仮面ライダーW 追われるS   作:日吉舞

51 / 66
罪を背負う者 -24-

 未来も、仮面ライダーたちに更なる負担を強いなければならないとなると気が重かった。

 この先でも強く、しかも五回とどめを刺さなければ倒せない劣化ドーパントが待ち受けているなど、正直考えたくもない。ラストがここまで強いドーパントであること自体が完全な見込み違いだったことも、痛感させられていた。

 だが、今回は自分にとって負けることが許されない戦いだ。せめてこれを今後の教訓として活かすことと愚痴を兼ね、彼女は指令役をつとめているハーフの青年へと呼び掛けた。

 

「こんな連中、私たちだってそうお目にかかる機会はないだろうからね。今後のいい勉強になるよ」

 

 自分へ宛てた言葉だと思わなかったのか、リューは無言のままである。

 今度は名指しにして、未来はもう一度通信を入れた。

 

「リュー、流石のあんたもこういう敵は知らないんでしょ?」

 

 数秒待ってみても、やはり応答はない。音声がきちんと届いていないのだろうか。

 ヘルメットの耳に当たる部分をこつんと指先で叩いてから、彼女は仲間の名だけを呼んでみた。

 

「リュー?」

 

 まるで死んだように反応を返さない通信に、未来の声には不安が混ざり始めていた。彼女の様子から異常に気づいた仮面ライダーたちも、振り返って視線を送ってくる。

 

「どうしたの?応答してよ!」

 

 未だ連絡を取り続けようとしている未来は、戦闘時とはまた異なった焦りを感じていた。

 ヘルメットに仕込まれているヘッドホン部分からは、センサーが拾ってくる外界からの音しか聞こえてこない。指令本部との通信は雑音すら入ってこず、文字通り完全に沈黙していたのだ。

 

「所長、聞こえるか?」

「おい、亜樹子!ギークも、返事しろ!」

 

 状況を把握したアクセルとWも、自分が持っている通信機で仲間へのアクセスを試みる。が、やはり反応は全くない。

 警察でも無線を日常的に使っているアクセルが、やれやれと言いたげにひとりごちた。

 

「通信ができないようだな」

「そうみたい。全員が一度にダメになったってことは、基地側の問題だと思うけど」

 

 通信用の電波は天候などの自然条件でも影響を受けることが珍しくないが、今回のように全員の機器で一斉に送受信が不可となったのは、基地局で何かあったと考えるのが妥当であろう。そのこと熟知しているアクセルは、別に慌てた素振りも見せていなかった。

 

「故障か。なら、仕方がない。回復を待つとしよう」

「だったらいいんだけど……」

 

 照井と同じく無線のトラブルなど日常茶飯事であろう未来は、何故か歯切れの悪い返事を返してくる。恐らくヘルメットの下の表情も曇らせているであろう女戦士に、アクセルが問いかけた。

 

「どうかしたのか?」

「なんか、嫌な予感がするの。あっちは本当に大丈夫かな」

 

 胸に抱いたもやもやとした気持ちに自分でも戸惑っているのか、未来はまだ指先でヘルメットの耳元を叩き続けている。

 

「どうしてそう思うんだい?理屈屋の君が、珍しいことを言うね」

「根拠があるわけじゃないよ。ただの勘ってやつ。まあ、気にしてもしょうがないのかも知れないけどさ」

 

 フィリップが不思議そうに未来の様子をうかがうと、彼女はまだ落ち着かなげに視線を巡らせているようだった。そのヘルメットがふと向けられた先では、キャタピラロボットが計器の間からひょっこりと姿を現していた。

 モーターの小さな音を立ながらこちらへ来ようとするロボットを見つけた翔太郎が、顎をしゃくって稼働が正常に見えることを示そうと試みる。

 

「ロボットはちゃんと動いてるじゃねえか。あれはギークが操縦してるんだろ?」

「とっくにオートモードになっている。今は誰も操縦はしていないよ」

 

