仮面ライダーW 追われるS   作:日吉舞

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罪を背負う者 -31-

「しかしあれでは、ガイアエネルギーを媒介している人間に負担がかかりすぎる。恐らく、長くは保たない筈だ」

 

 肩を揺らして荒い息をつきながらもまだ構えを解かないラストを見るフィリップは、観察を続けながら淡々と言った。

 確かにラストの能力は底上げされ、他のドーパントの特殊能力を一気に複数使えるかもしれないが、それはあくまで一時的なものに過ぎない。無茶な運動をすれば、身体が酷使されて激しく疲労するのと同じことだ。力を使い過ぎればベースとなっている人間の細胞に重い負荷がかかり、消耗するのは目に見えている。

 

「少し持ちこたえれば、俺たちに有利になるというわけか。もう一度、全員で一気にかかるぞ!」

 

 アクセルがこれを勝機と見て他の二人を振り返ったとき、リューの緊張した声が割り込んできた。

 

『ラストが消えました!』

 

 今までもキャタピラロボットの視界を通して様子を見守っていた司令官役の青年は、ただの通信であっても逼迫しているのがわかるほどだ。ただならぬ彼の様子に、一同が慌ててラストへと注意を戻す。

 

 だが、もう遅かった。

 一瞬前までラストが立っていた筈の場所に、既にその異形は影も形もない。

 超高速で宙へと翔び、一秒にも満たぬ間に仮面ライダーたちの間近へと接近していたのだ。その速度たるや、普通の人間には瞬間移動としか見えないほどであろう。

 

「死ねぇ!」

 

 空中から怒号とともに放たれた蔦の一撃が、ほんの一瞬だけ隙を見せていたアクセルの背中に襲いかかる。全体重を乗せて振り下ろされてきた棍がまともに紅き鎧に激突し、重量があるはずのアクセルを吹き飛ばした。

 

「ぐっ!」

「竜くん!」

 

 自動車で撥ね飛ばされたような衝撃をまともに喰らい、床へ転がるように倒れ込んだアクセルの側へ、亜樹子が悲鳴を上げて駆け寄っていく。

 

「野郎、いつの間に!」

 

 Wの中で舌打ちした翔太郎が、トリガーマグナムの銃口を一旦距離を取ったラストへと向ける。全フォームの中で最高クラスの破壊力を持つエネルギー弾を、ヒート・トリガーフォームのWが連続で撃ち込んだ。

 しかし誘導性のない無形の弾丸は、ラストの高速飛行能力に全く追いつけない。Wが放った攻撃は全て後方の壁に孔を穿っただけで、ただの一発も命中していなかった。

 

「そんなもん、当たらなきゃ意味ねえんだよ!」

 

 スピードで仮面ライダーたちを圧倒しているラストが、嘲りの一言を残して地面へ飛び降りる。

 

「はあっ!」

 

 そこへ、バヨネットを振り翳した未来が突っ込んでいった。

 彼女が気合いとともに繰り出す刃先は、先と同じように全く手加減がない。

 が、仮面ライダーをも凌ぐ基礎能力を誇るサイボーグ戦士の攻撃さえ、ラストを圧倒するに至っていないことは一目瞭然であった。目にも留まらぬ速度で繰り返される突きや払いは時折相手を掠めるのみで、はっきりとしたダメージを与えられていないことは、未来自身も感じるところである。

 後ろからWのトリガーマグナムによる援護を受けているにもかかわらず、だ。

 しかも彼女が負わせた浅手でさえ端から再生していき、数秒で無傷の身に敵が戻ってしまうという有様であった。

 

「くそっ!これじゃあ、いくら攻撃してもホントにきりがない!」

 

 歯痒さに、未来が悪態をついた時だった。

 彼女のバヨネットによる攻撃を避けるだけに専念していたラストが、勝ち誇ったように哄笑を上げた。

 

「ははは!最強は……俺だぁ!」

 

 続いた叫びに、再びガイアエネルギーの爆発が重なった。

 ラストの体内から緑色の輝きが迸り、幾つもの小さな光の柱が噴き上がる。まるで小さな爆弾を破裂させたかのような衝撃波と爆風が、ラストを中心とした周囲の全てを破壊せんとを飲み込んでいく。

 近接格闘戦で爆心地とほぼゼロ距離の状態にあった未来は、そのエネルギー波をもろに浴びせられることとなった。避けようがない無形の鈍器で正面から殴りつけられ、一五〇キロある全身が軽々と後方へ吹っ飛ばされる。

 

「きゃああっ!」

「おっと!」

 

 彼女は弾き飛ばされて思わず悲鳴を漏らしていたが、それは長くは続かなかった。

 背後で援護していたWと駆けつけたアクセルとが、投げ出されたパワードスーツの未来が地面に叩きつけられる前にがっちりと受け止めてくれたのだ。

 

