仮面ライダーW 追われるS   作:日吉舞

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絆というカタチ -11-

 変身前の山波博士の姿であれば、きっと勝ち誇ったように笑ってるのだろう。ラースは若き二人の戦士を一睨みし、鋭く手を払った。

 炎を宿し赤く輝く手の残像が消えぬうちに、部屋の壁全体がざわめいたかのような錯覚を覚えさせるほどの羽音が不気味に湧き上がった。計器の隙間や壁を走るパイプの間から一斉に姿を現したのは、先に翔太郎たちが出くわしたスズメバチガジェットである。

 

「へえ、流石にこの部屋で爆弾を使う勇気はないみたいだね」

 

 だが、未来は空中に何百とひしめく敵を目の前にしても全く臆さず、ふてぶてしいほどの余裕を見せていた。爆発しないのなら脅威でも何でもない、というのが率直な感想なのだろう。事実、彼女のチタン合金製スーツは埃で白くなっていたが、凹みや損傷は皆無に等しかった。

 スズメバチガジェットの群れは顎をがちがち鳴らしながらホバリングし、カプセルを取り囲んでいる。健太はこれにより三つの異形から隔離された格好となり、威嚇を続ける獰猛な金属の昆虫を全て駆除しなければ辿り着けそうにない。

 

 しかし逆に、彼らは積極的にこちらに襲いかかってくる素振りは見せなかった。近寄る者をだけを攻撃するようになっているのであろう。

 ジョーカーと未来は自然と背中合わせになり、ともにガジェットたちの塊とラースの双方を視界に捉えられるようにしていた。完全に二手に別れている敵を見比べて、ジョーカーが舌打ちする。

 

「ちっ。あんなにガジェットの数がいちゃあ、流石に俺一人の手には余るかも知れねえな」

「あのスズメバチの大群は、私が何とかするよ。その代わり、あんたはラースを絶対にこっちへ近づけないで」

「言うじゃねえか。なら、ラースは俺に任せな。それにもともと、そのつもりで来てたんだ。お前のお手並みも、改めて拝見と行くぜ」

「お互いに、ね」

「……しっかり見とけよ」

 

 ぼそぼそと小声で言葉を交わした二人だが、不思議と最後の一言には軽い笑いが込められていた。

 互いの背中を守る者がまるで古くからの戦友のように感じられ、不安が欠片ほども湧いてこない。信頼が与えてくれる安心感が、戦いを目前にして硬くなっている筈の精神をもほぐしてくれているのだ。

 

「行くぜ!」

 

 膝を緩めて貯めていた力を放ち、ラースに向かって駆け出したジョーカーが吼える。

 同時に、未来のアサルトライフルが連続で火を吹いた。空気を突き破るほどの発砲音に広い空間が叩かれ、マズルフラッシュの炎が彼女の鎧姿を照らし、黒いシルエットを切り取る。

 弾倉から撃ち出された巨大な弾丸は、スズメバチガジェットが特に密集している場所を狙って叩き込まれていた。ダンプカーをも貫通する威力を秘めた銃弾が一発で数体の敵を吹き飛ばし、粉砕された金属片を巻き上げる。強烈な硝煙の臭いと薄い煙が散った後には、無惨にもボディを半分失って落下したガジェットたちの残骸が散らばっていた。

 

「ふん。ホーネットの針を喰らっても痛みを感じないP3を突撃させるとは、下等生物も無駄に考えるものだな」

「下等かどうか、てめえがもう一度体で判断するんだな!」

 

 銃撃を続ける未来を明らかに見下すラースと対峙したジョーカーが、勇ましい台詞とともに相手の懐へと踏み込んでいく。地球の力が姿を変えた黒き拳がラースの双頭を狙って飛び、青白い瞳のすぐ横を掠めた。ジョーカーは打撃によるダメージを辛くも逃れたラースが間合いを広げようとするのを許さず、更に足を進めつつ拳と蹴りのラッシュを浴びせていく。

 

 仮面ライダージョーカーは武器を持っておらず、高いパワーを誇る身体ひとつで戦うのが特徴である。故に最も得意とするのは近距離からの格闘戦であり、マキシマムスロットを使ったメモリブレイクもまた格闘技の一つとして数えることができた。

