人の運命は予言者にしか分からない。それは決まり切ったことであり異論を挟む余地など無いが、後で振り返って、「ああ、ここが運命の分岐点だった」と、そう思うような瞬間は誰にもあるだろう。進路を選択した日、恋人に告白したその瞬間など、運命の日はそれぞれに異なっている。加えて当人がそう思っているだけで、実際にはまるで違うこともある筈だ。
だが──僕は確信を持って言える。僕の運命の分岐点とは、新入生として乗車したホグワーツ特急の中、がらりと空いたコンパートメントに座る一人の少女に、話しかけるかどうかであったに違いなかった。
「まったく、魔法史はこの世で最も優れた教科だね!」
コンパートメントに立ち入って、開口一番にそう言い放った僕のことを、彼女は胡乱げな目で見つめていた。その目を僕はよく覚えている。冷たく尖ったこの世全てを見下すような眼が、彼女の人格を何よりも象徴していた。
黒髪に黒目の端正な顔をした少女は膝上に魔法史の教科書を捲っていた。闖入者である僕に神経質な厭う目を向けたが、それも一瞬のことで、すぐに柔和な人懐っこい笑顔を浮かべた。
「ええと、君も魔法使いかな。私は……」
「アルフレッド・バグショット! 君が今読んでいる教科書と同じ姓、同じ血族に属している。そして今世紀最高の魔法史家になる男さ。君も魔法史家にならないか?」
「バグショット? ふうん」
少女はおばさんの名前を聞いて幾らか興味を持ったようだった。捲りかけていた教科書を一瞥してから閉じ、視線を合わせて僕に言った。
「君は、教科書を書くような人と親戚なんですね?」
「ああ。バチルダおばさん……正確には曾祖伯母なんだけど、その人は子供の時から僕によくしてくれた。即ち、今世紀最も魔法史に業績を残した魔女の薫陶を受けたということさ」
「魔法史、ね。教科の一つではあるが、しかし呪文学とか、防衛術とかじゃあないんですね」
「うん? なんだい。君も史学を軽んじる口かい!」
微妙な反応を示す少女に対し、僕はぐいぐいと主張していった。
「君、君ね、純血か、半純血か、マグル生まれか? 純血、半純血なら、その考えは間違っていると言わざるを得ないし、マグル生まれなら史学と軽んずるなかれ! 魔法界の歴史はマグルのそれとはまるで異なっているぞ!」
「……純血? それは、なんだい。ひょっとして……重要な地位に関する、あれだ、貴族みたいなものなのか? 魔法界における貴族みたいな……」
ぞっとする目をしたのに僕は驚いた。少女は先程までの柔和をかなぐり捨て、悍ましい目をしていた。黒い目が印象的に広げられ、その中に僅かに赤みが差しているように見えたのは錯覚だろうか。
僕は魔法界における純血と半純血、そしてマグル生まれとスクイブに関して説明してやった。その話をぎらぎらとした目で、うんうんと頷きながら聞くところを見ると、この子はマグル生まれなのだろうか。
しかし、マグル生まれ……つまり全く魔法界の常識を知らない状態で、おばさんの教科書を捲っているとは中々の有望株である。同じく魔法史を極めんとする同士かも知れない!
