トム・リドルをTSヒロインにする暴挙   作:生しょうゆ

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第2話

 

 

 

「アルフレッド・バグショット!」

「はい!」

 

 組分け帽子に名前が呼ばれた。僕は悠々と視線の中を歩く。周囲のざわめきは不穏な色を忍ばせている。

 

「バグショット……」

「……グリンデルバルド」

「闇の魔法使い……」

 

 ああうるさいうるさい。そんな名前はどうでも良いのだ。スリザリン寮の方から熱い視線が送られるが、生憎僕はレイブンクローに入るだろう。ちょっとばかし興味はあるけどね。リドルと同じ寮になるだろうから。

 

「だけど、僕が求めるのは知識だ。そうだね? 組分け帽子」

「ふうむ……」

 

 偉大な魔道具である組分け帽子は、その神秘的な構築とは裏腹に、随分と古ぼけた姿をしている。しわくちゃの帽子はしかめっ面を浮かべて、僕の頭の上で唸った。

 

「これは……難しいな。確かに知識を重んずる。しかしその最果てに目指すものは、知識ではなく野心とも言える……」

「えっ、スリザリン? あそこは保守的な傾向でしょう? 僕が目指すものとは少し違うんじゃないのかなあ」

「君は魔法使いに誇りを持っている。誇りを持っているが故の野心だ。誇りを持っているからこそ、改革をしたく思っている。……加えて必要とあれば規則を破る傾向。目的達成のための強い信念。極めつけに、君は孤高とは言い難い。君は孤高を求めてはいない。寧ろ同胞愛に満ちている。同胞愛に満ちているからこそ……ならば、君が行くべき場所は」

「えっ、ちょっと」

「──スリザリン!」

 

 わっと、スリザリン寮から歓声が上がった。周囲の目は疑念から確信に変わったように見えた。ふと組分けを待つリドルの方を見ると、彼女はにやにやとこちらを見て笑っていた。あれだけ自信満々に言っていたのに何だか恥ずかしい気分である。

 

 それから、当然のようにリドルはスリザリンに組み分けられた。僕の時よりも大きい歓声が響いて、他の寮からは残念そうな声が上がった。当然か。可愛らしい女の子に来て欲しいとは誰だって思うものである。

 

「貴方はレイブンクローに入るんじゃなかったのかしら?」

 

 リドルは先に座っていた僕の隣に腰掛けて、皮肉気にそう言った。その言葉遣いはコンパートメントとはまるで違う物である。リドルの奴、どうやら猫を被っているらしい。

 

「どうやらこっちが良いってさ。組分け帽子が耄碌したわけではない……と思いたい。まあ何にせよ、君と同じ寮に選ばれて良かった。僕がスリザリンで、君がレイブンクローだったらどうしようかと」

「君が言ったんじゃないか。僕……私は絶対にスリザリンだって。……それにしても」

 

 リドルはそこで、本当に嬉しそうな笑みを浮かべて言った。

 

「どうして言ってくれなかったの? 貴方はバチルダ・バグショットの親戚であるだけじゃなくて、グリンデルバルドの親戚でもあるって! 偉大じゃない。強力な魔法使いの血族なのよ、私達は! 同じような友人を得られて、私はとても嬉しいわ」

「尊敬はしていないと言っただろう。それに周囲の目を見ろよ。皆、偏見の目で見ているんだ。確かにバチルダおばさんはグリンデルバルドの大叔母で、親交も深くあったようだけれど、僕は会ったこともない。期待も侮蔑も、全くの見当違いだ」

「血統は誇るべきものよ。それは力なのだから!」

「僕本人のことじゃないだろう。君みたいに特別な力があるならともかく、こんな血縁は悪名を生むだけさ。それに、どうせならあのバチルダおばさんの親戚って所に目を向けて欲しいね。少なくとも、魔法史に関して言えば、僕はあの人から受け継いでいるところがある」

 

 そう言うと、リドルは奇妙なものを目にしたような顔をした。ぱちぱちと瞬いて、目を丸くして言う。

 

「貴方は血統を選ぶの? どちらも貴方の親戚だということは変わらないわ」

「そんな事を言ったら、純血と言われる魔法使いは全てブラック家の先祖を尊ぶことになるだろうね。……ああ、ブラック家ってのは、純血の中でも一番有名な、王様みたいな家だよ。まあつまり僕が言いたいのは、誰を誇るかなんて、血統に関係の無いものだってことさ。別に親戚じゃ無くてもいい。血が繋がってなくても、教師だったり師匠だったり」

「……血は大切よ。生まれというのは、個人の特別さを何よりも保証する物なのだから」

 

 底冷えするような声でリドルは言った。列車でも感じていたが、彼女は純血主義者の気があるらしい。

 

 周囲で耳を傾けている生徒達がにやりと笑ったのが見えた。同意するように頷いたのが見えた。彼女はスリザリンによく馴染めそうであった。対して僕には厳しい視線が向けられている。それは血統を重要じゃないと言ったことに加えて、可愛い女子生徒を独り占めしている嫉妬から来るものだろう。

 