 対するラースは炎の力を自在に操るドーパントであり、ジョーカーとは逆に熱による遠距離攻撃を主とする敵だった。加えて飛翔能力と圧倒的なスピードがあり、一旦距離が離れてしまうと再び捕まえることは難しくなる。

 まさに相性が悪い者同士の戦いだと言えたが、ラースが自らのスピードを過信して格闘でもジョーカーを倒せると油断しているうちは、勝負に勝てる見込みが高いと踏んでもいいだろう。

 

 健太が捕らわれていると判明した時点で、今回の戦いの目的は彼の救出が第一となっている。ラースにメモリブレイクを喰らわせられればそれに越したことはないかも知れないが、倒すことに必ずしもこだわる必要はなかった。

 可能であるのなら、誰の命も失われることなく事態の収束を図りたい。

 翔太郎はまだその望みを捨てていないからこそジョーカーに変身して、ラースを一人で抑える役目に回ったのだ。全身を炎で護る相手の熱波に耐えて拳を繰り出し、蹴りを放ち、掴みかかってくる腕をかわしながら、ジョーカーは未来の気配をも慎重に窺っていた。

 

 その彼の願いを知らずに託された未来は、スズメバチガジェットの群れに飛び込んでいた。アサルトライフルのフルオートを開放して鉛弾の嵐を一暴れさせた後は、バヨネットを振り翳して縦横無尽に攻撃を繰り返している。

 最初の銃撃で全体数を半分以下に激減させられた人工のスズメバチたちは、重装甲の女戦士の突撃に針の射出と体当たりで応戦してくる。が、マシンガンの連射にも耐えうる装甲にはそのどちらとも通じず、艶のない金属の表面に僅かな傷をつけるばかりだ。

 

 それでも反撃を緩めることを知らない小さな敵の大群に、未来は無慈悲な刃を閃かせ続ける。彼女が高周波振動ナイフの銃剣で突き、払いを入れる風切り音には、全て複数の破壊音が被さっていた。

 一撃に何体もの敵を巻き込む女戦士の戦い方は、一見すると力で押す荒っぽいそれであったが、実は正確に急所を狙うのに最も効率よく計算された動きである。数百匹は密集していたと思われる昆虫型の敵が瞬く間に密度を薄くさせられ、休みなく床を擦る金属の足元に部品片の山を築いていくのがその証拠であった。

 

「よし!」

 

 そして、最後の一匹となったスズメバチガジェットのギジメモリをバヨネットで突き刺した未来は、力強く呟いてから周囲の音を探った。今の今まで聴覚を刺激していた不快な羽音はもうどこからも聞こえて来ず、ジョーカーとラースが戦う鈍い打撃と摩擦音が背後から上がってくるのみである。

 何とか周辺の安全を確保できたことを確かめた彼女は、すぐさま健太が眠らされているカプセルの側へと走った。

 

「健太くん?」

 

 未来は上半分が透き通っているカプセルの外側から呼び掛けてみたが、案の定反応はない。無理に動かそうとすれば爆発するというラースの警告を思い出し、未来は透き通ったカプセルの内側を慎重に覗き込んだ。

 透明な蓋はガラスでなく強化プラスチックであることが表面の傷の具合いなどから判別できたが、それにしては妙にぎらついているのが引っ掛かる。未来は試しに瞳に内蔵された各種探知フィルターを作動させることを思いついたが、最初の金属探知フィルターでいきなり答えが出ることになった。

 

 カプセルの上蓋である強化プラスチック内部が、金属反応を示して淡い紫色に輝いている。未来はフィルタ機能をオンにしたまま、今度は瞳のズームを絞った。

 十倍程度に拡大されて狭まった視界に、今度は紫色に光る格子状の模様はっきりと浮かび上がる。カプセルの蓋の中に、ごく細い金属繊維が張り巡らされているのだ。

 

「これは……?」

 

 一言呟いた未来の視線が、その金属繊維の走る先を追いかけた。カプセルの端に達している繊維は、蓋の縁から本体部分のコードに接続してあるように見える。更にカプセルの下を覗き込んでみると、不自然に取り付けられた巨大な金属の箱があることがわかった。

 多分これが爆弾本体なのだろう。

 

 もう一度、フィルターを働かせたままでカプセル全体を見渡してみる。

 すると、蓋の部分に幅五ミリほどの繊維が通っていない場所が線状になっており、小さな円状に一周しているのが見えた。円はちょうど大人の腕が通るくらいの大きさで、そのすぐ先に当たる健太の足許に小さなスイッチがあることもわかる。

