仮面ライダーW 追われるS   作:日吉舞

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絆というカタチ -8-

 廊下の中央を飛んでいたバットショットは何かに撃ち落とされたようだったが、大概の銃弾であれば装甲で弾き返せる自信があるのだろう。未来は走る速度を緩めずに曲がり角の向こうへと躍り出て、デザートイーグルを構えた。

 暗視スコープを通した視界にはっきりと、バットショットよりも小さな形が空を切って飛び去っていく姿が捉えられる。

 

「逃がすか!」

 

 不敵に呟いた彼女は一瞬で狙いを定め、デザートイーグルのトリガーを引き絞った。閉鎖空間にくぐもった発射音が響き、廊下の奥で何かが爆ぜたような破壊音が被さる。五十口径という大型火器の銃口から発せられたマズルフラッシュで暗闇が瞬間的に照らし出され、未来の背後にいた翔太郎の瞳にも、廊下の奥で壁に叩きつけられた小さな使い魔の姿が影となって焼きつけられていた。

 

「何あれ……鳥型のロボットみたいだけど」

 

 その場から構えたまま動かない未来が、驚きを乗せて呟く。何が潜んでいるかまだわからないため踏み込めないと判断し、優れた視力を駆使して撃ち落した敵の残骸を確認したのであろう。

 

 翔太郎も、落ちたバットショットを手元に呼び戻すことに成功していた。幸いなことにバットショットは一時的に稼動しなくなっていただけのようで、機能そのものには特に問題が生じていないらしい。撃ち落される直前の映像はスタッグフォンに転送こそされていなかったものの、直接本体の小さなモニターで再生することができるようだった。

 が、そこに残されていた映像は、今しがた未来が破壊したと見えるハチドリ型のガジェットが正面に捉えられた直後、前につんのめるような衝撃を受けて床に叩き落される様子であった。

 

 どう見ても、前方のハチドリガジェットには攻撃を仕掛けてくる予備動作があったと思えない。別のガジェットに後方から撃ち落されたとしか考えられない落ち方だったのである。

 

「メモリガジェットだ。しかし、こいつを落としたのはあの鳥のガジェットじゃない。他の種類もいるようだな」

 

 翔太郎の声がにわかに硬くなる。思ったよりも多くの敵がこの暗い廊下の要所に潜んでいることに気づかされたのだ。

 

「そんなの、全部ぶっ壊せばいいんでしょ。任せといて」

「気をつけろ。もう囲まれてるかも知れねえぞ」

「大丈夫だよ。戦闘用サイボーグの本領、見せてあげる!」

 

 翔太郎の警告に力強い頷きで応えた未来は、パワードスーツの黒い膝を緩めて足の筋肉に発条(ばね)を貯めた。踵を軽く上げて腰を落とし、聴覚に意識を集中させる。

 

 機械的な雑音が聴覚をほんの僅かにくすぐり、細かく張り巡らせた感覚の網に次々と捉えられていく。彼女は脳に送り込まれた音のイメージをバイザーに仕込まれたカメラから展開される視界と照らし合わせ、おおよその距離と数を割り出した。

 廊下の突き当たりまでが四十メートル弱だとすると、その間の床に近い位置におよそ十、壁に十五、空中に三といったところだろうか。短い距離に多数の小さな敵が潜んでいるこの状況だと、拳銃を使うのは非効率的だと言って良かった。

 

 未来は右手をジュラルミン製のバックパック側面に手を伸ばし、取り付けてあったアサルトライフルを掴み上げると、左手で腰に下がっていた鞘から大型コンバットナイフを抜き放った。

 その様子を見ていた翔太郎は、刃渡り二十センチに満たないナイフで何体いるかもわからない敵に挑むつもりなのかと声を上げそうになったが、彼女はナイフを振り回して突っ込むような愚かな真似はしでかさなかった。取り外したアサルトライフルの先端にナイフを手早く取り付けると、銃身そのものを両手で斜めに握り、槍のように構えたのである。

