仮面ライダーW 追われるS   作:日吉舞

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絆というカタチ -10-

 この種の問題で最も厄介なのは、親が自分や子どもを客観的に見つめるのが困難で、罪の重さを自覚できない点にある。そこさえ何とかなれば解決の糸口が一気に掴めるのも特徴であるが、長い時間を経て築かれた見識を変えさせるのは至難の業だ。

 

 それでも翔太郎は人の心が持つ可能性を信じるがため、一人山波へ臨むに至っていた。

 が、若者の熱意と同じように強い、ただし純粋な狂気を宿す研究者の魂は、他が干渉する隙を与えようとしない。山波は眼前に立つ青年の訴えかけなど、鼻先であしらうだけであった。

 

「私の夢を、息子である健太が喜ばないわけがない。他人が口を差し挟まないでもらおう」

「あんたは、自分の夢を都合よく息子に転換してるだけだ。本当に健太を父親として愛しているなら、子どもの本当の幸せってものを考えろ!」

 

 腹の底から沸き上がってきた怒りを滲ませた翔太郎は、舌戦の熱を冷めさせない思いを更なる言葉に込める。

 一方の山波は、彼の意を受け止めたかのように頷いた。

 

「そうだ。私は健太の命を何とかして助けたいと、真実を知ったときから願っていた。子どもを救いたいと思うのは、親として当然の感情だ。そして、助けられたことに感謝しない子どもはおるまい?何が間違っていると言うのかね」

「ふざけるな。ドーパントにされて、喜ぶ奴がいるとでも本気で考えてるのか!今すぐガイアメモリを捨てて、健太を放せ。でないと、あんたは死んでも悔やみ切れないほど後悔することになるぞ!」

 

「黙れ。私と健太の夢を邪魔する者は、誰であろうと許しはせん」

 

 取りつく島もない、というのはまさにこの状態であることを翔太郎は痛感させられた。

 山波に日本語という言語は通じていても、話の内容やこちらの意図は全く伝わっていない。彼の考えることは全て斜め上で、恐らくこれもガイアメモリに精神を汚染された影響なのだろう。

 最早山波は、健太にガイアメモリを使ってドーパントの身体を与えることにのみ心血を注ぎ、良心や思いやりというものを置き去りにしてしまっていることは明白であった。

 

 その思考は人の手が届かないところにある超常的な存在を盲信する狂信者と似ていたが、他者に害を及ぼす力を有するという点ではより悪質だ。

 いくら説得を続けたところで平行線を辿るだけとわかった以上、取るべき手は一つしか残されていない。

 翔太郎は腹を括り、声に威圧感を込めて山波の方へと踏み出した。

 

「俺がそんなことはさせねえ。何としても、あんたを止めて見せる!」

「愚か者め。一人では変身もできない貴様に何ができる」

 

 山波が嘲笑して翔太郎を一瞥すると、素早く白衣のポケットから何かを取り出した。

 

『WRATH(ラース)』

 

 骨ばった指に挟まれた赤褐色に輝くメモリから、低いガイアウィスパーが流れる。

 驚きによる一瞬の硬直から我に返った翔太郎が止めに入る間もなく、高く掲げられたメモリは山波の左の掌に浮かんだコネクタに押し当てられた。

 

「うおっ!」

 

 刹那、赤黒い光と炎の如き熱波が撒き散らされ、半熟探偵は反射的に目を覆い飛び退いた。

 不気味に濁った光は山波の全身を飲み込んで球状に覆い、主の細胞全てに劇的な変異をもたらしていく。たちどころに手足が伸びて膨れ上がり、皮膚は弾け、真っ赤に染まった硬質の体表へと再構成され、人ならざる姿へと変貌を遂げていった。

 

 僅か数秒の後に、山波勇雄は憤怒を力の源とする禍々しい怪物--ラース・ドーパントに変身し、研究ブースの前にその異形を晒したのだ。

 

「てめえ……!」

 

 熱波に身を引いていた翔太郎が呻くと、ラースは双頭に輝く四つの瞳を向けた。

 

「丁度いい、健太に貴様を始末させることにしよう。さあ健太、お前が誰よりも強くなれる時が来た。その力を、父さんに見せておくれ」

 

