ぼっち・と・ぼっち   作:初柴シュリ

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転がらないぼっち

 

『かくれんぼする人、この指とーまれ!』

 

 俺もあの中に混ざりたい、でもなかなか勇気が出ない。たじろいでいるうちにみんなはどこかへ行ってしまい、ぽつねんと1人残された子。

 

『ヒキタニはこっちくんなよ!』

 

 遠足の時に班員からハブられ、ショックを受けながら1人木陰で弁当を食べていた子。

 

『あ、あれ? ヒキタニ君、いたんだ……』

 

 行事の度に存在を忘れられ、思い出したかのように腫れ物扱いされる過去。教師にもろくに構われず、とりあえず一日の授業が終わったら家へと直行する日々。

 

『えーまじ!? 私に告白とかマジウケるんだけど!』

 

 そして最後のトドメを中学2年の時に刺される。

 

 もう友人はいらない。一人がいい。一人でいい。恥をかきたくないのであれば、初めから恥をかく要素をなくしてしまえばいい。あの日から、俺の心は完全に変わった。

 

 それが俺、比企谷八幡である。

 

 

 

=====

 

 

 

 

『青春とは嘘であり、悪である。

 

青春を謳歌せし者たちは、常に自己と周囲を欺き、 自らを取り巻く環境のすべてを肯定的にとらえる。彼らは青春の二文字の前ならば、どんな一般的な解釈も社会通念も捻じ曲げて見せる。

彼らにかかれば、嘘も秘密も罪咎も失敗さえも、青春のスパイスでしかないのだ。

仮に青春をすることが失敗の証とするならば、友達作りに失敗した人間もまた、青春のど真ん中でなければおかしいではないか。

しかし、彼らはそれを認めないだろう。すべては彼らのご都合主義でしかない。

 

結論を言おう。青春を楽しむ愚か者ども砕け散れ。

 

秀華高校 一年ニ組 比企谷 八幡』

 

 

 ひとしきりアンチ青春の感情を原稿用紙にぶつけたところで、俺はシャーペンを静かに手放した。

 

 『中学生活をふりかえって』という作題が銘打たれたこの作文は、高校生活が始まったばかりの俺にとって、鬱屈をぶつけるのに最適の道具だった。改まって文章を推敲してみると、まあひどい事ひどい事。

 仮に俺が担任だったとして、生徒からこんな作文が上がってきた日にはさっさと更生を促すために拳を迷わず叩き込む事だろう。

 

 夕焼けが教室に差し込み、グラウンドからは野球部のものと思しき掛け声や金属音が響いてくる。まさに青春真っただ中といった情景の中、青春への怒りを紙面へとぶつける寂しい男が一人。

 なぜこんなことをしているかと言うと、シンプルに俺が宿題を忘れてしまったからである。

 

 あれはここ秀華高に入学してから一か月ほどが経った頃の出来事だった。春の陽気と食後の満腹による眠気に襲われた俺は、国語の授業中にあえなく撃沈……要するに居眠りをかましてしまった訳である。

 ここで友人の一人でもいれば居眠り中の出来事を聞く事も出来たのだろうが、生憎と俺はプロのぼっち。誰かに助けを乞うというのは己のプライドが許さない……もとい聞く相手がいなかった。

 

 その結果、哀れ純朴な青年である比企谷八幡は、居残りで宿題である作文を書かされているのである。とほほ~~。

 

「……こんなもんでいいか」

 

 正直こんな舐めた文が通るとは思っていないが、もう一度書き直すのも手間である。書いたという事実だけごり押しして、後は流れに身を任せよう。というか早く帰りたい。

 

 手早く手荷物を鞄に収納し、教室を出るためにドアに手をかける。

 

 ガラ、と勢いよく戸を引いて教室を出る──瞬間、なにかとぶつかった。

 

「おっ、と」

 

「みきゃっ!?」

 

 俺の驚く声と、甲高い奇声が重なる。幸いにして俺はたたらを踏む程度で収まったが、ぶつかってしまった相手はバランスを崩し、倒れこんでしまった様だ。

 

「……悪い、完全に前を見てなかった」

 

「あ、あわわわわわわわわ」

 

 え、何この子。完全に顔面崩壊してるんだけど……怖。

 

 クラスに友人が0人であるだけあって、彼女が何者なのか全く思い出すことはできない。確かご……ご……ごり……?

