ぼっち・と・ぼっち   作:初柴シュリ

8 / 10
風邪でダウンしてました。すいません。
一話にまとまりませんでした。すいません。
この話数って短編て大丈夫か? すいません。


ぼっち・ざ・ろっく!

 

 

 

 8/14。それは夏休みも終わりに近づき、世の怠惰な学生たちはそろそろ夏休みの課題に手を付けなければまずい事に気が付き、しかし何もやらずに一日を終える日のことである。多分。

 

 この日の朝は、バチバチと雨粒が勢いよく窓を叩く音で目を覚ますことになった。

 

 眠い目をこすりながらベッドからむくりと起き上がり、窓のカーテンをかき分ける。

 

「……わお」

 

 木々が傾き、電線は揺れ、時折吹く突風ががたがたと窓を揺らす。

 

 俗にいう、台風の訪れであった。

 

「参ったな」

 

 基本俺は家から出ることはないため、普段であれば台風と言ってもせいぜい親が家にいるかいないかの違いでしかない。なぜか家でもPCを開き半ば死んだ顔で仕事をしている様を見るのはなんだか精神が削られるが、デメリットといえば精々その程度だろう。

 

 だが、間の悪いことに、今年の8/24にはなぜか外出の予定が入ってしまっているのだ。下北沢のライブハウスという、俺という存在には本来全く馴染みのない場所へと。

 

 さてどうしたものか。おそらく俺の人生では初とも言えるライブへのお誘いだが、こうも荒れた天気では迂闊に外へ出る事も出来ない。これが職場の飲み会のような強制行事であれば『わー残念だなー! ほんとは行きたかったなー!』とか言って嬉々として休みの連絡を入れるのだが、こちらは偶然練習を目撃したという薄い理由だけでわざわざ誘ってもらった身。

 

 相手が有名人の喜多というだけあってあの後珍しくクラスでも話しかけられた程だから、彼女の影響力がいかに強いか分かるだろう。そんな彼女の誘いをドタキャンしたとなれば、待っているのは針の筵。裏で『ひきがえる君』と陰口を叩かれる日々が始まる事だろう。まるで俺の小学校時代のように。

 

 ……とまあ、ここまでは被害妄想。台風が襲い掛かってきているこの状況であればたとえドタキャンした所で責められよう筈も無いし、責められたところで俺にとっては意味のない話。またいつも通り一人で過ごす日々が戻ってくるだけだ。

 

 だから、こんな悪状況でライブを見に行く必要はない。必要はない、筈なのだが。

 

「……なんだかなぁ」

 

 いや、本音を言おう。俺はなぜだか、この結束バンドのライブに行きたがっている。

 

 なぜ一度も聞いたことのないバンドのライブなぞに行きたがっているのか? いや、無理やり理屈を考えることは出来る。クラスのぼっちである後藤と、陽キャである喜多がバンドを組んでいる様が本当なのか確かめたいとか。陽キャが青春という名前で失敗する様が見たいだとか。

 

 だが。そんなお為ごかしで説明できるほど、自分の心は易くなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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 結束バンドの初ライブ当日。吊り下げられた幾本ものてるてる坊主の努力もむなしく、外には激しい大雨が打ち付けていた。

 

「あ~私の友達もほとんど来れないらしいです」

 

「そっか~……」

 

 喜多がスマホに届いたロイン通知を見ながらそう告げると、虹夏は大きくため息をついた。

 

 リョウもひとりも、口にこそ出さないが心情ではため息をつきたくなるほど落ち込んでいる。今日という日の為にわざわざてるてる坊主まで作っているのだから、その力の入れようも窺い知れるというもの。

 

 こうなった以上、今日の客入りは殆ど絶望的だろう。結束バンドは新興バンド、いかにメンバーの姉が経営するホーム拠点であってもファンがついているはずがない。チケットを買ったお客さんが来てくれない事には、必然的に結束バンドを目当てとして来てくれているお客さんがゼロ人という事になる。

 

