラーから吊り下げられた状態で、Wはアクセルも救出するつもりだった。

 仲間である翔太郎の叫びに、まだ地面から抜け出せないでいたアクセルが手を伸ばす。猛スピードで飛び続けるマシンに揺られる不安定な態勢でいながらも、その紅く輝く腕をしっかりと掴み上げたのは、長きに渡って共に戦い続けてきた男同士ならではの呼吸と言えるだろう。

 

 勿論、変身し超人となった身は決して軽いとは言えず、二人分の体重を支えねばならないWの負担は大きい。普通の人間であれば腕が抜けるほどの衝撃と重量に襲われながらも、何とかプライドの能力の影響がないであろう地表までの距離を堪える。

 彼等がマシンの慣性に負け、プライドの遥か後方へ引きずられるようにしか着地できなかったのは、無様だと責めらねばならないものではない。

 

「いっててて……カッコ悪ぃ」

 

 ところが、決めるべきところを決められないのはハードボイルドの流儀に反すると考える翔太郎は、無意識のうちにぼやいていた。メタルシャフトを元の棍状に戻して立ち上がると、同じようにアクセルも立ち上がったところだった。彼は小さな呻きは漏らしていても、特にきまりが悪そうな様子はない。

 

「無事か?照井竜」

 

 歩み寄るWの中からフィリップが声をかけると、アクセルが頷いて見せる。

 

「ああ。しかし、さっきの銃声は……」

 

 そこへ、また先と全く同じ銃撃音が轟いた。

 刑事である照井も銃を持っているが、警察に籍を置く者が携帯を許されている拳銃とは、音の質も大きさも桁違いだ。空そのものを突き破るような衝撃音は、少し離れた場所からであれば雷鳴と聞き間違いかねないほどである。

 

「おい、あれは……」

 

 いつも冷静な態度を崩さないアクセルが、珍しく驚きを隠さずに言葉を途切れさせた。

 尋常でない仲間の様子に、Wも同じ方向へ視線を向ける。

 そこには足元を狙われたらしいプライドが体勢を立て直す姿と、その数十メートル先にぽつんと黒い人影があるのが判別できた。よく見るとその人影は、小柄な者の身の丈ほどもあるアサルトライフルを抱えているように見える。

 

 それだけではない。

 かの姿は、Wやアクセルと同じく異形であった。

 肌が出ている場所はどこにもなく、全身が黒に近い蒼の鈍い輝きに包まれた、鎧のようにも見える立ち姿。頭からは細い角が後方へ四本突き出しており、一見したところは精巧に作られた人型ロボットのようにも見える。しかし油断なく構えている姿勢にはどことなく人間臭さが滲んでおり、全てが人工のヒューマノイドが動いているとは思えなかった。

 

 そこから思い浮かんだことはアクセルもWも同じであったが、驚愕を抑えられず口に出したのはWであった。

 

「まさか……俺たち以外にも、まだ仮面ライダーがいたってのか?」

 

 翔太郎が発した呟きが届いているのか、仮面ライダーたちの視線の遥か先に立つ鎧姿が顔を向けてくる。

 身体と同じ金属の造形に包まれた顔には何の表情も浮かべていないが、敵意や殺気は感じられない。それどころか、プライドに向けて構えていた巨大なアサルトライフルの銃口を下ろして頷いてさえいる。後は任せるから今のうちに攻撃しろと、促しているようにも見えるのだ。

 

 考えてみれば、あの正体不明の誰かがプライドに発砲して脱出するための隙を作ってくれたのだ。今の段階では、少なくとも敵ではないだろう。

 

「今は奴の正体よりも、プライドを倒す方が先決だ」

「……そうだな」

 

 あの蒼い鎧姿についてあれこれ詮索するのは、後でいい。フィリップの言葉に、翔太郎は我に返っていた。

 改めてWがプライドに向き直る。プライドは高い防御力を誇る厄介な相手だが、あの巨大な銃器の弾丸を複数喰らって、それが効いているのだろう。明らかに浮き足立っているのは、二方向に気を配る余裕がない証拠だ。