 銃剣、つまりバヨネットであった。

 

 火器の威力が目覚ましく増強され、遠距離の火力戦が主とされる近代において衰退の一途を辿るとされる銃剣ではあるが、兵士の最低限の武装として今も軍隊で採用され続けている武器だ。そして、どんな状況でも戦力であり続けることを要求される戦闘用サイボーグの未来とて、それは例外ではない。特に一般的な男性兵士よりもリーチが劣る彼女にとって、火器が使用不可能になった場合の近接戦においては最も頼れる武装であった。

 

 前方を睨んでいた未来の爪先がゆっくりと床を摺り、じゃりっと音を立てる。それを合図として、飛び込むタイミングを計っていた彼女は力を込めて床を蹴った。

 その途端、デンデンセンサーで戦況を見守っていた翔太郎の目に、瓦礫やドアの陰から無数の敵が真っ暗な空中へと飛び出してくる様子が映った。

 

 大きさにしてバットショットと同じくらいあるそれらは、世界一獰猛で猛毒を持つとされるスズメバチを巨大化させたメモリガジェットであることが一目でわかる。しかし未来は目の前で群れを成して飛び、大顎をカチカチと鳴らす警告音に怯むことなくバヨネットを翳す。

 スズメバチガジェットが攻撃態勢に移る暇を与えず、未来の鋭い攻撃が閃光となって闇を切り裂いた。振り下ろされた直線の軌道上にあった二体が、ぎらつく刃をまともに受けて叩き落される。耳障りな金属音を立てて朽ちた床に衝突したガジェットは、内部の電子部品から小さな光を迸らせて粉砕された。

 

 その間にも未来のバヨネットは弧を描き続け、不吉に輝く刃を敵に浴びせている。払い、薙ぎ、斬り上げられるアサルトライフルの先端は、恐ろしいほど正確にメモリガジェットの中心部を狙い、ほぼ一撃で心臓部であるギジメモリを叩き壊していた。

 無論、スズメバチガジェットの反撃も凄まじい。数にものを言わせた包囲網を形成してから胴の先端にある鋭い針を撃ち出し、頑丈な顎をかっと開いて喰らいつこうとする。多少やられたからと言っても、数の優位性があることは変わりなかったのだ。

 

 しかしそれも、あくまで生身の生物が相手になった話である。チタン合金の装甲服に守られた未来に彼らの攻撃は全く通じず、怒り狂って突進してきたところに無慈悲な一撃を喰らわされる一方だった。最初は怯まざるをえないほどの大群に見えたスズメバチガジェットは、瞬く間に数匹にまで減っている。

 

「すげ……流石だって言うところなのか」

 

 本領を発揮すると言ってのけた未来の鮮やかな戦いぶりを目にした翔太郎が、素直な感心を言葉に出した。彼女の戦い方は、ほぼ我流一筋で戦い続けてきたWや、警察という組織で鍛えられたアクセルともまた違う。身に纏うパワードスーツの性能を最大限に活かし、動きに隙と無駄がなく効率性を極めた、言わばプロフェッショナルの動きと評するべきであろう。相手を確実に追い詰めて確実に息の根を止める冷酷さが、弱点を見いだせば遠慮なく攻撃する迷いのなさにも表れている。

 

 そしてそれこそが、戦闘用として作られた彼女に今まで要求されてきた能力だ。

 正義のためではなく、誰かが「敵」と見なした者を滅するのに必要だったのだ。

 これではフィリップが言った通り、未来は本当に眉一つ動かさず山波を手にかけるかも知れない--

 と、翔太郎が一抹の不安を胸中によぎらせた時である。にわかに、未来のもどかしげな叫びが上がった。

 

「何これ、一体何匹いるってんだよ。これじゃ、いつまでたっても進めやしないじゃない!」

 

