「まず最初に、あの泥人形どもを片付けるぞ!」
言うが早いか、エンジンブレードを携えたアクセルが勢いをつけて地面を蹴った。その視界には少なくとも五体以上の敵がある筈だったが、怯む様子は全く見せていない。
泥人形は体格こそアクセルやWを凌ぐ巨体であるが、無表情な土の仮面をつけた顔に鈍い動作、パワー一辺倒で掴みかかってくる程度の単純な攻撃方法は、個体に差がなくどれも同じだ。一度に数体であれば、仮面ライダーにとっては取るに足りない相手だと踏んだのだろう。
加えて数を頼みにして密集している状況を踏まえ、エンジンブレードを有効な攻撃手段と捉えて踏み込んでいったに違いない。
「よし、翔太郎。広範囲に攻撃が効くメタルシャフトだ」
「おう!」
戦況を素早く分析し終えて判断を下したフィリップに従い、翔太郎がフォームチェンジのための新たなメモリを取り出した。
基本フォームであるサイクロン・ジョーカーのメモリをドライバーから抜き取り、ヒート、メタルメモリのスイッチを素早く叩いて装填する。
『HEAT(ヒート)!』
『METAL(メタル)!』
Wの身体の中心から外側に向かって光が走り、ガイアウィスパーの響きとともにサイクロン・ジョーカーフォームからヒート・メタルフォームへと換装された。右半身が赤、左半身が銀色の姿と変わったWは、長さがある棍状の武器であるメタルシャフトを両手に構え、アクセルの後を追うように混戦のさ中へと飛び込んでいく。
アクセルがエンジンブレードを閃かせ、Wが構えるメタルシャフトが空を裂くその度に、泥人形数体の四肢をその軌道の中へと巻き込んでいった。二人が気勢を上げて武器を振るうと、敵は身体を作り上げている土塊を飛び散らせながらぼろりと崩れ、一撃で地に倒れ伏す個体さえいる。粗い外見に比例した鈍重さと、脆さとが弱点のようだった。
しかし、味方が次々と倒されていく様を目にしても、泥人形は全く退こうとしない。
それどころか動く土塊の群れをかき分けるようにして、三体のドーパントが前方へと躍り出てきた。流石に彼らは泥人形と違い、俊敏な動きで挑みかかってくる。
「ちっ!」
アクセルが鋭い舌打ちを漏らし、ビーストの拳を腕で弾いてトライセラトップスの蹴りを避けた。身体を捌きつつ、背後から掴みかかろうとしていた泥人形の仮面に裏拳を叩き込む。
「駄目だ、数が多すぎる!」
その側でアノマロカリスの打撃にメタルシャフトで対抗するWの内から、フィリップが叫んだ。多数の敵の中に飛び込んだこの状況では、相手が全部でどれだけいるのかも既にわからない。
相棒の焦りを感じ取った翔太郎が、アノマロカリスの拳をメタルシャフトを翳して防いだ隙に、その腹へと渾身の力を込めた突きを喰らわせた。勢いに負けたアノマロカリスの巨躯がはね飛ばされ、泥人形の群れの中へ仰向けで倒れ込む。
「面倒臭ぇ。これで一気に行くぞ!」
周囲の敵全員の攻撃が止んだ一瞬の空白に、Wがドライバーからメタルメモリを抜き取って、素早くメタルシャフトのマキシマムドライブに装填した。
『METAL MAXIMUM DRIVE(メタル・マキシマム・ドライブ)!』
持ち主の意思に応え、ドーパントにとってもっとも恐るべき必殺技であるマキシマムドライブが発動する。構え直されたメタルシャフトのマキシマムスロットからガイアウィスパーが迸り、地球の記憶を源とするエネルギーがWを中心にして不規則な波を作った。
メタルシャフトの両端から溢れ出る灼熱の炎の力を感じながら、Wが両手で重い棍を見事な技で捌き、光り輝く軌跡を描く。全ての異物を排除するガイアエネルギーが空を薙いで、邪気を払わんと唸りを上げた。
「メタル・ブランディング!」