 

 元山波たるラース・ドーパントが言っていたのは、「無理な力をカプセルに加えれば爆発する」ということだ。カプセル自体にも振動を検知するセンサーが働いているのかも知れないが、蓋の強化プラスチックを叩き割ったり、刃物で無理矢理壊そうとした場合は、蓋内部の金属繊維が触れ合って、起爆装置に通電するようにもなっているのだろう。

 結果、カプセル下部に仕込まれている爆弾が爆発する仕掛けになっているのだ。

 

「なるほどね。非常時はこうやって、部外者が迂闊に触れないようにしてたわけだ」

 

 カプセルの巧妙な仕組みに、未来がヘルメットの中で思わず言葉を漏らした。その非常事態がいざ起きた時は、金属繊維がない円状の線を機械で切断し、中の停止スイッチを押すようにしているのである。

 ラースが機械並みの動きができるなら、とわざわざ明かしていたのはそういう訳だったのだ。幅が僅か数ミリしかない安全地帯を狂いなく切断するのは、確かに人間では不可能だ。

 

 が、未来はアサルトライフルから取り外した大型サバイバルナイフを両手にしっかり握り、躊躇うことなくカプセルの蓋に突き立てた。高周波振動ナイフの刃が強化プラスチックを厚紙のように貫き、刀身を半ばほどまでカプセルの内部に埋もれさせる。

 超硬合金製のナイフは、起爆装置に破壊命令を下す金属繊維には薄紙一枚分を隔てて接していなかった。

 

 未来は戦闘用として開発されたサイボーグだが、その最も優れた機能は何人もの兵士を同時に倒せる戦闘能力にあるのではない。身体のぶれや揺らぎの一切を無くした、精密機械と同等の稼働を基準とした筋肉運動と神経パルスの連携にある。鋭敏な感覚器に加えて緻密な動作を備えることで、人間には実現不可能な正確さを叶えることが可能となるのだ。

 強化プラスチックを手の震えなしに切断するには、まさにうってつけと言えるだろう。

 とは言え、戦闘の只中で外部からの刺激があれば精度はぐんと落ちる。未来は意識して深い呼吸を繰り返しながら、祈るように呟いた。

 

「頼むよ、翔太郎。私の手元がちょっとでも狂ったら、全員がお陀仏なんだからね……」

 

 じりじりと刃先を動かしてカプセルの蓋を切断し続ける未来は、早くも額に汗が滲んでくるのを感じていた。

 高周波振動ナイフは金属をも切り裂く切れ味を持つ故、余計な動きをする必要はない。それでも誤差の許容範囲は一ミリもなく、この場にいる全員の運命を左右する作業に、彼女が緊張を覚えない筈はなかった。

 

「おのれ、健太に手出しはさせん!」

 

 と、健太の救出にかかり始めた未来を見咎めたラースが、炎に包まれた右手を大きく振り翳す。

 しかし、たった今まで至近距離での格闘を演じていたジョーカーがそれを許す筈はない。

 

「それはこっちの台詞だ!」

 

 漆黒の身体から迸った怒号とともに、渾身の力を込めた回し蹴りが炸裂する。あらぬ方向へ気を取られていたラースは、片方の首の側面へまともに黒き一撃を加えられることとなった。二つの嘴から短い呻き声を上げ、赤い巨躯がぐらりと傾く。

 

 すかさず、ジョーカーはがら空きの胴体に連続で拳と肘の連続技を叩き込んだ。ドーパントの身体になっても変わらない急所に打撃を受けたラースは、ダメージに対しての耐性が低いのかも知れない。今までに蓄積されたダメージと合わさって、明らかに動きを鈍らせているのがわかる。

 ジョーカーがそこへ中段蹴りと突きを重ねると、ラースは殆ど弾き飛ばされたかのように姿勢を崩し、先よりも防御が更に甘くなった巨体を晒した。

 

「くっ!」

 

 しかしジョーカーは、そこで拳を庇い飛びすさった。

 ラースの身体に一番長く触れていた右手が、ぶすぶすと黒い煙を上げて燻っている。まだ攻撃を加えられる絶好のチャンスではあったが、これ以上格闘を仕掛けるのは危険だったのだ。