 当然、こんなアクシデントはバンドマンであれば誰もが通るであろう道だ。彼女たちにとっては不幸だが珍しいことではないし、そこで躓いてそのままバンド解散という道を選ぶ者たちも多い。

 

 ただ、こうして落ち込んでいる彼女たちの姿を見ていると、普段はツンケンとした態度をとっている星歌も心を砕かざるを得ないのである。

 

「……店長、ハンカチ使います?」

 

「あっち行ってよ……」

 

 PAを務めるピアスまみれの女性が、顔を伏せる星歌を気遣う。

 

 店内にはどこか陰鬱な雰囲気が漂っていた。普段は明るい喜多もライブへの不安からか口数が少なくなり、元からジメジメしていたひとりは更にジメジメとしている。『陽』のオーラが抑えられてしまっているせいで、『陰』の気が溜まってしまっているのだ。

 

 ライブ前にこれはまずい、と虹夏は危惧する。かくなる上は自分が無理やりにでも盛り上げるか、奇跡的な外的要因によって空気を換えるかの二択。勿論後者を選択する時間的余裕も、精神的余裕もない。

 仕方ない、と己を奮い立たせ、いつも通りの調子で声をかけようとしたその時だった。

 

 がちゃり、とドアが開く音が鳴る。来店の合図だ。すわ観客の到来か、と全員が勢いよく入口へ顔を向ける。

 

「……え、何?」

 

 そこには濡れた傘を携えた、腐り目の男性が立っていた。スターリーの中の陰気が一段階ギアを上げたかのような錯覚に包まれれる。

 

 初来店のお客様だ。こうして呆けたままでは、気分を害して帰ってしまうかもしれない。そう思った虹夏は、いつものように営業スマイルを浮かべて、努めて明るい声で接客を始めた。

 

「ゾンビだ!!」

 

(いらっしゃいませ!!)

 

「虹夏、逆逆」

 

 虹夏と八幡のファーストコンタクトは、バッドコミュニケーションから始まった。

 

 

 

 

 

 

 

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「ほ、本当にすいません! 初対面の相手になんて失礼な事を……」

 

「あーいえ、そんなに気にしてないんで。そんなに」

 

 目の前でペコペコと頭を下げる黄髪の少女。面と向かってゾンビと言われたのは初めての経験だったが、陰口でなら幾らでもある。よってノーダメージだ。うん、本当に。本当だって。トラウマ刺激されたりなんてしてないって。

 

「うう、準備できてなかったとはいえこんな失言しちゃうなんて……」

 

「ゾンビ……ぷふっ」

 

「ちょっとリョウ! 恥ずかしいんだからそんなに笑わないでよ!」

 

 背後に立っていた山田が笑いを漏らしていたが、きっとアレはあの少女のミスを笑っている訳ではなく、俺がゾンビと勘違いされたことについて笑っているのだろう。自意識過剰とかではなく、どう見ても俺の事を見ながら笑っているから。

 

 というかあいつ、確かにライブやるとか言ってたけど結束バンドの一員だったのか。正直心の中ではかなりびっくりしていたが、ここであからさまに驚いた表情を見られるのも癪なので必死に押し殺す。

 

「比企谷君! 来てくれたのね!」

 

「え、あ、まあ暇だったから……」

 

「でもほら、こんな天気だから。他にチケット買ってもらった友達は来れないってロイン来てたから比企谷くんも来てくれる筈ないと思ってたんだけど……感動! 比企谷くん優しいのね!」

 

「はは……」

 

 相変わらずの陽オーラに押されっぱなしである。何回か話して慣れたような気がしていたが、夏休みを跨いだ事で耐性も落ちたらしい。

 

「あれ、喜多ちゃんのお知り合い?」

 

「はい! 後藤さんと同じクラスの比企谷くんです!」

 

「私、伊地知虹夏! 結束バンドでドラムやってるんだ。よろしくねー!」

 

「あ、はい。比企谷八幡でしゅ」

 

 キラキラキラ、と輝かしい笑顔を向けてくる虹夏さん。なんだこれ天使の輝きか? 虹夏アトモスフィアでも発動されているのか? あまりの眩しさに思わず挙動不審になったあげく語尾を噛んでしまった。普通に恥ずかしいから指摘しないで欲しい。

