トム・リドルをTSヒロインにする暴挙   作:生しょうゆ

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第8話

 

 

 起きたとき、僕はベッドの上にいた。思考は曖昧で、どうにも要領を得なかった。起きているのか、起きているのか? よく分からなかったが、生きていることは分かった。

 

 ここはきっと医務室だ。鼻を突く魔法薬の匂いからそう判断する。その判断も随分時間がかかって、僕は本当に傷付いているのだと理解した。身体を動かそうと思っても動けない。瞼は半開きのままで、気を抜くと閉じてしまう。しかし頭は休まらなかった。

 

『何故リドルは、僕に磔の呪文を使ったのだろう?』

 

 そんな疑問が頭の中を占めていた。僕が彼女を恨むことは実に簡単だった。あのグリンデルバルドと同じ闇の魔法使いなのだと、そう判断して嫌うには、許されざる呪文の威力は十分すぎた。

 

 だが、僕の頭には、あの苦痛と同じように、彼女の苦しそうな顔が浮かんで離れなかった。彼女が本当に闇の魔法使いで純血主義で、僕を嫌っているというのなら、あんな顔を浮かべるだろうか? 僕達の友情が意味の無いものだったとしたら、あんなに躊躇する必要はあっただろうか?

 

 僕は知りたかった。歴史家を標榜するものとして、事件には原因と過程が存在し、結果だけでは読み取れないものもあると知っていた。彼女が何故僕に磔の呪文を使ったのか、その理由を知りたかった。

 

 ……或いは、単に信じたいだけなのかも知れない。

 

 彼女の行動には意味があって、僕達の友情は継続していて、彼女はきっと僕に謝りに来るのだと。そう信じたかった。

 

 だって、初めての友達なんだ。彼女は僕の夢を笑わなかった。個人主義が過ぎる魔法使い達は皆、僕の夢を馬鹿にする。『出来るわけがない』は良い方で、『不愉快だ』と言う奴さえ居る。生徒達も同じで、僕を遠巻きに見つめている。口さがない奴は、僕のことをこう言う。

 

『やはりお前はグリンデルバルドの血統だ。魔法族を支配して、マグルも支配するつもりなんだろう? お前のような奴に誰が協力するというんだ』

 

 ゴドリックの谷は魔法界にも珍しい、多くの魔法使いが暮らす村である。村、そう村なのだ。ホグズミードと同じく、魔法族の集住の限界とは村でしかない。

 

 だから僕は、生まれ育った村を世界の縮図だと思っていた。それはきっと真実だ。個人主義で、厭世の気があって、一般的な善良さを持つ。善悪の判断はいい加減な曖昧さを持つものの、マグルのそれと大枠は変わらない。

 

 その縮図の中で、グリンデルバルドは紛れもなく悪だった。彼を当地に呼び込んだバグショットの名もまた。

 

 だから僕は魔法史に没頭するようになったのかも知れない。昔のこと過ぎて覚えていないが、卵が先か、鶏が先か。人の眼が嫌で魔法史に逃れたのか、夢を蔑むから人の眼を嫌うようになったのか。

 

 どちらにせよ、僕の人生に衆目が付いて回るのは事実だった。それを利用することも出来たのだろうが、生憎僕にはリドルのような、或いはグリンデルバルドのようなカリスマはなかった。

 

 それでも努力はしたんだ。だけど僕はまだ子供で、未熟であって、沸き上がる熱量に社交性の皮を被ることが出来ない。バチルダおばさんに学んだことに後悔はない。ただ、どうすれば良いのかは何時まで経っても分からない。

 

 自らの領分を侵す者を魔法族は何よりも嫌う。だから純血はマグルを嫌って、グリンデルバルドはマグル世界まで領分を広げようとする。彼に同調しない者達も、結局はマグルのために戦っているのではない。ダンブルドアの内心は知れないが、多くの風見鶏は安定を望んでいる。変わることのない、個人主義的な平穏を。

 

 そして僕が嫌われる理由も同じだ。自分の領分を広げようと、他人の領分を侵している。それがどうして嫌われないと。偏見を自らの手で深めているというのに、どの口で差別と喚ける。どうして遠い血縁と一緒にするなとほざける。

