仮面ライダーW 追われるS   作:日吉舞

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罪を背負う者 -34-

 三体の異形に一人の女をその肚に収めたリボルギャリーが、風都郊外に建てられた清掃工場の中を疾走していた。

 ガイアメモリ製造工場という裏の顔を持つここは、自らが作り出したものであるドーパントが最深部で暴れることで崩壊が始まっており、今や風前の灯火となっている。何とも皮肉な運命であったと言えよう。

 

 リボルギャリーはそこで戦っていた仮面ライダーとその仲間たちを収容し、全てがドーパントに破壊される前に脱出を計ろうとしていた。ドーパントの組織に侵食された壁を突き破り、倒れてくる柱から逃れ、瓦礫を乗り越えて一路、外界を目指す。彼らが走った後には次々とコンクリート片や鉄骨が折り重なっていき、崩落という現象自体が生き物となってリボルギャリーに追いすがっているかのように見える。

 

 故に、黒とメタリックグリーンのツートンに塗り分けられた巨体が最後の壁を破って地下駐車場へと滑り込んだとき、乗り込んでいる仮面ライダーたちは思わず安堵の息を漏らしていた。しかし、やっとまだ平らな地面を保っている場所まで出られたと思ったのも束の間で、地下駐車場の壁や床のあちこちを突き破って生えてきた巨大な触手が、行く手を遮ろうと鎌首をもたげてくる。

 

 それでも速度を保ちながら大人五人分の胴体以上の太さがある触手の隙間を縫い、リボルギャリーは駐車場を閉ざすシャッターに突っ込んでいった。

 移動要塞であるリボルギャリーが朝日の照らす外界へと脱出できたのは、製作者でもあるフィリップの実母、シュラウドの技術力の賜物であろう。

 

 流石に外へと逃れたリボルギャリーにもう触手は襲いかかってこなかったが、巨大な移動要塞の速度が落とされることはない。清掃工場の地下駐車場出入り口からまだ形を保っている建物の周りを半周し、AWPの作戦用トレーラーが待機している広場へ続く砂利道を砂煙を上げながらひた走る。

 

 数分もしないうちに未来たちと落ち合った場所に辿り着いたリボルギャリーが、車体の後ろ半分を大きく振って横滑りしながら急停車した。

 完全に夜が明け切り、陽光に白々と照らされている砂利の広場は、程近い場所で死闘が繰り広げられていたのが信じられないほどひっそりとしている。

 

「はぁ、助かったわ……」

 

 緑と黒の巨体が完全に停止してからハッチが開き、一番最初に地面へと下りてきた亜樹子が大きな溜め息をついてしゃがみ込んだ。猛スピードの荒っぽい操作でここまで進んできたリボルギャリーの中は、生身の人間にとってかなり辛い環境だったのだ。

 彼女に続いてWとアクセル、未来もハッチから外へ出たが、彼らは未だ清掃工場の方角から注意を逸らさないでいる。

 

「皆さん、ご無事で!」

 

 AWPのトレーラーで待機していたリューが、巨大な移動要塞の側に立つ仲間の姿を確認して走り寄ってきていた。リューがリボルギャリーを目にしたのは初めてだったが、Wのサイクロン・ジョーカーフォームをモチーフにしたデザインから、すぐに味方の有するものだということがわかったのだろう。

 ややもするとその巨大な車体に隠れて見えなくなりそうな指令役の青年の近くに走りながら、Wの中で翔太郎が頷く。

 

「ああ。しかし……」

「来るぞ!」

 

 先を続けようとしたWをアクセルが遮って警告を発した時、広場を臨む丘から腹の底まで響いてくるような爆発音が轟き、大地を揺るがす振動が走った。

 辺り構わず大小の瓦礫が撒き散らされる騒音を耳にし、風都を守らんとする者たちが一斉に振り返る。

 

「き、来たぁああああ!」

 

 途端に亜樹子が大きな瞳を見開いて悲鳴を上げた。

 夜明け前はぽつんと白く見えていた筈の清掃工場は跡形もなくなり、代わりに大量のコンクリート片と立ち上る白煙とが同じ場所を支配していた。そしてそこからは、生物として大地の上では存在し得ないほどの大きさ--一般的な三階建てのアパートほどはあるーーを見せつけて、紫色の塊がゆっくりと蠢いているのが見て取れる。その様は、緑の林の中に毒々しい色をしたガムが歪にへばりついているようだった。

