【完結】TS転生魔法少女だけど属性が情報災害でした。   作:忍法ウミウシの舞

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Q.名探偵、別に推理とかしてなくね?
A.だって……変身してない時はただの女の子だから……!

Q.情報災害に対しての推測が飛躍しているのでは?
A.【目立ちたがりの鐘】や【陶酔的な白檀】についての情報をあやめは話しています(後日追記)。これらはあやめに対して由良が喋りました。これらの共通点は五感に訴えて特殊な効果を発現させることで、【あっちむいてホイ】も指先の視覚情報を利用したものだとあやめと名探偵は解釈しています。そうすれば現出している全ての魔法を「情報に特殊な効果を持たせるもの」として説明できます。情報災害というネーミングから「情報でなんかするんだろう」と推測すればだいたいこんな結論になるんじゃないかなと思います。

そういう感じです。もうちょっといい感じの推論があれば修正するかもしれません。
感想はめっちゃ読んでます。本当にいつもありがとうございます。めっちゃ励みになります。


海へ行こう! その2

 TSと聞いて思い浮かべることはいろいろある。戸籍はどうするのか、家族からの扱いはどう変わるのか。服は? 生理は? 異性の人間関係は? 一部はTS転生した私には関係ないが。

 その問題のうち一つが……着替えである。

 

 いやさあ! 体育の着替えとかなら不特定多数の生徒の一人として縮こまってやればいいんだけどさあ!

 

「ねえ、由良ちゃんはどんな水着持ってきたの?」

 

 こういうのは聞いてないんだよねえ!

 

 他にも性欲はどうだの性的対象はどうだのって話があるのだが、ここで私は一つの疑問を投げかけたい。

 あなたの心の性別はなんですか、と。

 

 統計的には多くの人が「体は男(女)性、心も男(女)性、恋愛対象は女(男)性」となるだろう。もちろん他にもいろいろなパターンはあるけども、統計的にね。

 さてこのマジョリティの皆さんにお聞きしたいのだが、どうしてあなたの心が男(女)性だと断言できるのか?

 

 だって、内心のことなんか誰とも比較できない。あなたが「男性の心」と思っているそれは、どちらかといえば女性に近いものかもしれない。でもそれは確認することはできない。なぜなら、内なる心のことだから。

 そもそも、心の性別とは何ぞや? ということである。体の性別は骨格や性器の付き方でわかるけれども、心の性別なんてどうやって判断すればいいのか。

 

 私にはわからない。生前は体が男性の異性愛者であった私には、「自分の心は男性であった」と断言することはできない。せいぜい「心と体の性に違和感を抱かず生きておりました」としか言えない。

 

 まあ、つまり。TSはしたけども精神は特に変わらず、しかし女の体に順応してしまったがために。私は今の「心の性別」については全くわからないのである。

 

 性的対象も……正直、よくわからない。特段男性が好きになったわけでもないのだが。こういう着替えとかでいろんな女性の下着姿とかは見てしまっているがもう慣れている。「そういう時になってみないとわからない」というのがある日の結論であった。

 

 だから、そう。話はだいぶ逸れたので戻すと、年頃の女の子に着替えを見られるのはめちゃめちゃ恥ずかしいのです。

 バーっと手早く済ませようと鞄から水着を取り出すと、そこで変な空気が流れた。具体的には、あやめちゃんが固まった。

 

「ゆ、由良ちゃん。それ……何?」

「水着だけど」

「学校の水着じゃん!」

「そうだけど」

 

 別に前世日本のとそう変わりはない、ワンピースタイプのやつである。

 え、なに。ダメだったん?

 

「いや、いやいや。いやいやいや! 私、言ったよね! 『水着は各自で用意してくること』って!」

「うん。これしかなかったし、ちょうどいいなって思って」

「ちっ……がーーーーーう!」

 

 あやめちゃんが爆発した。よくわからないが、違ったらしい。

 一通り爆発し終わると、あやめちゃんは手をぶらんとたれ下げたあとにこちらの肩を掴んできた。眼が怖い。

 

「……わかった。わかったよ。由良ちゃんにはおしゃれの"お"の字もないってことを。今日も制服だったしね」

「まあ、そうだねえ」

「近日中に、服を買いに行きます」

「え」

「連れまわします。死ぬほど試着させます。拒否権はありません」

「ええ~……」

 

 あやめちゃんと行くならまあいいが、とりあえず着せ替え人形にされまくるのは確定のようであった。

 

「大丈夫大丈夫! 由良ちゃんなら何でも似合うって!」

 

 何の根拠もなくそう言われると少し怖いが、楽しみにしておこう。今は海だ。

 着替え? 羞恥に耐えながら、なんとか……。

 

 

「海だーーーーーー!」

「海だねえ」

 

 照り付ける太陽。陽光を反射し輝く砂浜と海面。泡立つ波音。つんとくる潮の匂い。

 まぎれもない海だった。

 え……あやめちゃんの水着? なんかフリル?……のついたかわいらしいビキニだったよ。紫や青が基調なのは紫陽花になぞらえているのだろうか。最近の中学生って結構派手なんだねえ。

 