 

「(今噛んだな……)えっと、比企谷くん、でいいのかな? ぼっちちゃんと同じクラスってことは、ぼっちちゃんとも仲良いんだよね? いや~、ちゃんと友達がいてくれたみたいで良かったよ~」

 

 ぼっちちゃん、という人物の事を俺は知らないが、おそらく話の流れを読み取ると後藤の事なのだろう。あだ名としては俺に対する『ヒッキー』と同レベルじゃないか? まあ俺の場合、気安いあだ名で呼んでてくる奴はそもそもいないんだけどな。

 

 ちらりと彼女たちの背後に立つ後藤を覗き見る。話の内容が聞こえていたのかは知らないが、何故か溶けた顔で頭をさすっていた。

 

 おそらく、友達という言葉が琴線に触れたのだろう。奴の言動を見るからに、自己承認欲求は強いながらも人一倍の人見知りが故に友達を作れないタイプだ。突然の奇行に走ることが多いが、大体は人に話しかけようとして失敗している事例である。

 俺が初めて話しかけられた時も、いきなり『こわ』とは何という無礼な女だと憤慨したものだ。いや、嘘だけど。今思えば、あれもただの挨拶だったのだろう。文脈的には『こんにちは』か。

 

 つまりあいつは、俺が友達だと言われて照れているのか。まあ、『噂されると恥ずかしいし』という悪女ムーブをぶちかまされるよりは幾分か気が楽だが、そもそも俺とお前友達じゃないだろ?

 

「いや、別に友達じゃないですけど……」

 

「ええー!?」

 

「え!?」

 

「あひゅっ」

 

「おおー」

 

 俺がきっぱりと断った一言により、一瞬のうちでいろんなことが起こった。

 

 まず伊地知さんと喜多がすごい形相で飛び上がり、驚きを露にする。感情表現が古典的すぎない?

 

 次に笑顔だった後藤は一瞬にして色を失うと、その場でパンと風船のようにはじけ飛んだ。まるでクリ〇ンのように。

 

 そして山田はそんな後藤の惨状を見て、感嘆の声を漏らして拍手。いやもっと反応あるだろ。焦れよ。

 

「ま、まずい! ぼっちちゃんが爆発すると、ぼっちちゃんの呪いが発動してしまう!」

 

「伊地知先輩! ビニール袋とマスクです! これで空気中に散らばった後藤さんを集めましょう!」

 

 二人は焦ってるのはいいんだけど方向性間違ってない?

 

「うっ……」

 

「ああ、リョウ先輩が!」

 

「くっ、一歩遅かったか……」

 

 不思議なことに、小さいうめき声をあげて胸を抑えたかと思うと、机にパタリと倒れこむ山田。さしもの俺も少しまずいことが起きてるのか? と倒れた山田に近寄る。

 

「才能があってごめん……ワンマンばっかりでごめん……」

 

 よし、全然大丈夫そうだ。放っておこう。

 

「リョウ先輩が卑屈に……陰のある先輩もステキ!」

 

「ほーら、暴れてないで早くぼっちちゃん回収するよ。あ、そういえば比企谷くんは大丈夫? なんか妙に卑屈な気分になったりしてない?」

 

「いや、特には……」

 

 もうすでに卑屈だし、という言葉はさすがに飲み込んだ。

 

 伊地知さんはそうなんだ、と呟くとマスクを着け、ビニール袋を振り回して大気に散らばった後藤を回収する作業に戻る。何を言ってるんだと思われそうだが、自分でも思っているので勘弁してほしい。

 

「……何? この状況」

 

「カオスですねー」

 

 奥に座っていた金髪の女性と、インナーに紫を携えた女性はこちらを見て呆れ返っていた。いや全く、その通りですね。

 

 

 

 

 

 

 

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 やがてしばらくすると、二人の尽力の甲斐あって後藤は元の姿を取り戻した。塵を集めて人の姿へ戻すという工程など、人生で二度と見られるかどうか。なかなか壮観であった。