 が、同じ身体を持つフィリップが即座にそれを打ち消した。

 自分が変身を解除して肉体に戻れば作戦用トレーラーの状態をすぐに確認できるものの、敵地の只中で変身を解くのは危険過ぎだった。

 僅かに沈黙しかけた少年の考えを察したのか、アクセルが未来を安心させるように軽く彼女の蒼い肩に手を置いた。

 

「あっちにはギークがついている。いざとなればトレーラーごと逃げられるし、たまたま今は出られないだけかも知れない。大丈夫だろう」

「それに連絡が取れなくなったとしても、俺たちだけで何とかすることだってできる。向こうだって、壊れたままにしちゃいねえだろ。お前の仲間を信用して、復旧を待ってやれよ」

 

 敵の潜伏先に深く入り込んでしまった今ここで引き返す訳にもいかず、かと言ってフィリップの精神を肉体に戻すわけにもいかない。となれば、あとは仲間を信じて待つことしかできないのだ。

 

 恐らく、単純な機器の故障であろう。

 リューが必死に修理している様が、未来の脳裏にありありと浮かんでくる。もし通信が回復しなくても、自分たちだけで何とかすることも不可能ではないはずだ。

 

「……そうだね。わかったよ」

 

 未来は自身をそう納得させてから息をつき、ヘルメットの頭を頷かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ夜明けも近くなり、早起きの野鳥たちが森の中で目を覚まし始め、明けの明星が藍色の夜空に輝く頃。風都の外れに建つ清掃工場でも夜通し働く者はおらず、本来ならばひっそりとした静けさの中にある時間帯である。

 しかし鉄に囲まれた工場の中に足を踏み入れる者があれば、きっと僅かな喧騒を耳にしたことであろう。殆どが無人の工場でも稼働し続ける機械の音に紛れてしまうが、誰かが上げる叫び声や何かを殴打する鈍い音、果ては銃声のらしき音までが混ざっていることに、敏感な者なら勘づいたかも知れない。

 

 その物騒な音の塊は、工場に網の目のように張り巡らされているダクトを通じて漏れ出ていた。

 空気の通路は清掃工場の全てに、一般人が入り込めないエリアにまで通じている。その一部である、街を清潔に保つ役目とは真逆のそれを負った裏の部分ーー即ち、ガイアメモリ工場にまで及んでいた。

 清掃工場とは打って変わった、化学プラントそのものの設備を抱える工場の地下二階から、若い男の苛立ちをうかがわせる叫びが上がる。

 

「ったく、一体何人いやがるってんだ!」

 

 二体の泥人形にルナメタルフォームのマキシマムドライブを放った翔太郎が、思わず吐き捨てていた。その後ろには、各々の武器を構えたアクセルとパワードスーツ姿の未来が油断なく控えている。

 鎧を纏った泥人形と最初に遭遇してから、彼らは更にあと二度の戦闘を強いられることとなっていた。敵の中に純粋なドーパントがいなかったのは、普段の事件であれば不幸中の幸いと言うべきだっただろう。

 

 しかし、相手が五回倒さなければ退治できない相手ということもあり、仮面ライダーたちは既に数度、メモリブレイクを放っていた。

 当然のことながら、強力な必殺技を繰り返して使えば、その分だけ体力の消耗も激しくなる。

 二人の仮面ライダーの疲労を心配した未来が、サブマシンガンを下ろしてから遠慮がちに言った。

 

「みんな平気?疲れてるなら、少し休まなきゃもたないよ」

「いや、大丈夫だ。休んでる暇があったら、少しでも先に進んでおかねえとな」

 

 ルナメモリをマキシマムスロットから抜いてドライバーに戻した翔太郎は、軽く手首を振ってメタルシャフトを持ち直している。

 確かに今のところ問題はなさそうだが、これからまだ何度戦闘が控えているのか見当がつかず、できるのなら技は絞っていくべきであろう。ラストと戦う時も、メモリブレイクが使える方が有利になることは目に見えているのだ。

 

「これから先は、メモリブレイクを使うのは控えよう。いざラストと戦う時のために、体力は温存しておきたい」

 