 やはり炎を操るラースに対し素手では苦しいことを、今更ながらに痛感させられる。飛び道具があるトリガーフォームや棍を携えたメタルフォームならもっと善戦できるだろうが、いずれも今使っているロストドライバーでは使えないメモリのフォームだ。

 

「くそっ……」

 

 きな臭さを漂わせる自らの拳を睨んだジョーカーが、もどかしげに吐き捨てる。気のせいか、ラースが発する熱が戦闘開始時よりも高くなってきたような気さえしていた。

 フィリップと二人で変身するWで戦いを挑んでいたなら、という後悔に似た思いに駆られるが、ここで諦めるわけにはいかない。未来にはあれだけの大見得を切って見せたのだし、一度彼女を守り通すと決断したのだ。それにこんなところで弱音を吐いては、今は亡き師匠である鳴海荘吉に見せる顔がないではないか。

 

 --俺はこんなところで終わるような、性根の腐った奴じゃねえ。フィリップが消えていた一年間、ずっとこの仮面ライダージョーカーとしてドーパントと戦って、風都の番人であり続けてきたんだ。

 それに女一人も守り切れないで、何がハードボイルドだ!

 

 声には出さないがはっきりとした言葉で己の精神を鞭打った翔太郎は、無意識のうちに未来を背後に庇う位置に足を進めていた。

 右の拳が駄目なら、まだ無事な残った手足で戦うまでの話だ。

 ジョーカーが再び気を持ち直し、まだダメージから回復しない身体を庇う敵に改めて向かったその時である。

 

「おのれ……おのれ!」

 

 唐突にラースが吼えた。

 その野獣の如き二つの声からなる叫びが空を震わせた刹那、赤き異形が青白く輝いた。同時にこれまでとは比較できないほどの高熱が吹き荒れ、周囲の空気を一気に膨張させる。

 

「何……ぐあっ!」

 

 空気自体が燃え、爆発したと錯覚する現象は至近距離にいたジョーカーを巻き込み、ラースに攻撃を浴びせ続けていた身体を軽々と吹き飛ばした。自身の身長と同じくらいの高さで宙を舞ったジョーカーが数メートルは後方の床に落下し、背中から全身を叩きつけられる。金属板から成る床に放り出された手足や胴体から上がる煙と焼け焦げた悪臭は、ジョーカーが受けたダメージの大きさを物語っていた。

 

 ジョーカーは半身を打ちつけて呼吸を詰まらせていたが、数秒遅れて熱傷による激痛に襲われていた。押し寄せる苦痛で全身が上げる悲鳴に、堪えきれず低い呻きが漏れる。

 

「い、今のは……」

 

 浅く荒い呼吸を繰り返し、それでも痛みを堪えて何とか身を起こそうとすると、ラースがゆっくりと歩み寄ってくる姿が視界に入った。

 今まで戦っていたラースは、憤怒の象徴たる紅蓮の炎を纏った姿をしている筈だった。が、今はそれが青白くなっており、近くに立たれるだけで火傷を負いそうな熱さを感じさせられる。高温の空気が陽炎となってラースの背後に見える機械類を歪め、熱の塊がゆらりと動いたかのように思えた。

 

「我が炎は、怒りが強くなればなるほど燃え上がる。愚か者は骨まで焼きつくされて、のたうち回って死ぬがいい。半人前同士、仲良く地獄へ行くのだな」

 

 全身から煙を上げて倒れているジョーカーを見下し、白っぽく光るラースは勝利宣言とも取れる言葉を投げつけた。そのまま右腕を頭上に掲げ、腕全体に纏っていた炎を一気に掌へと集中させていく。

 青い色の炎は、一般的に赤いそれを遥かに凌ぐ超高熱である。それを瞬間的とは言え、ごく近い位置で浴びたのだ。身体が燃え上がらなかったのは、奇跡的な幸運に恵まれたせいだろう。しかし今ラースが右手に作り出している炎の球をまともに喰らえば、それも意味がなかったことになる。

 

 地に伏して立ち上がれないジョーカーに、最早成す術はない。たとえ醜く命乞いをしてきたとしても、研究を台無しにしようとした者を見逃すつもりなどラースにはなかった。

 

「……ふん、俺たちは半人前じゃねえからな。地獄でなんざ仲良くする趣味はねえよ」

 

