仮面ライダーW 追われるS   作:日吉舞

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絆というカタチ -13-

 翔太郎は、未来が怒りに任せてラースに弾丸の雨を浴びせるのを身体を張って防ごうとした。故に、ラースの攻撃から身を守ることができなかったのだ。

 

「あ……」

 

 信じたくない現実を突きつけられ、愕然と立ち尽くした未来が苦しげな喘ぎを漏らす。

 一方で、戦う者としての理性が彼女に暴走した感情のままに泣き叫び、悲劇のヒロインとなることを許しはしなかった。

 自分が今すべきは、一刻も早く戦闘力を失った翔太郎を安全な場所に連れて行くことなのだ。でなければ敵に更なる攻撃を許すこととなり、彼を見殺しにするも同然となる。

 自らの内側に呼びかけてくる冷たく、しかし確かな声に従って踏みとどまった未来は、自身に対するやり場のない感情を声に発して敵へとぶつけるしかなかった。

 

「畜生……畜生っ!」

 

 背中を灼熱の炎に焼かれて倒れ込んだ翔太郎のもとへ走るよりも早く、悲痛な色を声へ露にした女戦士は再びアサルトライフルの銃口を上げ、構え直した。

 そして今度は、迷うことなくラースに狙いを定めてトリガーを引く。

 

「何っ、貴様!」

 

 未来が戦意を失うものと高をくくっていたラースが狼狽の声を上げるが早いか、アサルトライフルの数倍はあろうかという破裂音が大地と夜気を揺るがし、太陽が爆発したかのような光が闇夜を白く塗りつぶした。

 

「ぐわっ!」

 

 焦りから反応が遅れたラースが目を覆い、身体のバランスを失ってよろめく。

 未来がアサルトライフルから放ったのは、実験室から逃走する際にも使った閃光炸裂弾(フラッシュ・バン)であった。

アサルトライフルの通常弾を撃つと見せかけてグリップを持ち替え、アタッチメントであるグレネードランチャーに仕込んであった閃光炸裂弾(フラッシュ・バン)を撃ち出したのだ。

 目くらましという同じ手段ではあったが、未来が翔太郎を連れて距離を取るには十分な時間を与えてくれる方法と言えるだろう。彼女は倒れている翔太郎を素早く両腕に抱え上げて全力で疾走し、一番近くにあった研究棟の陰へと飛び込んだ。

 

 とは言っても、敷地内にはまだ偵察に特化したハチドリガジェットたちもうろついている可能性が高い。ラースに発見されるのも、時間の問題だった。それでも最低限の手当てはしようと、未来は横抱きにしていた翔太郎の身体をそっと芝生の上に仰向けで横たえる。

 苦しげに浅い呼吸を繰り返している翔太郎の顔は煤で黒く汚れ、服はあちこちが焦げて穴が空き、全身が見る影もない状態になっていた。ジョーカーの外皮がぎりぎりのところで守ってくれたらしく、見たところ大きな火傷はないようだが、蓄積されたダメージが戦うだけの余力を全て奪っているように思える。

 

 先の火炎弾が決定打になっていたとしても、翔太郎はラースと直接対峙していた時の傷は決して浅くなかった筈だ。なのに一撃喰らう覚悟で飛び込んでくるなど、無謀にもほどがある。

 翔太郎の傷の具合を細かく確かめながら、しゃがみ込んだ未来が低く言った。

 

「どうして、あんな真似したんだよ……」

 

「言っただろ……俺は、お前を守る。お前の心が壊れないように、な」

 

 しかし翔太郎はヘルメットの下に隠れた未来の辛そうな表情を見透かしたかのように、穏やかな微笑みすら浮かべて見せていた。

 

「お前には、誰も殺させやしない。必要のない罪まで、お前が数えることはねえんだよ」

 