 ともすれば短絡的な考えに走りがちな相棒の半熟探偵を今のうちに諌めておくつもりなのだろう、フィリップが思ったままを口にする。

 自分に対ドーパントの決定的攻撃手段がないことを改めて実感させられたのか、未来の声が苦笑混じりになった。

 

「……済まないね。私にも、メモリブレイクみたいな技があれば良かったのに」

「気にするな。お前は、ラストに勝つことだけを考えていればいい」

「それは、わかってるつもりなんだけど……」

 

 もう彼女に突っかかることもなくなったアクセルが気を使ったらしい台詞を向けても、未来の話し方は変わらない。責任感が強い性格なだけに、仲間に頼らざるを得ない今の立場が心苦しいのであろう。

 

 だが、未来が戦闘や索敵において大きな役割を果たしていることに変わりはなく、Wもアクセルも彼女の能力を計算に入れた上で戦っているのだ。

 それを敢えて言葉にはせず、アクセルは周囲への警戒を未来に促した。

 

「それより、大分奥まで来たようだな。まだ奴等が潜んでいないか?」

 

 仲間の言葉を受けた未来が、反射的に耳をそばだてて周囲を見渡す。サイボーグの女戦士は、ヘルメットに内蔵された動体反応センサーと熱センサーを自らの感覚器に連動させ、更に聴覚を一般的な雑音の帯域に絞った。カメラが捉えた外界の映像がいっぱいに広がる視界スクリーンに、様々なセンサーが弾き出した色鮮やかな分析結果が重なっていく。

 

 水銀灯の緑がかった明かりに薄く照らされているガイアメモリ工場は、泥人形たちとの戦闘が終わり元の静音に満ちた姿に戻っている。自分たちは最初の戦闘からかなりの距離を進み、今現在は地下二階の中央よりも奥に足を踏み入れていた。今は他に生き物の気配がなく、パイプがびっしりと並んだ天井にも特に怪しいところは見受けられない。

 スクリーンから一通りの数値を読み取った未来が、首を軽く横に振った。

 

「もう何もいないよ、今のところはね」

「なら、もう行こう」

 

 と、Wの中で翔太郎が皆を促す素振りを見せる。

 アクセルと未来も頷いて、彼等はまた工場奥へと歩き出した。索敵能力が高い未来が自然と先に立ち、その後ろをWとアクセルが守る形になる。

 

 すると、一同が動き出したことを察したキャタピラロボットがパイプの隙間から這い出てきて、再び先頭についた。このロボットは後につく者たちの歩みが止まればその場に留まり、物理的な危険がある場合は回避行動を取るよう自動制御されている。指令部であるトレーラーとの通信が途切れたままの現在、このロボットが手動で動いているのかどうかを確かめる術はない。

 

 相変わらずだんまりを続ける通信機を気にしたフィリップが、前を歩く未来のジュラルミン製バックパックから視線を外して呟いた。

 

「しかし、通信はまだ回復しないようだね」

「やっぱりおかしいよ。いくら何でも、単なる故障にしては遅すぎる」

 

 少年の一言に、不安を煽られたらしい未来が同調した時である。不意に彼女の蒼いチタンに包まれた足が止まった。

 

「止まって。何かいるみたい」

 

 彼女は後に続いているWとアクセルを片手で制し、もう片方の手を腰のサブマシンガンへ伸ばす。鋭い警告に歩みを止めたWが、反射的にその視線を追った。

 

 自分たちがいるのは、天井部分が吹き抜けになっており開けている空間へ繋がる狭い通路で、自身の隊列で丁度入口を塞ぐ格好になっている。そこから先は金属板の通路がかなり広がっており、通路はその巨大な踊り場へと続いていた。踊り場からはあちこちから小さな階段が枝分かれする造りになっていた。その複雑な構造は、これまで通ってきた道と変わっていない。

 

 未来が睨みつけているのはその奥の方で、様々な機械類がまとまって歪な影を落としている一角のようだった。

 

「何だ、何かいるようには見えねえぞ?」

 

 そこに何者も見いだせないでいるWが、未来の後ろから進もうとする。

 