 いつの間にか、ラースの左手には鈍く輝くもう一本のガイアメモリが握られていた。赤い指先が小さなスイッチを叩き、重いガイアウィスパーが響く。

 

『GLUTTONY(グラトニー)』

 

 翔太郎の耳に流れ込んだのが「七つの大罪」の一つである「暴食」を暗示するものであったとわかったとき、彼は耳を疑った。山波が我が子に不完全で、しかも極めて強力なガイアメモリを使うなど、翔太郎にとっては完全に予想外だったのだ。

 

 あんな危険極まりないメモリを使われたら健太は人間に戻れないどころか、幼い肉体がガイアエネルギーに耐えられず破壊される可能性すらある。まともな精神を持つ研究者であれば絶対に考えられないことだった。

 

「やめろ!頼むから、やめてくれ!」

 

 翔太郎が絶叫し、金属の床を反射的に蹴った。そのまま勢いに任せ、ガイアメモリをデスクに設置された小型カプセルに収めようとしているラースに、必死の形相で飛びかかる。

 しかし生身の人間である彼がドーパントに太刀打ちできる筈もなく、彼はラースの振るった腕に細身の身体ごと弾き飛ばされた。

 

「ぐあっ!」

 

 胸板に肘の一撃をまともに叩き込まれた翔太郎は、最初に立っていた位置よりも軽く数メートルは後方に投げ出されて転がった。落下した際に背中を強打したために息が詰まり、咄嗟に起き上がれないほどの痛みが半身を襲ってくる。

 一方、何とか起き上がろうとしている青年などには目もくれず、ラースはグラトニーのメモリを小型カプセルに納め、巨大な手で器用に端末のキーボードを叩いた。

 

「さあ、健太。お前が好きなものは、もう何も我慢することはない。病気のせいで食べられなかったものも、全てなくなるんだ。何にも負けない強い身体を手に入れたら、まずその青二才から食いつくしてやるといい」

 

 ラースの双頭が満足げな呟きをこぼすとともに、その手の動きが止まった。長年の研究の成果とも言える割には簡素なガイアエネルギー転換装置に、起動命令を下し終えたのだ。

 この装置は小型カプセルに納めたガイアメモリからガイアエネルギーを抽出圧縮し、大型カプセル内にいる生体に最も適した形に変換して、流し込む仕組みになっている。大型カプセルの中に眠っている健太は、僅かな時間で最強の肉体を手に入れられる筈であった。

 

「や、めろ……」

 

 大量のケーブルやパイプを飲み込んでいる床で必死に上半身だけを起こした翔太郎が、それでもブースへ這い寄ろうとする。だが時は既に遅く、ガイアエネルギー転換装置は高い唸りを上げ、大小のカプセルはまばゆい光の明滅に包まれ始めていた。

 

 何ということだろう。

 偉そうな口を叩いておきながら、健太をみすみす拐われた挙げ句に山波の暴挙を止めることが叶わなかったのだ。

 翔太郎が、絶望的な気持ちで部屋中央に据えられた大型カプセルを見やる。その中で青白い閃光に照らし出された健太は大きく身体を痙攣させ、激しく頭を振っているようだった。

 まるで、自分を無理やり変えようとする力に最後の抵抗をするかのように。

 

「……畜生……畜生!」

 

 未だ身体に力をうまく入れられない翔太郎が、苦しみに彩られた呻きを喉の奥から絞り出し、拳を地に叩きつけた時である。

 ガイアエネルギー転換装置の駆動音に、連続して何かが破裂したような音が混ざった。

 と同時に、ブースにある機械類と大型カプセルの周囲とで爆発が幾つも起こる。暖色の火花が数え切れないほど散り、濁った煙が撒き散らされ、細かい金属片が空間を穿った。

 そしてガイアエネルギー転換装置の高い駆動音と青白い光が失せ、完全に沈黙するまで数秒とかからなかった。

 

「むっ!」

 

 純粋な驚きから、ラースが唸った。

 慌てて手元の操作用コンソールと大型カプセルを交互に見比べ、薄い煙の中にある機器類に幾つもの孔が口を開けていることを改めて確認する。孔はコンソールに直結された厚みのある機器をもを貫通しており、威力の高い銃器で攻撃されたことは明らかであった。