 

 復活した山田と後藤が何かを話したそうに、俺の事を見ていたが、その直後に入店してきた酔っぱらいの女性と、後藤のファン(存在していたのか?)が彼女たちと会話を始めた事で、そんな余裕は無くなったようだ。

 

 無論、俺としても彼女たちと会話がしたくて来たんじゃない。ライブの準備があるからと奥へ引っ込む彼女たちを尻目に、角の壁へ陣取ってもたれ掛かる。俗にいう後方彼氏面スタイルである。いや付き合うどころか知り合ったばかりだけど。

 

 外は台風だというのに、それでもちらほらと客の入りがある。男に女と性別に偏りはないが、若いうえにペアで来ている人が大体というせいで妙に居心地が悪い。

 

 とはいえ、本来場違いな場所に押しかけてしまっているのは俺の方だ。郷に入っては郷に従え、一人ディ〇ニーは覚悟しろ。これは同じ意味の言葉である*1

 そっと一人で隅に立つ。俺は影、俺は闇なんだ……。

 

「ねぇねぇ~、キミ一人ぃ?」

 

 心を落ち着かせようと一人瞑想に浸っていたところに、突然のアルコール臭。驚きすぎて思わずせき込んでしまった俺を責められるものはいないだろう。

 

 先ほど俺の後にびしょ濡れになりながら入ってきた酔っ払いが、いつの間にか俺の隣にやってきて肩を組んで来た。安っぽいワンピースのせいで露出が多いため目のやり場に困るが、それ以上にびしょ濡れ故の不快感と酒臭さが俺の精神を苦しめる。

 

「な、なんですか急に……お酒臭いので離れて貰ってもいいですか?」

 

「え~? いいじゃんいいじゃん、キミぼっちちゃん達の友達でしょ~?」

 

「……友達じゃありません。そもそも俺に友達は一人もいないんで」

 

「あ~! じゃあキミもぼっちちゃんってことだ! ねぇねぇギター弾こうよ~」

 

 この女、俺が過去ギターに挑戦して挫折した過去を何故……!

 

 俺が見知らぬ酔っ払いと格闘していると、やがて店内の照明が徐々に落とされていく。これがライブの始まりの合図であろうことは、ライブハウスに明るくない自分でもわかった。

 

 ふと、前に立っている女性二人組の声が耳に届く。

 

「一番目の結束バンドって知ってる?」

 

「知らない。興味なーい」

 

「観とくのたるいね」

 

 ……まあ、こんなもんだろう。観客なんて。

 

 今回のライブは何も結束バンドのワンマンライブというわけではない。色々なバンドが出演するタイプのライブだ。

 

 おそらく彼女たちは後に出てくるバンドのファンなのだろう。こんな嵐の中足を運んでいるのだから、それはもうかなり根強いファンだ。

 そんな彼女たちにとって他のバンドはすべて前座でしかなく、盛り上がるかどうか分からない新興バンドに気をやっている余裕などありはしない。

 

 彼女たちは声に出して言ってしまっているが、おそらく他の観客も似たようなもの。俺や先ほど来ていた後藤のファンを除けば、結束バンドを見に来たという客はいないと言ってもいい。

 

 チケットを買った知り合いも来ることはなく、状況は圧倒的アウェー。失敗の二文字が早くも脳裏に浮かんでいる状態は、もはや九回裏ツーアウトに等しい。

 

 

「目当ては結束バンド?」

 

 ふと、まだ肩を組んでいた女性が話しかけてくる。早く離れてくれないかな。

 

「まあ、そうっすね。観るまでもないかもしれないですけど」

 

「う~ん、君はお目が高い! あの子たちはこれからビッグになるよぉ~えへへへ」

 

 そういって手に持っていたパック酒のストローを加える酔っ払い。そういえばパック酒のストローってアル中で手が震えてうまく飲めない人の為って聞いたことあるけど、この人もしかしてそういう事?

 

 中央ステージの照明が付き、見知った少女たちの姿が強い明りに照らされる。

 

 ライブの始まる時間だった。

*1
そんな訳はない

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