トム・リドルをTSヒロインにする暴挙   作:生しょうゆ

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第5話

 

 

 

 僕とリドルの、というよりかはリドルの一方的な怒りは中々収まらなかった。僕が話しかけようとすれば彼女の取り巻き達に阻まれ、必ず魔法合戦になる。それは別に良いんだけど、唯一の友人と会話できないのは辛かった。

 

 9月の入学式がもう懐かしくなる4月になった。春の風は重苦しい雪を柔らかく溶かし、花々を咲かせ命を育むが、僕とリドルの関係はまだ雪解けを迎えていなかった。

 

「こういう時って、どうすれば良いんでしょうかね、ビンズ先生」

「ん? 君は確か、ウィーニー君だったか。授業内容は全て教科書の中にあるよ」

「そりゃそうでしょうね。先生に聞いたのが間違いでした」

 

 というか、こういう時に頼るのは寮監であるスラグホーン先生だろう。ただあの人、何故か知らないが何とかクラブ? に誘ってきてうるさいんだよなあ。リドルとその友人達は足繁く通っているようだけど、僕としては余り興味が湧かないのだ。

 

 まあ仕方がない。こんな時にこそ頼るべき人だろう。ということで、その日も席を隔てて座るリドルを気にしつつ、魔法薬学の授業を受けた後、スラグホーン先生を訪ねてみた。

 

「スラグホーン先生、少し相談が……」

「おお、やっとかいアルフレッド! 私は君を待っていたよ!」

「うえっ!?」

 

 僕が尋ねた次の瞬間に、スラグホーン先生はがっしと僕の肩を掴んで破顔した。子供のように嬉しそうに笑った。

 

「君は私を避けているとばかり思っていたがね、いやあそれは勘違いだったか! 君からは少し話しかけづらかったかな? いやいや、確かに私は純血の生徒をよく招いているがね、しかし決して純血主義者ではないよ! 才能ある生徒は皆大好きだ。特に君のような、若くして知識と力のある生徒はね!」

「ちょ、ちょっと……!」

「ああ、すまないね。嬉しくてね! 今年の一年生の中でも、トムに次いで優秀である君のことはずっと惜しいと思っていたんだ! しかしこうして話しかけてきてくれたということは、いやいや、言うべきではないかな? 何も恥じることはない。寧ろ誇りに思うべきだよ! 君はスリザリンでありながら、グリフィンドール的勇気を発揮したということだ! 自分の態度を変えるという勇気をね!」

 

 思いっきり捲し立てられた。何なんだこの人は。ニコニコと笑みを浮かべてバシバシ背中を叩いてくる。気の良いおじさんか、うるさい親戚のような人だ。

 

「あの……相談! 相談をしに来ました!」

 

 やっとの事でそれだけ絞り出すと、スラグホーン先生は更に嬉しそうな顔をした。この人には何を言っても嬉しがる気がしてくる。そのままハグでもしてきそうな勢いだった。

 

「相談か! いやあ実に結構! 生徒を導くのが我々教師の役目、特に自寮の生徒はね! 何でも言ってくれたまえ。最大限に支援しよう。さあ、言ってみなさい。君のような生徒が気にすることと言えば、やはり授業に関する事かね? 勿論私としては、君のために私の友人達から書籍を取り寄せることもやぶさかではないが、しかし君くらいになると既に読んでいるかも知れないね!」

「あー……ご期待に添えませんが、友達に関する相談です。僕とリドルの事です。彼女と僕は友達なんですが、最近仲が悪くなってしまって……」

 

 スラグホーン先生は虚を突かれたようだった。大変驚いたと、オーバーに身体で表現して言った。

 

「君とトムが? 友人? 本当にかい? これは……驚いたね。てっきり君たちは対立していると思っていたが……それで君が私の誘いを断っていると思っていたが」

「事実です。2月までは一緒に呪文の練習なんかもしていたんですが、それから会話もしなくなってしまって……別に喧嘩をした覚えはないんですが」

 

 あの決闘は単に誤解から来るものでしか無かったし、何より戦いにすらなっていなかった。リドルが一方的に僕をぶちのめしただけだ。

 

「先生、友達と仲直りするにはどうしたら良いんでしょうか?」

「ああ……そうだね。確かに、君たちのような年頃には、重大な問題だ。……一応確認するが、思想の問題ではないのだろう? 単に仲がこじれただけ……ううん。しかしあのトムが……」

 

 確かにリドルは品行方正で通っている。先生からしてみれば、あのリドルが誰かと喧嘩をするなんて考えづらいのだろう。やるとすれば、一方的に言いくるめるか、一方的に障害を排除するかの二択だ。

 

「そうだね、アルフレッド。よければ仲がこじれる前の出来事を、私に教えてくれないかね?」

「そうですね……」

 

 というわけで、僕は必要の部屋を探し出し、リドルと呪文の練習をしていたことを話した。勿論、その目的が禁書の棚に侵入することだということは伏せたが、それ以外のことは包み隠さず話した。

 

 すると、話している最中は感嘆したように何度も頷いて、笑みを深くして聞いていたのが、段々と表情が強ばってきて、遂には呆れたような、頭がおかしい人間を見るような目に変わってきた。

 

「アルフレッド……本当なのかい? いや、別に罰則を下すとかじゃないんだ。確かに必要の部屋は、君が考察したように、賢い生徒によって運用されることを黙認している。君たちの決闘も、一年生にしては余りに高度だと賞賛はするが、咎めはしないよ。ホグワーツには公認非公認に関わらず、大小様々な決闘クラブがあるからね。……しかし、その、開心術を」