Wの中にいる二人が左右の呼吸を合わせ、力を込めて叫ぶ。
彼らの身体がメタルシャフトを左右に振るい、回転させながらガイアエネルギーを解放した。そこから生み出される同種の力のみを打ち砕く波動の渦が、泥人形たちを、アノマロカリス・ドーパントを飲み込んでいく。
Wの放ったマキシマムドライブに耐え切ることなど当然叶わず、メタル・ブランディングの範囲内にいた敵全てが破裂音ともに爆発した。巨大なエネルギーが熱波となって炎を春の空気に叩きつけ、砂漠のごとき風の嵐を広場に吹き荒れさせる。
「ACCEL MAXIMUM DRIVE(アクセル・マキシマム・ドライブ)!」
そして周囲の泥人形を片付けたアクセルもまた、アクセルメモリのマキシマムドライブを発動させていた。アクセルドライバーに装填されたメモリが赤い輝きを放ち、アクセルの全身を熱と炎で包んでいく。
ドライバーから周囲の空気を震わせるほど強力な力を注ぎ込まれたアクセルが、低い体勢で地面を蹴って飛び出し、地上を駆ける炎の弾丸となった。常人ではその目で姿を捉えることすら困難なスピードに乗って、アクセルは二体のドーパントの前に躍り出る。
「はあっ!」
気合いを一閃して、空中のアクセルが後ろ回し蹴りをビースト・ドーパントとトライセラトップス・ドーパントへ同時に叩き込んだ。流麗なフォームで、しかし他の力が及ぶことを許さないほど強烈な威力を持ったエネルギーが二体のドーパントへと流れ込み、同種の波長を持つガイアエネルギーを急速に収束させていく。
「絶望が、お前たちのゴールだ!」
アクセルのマキシマムドライブの一つ、アクセルグランツァーをまともに喰らった二人のドーパントは、ともに内側から生じた爆発に断末魔の絶叫を轟かせて炎の中に崩れ落ちた。
泥人形は全て人の形を失って崩れた後に燻る土の山と化し、ドーパントはガイアメモリを肉体から強制的に排出され、人間の姿に戻ってぐったりと倒れ込む。
気を失った数人の男と煙を上げる土に溢れた状態ではあったが、広場ではようやく騒ぎがおさまったようだった。警戒してまだ変身を解いていないアクセルが、倒れた者の側に近寄って様子を確かめている。
「あ?何だこりゃ」
照井の警察官らしい行動を尻目にふと足元へ目をやったWが、煉瓦敷の地面に落ちていたものを拾い上げた。一番近い土の山の側にあったそれは小指の爪ほどの鉱物のようだったが、薄く鋭角になっている縁には人工的につけられた模様のようなものがあり、自然の造形ではないことが一目でわかる。
「これは……ガイアメモリの欠片だ」
翔太郎と視線を共有するフィリップがその正体に気づき、驚きの声を上げる。
相棒の発言にやはり驚かされた翔太郎は、欠片をひっくり返しながら辺りを改めて見回した。するとどの土の山の側にも似たような金属片が落ちており、鈍い光を放っていることが確かに見て取れた。
戦う前は、こんなものは落ちていなかったはずだ。加えて位置関係から考えても、これがあの泥人形たちの身体に埋め込まれていたと考えていいだろう。
まるで、ガイアメモリと使用した人間の関係と同じだった。
「どういうことだ?こんなものが、あいつらを動かしてたってのか!」
狼狽した翔太郎がフィリップに問うても、すぐには答えが返ってこない。状況から見ても恐らく間違いないだろうが、フィリップは確実性がないことを口にするのを躊躇っているのだ。
「それにこいつらは……行方不明になっていた、手配中のガイアメモリの密売人たちだ」
「まさか、全員がそうなのか?」
そこへドーパントから人間の姿に戻った者の確認を終えたアクセルが戻ってきたが、再びフィリップは驚愕させられる羽目となった。