 

「お、おのれ……よくも、よくも私の研究を!」

 

 狼狽を隠しきれないラースが絶叫し、狂ったように周囲を見回す。

 同じように驚愕を顔にこびりつかせている翔太郎などまるで眼中になく、ただただ自らが生み出した悪魔の装置を破壊した者を追い求めたのだ。

 と、二つの不死鳥(フェニックス)の頭が一方向に釘付けになる。

 ようやく立ち上がった翔太郎も、思わず同じ向きへと視線を向けた。

 

「……だから言ったでしょ。甘いんだよ、あんたは!」

 

 一体のドーパントと一人の若者が注視した、高い天井へと至る途中に突き出ている作業用の足場。

 錆の浮いた鉄柵に囲まれたそこには、深蒼の鎧に全てを包み、一二・七ミリアサルトライフルで未来が射撃を終えた未来が、隙のない立ち姿を現していた。

 

 

 

 

 高さが五メートルはある足場から鋭く飛び降りた未来は、重い着地音の余韻が残る中で素早く立ち上がり、再びアサルトライフルを構えた。腰撃ちの体勢を取って指をトリガーに置き、ラースに狙いをつける。

 

「貴様……P3!この、出来損ないめが!」

「そう呼ばれたのは久しぶりだけどね。その欠陥品風情にしてやられて、今どんな気持ち?」

 

 自身の正体を知るラースの罵声を聞き流し、蒼い鎧の女戦士はしらっと言ってのけた。

 が、彼女は苦労して感情を抑えているらしいことが、翔太郎にはひしひしと伝わってくる。実際に子供を手にかけようとした「糞親」を前にして、未来が激しい憎悪を感じていないわけがない。

 

「未来……」

 

 一触即発の張り詰めた空気に、翔太郎は緊張した声で名を呼ぶが、未来は大丈夫だと無言の頷きを返して見せてくる。僅かにチタン合金の肩が下がったのは、何とか落ち着こうとして息をついたせいだろう。

 しかし大型アサルトライフルの照準に捉えられたラースは、心の底から沸き上がってくる怒りを隠そうとしないのが対照的だった。

 

「おのれ、許さんぞ!私の崇高な使命を汚した罪、貴様の命で報いてもらう!」

「罪って、あんた自身が罪の塊のくせに!どの口が言ってんのさ?」

 

 肩を震わせて喚き散らす敵に、未来が苛立ちを募らせる。

 恐らく未来の中ではラース、つまり山波博士が少しでも反省した素振りを見せたなら、何とか穏便に済ませたいと言う望みがあったのだろう。そうでなければ軍隊式の訓練を受けている戦士の彼女が、先の銃撃で機械もろとも隙だらけのラースを撃たなかった筈がない。

 

 そのチャンスを棒に振った山波に、未来は失望と憎しみを感じているに違いなかった。

 性懲りもなく腕を上げて炎を投げつけようとしたラースに、彼女は今一度銃口を突きつける。

 

「動くな!さっさと健太くんを解放しろ。従わなければ、そのふざけた機械ごとてめえを撃つ!私はそこのハーフボイルドみたいに、甘ちゃんじゃない。死にたくないなら、大人しく観念するんだね!」

 

 警告が脅しでないことを示すため、未来はアサルトライフルのセーフティロックをわざと大きな音を立てて解除した。鋼の外皮を持つプライドには致命傷を与えるほどの効果がなかった武器ではあるが、防御力の面でやや劣るラースが巨大な銃弾を撃ち込まれれば、無事で済まない。

 

 しかしラースは、その気になりさえすればいつでも殺戮マシンになれる相手が攻撃を躊躇していることを察知しているようだった。自身で動揺する気配は微塵も見せず、燃え上がる憤怒も露に吼える様は、ガイアメモリに全てを奪われた者の破滅的な末路を受け入れているかのようにも見える。

 

「健太は絶対、誰にも渡さん。たとえ、私が死ぬことになってもだ!」

「ふん、上等じゃない。なら望み通り血祭りに上げてやるから、覚悟しろ!」

 

