時系列はToLOVEるダークネス完結後
簡単な導入なのでかなり短め
暖かい目で見守っていただけると幸い
「はぁ…今日の親父の手伝いは一段とキツかったな…」
この疲労困憊というような少年の名前は結城リト。宇宙の頂点に立つデビルーク王の次期最有力候補だ。一日中仕事場に入り浸って漫画を執筆していて、今日疲れている大きな要因である父と海外ではたらく母による一歩間違えれば育児放棄では?と言われてしまいそうな結城リトだが、彼ににそのようなことを気にする素振りはなかった。
「今日の晩ご飯はなんだろうな〜最近はモモのおかげで美柑の負担が減ってるけど変わらず苦労はさせちゃってるもんな…なんか買ってってやろう!」
その理由は簡単、彼の周りには大切な人がたくさんいてくれるからだ。たった一人の妹、デビルークの三姉妹、ペットのような存在であるセリーヌ、それに学校の友達まで。少年は今幸せの絶頂にいた。
しかし、そんな日々にも突然異変はやってくる。背後に忍び寄る影。建材を振り下ろし頭に大きな衝撃が走る。
「ぐがっ…!」
視界が大きく揺れ、平衡感覚を失い地面との距離が近づいていく。
薄く霞んでいく視界に二人の男達が映る。その顔に見覚えはない
「おい!関係ないやつを巻き込んでんじゃねぇ!」
「す、すいやせん焦っちまって…」
さっさと逃げるぞ。と急いで逃げていく男達の姿を最後に、結城リトの意識はぶちりと切れた。
◆
「…ん?ここは…どこだ?」
意識が覚醒する。頭だけを軽く起こして部屋の全体を見回す。どこかで見たことがあるような気がするが、ベッドの感じと横にある機材を見るに、病院のような場所だろうと判断する。すると、視界の端に長い金髪に黒い戦闘服を着た少女が見える。出入口のドアの近くにいることから、ちょうど今来たのだろう。
「結城リト!起きたのですか?!」
「…ヤミ?ここは…一体どこだ…何があったんだ?」
「覚えていないのですか?……そうですね。ここはDr.ミカドの治療室。簡潔に言えば、あなたは何かしらの鈍器で頭に攻撃を受けそのまま気絶したようです。そこでメアが発見し、今に至ります。」
だんだん思い出してきた。メアが助けてくれたならお礼を言っておかなければと思っていると、本人は直ぐに現れた。
「その後は…」
「そこからは私が説明するよ。ヤミお姉ちゃん。」
いつの間にか窓のふちに腰掛けていた赤毛の少女。長くて赤い髪をお下げにしてゆらゆらと揺らしている。メアだ。
「あのね、せんぱいが襲われちゃったのは私のせいなの」
「そんな…メアは何も…」
「いや、あるの。前にも言ったと思うけど私、昔賞金稼ぎみたいなことしてたから恨みも結構買っちゃってるんだよね」
「じゃあ、俺を襲った犯人はメアを狙っていたところを俺が居たからついでに…って感じか」
メアは窓から離れて床に足をつき、結城リトの正面に立った。その表情なひどく真剣なもの。普段の無邪気な姿からは想像しづらい。
「せんぱい、ホントにホントにごめんなさい。私のせいでせんぱいに迷惑かけて…怪我させて、許されることじゃないってわかってる。だから…」
「…メア」
メアの目がきょとんとしてこちらを見つめてくる。その目からは大粒の涙が流れている。
「メア、いいんだよ。そんな顔してたらナナ達に見せる顔が無くなっちゃうぞ?実際俺は無事だし、また今度ご飯を食べに来てくれればそれでいいよ」
「せんぱい、でも……わかった!お言葉に甘えて毎日遊びに行くよ!じゃ、またねせんぱい!なんだかナナちゃんに会いたくなってきちゃった!」
メアが後ろのお下げ髪をゆらゆらと揺らしながら病室を出ていく。随分とあっさり納得してくれた。いや、納得というより、これ以上迷惑をかけたくはないという感じだろう。子供っぽく見えるメアだが、兵器と人間との間で板挟みだった頃のメアから随分と精神的に成長しているのだ。