 それはまだ良い。意気地無し共だとは思うが、しかしぼそぼそと「闇の魔法使いの癖に」と言われるのだけは気に食わない。それは確かに事実ではあるが、しかし事実だろうが僕は嫌だって言っているだろうに。別に血縁がある事実を否定したいわけではないが、少しは言われる側のことも考えて欲しいものだ。

 

 そこで僕は一つ皮肉を言ってやりたくなった。

 

「本当に純血が力になるというのなら、どうしてゴーント家は没落したのだろうね? 本当の純血と呼べるのは、あそこだけだろうに!」

 

 その呟きに、一瞬でざわめきが広がって沈黙に変わっていった。憎むような視線が僕に向けられる。それを僕はせせら笑った。対してリドルは困惑したような顔を見せていた。

 

「……なに? 随分と、周囲の様子がおかしいようだけれど」

「魔法界にもタブーはあるのさ。例えば、純血は必ずしも純血ではない、という事実だったりね。全く滑稽なことだ! 歴史は覆い隠せるものでは無い。最近発表されたカンタンケラス・ノットのたわごとを、まさか信じては居ないだろうね諸君! 聖28一族なんて、あんな偽書を、妄想を……」

「フリペンド回転せよ!」

 

 急に衝撃呪文が飛んできた。リドルは驚いた顔をしたが、この程度、難なく防げる。

 

「プロテゴ護れ! っひひ、怒ったのか? 君は、あれだ。見たことがある。ノット家の子! お爺様を馬鹿にされて怒ったのか? その隣に居るのはレストレンジか! 睨むなよ。事実だろう?」

「……私としては、貴方の物言いに問題があると思うけれど? 皆、困っているみたいよ。貴方の言葉で」

「そうかい? しかし事実ではあるよ。なあ、『聖28一族』の君たち!」

 

 そう言うと、同じ一年生である二人の少年は顔を真っ赤にして杖を向けた。共に純血の、如何にもスリザリンらしい二人である。

 

「貴様っ……純血を愚弄するのか! グリンデルバルドの血統の癖して……!」

「リドル! この様に、血統しか誇るものが無いと頭に血が上りやすくなってしまう。気を付けることだね。もっとも、君は優秀だから血だけを頼りにすることはないと思うけど!」

「黙れ! エクスペリアームス武器よ去れ!」

「血を侮辱するものめ! フリペンド回転せよ!」

「プロテゴ、プロテゴ! はは、防御だけは昔から得意なんだ」

 

 僕は飛来する呪文を打ち消しながら、椅子から立ち上がって諭すように言った。これまでの僕の言葉は意図した挑発だ。だが、こう言われたことで、彼らも僕の気持ちが分かったことだろう……。

 

「いいか! 僕は確かにグリンデルバルドの親戚だがね、それ以上にバチルダおばさんの弟子なんだ! 事実だからって言われて嫌なこともあると、こう語ったことで分かっただろう? 君たちにも誇る物はあるのだろうし、それは尊重したいけれど、僕にだって……」

 

 と、そこまで言って僕はふと気が付いた。そもそもこいつらが拠り所にしている純血という物は真っ赤な嘘じゃ無いか。偽の歴史だ。全く事実でも何でも無いじゃないか!

 

「僕の歴史は事実だが、君たちの歴史は馬鹿げた嘘だな……。……うん? 馬鹿げた歴史を否定するのは正しいな? なあんだやっぱり君たちが全面的に悪いんじゃないか! 何が純血だ! 僕とお前達を一緒にするんじゃない!」

「うわ……頭おかしい……一人で勝手に怒ってる……」

 

 リドルの呟きを他所に二人は完全に怒ってしまって、まだ歓迎会も始まってないのに、机の上は魔法合戦の場となってしまった。しかし武装解除呪文も衝撃呪文も、僕の防御を突破することはない。伊達に本を読み込んではいないのだ。杖遣いは、魔法史に比べてそこまで得意というわけではないが、それでも並の一年二年程度は難なく片付けられると自負している。

 

 リドルはずっと呆れた顔をしていた。その内に騒ぎが大きくなって、僕達は揃って寮監のスラグホーン先生に叱られてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「君に友人がいない理由が分かったよ」

 

 入学式が終わって、たらふく食べた後、スリザリン寮の談話室で僕とリドルは話していた。

 

「君は敵を作り過ぎる。それは賢いやり方とは言えないな。折角の素晴らしい知識と血統。そして先程見たところからすれば、君もかなりの力量を持っている。素晴らしい人間なのに、どうしてそう……」

「歴史家にとって、真実とは何よりも優先すべき事だ。そしてそんな歴史家は、往々にして権力者には嫌われる。自分達にとって都合の悪いことを書くからね」

「分かっているなら……」

「直す気は無い! 君だって、勝手な都合で『魔法を学ぶのを止めろ』と言われたら、反発したくなるだろう。それと同じさ。どうやっても耐え難いことなんだ。だから僕はレイブンクローに入りたかったのさ」

 

 そう言うと、リドルは少し納得したような顔を見せたが、しかしまたしてもはあと一つ溜息を吐いた。

 

