「ディムザンバラさん……」
黄金騎士からの返答はない。その代わりマイク越しに静かな寝息が伝わってくる。
「やばいぐらい疲れてるって言ってたもんな。このままにしておいてあげよう」
最後の時ぐらい一緒にいませんか。モモンガの最後の願いを快諾してくれたディムザンバラは長い間、仕事の愚痴や新生活の事などを語り合って時間を過ごし、そうして話しているうちヘロヘロがやってきた。モモンガがヘロヘロと軽く挨拶をしてヘロヘロがディムザンバラに挨拶をしようとしたとき、彼はもうすでに寝息を立てていたのだった。二人して何度か話しかけたが、起きる気配がなく仕方なく残る時間を二人で話していた。結局ディムザンバラは起きなかった。そうしているうちにヘロヘロが去った。
最期の三人全員が揃ったことで、ようやく踏ん切りの付いた。モモンガはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手にし、玉座へと向かった。
眠りについた、最後の仲間を残して。
そして終わりは始まりとなり。モモンガは、ナザリックは新たな世界へと降り立った。
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「今日も起きないんですね……」
円卓の間から彼の個室——意外と片付けられていた——へ運ばれたディムザンバラはベッドの上で寝息を立てる。高位アンデットである彼も睡眠耐性を持っているはずだ。しかし「今の」現実の彼は起きることなく、ゆっくりと浅い寝息を立てている。
ナザリックが転移しもうすでに三日が立っている。
こうして眠り続けるディムザンバラを見舞うのはモモンガの日課となっていた。
「いつになったら起きてくれるのやら……。早く声を聞かせてください。ディザンバラさん」
あれからモモンガは眠っていない。高位アンデッドとなったモモンガに食事も睡眠も必要ないのだ。そうすると昔のディムザンバラの三大欲求に忠実な行動が思い出される。
『どんなに貧乏でも、時間がなくても、『くう、ねる、あそぶ』の基本を忘れちゃいけない。狂うぞ』
「……実践投入せずになくなっちゃいましたよ。ディムザンバラさん」
一時期ディムザンバラの『あそぶ』の意味を勘違いして、からかわれたのもいい思い出だ。ただ私生活を切り詰めて、その分ユグドラシルでストレスを発散していたのはモモンガと一緒であった。夢をかなえたわけでもなく、仕事に忙殺され、ログイン回数は減っていった仲間。今では本当の意味で唯一の仲間になってしまったと言っていいだろう。その仲間の目覚めをモモンガは待ち続けていた。
ナザリックの統治者として、守護者全員に自身の感想を求めた際、それとなくディムザンバラのことも話してある。だが、守護者たちがここを訪れた様子はない。それもそのはず、彼らはモモンガの命令を忠実に聞いて働いているのだ。わがままな感情と思いつつ、わずかな苛立ちを覚えてしまう。
(NPCは彼が心配ではないのだろうか?)
「……行くぞ」
ディムザンバラの世話をするメイドを残し、儀仗兵を連れ部屋の外に出る。これからどうするということもない。しいて言うならデミウルゴスに告げた防衛網の構築に役立つあのアイテムの操作を確認するだけだ。モモンガは足早に自身の部屋に向かう。
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「今日はいろんなことがありましたよ、ディムザンバラさん」
カルネ村を助けたこと、王国戦士長に出会ったこと、スレイン法国の一団を捕まえたこと、そして、「アインズ・ウール・ゴウン」と名乗ったこと。それらを未だ目覚めぬ友へ話しかけていく。
「貴方は、許してくれますか? 俺がこの名前を名乗ることを……」
そっとディムザンバラの手を取る。眠れる姫を王子が助け起こしたように、だが返事はない。小気味の良い寝息が聞こえるだけだ。
(本当に目覚めるのだろうか?)
モモンガ、アインズの中に不安が積もる。この世界に転送されたとき、ディムザンバラは眠っていたことが、現状の原因とみて間違いないだろう。
——ならどうやって目覚める?
揺さぶりや、声掛けは毎日やっている。しかし、それでは目覚める気配はない。
(やっぱり解呪系のアイテムを使用する必要があるのだろうか?)
ここは現実世界だがゲーム世界の常識にも準じている。ならばバッドステータスを回復するアイテムや魔法、そういったもので目覚めるかもしれない。ただその考えを実行するのは少し躊躇いがあった。ここに来る前のディムザンバラの話だ。
「ここ何年満足に寝てない、か」
その言葉が耳に残り、こちらから彼の眠りを妨げるのは何となく憚られたのだ。
夢破れ、ようやく得た安眠を貪る友人を自分勝手な都合でたたき起こすのは少しいやだったのだ。ただ自然に起きることはないような気もしているのも事実であった。
(一応異常事態なんだし、ディムザンバラさんだって巻き込まれているんだし……。よし!)
そばにいたメイドに解呪の魔法を使うように指示を出す。彼女、ペストーニャはベットのそばに傅き、何らかの魔法を行使している。
「ペストーニャ。次第はどうか?」
「申し訳ございませんアインズ様。できる限りのことをしたのですが、それでもディムザンバラ様を目覚めさせることはできませんでした……わん」
「そうか……。ペストーニャよ、謝る必要はない。お前はできることをなしたのだからな」
アインズは落胆の声を上げる。しかしある意味予期していたことだ。つまりこれでディムザンバラの眠りが尋常でないということが分かった。この眠りを覚ますには通常の魔法ではない「何か」が必要なのだ。アインズはそっとディムザンバラをなでる。
「ディムザンバラさん、いつか必ず目覚めさせてあげますからね!」
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そして時は過ぎ、アインズは魔導王となった。ディムザンバラはまだ眠っている。アインズは事あるごとにディムザンバラの枕元に立ち、語った。
冒険者になったこと。
危うくシャルティアを失いかけたこと。
リザードマンの集落を支配したこと
王都を襲撃したこと
ナザリックを囮にしたこと。
皇帝を招き、戦争をしたこと。
そして、王となったこと。
それは懺悔でもあった。ナザリックを囮にしてワーカー共を招き入れたときは流石に言葉に詰まってしまった。ディムザンバラの低い声で怒られる事も幻視した。しかし、友はかすかな寝息を立てるだけであった。なにも変わらず今日も終わるだろう。
だが明日からは違う。
帝国を経て、フールーダを支配し、その口からきいた確かな情報。
ようやく、ようやくその情報を手に入れたのだ。
「待っていろよ、竜王国。私がお前たちを救ってやる。その代わりに貴様らには私の友を救ってもらうぞ‥‥‥」
翌日、魔導国が正式に竜王国へ支援を表明した。