「魔法史とは、最も崇高な授業である! 賢人は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ! 歴史こそ学生及び人生の導き手なるぞ!」
僕は熱心にそう語った。バチルダおばさんから色々教わって、興味が凄まじいのだ。昔から古書を紐解いて文献を知識として蓄えている。きっと僕は、レイブンクローに配属されるであろうという自信がある。
が、少女は僕の熱意を袖にして冷たく言った。
「生憎、歴史の授業は間に合っているよ。歴史なんて……力にはならない。それで得られるのは知識だけだ。僕に必要なのは手なのさ。手か、或いは力か。全てに文句を言わせないような力……」
「知識とは即ち力であろうに」
「君の古風な言葉遣いは、そのバチルダって人の影響かい? だとしたら直した方が良いね。周囲と違う人間は、違うと言うだけで迫害されるからね」
「なるほど! ご忠告どうも!」
「……何故、真正面に座るんだ。あー……今までで、僕が君を、あれだ、疎んでいることは分かっただろう」
「君の名前を聞いていないからさ。それに、僕には友達が居なくてね。ここで一人作ろうと思ったんだ。君に話しかけたのは全くの偶然だった!」
彼女は素っ頓狂な顔をした。それが僕にはおかしかった。ホグワーツに入学する新入生同士、挨拶をするものでは無いのか? 少なくともおばさんにはそう聞いていたし、練習だってしていたのだ。しかし少女は大変意外そうに言った。
「……リドルだ」
「リドル? 名前か? 姓か?」
「……トム・マールヴォロ・リドル。……それが私……僕の名前だ」
「へえ。よろしく、トム!」
「……トムは嫌だ。リドルも……いや、仕方ない。リドルと呼んでくれ」
トムという名前を彼女は嫌がった。当然か。女子に付ける名前ではない。と言うわけで僕は彼女をリドルと呼んだ。
リドルは挨拶もそこそこに教科書中の疑問について僕に尋ねてきた。
「何故、魔法使いは隠れているんだ? 教科書にそうあった。国際魔法使い機密保持法……理解しがたい。魔法族は非魔法族……マグルより優れている。何故わざわざ?」
「ふうん、君はグリンデルバルドみたいなことを言うんだね」
「グリンデルバルド?」
「君が今言ったように、国際魔法使い機密保持法に異議を唱えて、各地で事件を起こしている闇の魔法使いさ。君は知らないだろうが、今は死ぬほどきな臭い時期なんだぜ。後数年で戦争になってもおかしくはない。それこそ、かつてのマグル並のね」
「へえ……やっぱり、そうなんだ」
リドルは満足げな笑みを見せた。
「なら、もう少しで魔法使いが世界を征服すると言うことか。なんだ。それなら話は簡単だ。君のおばさんが著したこの教科書も、すぐに内容を変えることになるんだね」
「いや、それはどうだろうね。何せダンブルドアが居るから」
「ダンブルドア? ダンブルドアだって? あの老人が?」
リドルは困惑したような、苛立ったような表情を見せた。ダンブルドアと会ったことがあるのだろうか。人となりを知っているような口振りである。
「ああ。上級大魔法使いに選ばれながらもそれを固辞した、気品と人格を兼ね備えた偉大な魔法使いであり、ホグワーツの変身術教授! 彼がいるからこそグリンデルバルドの計略は未然に防がれ、ここイギリスにも手が及んでいない。グリンデルバルドに拮抗し、上回る事が出来る唯一の魔法使い!」
「……君がダンブルドアを尊敬していることはよく分かったよ。それで? どうしてその人がいると、機密保持法が守られるって?」
「スタンスの話だよ。グリンデルバルドが急進派、破壊派なら、ダンブルドアは穏健派、保守派だからね。彼が機密保持法の維持を掲げている以上、二人の対決は必至であり、果たしてどちらに軍配が上がるか、予言の出来ぬ僕らには分かったものでは無い」
「ダンブルドア……機密保持法……グリンデルバルド、ね」
ぼそぼそとリドルは呟いた。非常に興味深そうに、目を鋭くして僕の話を聞いていた。
「上級大魔法使いだったか。分からないが、高い地位なんだろう? 選ばれて喧伝されるに足るだけの……。つまり世間的には、ダンブルドアが支持されている。機密保持法は維持されるべきだと考えられているわけだ」