「あ、ありがと!」

 

 二人の頼れる男たちに支えられ、女戦士は戸惑いながらも礼を言う。

 仮面ライダーたちは無言の頷きで応えて彼女を離しながらも、それぞれの得物を手に輝きを増したラストから目を逸らさない。じりじりと近寄ってくる敵の威圧感は凄まじく、三人でいる自分たちもその分だけ後退して距離を取らねばならなかった。

 

「このままでは消耗戦になる。早く決着をつけなければ……」

「ラストの執着が強烈過ぎるせいで、能力の持続時間も長くなっているようだ。これは僕にも予想外だった」

 

 攻撃の隙を窺っているラストを睨みながら、アクセルとフィリップが緊張も顕に呟く。

 これ以上、戦闘を長期化させるのは間違いなく不利だ。

 判断を下した翔太郎が、次の行動を決断するまで考えるまでもなかった。

 

「こうなったら仕方ねえ、エクストリームで奴の能力を封じる。照井、未来も。済まねえが、あと少しだけ時間を稼いでくれ!」

 

 W究極のフォームであるエクストリームは、唯一ドーパントの能力を無効化できる技がある。一気に決めるには、それしか手が残されていないのだ。

 仲間の力強い言葉に、アクセルと未来もすぐさま応えて見せた。

 

「わかった!」

「了解!」

 

 二人は一目だけWの方へ視線を走らせ、後退し続けていた足を止めた。そして同じタイミングでコンクリートの床を蹴り、ラスト目掛けて走り出す。エンジンブレードとバヨネット、二つの刃を携えた紅と蒼の鎧を纏った二戦士が、気合いの声を上げながら敵へと躍りかかっていった。

 直後、今だ緑の輝きに包まれたラスト・ドーパントが構える棍と、仲間たちの武器とが激突する金属音がホールに響き渡る。

 

「よし。今のうちだ!」

 

 仲間がラストとの格闘に入ったのを見届けたWが、二本のメモリを指に挟んで起動スイッチを弾いた。

 

「CYCLONE(サイクロン)!」

「JOKER(ジョーカー)!」

 

 続けざまに上がるガイアウィスパーももどかしげに、Wがドライバーの両端にメモリを挿し入れる。

 

「CYCLONE(サイクロン)!」

「JOKER(ジョーカー)!」

 

 もう一度メモリが吼えると、ヒート・トリガーのWは基本フォームであるサイクロン・ジョーカーへと姿を変えた。エクストリームには、このフォームからしか変身できないためである。

 その間も、アクセルのエンジンブレードはラストの肩を狙って斬りつけ、未来のバヨネットが胸を斜めに切り裂かんと振り下ろされていた。しかし他のドーパントの戦闘経験をも我が物としているラストもそうやすやすとダメージを許すはずもなく、金属光沢を放つ棍で二人の攻撃を受け止め、返す一撃を放つ。

 

 三人が奏でる激しい剣戟の中に、翔太郎は雉の鳴き声に似た音を見つけ出していた。無意識で天井を仰ぐと、視界の隅から飛び出してきた金属の塊が宙を裂き、まっすぐWの下へと降下してくる。

 完璧に制御された動きで空を滑ってきたそれをWは片手で受け止め、迷うことなくダブルドライバーへと重ねた。

 それはフィリップの肉体を既に取り込んでデータ化した、鳥を象るエクストリームメモリであった。金色の翼がレリーフされたそれは、翔太郎とフィリップの肉体と精神を完全に一体化し、最強フォームへと導いてくれる究極のメモリである。

 身体の正面に装着されたドライバーと合体したエクストリームメモリを、勢いをつけたWの手が一気に外側へと開いた。

 

「EXTREME(エクストリーム)!」

 

 そこから力強いガイアウィスパーとともに溢れ出た白い閃光が、目映い輝きの柱となってWの身体を包み込んだ。翔太郎とフィリップ、二人の肉体と精神に地球の力が注ぎ込まれ、互いの存在がより近くに感じ取れるようになるとともに、戦うための新しい力が全てを満たしていくのが実感として湧いてくる。

 

 そしてエクストリームメモリが発した白き光の束からは、最強フォームであるサイクロン・ジョーカー・エクストリームが現れた。身体の右がサイクロンの緑、左がジョーカーの黒、そして中心が地球の力の象徴である白に輝き、肩や頭部からはファング・ジョーカーフォームとも異なる太い突起が突き出た姿である。

 更に心身を同調させた翔太郎とフィリップは、声を合わせて己が武器を呼び寄せた。

 

「プリズムビッカー!」

 

