トム・リドルをTSヒロインにする暴挙   作:生しょうゆ

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第4話

 

 

 

 そんな風に数ヶ月が経って、雪積もる2月もそこそこ。そろそろ禁書の棚に挑むかという頃である。必要の部屋でリドルがサーペンソーティア……蛇出現呪文を改良してバジリスク級の蛇を出せるように練習しながら、ふと、さりげない風に言った。

 

「そう言えば君は、僕が彼らと仲良くしていることに、何も言わないんだね」

「ぐええ! ポリジュース薬の味改良は失敗だな。こんな物飲めるわけが無い」

「……おい、聞けよ」

「えっ? ああ……んで? 彼らって、誰だよ?」

「っ──! 君と敵対している純血主義者達さ!」

 

 サーペンソーティア蛇よ出でよ! と呼び出した蛇が、まだまだ一般的なアナコンダ程度の大きさだったので、リドルは舌打ちして呪文を消した。

 

「っふう……。彼らっていうのは……ノット、レストレンジ、ロジエールにマルシベール。皆、君のことが嫌いな奴らだ。皆、君のことを悪し様に言う。君だって知っているだろう。僕がそれを止めていないことも。……気にしないのか?」

 

 リドルの言葉にぼくは実験の手を一旦止めた。しかしそんな疑問は心底どうでも良いことだった。

 

「気にするって、どうしてさ。別に僕は、敵対しているつもりもないんだ。ただ、僕が歴史的に正しいことを言うと、あちらが怒るというだけで……。まっ、言わせておけば良いだけのことだ。あんな愚か者共の言葉は、わざわざ相手をするに値しないね」

「そうじゃなくて……! 君は、僕が君を見捨てていることに、何とも思わないのかと聞いているんだ!」

 

 リドルは珍しく声を荒げた。驚いて、僕は思わず試験管を落としてしまった。がしゃりと落下音が部屋の中に響き渡る。振り返ってみれば、リドルは誇りを傷付けられたような顔をして、僕のことを睨んでいた。

 

 珍しい顔だと思った。外面の良いリドルが感情を露わにすることもそうだが、何より怒るような苦しそうな耐え難い顔をしているのが珍しかった。彼女はカツカツと必要の部屋に靴音高く近寄ってきて、胡座をかいていた僕を見下ろして言った。

 

「君は、僕のこともどうでも良いと思っているのか? どうでも良いから放っているのか? 君は質問をしないね。僕に何も聞かないね! どうして君以外には態度を取り繕っているのか、とか。どうして君を仲間に加えないのか、とか」

「うん? それは違う。それは……」

「どうでも良いからか? 僕の事を、野望に近付くための道具とでも思っているのか? 見くびるな! 僕は君より圧倒的に優れている! 君は、縋り付くべきなんだ。君は僕に、『お願いします』と言うべきなんだ! あいつらみたいに、あの間抜け共みたいに……っ!」

 

 そこまで言って、リドルは何か後悔でもするかのように自分の口を押さえた。しかし再び憎々しげな瞳が復活して、30センチ超、骨のように白い杖をこちらに向けてきた。

 

「立場を分からせるには、力の差を見せ付けることが一番だ。君は、っ僕には勝てない」

「なあなあ落ち着けって! 何もそんな決闘なんて……」

 

 僕がそう言うと、リドルは口元に嘲笑を浮かべた。興奮し切った彼女の瞳には、赤色が仄かに滲んでいる。

 

「決闘? 決闘だって? 君と僕がそんな対等な立場であるものか。これは蹂躙だよ。君が自分の立場を理解するまでのね! サーペンソーティア蛇出でよ! コンフリンゴ爆発せよ!」

「げえっ! プロテゴ!」

 

 飛来する爆発呪文に飛びかかってくる蛇にと、まるで一年生の実力じゃない。何とかプロテゴで防いだが、リドルはギラついた真っ赤な目をして、口元には邪悪な笑みを浮かべている。戦う気満々だ。

 

「全く話を聞かないんだから! 思い込みが激しい奴! 少しは話を聞けよ! ステューピファイ麻痺せよ!」

「その程度っ! フィニート終われ! イモビラス動くな! レヴィオーソ浮け! ディセンド落ちろ!」

「プロテゴ・デュオっ護れ!」

 