 

 いや、よく考えたらそんなゴリラみたいな名前はつけないか。とりあえずピンクジャージマンとでも名付けておこう。

 

 このピンクジャージマン、名前は知らずともその存在は割と目立っている。黒髪や茶髪が多いこの世界で、燦然と輝くピンク髪の所持者だからだ。

 ピンク髪が許されるのはラノベにおける淫乱ピンクキャラ、そしてき◯ら枠くらいのものである。その上で校則ガン無視のピンクジャージを堂々と着こなしているのだから、これで目立たないわけがない。目立たないわけがないのだが……。

 

 不思議なことに彼女は誰からも声をかけられることなく、教室の後ろ側で常に伏せって寝たふりをしている。最近はそれに加えてギターとバンドグッズに塗れた姿を披露していたが、それでも話しかけられていた様子はない。

 

 え? なんでお前はそんな事知ってるんだって? それはね、ぼっちの2000の特技の一つ、『人間観察』を発動しながら俺も寝たふりしていたからだよ。ちなみに後1999個はこれから考える。

 

 さて、目の前の出来事に戻ろう。ピンクジャージマンは身体をガタガタと震わせながら、ギターケースを背もたれにして倒れ込んでいる。まるで急に出てきたゾンビに腰を抜かしているドラマの被害者みたいだ。

 

「……えっと、怪我は無いか? 立てないなら先生くらい呼んでくるが……」

 

「ま、ままままままま」

 

 まーまー五月蝿いぞ、イガラムかな?

 

「……悪い、俺、先行くから」

 

「!! ま、ままままままってください!!」

 

 背を向けて職員室へ向かおうとした途端、ピンクジャージマンは勢いよく立ち上がる。

 

 まさかとは思ったが、この調子だとどうやら俺に用事がある様だ。珍しい。

 かつて女の子に話しかけられた出来事を振り返ると……うん、嘘告白と『消しゴム拾って』の二つしか思い出せない。実に中身の薄い人生である。

 

 ピンクジャージマンは立ち上がった瞬間こそ力強い眼光で俺のことを見据えてきたが、俺が目を合わせると一秒も持たず目を逸らした。

 

「えっと……」

 

「こ、こここここ」

 

 イガラムの次は鶏か? モノマネにしてもサイクルが早過ぎるだろ。

 

 彼女の体は震えに震えており、段々と輪郭がぼやけていき……いやこれ実際に輪郭があやふやになってないか?

 

 呆気に取られながら彼女のことを見ていると、段々と本当に液状化してきている。人が液体に変わるというファンタジーすぎる展開に、俺の脳は理解を拒んでいた。

 

 

んにち!!!」

 

 

 言うが早いか、バビューンという擬音が付きそうな勢いで廊下の果てへと駆けていく少女。一人ぽつねんと残された俺は、呆気に取られながらその背中を見送った。

 

「……え、俺そんなに怖い?」

 

 確かに、俺の目は妹にもボコボコに言われるくらい腐った魚の目をしていると評判である。だからって初対面の女子にビビられながら『こわ!』と叫ばれて逃げられるとは思ってもいなかったが。

 

 心の中の黒歴史ノート、そして絶対許さないノートにピンクジャージマンの名前を追加して、消沈した気分のまま作文を提出しに向かった。

 

 ちなみに作文はなぜか無問題で通った。何で?

 

 

 




絶対合うと思ったのに全然数がないから自給自足です。
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