シリアスは書くのが滞りますね。
リトの心が着々と変化しています。
モモとリトが少し気まずくなってしまってから数日が経過していた。表面上はあまり何も変わっていないように見えるが、毎日のようにベッドに潜り込んできていたモモがここ数日めっきりやって来なくなった。モモからの激しいアプローチに困っていたリトでもさすがに心配が勝ってしまう。
「ん?リトではないか。なにをシケた顔をしているのだ。似つかわしくもない」
突如、意識のはるか上から声が聞こえてくる。どこかで聞いたことがあるような気がするが、どこで聞いただろう。
今いる場所は公園の脇にある横道であり本来そのような場所の上と言えば木の上にでもいない限りありえないのだが。ふと上を見るとそこにいたのは黒いショートカットと鬱金色の目に黒いセーラー服、赤いリボンがその暗い雰囲気にいいアクセントを足している。ただ、知り合いだとは思うのだが如何せん顔から名前が連想できない。
「あの…君は一体?」
勇気を出して振り絞った返答だったが、どうやら相手に思いは伝わらなかった様子。眉を八の字にして不機嫌そうだ。
「むっ、おいリト。まさか下僕の存在でありながら私のことを忘れたとでも言う気か?」
"下僕"自分をそう表す人物と言われれば流石の鈍感男でも相手が何を言いたいかは分かるようで。
「ネ、ネメシス!?ごっこめん気づかなくて!ほら、その姿のネメシスとは1回しか会ったことないから分からなくって……なんで今日はその姿なんだ?」
両手を合わせて深く頭を下げる、いつも女の子へと突発的に突撃してしまうリトが謝る時の常套手段だ。この仕草もなぜか久しぶりだなと感じる結城リトだが、その理由に結城リトはまだ気づいていない。
「あぁ、そうかそうかそう言えばそうだった。この姿も街中でしか使わんからな。例の幼いフォルムだと入りづらい店もあって面倒なのだよ」
よっ、と軽やかに木の上から降りてくる。その際、ネメシスのスカートの中から小ぶりな臀部が見えていることに気づく。
「なぁネメシス。スカートの下には何かしら履いた方がいいんじゃないか?さっきみたいに動いた時に見えると大変だからさ、」
「ほう……貴様は私の美しい尻が気になると、そういう事だな?ほれほれ、見せてやろうか」
黒いスカートをひらひらとさせながら悪戯が大好きだと言わんばかりに生き生きとこちらを見つめてくる。いつもはこのようにからかわれると直ぐに赤面し全速力で逃げてしまう結城リトだが、今回はそのいつもとは違った。
「はいはい、わかったからなんか履いてくれよ。ネメシスの能力ならそれぐらい簡単に出来るんだろ?」
「えっお、おう…仕方ないな。下僕がそこまで言うのなら主人としても従ってやらなければいかんだろう」
想定と全く違うリトの反応にたじろぐネメシス。そそくさと
(下着のデザインは……まぁ前に見たメアの物と同じでいいだろう。しかし…リトの奴、反応薄いぞ…)
不服そうにしていると、なんだか悔しくなってきたネメシス。
「おいリト、遊べ。このままじゃ私の気が済まん」
「え、今から?……まぁ、いいけど。時間はあるし…遊ぶか」
実はリトは今日どうにかしてモモとの間にある今の空気を解消しようと考えていたのだが、別段解決する手筈も考え着いておらず、することも無かったのでネメシスの誘いに乗ったのだ。後から考えると、ここでネメシスの誘いを断るかどうかでこの結城リトの物語はまた違った流れを取っていたのかもしれないかもしれない。が、当人達にはそんなことは関係ない。未来を知ることなんて、誰にも出来ないのだから。
──幕間
「ん、これは…」
「どうしたネメシス?なんかあった?」
ネメシスがクレーンゲームを覗いて興味津々といった様子。何を見ているのかと思って見てみれば、蠍と山羊のキメラのような悪魔の人形だった。
「これ、欲しいのか?」
コクッと首を縦に降ってこちらをじっくりと見ている。ネメシスはリトを財源にこの人形を手に入れようとしているらしい。
独特な見た目をした人形だが、なかなか引っかかりが簡単そうなフォルムをしている。まあ確率機に対してならプロ以外は大して難易度は変わらないのだが。
硬貨を入れ、掴む、掴む、掴む。一向に取れる気配がしない。コロコロ転がして逆さになっている人形がこちらを蔑んだ目で見つめている。気がする。
「おいリト、何をしている。ちょっと貸してみろ」
多少強引に操縦スペースから追い出される。まさか、前に遊んだ時のように
そんなことを思っていたが、どうやら杞憂だったらしい。ネメシスは見事一回でその人形を掴み取り、手に入れてしまった。
「ふん!どうやら下僕よりも私の方が使える主として優れていると理解しているようだな!」
ネメシスがなぜか誇らしげに叫んでいる。詳しいことは分からないが、人工的に作られ『兵器』として製造された関係でいつも大人びた態度を見せているが、年相応、あるいはそれよりも心の年齢というのは幼いのかもしれない。無論彼女、彼女たちのことを兵器と呼ぶような奴は彩南町にはもう居ない。
「たっくそれにしても随分と好き嫌いの強い悪魔だな。まったく俺のどこがいけないんだか」
「地球の文献に出てくるモノに詳しい訳では無いのだが、悪魔というのは何かしら司っているんだろ?何かそこに嗜好があるのやもしれんぞ」
ネメシスが人形に縫い付けられていた商品タグをまじまじと見ると、こちらに 不可解だと言わんばかりの表情を見せてきた。