 防御っ、防御だけは昔から得意なんだ。しかしまるで相手にならない。こっちが一つ呪文を唱える間に、リドルは三つも四つも撃ってきやがる。プロテゴの護りにも罅が入り、すぐに砕け散る。リドルはその隙を見逃さず、蛇のような笑みを浮かべて呪文を放った。

 

「ディフィンド裂けよ!」

「っ! っずうっ……!」

 

 咄嗟に避けたが、足に切り裂き呪文が入って激痛が走る。決闘なんてしたことがないのに、痛みになんて慣れていないのに、思いっきり足が傷付いて思わず僕は動けなくなった。

 

「インカーセラス縛れ! 『蛇、お前は絡みつけ』! ……ふふっ、ふふふっ! どうだ。どうだ! 思い知ったか! これが僕と君との実力差だ!」

 

 リドルは縄と蛇とに縛られた僕を高みから見下ろした。彼女はまるで暴君のようで、あるいは子供そのもののようだった。自分の気に入らない物に対し力で脅しつけるような、そんな未熟さがあった。

 

「どうだ? 何か言うことがあるんじゃないのか? ええ? どうなんだアルフレッド!」

「話を聞け馬鹿野郎!」

「っ……! ふ、ふふっ、ふふふっ! そこまで、見くびられているとはね。良いだろう。これを試してやる……! クルーシ……!」

「馬鹿っ! 友達にそんな呪文を撃つ奴があるか!」

 

 咄嗟にそう言うと、彼女はぽかんとした顔を浮かべた。杖先に集中していた闇の魔術は霧散して、どこかへと消えた。

 

「……友達? 面白いことを、言うね。君と僕が友達? へえ、まだそんな事を考えていたんだ」

「そりゃあそうだろう! 僕達は友達だろう。友達だから一緒に必要の部屋に居るんだし、これから禁書の棚に忍び込むんじゃないか」

「……傲慢だね。不遜だね。君は立場を弁えていない。いや、命乞いかな? 友情を嘯いて、君は僕から逃れようとしている」

 

 口振りは冷たいが、何故かリドルは呪文を唱えなかった。にやにやと邪悪そのものの笑みを浮かべて、杖先でぐりぐりと額を突いてきた。痛い。

 

「友達だというのなら、何故君は気にしないんだい? 僕は君を遠ざけていた。君を嫌う奴等を仲間にして、君を悪く言うに任せていた。普通、気にするだろう? 僕なら二度とそんな事は言わせない。力を見せ付けて屈服させてやる。何故しない?」

「だからそれは、どうでも良いと」

「僕のこともどうでも良いと思っているんだろう? 君の友情は嘘偽りだ。この僕を、利益を生むものとしか考えていない! 本当に友達だと思っているなら、君は僕に頼みに来るべきだった。泣いて懇願するべきだった! 『どうか仲良くしないで下さい』とね! それが……それが私の知る、友情だ」

「えぇ……?」

 

 困惑した。何を言っているんだこいつは。価値観が歪みまくっていやがる。どうして友情が、泣いて懇願することに繋がるんだ。こいつの価値観はサバンナの野生動物か?

 

「そう言われてもなあ……本当にどうでも良かっただけだし。君に友情を感じていることと、あいつらと仲良くしていることは繋がらないだろう。君は好きに仲良くすれば良いし、僕は君と好きに仲良くする。それで良くない?」

「良くないね。ああ、よろしくない。君の言葉を証明する術がない」

「いや、あるだろ。君ならあれ、開心術、レジリメンスが使えるんじゃないのか?」

 

 そう言うと、リドルは納得したように手を叩いて、しかし次には「は?」と困惑した顔を見せた。

 

「えっ、君、大丈夫か? 自分から心を開くのか? 頭がおかしいのか? いや、君、ひょっとして閉心術を……」

「そんな優秀じゃないって事はリドルが一番分かっているだろう。別に見られて恥ずかしいものなんて無い。寧ろ俺は俺を誇るね! さあ、見たまえよ。見られるものならな」

 

 そう言うと、リドルはむっとした顔をして、すぐさま「レジリメンス!」と唱えた。すぐに頭の中に何かが入ってくる感覚があった。やっぱこいつ天才だな。

 

 リドルは暫く、何かを見るように中空に視線を散らしていた。じっと黙ったまま、丹念に俺の記憶を調べていた。その間見られている側としては特にやるべき事もないので、顔近くをベロベロ舐めてくる蛇に対して、パーセルマウスの真似事をやってみたりした。

 

