喜多さん「ひとりちゃん、友人代表のスピーチをやってほしいのよ」
ぼっち「は?」

注:一応リョウ喜多前提の微ぼ虹(のつもり)なので、苦手な方は注意

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バンド仲間の結婚式でスピーチさせられる後藤ひとり概念

喜多さんとリョウ先輩が結婚式を挙げると聞いたのは、少なくとも1か月以上は前のことだった。気がする。

 

そのことが驚きだったわけではない。別に女同士で恋愛関係になることなんて珍しい事でもないし、リョウさんと喜多さんの絡みを見ていると、まぁいつかは式でもあげて結婚するんだろうなぁこのふたりはなんてことをつくづく思っていたのである。

 

久々に会った喜多さんの意気揚々とした惚気話を右から左に聞き流しながら、そんなことを思っていた私だったのであったが、問題はその惚気話の後に喜多さんが言い出した言葉なのである。

 

「それでね、ひとりちゃんには、友人代表のスピーチをやってもらいたいのよ」

 

・・・ふぁい?

 

わっつ?結婚式における友人代表のスピーチなんて、そんな・・・そんな大役、このキングオブぼっちコミュ障ギタリスト@下北沢に務まるとお思いで?

 

「い、いや・・・それなら、私なんかよりも、虹夏ちゃんのほうが・・・」

「私とリョウ先輩が、ひとりちゃんの話を聞きたい、って言ってるの。

・・・ダメ?かな?」

「い・・・いや、それは・・・私なんかでは、そんな素晴らしい立場にふさわしくないといいますか・・・そっそれこそ、やっぱり、虹夏ちゃんのほうが・・・」

 

ごめんなさい虹夏ちゃん。どうか下北沢の大天使様。こんな時に最低だけど、どうか、どうかこのクズバンドマンの身代わりになってください。

 

「伊地知先輩も、ひとりちゃんの話を聞きたい、って」

(ああああああああああああ)

 

下北沢の大天使様、勝手に身代わりになってくれることを期待してしまい誠に申し訳ございませんが、こんな一生ギターが恋人なコミュ障ギタリストによるスピーチなんぞ、このだだっ広い世界の中で、貴方様と喜多さんとリョウさんくらいしか聞きたがるひと居ませんよ。だから、だからどうか、どうか今からでも遅くはないので、もう少し、もう少しだけ、よく考えて人選していただきたく・・・

 

だが、我らが結束バンドのリーダー兼ドラマーの意見が変わることは無く、そのまま私がスピーチを担当することが決定してしまったのでした・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スピーチの原稿は家に帰ってからすぐ作りかかった。普段歌詞を書いている人間なのだからこういう原稿も簡単に書けるだろうと思われがちだが、実際そんなことは無い。

 

完成したスピーチ原稿は内容に不備がないか3週近く読み直したし、結婚式にふさわしくない表現があるかどうかに関しては特に念入りに確認した。

それにしても、こういう祝辞系の文章は気を付けなければならないことが多いから疲れる。結婚した相手に対する祝福ソングを作れと言われた際には、丁重にお断りさせていただこう。・・・あ、そもそもそんなお願い、日本全国友達が少ない連盟代表の私には来ないか・・・・。はは。・・・悲しきかな。

 

 

まぁそんな感じでやって来た結婚式当日。ものすごく吐きそうだったが吐かなかった。というか体調不良を周りに悟られないくらいにはいつも通りに振る舞った。このあたりはぜひとも誰かに褒めてほしいものだが、誰も褒めてくれないので自分で褒めることにする。偉いぞぼっちちゃん!!

ちなみに前日の夜は普通に吐いた。

 

そして式は進み、やってきてしまったスピーチのターン。・・・あ、ダメだ、視線が・・・視線が怖い・・・。

 

何年もバンドでギターを務め、ネット上にいくつもの動画を投稿している人間、という部分だけ聞くと、さぞ注目に慣れたプレゼンテーション力ましましの社交的な人物なのだろうと思うかもしれない。

 

(そんなことはありません!!今もあの頃もずっと私は陰キャギタリストです!!)