「鋭いね。君は賢いな」
「……まあね」
にやりとリドルは笑った。まるで少女らしくない笑みだった。僕は彼女へ向けて朗々と情勢を語った。
「確かに、1689年に初めて成立し1692年に正式に施行されて以降、国際魔法使い機密保持法は魔法族にとって絶対の法だった。しかし昨今では、純血を中心として廃止を叫ぶものも少なくない。グリンデルバルドは多くの信奉者……アコライトと呼ばれるグループを率いている。その数が多いか少ないかは……公表してないので分からないな」
「成る程、成る程ね。やはり同意する人は多いんだ」
「マグルの世界で大戦争があったからね。ヨーロッパを荒らし回ったあの戦争だよ。あれに危機感を覚えたのが大きかった。かつての魔女狩りのように、火に炙られるだけじゃ済まなくなると考えたのさ」
「……ん? 危機感? 危機感から、同意する奴が多いのか?」
リドルはそこで声色に不快感を滲ませた。額には皺が寄って、鋭い目がよりキツくなった。僕は意外な表情の変化に驚きながらも話を続けた。
「彼らの主張としてだがね。いずれ必ず発生するという戦争を予見して、その残虐さと危険性を喧伝し、信奉者を集めていったという話だ。『戦争を起こさないために』『平和のために』魔法族がマグルを支配しようって」
そう説明すると、リドルは何だか悔しそうに視線を落とした。夢敗れたような表情で、彼女は恨むように呟いた。
「……僕は、魔法使いというものは、マグルとは隔絶していると思っていた。隔絶して優位だと思っていたが、違うのか。たかがマグルを魔法族は恐れるのか」
「そこだ!」
「うえっ」
いきなり声を上げられ、鼻先にびしりと指を突き付けられたことに、リドルは大変驚いたようだった。しかし僕は遠慮なんてしていられなかった。言いたくて堪らなかった。
「確かに! 生物として魔法族はマグルより優れていると言って良いだろう。それは思想の問題じゃない。生物学的分類だ。だが、現実としてマグルは魔法族を脅かすまでに至った。何故だと思う? ん? ん!?」
「えっ……何だよ、いきなり。……数だろう。魔法族は非魔法族より圧倒的に少ないと聞いた。数だけは多いから、物量の問題だ。個体の能力では勝負にもならないさ」
「惜しいな! だが、外れてはいない。いいかい、よく聞きたまえ」
「……君は教師か?」
リドルの呟きを無視して、僕はこれから熱心に語る準備をした。これだ。こういう事を語る友達を僕は求めていたんだ。ゴドリックの谷の連中はうるさがって付き合ってくれなかったからな。
「君が言ったとおり、問題は数だ。しかし、それはマグルが多い事が問題なんじゃない。魔法族が少ないことに問題があるんだ」
「……同じじゃないか? 言い換えただけで」
「いいや全く違う! というのも、僕は現代の機密保持法を巡る問題に関して、原因はマグルではなく魔法族にあると考えているからだ。未だ表面をなぞっただけだが、魔法史に眼を焼かれたものとして、こう断言しよう。──魔法族の歴史は、マグルの歴史に比べて、圧倒的に薄いのだよ!」
リドルはぽかんとした顔を浮かべた。僕はその呆けた顔にも染み入るように、一言一句力を込めて語っていった。
「問題は数だ。そして個体の優位性だ。魔法族は、マグルに比べて一人で何でも出来すぎるんだ。協力することをしない。国家なんて作らない。家族や親戚、大きくても村単位でしか集まらない。──だから歴史が残らない! そして……これが本当に致命的なんだが、あまりにも秘密主義かつ、個人の技量によるところが大きい! 腐ったハーポ! 無敵のアンドロス! ホグワーツ創設者の四人! 偉大な……本当に偉大な魔法使い達だが、今ではその業績だけが残って、研究内容がまるで受け継がれていないんだよ!」
「あ、ああ」
「創設者の四人は本当に偉大だ! 993年の開校は、イギリスに新たな風を呼び込んだ……。だが、あれから何年経ったと思っているんだ! もう50年で創立1000周年になるってのに、初等教育、基本的な内容からまるで進化していない! 研究機関が、魔法界には全く足りていないんだ。魔法省の神秘部は最悪の結果だ! 個人主義、秘密主義と、魔法界の悪い部分を凝縮したような存在だ! あんな所が最先端の研究機関だなんて、絶望ものだ!」