 

 組分け帽子は僕をスリザリンに置いたが、どうなのだろうね? これは野心と呼べるのか。だって僕の夢には、現実が伴っていないじゃないか。人を集めて知識を集積させるのが目的なのに、僕の周りからは人が離れて行くばかりじゃないか。

 

 リドル。僕の夢を笑わなかった君を、僕は惜しむ。君が居るから、僕は僕達で居られた。君がいなくなってしまえば僕の夢は形無しだ。嫌われ者の妄想だ。それ以上に孤独は嫌だ。

 

 ──暗澹とした未来は、磔の呪文より寒々しい。

 

 かたりと、扉が開く音が聞こえた。そっとベッドの近くに腰掛ける音が聞こえた。誰だろうか。校医の先生だろうか。そう思って薄目を開けると、意外なものを見た。意外な、期待していた姿を見た。

 

 黒髪と黒目を重たく陰鬱にして、顔色がぞっとするほどに白かった。常の溌剌として美しい、皆の手本となるような優等生の姿は何処にもないが、リドルがそこに居た。彼女は杖を僕に向けて振った。

 

「リナベイト蘇生せよ」

 

 僕の身体に暖かな力が加わるが、意味はなかった。僕は既に失神から回復しているのだ。きっと僕は酷く疲れているだけで、傷は既に塞がっているし、後はほんの少し眠るだけで良かった。

 

 だがリドルは続けざまに呪文を唱えた。

 

「リナベイト。エピスキー。ヴァルネラ・サネントゥール。……うう゛」

 

 黒髪を掻き乱すのが見えた。彼女は錯乱しているようですらあった。落ち着きなく杖を震わせて、僕をじっと見つめていた。

 

「リナベイト。リナベイト! リナベイト……! う、う。くそっ。どうして……。正しいはずだ……失神呪文はこれで……やはり、ああ、くそっ、磔の呪文が。やはり力が……僕にもっと力があれば。力さえあれば……!」

 

 呪うように呟きながら、呟き続けながら、リドルはふと沈黙し、そうして「ふふっ」と笑った。冷たい笑い声だった。

 

「……君が起きていたら、『どうして』と言うだろうね。そうして君は、今度こそ僕を嫌うんだ。……ああそうだそれが正しいよ。磔の呪文を使ったんだ。優秀な君のことだ。今度は僕にそれを使うに違いない。……いや、違うな。君はきっと、僕をあいつらと同じようにするんだ。僕のことをどうでも良いと思って、話しかけることすらしなくなるんだ。僕を友達だとは思わなくなるんだ」

 

 ふふっ、ふふふっ! 自嘲するような笑い声が耳元に響く。彼女はずっと笑っていた。酷く刺々しい笑い声だった。

 

「友達? 友達だって? 正気かトム・リドル! お前は友達なんて持ったことがないだろう。お前の周りに居たのは被支配者だけだ。それが良いんだろう? それが一番満足できるんだろう? なら、寧ろ誇れよ。お前は自分に比肩する魔法使いを一人、叩きのめしてやったんだ。血統が確かな、偉大な魔法使いを親戚に持つ、純血の魔法使いを一人……」

 

 そこまで言ってまたリドルは笑った。げらげらと品のない笑い声が響いた。

 

「あはは、純血がなんだって? あいつらは馬鹿だ。弱者で、そのくせプライドだけは高い、愚劣その物だ。アルフレッド。君に勝っている点など一つたりともない。だが……僕はあいつらに味方した。あいつらのために、君に磔の呪文を使った。保身のために。自分が弱者だと思われたくなくて。……ふふっ、はははっ! 僕は、何なんだろうね? 何がしたいんだろうね? これじゃあまるで、僕が媚びへつらっているようじゃないか。あいつらに媚びて、純血様のご機嫌を伺っているようじゃないか。この僕が!」

 

 ぎりぎりと杖を握り締める音が聞こえる。歯噛みする音が聞こえる。

 

