【完結】TS転生魔法少女だけど属性が情報災害でした。   作:忍法ウミウシの舞

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(追記)申し訳ありませんが、4/11の更新はありません。詳しくは活動報告をご覧下さい。


「いない」魔法少女の追跡

 話は、研修直後──神眼(トゥルース)雪景色(スノウドロップ)名探偵(ディテクティブ)の3人が会議室に集まっている時点にまでさかのぼる。

 

「では早速、このメモを解読しまショウ。『仮に、私達の探す魔法少女が存在する』と仮定シテネ」

「メモ……研修中、神眼(トゥルース)様がとっていたものですか」

「そうだ」

 

 3人は机いっぱいに広げられた用紙をまじまじと見つめる。研修に参加していた魔法少女のプロフィールなどが書かれているのだろう、そう雪景色(スノウドロップ)は予想したのだが、実態は奇妙なものであった。

 

「なんですか、これ。……暗号?」

 

 各用紙の文章はいくつかのブロックに分かれていた。一番上は普通のプロフィールのようなものや、神眼(トゥルース)が感じたであろう印象などが書かれている。が、それ以外は意味不明なひらがなやカタカナの羅列だったり、点字だったり、はたまた関係なさそうな詩のようなものだったりした。

 

「そうだ。一番上は普通の文章だが、その下は()()を一文字ずつずらしたものになっている。小字や記号を除いてな」

「ええと、『ストーンカッター』に対応してるのが『セナーアキッチー』だから……確かにずれてますね」

 

 つまるところ、一番上のブロックを様々な形で暗号化したものを下のブロックに書き写しているシステムであるらしかった。

 

「点字はわかりますが、その下の2つは?」

「下から2番目は私たちが決めたオリジナルの暗号だ。そして1番下は、書いたときに私がなんとなくで変換したものだ」

「なん……え?」

 

 聞き取れてはいたが、しかし予想だにしない言葉であったため雪景色(スノウドロップ)はつい聞き返してしまう。神眼(トゥルース)はそれをいったん無視しつつも1枚の用紙を取り出した。

 

「見たまえ。こいつが……私達の探している魔法少女だ」

 

 彼女が雪景色(スノウドロップ)名探偵(ディテクティブ)に向けて見せたそれには、何も書かれていなかった。一番下、詩のブロックを除いての話だが。

 研修に参加した魔法少女14人のうちの、最後の1人。それについての情報が書かれていたはずなのに、ほとんどが抜け落ちてしまっている。

 

「そのまま書くのはダメ、暗号化した文も消えてしまうようデスネ。唯一残っているのは『なんとなく』で変換したもののみ、ト」

「明瞭な規則に従って変換した文は無条件で消されるようだな。つまり、0と1のみで管理される電子データも消えていると見ていいだろう」

「え、えと、その、つまり……」

 

 神眼(トゥルース)名探偵(ディテクティブ)はわかっているようだが、そもそもこの魔法少女の話自体が初耳な雪景色(スノウドロップ)にはなかなかついていけたものではない。

 だが、それでもなんとか食いついて状況を整理した。

 

「つまり神眼(トゥルース)様が感覚で書いた文を、これから解読しなければならないのですか?」

「そうだ。暗号文も消されるかもしれないと思って用意した、『暗号ですらない文』。私ですら意味を忘れたこの文を再解釈せねばならない」

 

 それは答え合わせのしようがない作業だ。しかし、答えが確定しているような文は記録に残らず消え失せるときた。恐ろしく意地の悪い現象だった。

 

「まあ、他に情報が無いわけでもない」

 

 雪景色(スノウドロップ)が怖気づいたことを察したのか、言いながら神眼(トゥルース)は他の用紙を取り出す。それは、《衣装型(フォーム)紫陽花(ハイドレンジア)》のものだった。

 

「この紫陽花(ハイドレンジア)の用紙に書かれた文章には、不自然に抜けが多いだろう? つまり、紫陽花(ハイドレンジア)は目標と深い関係を持っていることがわかる」

「なるほど。他にそういう魔法少女は……いませんね」

「だからまあ、居場所を探るなら彼女の周辺からアプローチするのが効果的だろうな」

 

 もちろん仮にいるとするならだが、と神眼(トゥルース)は付け加えた。

 

「さて、練習のためにもこの文ぐらいは解読できるようになっておきたいところだが……」

 