少年の反問にアクセルが頷いて見せると、Wの内にいる二人は、思わず同時に倒れた人間たちへと視線を走らせた。
密売人ほどガイアメモリの恐ろしさを熟知している者はおらず、余程切羽詰まらなければ、自分で使用しようという気にはならないのが普通だ。それが揃いも揃って悪魔の商品に手を出すなど、一体どうなっているのか想像もつかない。
「何だと?おい、どういうことなんだ!」
明らかになった事実に翔太郎が声を上げるが、無論照井にも答えられる筈がない。知っているなら、とっくに教えているだろう。
「何にしても、この泥人形を作り出した者は必ずどこかにいる筈だ。それを突き止めなければ」
まだ興奮がおさまらない翔太郎をよそに、フィリップが噛みしめるように呟いた。
「俺は、密売人たちを署へ連行しよう。意識が戻ったら、何か情報を聞き出せるかも知れないからな……」
そこまで言いかけたアクセルが、不意に口をつぐんで緊張を走らせた。
「どうした?照井竜」
エンジンブレードまで構えたアクセルにフィリップは不審そうにしたが、理由はすぐにわかった。二人の仮面ライダーが立つ広場の端の逆に位置する出入口から、新たに泥人形の群れが不気味な足音を響かせて殺到してきたのだ。
まるで倒れたままの密売人たちを庇うように展開する茶色の人影は、ざっと見て二十体は下らないだろう。
「畜生、また出てきやがって。きりがねえじゃねえか!」
翔太郎が思わず悪態をつくが、この状態を放置して事務所へ戻ることは許されない。
同じ想いでいたアクセルは、エンジンブレードを構えて早くも敵の群れへと向かって駆け出していた。
「とにかくやるしかない。もう一度、マキシマムドライブだ」
「ああ」
Wの肉体を共有する少年に半熟探偵が頷いた、その時である。
突如として肩が重くなり、仰向けで後ろに引き倒されそうになった。
「おわっ!」
素っ頓狂な声を漏らしたヒート・メタルフォームのWは、メタルシャフトを地面に突き立てると辛うじて堪えた。背後にもう一つあった広場の出入口からも、いつの間にか泥人形たちが侵入してきていたのだ。
「くそっ!」
後ろから背中に掴みかかり、羽交い締めにしてこようとした泥人形の腕を振りほどき、Wが体勢を立て直す。しかし一度崩れた構えは、動きは鈍いが数で圧してくる敵にもつけ入る隙を生じさせていた。
「くっ!」
次から次へと襲いかかってくる敵の腕を何とか掻い潜るが、背後から広場への侵入を許してしまった相手は十体以上いるだろうか。
これでもし他のドーパントまでが現れようものなら、予想以上に厄介な事態に陥りかねない。
同じ危機感を、半熟探偵と天才少年がいだいた時だった。
ひゅっ、と空が鋭く唸ったかと思うと、それを追いかけるように重い衝突音が上がり、目の前にいた泥人形の一体が視界の外に弾き出されていった。突然敵の一人が消えたことにWが目を見張った一瞬の間にまた一体、更に別のもう一体と、次々に泥人形の姿が減らされていく。
「二人とも!大丈夫?」
そこへ聞き慣れた、子供っぽい女性の甲高い声が響いてくる。そこで丁度正面に立ち塞がっていた泥人形が薙ぎ倒されるように地面へ転がり、後ろにいた人物の姿がWの前に現れた。
「亜樹子!未来まで……何でここに!」
そこには鳴海探偵事務所「女子中学生」所長の亜樹子と、ポール部分が歪に曲がったカーブミラーを掴んだ未来が立っていた。デニムにジャケットといういつものいでたちの未来は、亜樹子を後ろに庇うようにして立ち、無理やり引きちぎってきたと見えるカーブミラーを軽々と構えている。
「あきちゃんを事務所に送る途中でね。偶然だよ!」