 二人の呼び掛けに応えた地球の力がエクストリームの内側から白い光を放ち、その中に小さな円形の盾と、盾の裏側に差し込まれた形で一振りの剣が具現化する。

 Wの前に現れた短めの剣はプリズムソード、盾はプリズムビッカーで、どちらもエクストリーム固有の武装だった。プリズムソードには柄にしかマキシマムスロットが無いが、プリズムビッカーには四つのマキシマムスロットがあるのが特徴だ。

 

 プリズムソードは付属する単体のプリズムメモリで、プリズムビッカーはサイクロンとジョーカーメモリを除く四本のメモリで強力な必殺技を放てるのもまた、外せない点である。他のフォームでは効果がなくても、エクストリームのマキシマムドライブに倒れたドーパントは数知れない。

 

「よし、行くぜ!」

 

 翔太郎が左手で受け止めたプリズムビッカーにセットされていたプリズムソードを抜き放つと、フィリップが思念を重ねてきた。

 

「ラストメモリの全ての情報の検索が完了した。攻撃の準備は万端だ」

「ああ。早いとこ、決めちまおう」

 

 剣と盾とを構え直し、Wが切っ先をラストへと突きつける。

 

「ラスト!今度こそ、てめえの最期だ!」

 

 Wが叫んで床を蹴ると、その身体から発せられる強力なガイアエネルギーが伝わったのだろう。アクセルと未来の刃を棍で防ぎ続けていたラストが、突然恐慌をきたしたように絶叫した。

 

「来るなあ!」

 

 そして渾身の力を込めて棍を振るい、エンジンブレードとバヨネットを叩き折らんばかりに弾き返す。紅と蒼の鎧を纏った戦士二人は身体ごと後退させられる羽目となったが、それがWにとって絶好の機会を作り出すこととなった。

 プリズムメモリを取り出したWが、走る速度を緩めることなくメモリの起動スイッチを叩く。

 

「PRISM(プリズム)!」

 

 発動準備状態に入ったメモリを、すぐさまWがプリズムソードの柄に滑り込ませる。プリズムソードにメモリの力が与えられ、輝きを増した刃が薄闇の中でぎらりと光を跳ね返した。

 

「これで……終わりだ!」

 

 無形の力を秘めたプリズムソードを翳し、Wが鋭く短い刀身で斬りつけた。直前に二人分の攻撃を一度に押し返したために動きが鈍っていたラストは、一閃された攻撃を避けられずに胸を切り裂かれることとなる。

 確実な手応えがWの手に伝わってくるとともに、ガイアエネルギー同士の衝突が生む火花が散り、一瞬闇を照らし出した。

 

「ぐあっ!」

 

 光の膜をまだ纏っているラストが苦鳴を上げて身体を仰け反らせるが、構わずにWが二撃目、三撃目を叩き込んでいく。ラストが表皮が刃に抉られていく度に呻きを漏らすのは、プリズムソードが確実にダメージを蓄積させていっているからであろう。

 一時的な不利を悟ったのか、ラストはWが振り下ろしてきたプリズムソードを棍で跳ね返し、その反動を利用して飛びすさった。

 

「そんな技で、俺を倒すつもりでいるのか?貴様の相手は、こいつらで十分だ!」

 

 喚きながら、ラストは自らの胸に右手を突き立てて一掴みのガイアメモリ片を取り出し、地面へとばら撒く。

 だが、彼の期待した泥の身体を持つ援軍の影は現れない。これまでであれば数秒でガイアメモリ片を核として立ち上がってきていた泥人形たちが生まれないことに、紫の皮膚を持つドーパントは明らかな狼狽を示していた。

 

「ば、馬鹿な!俺の忠実な下僕たちが……」

 

 プリズムソードに付与されたガイアメモリの力が、単なる攻撃力の強化だと思っていたのであろう。考えてもいなかった状況に、ラストは絶句しかけていた。

 

「やったぁ、効いてる!」

「てめえの能力は封じた。今度こそ、決めさせてもらうぜ!」

 

 亜樹子が皆の後ろで歓声を上げると、それを受けたWが高らかに宣言する。

 プリズムメモリをセットしたプリズムソードでの攻撃には、ドーパントの特殊能力を無効化するという特性がある。基礎戦闘能力が決して高くないラストは、厄介なことこの上ない特殊能力さえ封じてしまえば労せずに撃破できる相手であった。

 

『今です、早くとどめを!』

 

 能力が欠落した自身の変化を掴みあぐねているラストの様子をモニターでも確認したリューが、興奮して皆に呼びかける。言われるまでもなく、二人の仮面ライダーたちは頷いた。

 

「よし、メモリブレイクだ!」

 

 能力の無効化が精神的な打撃をももたらしたことを見て取り、アクセルがドライバーのメモリに手をかける。Wもそれに倣おうと、プリズムソードのマキシマムドライブ発動スイッチに指を伸ばした。

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