 更に続いた彼の言葉に、未来が息を詰まらせる。

 翔太郎の傷をスキャニングしようとしていた手の動きがびくりとして止まり、細かく震え出す。やがて力が抜かれたように自身の膝を叩いた手が、きつく握りしめられた。

 

「このバカ……バカ、バカ、バカ!そのためにあんたが死んだりしたら、元も子もないじゃない!」

 

 嗚咽混じりの声で未来がぼろぼろの翔太郎を罵倒し、まくし立ててくる。相変わらずパワードスーツに隠された顔は見えなかったが、彼女が涙を滲ませていることが翔太郎には伝わってきた。

 今まで戦闘中は普段以上に冷静な振る舞いを見せていた未来がこうも取り乱すなど、彼にとっては意外に感じられる。それでも自分よりも弱者を優先する未来の性格からすると、自分のために誰かが傷つくことが大嫌いなのだろうと納得が行った。

 

 それは仮面ライダーである翔太郎も同じだった。

 弱き者を守り戦うために、自分たちは存在している。たとえその対象が自分より高い戦闘力を持っていたとしても、心に弱さを抱えているのなら、誰かが守り支えてやらねばならない。彼は、すぐ横で傷ついた仲間のために泣くような娘のことも、放っておくことができなかったのだ。

 翔太郎には、生の感情を出した未来の素顔をようやく垣間見ることができた気がしていた。ために、自然と静かな表情と話し方でまだ落ち着かない彼女を宥める形となる。

 

「バカって言うな……俺はこれでも仮面ライダーだ。ドーパントが犯す罪は、俺たちにしか裁けねえ。そのための危険だって、もとより承知の上だ」

 

 そして翔太郎は痛む身体に力を入れて半身を起こし、立ち上がろうとした。片手にロストドライバーから外れたジョーカーメモリを握り、いつでもスイッチを入れられるように指先の位置を確かめる。

 

「それより、もう一度変身する。何とかして、奴をここから追い出さねえと」

 

 自分は変身が一度解除されただけであり、まだ戦えなくなったわけではない。

 ドーパントを殺すことしかできない未来に代わり、何としてもラースを力押しで敷地から追い出すか、メモリブレイクを喰らわせるしか方法はないのだ。

 が、傷を圧して戦おうとする翔太郎の姿は、未来には無理をしているとしか映らない。勝ち目のない状態で戦いを挑むのは、勇敢でも何でもない。ただの考えなしがすることだ。

 こんなところで、翔太郎を失うわけにはいかないのだ。

 彼女は、膝立ちから両脚を踏ん張ろうとしている翔太郎の肩を押さえて懇願した。

 

「駄目だよ、そんな身体でまた戦ったりしたら……今度こそあんたが死ぬよ!」

 

「だが、他に方法はねえんだ。俺は必ずお前を守る。だからお前こそ、ここから動くんじゃねえ!」

 

 思わず声を張り上げた未来に、翔太郎も譲る気はない。

 彼が言う「守る」とは、未来にラースを殺させず、不必要な罪を負わせないことだ。ここで未来にラースを殺させたら自分が来た意味がなくなり、彼女に一生消えない心の傷を負わせることになってしまう。だから何があっても引くわけにはいかなかった。

 

 翔太郎がまだ肩に置かれている未来の手に触れようとしたときである。

 未来のパワードスーツの肩越しに、空中をホバリングしているハチドリガジェットの姿が彼の視界に入ってきた。ごく小さな目を光らせ、金属の軋みにも似た稼動音を上げて飛び去ろうとする。

 それを、未来が素早く抜き放ったデザートイーグルで撃ち落とした。

 

「あいつは……」

 

「見つかったみたいだね」

 

 翔太郎が呻くと、未来がデザートイーグルを大腿部のホルスターに収めながら押し殺した声で呟く。

 すかさず彼女は、注意が逸れていた翔太郎の手からジョーカーメモリを掠め取った。

 

「お、おい!メモリを……」

 