答えながら未来は黒い革手袋を嵌めた両手首を翻し、即席ポール・ウェポンと化したカーブミラーを振った。ミラー部分がWの後ろにいた泥人形の仮面に激突して、頭を跡形もなく粉砕する。ポールは別の一体をも途中で巻き込み、軽く数メートルは横に撥ね飛ばしていた。
決して力を込めているようには見えない未来の動きであったが、速度に遠心力が加わった攻撃は恐ろしいまでの破壊力を敵にもたらしたのだ。
「……お前、スゲーな。そんなもんを武器にする無茶な女は、初めて見たぜ」
「人聞きの悪いこと言わないでよ。あんたの戦い方を真似しただけなんだから!」
Wの内で翔太郎が本気で感心しながら泥人形に蹴りをくれる一方で、未来は半壊したカーブミラーを振るい続けている。おかげで彼女の前方は、泥人形が近寄れない空間ができる有り様となっていた。
「冗談じゃねえ、俺の戦い方はもっとスタイリッシュだ。人聞きが悪いのはお前の方だろ!」
「ふん。抜かしてな、かっこつけ!」
Wが敵へメタルシャフトを叩き込み、未来が即席の武器で力任せに払いを入れる間に飛び交う軽口に、彼らの高揚した気持ちが表れている。ドーパントに対しては決定力に欠ける彼女も、こういう時は大きな戦力となってくれるのがありがたかった。
「その部分は全く以て、彼女に同意だ」
「あ?何だと?」
Wの中でさりげなく未来の言葉に同調したフィリップに翔太郎が突っ込みを入れ、立ち回りを演じながらの一人漫才までが始まろうとする。
「きゃあっ!」
その矢先、鋭い悲鳴が彼らの耳を打った。泥人形の一体が亜樹子の後ろへ回り、小柄な身体を捕らえたのだ。
「亜樹子!」
翔太郎の声で叫んだWが慌てて駆け寄ろうとした時、彼よりも近くにいた未来が振り向きざまに上段突きを放っていた。黒い革手袋に包まれた右の拳が泥人形の仮面を叩き割り、亜樹子を羽交い締めにしていた腕が緩む。
「その子に手ぇ出すな、このデク人形!」
その隙に亜樹子の腕を引いて救い出した未来は、低い雄叫びとともに腹へ回し蹴りを喰らわせていた。完全に攻撃の勢いに負けた泥の身体が吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「あ……ありがと、未来さん」
「あきちゃんは、照井警視のところに行きな。早く!」
安堵の溜め息を漏らした亜樹子に、右手を軽く振っている未来が促す。
助けに入るタイミングを逸したWは気づいていなかったが、奥にいた敵を全滅させたアクセルが、いつの間にか数メートル程度隔てたところまで来て戦っていたのだ。婚約者の勇姿を認めた亜樹子が嬉しそうに頷き、赤き鎧姿のもとへと走っていく。
「ところでさ、こいつらもドーパントなの?」
亜樹子が無事にアクセルの背後に庇われたのを見届け、未来が今度はWの方へと振り返った。
「さあな。ドーパントと一緒に、湧いて出やがったんだ」
「どうやら、ガイアメモリの欠片を埋め込まれた人形みたいなものらしい。どこかに、こいつらを作り出している奴がいる筈だ」
Wの内にいる翔太郎とフィリップが簡単に答えたが、倒すべき敵の群れはまだあと数体残っている。仮面ライダー二人へサイボーグ戦士の未来が加わったことにより、こちらの優勢は明らかとなっていた。それでも、一体として逃すわけにはいかない。
「とりあえず、こいつらを片付けちまおうぜ。考えるのはその後だ!」
翔太郎が握り拳をもう片方の掌にぶつけてから構えると、未来はカーブミラーを投げ捨ててショルダーホルスターからグロックを抜いた。
そこへ三体の泥人形が正面から向かってきたが、二体をWが蹴りで粉砕し、一体を未来が銃で撃った後に殴り倒すまで、一分もかからなかったであろう。アクセルも亜樹子を守りながら残る敵を倒し切ったのが、Wや未来とほぼ同時であった。