 しかし、もう少し混んでるかと思ったが意外と空いているな。平日なのが良かったのかもしれない。

 海の家もそこまで乱立はしておらず、圧迫感はない。確かにここなら思う存分遊べそうだ。

 

 あやめちゃんが。

 

 レンタルしてきたパラソルを立て、チェアを掛ける。座ろうとしたところで手を引かれた。

 

「いや、由良ちゃんも来るんだよ」

「えっ」

「『えっ』じゃなくない!?」

 

 いやこのレベルの日差しはおじさんにはきついんだって。肉体はおじさんでなくとも、精神的ダメージは変わらず喰らうのだ。日焼け止めは塗ったけども。

 そういう私の抵抗などお構いなしにぐいぐい引っ張られる。あっこの子普通に力強い。勝てない。

 

 サンダル越しでも熱がわかる砂浜ゾーンを何とか走って渡り、波打ち際にまで至る。

 

「せっかくの海水浴なんだから、文字通り海水ぐらいは触らなきゃ!」

「メチャクチャだ……ぎょえっ」

 

 べしゃりと冷たい何かがかけられる。海水だ。あやめちゃんが海面から掬ってかけたのだ。

 

「ぎょえって……なんか由良ちゃんって、たまにおじさんくさくならない?」

 

 マジの禁句を言ったぞこいつ! 生かしちゃおけねえ!

 

「仕返しじゃあ!」

「あはっ!」

 

 海水をかけあうだけの謎の遊びが、子供特有の謎テンションでしばらく続いた。

 

「疲れた」

「由良ちゃんほんとに体力尽きるの早いねー」

 

 うるさいこちとらインドア派じゃい。チェアに掛けてブルーハワイとかいう謎の味の清涼飲料を喉に通す。

 これ本当に何の味なんだろうね。甘いということしかわからん。

 

「昼ごはん……にはまだ早いか」

「結構早く来たからまだまだ遊べるよ!」

 

 私は体力不足で死ぬけど。

 まあ、体力を使わない遊びなら何個か考えてきている。鞄の中に道具があったはずだ。

 今回の鞄はいつものではなく防潮のちゃんとしたやつである。(ホーム)も中にいるのでそういう機能は必須であった。ちなみに蝸牛(シェル)はずっとあやめちゃんの肩に引っ付いてるが、他の人には髪飾りだのイヤリングだのに見えるので問題はない。

 鞄を漁って取り出したのはバケツと小さいスコップ。

 

「作るぞ……砂城……!」

「えぇ……」

 

 海といえばなんぞや、と考えて思い至ったのがこれぐらいであった。砂遊びはしたことあるが、海辺で巨大造形物を作ったためしはない。

 せっかくここには無尽蔵ともいえる砂とスペースがある。いくらでもでかいのを作れるはずだ。

 

「ちょっとちょっと! 私たちもう中学生だよ! さすがに恥ずかしいって」

「そんなに人いないでしょ」

「いやでもほら、なんか見られてるって!」

 

 中学生なんて小学生とそんなに変わらないんだから好きに遊べばいいのだ。

 

「それに砂って崩れちゃうからそんなに大きいの作れないんじゃない?」

「まあまあ、見てなって」

 

 砂場ではそうだろうな。だがここには海水がある。

 ちょっとしたコツは調べてきたのだ。スコップで砂を掘り出し、バケツの中に入れる。そしてその上から海水を汲み、よく混ぜ合わせる。

 こうすることで崩れにくい砂ができあがるのだ。半分くらい泥だが。

 

「そして、これを地上に移してうまく削れば……」

『おぉ、俺じゃねえか!』

 

 多少歪ではあるが、蝸牛(シェル)の姿を彫ることができた。カタツムリの形状は結構難しいが、公園で練習した甲斐があったな。あのときは幼稚園児とその親御さんに滅茶苦茶見られたけども、完成さえすれば一躍ヒーローであった。

 

「どう? 思ったよりやれるでしょ」

「た、確かに」

 

 はい、とあやめちゃんにもう一つのバケツとスコップを手渡す。

 

「周りなんか別にいいでしょ、学校の同級生がいるわけでもないし。それより、私と一緒に城を作るのは嫌?」

「それはちょっとずるいなぁ……いいよ、どでかいの作ろう」

 

 勝った。これでしばらくは体力の温存に努めることができる。あやめちゃんの希望を通したくないわけではないんだが、それをやると私の肉体が保たないんだ。

 だから適宜私の希望を通させて肉体の休憩を図る。完璧な作戦であった。

 

 完璧なはずだった。

 外部からの干渉さえ、考慮しなければ。

 

「え、すごいすごい! このカタツムリって君が作ったの!?」

「なになに……ほんとだ、殻までちゃんとしてる」

 

 背後から黄色い声が聞こえる。後ろをおそるおそる振り向けば、そこには私達より年上の──大体高校生ぐらいか──女の子4人が話しかけて来ていた。

 逆ナンなのか……? いや、それよりも異常なのは。

 

 この4人のうち、一番前に立っている人の頭が思いっきりサメに食われていることだ。

 

「ねえ、せっかくだしさ! お姉さんたちとビーチバレーでもしない?」

 

 絶対に。絶対に、そんなことを話してる場合ではないだろ。


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