「君だからだ、アルフレッド。純血がどうかなんてどうでも良い。君、君ね、何故僕が君の友達面をしていたと思う? それは君が優秀だからさ。優秀で、敵を作りやすいからさ。君は僕の障害にはならない。君は勝手に敵を作って、勝手に僕に有益な知識を授けてくれて、勝手に仲良くしてくれて……」

 

 そこでリドルは声を深くした。

 

「……居心地が良かった。こいつとなら長く続く気がすると、そう思ったんだ。……っぅ……それでこの様だっ」

 

 くすくすと、リドルはよく笑う。僕の腕に手を伸ばし、服の上から肌を指先ですうと撫で、リドルは呟くように言った。

 

「友達……友達! まったく、馬鹿みたいな言葉だねえ! 愛と同じように、友情なんて塵みたいなものだよ。そんなものに縋り付くのは弱者だけだ。僕は違う。僕は……君を利用していただけで、だから居心地が良いというのも、杖の振り心地の良さのようなものだ。だから、だから、躊躇したのは、磔の呪文を止めて失神呪文を使ったのは、だから……」

 

 段々と、声のトーンが落ちて、沈黙に変わった。

 

 暫くあって、リドルはぼそりと呟いた。

 

「僕は……誠実になりたかったのかな」

 

 刺々しさのない、深く思い悩むような声色で、リドルは自らに問うかのように言った。

 

「僕が魔法使いで居られる世界で、僕が特別で居られる場所で、生まれ直そうとしたのかな? ……ダンブルドアは、僕を危険視している。奴は僕を信じようとしなかった。もっとも、それは当然だろうね。奴の懸念の通り、僕は闇の魔術を使う事に躊躇しない。人殺しだって……。だけど、その生き方は変えることだって出来たんだ。僕の特別さはとっくに保証されていたんだから。君がそうしてくれたんだ。君が僕を、特別だと言ってくれた。だから僕は、表向きは正しく生きている。優等生そのもの。それは、大変だよ。正しく生きることは大変だ。力で脅しつける方が楽なんだ」

 

 リドルは僕の腕を掴んだ。

 

「……だけど君が、僕を保証してくれたから。力を誇示する気も薄くなって……だから僕は……僕は、何なんだろうね? 僕は嬉しかったのか? 友人との日々が楽しかったのか? ……分からない。ただ、あの時……君に磔の呪文を使えと言われたとき……僕はあいつらを、殺してやりたいと思ったんだ。……それだけは事実だ。どんな理屈を並べようと、僕は純血の価値よりも、君を高く思っていた」

 

 リドルは僕の腕を硬く掴み、撫で、爪を立てた。何かを刻み付けようとするかのように彼女は僕の腕に語った。

 

「……怖かったんだよ、それが。僕が望んでいたのは地位や権力であって、力であって、友情なんかどうでも良い筈なのに、どうして僕は迷うんだろうって。悩むこと自体が苦しくて嫌だったんだ。僕はもっと単純で居たかったんだ。力だけを求めていたかった。それが僕が望んでいるものだって、今までずっと確信してきたんだよ。……だけど、君のせいで……僕は力と君を天秤に掛けられて、迷うようになってしまった。あの時僕は、それを否定したかったんだ。でも……否定した結果が、これなら、もう、ね。しなければ良かったのになんて……もう遅いね」

 

 そこでリドルは席を立った。黒の瞳が一瞬神経質にこちらを見て、痛々しいものを見てしまったようにすぐ逸らした。「……ちくしょう」そう呟いた。

 

「これで終わりだ。……君と共に居れば、僕はきっと、もっと力を手に入れる事が出来ただろうね。もっと早く、もっと強く、なれただろう。だが、無意味な仮定だ。僕は一人でも、ホグワーツの全てを手に入れてみせる。君が邪魔するのなら、その時は……殺してみせる」

 

 最後の言葉は弱々しかった。あれではとてもでは無いが、言葉通りの死の呪文など放てないだろう。

 

 かつかつと靴音が響く。リドルが部屋を出て行こうとしている。

 

 僕は腹を意識した。

 