「お、おい、ちょっと……」
「マグルが危険だって? 魔法族を脅かすだって? それまでのんびりしていたツケだろうが! グリンデルバルドは滑稽だ! 何が死の秘宝だ。13世紀の品を20世紀になっても追い求めて! 700年経ってもそれ以上の品が開発できていないことを恥じるべきだ! 真に魔法界を憂うというなら、まずは足下を固めて、それで……!」
「シレンシオ黙れ」
「…………っ!」
ああっ、リドルの奴、沈黙呪文を使いやがった。
はあと溜息を吐いて、彼女は言った。呆れた顔をしていた。
「見られているよ。随分うるさかったからね。あー……君の熱意は理解したけどね、もう少し落ち着いて話してくれよ」
僕は口がきけないまま、こくこくと頷いた。見ればコンパートメントの入口には、何だ何だと好奇の視線が集まっている。僕は取りあえず一礼謝って、それで生徒達も帰って行った。
「……フィニート・インカンターテム。呪文よ終われ」
「っぶはっ! ……やっぱり君は賢くて、優秀だ。シレンシオは上級生で習う呪文なのに、もう使いこなしている。一年生用の教科書には載っていなかったけれど?」
「中古で全学年の教科書を買って、あらかじめ読んでいたのさ」
「……君は優秀なんてものじゃないね。控えめに言って、天才だ」
「ふふっ、まあね」
にやりとまたしても少女らしくない笑顔。30センチ超の長い杖を慣れたように振りながら彼女は言った。
「まあ、君の言うことも分かった。魔法界には継承という概念が希薄だと。それがマグルに追い付かれた原因だとね。……しかし、こうは考えられないかい? 君がさっき言った、腐ったハーポだったか、無敵のアンドロスだったか、そういう人達の名声が今になっても届いているということは、彼ら彼女らは、時代を超える天才だった……。即ち、才能さえあれば、継承なんて必要ないほどの力を得ることが出来て、マグルなんて問題にもしないんじゃないのかい?」
「そういう考えをした凡人が一体何人居ただろうね。そいつらのせいで今の魔法界がある。それに、歴史がきちんと整って残っていれば、才能ある魔法使いは、更に強力無比になるだろう。そう言った観点からしても、後世に残さないというのはあまりに不利益だ」
「……成る程。古今に学べば更に、ね。確かに、凡人が思い上がるのはよろしくない。……言ってみれば、そのグリンデルバルドというのも、凡人の範疇ということだ」
「はは! 全くその通りだ。隔絶した力があれば……それこそ、ダンブルドアさえ寄せ付けないような人間がいたとすれば、そいつは確かに、単独で魔法界とマグルを支配できるだろうね。更に古代魔法使いの遺産を探し出し、それを身につけたとすれば……神に等しい、或いは死の化身とさえなるだろう」
「……何処にあると思う? そういった、古代の遺産というものは」
リドルはぎらぎらと瞳を輝かせた。しかし口元には妙に優しげな微笑みが浮かんでいて、蠱惑するような魅力があった。
だがそんなのはどうでも良かった! 僕は、今度は沈黙呪文で黙らされないよう、注意しながら言った。
「そりゃあホグワーツだね! 1000年近くの歴史があるホグワーツには、数々の秘密、遺産が眠っている! その中には強力な呪いがかけられている品もあるだろうし、命の危険もあるかも知れない。だが! 歴史家を目指すものとして、挑まない選択肢はないね!」
「ふうん……ホグワーツか……!」
リドルは夢を見るような目をした。未だ着かぬホグワーツ城を夢想するように、にやりと、今度は年頃の少女っぽい笑みを浮かべた。
「そして、まあ、これは普通秘密にするんだが、そして秘密にしなきゃいけないことを大っぴらに口にするから僕は嫌われるんだが、入学した一番初めに、きっと僕達はその遺産の一つを目にすることになるだろうね」
「それは一体?」
「これは本当に楽しみにしている人が居るから、ちょいと耳を拝借。……しかしバチルダおばさんには情緒ってものが無いのかね。手紙が届いたその日に組分けの話を詳細に語るなんてさ……」
「早く!」