「待て、危ない!」

 

 慌てた未来が、まだ前に踏み出そうとしていたWの肩を押さえようとした時だ。

 前方から上がったひゅっと空気を裂く高い異音が、僅かに一同の耳を打った。が、未来はほぼ同時にサブマシンガンのグリップを掴み上げている。迷わずWの肩越しにフルオートを開放した未来は、一同から数歩程度に迫るところまで飛来していた物体を見事に撃ち落していた。

 

 大人の身長の高さの空中に弾丸で磔にされた細長い何かは、あえなく金属の床に落下する。

 それは皆のすぐ足元で、鉛弾を浴びせられて穴だらけになった姿を蛇のようにのたうち回らせ、胸が悪くなるほどの生命力を見せつけていた。紫色の枯れ枝を思わせるその形に、一同には間違いなく見覚えがある。

 

「こいつは……!」

「下がって。まだ来るよ!」

 

 驚いた翔太郎が物体の正体に触れようとすると、未来が再びWを制して前に進み出る。彼女の常軌を逸した聴覚は、仲間の声に紛れようとしていた先と同じ異音を正確に捕まえていたのだ。

 

 撃ち出す弾丸の数が一丁の銃だけでは足りないと判断した女サイボーグの手が、空いた手で腰に下げられたもう片方のサブマシンガンをひっ掴む。彼女は常人の数百倍以上にもなる聴覚の網にかかった音の方へ、考えるよりも早く九ミリパラベラム弾の嵐を叩き込んだ。

 

 その弾幕に阻まれて、仮面ライダーたちに襲いかかろうとしたモノたちが次々と床に落ちていく。

 未来があちこちを狙い片っ端から撃ち落としていくのは、最初に攻撃してきた枯れ枝状のそれと全て同じであった。

 

「これは、ラストが操っていた蔓だ」

 

 未だ激しく金属板の床で暴れ回っている蔦を見たフィリップが、それを差し向けてきた敵について言い及ぶ。

 この奥に潜んでいるラスト・ドーパントが、高速移動を繰り返しながら蔦を放ち続けているのだ。

 

「翔太郎、僕たちも銃を!」

「ああ!」

 

 銃撃による応戦を続けている未来を援護すべく、フィリップがルナメタルフォームからの換装を翔太郎に促す。言われるまでもなくトリガーメモリを取り出した翔太郎は、青く輝くガイアメモリのスイッチを掲げて素早くスイッチを叩いた。

 

「TRIGGER(トリガー)!」

 

 ガイアウィスパーを上げたトリガーメモリを素早くボディサイドのメタルメモリと入れ換えると、今一度メモリが吼える。

 

「LUNA(ルナ)!」

「TRIGGER(トリガー)!」

 

 Wの左半身が光り輝いて正中から塗り替えるように色が変わり、鮮やかなブルーのトリガー・フォームにチェンジした。左胸にセットされているトリガーマグナムを取り上げて、ルナトリガーフォームのWが広間の奥へと狙いを定める。

 途端、左側面に当たる方向から床を蹴る派手な音が上がった。

 

「そこだ!」

 

 Wへのあからさまな挑発とも思われる足音が上聞こえた柱の陰へ、エネルギー弾が撃ち込まれる。しかしそこには誰の姿もなく、トリガーマグナムが吐き出した無形の弾丸は、大きな火花の中に目標の影を捉えることができなかった。

 

「ちっ。おい、隠れてねえで出てきやがれ!」

 

 弾速という点でどうしてもマシンガンに劣るトリガーマグナムは、障害物の間を素早く動き回る敵には当て辛いことこの上ない。

 翔太郎は、Wの左半身と同じく鮮やかな青き銃を構えたまま足を動かさず、踊り場の奥へ向かって怒鳴った。

 すると広間のほぼ中央、身を隠す場所が全くない金属板の床の上に、見紛うことなき紫色のドーパントが忽然と姿を現した。

 

「ラスト!」

 