「開心術を使ったのが問題ですか?」

 

 スラグホーン先生は、本当に困ったように言った。

 

「使うのも問題ない。私だって使える。一年生で使えるとは、恐ろしいほどの才能だと思うがね。……しかし、アルフレッド。君はどうしてトムの開心術を受け入れたんだ? 閉心術も覚えていないんだろう? 心を覗き見られるということは、誰だって恐ろしいはずだ。だから魔法界には対になる魔法、閉心術が存在するんだ」

「どうしてって……別に恐ろしくはないからですけど。僕に見られて恥ずかしいことなどありませんね」

「ううん……」

 

 スラグホーン先生は頭を抱えた。本当に困っているようだった。何故かは知らないが。

 

「と、とにかく、だ。問題は、君とトムが仲直りできるかどうか、ということだね。君の問題はこれからゆっくりと考えていくとして、そうだな……」

 

 と、そこでスラグホーン先生はにやりと笑った。それは慈しむような、それこそ教師らしい笑みだった。まあ教師なんだけど。

 

「それなら話は簡単だよ。トムは君に、『もっと自分を気にしろ』と言ったんだろう? その要求は、こうして私に相談している時点で満たしている。後はそれを、態度で表わせば良い。アルフレッド、時には狡猾さのみならず、グリフィンドール的な積極さ、勇気も必要なのだよ」

「ええと、つまり?」

「積極的になりなさい」

 

 呆れるほど単純な解決法だった。

 

「ふふ……年頃のレディというものはね、男の子には情熱的に迫って欲しいものなのだよ。君はもっと、情熱的にトムに迫りなさい。『仲直りをしたい』と直接的に言うんだ」

「成る程、熱意、熱意ですか。確かに欠けていたような気がする……ありがとうございました、スラグホーン先生!」

「ふふ、気にしないでくれたまえ。生徒を導くのが寮監の役目……」

 

 と、そこで先生は何やらもったいぶったように「エヘン、エヘン」と咳をして、にんまりと笑って言った。

 

「しかし、君が感謝を感じているのならば、良ければ一度、私が主催するディナーに来てくれないかい? 今度のイースター休暇に、外部から卒業生も招いてパーティーを開くんだ。君とトムが仲直りすれば、とても賑やかな場になるだろうね」

「おお! それなら大丈夫ですよ。ええ、楽しみにしています。ではまた!」

「ああ……しかしあのトムがねえ……ふふ」

 

 やっぱり先生に相談して正解だった! 今度からはビンズ先生の元に赴くなんて愚行をしないように気を付けよう!

 

 相談が長引いてしまったので、次の授業である変身術が始まるギリギリに教室に着いた。変身術教授のダンブルドア先生は、僕が遅れてきたことに意外そうな目を向けたが、罰則を加えたりもせず、授業が始まった。

 

 教壇に立つのは白と黒が混じった髪の、老境に入ったばかりといった風の男性である。柔らかなブルーの瞳が教室中を愛おしむように眺め、「さて、前回は何処まで進んだか……」そう恍けるように言った。

 

 すうっと、リドルが手を挙げた。

 

「先生、前回はそれまでのマッチを針に変える授業を終え、新しくボールをサイコロに変える授業が始まりました。一発で成功したのは、私と他一名だけです」

「うむ。そうだったの。よく覚えておる。スリザリンに三点。……しかし、君と同じく優秀であったアルフレッドの名を忘れてはいかんぞ」

「ええ、そうですね。ごめんなさい、バグショット君」

 

 柄にもなく、と思っているのは僕だけなのだろうけど、リドルは丁寧な言葉遣いで僕に謝罪の言葉を述べた。しかし瞳は笑っていなかった。彼女の怒りは時間を経てより激しくなっているようである。

 

「さて、今回の授業では、前回出来なかったものは出来るように、前回できたものはより上手に出来るように、それぞれ目指すのだよ」

「先生、私は既に完璧に出来るので、友人を教えていても良いですか?」

「うむ。そうだな。ではアルフレッド、君も一緒に……」

「そうですね。ではバグショット君、私は私の友人達を指導するので、貴方はまだ上手く出来ない方々を教えてあげてね? 本当は私が教えたいけど、手一杯だから」

 

 にこにこと笑みを浮かべているが、リドルの笑顔はダンブルドア先生のそれとは違って、脅しつけるようなものを含んでいる。これまではそんな態度を表面に表わすことはなかったのだが、2月からどうにもこうなってしまった。彼女の周囲のご友人達が、にやにやと皮肉たっぷりにこちらを見て笑っている。

 

「トム、それは……」

「いけませんか? ダンブルドア先生。バグショット君の意見も聞くべきでは? ねえ、バグショット君、貴方もそうした方が良いでしょう?」

 

 それまでの僕なら、未だ仲直りできていないのもあって、渋々請け合っていただろう。だが、今は違う。スラグホーン先生の助言を得た今の僕には、やるべき事がある。

 

 僕は何も言わないまま、皆が座ったままでいる教室の中をずかずか進んでいった。ロジエールやらレストレンジやらが杖を構える。ダンブルドア先生の目が鋭くなる。リドルの眼は、困惑か、驚きか。

 

 僕は杖を抜いた。リドルは何故か裏切られたような顔をした。唇から血の気が引いて、一瞬で瞳が赤くなった。懐に手が突っ込まれる、と同時に僕は杖腕とは逆の腕で、リドルにびしりと指を突き付けた。

 

「決闘だ、リドル! 僕と戦って貰うぞ!」

「……は?」

 

 杖を抜き出した中途半端な姿勢で、リドルは固まった。

 

 

 

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