 とは言え、下手に接近してまた地面を底なし沼にされるのも厄介である。それにあの硬い身体へ確実に攻撃を叩き込むなら、物理攻撃では埒があかない。そうなると、取るべき手段は自然と限定された。

 

「奴の硬い外皮を通して直接ダメージを与えるには、実体を持たないもので攻撃するのが一番有効だろう」

「奇遇だな。実は俺も、そう思ってたところだ」

 

 離れた場所から、決定打となるメモリブレイクを喰らわせるためのベストフォーム。

 意見を一致させたフィリップと翔太郎は、新たなメモリを掲げてスイッチを弾いていた。

 

「TRIGGER(トリガー)!」

 

 青色に光ったメモリがWのドライバーに吸い込まれると、左半身がメタルからトリガーフォームに換装され、右胸にトリガーマグナムがセットされる。他の武器に比べて小さくとも強力な飛び道具である銃のグリップを掴み、Wはドライバーから抜き取った青いメモリをトリガーマグナムのスロットに装填した。

 

「TRIGGER MAXIMUM DRIVE(トリガー・マキシマム・ドライブ)!」

 

 マキシマムスロットからトリガーマグナムへとメモリの力が注ぎ込まれ、マキシマムドライブが発動した証であるガイアウィスパーが響く。

 ガイアメモリを砕くことができる、仮面ライダーにとっては最も強力であり、ドーパントにとっては最も忌むべき攻撃。

 即ち、メモリブレイクである。

 

 技を喰らったことはなくても、ガイアメモリの力が凝縮されたトリガーマグナムの銃口を見れば、ドーパントの神経を嫌でも刺激してくるのだろう。先に物理攻撃を受けていたせいもあってか、プライドは逃げようにも身体が萎縮して動くことを許してくれないようだった。

 

「トリガー・フル・バースト!」

 

 翔太郎とフィリップの雄叫びとともに、幾つもの輝ける光の弾がトリガーマグナムから撃ち出された。青と黄色、二つの色を帯びた実体を持たない弾丸が交差し、やっとのことで逃げ出そうとしているプライドに恐ろしい正確さで迫る。いくらドーパントが動こうとも、光弾は獲物の後をどこまでも追っていくのだ。悪に無慈悲なトリガーマグナムは、敵に潰走を許さない。

 Wが放った必殺の弾丸は、全てがプライドの身体に引きつけられるかのように命中した。

 

 プライド・ドーパントの、心をメモリの毒に汚染された永峰が断末魔の凄まじい絶叫を迸らせる。が、それも地球の力を集約するガイアエネルギーが引き起こした爆発にすぐさまかき消され、絶命はごく短く響くに終わった。

 辺り構わず炎が逆巻いて破壊音が叩きつけられる中、弾かれたプライドのガイアメモリが宙へと浮き上がり、甲高い音を立てて砕け散る。

 永峰の身体から力の源だったガイアメモリだけが排出され、破壊されたのだ。

 

 今まで張り詰めていた気力が一気に失われたせいだろう。爆音の余韻の向こうで、未来に襲いかかる直前の姿に戻った永峰が崩れるように倒れた。

 敵が力を失ったことを見届けて、ようやくWとアクセルが力を抜く。

 普段の戦いであれば早々に変身を解除するところであったが、今はまだそうはいかない。彼等は最早立つこともままならない永峰から、自分たちの背後へと視線を走らせた。

 

 二人の目が向く先には、先と変わらず黒っぽい鎧姿が佇んでいる。しかし一旦は下げられていた巨大アサルトライフルの銃口が、再び構えられていた。

 敵はもう戦力を喪失したはずなのに、と同じことを考えに上らせたWとアクセルが、黒光りする銃口が狙いを定めている方向へ視点をずらす。

 

 そこに、予想もしなかった光景があった。

 永峰がうつ伏している地面の手前で、明らかに人間の姿とはかけ離れた外見を持つ者が立っている。メモリブレイク時の爆発跡で黒くなった地を踏みしめているそれは、紛れもなく別のドーパントであった。

 

「お前は、ラスト……!」

「何?」

 