 

まるで成長していない・・・わけではない、と信じたい。

 

最初の導入は原稿通りだった。だがそれ以降は、何を口走ったのか覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

(ぁ―――――――――――――・・・)

 

帰宅。机に突っ伏したまま、現実逃避の世界へと逃避行。

 

「おーい、ぼっちちゃーん?今日のスピーチ、よかったよー?」

 

私の肩をぽんぽんと叩いて、下北沢の大天使さま・・・もとい、虹夏ちゃんがそう述べる。

 

「お世辞は要りません・・・どうせ私は出会ったときからまるで成長していないミジンコです・・・」

「そんなことないよー?」

「・・・本当に、そうでしょうか・・・」

「そうだよ~?

・・・ま、確かに、その、・・・文法的な意味では、結構、・・・間違ってたけど・・・」

 

ぐっ!!

 

「すみませんすみません、生まれてきてしまってすみません、どうせ私は結婚式のスピーチのマナーも守れないようなゴミ以下ミジンコ未満植物プランクトンです・・・

はっ!!いっいまから結婚式を汚してしまった全責任を取ってハラキリショーを・・・!!」

「あぁ待って待って!!はやまらないで!!

 

 

 

・・・そりゃあさ、確かに、形式的な意味では、間違ってたかもしれないけどさ、

 

・・・ぼっちちゃんの、本音?というか、マナーとか形式とかに縛られない、飾られてない言葉が聞けて、よかったなって・・・私は思ってる。

きっとみんなもそうだと思うよ?喜多ちゃんなんて、途中から思いっきり泣きだしてたし。リョウも柄にもなく涙ぐんでたよ」

 

ま、リョウに関しては嘘泣きかもしれないけどね、なんて。と、彼女は茶化すように言う。

 

「・・・本当に私、ちゃんと・・・そんなこと、言ってました・・・?」

「そうだよ~?だから元気出して!!ほら、結婚式の余興を楽しもうよ!!今夜ビデオ通話誘われてるんだよ~喜多ちゃんから」

 

心配ならその時に聞いてみればいいじゃん、きっとみんな私と同じことしか言わないけどね。だからさ、ビデオ通話までには立ち直っといてよ~?

 

虹夏ちゃんはそうとだけ言い残すと、今夜のお酒何にしようかな~なんてことを上機嫌に呟きながら玄関へと向かっていく。

 

「あっ、あの!!虹夏ちゃん!!」

「ん~?」

「私、頑張ります!!だから、その・・・えっと・・・

・・・虹夏ちゃんの結婚式にも、ゆっ友人!!代表として・・・スピーチ、させてもらえませんか・・・?」

「ぼっちちゃん・・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・ごめんね?それはちょっと・・・無理かな?」

「うぇ!?」

 

やっ・・・やっぱり、こんな最低限のルールもマナーも守らないようなツチノコに、もう壇上に立たせるわけにはいかない、と・・・

 

「だってさぼっちちゃん。よく考えてみてよ。

・・・“お嫁さん”に、“友人代表”のスピーチをさせるわけにはいかないでしょ?」

 

・・・え?

 

「えっちょっにっ虹夏ちゃん、それってどういう・・・」

「さ~、今日のお酒どうしよっかな~?お高いやつにしちゃおうかな?」

 

私の質問に返答が来ることは無く、虹夏ちゃんはそのままステップを踏みながら部屋の外へと出ていってしまう。

 

「えっ・・・いや、ちょっと・・・」

 

いっ・・・いま発言は、どう、解釈すれば・・・よろしい、のでしょうか?

 

「・・・・うぁ」

 

なんだか熱がある気がする。昨日までの疲れがどっと出たのだろうか。そうだ、そうに違いない。

だからおちつけ後藤ひとり。これはいまお前が思っているような・・・その、そういうの・・・じゃ、ないから・・・多分・・・・・

 

「・・・“お嫁さん”、か・・・」

 

 

 

 

 

 

 

・・・あれ?・・・そういえば、一緒に帰ってきたわけでも合鍵を渡していたわけでもないのに、どうして虹夏ちゃんは私の部屋に居たんだ・・・?鍵閉め忘れたのかな・・・

 


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