 翔太郎が驚いて反応を返す間もなく、未来が黒いメモリをホルスターに放り込む。

 ただ一つの戦闘手段を奪われた翔太郎が呆然とする様子を尻目に、未来はアサルトライフルを構えて背後を振り返った。

 

「ごめんね、翔太郎……ここでもしあんたが死んだら、私……みんなに合わせる顔がなくなっちゃうじゃない。もういいよ、あんたの気持ちだけで、私は十分救われたから」

 

「勝手なことを言うな!俺は……」

 

 我に返った翔太郎が立ち上がったが、未来が無言で制してくる。彼女の常人を遥かに超えた聴覚には、不規則に風を切る炎の翼の音がはっきりと届いていたのだ。

 その主であるラース・ドーパントが着地してくる点を予測し、パワードスーツ姿の女戦士が建物の陰から躍り出る。

 金属のごつい足が軽く土煙を上げて止まると同時に、全身から青い光を発するラースが流星の如く地面へと降りてきた。両脚を地へ突き刺すように鋭く着地し、ゆっくりと目の前の女へと四つの瞳が視線を向ける。

 

「ジョーカーに、もう立ち上がるだけの力は残っていまい。お前もそうなりたくなければ、さっさと健太を返すのだな」

 

「勘違いするな。私は、殺られるのが怖くて逃げてたんじゃない!」

 

 二つの嘴から聞こえてくる不気味な声の和音に、未来は気丈な文句を返して構えた。

 

「ごめん、翔太郎……私、こいつを許せそうにない。余計な情けなんてかけないで、地獄に叩き落とすのが、一番相応しい罰だと思うから」

 

 自らに言い聞かせるために言葉を漏らした未来であったが、それは敵たるラースの反応をも誘うこととなっていた。科学力が作り出した、最強の身体を持つサイボーグをも圧倒する自信があると見える憤怒のドーパントの態度に、変わるところはない。油断なくアサルトライフルの狙いを定めてくる未来に指先を突きつけ、尊大な口調で言い放った。

 

「できるものならやってみろ。親から子を奪おうとした報いは、貴様も受けることになる」

 

「ふん。私も、死んだら地獄行きかもね。いいさ。そんな罪くらい、私一人で背負ってやるよ!」

 

 それを受ける未来は自嘲気味に鼻で笑ったが、もう迷いは感じられない。翔太郎の優しさに揺らいでいた精神が、守るべきもののために鬼となる意思を固めた証拠であろう。

 彼女の悲壮な決意を秘めた後姿を認められる場所までやっと歩いてきた翔太郎が、ぎりっと歯を食いしばる。

 ここで残る力を全て注いで走り、ラースと未来の間に再度割り込むことはできる。

 だが、そうなれば二人から同時に攻撃を喰らわされる羽目になり、未来が最も恐れている結末を迎えることになるのだ。仮面ライダーに変身する術すらない今の自分に、できることは何もない。

 

 自分には何もできない。

 一体何のために、ここへ来たというのか。

 ジョーカーの力が及ばなかったために、未来を救うどころか却って苦しませることになっただけではないか!

 ただ立っているしかない悔しさと自身の不甲斐なさに対する憤りが、心の中で爆発しそうになる。

 翔太郎の壁にもたせかけた肩が震え、握り締めた拳には爪が食い込んでいた。やり場のない激情が内側で渦巻き、絶叫となって迸る。

 

「やめろ、未来!」

 

 彼の叫びが闇を震わせ、耳をつんざくようなアサルトライフルの発砲音に覆い被さる。

 

 しかしそれに続いたのは、ダメージを負わされたラースの悲鳴ではなかった。

 巨大な車両が猛スピードで疾走し、土煙を巻き上げながら急ブレーキをかけ、何かを弾き飛ばす鈍い衝撃音。

 未来の放った弾丸がその車体に跳ね返される金属音。

 その二つが同時に空間を支配していた。

 翔太郎の頼もしい味方が操るリボルギャリーの巨体がC-SOLの敷地内に侵入し、二人を守る暴風となって吹き荒れたのだ。

 