 それはやがて奇っ怪な軟体動物を思わせるゆっくりとした動きで細長い形になると、上半分がずるりと伸び上がるように起き上がらせてきていた。

 

 かと思うとまだ形を変えつつある巨大生物は、再びずしんと全身を横たわらせて姿勢を安定させたらしい。そのまま細長い胴の下に生えている幾本もの脚を器用に操って、丘の上から麓の広場を目指し突進してくるのが見える。

 何トンの重量があるか定かではないそれが木々を薙ぎ倒し、地面を抉って接近してくることを察してWの中のフィリップが切羽詰まった声を上げた。

 

「ギーク、あきちゃんも。早く中へ!」

 

 ただごとではないのを肌で感じ取っていたリューが頷いて走り、亜樹子が慌てて立ち上がる。一度ハッチを開いて二人を中に収容し、車体の左側にアクセルが、右側Wと未来が足を踏ん張って立つと、リボルギャリーはすぐさま砂利の広場を疾走し始めた。

 既に広場の手前まで達していたガイアメモリの巨大生物が、意味のない咆哮を上げる。

 重く、長く、低い叫び声が、広大な広場の端にそびえる岩壁や砂利を跳ね上げて突っ走るリボルギャリーをびりびりと震わせた。その圧迫感に思わず振り返ったWが見たのは、今まで戦っていたラスト・ドーパントとは似ても似つかぬ、醜悪さを増した怪物の姿であった。

 

 全長は十メートルを下らないであろう、鎧のような光沢を放つ紫色の胴体には数え切れないほどの脚があり、先端の頭には五つの巨大な複眼が不気味に輝いている。その頭からはまるで象の鼻のような長い器官が伸びており、これがリボルギャリーを捉えんとして鎌首をもたげていた。全体の印象は、巨大な節足動物に長い口をつけたようなものと言えるだろう。

 

 フィリップには、これが先カンブリア時代後期の生物として知られるオパビニアと酷似した姿であるということがすぐにわかった。確か水棲生物であること以外は生態のはっきりしない生物だが、似ているのは姿形だけで、全くの別物だと考えるべきなのであろう。外見は数億年前の原始的な生物に退化したと言って差し支えはなくとも、その生存本能に直結していると言うべき身体能力や戦闘本能は進化している筈だ。

 それは大きさもさることながら、圧迫感も半端ではない全身がふわりと数メートルほど宙に浮き、滑空する姿を見せつけてきたことからも窺えた。

 

「おい……あんなんで、飛べるってのかよ!」

 

 がさがさと音を立てて地を這い回るのが相応しいイメージの怪物が当然のように飛翔したことに翔太郎が半ば絶句すると、未来も呆然と呟いていた。

 

「あれが、ラスト・ドーパントだって言うの……」

「あいつは最早、意思を持った巨大なガイアエネルギーそのものだ。ベースにされた人間はもう、単なる触媒でしかなくなっている」

 

 人間としての原形を全くとどめていないドーパントの姿をリボルギャリーの側面から確認し、Wの中のフィリップが目の前の生物に起こった変化の真実を口にする。既に元の姿の欠片もなくなったこの巨大生物は一部分が著しく進化を遂げた反面、人間が持っていた高度な脳の機能はもう失われたに等しい。

 しかし、動く鉄の塊にしがみついている者たちが自らの生存理由を脅かした敵であるという認識は、おぼろげながら残っているようだった。顔から長く伸びた鼻のような器官が常にリボルギャリーの方を向いているのは、決して偶然ではないだろう。

 

 激しい揺れを伴って砂利の広場を走るリボルギャリーに、ラスト・ドーパントが狙いを定めていることは確かであった。硬い外皮に覆われた無数の足を不気味に鳴らし、どこを睨んでいるのか判別できない五つの複眼を備えた甲虫の如き顔が、空中から迫り来る。

 それを社内からカメラで確認していたらしい亜樹子が、落ち着かなげに声を上げた。

 

『ああもう、もっとスピード出えへんの?このままじゃ、追いつかれるっちゅうねん!』

「無茶言うな、これでフルスピードだ!」

 