 半熟探偵の青年が思いを巡らせたのはほんの十数秒だったはずだった。にもかかわらず、状況は一変していたのだ。

 未来が両手に構えるバヨネットは、線を描いて空間を斬る動きから移動する点を素早く突く動きに変わっていた。彼女が的確な突きでスズメバチガジェットを矢継ぎ早に破壊しているのにもかかわらず、一向に数が減っていないように見える。

 

 どうやらこの狭い廊下には、二人が思っていたよりも遥かに多くの敵が潜んでいることに間違いないようだった。破壊されたらその分だけのガジェットが稼働を始め、攻撃してくる仕組みになっているらしい。

 

「未来、足元を見ろ!」

 

 再びデンデンセンサーを通して廊下全体を確認した翔太郎が怒鳴った。

 既に何体目になるかもわからないスズメバチガジェットの残骸が落下するのを尻目に、未来が視線を走らせる。すると、手前に積み上がっている瓦礫の陰から幾つもの小型機械が這い出てきているのがわかった。蠍をかたどったメモリガジェットだ。

 

 デンデンセンサーの視界でも不気味に輝いている人工の甲殻類は、ざわざわと小さな足音を立てて一斉に未来の方へと迫っていっている。

 

「そのまま待ってろ!俺も……」

「だめ!巻き込むかも知れないから、翔太郎は隠れて絶対にこっちに出てこないで!」

 

 新たな敵の出現にたまらず走り出ようとした翔太郎に、未来が鋭い制止の声を飛ばす。

 驚いた翔太郎が足を止めたのと同じタイミングで、彼女はバヨネット大きく横に払いながら駆け出した。ここぞとばかりに取りつこうとしてくるスズメバチガジェットの群れを突っ切り、発射されてくる無数の針を装甲で跳ね返しながら、蒼い鎧姿が奥へと疾走する。必死の猛攻をものともしない女の後ろに群がる陣形となった敵は、当然ながら勢い込んで殺到した。

 

 廊下の突き当たりに達してから足を止めて振り返った未来が空中と床に濃くひしめく敵をざっと確認し、背中のバックパックに右手を伸ばす。彼女はバックパックの底から手の中に落ちてきたものを握りしめ、すかさず丸いピンを抜き放って投げつけた。

 

「これでも喰らえ!」

 

 不敵な呟きとともに投擲された黒いそれはコンクリートがむき出しの床や壁に当たり、固い金属音を響かせながら敵の群れの真ん中に転がっていく。

 

「うおっ!」

 

 それが何であるかを確認した翔太郎が慌てて身を引き、廊下の影へ飛びすさった。

 直後、耳をつん裂くほどの破裂音がぼろぼろの廊下に炸裂する。瞬間的に発生した爆風は、爆発をもろに喰らい破壊されたガジェットの残骸と、粉砕された瓦礫とを激しく壁や天井に叩きつけた。

 彼女が投げたのは、これも各国の歩兵たちが標準的に装備する爆弾である手榴弾だったのだ。

 

「そら、もう一発!」

 

 爆発に伴う砂煙がもうもうと舞い視界を濁らせている間に、未来は更に同じことを繰り返す。

 辛くも物陰で最初の爆発を凌いだガジェットたちも、再び敵を襲うために飛び出したところに放たれた二撃目まではかわせない。

 

 絶妙のタイミングで転がされた手榴弾が、敵の群れのほぼ真ん中で爆ぜる。今一度派手な爆発音が響き、大小の金属片が放射状に撒き散らされた。恐るべき殺傷力を持つ不規則な礫をまともに浴びたメモリガジェットが、何体もまとめて吹き飛ばされる。

 

「あいつ、メチャクチャやりやがって。亜樹子より荒っぽいじゃねえか!」

 

 建物が僅かに振動し壁材が降った気さえして、翔太郎が悪態をつく。未来が絶対に出てくるなと言った理由はこれだったのだ。自分たちさえ無事なら建物はどうでもいいと話していたのが本気だったことを、今更ながら思い知らされる。

 

「おい未来、お前……」

 