「な、何これ!」

 

 視界に突如としてスピンしながら割り込んで、ラースの巨躯を撥ね飛ばしたトレーラー以上に大きな車両に、未来はヘルメットの下の目をしばたかせた。彼女は一度このリボルギャリー内部へ入ったことはあるが、全体は見たことがないため、驚くのも無理はない。仮面ライダーWの赤い大きな複眼を模した外装の派手な車体は、今や厚く巨大な壁となって未来と翔太郎の前にそびえたと言っても過言ではなかった。

 科学の鎧を纏った女戦士が、まだ状況を飲み込めずにリボルギャリーを見上げていた時である。車体の後部に当たるハッチが開き、中から甲高い声が聞こえてきた。

 

「未来さん!良かった、間に合って」

 

「みんな!」

 

 頑丈な鉄板を組み合わせたハッチから急いで飛び降りてくる亜樹子、フィリップ、照井の姿を認めた未来が、思わず叫ぶ。未来と翔太郎の姿を認めた亜樹子は、心底から安堵した表情を浮かべ、まず未来の方へと駆け寄ってきた。

 

「心配したわよ。でも、翔太郎くんがうまくやってくれたみたいね。本当に良かった」

 

「健太は無事かい?」

 

「うん……健太くんも、ここのスタッフに別の場所へ連れて行ってもらったよ。ありがとう」

 

 未来は亜樹子と後から言葉をかけてきたフィリップへ、交互に頷いて見せる。そこへ、翔太郎がよろめきを抑えながら歩み寄ってきた。 

 

「お前ら、遅えよ。待ちくたびれたじゃねえか」

 

 そう文句を垂れながらも、半熟探偵は唇の片方を吊り上げてにやりと笑っている。どんなタイミングになったとしても、必ず仲間が駆けつけてくれると信じていたからこそ取れる、余裕がある態度だ。

 大きな怪我こそないがぼろぼろになり消耗している翔太郎に、亜樹子は本気で心配している様子を見せていた。自分の判断で翔太郎を未来のもとへ行かせた結果、彼に苦戦を強いることとなったのだ。所長としての責任を感じているのだろう。

 

「翔太郎くん、大丈夫?」

 

「これくらい、心配すんな。ダメになった服代が経費で落ちるかが心配なくらいだぜ」

 

「……ってもう、何やねん!人が珍しく心配してやってるっちゅーに!」

 

 しおらしくしていたところを茶化す翔太郎に憤慨し、亜樹子が容赦なく緑色のスリッパを飛ばす。鳴海探偵事務所ではお馴染みの乾いた小気味よい音が上がり、彼女の専用武器が翔太郎頭にクリーンヒットした。

 

「あたっ!って言うかお前、珍しくとか自分で言うなってんだよ!」

 

 普段よりは弱っているところに一撃を加えられた翔太郎も、つい軽口を叩き返す。普通なら感傷的になりそうな時でも子どもっぽいやりとりを忘れない二人に呆れたフィリップが、意外と活力を残している翔太郎の肩に手を置いた。

 

「また無茶をしたね、翔太郎。しかしそれだけの元気があるなら、大丈夫なようだな」

 

「うるせえな。結果オーライだからいいんだよ」

 

 いつもとは逆の立場となって保護者然としているフィリップに、翔太郎は不貞腐れたようにそっぽを向く。

 戦闘中だというのに暖かみがある空気で緊張を薄れさせる仲間たちの姿を、未来は目を丸くして眺めていたが、彼女の口許にもいつしか微笑みが浮かんでいた。

 

「遅れて済まん」

 