 疾走するリボルギャリーのデッキで凄まじい風圧に全身をなぶられるW中の翔太郎も、必然的に大声で怒鳴り返すこととなる。

 本当はとっくに気づいていたことを改めて返されたせいか、亜樹子は一旦口をつぐむ。その幼さを多分に残した声の調子が、間を置かずに再度発せられた時に驚きの色が大半を占めていた。

 

『あー!あそこ!ほら、あのラストのお腹のところ!』

 

 場違いなほど素っ頓狂な声に、リボルギャリーの外側に陣取っていた戦士たちが一斉に後方へと視線を向ける。

 Wの中のフィリップが後ろを確認しやすいように一度大きく車体を旋回させると、追ってくる巨大な怪物の姿が皆の視界を支配した。

 

 まだ数十メートルは後ろを飛んでいる、巨獣と化したラスト・ドーパント。その長い胴体は上下に大きく波打つような動きを見せていたが、顎を上げた時に見える腹部の中央辺りに、外皮で覆われていない場所があるのが見えた。そこには背中から生えた触手に全身を絡め取られ、ぐったりとうなだれている青年の姿がある。

 

 唯一の弱点とも言えそうなそこが皆の目に晒されたのは、ほんの一瞬のことであった。しかし未来の目には、堀内が苦痛に顔を歪めて呻いているのがはっきりとわかっていた。

 

「助けて、くれ……助けて……」

 

 嘗て彼女の部下だった人間が救いを求める声が、頭の中までに響いてくるようだった。

 自らの力を制御できず、飲まれたことなど自業自得の筈だ。

 それなのに。

 なのに未来は、堀内のつい先刻までドーパントとなり散々自分や仲間を苦しめてきた姿と、人の姿に戻って苦悶する姿とを重ね合わせることが、どうしてもできなかった。

 

「堀内……」

 

 意識しない低い呟きが、ヘルメットの中で漏れる。

 その時だった。

 ラスト・ドーパントの頭が持ち上がり、顎の下にぽっかりと開いた口から光の塊が撃ち出された。ガイアエネルギーに包まれた、巨大な牙の弾丸だ。大人の頭よりも大きな弾が吐き出され続ける中を、リボルギャリーはジグザグに進路を取って回避し続ける。

 

 そのうちの一発がタイヤのすぐ側に着弾して小さな爆発を起こし、足元を掬われる格好となったリボルギャリーが大きく傾いた。

 片輪走行の状態となって浮き上がった車体に、一同が必死でしがみつく。

 

「うわあっ!」

 

 タイヤの高い軋みに皆の叫び声が紛れ、車体が急カーブを切った。

 遠心力を利用して体勢を保ち直したリボルギャリーが、重い衝撃とともに再び浮いた片輪をどすんと接地させる。ために、再度車体側面で仮面ライダーたちがしがみつくこととなった。

 何とか一人も振り落とされずに済んだようだったが、このままでは危険だ。

 

『いたた……な……何かさっきより狂暴になっとる!』

 

 やっと安定した走行を取り戻したリボルギャリーの中で、転倒したらしい亜樹子が言葉を切りながら呻く。

 

『もう完全に理性がなくなっているようですね。今はまだ我々だけを狙ってきますが、このまま放っておけば、街に被害が出るかも知れません』

 

 常人より遥かに鍛えられた身体を持つリューは、今しがたの片輪走行でも何とか持ちこたえられていたのだろう。話す調子も内容も、しっかりしたものであった。

 

「それだけは避けなきゃなんねえ。奴に、風都を壊させるわけには……」

 

 元アメリカ軍人の冷静な分析に、Wの中の翔太郎も頷く。それまで敵の挙動を見逃すまいと、食い入るように後方を滑空する巨大生物を凝視していた未来も振り向いて言った。

 

「何とかして、ここで片をつけないと。私たちの手で、あいつに引導を渡さなきゃ!」

「いや、そうじゃねえ」

 

 しかしそこで翔太郎が割り込み、ゆっくりとWの首を横に振って見せた。

 

「え?」

「奴は、僕たちの手でガイアメモリから解放する。そして、人間として罪を償わせるんだろう?」

 

 驚いてアサルトライフルを取り上げかけた未来が手を止めると、今度はフィリップが翔太郎の先を繋ぐ。間を空けず、アクセルもWの言葉に同調した。

 