 僅かに顔を上げて新たなドーパントの姿を見た永峰が呟いたのを、Wとアクセルは聞き逃さない。

 暗い紫色で歪に曲がった手足、全身に突き出た棘という外見を持つドーパント。永峰が口にした「ラスト」は、七つの大罪で色欲を示す名だ。自分が作ったメモリのドーパントだからこ、永峰も正体がわかったのだろう。

 だがラスト・ドーパントは、起き上がれない永峰にとどめを刺す訳でも、仮面ライダーたちに向かってくる訳でもない。それどころか、悠然とその場にいる一同に背を向けた。

 

「おい待て!」

 

 去りかけるラストを追おうと、アクセルがエンジンブレードを翳して走り出す。

 その緊迫した声に、ラストが振り返った。振り向きざまに片腕を鋭く払うと、不気味な色をした腕一面に生えた棘が一斉に爆ぜる。

 

 空気を切り裂いて四方八方に飛ぶ硬質の棘が全て、同じタイミングで破裂した。ごく小さな手榴弾が爆発したのと同じように、無数に割れた棘の欠片がアクセルとWに突き刺さろうとする。

 

「うおっ!」

 

 鋭い金属片にも似た欠片の嵐に巻き込まれた二人が咄嗟に身を引き、防御態勢を取る。数秒の後に彼等が顔を上げた時には、ラストの姿は視界から忽然と消えてしまっていた。

 

「……くそっ、もう新手のドーパントが現れたというのか」

 

 ようやくプライドを倒したと思ったのも束の間、早くも「七つの大罪」メモリが産み出したドーパントが現れた事実に、アクセルが苦々しげな口調を隠さずに吐き捨てた。

 

「しかし……ラストは一体、何のためにここに現れたんだろう」

 

 Wの内でフィリップが疑問を口にしたが、翔太郎は既に歩き出していた。さほど急がない歩調で、アサルトライフルをもう一度下ろした鎧姿に近寄っていく。それに気づいたのか、まだ誰なのかがわからない相手もWの方へ向き直った。

 

 側まで来てみてわかったことだが、この深い蒼の鎧を纏った者はWやアクセルより一回りは小柄で、すらりとしたフォルムのロボットを目の前にしているかのような印象を与えてくる。そのため、先から撃ち続けられているアサルトライフルが余計に不釣り合いな大きさだと思えるほどだ。

 が、態度は堂々としたもので、Wの後ろからアクセルが更に走ってきても、全く動こうとする素振りを見せない。やはりこの者が敵だとは、翔太郎にはとても思えなかった。

 

「あんたも、仮面ライダーなのか?」

 

 アクセルの到着を待たず、翔太郎が掠れた声を投げかける。

 すると僅かな沈黙を挟み、マイクを通したような雑音を微かに含んだ声が、四本角のヘルメットから発せられた。

 

「仮面ライダーねえ……生憎だけど、そんないいもんじゃないよ」

 

 肩をすくめてかぶりを振るしぐさの自然さと人間っぽさが、人工物の極みたる外見の対極に現れて一際強調される。

 アクセルとWの動きがぴたりと止まった。無機質なロボットのような身体から聞こえた紛れもない人間の女性の音声は、確かに二人が聞いたことがあるものだったのだ。

 

 鈍く輝く鎧に覆われた両手がゆっくりとヘルメットに被さり、バイザーらしき部分を開け、硬質な頭の守りを解いていく。全身鎧から顔全体の装甲が解除されてヘルメットが脇に抱えられると同時に、長い髪がばさりと宙を舞って金属製の肩に落ちた。

 

「あ……」

 

 頭の武装を解除した人物の顔を見て何か言おうとしたWであったが、驚きのあまり言葉がうまく出てこない。

 

「私は道具だよ。人を殺すためのね」

 

 ヒーローたちの驚きと戸惑いの視線をよそに、顔を晒した人物は目を伏せて呟いた。

 ロボットの如き鎧を纏い、巨大なアサルトライフルを操っていた謎の人物。

 それは、つい先刻までドーパントに追われていたはずの未来であった。

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