 そして、その中にただ一人加わっていなかった照井竜が、未来の後ろから感情を感じさせない声を割り込ませてきた。特段驚くこともなく、未来はゆっくりと振り返る。表情を見られたくないのか、深紅の革ジャケットに身を包んだ若き警視は、もう彼女に背中を向けてラース・ドーパントが撥ね飛ばされた方を睨んでいた。

 

「照井警視……私のことは許さないんじゃなかったの?」

 

「俺に質問するな」

 

 未来は軽い皮肉を込めた言葉を送ったが、照井は怒るわけでも拒絶するわけでもないようだった。ただ広い背中が、この後に続く戦闘で起こりうることを受け止める覚悟があることを、見る者に感じさせる印象がある。

 

 ここから先、照井に迷うことは許されない。

 自分たちが成すべきは罪のない健太を守ることであり、健太の父親であるラース・ドーパントを、山波博士を未来に殺させないことだ。そのためには、自分たちがラースのガイアメモリを破壊するしかない。たとえそれがガイアエネルギーの宿主たる山波が死亡する危険を伴うことであったとしても、ドーパントの犯してきた罪を裁かないわけにはいかないのだ。

 

 そして、共にあることが幸福ではない家族もこの世には存在すること。

 自分が信じる正義が、決して絶対ではないということ。

 この二つの事実を受け入れて、迷いを振り切らねばならなかった。

 戦う決意を心に灯した照井が、赤く輝くガイアメモリを取り出してスイッチを叩く。

 

『ACCEL(アクセル)!』

 

 ガイアウィスパーがまだ土煙の晴れぬ地に響き渡ると、照井の腰にアクセルドライバーが輝きと共に装着された。

 

「変……身!」

 

 雄叫びと同時にアクセルメモリが素早くドライバーに装填され、ハンドルが力強く握られる。照井がスロットルを全開にすると、今一度ドライバーが光とガイアウィスパーを発した。

 

『ACCEL(アクセル)!』

 

 続いたエンジン音が照井の身体を包み込み、ガイアエネルギーの持つ力がアクセルドライバーを通じて主へと注ぎ込まれる。僅か数秒で、照井は真紅に輝くバトルスーツに身を包んだ戦士、仮面ライダーアクセルへと姿を変えた。

 エンジンブレードを片手にしたアクセルが、まだ戦う気でいるらしい未来の方を振り返る。

 

「もうお前は下がっているといい。左や亜樹子を頼む」

 

「え、でも……」

 

 戦意を削がれる形となった未来は不服そうに声を上げたが、彼女の方へ歩み寄ってきたフィリップが自信に満ちた声を上げた。

 

「大丈夫だ。僕の肉体を使う」

 

「フィリップくんの?」

 

 ヘルメットの下ではきょとんとしているらしい未来の鸚鵡返しに、フィリップが頷く。Wのライダーシステムをきちんと説明されたことのない彼女は、そう言われてもぴんと来ないようだった。

 

「見ていればわかる。ファング、来い!」

 

 フィリップが何もない空へと手を差し伸べ、ファングたるものを呼ぶ。

 すると小動物の鳴き声を思わせる高い機械音がどこからか聞こえ、小さな足音を残しながらフィリップの右肩へと飛び乗ってきた生き物があった。いや、未来が生き物かと思ったのは、一見すると今まで戦っていた蠍型メモリガジェットを彷彿とさせる、極めて小さなティラノサウルスをかたどった金属の塊だった。よく懐いていると見える二足歩行の超小型恐竜を手のひらに乗せ、フィリップがその形を変形させる。

 

『FANG(ファング)!』

 

 ガイアウィスパーと共に、天才少年が再びガジェットを掲げる。形を変えたファングの細長く見える角の如き先端では、一本のガイアメモリが輝いていた。不自然な光がフィリップの腰に巻きついてドライバーとなったのも、未来が今まで見てきた仮面ライダーの変身と同じ現象である。

 

「おいフィリップ、何勝手に決めて……」

 