『あんな姿になっても、元がドーパントであることに変わりはない。俺たちがメモリブレイクを叩き込めば、何とかできる可能性はある』

「そういうこった。最後の一手は、俺たちに任せとけ!」

 

 車体の反対側にいるアクセルの通信に乗った頼もしい言葉を確認し、Wが傍らの未来に頷いて見せる。

 確かにラスト・ドーパントのベースである堀内は人間の姿に戻ったが、メモリから完全に解放されたわけでも、メモリブレイクされたわけでもないのだ。

 

 しかしメモリブレイクを喰らわせるには、仮面ライダーたちが至近距離まで接近しなければならない。ドーパントに決定的なダメージを与える攻撃は、彼らだけにしかできないからだ。

 その一方で、そんな危険を彼らだけに負わせることなどとてもできないと、否定する意識で頭の中が占められそうになる。

 

「けど……!」

『奴には、生涯を通して罪を償ってもらうさ。死んで詫びるような安易な逃げに、決して走らせはしない』

 

 まず否定の言葉を口にしようとした未来に先んじて、アクセルが静かに諭す口調で言った。感情的に相手の意思を封じようとするのではなく、説得しようとする姿勢を感じさせる通信だ。

 部下の犯した罪は死で以て償わせるしかないと覚悟していた未来が、はっと息を飲む。

 

「無理をしなくてもいい、間未来。君が本当は堀内の命を助けたいと願っていることぐらい、僕らだってもうわかっている」

「お前がそういう奴だから、俺たちも力を貸そうと思えたんだ。それに……言ったろ?俺は、お前を救うってな」

 

 咄嗟に返せる言葉を思いつけないでいる蒼い鎧姿の女の肩に、Wが手を置いた。

 未来の上半身は分厚いチタンに覆われていても、隠された身体が華奢な女のそれであることを窺わせる。Wよりも一回りは小柄な全身像は並んでいる今、その差を顕著に感じさせた。

 

 翔太郎にとってのラストは、近しい位置に立つようになった女を凌辱しようとした、殺したいくらいに憎い相手だ。しかしもし自分たちがラストを、つまり未来の部下である堀内の命を奪えば、彼女の心に取り返しのつかない禍根を残すこととなるだろう。

 そう半熟探偵が思ったのは、未来が暴走を始めたラストへ真っ先に向かい、致命傷を負わせない攻撃方法で戦おうとしたからであった。

 

 彼女には他人を傷つける罪を受け入れる覚悟があるが、決して相手の死を望んでいるわけではない。

 命を絶たずにいられるのなら、迷わずその道を進みたいのが本当の気持ちなのだ。

 それならば。

 依頼人である未来を重んじるのなら、彼女の意思に従うまでだ。

 それが、本当の意味で彼女を救うことになるのならば。

 未来を必ず助けて見せる。

 

 それはもう一度そのことを口に出した翔太郎のみならず、仲間たち全員の願いでもある。

 理屈先行で物事を計り、冷静に状況を判断する最強のサイボーグ戦士でありながらも、決して己の弱さと人の優しさを忘れない。未来がそんな人物であるからこそ、皆が損得を抜きにして助けたいと願ったのだ。

 そして今の彼女には、皆の想いの暖かさを受け止めるだけの確かな信頼が築かれている。

 砂煙を上げて走行するリボルギャリーにつかまっている非常時であるのに、四本角のヘルメットの下にある顔が微笑んだことが、フィリップと翔太郎に伝わってきた気がした。

 

「……ありがとう、みんな」

 

 さして間を置かずに、未来がWの顔を見上げてくる。やや上ずった低い声は、揺れていた心を仲間にしっかりと支えられて胸を詰まらせたためなのだろう。未来が無意識に握りしめている小さな手に抑えられた感情を見たWは、もう一度力強く頷いて見せた。

 

『わかりました。詰めは、あなた方にお任せしましょう』

 

 リボルギャリーの外側に陣取る戦士たちの会話を無線で傍受していたリューも、肚を決めたらしい。だが、彼の声には心を揺さぶられた震えはなく、恐らく最後の戦闘となる局面を見極めようとする冷静さの方が目立っていた。

 

『しかし、あんな狂暴な怪物を一体どうやって……』

「奴の情報は、全て検索済みだ」

 