 指し示すのは"ほぼ"白紙の一番下、詩の欄だ。月をテーマにしているように見えるが、これを解読できればその魔法少女についての一定の情報が得られるという。

 

「他の例からしておおまかな容姿や性格を描写しているはずだ。月ということは静かな子か……?」

「月は太陽の光を反射しているだけですから、引っ込み思案な性格とも考えられマスネ。もしくは、主役となる太陽のような子がいるのカモ」

 

 議論しながらも、無理があると2人は感じていた。答えの決まらない連想ゲームに、答えを見出すかのごとき所業なのだ。調査用紙に詩の欄を入れたのは最終手段の意味合いが強く、本来は暗号や点字文が残ってくれることを期待していたのだ。なのに結果は無情で、残ったのはあまりにも頼りない非暗号文。こんなの、本当に読み解けるのか。

 

名探偵(ディテクティブ)。本当にこれが最善手なら、なかなか厳しいぞ」

「【名推理】は手段を提示するだけですカラネ。その手段を達成できないことには、無駄に終わってしまいマス」

 

 しかし、雪景色(スノウドロップ)は違った。

 

神眼(トゥルース)様が公式に残された文で『月』を使っているのは……2008年花祭、新鳥戸中学入学式、第56回魔法推進賞授賞式典の4回です。その4回とも、『月』を『普段目立たないが、確かな意志を持つ人』の比喩として使っています」

「……そうなんデスカ?」

 

 確認の意味を込めて名探偵(ディテクティブ)神眼(トゥルース)を見やるが、当の彼女は複雑そうな表情をしていた。

 

「確かにそうだった気はするが……よく覚えているな」

神眼(トゥルース)様の公式資料はすべて覚えているので」

 

 神眼(トゥルース)雪景色(スノウドロップ)をこうやって助手として選んだのにはいくつかの理由がある。まずは、地区上位勢会議に参加できるほどの実力と真面目な態度。次に、その中でも新参者で仮にいなくなっても影響が少ないこと。最後に、それらの条件の中で神眼(トゥルース)の妖精である望遠鏡(スコープ)が選んだ者であること。特に、二つ目の理由で人物を選定しないといけない点に彼女は悩んでいたが、しかし今度は別の不安が彼女を悩ませていた。

 人選としては雪景色(スノウドロップ)は適切であったかもしれないが……少し、怖い。しかし雪景色(スノウドロップ)は止まらない。

 

「過去に『雲』は隠し事や不安を表すときによく使われていたので、ここの『叢雲来る』もそのような意味でしょう。後の『沈まぬ太陽』は欺瞞の表現なので、恐らくその人は何らかの嘘をついていると思われます」

「す……すごいデス! 雪景色(スノウドロップ)さんは天才デスネー!」

「これぐらい、神眼(トゥルース)様を敬愛する身としては当然のことです」

 

 彼女が次々と詩を解読する様子を眺めながら、神眼(トゥルース)の心は頼もしさと恐怖でないまぜになっていた。

 

 

「おじゃまします!」

「ああ、うむ、あがってくれたまえ」

 

 そして後日。そんな彼女を自宅に招くのは甚だ不本意であった。が、彼女は神眼(トゥルース)以上に神眼(トゥルース)のことを理解しており、これほど頼りになる存在が他にいないことも確かであった。ちなみに、名探偵(ディテクティブ)はもういない。「できることはやったので、故郷(アメリカ)に帰りマース」とだけ言って去ってしまっていたが、それが彼女の気まぐれなのか【名推理】による行動の変更なのかは教えてくれなかった。

 雪景色(スノウドロップ)が目的を確認する。

 

「ここでは、隠されたはずの過去のメモを探す……そういうことでしたね」

「ああ」

 

 神眼(トゥルース)は、過去にも「いない」魔法少女について確かに詮索したはずだ。なぜなら奇妙な事件が起こっているのにもかかわらず、それについての記憶が消えているから。だが過去の神眼(トゥルース)が、全く対策をしていないとは思えない。

 

「私なら、他の魔法少女が下手に記録を見て記憶を消されることは避けるはずだ。リスクが管理できないからな。しかし家なら読むのは無関係な家族だけだ。誰かに見つかって記憶が消されても、もとよりそう関係ない魔法少女のことだから被害は最小限で済む。それに、もし家族がそうなれば発覚しやすいしな」