 天才少年が口を挟む暇を与えずに戦闘準備を整えているのを見た翔太郎が抗議しようとするが、見るからに消耗している翔太郎にこれ以上の無理を強いるつもりは、フィリップに全くない。

 彼は空いている方の手で翔太郎を制すると、もっともらしい理屈で頑固な相棒をたたみかけた。

 

「翔太郎、君は戦うのにいささかダメージを受けすぎている。実質的な戦闘は、僕と照井竜で引き受けよう。心置きなく身体を休めていたまえ」

 

「……ちっ。未来、俺のメモリを返してくれ」

 

 何もフィリップは、翔太郎に戦うなと言っているわけではない。自分の肉体を使おうとしているだけなのだ。

 そう自分に言い聞かせ、翔太郎は変身に必要なジョーカーメモリを未来へと催促する。が、未来はまた翔太郎が無茶をするのではないかという心配があるのだろう。メモリを収めている大腿部のホルスターに手をかけながらも、なかなか中を探ろうとはしなかった。

 躊躇する彼女を、今度はフィリップが落ち着いた声で促す。

 

「大丈夫だ、未来。僕はバカじゃない、向こう見ずなことはしないと誓う。信用してくれないか」

 

「こらフィリップ、誰がバカだ!どさくさに紛れて、さらっと言ってんじゃねえ!」

 

 その翔太郎の突っ込みに、未来は思わず吹き出していた。と同時に、縛られていた心が急にほぐれていくのが感じられる。

 緊張するはずの場においても素直に自分を出し合えるこの二人の男たちなら、信頼してもいいはずだ。

 言葉には出さず自らを納得させた未来がホルスターを開いてジョーカーメモリを摘み出す。

 

「あんたのことでしょ、翔太郎」

 

 すぐ側まで来て黒いメモリを差し出てきた未来の声は、心なしか明るさを取り戻しているようだった。金属の手のひらにある黒いメモリを受け取った翔太郎が、格好のつけようもなく憎まれ口を叩いてくる。

 

「……ふん。こうなったら、俺の身体を頼んだぜ」

 

「身体?どういうこと?」

 

 未来が小首を傾げるのを横目に、翔太郎がジョーカーメモリのスイッチを叩いた。

 

『JOKER(ジョーカー)!』

 

「変身!」

 

 翔太郎とフィリップが腕を振りかぶり、メモリを構える。

 翔太郎が身につける、いつの間にか形が変わったドライバーの左側へと装填された黒きメモリが、これまでの変身とは逆にフィリップのドライバーへと転送された。

 フィリップが左手でジョーカーメモリをドライバーへと押し込み、右手のファングを反対側へと装填する。そしてドライバーを開くと同時にファングを再び変形させ、右側のメモリに恐竜の顔が喰らいついているかのような形に固定させた。

 

『FANG(ファング)!』

 

『JOKER(ジョーカー)!』

 

 それぞれのメモリのガイアウィスパーが春の暗闇に今一度響き渡り、フィリップのドライバーから白い光が放たれて細い身体を包み込む。その光はガイアエネルギーの粒子となり、主たる者を守る鎧となって、次々と少年の身に吸い込まれていった。

 アクセルと同じように、数秒で仮面ライダーWがC-SOLの地に降り立った。ただしこれまでと違うのは右側が白く、左側が黒いフォームで、全体に棘のような突起が目立つ姿だということである。

 仮面ライダーWで唯一、フィリップの肉体がベースとなるフォームであるファング・ジョーカーであった。

 

「え?ちょ、ちょっと翔太郎!」

 

 ファングジョーカーを初めて目にして驚いていた未来が、突然力を失い崩れてきた翔太郎を慌てて支えている。彼の意識は既にファングジョーカーの中にあり、今の身体は抜け殻となっていたのだ。

 

「そういうこった。後は任せた!」

 

 翔太郎を抱き止めた未来を見届けてから、Wはリボルギャリーの向こう側へと走った。

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