 そこに力を込めろと全身に命令した。僕は予言者じゃない。グリンデルバルドみたいな予言の才能なんて無い。だがそれでも、ここが運命だと思った。ここだ。ここが全ての分岐点だ。

 

 リドルの独白は余りに個人の背景に依拠していて、あくまで一年の付き合いでしかない僕には完全な理解など出来なかった。何故彼女は磔の呪文を使ったのか。何故苦しそうな顔をして後悔を口にするのか。純血。能力。魔法界……単語だけでは全てを理解出来なくて、だからこそ、僕は知りたかった。

 

 不思議な衝動だった。初めての思いだった。それは歴史じゃないんだ。歴史ではない、長く連なる総体としての人間ではなくて、たった一人の個人を知りたい。そんなことを思ったのは初めてで、しかし悪いことだとは思えなかった。

 

 寧ろ、これが必要だったんだと思った。僕に欠けていたものはこれだ。だから僕の周りに人はいなくて、リドルは怒ったんだ。これだ。この思いだ。これを叫ぶんだ!

 

 僕は、リドルを知りたいんだ。初めての友人を、たった一人の友人の事を、僕はもっと知りたくて、これで終わりになんてしたくないんだ!

 

 だから身体、おい身体! 声を上げろ!

 

「お、い……! おい!」

 

 ごほごほと、水没死寸前から回復したように、僕は重く声を発した。靴音が止まった。リドルが顔に驚愕を浮かべて振り返っていた。

 

「君、起きたのか……」

 

 リドルは安心したような顔を浮かべたが、それも一瞬のことで、次には繕いの笑みに変わった。にこにこと、教師や生徒に向けるような顔で僕を見つめていた。

 

「災難だったわね。君は私との決闘に向かう最中、誰かに呪いをかけられたのよ。もう傷は塞がった? でもその様子じゃあ決闘なんて出来なさそうね。勿論、何時でも挑戦を待っているわ。じゃあ……」

「僕は君を今でも友達だと思っているぞ!」

「……っ。なんの、事かしら?」

 

 繕いに罅が入った。黒髪黒目の一見して清楚な姿。しかし僕は、彼女が僕にかけた言葉を知っている。知っているから、引き留めなければならないと強く思った。僕はベッドに寝転がったまま、首だけを彼女に向けて叫んだ。

 

「聞こえていたぞ全部! 長々とした告白だったな。生憎、君の予想は当てが外れた! 僕は歴史を知った。事件が起きる背景と動機を知った!」

「なっ、あっ……!」

 

 リドルは目を白黒させて、顔を真っ赤にして口をぱくぱく開閉させた。可愛らしい姿だった。僕は笑って言った。

 

「なんだい、随分恥ずかしい告白だったな。君はあんなに素直だったのか? いやいや、恥ずかしがるな。僕は嬉しい! 君が僕を友人だと思ってくれていて……。だが、まだ分からないんだ。君は歴史ではないんだ。だから……だから、これからもよろしく頼むよ」

「オブリビエイト忘れよ! オブリビエイト! オブリビエイト!」

 

 リドルの杖先が白く輝き、忘却呪文を放ったが、しかし僕のベッドがそれを弾いた。正確には、ベッドに仕掛けられている防御呪文が護った。

 

「プロテゴ・トタラム……範囲型防護呪文か。それも飛びっ切り強力な……流石はホグワーツの医務室だ」

「くそっ、くそっ! 君、君ねっ、どこから聞いていた!? 何時から、僕のっ……!」

「君が部屋に入ってきたときからかな」

「最初っから……全部……! ああ……!」

 

 リドルは顔を手で覆った。その指先の間からぎらぎらとこちらを睨む目が覗いてきて僕は笑った。何だよ、同い年らしいところもあるじゃないか。

 

「まあ、気にするなよ。僕はさっきので益々君を尊敬したんだ。やっぱり君は天才だよ。カリスマと言うのかなあ、集団を惹き付ける術を知っているね」

「はあ!? 誉められれば簡単に気を良くするとでも……!」

「いやいや、中々真似できないよ。……何せ君は、人付き合いのためなら、友人にクルーシオを掛ける事だって出来るんだからね!」

 