 司令官役からの通信を受け、フィリップが巨大オパビニアと化したラスト・ドーパントへと意識を向ける。天才少年は最初にかの姿を目にした時のデータを紡ぎつつ、自らが打ち立てた対策を織り混ぜて手短に説明した。

 

「今のラスト・ドーパントだが、ベースになっている人間が取り込んだガイアメモリの結晶が、外部からガイアエネルギーを取り込んでいる状態に変わりはない。奴を弱らせるには、その関係を断ち切ること。そうすれば、再生するまでの僅かな間は隙を作ることができる」

『具体的にはどうすればいい?』

「対処法としては同じだ。触媒となってる堀内の肉体から伸びている管を、全て切断すればいい。彼が取り込んだメモリの数と同じだけあるものだが、短時間で正確にやらなければ……」

 

 アクセルが作戦を思い描きながら口を挟むと、未来も割り込んできた。

 

「私がやる。精度の高い狙撃なら、私が一番の適任だもの」

 

 未来は、確固たる意思を固めて自らの胸甲を軽く拳で叩いた。

 先に見えた堀内の肉体はラストの巨大な腹に取り込まれて埋もれた状態になった上、ドーパントの本体があれだけ暴れ狂っているのだ。加えてうつ伏せ状態の腹部という位置関係から、近づくことは極めて困難な上、空中からの攻撃も満足にできないだろう。エクストリームフォームから飛び道具を備えたルナトリガーフォームに戻るのも得策ではないため、未来が狙撃を行うのが最も適していると言えた。

 

「僕は賛成だ。あの巨体の腹に僕たちがしがみつくのは、全く得策ではない」

 

 真っ先にフィリップが彼女の案を取ると、その特性を誰よりも知るリューが具体的な戦い方を示そうと先を継いだ。

 

『距離もありますし、一度に複数の管を切るならアサルトライフルが適していますね。注意しないと、彼を撃ち殺す可能性もありますが……』

「わかってるよ。でも、やらなきゃ!」

 

 ここまで来たら、もう迷ってなどいられない。

 仮面ライダーたちに最後の一手を任せはするが、そこに至るまで果たすべき責は果たさねばならないのだ。

 ヘルメットの下にある未来の瞳がそんな強い意思を宿していることが、不思議と正面に立つWにもわかるようだった。

 

「やるからには、確実に頼むぜ」

 

 揺るぎのないその心を汲んだ翔太郎が未来に戦いの一端を預けると、彼女はバックパック側面に取りつけられたアサルトライフルへ手を伸ばしながら無言で頷いた。

 

『俺たちは、奴が動きを止めた瞬間に仕掛けよう。あの巨体を倒すには、一度の攻撃では足りないかも知れん』

「ああ。それしかねえな」

 

 リボルギャリーの反対側に立つアクセルも静かに仲間の作戦を支持し、先を繋ぐ行動を皆に伝えてくる。もう広場をリボルギャリーで逃げ回るのは限界に近く、これ以上ラストを焦らせば風都の街へと向かいかねない。

 リボルギャリーが僅かにスピードを緩めた時、フィリップが中にいる二人の男女に呼び掛けた。

 

「あきちゃんとギークは、中でじっとしていてくれ」

「……うん。みんな、気をつけてね」

 

 あの巨大な敵の前では、自分ができることなどないとわかっているのだろう。そして、立ち向かおうとしている仲間たちが心配でたまらないに違いない。

 しかし亜樹子は、気丈にも明るい口調で一言言っただけだった。

 

「ギーク。不測の事態に陥った場合は、フォローを頼むよ」

『……了解しました』

 

 意外とも言えたフィリップの一言に返したリューの返しもまた、短い。

 不測の事態とは、具体的にはラスト・ドーパントが外にいる三戦士を蹴散らして市街へ向かってしまった時のことを差す。フィリップは最悪の事態も考えた上で、最も的確な判断を下したのだ。その時はリューが自らの判断で動いてくれることを期待して、場を任せるとわざわざ公言したのである。

 勿論、仲間の誰も負けるとは考えたくないだろうが、現実とは非情なものなのだ。

 

 が、それを理解していない者もまたここにはいない。

 余計な口を挟んではならない時が訪れていることを、数々の修羅場を経験した元軍人の青年は知っていた。

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