 爆風が巻き上げた砂煙が一通りおさまったのを見計らい、彼は廊下へと進み出た。手荒なやり方に対し、流石に一言ぐらいは文句を言う権利があるはずなのだ。

 

「今来ちゃだめ!隠れてて!」

 

 ところが、通路の奥でまだ構えを崩していない未来から返ってきたのは、威圧感のある警告であった。彼女の迫力に圧され、翔太郎が反射的に周囲に視線を巡らせる。

 今度はアサルトライフルを構えている鎧姿の手前に見えたのは、蠍ガジェットが尾を持ち上げて何体も床や壁に張りついている光景であった。実験室の中に、スズメバチガジェットより遥かに大量に潜んでいたのだ。

 

 その蠍ガジェットたちの目に当たる部分が一斉に青白く輝き、廊下が不吉なイルミネーションに彩られる。瞬間、幾つもの閃光が壁や床に溢れ、連なった凄まじい爆発音が狭く暗い閉鎖空間に轟いた。

 

「きゃあっ!」

「未来!」

 

 咄嗟に廊下の陰に飛び込んでいた翔太郎の耳へ、破壊に巻き込まれた未来の悲鳴が紛れ込む。

 

「くそっ、あいつらは爆弾だったのか!」

 

 彼は鋭く折れた手前の廊下から奥の様子を窺おうとしたが、まだ続いている爆発のせいで早くも天井に大きな亀裂が走り、コンクリート片がばらばらと落ちてきている。

 未来と翔太郎の間で自爆した蠍ガジェットには、先に未来が投げ込んだ手榴弾で動かなくなったものも含まれているようだった。機能自体は停止しても爆弾としての機能がそのまま残っており、別の個体の自爆に誘爆された格好となったのである。

 その全体の威力たるや、手榴弾の比ではない。

 

 爆発から最も近くにある柱が折れ、天井が崩落する轟音が響いてくる。頑丈なはずの厚いコンクリートが砕け、欠片と言うには大きすぎる塊が廊下へ次々と落下してくるのがわかった。

 間断なく振り続ける壁材の雨と砂埃に耐えかねた翔太郎は、やむを得ず階段の方へと後退した。と同時に、一際大きな破壊音が轟いた。遂に崩れた付近の天井が、そっくり崩れ落ちたのだ。

 

「うおっ!」

 

 叫び声を上げた翔太郎が身を縮め、腕で頭を庇う。鼓膜を震わせ続ける崩落の重低音が治まるまで、彼はその場を動かずにいた。未来に加えて自分までがこの惨事に巻き込まれては、元も子もないのだ。

 やがて空気が動かなくなり、崩壊が止まったことを確認すると、彼はすぐに立ち上がって廊下の曲がり角の先へと走った。

 

 デンデンセンサー越しに翔太郎の前に広がった光景は、まるで爆撃を受けた塹壕さながらだった。

 壁には手榴弾の撒き散らした黒い金属片が食い込み、煤けた床には壊れたメモリガジェットのパーツが散乱し、天井には大穴が開いて地上階のインテリアが一部見える状態になっている。そして何より、廊下は天井や壁がめちゃくちゃに壊れた大小の瓦礫で完全に塞がれてしまっていた。

 予想を上回る惨状に翔太郎の思考が一瞬止まりかけたが、彼は慌てて自分を鞭打って我を取り戻すと、瓦礫の手前で呼びかけた。

 

「おい、未来!生きてるんなら返事しろ!」

 

 狼狽した声が、目の前に積み上がっているコンクリート片の隙間に吸い込まれていく。

 堅固な鎧に守られた未来がそう簡単に死ぬはずがないと頭では理解していたものの、彼女はこれほどの衝撃を間近で受けたのだ。最悪、深刻な傷を負っているかもしれない。

 が、半熟青年の不吉な予想はポケットで震えるスタッグフォンの着信にかき消されることとなった。暗い中で番号を確認することもなく受話ボタンを押し、急いで本体を耳に押し当てる。

 

『翔太郎、大丈夫?』

「無事だったか。焦ったぜ」

 