 最早、心を持たぬ者との話し合いなど必要なしと判断したのだろう。未来は嘲りを込めた笑いを敵に一瞬向けると、一旦外していた指をトリガーに再びかけた。

 途端、暗色の鎧に包まれた身体から刃の如き殺気が溢れ出す。

 

 つい数秒前まで若い女の声で話していたのが信じられないほど鋭い気配に、味方である筈の翔太郎さえぞくりとさせられた。戦いに特化した者の発する圧力が空間を透明な壁で狭め、ヘルメットの下にある瞳に冷たい光を閃かせていることを感じさせるようだ。

 が、ここで二人に殺し合いをさせるわけにはいかない。

 その最悪の事態を避けるために、自分はここに来たのだから。

 

「待て、未来!」

 

 翔太郎は拳を握り、ありったけの力を声に乗せて未来を引き留めようとした。

 今までと違う様子を見せた半熟探偵の姿に、構えていた未来が反射的に振り返り、彼女を迎え撃とうとしていたラースも顔を上げる。

 

「翔太郎?この期に及んで、まだ殺すなとでも言うの!」

「慌てんな。言っただろ、切り札は俺が持ってるって」

 

 敵意すら感じさせる未来の棘がある視線を受け止めながら、翔太郎は何かを取り出して身体の正面に押し当てた。淡い光とともに半身に巻きついたそれは、仮面ライダーWが変身するときに使うドライバーとよく似た、しかし形が異なるそれであった。

 

「それ……!」

 

 ドライバーの輝きに驚いた未来が一言を漏らすと、翔太郎が掲げた黒いメモリのガイアウィスパーが重なる。

 

『JOKER(ジョーカー)!』

 

 切り札の力を表す地球の声が無機質な人工物に埋められた部屋に響き、ガイアメモリがドライバーのスロットにセットされた。翔太郎の腕が勢いをつけてドライバーを外側に倒すと、再度低い音声が空を打つ。

 

『JOKER(ジョーカー)!』

 

 ドライバーから解放されたガイアエネルギーが光とともに翔太郎の細身の身体を包み込み、全細胞に力を注ぎ込む。それは左翔太郎という存在を作り出す個々の物質が持っている本来の力に、爆発的な力を引き出す起爆剤として働きかけた。指先から爪先まで力の漲る感覚が、快い。

 

「変身」

 

 翔太郎が身体の前で腕を翳して呟くと、凝縮されたガイアエネルギーが一気に炸裂した。太古より全てを司ってきた地球の力が黒い鎧となり、彼を戦うための姿へと変貌させる。

 

「何だと……馬鹿な!仮面ライダーWは、単独での変身など不可能な筈だ!」

 

 未来と同じように驚きに彩られ、立ち尽くしていたラースが愕然として呻く。

 数瞬の後に、巨大実験室の異形は三体となっていた。

 新たな存在である翔太郎は、仮面ライダーWと酷似しながらも異質な姿--真っ赤な眼に左右の半身の主が異なる肉体ではなく、漆黒に染まった一つの身を持つ者として地を踏みしめていたのだ。

 

「俺は、仮面ライダージョーカー」

 

 改めて翔太郎が変身後の二つ名を名乗り、未来の方を向いて頷いて見せる。

 

「ジョーカー……そうか。あんたの切り札って言うのは、一人でも仮面ライダーになれるってことだったんだね」

 

 こちらはまだ唖然としている未来が、翔太郎が自信の源としていた事実を自分の言葉に出している。そうやって、状況を飲み込もうとしているのだろう。

 ジョーカーは無意識下で構え直している未来の側に歩み寄りつつ、まだ信じられないと言いたげに狼狽した空気をまとわりつかせているラースへ、指先を突きつけた。

 

「確かに俺は、二人で一人の仮面ライダーだ。だがな、男には一人で戦わなきゃならねえ時が絶対にあるんだぜ」

「私だっているでしょ。こんな時まで気取るなよ」

 