 その言葉に、リドルは凍り付いたように硬直した。目を見開いた。瞳がわなわなと震えていた。

 

「凄いねえ、リドルは」

 

 僕が笑って言うと、リドルは「ひゅっ」と息を飲んだ。顔がどんどん青ざめて、唇の赤が引いていった。

 

「ん? どうした?」

「君、は……! ……ぅう……ひ、皮肉を、言っているのか? そ、それとも、本心から……まさか本心から……クルーシオを掛けた僕を尊敬しているとでも言うのか……?」

 

 僕は暫く沈黙した。その間、リドルは床に目を落としながらも酷く落ち着かず、視線を右に左に揺らしていた。顔は殆んど真っ白になって荒く息を吐いていた。僕はそれを見て言った。

 

「皮肉に決まっているだろ! クルーシオを掛けられて尊敬できるわけがない! さっきは許すと言ったが、結構怒っているんだよ僕は!」

「うっ……あ、ああ、そうだよね」

 

 リドルは何故か知らないが安心したような顔を見せた。しかし尚も顔色は青白く、吐く息一つさえ震えていた。

 

「そこまで頭がおかしくなくて……良かったよ。はは、は……」

「皮肉で済ませてやったんだ。二度と僕に掛けるなよ」

「う、うん……ごめん、なさい」

 

 リドルは珍しく萎れた顔をして素直に謝った。しかし続けて、ぼそりと彼女は呟いた。

 

「……本心だったら、どうしようって思ったんだ。だって本心から、そんな尊敬なんて出てきたら、どうして良いか分からなかったから……」

「おいおい、流石にそこまで頭おかしくないぞ僕は」

「……知らないんだよ。君は僕を知らないと言ったけど、僕だって君を知らないんだから。だから、だから……言葉は信じられなくて……開心呪文を使えさえすれば……」

 

 リドルは本当に珍しく内心を吐露しているようだった。彼女は言葉の途中で頭を振った。

 

「いや、違う……違うんだよ。そうじゃないんだアルフレッド。君を力で脅しつける事は出来ない。君は僕には屈しない。だから何も信じる事が出来ないんだ。君は簡単じゃない。だから苦しくて、邪魔臭くて……楽しいんだ」

「相変わらず、野生動物みたいな価値観だね」

「っふ……そうだね。でも、どうすれば良いのかな。君はどうすれば……」

 

 そこでリドルは言葉を切って、一度唇を噛んでから、意を決したように言った。

 

「君はどうすれば、僕の物になってくれる?」

 

 僕は言った。

 

「僕は物じゃない」

「っ……うん……そうだね。そうだ。君は物じゃない。君は取り上げた玩具でも、衣装棚に詰め込んだトロフィーでもないんだ。だから分からないんだよ。僕には、こんなことは分からないんだ。……泣いて頼めば良いのかな? っふふ、嫌だ。絶対に嫌だ。……でも、どうしようもなく欲しいんだ」

「物じゃないが、もう持っているようなものじゃないか?」

 

 そう言うと、リドルは何も分からないと言うかのように眉根を寄せた。僕は言った。

 

「僕達は友達だろう。もう、互いに互いを持っているようなものじゃないか。友情は物じゃない。だが、物より素晴らしいものだろう」

「友情……だって? これが? 本当に?」

「リドルは僕と仲良くしたいんだろう? 僕だって君と仲良くしたいんだ。もっと君が知りたい。これからもずっと……。それって、友情以外の何だと言うんだ」

 

 リドルは複雑な顔をしていた。内心の煩悶と戦うように瞳を伏せながら、長い間唇を噛んでいた。

 

 やがて彼女は、諦めたように溜め息を吐いて、笑って言った。

 

「友情……ね。やっぱり、ああ、そうなんだね、これは。……そっか、僕はもう、とっくに変わっていたんだな。それから目を反らし続けていただけだった」

「本当に今更だな。僕はずっと、君を友達だと思っていたのに」

 

 僕がそう言うと、リドルは笑った。そうして顔を背けた。

 

「ああ、今更だ。……見ないでくれよ。何だかとても恥ずかしいんだ」

 

 

 


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