「シュー、シュシュッ」

「シュー? シューシュー」

「あっ、馬鹿! 服の下に潜るな!」

「……何をやっているんだ、君は」

 

 ヴィペラ・イヴァネスカ蛇消えよ。フィニート終われ。リドルがそう唱えて、ぱっと蛇と縄は消えていった。さよなら……と僕は名残惜しく蛇を見つめた。蛇も何だか名残惜しそうに消えていった。

 

「同じ蛇を出す呪文ってないかな?」

「馬鹿を言うなよ……」

 

 はあ、とリドルは溜息を吐いた。しかし何故だか、少し嬉しそうだった。彼女は口ごもりながらも言った。

 

「あー……君の記憶を見た。君がどう思っているのかとか、そういうのも。その結果……君が、とんでもない無頓着野郎だということが分かった。……君は本心で、どうでも良いと思っていたんだね……僕との友情を感じながら、君を嫌う奴等に関しては本気でどうでも良いと……。控えめに言って、理解しがたい。君は馬鹿なのか?」

「馬鹿とはなんだ。馬鹿とは!」

「いや、だって……分からない。どうして自分を悪く言う奴を放っておける。そして、どうしてそのまま、僕を友達だと思える? どうして本心から、レジリメンスをかけられても良いと思うほど、僕を信頼することが出来る? ……正直、君が異常者だと考えた方が、合点がいくんだけどね」

「なんて失礼な! 僕はただ、自分が嫌っているからといって、君にまで強制する権利なんてないと思っただけだ。相手の意思を尊重しないなんて、何が友情だよ」

「……らしいね。君は本心からそう思っている。奇妙な、理解しがたい考え方だが……そういう人間も居るのだと、頭の隅に留めておくことにするよ」

 

 エピスキー癒えよ。リドルがそう唱えて、僕の切り傷はたちまちの内に癒えていった。古傷も違和感も全くない。丁寧で完璧な治療だった。

 

「さて、誤解も解けたことだし……」

 

 ぱんぱんと戦闘によるローブの汚れを叩きながら僕は立ち上がった。「ん……」とリドルは曖昧に呟いた。視線は床上を見つめていて僕と視線を合わそうとはしなかった。何時もなら饒舌に語るはずなのに、何故か気まずそうに口を噤んでいた。

 

「なあ、リドル」

「ん、ん……うん……なんだい」

「今ので確信した! 僕達は既に禁書の棚に忍び込めるだけの力がある。早速行こうリドル!」

「……レジリメンス」

「えっ、なんで」

 

 リドルは苛立たしげに再び開心呪文を唱えた。そうして僕の内心を眺めて、苦々しげな顔に手を当てつつ、溜息を吐いて言った。

 

「君、ね。本当にね、どうかしているよ。君は、あれだ、馬鹿だな。僕に傷を付けられて、何とも思ってない。僕のことを友達だって、信じて疑わないでいる」

「それは誤解があったからだろう。君の価値観がおかしかったから、君が誤解しただけだ。それでしまいだ」

「……普通は、そうは思わない。痛みには恨みが残るものだ。恐怖が残るものだ。僕はそれを理解している。理解して、利用してきた。……僕が思うに、君は人間への興味が薄いんだな。だから、聞こうとしないんだ。聞いてくれないんだな。……僕がどうして、君に態度を繕わないのか、とか。どうして私が君に怒ったのか、とか!」

 

 唇を尖らせて、彼女は苛立ち紛れに言った。しかし、「何だそんな事か」と僕は言った。対してリドルは驚いたような顔をしたが、どうして分からないと思っていたんだ? それに対する回答などとっくに分かり切っている。

 

「だって君が、あんな奴等を友達に選ぶはずが無いもの。散々言っていただろう。『純血も大したことが無い』って。君はきっと、僕だけを友達だと思っている。それが何故かは知らないけれど」

「っ……聞けよ! 知らないなら聞けよ! 僕のことをもっと知ろうとしろよ! 僕にもっと興味を持てよ! そこまで分かっているのならぁ……!」

「えーじゃあ何で?」

 

 そう言うと、リドルは目を真っ赤にして僕を蹴った。脛だ。脛を正確に狙いやがった。

 

「あ痛ぁっ!?」

「言うか、馬鹿! くたばれ!」

 

 かんかんに怒ってリドルは必要の部屋から出て行った。何なんだ。誰が人間への興味が薄いというんだ。僕ほど人間社会に興味を持っている奴なんて、早々いないぞ!

 

 

 

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