「君は、あれだ。少々苛烈が過ぎるな。君との友情を打ち切ってしまいたくなる……。だが、確かに純血の不甲斐なさには失望したね。確か、聖28一族だと言ったか。あれは?」

「偽書さ。1930年に入ってカンタンケラス・ノットという馬鹿が発表した、欧州魔法界において間違いなく純血とされた28の魔法界の名門のことだ。しかし調査不足が多くてね、マグルが混じっている家系も少なくない。それで純血と嘯いているのだから、歴史家として絶対に認めるわけにはいかないのさ!」

「ふうん……それはそれは、滑稽だね。純血もたかが知れると言うことか……。それに、二人がかりで君一人に全く敵わなかった。やはり力だね。力が重要だ。血統は……まあ血統も重要だがね」

 

 リドルは思案の表情を深めた。そしてふと、思いだしたように言った。

 

「それに君は、ゴーント家と言ったな? あれで周囲がざわめいた」

「ゴーント家も聖28家の一つさ。その中でも、僕が知る限り確実に純血と言える唯一の家だ。だが、今は没落してしまっていてね。彼ら純血主義者にしてみれば、純血なのに、という痛いところを突いた形になるわけだ。今の当主は……なんて名前だっけか? 事件を起こして逮捕されて、当主が替わったんだっけ? ゴシップには余り興味がないからなあ……」

「ふん……下らないね。純血というのもその様か。魔法界も大したことがないな。自分が優れているという思い込みを、弱者がしているのは滑稽だ。君という強者との力関係を測れないのもね。だが……君、カンタンケラス・ノットだかの名前は知っていたじゃないか。それに君、一体、ゴシップと歴史を分けるところはどこにあると言うんだい?」

「ううん……歴史というのは渦中にあって整理できる物では無いのだから、少なくとも十数年を経てから判別すべき事なんだが、しかしゴシップが歴史の重要な転換点になる事があるのも事実ではある……。今の情勢を鑑みれば、ちょっとした事件が大事の切っ掛けになる事もあるだろうし……僕も学生の身になったわけだ。これからは歴史書を読むだけでなく、情勢から現在の歴史を読み解いていく努力をしていこうか」

「歴史を学ぶ意義っていうのは、本来はそれじゃないのかい? 知識が力だというのなら、ね」

「知識って別に即物的な物だけでは無いと思うけれど……学ぶだけでも楽しいよ。楽しいから学んでいるのさ、僕は」

 

 そう言うと、リドルは「ふうん」とまるで興味がなさそうに相槌を打った。こいつ……魔法史を学ぶ気がこれっぽっちも無いな……。

 

「……それとその名前を覚えていたのは歴史に対する侮辱その物だからだ。思想で歴史を改竄するなんて最悪だ! それが支持されているのも虫唾が走る!」

「聖28家ね……その28家の事を、もう少し詳しく教えてくれないか?」

「ああ、良いとも」

 

 そうして僕は、度々内容について批判を加えながら、聖28家について説明していった。それをリドルは大変興味深く聞いていたが、終わり際にぼそりとこう呟いた。

 

「……リドル家は、ないのか」

 

 その呟きに、そう言えば、と僕は思い出した。ゴーント家と言えば魔法界きっての頭のおかしい一族で有名だが、もう一つ有名な話がある。それは彼らがサラザール・スリザリンの子孫であるという話だ。パーセルタングも使えるという話であるし、もしかしたらリドルの親戚かもしれない。

 

 それをリドルに話すと、彼女は本当に嫌そうな顔をした。僕に引くような目まで向けてきた。

 

「君、君ね……さっき盛大に没落していると言った家を、僕に関連付けようっていうのか? 最悪だな君……。さっきから思っていたが、中々性格が悪いというか、無頓着というか……」

「親切心から言ったのに……一応誇れると言えば誇れる家系だろう。純血の中の純血だよ、一応」

「……僕の父親の方が、きっと魔法族なんだ。リドル家が魔法族にあるんだよ。スリザリンの血統を受け継ぐリドル家が」

「ふうん、寡聞にして聞いたことが無い。調べたいの? 手伝おうか」

「君が聞いたことが無い、か……」

 

 リドルは少しだけ不安そうな顔をして、しかしそれを打ち消すように瞳を鋭くして言った。

 

「いいよ。これは僕の問題だ。君は関わるな」

「そう? だけど本当に聞いたことが無いな。母親の方が……」

 

 ゴーント家に関係してるんじゃないの? という言葉を僕は飲み込んだ。というのも、母親という単語を口にした途端、リドルの顔つきが変わって酷く憎み恨むようなものに変わったからだ。

 

 流石に、知り合ったばかりでそこまで踏み込むのは失礼すぎたか。歴史家にあるまじき事だが、僕は発言を取り繕った。

 

「母親の方が……マグルなのかなあ……うん。リドル家……あるんじゃない? 僕は知らないけど……」

「……そうだ。あるに決まっている。君は探すな。僕が探す。分かったな」

 

 脅しつけるような口調は、悲愴な色が混じっているようにも感じられた。

 

 

 

 

 

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