 が、ジョーカーはこれから与えられる苦痛に怯えることも、死の恐怖で絶望することもなかった。ふてぶてしくすら見える黒き異形へ、風前の灯となった運命も受け入れることすらままならぬのか、と言いたげにラースが更なる侮蔑を露にする。

 

「何を馬鹿な--」

 

 唐突に、勝ち誇っていた声が途切れた。

 一抱えはある炎の弾今にもを堕とさんとしていた腕から青白い光が失せ、たちどころに周囲の温度を下げる。同時に、巨体が前へとつんのめるようにバランスを崩した。

 

「ぐわっ!」

 

 驚愕から上がったらしき濁った悲鳴に、連なった鈍い衝撃音と銃弾が跳弾する甲高い金属音とが重なる。ラースが背中から火花を散らしてたたらを踏むと、その後ろに控えていた人影がジョーカーの視界に入り込んだ。

 

「お待たせ、翔太郎!」

 

 やっと、と言うべきだろうか。

 左腕に眠っている幼児を抱え、右手にサイレンサーつきのデザートイーグルを構えた鎧姿のサイボーグ戦士。恐らく翔太郎が存在を知る中で誰よりも強き女である未来が、目的を果たして反撃の狼煙を上げたのだ。

 未来がカプセルを開けて健太を救出した姿を認め、彼は殊更に敵を挑発して見せて背中からの銃撃を促したのである。

 

「待ちくたびれたぜ、じゃじゃ馬」

 

 未だ波のように押し寄せる熱傷の痛みに喘ぎながらも、翔太郎は声に笑みを含ませていた。

 

 

 

 

 

 ジョーカーは床に倒れてはいたが、立ち上がれなくなるほどのダメージを受けているという印象はない。未来はその事実を確認してやっと安堵感を覚えたが、今まで時間を稼いでくれた仲間の有り様に、例えようのない怒りを覚えていた。

 ジョーカー、つまり左翔太郎は、初めて自分の隣で実際に戦ってくれた仲間だ。

 その彼が全身からきな臭い煙を撒き散らすまで熱線を浴びせたラースに、手加減は必要ない。未来は敵が銃撃で怯んだ隙に素早くジョーカーの側まで走ると、強い感情を込めて啖呵を切った。

 

「よくも、私の仲間をいたぶってくれたな。きっちり返させてもらう!」

 

 ヘルメットの下で怒声を上げた女戦士は、健太を片腕に抱いたままデザートイーグルを大腿部のホルスターに挿し込み、空けた手を背中に回した。ジュラルミン製のバックパックから空気が抜けるような音を立て、主の手の中へ何かを落とす。

 

「おい、それは!」

 

 未来がパワードスーツに覆われた手に掲げたものを目にして、ジョーカーがぎょっとする。

 彼女が握りしめているのは、紛れもなくピンを抜いた手榴弾だったのだ。カプセルに仕掛けられていた爆弾よりはましだとしても、この距離で使おうものなら彼女と一緒にいる健太を巻き込みかねない。

 怒りのあまり我を忘れ、冷静な判断できなくなっているというのか。慌てたジョーカーが激痛に耐えながら跳ね起き、手榴弾を取り上げようと走り出す。

 

「未来!待っ--」

 

「喰らいな!」

 

 が、当然間に合う筈もなく、未来は小さな携帯用爆弾をラースに放った。

 硬い音とともに手榴弾が傷を庇うラースの足許に転がっていき、破裂する。

 瞬間、厚い空気の壁そのものを激しく打ち据えるような爆発音が轟き、雷鳴の如き閃光が辺りを真っ白に塗り潰した。

 

「うわっ!」

 

 ジョーカーが来るべき衝撃に備え、反射的に身を引く。

 

「くっ……」

 

 咄嗟に動けなかったラースも、その場に脚を踏ん張って身構えた。

 が、全身を縮めて防御を固める態勢を取っているにもかかわらず、身体には破裂した金属片が飛んでくる痛みも、何も感じられない。爆音で強風に煽られたように身体が震え、耳には不快な耳鳴りが残り、強烈な光で視界が回復しないが、逆に言うとそれだけだ。

 

 ラースがようやく視力を取り戻すまで、たっぷり数十秒はかかっただろうか。やっと目を開けると、そこには何者の姿もなく、薄い煙を吐き出している手榴弾の残骸が転がっているだけだった。

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