ふと残されたヤミの方を見てみると無言でたい焼きを頬張っていた。何か会話をしなければと困っていると、ヤミの方から話し始めた。
「どうぞ、差し入れです。まぁあなた達の話が長くてもうほとんどありませんが」
ガサゴソと袋をこちらに差し出してくる。いつも通りの無表情だ。いつも通り過ぎて安心してくる。何かとんでもないことが起こったみたいに思っていたが、案外大したこと無かったようだ。
すぐにでもいつもの結城リトの日常に戻ることだろう。
「あ、それと犯人のことですが、既に捕らえて例によって銀河警備隊に引渡しています。心配には及びません。…それでは」
「あぁ、ありがとなヤミ」
◆
二日後、特に変わりなく退院できた。今は丁度玄関の前で久しぶりの帰宅の最中。怪我をしたのが金曜日だったおかげで、学校も休まずに済みそうだ。
「まうまうー!!」ドテドテ
「おっセリーヌ〜!久しぶりだな〜」
「うふふ、さあリトさん。早くお家に入りましょ?お紅茶でも入れますよ♪」
そう言ってリトの手を引いてにこやかに笑うのはデビルーク星第三王女のモモ。短い入院生活で一番お見舞いに来てくれる回数が多く、暇な時間が減って助かっていた。
「 さぁさ!お久しぶりのご自宅なんですからゆっくりしてください♪」
モモに半ば強制的に座らされる。そんなモモに実は先日リトは告白をされている。その事についてはどうやら少なくとも姉妹の二人や美柑、学校の友達などにも言っていないようだった。ララや春菜ちゃん、ルンに続き、モモからも告白されたことでたいへん困って……何に困っているんだったか。
(…なんだ?何かが足りない気がする)
「はい、リトさん♪」カチャ
二人分のカップを置いたモモがグイグイと距離を詰めてくる。あの告白からモモからのスキンシップが格段に増えている気がする。そうなるとやはり男としては色々と…………色々と…。
なぜだ、何も感じない。いや、何も感じてない訳では断じて無い。確かに嬉しいという感情はある。だがそれは緊張や男子が異性に向ける感情によるものでは無いと本能的にわかる。
「リトさん?どうかしましたか?」
リトの左腕をがっちりとホールドしているモモが心配そうに覗き込んでくる。しまった。少し考えすぎてしまった。とリトが考えていると、モモがさらにリトの思考を乱す質問をし始める。
「リトさん、私のこと…もしかしてあまりお好きじゃない…ですか?やっぱり…春菜さんやお姉様の方が…」
(好き…?好きって一体…なんだ?)
言葉の意味はわかるはずなのに、その意味が表すことが理解できない。まるで、おまえにはそもそもそんな感情ないんだと突きつけられているような気もする。
咄嗟に取り繕うために言葉を発する。
「な、何言ってんだよモモ!?そんな…誰が好きかなんて…わかんないよ…」
ダイニングを静寂が支配する。いつもみんなでご飯を食べたり話したり、賑やかな記憶ばかりがある場所での沈黙は、普段以上に長く感じた。
「そ、それじゃあモモ!紅茶ありがと!俺まだ疲れが取れてなくてさ、寝ぼけちゃって。部屋に行ってくるよ」
モモの入れてくれた紅茶をグビっと飲み干した後、そう言ってその場所を逃げるように立ち去る。ちらりと見えたモモの心配そうな顔に罪悪感が苛まれる。
(こんど、埋め合わせをしなくちゃな…)
一人取り残されたモモは自分の分の紅茶を少し口に含み、吟味するように飲み込んでから、カップの中身を一気に口に流し込んだ。
「美柑さんの入れた紅茶の方が、おいしいですね…」
「リトさん、何に悩んでるでしょう……」
桃色の頭が軽く俯く。
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