「ああ、はいはい」
リドルに急かされて、僕は周囲を憚りながら言った。
「……組分け帽子。ホグワーツ創設者が一人、ゴドリック・グリフィンドール由縁の品で、被った者の思考を読み取り、その生徒に最も合った寮を選ぶのさ。こんな魔法具は類を見ない。まさしく傑作中の傑作であり……だからこそ、その製法が後世に残っていないのが残念極まる」
こそこそと周囲を気にしながら話すと、リドルは得心がいったような顔をした。
「ああ、駅で皆、寮がどうとか言っていたのはそれだったのか。確か、グリフィンドール、ハッフルパフ……」
「それに加えてレイブンクローにスリザリン。合わせて四つの寮。創設者達の名字から取っている。グリフィンドールは勇気、大胆さ、騎士道的精神。ハッフルパフは勤勉、忍耐、公平性。レイブンクローは知性、知識、智恵。スリザリンは野心、狡猾さ、機智。それぞれ重きを置いているとか」
「勇気、勤勉、知性、そして野心、ね……」
「僕としては、僕が入るであろうレイブンクローをおすすめするね! 君もそれが良いんじゃないかい? 知識を求めるには一番だ! 寮を象徴する鷲だって、蛇やらライオンやら穴熊より格好いいしね」
「蛇?」
リドルは突然、そこに興味を抱いたようで、ぱっと耳を離した。瞳は爛々と関心に彩られている。
「蛇……その、動物っていうのも、魔法的な特別な意味合いがあるのかい? 例えば、スリザリンでは蛇が何か、特別な……」
「ああ、蛇に関しては有名だよ。スリザリンのサラザール・スリザリンは、バジリスクっていう魔法生物をペットにしていて、それと自在に話すことが出来たらしい。今では伝説のパーセルマウス、蛇語話者だったという話さ。だからスリザリンにとっては、蛇は一段と特別な存在だろうね」
そう言うと、リドルは急に破顔した。それまでの落ち着き払った態度とは一変して、最高の玩具を目の前にした子供のように頬を赤く染めた。
「なら僕は、きっとスリザリンだ!」
リドルは嬉しそうに、殆ど飛び上がるようにして言った。
「それはどうして?」
「パーセルマウス! 僕も蛇と話せる! やっぱり特別だ。ダンブルドアめ。何が『例がないわけでは無い』だ! 僕はやっぱり、特別な魔法使いの血を引いている!」
「驚いた! 君はパーセルマウスか!? そりゃあスリザリンに決まっている。ちくしょう、同じ寮に入れると思ったのに」
「ふふっ、ふふふっ!」
リドルは暫く笑っていた。悦に浸るように視線を中空にぼんやりと浮かばせながら、興奮そのままに僕の手を取った。彼女は興奮を更に高めて早口に言った。
「なに、心配しないでくれ。これまでの会話で、君が優秀だということは分かったさ。他の一年生よりも、確実に! 僕に得がたい知識を授けてくれた……! だから、これからもよろしく頼むよ。僕達は友人だ」
細い腕は真白く蛇のように滑らかだった。僕はその手を硬く握った。友人と呼ばれたのは嬉しかったのだ。彼女は幾分か、計算染みた笑みを口端に浮かべていたが……。そんな事にも気付かないくらい、友人が出来たことが嬉しかった。
「君はもしかしたら、スリザリンの血を引いているのかもね。君ならきっと、スリザリンの遺産に辿り着ける。その時は必ず僕も誘ってくれ。いいかい、必ずだよ! 僕がいた方が絶対に辿り着きやすくなるんだから!」
「ああ、分かった、分かったとも。ふふっ……創設者の血か……!」
その時、がたんと列車が揺れて、段々と速度が落ちてきた。ざわざわと車内が騒がしくなって、窓が開けられる音が重なって響いた。
「ホグワーツ城だ!」
誰かがそう言ったのを聞きつけて、僕達は急いで窓を開けて身を乗り出した。
見れば、断崖の上には豪壮な城が佇んでいる。歴史深く、神秘に満ちた、我らの学舎が建っている!
「あれがホグワーツ……!」
「ああ、そうだ。魔法界の神秘と歴史その物だ!」
「神秘……神秘か!」
僕達はわくわくと胸躍らせて、これから始まる日々を夢想した。素晴らしい冒険に、機知に富んだ授業の数々。そして古城に隠された秘密を巡る探求の日々を……。
──1938年、秋。僕の親戚であるゲラート・グリンデルバルドが、世界魔法大戦を引き起こす僅か一年前の事だった。