「んーおかしいな。これなら貴様の性質と引き合わされそうなものだがな……」
「…ネメシス?それはどういう…」
勿体ぶるネメシスに人形のタグを見てみようと手を伸ばすると、ネメシスに手で制される。その顔には悪戯な笑みが浮かんでいる。
「フッフッフッ。まぁ待て、これを見せるのにはお前はまだお子ちゃま過ぎる」
何を言っているんだろう。精神年齢はネメシスの方がどう見たって幼いのに。
「お!リト、あれを見ろ」
ワクワクしながら指を指すネメシス。その示す先を見てみると、そこにはネメシスがお気に入りとしているみたらし団子の売っている出店があった。
「食いたい?」
「決まっているだろう。是が非でもだ!」
どこでそんな言葉を覚えたのか。使い方もなんだか少し違うような気もする。漫画喫茶に入り浸っていると聞くし、そこら辺なのだろう。
「ほら下僕。さっさと行くぞ」
なんでそんなに楽しそうにしているんだろう。 そうリトは思う。昔から分からなかったけど、今はもっと分からない。なにか理由でもあるのだろうか。
──閑話休題
結局数時間遊んだリトとネメシス。しかしネメシスはリトへ少し疑念を抱いていた。
(こいつ、なにか覇気がないな。違和感しか感じんぞ)
「なぁリト、お前最近悩みでもあるのか?」
「…………どうしてそんなことを聞くんだ?ネメシスらしくもない」
この反応。やはりと確信する。結城リトは何かを隠している。
「おい、隠しても無駄だぞ?やろうと思えばサイコジャックを芽亜に頼むことだってできるんだ」
「なっ、それは卑怯じゃないか………わかった。話すよ、だけど全部は話さないからな?そこは勘弁してくれ」
「ふっ、それでこそ結城リトだ」
ネメシスがベンチに座っているリトへとグイグイと近づいてくる。いつもなら赤面し気絶まで後数分といった状態となるリトだが、もうそんな反応はしていない。何も反応を示していない。そんなものは興味が無いから意識すらしてません。とでも言っているかのように。
「最近、モモと気まずくなっちゃってさ。仲直りしたいんだけど何言えばいいのかわかんなくて困ってんだ」
「モモ姫と、か。それは……いい事なのではないか?」
「な、何言ってんだよネメシス。どう考えたっていい事なわけないだろ」
「しかし、お前には本命の女がいるんだろう?」
「ん?それは……どういうことだ?」
「いやだから、お前は西連寺春奈のことが好き。違うか?」
忘れていた。忘れるはずなんてないのに、告白までされたのに、自分が恋していたことを忘れている。
「あぁ、そうだった。そうだな。うん、それがどうした?」
口の端が震えている。上手く笑えてない。まずい。このままではネメシスに気づかれる。薄々気づいている……気づいちゃいけないのに、俺は春奈ちゃんやララにはもう恋をしていないって事には。
「だから、モモ姫との間に何かあったなら本命の方に尽力できるじゃないか。それほどこれはお前にとって悪いことでは無いんじゃないのかとな?」
ネメシスが酷いことを言っている。とても残酷な選択。そんなことをしたらモモは確実に傷ついてしまう。傷つく人がいることを誰よりも恐れていたモモが。モモが俺に告白をしてくれた時、正直にモモは想いを伝えてくれた。そんなモモを蔑ろにするなんて、俺にはできない。
「ネメシス、それはダメだ。それは絶対にしちゃいけない。それはもう逃げてるのと変わらないことだから」
「はぁ……ほんの冗談だ。気にするなリト。悪かったな」
少々ネメシスが不貞腐れて言う。大人気げなかったか。
「興醒めだ。またなリト。少し用事が出来た」
「あぁ、ありがとな。ネメシス、話聞いてくれて」
「別に、大したこともしてないだろうが」
セーラー服の少女が立ち去っていく。俺も、少し自分の中でケジメを付けないといけないみたいだ。考えるだけでも怖いけど、このままじゃみんなに迷惑をかけてしまう。それだけは、絶対に避けないといけない。
御門涼子。彩南高校の保健医を務めながら地球で生活している。地球人以外の患者、異星人の診療を生業にしている闇医者。そんな御門の診療所に一人の客人が現れる。水色の肌にまん丸い目。他の星に生息しているはずの植物人類。
「あら?あなたは…………ネメシス。で合ってるかしら?」
水色の異星人はギョッと固まると、諦めたかのようにその姿を黒い粒子へと崩していった。先程結城リトと会っていた時のようなセーラー服の中高生ではなく、いつもの浴衣姿だ。
「なんだ。わざわざ擬態したというのにいらぬ気苦労だったようだな」
「私はこれでも名の通った闇医者よ?さすがにわかるわよ。その種族とは動きの仕方が全然違ったもの」
「ほう、なかなか言ってくれるじゃないか。ならば、高名なその闇医者とやらに依頼をしたい。」
「あなたが?誰か助けたい人でもいるのかしら?」
心底意外そうに目を大きく開くと、ニヤニヤと顔を綻ばせながら問いかける。余裕そうに見える表情だが、なんとも言えない風格がある。
「結城リトについて調べて欲しいことがある」
「何かと思ったら結城くん?あなたが直接聞けないことなのかしら」
「まぁ間違ってはいない。結城リトの奴、もしかするとデビルーク王の婿養子にはならない可能性もあるやもしれん」
「………詳しく話を聞かせてちょうだい。なかなか大変な仕事かもしれないわよこれは」
動き始める。少年の身に起こった小さな波紋はどんどんと大きく広まっていく。
感想・評価よろしくお願い致します。
今後の話の流れのプロットが練り出せたので頑張っていこうと思います。