 すぐさまこちらを心配する未来の落ち着いた声が聞こえてきたことに、翔太郎は胸を撫で下ろした。

 

『アホ。私がこの程度でくたばるわけないでしょうが!ちょっと埋まっちゃっただけだっての』

 

 軽口を返してくる未来は今も身体の上から障害物をどけているのか、妙に硬い雑音が音声に混ざっている。数メートルには渡っているだろう天井の崩落の中にいてもこれほど元気なのだから、やはり装甲の防御力は相当に高いということなのだろう。

 

「あ?心配してやってんのに、お前って女は……」

『お前呼ばわり禁止!それより、瓦礫の状態はどう?』

 

 未来からいつも通りの反応を返された翔太郎は憮然としたが、今はいちいち突っかかるどころの話ではないため、彼女の言葉に従った。

 廊下全体を塞いでいるコンクリート片はどれも二抱えはある大きさでとても持ち上げられるものではなく、上の方からはまだばらばらと何かがこぼれてくるような音も聞こえる。一旦止まったように見えた崩れは、内部でまだ続いている可能性が高いと見ていいだろう。

 

「駄目だ。いつ崩れてくるかわからねえし、そっちに抜けられるような穴も見たところねえな」

 

 翔太郎が見たままを伝え、左右にある実験室の錆びついたドアの隙間を覗き見る。

 そのどちらも中にまで破壊の痕が見えたが、双方とも出入口が一箇所にしかなく、未来のいる瓦礫の向こう側に通じる通り道はないようだった。

 

「部屋の中にも、そっちに抜けられるようなドアはないな」

『そっか。ここを越えるのは諦めて、迂回して合流するしかなさそうだね』

 

 未来が納得して言葉を返し、翔太郎も同意しようとする。

 その時、床に石がこつんと当たるごく小さな音が、彼の耳に響いた。まだ敵のガジェットが残っていたのかと、慌てて音源となっているらしい後方へと振り返る。

 翔太郎が見たのは、確かに自分が所持する以外のメモリガジェットだった。

 が、それはこちらを攻撃してくるタイプのそれでなはい。

 

 先にバットショットの映像にも写っていた、ハチドリガジェットである。恐らく今の戦闘で半壊状態になりながらも、ただ一体だけ残ったのだろう。ふらふらと空中を不安定に漂っている小さな影が、自分たちが進んでいたのと反対の方向へと飛び去っていくのが確認できる。

 

『ちょっと、翔太郎!聞いてんの?』

 

 口をつぐんだ翔太郎に苛立ちを覚えたらしい未来がむっとした口調で通話を続けようとするが、彼は既にハチドリガジェットが向かっている方へと足を進め始めていた。

 

「いや、俺はこのまま山波博士を探す。今、残ったガジェットが逃げていくのが見えたんだ。俺たちが乗り込んだことを奴に知られたら、どうなるかわかったもんじゃねえ。先手を打つ必要がある」

 

 翔太郎が突然口にした宣言に、慌てさせられたのは未来である。

 

『まさか、一人で行くつもり?そんな無茶は止めて。危険だよ!第一、変身もできないあんたが一体どうやって』

「俺はこのままあのガジェットを追う。お前は後から来い」

『翔太郎ってば!待っ……』

 

 彼女の返事を待たずに翔太郎はスタッグフォンの終話ボタンを押し、電源までもオフにした。

 翔太郎には、最初から山波と未来を対峙させるつもりなどなかったのだ。

 何とかして別行動を取って山波を先に発見し、自分が説得するなり、戦おうと考えていたのである。それを確実に実現させるのは今が最大のチャンスであり、逃すことはできなかった。

 

 勿論、未来がこの案をすんなりと了承するわけがないことはわかっている。勝手に事を運んだ翔太郎に、鉄拳制裁くらいはあるかも知れない。

 しかし彼女に健太の父親を殺害したという重い罪の意識を、この先一生負わせるよりは遥かにましだと言えた。

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