 その枯れた植物が歪に曲がりくねったような容姿を目にし、反射的に翔太郎が身構える。

 しかしWの精神を共有するフィリップは、じわじわと相手を追い詰めることを好むラストがあっさりと姿を晒したことに、少なからず驚きを覚えていた。

 

「別に隠れてなどいない。お前たちが鈍すぎて、追いつけないだけだ!」

 

 と、一同を指差して一言だけ嘲ったラストは、一瞬でまたその身を消した。

 ラース・ドーパントの能力を使って高速で移動したのではなく、本当にかき消えたのだ。

 

「瞬間移動か?まさか……」

 

 移動のための予備動作を全く見せずに身を隠したラストの能力かと警戒したアクセルが、緊張してエンジンブレードの柄を握り直す。

 それを即座に否定したのは、誰よりもドーパントの特性に明るいフィリップであった。

 

「いや。恐らく、インビジブルメモリの効力だ」

「何だと?奴め、そんなもんまで……」

 

 ラストが嘗て井坂の細工を施したメモリまでも吸収していたことに翔太郎は驚いたが、それも一瞬だった。恐らく今まで相対した中でも最も許しがたい敵の姿を求め、すぐに辺りの気配を探り始める。

 

「くそっ、どこへ行った?」

 

 アクセルもWと同じく、姿をくらましたラストを探して踊り場のあちこちへ視線を飛ばす。

 思わず前に出ようとした二人であるが、先頭に立っていた未来が彼らを押し止めて言った。

 

「熱反応と音で追跡する」

 

 この場で最も適した能力を持つ女サイボーグが、ヘルメットの側面に指先を触れさせながら視界を一巡させる。彼女はヘルメットの内部に表示されるセンサーの分析結果を読み取りながら、ほんの一呼吸の間だけ意識を集中させたようだった。

 

「あそこだ!」

 

 そして叫ぶと同時に両手のサブマシンガンを広間右手奥に向け、トリガーを引き絞る。

 二つの銃口が作り出した弾丸のうねりが、踊り場の端に設けられた鉄の柵で跳ね返って大きな火花を散らした。刹那の間に空間を照らしたオレンジ色の光の中に、踊り場から下る階段へと向かうラストの背中がくっきりと浮かび上がる。

 

「待て!」

 

 翔太郎が怒号を上げて、Wが走り出した。彼が示した当然の反応に、他の仲間たちも従って駆け出す。

 インビジブルメモリの効力が姿を消すことであるのを悟った未来が、すぐにWを追い抜いて先頭へと躍り出ていた。注意深く前方の様子を探りつつ、後方につくことになった仮面ライダーたちに手を挙げて自らが先導する合図を送る。

 

 彼女が熱反応センサーを通して見るラストは生命体である以上、肉眼では捉えることができなくとも、体温という手がかりを反応として残してくれる。そして優れた聴力は、もしその反応を見失っても、確実に導いてくれるという確信があった。

 

 ラストは煙のように消えては離れた場所に後ろ姿を現すことを繰り返して逃亡を続け、その後にヒーローたちが猛然と追いすがった。薄暗いガイアメモリの工場を疾走する四体の異形は鉄の通路を走り、キャットウォークから続く階段を飛び下り、タンクが作る段差を乗り越え、施設の奥へ奥へと深く入り込んでいく。

 

「くそ!三次元で逃げられると、やりにくいったらありゃしねえ!」

 

 ただでさえ身軽な未来が加減なしに走る後ろへ必死でついていくWが、息を切らせながら悪態をついた。アクセルも同じ速度を保ってはいるが、かなり疲労しているだろう。

 

 しかし、敵のただ逃げるだけという行動が不自然であることに、未来は既に気づいていた。横合いから他のドーパントが飛び出す様子もなければ、泥人形が背後から襲いかかってくることもない。この絶好の機会に何も仕掛けてこないのは、おかしいと言えた。

 

「……罠かも知れない。みんな、気をつけて」

 

 ラストが逃げ場を失わせようとしていることを皆に伝えようと、未来が注意を後ろへ向けて呟いた時である。

 今まで追いかけていた、十メートル以上は前を走っているラストの足音がぴたりと止まった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。