「なるほど」

「だから、残すなら(ここ)しかない」

「あ~いらっしゃい雪景色(スノウドロップ)さん! 話は聞いてますよ、うちの娘に協力をなさってくれるだとか……」

 

 靴を脱ぎ、玄関に上がりながら説明をすると、神眼(トゥルース)の母が出迎えてくれた。普段は威厳のある様を魔法少女に対して通している神眼(トゥルース)だけにそれは少し気恥ずかしいものであったが、止める前に雪景色(スノウドロップ)がずずいと母の前に進みこんだ。

 

「お義母(かあ)さま! 雪景色(スノウドロップ)と申します。この度は……」

 

 彼女が母を呼ぶ時、なんか明らかにおかしいニュアンスが含まれているような気がしたが神眼(トゥルース)は気合で無視した。

 

「……して、よろしければ神眼(トゥルース)様の卒業文集や読書感想文などが残っていれば見せていただきたく……」

「もちろん良いですよ~! さ、ほら上がってくださいな」

 

 無視していたら、思ってもない方向に話が進んでいた。

 

「ど、どうしてそんな話になるんだ!」

「すみません、神眼(トゥルース)様。調査に当たって公式の文書は全ておさらいしたのですが、完璧とはいいがたく」

 

 要するに、神眼(トゥルース)が詩を残していた時のために解読用の資料を増やしておきたいということだった。

 それはわかる。それはわかるが……神眼(トゥルース)は高校生。魔法少女であることを除けば、多感な年頃の普通の女の子だ。自分の書いた私的な文章を他人に読まれるのは、人前で変身することよりも恥ずかしいことだった。

 

「ぐ、ぐうぅ~~……。なるべく、早く済ませるぞ」

「ええ、もちろんです!」

 

 神眼(トゥルース)は大義を優先できる魔法少女だった。が、その代償もまた大きいものだった。

 

 して、その選択は正解だった。

 

「まさか、7冊も見つかるとはな……今まで見つけられなかった自分が恨めしい」

「記憶が無ければこんなところにあるとは思いませんからね」

 

 メモの冊子はあの手この手で隠されていた。過去の神眼(トゥルース)も様々な記録手段を模索していたのか、ところどころ消えている。残っているのは詩のようになっている部分や、「仮にいるとするなら」とわざとらしくつけられた文だけだ。全てのページが埋まっているわけではなかったし文として残されている部分も少なかったが、そのどれもが貴重な情報源だ。ある程度は神眼(トゥルース)も協力できたが、しかし捜索と解読を主導しているのは雪景色(スノウドロップ)だった。

 

「私だけでは絶対にたどり着けなかっただろう。……本当に、ありがとう」

「当然のことをしたまでです」

 

 雪景色(スノウドロップ)はそう言いながらも、凄まじいスピードで解読作業を進めている。自分が読んでもうっすらとしか内容を把握できない曖昧な詩を、なぜこうまで読み進められるのか。

 神眼(トゥルース)は解読結果の方を確認する。「いない」魔法少女についての個人情報や性質の推測が、「仮にいるとするなら」という前置きの下で展開されている。

 

「もしこのような魔法少女がいるとするなら……だが、自身に関する情報を消す。例外もあるようだがその条件は不明。そして関わった怪人の大半が消えている……」

「……そんな衣装型、考えられるんでしょうか」

「わからない。わからない、が」

 

 神眼(トゥルース)は考える。怪人が消えたのではなくただ忘れられたのであれば、「不審な被害」という形でどこかに必ず現れるはずだ。それを過去の自分含めて発見できてないのならば、そうでない可能性が高い。そして、その怪人が消える条件は、恐らく「いない」魔法少女の衣装型と大きく関係があるはずだ。

 

望遠鏡(スコープ)、どうだ? 『怪人が消えた』とは、どういう意味だと思うか?」

『私達とは明らかに異なる魔法。もしかしたらですが……我々の悲願の、最後の1ピースになるかもしれません』

「決まりだな。まず、紫陽花(ハイドレンジア)に会う。そこから接触する方法を探るぞ」

 

 そうして、彼女らは邂逅する。紫陽花(ハイドレンジア)に。そして……情報災害(インフォハザード)に。




作中で説明する気だったけどタイミング逃した小ネタ
名探偵(ディテクティブ)はその気になれば普通のイントネーションで日本語を話せるが、「こう喋ると日本人にちやほやしてもらえる」という理由であえてカタコトにしている。
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