 と、間髪入れずに未来が呆れた口調で突っ込みを入れてくる。肝心な時もなかなか格好がつけられないハーフボイルドの悲しき性を、実に的確に捉えていると言えよう。

 今度こそこれで決まりだ、とばかりに気合いを入れてポーズを取っていたジョーカーであったが、頭のてっぺんに不意打ちを加えられたかのように、かくんと首を揺らした。

 

「と、とにかく!これで二対一だ。あんたが圧倒的に不利だってのは、もうわかっただろう。メモリブレイクを喰らって廃人になりたくなけりゃ、健太を今すぐ解放しろ!」

 

 力が抜けかけた指先をもう一度上げ、ジョーカーはラースに警告を発する。

 メモリブレイクが可能なのはジョーカーだけだが、パワードスーツを身につけた未来はサイクロンジョーカーとほぼ同じ戦闘能力を有しており、極めて強力な重火器を携えているのだ。彼女の正体を知る山波であれば、勝ち目が薄くなったことは嫌でもわかる筈だ。

 が、二人のヒーローは実に悪人らしい台詞を聞かされることとなった。

 

「なるほどな……だが断る」

 

 開き直った末に不敵ささえ覗かせるラースの言い方は、翔太郎たちにとって今更意外なものではない。ただ先と違うのは、まだ未来とジョーカーの二人が力を合わせれば何とかできるという望みがあることである。

 故に、警告を無視されたジョーカーもあからさまな失望は見せなかった。

 

「そうか、なら仕方ねえ。腕づくでも、健太を返してもらう!」

「できるものならやってみるがいい。健太を殺さずにいられる自信があるのならな」

「何だと?」

 

 格闘戦を仕掛けようと拳を確かめていたジョーカーの動きが、敵の思わぬ言葉を耳にして止まる。

 

「あのカプセルでは、私の開発した防御システムが稼働している。破壊したり、無理に動かそうとすれば、この実験室もろとも爆発する仕掛けだ」

 

 ラースが炎を纏った左手で大仰に示して見せたのは、その先にある部屋の中央に据えられたカプセルだ。

 未来が銃弾を浴びせて破壊したガイアエネルギー転換装置は、完全に沈黙したかに見える。しかし、その一部を成すカプセルの内側ではまだ僅かにLEDが光っているのが、彼女の強化された瞳で今はっきりと見ることができた。爆破装置が稼働しているかは定かでないものの、何かしらの仕掛けがあることに間違いだろう。

 

「それでも助けようと言うなら、止めはせん。貴様らに機械と同じ精密な動きができるなら話は別だがな」

「くっ……何てことしやがる。どこまでも卑劣な野郎め」

 

 ジョーカーの内側で翔太郎が唇を噛みしめると、隣に立つ未来が囁き声で言った。

 

「翔太郎、ラースをカプセルに近づけないようにできる?」

「あ?」

 

 思わず抜けた声で返して振り向いたジョーカーだったが、ヘルメットの下にある女戦士の表情を窺い知ることは叶わない。アサルトライフルを腰撃ちにする姿勢を崩さないままで、未来は僅かに顔をジョーカーの方へ向けた。

 

「今あいつ、機械と同じ動きができるならって言ったでしょ。私だったら、あのカプセルを何とかできるかも知れないから」

「本当か?」

 

 未来の抑えた声に合わせ、ジョーカーも声音を低くして訊き返す。

 

「見てみないとどうだかわからないけど、やってみたいの。健太くんを何とかしてあそこから出してあげなきゃ」

 

 前へと向き直った未来はカプセルを睨みつけているものの、語調に逸った印象はない。何か考えがあってのことなのだろう。それに何と言っても、未来はもともと軍用サイボーグとして肉体を設計されているのだ。このように戦場でも想定し得る状況下では、専門とも言える未来に委ねた方が賢明なのかも知れない。

 女戦士の人柄と能力を信頼するジョーカーは、力強く頷いた。

 

「わかった。絶対に奴を近づけねえから、安心しろ」

「恩に着るよ」

 

 そして仲間たるジョーカーの態度に、未来もやや声を柔らかくして感謝の意を覗かせる。

 二人がどちらからともなく頷き合って構え直したところへ、ラースの嘲りが響いてきた。

 

「どちらから先に死ぬかの相談でもしていたか?徒に私に時間を与えたことを、後悔するのだな!」

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